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夢で逢えたら【9/22更新】
日時: 2015/09/22 01:56
名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: OcHJFEPy)

はじめての方ははじめまして、ひよこです。
またお前か、という方はこんにちは、また私です。

今回は、名前を取り戻すため奮闘する少女のお話。





*登場人物

・アリス

・白うさぎのお兄さん

・黒猫

・白猫

・狐

・子犬

・ライオン

・女王



*お客様

・はるた様
・左右りと様
・スミレ様
・マヤ様
・アッコ様

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Re: 夢で逢えたら ( No.4 )
日時: 2015/03/16 23:34
名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: OcHJFEPy)

(……誰か、私を呼んでる……?)

頭に響いた声で、少女は目を覚ました。
花のやさしくて良い香りが、鼻の先をかすめる。
ぼんやりとした視界に映ったのは、白い二つの長い耳と白い髪。
その耳はまるで……

「…………うさぎ……?」

まだ思考もままならない状態で、うっかり口に出してしまったその言葉に、白い耳がぴくりと動いた。

「目が覚めた第一声がそれかい?……ハットでうまく隠そうとしたんだけど、やっぱりだめかぁ……」

困ったように苦笑いを浮かべたのは、見知らぬ男性……もとい、うさぎだった。
少女は驚き、ガバッと飛び起きた。

「なかなか目覚めないから、少し無理やり起こしてしまったけど……気分はどうだい?アリス」

白うさぎは、にっこりと笑った。

「アリス……?私が?」

「そう、君が。ご覧、その格好。どこからどうみてもアリスだ」

白うさぎにそう言われ、少女は視線を下に落とした。
水色のワンピースの上に、白いエプロンを重ねたエプロンドレス、白と黒のボーダーニーハイソックス。
この格好はまさしく、あの『不思議の国のアリス』にでてくるアリスそっくりだった。

「なに、これ……」

「君の、『アリスになりたい』という願望が現れたんだ。……どうやらその影響を僕も受けてしまったらしいんだけどね」

笑顔を顔に貼り付けたまま、白うさぎは肩をすくめた。
あたりを見渡すと、ここは丘のてっぺんらしいということがわかった。
美しい花々が、緑の絨毯のうえでゆったりと揺れていた。
下を覗くと、小さな小屋がぽつぽつと建っていた。

「あなたは誰……?ここは、どこ……?」

「僕はここの案内人。そしてここは、とある本の世界」

「本……?」

「そう。君は本の鍵を開けてしまい、本にのみこまれた……覚えていないかい?」

そう聞かれて、記憶を探る。
ぼんやりとだが、鍵を使って本を開いたことを思い出した。

「……なんとなくは」

「どうやらまだ記憶が曖昧みたいだね。すぐに理解するのも難しいけど……まあ、時間がたったら戻るだろうから、心配しなくていいよ」

「……さっき、寝ているときに私を呼んだのはお兄さん……?『アリス』っ
て……」

「そうだよ、僕だ。だんだん思い出してきたようだね」

少女はこくりと頷いた。

「……どうして、私は名前を思い出せないんですか?」

白うさぎの言ったことが蘇る。

__君が、本当の名前を思い出すまで、君の名前はアリスだ。

他のことは思い出せる。
ところどころもやがかかっているが、ぼんやりとならわかる。
だが、名前だけは出てこない。
16年間、ずっと呼ばれ続けてきたはずなのに、だ。

「それは、この本が奪ってしまったからさ。君の名前をね」

「本が、奪った……?」

「君が君の名前を取り戻すまで、ここからでることはできない」

少女は眉をひそめた。
普通ではありえないことなのだが、実際に起こってしまっている以上、疑いの余地はない。

「……どうしてこんなことが起こっているかは……口で説明するのも難しいし面倒くさいから、ここは夢の中だと思ってくれていい。実際、似たようなものだしね」

「夢の中……?」

「ここにあるものは全て、君の記憶や願望、恐怖などから出来ているんだ。強い思いがあれば、君はなんでもできる。だって、君の夢なんだから」

だから、アリスの格好をしているのかと、少女は納得した。
少女はアリスになりたかった。
たった七歳で様々な冒険をした、勇敢な女の子。
可愛くては優しくて、好奇心旺盛で誰にでも愛される、そんな女の子に少女はなりたかった。

だが、所詮夢。

形だけなれたとしても、中身は自分自身のまま。
顔も、黒くて後ろで束ねた長い髪も、なにもかも変わらない。

(もし私が、アリスのような女の子だったら……なにかが、変わっていたのかな)

「アリス?」

白うさぎに声をかけられ、我にかえった。

「なんでも、ないです……それで私は、どうすればいいんですか?」

そう言うと、白うさぎは驚いたように目を見開いた。

「……そんなにあっさり信じるのかい?」

「え?……だって、名前を思い出せないのも本当だし、なにをすればいいのかもわからかいし……とりあえず信じてみようと」

「……面白い子だね、君は」

「え?」

聞き返しながら立ち上がり、服についた草や土を払った。

「なんでもないよ。……じゃあ、とりあえず下に降りてみよう。だれかいるかもしれないね」

再びにっこりと笑うと、白うさぎは少女の前をゆっくり歩きはじめた。

不思議な、燕尾服を着てシルクハットを被った白うさぎ。
彼の背中をみながら、少女__アリスは思った。



彼は、悲しい人だ、と。


Re: 夢で逢えたら ( No.5 )
日時: 2015/03/17 17:31
名前: 左右りと (ID: Z/MByS4k)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi


出遅れた……
一番に挨拶をしたかっ((


こんにちわ!
カキコに来てはひよこさんの名前はないかと、一番に探す左右りとです。


今回も童話(っていうのか?)ものなんですね!
アリス、私も大好きです!!

というか、白ウサギのお兄さんの話し方が、好きすぎる!
一人称が“僕”って人大好きなんです(*^_^*)


好きなものが詰まりすぎてて、話の続きが……まてませn((

…………待ちます。


更新楽しみにしてます!!

Re: 夢で逢えたら ( No.6 )
日時: 2015/03/18 08:59
名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: OcHJFEPy)

左右りとさん


きてくださってありがとうございます(*´▽`*)

まじですか!!
なんという、嬉しいお言葉……!!

そう……ですね。
登場人物がアリスちっくです。
アリスのお話ももちろん大好きなんですが、服もスッゴい可愛くて!!
絶対着させたいと思ってました(笑)

年上、爽やかイケメン、一人称僕ってもう最強だと((
私も大好きです(*'▽'*)

も、もうちょっと待っててください!!


コメントありがとうございました!!

Re: 夢で逢えたら ( No.7 )
日時: 2015/03/20 23:28
名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: OcHJFEPy)

丘を下りながら、アリスは先をゆく白うさぎに問いかけた。

「あの……この本って、いったいなんなんですか?」

すると、白うさぎはぴたりと足を止めた。
それに続き、アリスも足を止める。
二人の間に、少しの沈黙が流れた。
花や木々を揺らす、風の音しか聞こえない。
白うさぎが、その沈黙を破った。

「物語を無くした、哀れな本……かな」

「物語を……無くした?それってどういう……」

「さあ、ついたよ。小さな集落みたいだね」

アリスの言葉を遮るように、白うさぎが笑った。
ごまかされた、そうアリスは感じた。

(……いずれわかるよね)

そう思い、大人しく白うさぎのあとを追った。
白うさぎの言うとおり、まるで小さな集落のようだった。
小さな小屋がところどころにある、なんてことのない場所なのに、アリスにはとても心地の良い場所に思えた。
空を見上げると、太陽の光が燦々と降り注いでいる。

「なんだ、お前ら」

突然横からから声をかけられ、驚いて横を向いた。
するとそこには、黒い猫耳をはやした少年が立っていた。
見たところ、アリスと同じくらいの少年は、仁王立ちして二人の前に立ちふさがった。

「見ねぇ顔だな?」

訝しげにアリスの顔をまじまじと見つめる少年。
アリスは思わず口ごもった。

「あ、えっと……」

「僕達は通りすがりの旅人だよ。君は?」

白うさぎが笑みを浮かべながら、少年に尋ねた。

「俺は黒猫。ここらへん一帯のことならなんでも知ってるぜ。住んでるやつの名前と顔なら全員知ってるしな!!」

黒猫は誇らしげに笑った。

「おーい、黒猫。なにして……ん?どちら様?」

遠くから黒猫を呼んだのは、白い猫耳をはやした少年だった。

「お、白猫!!こいつら、旅のモンなんだとよ」

「へぇ〜!!あ、はじめまして、白猫です。なにかあったら、遠慮せずに聞いてください」

白猫はそう言いながら、優しく微笑んだ。
そんな二人を見ながら、アリスはなぜか懐かしさを抱いた。
この二人をよく知っているような、そんな気持ちだった。

「猫さんたち、この先にはなにがあるんだい?」

そう言って、白うさぎが遠くを指差す。
そこは空が分厚い雲で覆われているせいか暗く、ここからではよく見えない。

「あそこは、女王が住む城があるんだ。こっからじゃなかなか遠いぜ」

「ここらへんの人達はみんな、城には寄り付かないんです。女王になにされるか、わからないから」

「女王っていうのは、どんな人なんだい?」

白うさぎがそう聞くと、二人とも顔を少し歪めた。

「……自分の思い通りにいかないやつは、みんな潰しちまう……ひどいやつさ」

それを聞いて、アリスの心がどくんとはねた。
嫌な思い出が、うっすらと蘇る。


__あなたは、ただ黙って私の言うことを聞いていればいいのよ。


愛のない、冷たい声が頭の中に響く。
冷や汗が止まらない。
体は小刻みに震える。

(怖い……怖い……!!でも、なにが?なにに怖がっているの、私、は……)


いつしか、目の前が真っ暗になって。


プツンと、アリスの意識が途絶えた。

Re: 夢で逢えたら ( No.8 )
日時: 2015/03/25 23:39
名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: OcHJFEPy)

__私はいま、暗い闇の中にいる。


膝を抱えて、ひとりぼっち。


私は、暗い場所が嫌い。


でも、泣いて喚いて叫んでも、誰も助けに来てくれない。


だから私はただじっと、光が差すのを待っている。


泣かずに、笑わずに。







まるで、人形のように。






***




アリスは目を覚ました。

「ここは……」

ゆっくりと上体を起こす。
いま寝ていたのは草の上ではなく、ふかふかのベッドだった。
そして、ここは外ではなく部屋だということを理解した。
いったい誰の、という疑問は、すぐにかき消された。

「……ん、起きたのね。気分はどーお?」

声をかけてきたのは、ベッドの傍らに置いてある丸椅子に座っていた少女だった。
もしやと思い、視線を上げると、案の定彼女の頭にも耳がついていた。
アリスはぱっと見て、狐だと直感的に思った。

「あたしは狐。あんた突然倒れたっていうから、近くのあたしの家に運んだのよ。ちょっと待ってて」

そう言うと狐は、立ち上がってどこかへ行ってしまった。
ドアの閉まる音がして、アリスはひとりになった。
アリスはキョロキョロと部屋を見渡した。
薄い色の木の壁、真っ白なベッド、可愛らしい小物。
まさに女の子の部屋、という感じだ。

(……あの子も、どこかで会ったような……)

「あっ、アリスちゃん!!よかったあ、起きたんだね」

アリスの思考を遮ったのは、部屋に入ってきた白猫だった。

「どこか痛いところとかない?大丈夫?」

パタパタと駆け寄り、心配そうな顔でアリスを覗き込んだ。

「大丈夫……ありがとう」

そう言うと、ほっとしたように笑みを浮かべた。

「やー、よかったよかった。実はさ、黒猫もかなり心配しててさー?さっきまでそわそわと落ち着きがなくって」

「白猫ぉぉぉぉぉぉぉ!!」

勢いよくドアを開けて入ってきたのは、黒猫だった。
その勢いのまま、白猫に詰め寄り胸ぐらを掴んだ。

「お前なに勝手なことをべらべらとっ!!誰が心配してたって!?あぁ!?」

「やだなぁ、そんなに照れなくても」

「照れてねーよ!!」

そう言う黒猫は、耳まで赤く染まっているのだが、これ以上騒がれるのもどうかと思い、アリスは口をつぐんだ。

「うるさいわよ黒猫!!」

怒鳴りながら入ってきたのは狐で、そんな狐に黒猫がくってかかった。

「なんで俺だけなんだよ!!もとはといえば白猫がふざけたこと言うから!!」

「子供じゃないんだからいちいち喚くんじゃないわようっとおしい」

「んだとコラァ!!」

「まーまー、落ち着いてよ」

そんな三人のやりとりがおかしくて、アリスは小さく吹き出した。
三人が一斉にアリスのほうを向くと、アリスはベッドの上で震えながら、口元を覆っていた。

「ご、ごめんなさ……おかしくって、つい……ははっ」

そんな彼女をみて、三人もつられて笑った。

(こんなに笑ったのは、ひさしぶりかもしれないな……)

「あー……おかしい…………あれ」

ひとしきり笑ったあと、アリスはあの人がいないことに気づいた。

「……あの、お兄さんはどこに」

「お兄さん?…………ああ、白うさぎの。あの人なら、外にいるって言ってたわよ」

「……外?」





***





「……」

白うさぎは、再び丘に登っていた。
遠くの、分厚い雲に覆われた場所をみつめる。

(ずいぶんと、わかりやすいな……彼女の世界は)

この世界でおそらく、光が差している場所はここしかないだろうと、白うさぎは考えていた。
つまり、アリスにとってここは__

「安心できる、唯一の場所……ってことか」

(ここにいる人達も、きっと彼女が心を開いている人達がモデルなんだろうな……)

そよ風が、草木や花々を優しく揺らす。
白うさぎは、悲しげに顔を歪めた。

「……彼女の闇は、思ったより深いのかもしれない」

見上げた空は、雲一つない。


清々しいほどの、晴天だった。


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