コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 婚約者候補とシェアハウス!?
- 日時: 2017/06/05 12:43
- 名前: ユイ (ID: QUK6VU.N)
いきなり現れた素敵な婚約者〜♪…とか、
イケメンたちと同居生活〜♪とか。
漫画とか小説とか乙女ゲームとかでよくありがちな設定。
現実的に考えて絶対ありえない!って、思ってた私が。
婚約者候補たちとシェアハウスって、どういうことですか!?
☆逆ハーレム、乙女ゲームっぽいジャンルに入るので、苦手な方はご遠慮ください☆
☆ちなみに名前をユイから豆猫に変更しました☆
- Re: お食事とお当番 ( No.48 )
- 日時: 2018/07/11 04:05
- 名前: 豆猫 (ID: gb3QXpQ1)
コンコン。
「はーい?」
「花音ちゃん、夕食の準備ができたわ。出てらっしゃい」
「はーい」
読んでいた本にサッとしおりを挟んで、部屋を出る。
私の姿を見た日向さんは、「あら」と声を発した。
「可愛い髪型ね。どうしたの?」
「あ、さっき要君がしてくれたんです」
私は編み込みになっている部分にそっと触れながら答えた。すると、日向さんが意外そうに目を見開いた。
「へぇ、要君が」
「ね、器用ですよね」
私がそう言うと、日向さんは何か言いたげな表情を浮かべた。
「……日向さん?」
「うーん、意外なのはそこじゃないんだけどね」
「?」
言葉の意味がよくわからなくて、首をかしげる。日向さんは、少し考えるような素振りを見せた後、「まぁいいわ」と表情を緩めた。
「何はともあれ、仲良くやってくれてるみたいで安心したわ。若者同士のいざこざの対処なんて面倒だしね」
「若者って……。日向さんもまだまだ若いじゃないですか」
「あらあら。あなたたちからしたらアタシなんてオッサンでしょ?」
「そんなことないですって」
「ふふ、まぁいいわ。とにかく大広間に行きましょ。きっとみんな集まってるから」
「はい」
私は日向さんと並んで歩きだす。
歩きながら、今日の夕食のメニューについて話した。
どうやら男子向けという事でガッツリ肉料理らしい。ちなみに私は大歓迎だ。
辿り着いた大広間の扉を開くと、言っていたとおりもうみんなが揃って、長
い机に合わせておかれた椅子に座っていた。
そしてその机の上には、肉がメインの豪華な料理が所狭しと並んでいた。
「うわぁ、おいしそう……!」
「花音ちゃん、ここ空いてるよ」
手招きしてくれた慰織先輩の隣の席に腰を下ろして、目の前に置かれた厚切りのステーキを眺めてゴクリと唾を飲み込んだ。
「それじゃ、食べましょうか」
「わーい」
「いただきまーす」
日向さんの声で、一斉に食べ始めるみんな。私も綺麗なフォークを手に、厚切りステーキにムシャっとかぶりつく。
「! おいっひい……!!」
きっとよっぽどいいお肉なんだろう。分厚いのに柔らかくてジューシーで、脂身もあっさりしてて……。
とにかく美味い!!!
そこから私は、最初の晩餐にもかかわらず、会話もそこそこに無我夢中で肉にかぶりついていた。
……女子として終わっている光景でした、はい。認めます。
「っはぁ〜、お腹いっぱい……」
「当たり前だろ」
「花音ちゃん、すごい食べるね……」
「……僕の今まで見てきた女性という生き物と同じものとはとても思えない姿でしたね……」
「うっ」
赤毛猿だけでなく、いろんな人にツッコまれて言葉を詰まらせる。
だっておいしかったんだもん……!
ぷうっと頬をふくらませていると、後ろから両頬をつぶされた。
「!」
「はーい、ふてくされてないで。今からいろんな当番を発表するわよ〜」
日向さんはすぐに頬から手を離してそう言った。
「当番?」
「何の?」
みんなの視線が日向さんに集中する中、日向さんはA4サイズの紙を何枚か取り出して、机の上に広げてみせた。
「右から食事、掃除、洗濯、洗い物の当番表よ。二人一組制で、日替わりよ。仕事内容も含めて全部プリントアウトしてあるから、一枚ずつ取って部屋に戻ってね」
「うわ、すごい……!」
わざわざカラーで分かりやすく作られた当番表。さすがはおネエ男子、女子力の高さを感じる。
そのプリントを覗き込むと、私のペアは……。
「咲良さん?」
「ああ、そのようじゃのう。よろしく頼む、お嬢さん」
「は、はい。よろしくお願いします」
何なら一番キャラが濃い咲良さんとペア……。大丈夫なのかな。
まぁでもこれで仲良くなれるかもしれないし、いっか!
私はみんなと一緒に一枚ずつプリントを取った。それをゆっくり眺めると、当番表はこうなっていた。
<食事>
月曜日;星&慰織
火曜日;崚馬&要
水曜日;花音&咲良
木曜日;賢人&瑠衣
金曜日;爽&日向
土日:日向
*朝食は常に日向
<掃除>
月曜日:崚馬&要
火曜日:花音&咲良
水曜日:賢人&瑠衣
木曜日:爽&日向
金曜日:星&慰織
土日:全員
*掃除場所は風呂場と大広間。たまに書庫やその他もろもろ。
<洗濯>
月曜日:花音&咲良
火曜日:賢人&瑠衣
水曜日:爽&日向
木曜日:星&慰織
金曜日:崚馬&要
土日:各自
*風呂場にある洗濯カゴ(個別)の中身の洗濯、干し入れ。下着等自分で選択したいものは各自。
<洗い物>
月曜日:賢人&瑠衣
火曜日:爽&日向
水曜日:星&慰織
木曜日:崚馬&要
金曜日:花音&咲良
土日:日向
*これも食事同様に朝は日向
「ほ〜、よくできておるのう」
私のペア、咲良さんが感心したような声を上げる。
「ま、何らかの不具合が生じた場合はまた変更すればいいわ。とりあえず明日からこれでいきましょう」
今日は火曜日、そして明日は水曜日。私は明日の食事当番だ。
「あ、ちなみに学校のない春休み中は朝の当番もあるわよ。よろしくね」
「は〜い」
「心得た」
食事当番についてのプリントを読みながら、私と咲良先輩は返事をした。
「よし、じゃあ今日は解散!みんな適当にお風呂入って寝ちゃいなさいね」
日向さんの一声で、プリントを手にしたみんなはわらわらと大広間を後にした。
- Re: 婚約者候補とシェアハウス!? ( No.49 )
- 日時: 2016/07/11 14:11
- 名前: 蜜柑 (ID: SUkZz.Kh)
ちょっとキャラ多すぎてよくごっちゃになるから全員、花音ちゃん絡ませたら、キャラの名前と一人称?、あと性格とかまとめてくれると嬉しいです!
続き楽しみ!
- Re: 婚約者候補とシェアハウス!?[テスト終了、更新再開!] ( No.50 )
- 日時: 2018/07/11 04:06
- 名前: 豆猫 (ID: gb3QXpQ1)
うん、それもまた追々ね。
私も自分で分かんなくなってくるし(笑)
- Re: お風呂場ハプニングは王道だよね! ( No.51 )
- 日時: 2017/06/05 13:10
- 名前: 豆猫 (ID: QUK6VU.N)
「う〜、読み終わった〜」
私は本を机の上に投げ出し、思い切り伸びをした。
最近新しく買ったばかりの本を読み終えた達成感に満足しながら時計を見ると、なんと長い針が11と12の間を指していた。私はギョッと目をむく。
「うそ、もうこんな時間!?」
やばい、まだお風呂にも入れてない!
こんな時間ならもうみんな寝ちゃってるかな……?
私はクローゼットから、やたらもこもこした生地のパジャマと下着を、その横の棚からバスタオルを取り出して慌てて部屋を出た。
☆☆☆
私は白い扉の前に立って一応確認する。
赤いプレートがかかっている方が女、青いプレートがかかっている方が男の脱衣所。で、真ん中のなにもかかっていない扉が共通スペースの洗面所。日向さんがそう教えてくれた。
……そういえば案内された時も思ったけど、日向さんってどっち使うんだろ……。
あらぬ図が頭に浮かんで、私はぶんぶんと首を振りながら、女脱衣所の扉を開けた。
「あ、そういえばこれひっくり返すんだっけ」
プレートの裏には使用中の文字があって、仮にも女の私と男が鉢合わせないようにというだけのために用意してくれたシステムらしい。
男側も表だよね、うん。大丈夫。
忘れずにプレートを裏返してから、今度こそ私は脱衣所に入った。
☆☆☆
カラ……
小さな音とともにお風呂の扉を開くと、綺麗で広い、ホテルの中風呂のようなお風呂があった。
完全に温泉のものと同じようなシャワーに桶にお風呂椅子、鏡もある。浴槽も何種類かあって、色のついているものも、泡の出ているものまであった。
周りも壁じゃなく、ガラス……窓みたいなもので覆われていた。今は真っ暗でわからないけど、多分明るかったら庭の景色が見えるんだろう。
「わ、すごい……!」
どれから入ろうかな。こんなお風呂で朝風呂までできるなんて、豪華すぎる……。
とりあえずは時間も時間だし髪と体を洗っちゃおうと、私はお風呂椅子に腰かけて、鏡を見た。編み込みになっている髪を見て、ほどくのがもったいないという気持ちがこみ上げる。
まあでも、ほどかなきゃ洗えないし。
名残惜しい気持ちでゴムを取り、シャワーで頭からお湯を浴びた。いつも通り5分程度で髪も体も全部洗い終えて、最後にシャワーでそこらに飛び散った泡を流す。
そうして、私は念願の入浴タイムに入った。
まずは真ん中にある普通の浴槽につかって、お湯の熱さに慣れる。やっぱり最初に足をつけたときはめちゃくちゃ熱かった。
そのあと、緑色のお湯がいっぱいに入った浴槽に向かう。お湯の中に手をつけて、その手を嗅いでみると、ハーブというか、ミントというか……。そういう爽やかな香りがした。
次はあのジャグジーみたいな浴槽につかろう。
そう思いながら緑色のお湯につかって、その香りを満喫していると……。
パッ
突然、真っ暗だった窓の外に電気がともった。
「!?」
急に明かるくなった窓の外の景色は、やっぱり庭だった。そしてそこには、露天風呂らしきものまであった。……といっても、湯気で曇ったガラス越しじゃ、はっきりは見えなかったけど。
なんで突然電気がついたのかがわからない。というか怖い……!
何?不審者?
私はすぐそこにかけてあったタオルを体に巻き付けて、湯船から出た。その勢いで水面が揺れ、パシャッという音が静かな風呂場に響く。
動くにも動けず固まっていると、ふと曇った窓の外に赤い何かが揺らめくのが見える。
それが何かを判断するよりも先に、窓ガラスの一つがガラッと開いた。
「!」
扉だったなんて気づかなかった……。
反射的に、体に巻いたタオルをぎゅっと握る。
……が、現れたそれを見て、一気に力が抜けた。
「あっああ、赤毛猿!!」
「っはぁ!?おまっ、ちょ、はああ!?」
そう、現れたのはほかでもない赤毛猿。下半身にタオルを巻きつけて、肩からもタオルを下げた、上半身裸のお猿さんだった。
私は体に巻いたタオルに手を当てたまま、赤毛猿は開けた扉に手を当てたままの体勢で。
見つめ合ったまま……いやどちらかというと凝視し合ったまま、固まった。
待って、この状況真面目にヤバくない?ヤバいよね、うん。
別に私がタオル一枚を巻いただけの格好であることがそこまでヤバいってことじゃない。
……いやヤバいけどね。もちろん恥ずかしいけどね。でもそれよりも、だ。
何がってここで鉢合わせる相手がコイツなのが問題なんだよ!
日向さんに案内してもらった時に「覗くなよ」「当たり前でしょ」的なやり取りをした赤毛猿と鉢合わせてるのがヤバいんだよ!!
だってこれじゃそれを狙ってきた痴女みたいじゃん!いやそんなことは絶対ないけど赤毛猿なら絶対そう言ってくるじゃん!!
私は下手に赤毛猿を刺激して痴女呼ばわりされないようにと、慎重に口を開いた。
「な、なんで、ここにいるの?」
「……風呂に、入ってたら、庭の電気の接触が悪くなってて、直してた」
「あ、あぁ〜。そっかぁ〜」
そんなん直せるもんなの?
そう思ったがあえて口には出さずに頷いてみせた。赤毛猿もなんでか知らんがあんまりつっかかってこないし、ここは穏便に済まそうじゃないか。
「あ〜、じゃあ私もうあがろっかな〜」
自然に言いながら、赤毛猿の向こう側の洗い場付近に置いたままの洗顔道具などを取ろうと、そっちに移動する。
それをサッと取ると、そそくさと出口を目指して足を踏み出した。よしいける、このまま出ればオーケーだ!
……なんて、調子に乗ったせいか、さっき洗った時に流しきれていなかったらしい石鹸のぬるぬるで足を滑らせた。
立ち尽くしたままの赤毛猿の方へとツッコむ。
「うぉっ!?」
「わっ」
赤毛猿が咄嗟に支えてくれたおかげで無事だった。やるじゃないか赤毛猿。
「ごめん」と言いながら離れると、そこで赤毛猿の様子がおかしいことに気付いく。
……固まってる?
まじまじと見つめてみても、こわばったその表情はピクリとも動かない。水分を含んで真っ直ぐになった髪もあって、まるで別人のような雰囲気だ。
「ちょっと?」
「!!」
肩を軽くゆすってみると、ビクッと飛び退く赤毛猿。オーバーすぎるその反応に、私もビクッと手を引っ込めた。
……何なんだ、コイツは。
私が触れたことで硬直状態が解けたらしい赤毛猿が浮かべる表情は、随分と情けないものだった。
髪と同様に真っ赤に染まった頬、そしてまるで虫に怯える女の子のような顔。今にも泣きだしそうな……。
……もしかしてこれ、恥ずかしがってる?
そう思った時、私の脳裏に一人の男子像が浮かび上がった。
表向きは超俺様男子、でもその本性は女子に免疫がないゆえにぶっきらぼうな態度をとってしまうツンデレ&シャイボーイ。
そう、私の愛読書の少女漫画「ドキドキ運命的ロマンス」略してドキロマのヒーロー、アレン君!
そうか……赤毛猿はアレン君系男子だったのね……そうなのね……!
そう思えばクソ憎たらしかったはずの赤毛猿がとてもかわいく思えてくるこの不思議。
同じ赤毛猿でも認識的には「とっとと動物愛護委員会に連絡して檻にぶち込めやこの野生猿を……!」から「まぁ可愛げもあるし勝手に家で愛玩動物的に飼っちゃうのもありだよね!」くらいの変わりようだ。いやまあ飼わないけどさ。
「なーんだ赤毛猿ったらもう、そういうことならもったいぶらずにはやく言ってよねー。まさかそんなアレン君系男子だったなんてさ」
「……は?」
「もーほんと、そんないかにも生意気な男子ーって感じなのに女子苦手とかかわいいとこもあるんだねぇ」
「な、おま、はぁ!?」
既に赤かったその顔は、私の言葉でさらにその彩度を上げた。あ、すごい。首筋まで赤い。
「誰が女子苦手とか言ったんだよ!そんなんじゃね……」
「ぷぷぷっ、またまたー。そんな恥ずかしがらなくてもいーじゃん別にどうもしないしー」
「ちげーし!!ただお前の、っ……」
「へ?私の?」
何だまさか私の何かに対して照れているとでもいうのか……?勢いよく放たれた言葉の先に濁された内容を探ろうと自らの体を見下ろしてみるも。
……。
何もないよなぁそんな要素……。やっぱ女子に免疫ないからこの格好に照れてるとしか思えない。
**********
長すぎるので二つに切断。
URLは貼るのがめんどくさいのでもういいや。
ホント同居もののお風呂場ハプニングは鉄板ですな、うん。
- Re: 赤毛のお猿とマシュマロココア ( No.52 )
- 日時: 2017/06/05 23:04
- 名前: 豆猫 (ID: IeAhDi6E)
「……あークソッ!」
「もー、何なのー?」
「いいからとっとと出ろこのブス!」
「はぁぁぁ?なんでいちいちそういう言い方するかな!?」
「おめーは普通に長居しすぎなんだよこの状況でとっとと上がらねぇとか痴女か!」
「なっ、」
やっぱ言われたし……!
「そもそもアンタがいるなんて……あっそうだアンタプレート使用中にしてなかったじゃん!」
「はぁ?プレートだぁ?」
「私それで入って大丈夫だと思ったんだもん!」
「バカか、んなもん男同士で脱衣所使うタイミング被っても何も困らねぇんだからいらねーだろ」
「阿保でしょあれはそういう用途じゃなくて仮にも女の私と風呂が被らないようにっていうためのものでしょ!?馬鹿なの!?」
「……。ッチ、うるせー」
こいつまじめに結構阿保なのかもしれない……。
と、そのタイミングで急に濡れていた全身から冷えがまわった。
「っ、へくしゅっ」
「オラ、とっととあがんねーからそーなんだよ」
「う、上がりますよ!ったくもう……」
気遣う言葉のひとつくらいかけられんのかコイツはと思いながらも、一瞬で全身に行き渡った冷えをどうにかするために、私はそそくさと脱衣所の扉をくぐった。
☆☆☆
「うー、なんか肌寒……。風邪ひいてないよね……」
私はやたらもこもこふりふりした乙女趣味な部屋着にしぶしぶ身を包み、長めの髪の毛を肩から掛けたタオルでわしゃわしゃと拭く。
脱衣所内を見渡してみても布のかけられた出番待ちらしい扇風機くらいしか見当たらないから、あの広い洗面所にドライヤーはあるのかな。
それとも持参?私持ってきたっけなと思い返しながらガチャリと脱衣所の扉を開く、と。
「うぉぁ!びっくりしたなんだ赤毛猿か」
「……」
ドアの前に待ち構えるかのようにして立っていた赤毛猿の姿があった。今度はなんだと若干身構えてみたりする。
すると赤毛猿は「来い」と私の手を引いて廊下を歩きだした。
「え、ちょ待って、私髪の毛乾かしたいんだけど」
「んなこと知ってるっつーの。いいから来いって」
「……はぁ」
にしてもどこへ向かっているのか。こっち私の部屋とも洗面所ともリビングとも違う方向なんですけど。
まだ濡れたままで真っ直ぐな髪の毛にはやっぱりなんだか違和感がある。意外と髪長いな。
私は個人的に短髪より長髪の方が好みだったりする、もちろん赤毛猿なんて微塵も好いてはいないけれども。
「オラ、入れ」
「は?」
そして立ち止まったのは、えっと多分ここ赤毛猿の部屋だよね?
えー……。
「いやあのごめん私赤毛猿とか全然好きじゃないっていうか欲求不満ならよそ……ホラ日向さんあたり誘ってほしいというか」
「ちげぇよ自意識過剰しかも誰がヤローで欲求満たすんだよ」
いいからとっとと入れと開いたドアから半ば強引に部屋に押し入れられる。
……んっとにコイツは女子に対する扱いがなってない。
しぶしぶそのまま奥へ進むと、甘い匂いに気が付いた。
「え、なにこの匂い。い〜匂い〜」
「……とりあえずそこの椅子座れ」
「はいはい」
今日来たばかりなだけあって室内はまだまだ生活感がなかった。刺された椅子に座ると、手元の机にコトリとマグカップが置かれる。
あったかい湯気をたてるそのカップの中身に目を凝らして、くんくんと鼻を近づけると。
「あ!ココア?」
「おー。やるよ」
「え、ほんと?やったーいただきまーす」
私結構ココア好きなんだよねー。何の気まぐれか知らないけど気が変わる前に飲んじゃお。
と、普通にカップを持ち上げようとするとそのあまりの熱さに手が悲鳴を上げる。
「熱っ……」
一瞬手の力が緩まりカップを落としかける。
……が、赤毛猿の両手が後ろから支えてくれたおかげで零さずに済んだ。
「あ、ぶなかったー。ありがとー」
「お前、コレそんな熱くねぇだろ」
「私手の皮薄いんだよねぇ、熱いの持てない」
昔から猫舌ならぬ猫手らしい私は熱いものに人一倍触れにくい。
「ふーん」
「気をつけて持てばこのくらいなら平気なはず!」
できるだけ少ない面積でマグカップを持ち直し、ふぅふぅとココアの表面に息を吹きかけてから口をつける。
すると流れ込んでくる甘くて熱いその味に、自然と頬がほころぶ。体の芯があったまるような感じがした。
「ん、おいしー」
斜め後ろの赤毛猿を見ると、同じようなマグカップに口をつけている。
「赤毛猿も同じの飲んでるの?」
「これ飲んで寝るのが俺の日課なんだよ」
「へぇー。太るよ」
「余計なお世話だね、お前じゃあるまいし」
「もーまたそういう……」
言いながら再びココアを喉に流し込む。何か久しぶりに飲んだなぁ。
懐かしい味ににまにまとしていると、ふっと肩にかけていたタオルの感覚がなくなる。後ろを向くと、ベッドに腰かけた赤毛猿が私のタオルを手にしていた。
「なに、え?」
「乾かしてやるよ、髪」
「え?いやいーよ、なんでまたそんな」
「いーから。そのままそれ飲んでろ。これ入れてやるから」
「へ」
ぽちゃっと、どこから取り出したのか何かがカップの中に放り込まれる。
すぐに浮かび上がってきたその白いかたまりに、私はあっと小さく声を上げる。
「これ、マシュマロ?」
「おー。それでも一緒に飲んでろ」
「んー、あまー。おいしー」
マシュマロのふわふわの甘さがたまらない。コイツ甘党なのかな意外と
。
その甘さの二重奏を堪能してる間に、赤毛猿はホントにドライヤーを用意して後ろから私の髪を乾かし始める。
髪をほぐす手が思いのほか丁寧で優しくて、なんだかちょっと気まずいような気持ちになる。
「ねぇ、もっとわしゃーってしてくれていいよ。というかホント自分で乾かすし、」
「いーから。暇ならそこのイヤホンとプレーヤー使って曲でも聞いとけよ」
知ってんのが入ってるかは知らねーけど。
そう言うとまた髪をとかしながら髪の毛を乾かすことに専念する赤毛猿。
まぁせっかく言われたしとまだ少し残してあるココアのカップを一旦置いて、その音楽プレイヤーを手に取る。
カチカチと適当に操作していくと、見覚えのある名前がいくつか目にとまった。
へぇ、こいつこんな曲聞くんだ。
テキトーに選んだ曲を流してみると、ドライヤーの音があんまり聞こえなくなって、髪の毛を包むあったかい風とそれを解きほぐす優しい手の感覚が余計にダイレクトに感じられた。
……ほんと何の気まぐれかしらないけど、変なやつ。
そんなこんなで音楽プレイヤーの曲が4曲目に差し掛かったくらいで、ふっとドライヤーの風がやんだ。
どうやらきちんと乾かしてくれたらしい、私は普段ここまで時間をかけない。多少は自然乾燥でいーやってなるし。
曲の再生を止めて、イヤホンを耳から外す。
「あ、ありがと」
「ん」
「……にしてもさ、どういう風の吹き回しだったのこれ」
ココアくれてマシュマロ入れてくれて髪乾かしてくれて。
なぜ急にそんな至れり尽くせりになったの。
すると赤毛猿は「あー……」と口を開き、コンセントを抜いたドライヤーを片付けながら。
「……女だから身体冷やすとまずいだろ」
「は?」
予想の斜め上の返事をした。
え、は?
「これでも飲めばあったまると思ったんだよ、どうせ毎晩飲むからついでだしその間髪濡れたままだと冷えるし」
「……」
「……無駄にあの状態で長いこといさせた責任も無くは、ねぇし……」
「……」
待って、マジで?
この赤毛猿にそんな細やかな配慮ができるの……?
そしてこのぶっきらぼうな、照れてるみたいな喋り方。間違いなくツンデレ、いやアレン君だ。
女だから……女だから、ねぇ……。
不本意だけどこれは世に言うギャップ萌えというものかもしれない。
今のはちょっと照れた。
こんな私のことも一応な女子扱いしてくれてるんだなって思ったら照れた。
すごく不本意、だけど。
「……」
「……オラ、もー湯冷め…はしてるか。とにかく早く部屋戻って寝ろ。風邪ひくぞ」
「う、うん。ありがと」
手渡されたタオルを受け取って、スタスタとドアに歩み寄る。
カチャリ。
扉を開いて部屋から足を出すも、無言で立ち去るのははばかられて。
「、おやすみ」
「…おー」
一言だけ交わしてから部屋を後にする。
今のもちゃんと、返してはくれたな……。
しんと静まり返った廊下を歩きながら、まだ喉の奥に甘くてあったかい感覚が残っているのをじんわりと感じた。
赤毛猿の振る舞いで、心の芯まであったまってるみたいで少し癪だったり。
でもなんだかこれならなんとかやっていけそうかも。
赤い毛のお猿さんは、案外悪い奴でもないらしかった。
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