コメディ・ライト小説(新)
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- 罪恋***好きでいてもいいですか?***
- 日時: 2020/08/17 20:48
- 名前: Aika (ID: XWWipvtL)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12215
+:*;.・。prologue。・.;*:+
最初は見ているだけで幸せだった。
結ばれなくてもいい。
遠くから貴方の笑顔を見られるだけで充分だった。
それ以上は何も望まなかった。
なのに。
いつからだろう。
こんなにも、 あふれ出すぐらい。
抑えきれないぐらいに。
貴方を好きだと思い始めたのは――――。
罪恋***好きでいてもいいですか?***
更新start→2017.4.2
***目次***
登場人物紹介>>1>>39
*特別企画*
参照600突破記念!雑談会>>41
*.・1章・.*
第1話>>2第2話>>5第3話>>6第4話>>7
第5話>>10第6話>>11第7話>>12第8話>>13
第9話>>14第10話>>15第11話>>16第12話>>17
第13話>>18
*.・2章・.*
第14話>>19第15話>>20第16話>>21第17話>>24
第18話>>25第19話>>26第20話>>27第21話>>28
第22話>>29第23話>>30第24話>>31
*.・裕樹side 回想編・.*
第25話>>32第26話>>33第27話>>36第28話>>37
第29話>>38第30話>>40
*.・3章・.*
第31話>>42第32話>>43第33話>>44第34話>>45
第35話>>46第36話>>47第37話>>50第38話>>51
第39話>>52第40話>>53
*.・4章・.*
第41話>>54第42話>>55第43話>>56第44話>>57
第45話>>58第46話>>59第47話>>60第48話>>61
第49話>>62
- Re: 罪恋***好きでいてもいいですか?*** ( No.53 )
- 日時: 2018/09/01 02:01
- 名前: Aika (ID: UPSLFaOv)
Episode40:誓い言。
*志穂 side*
打ち上がる無数の花火を見上げながら―――。
思い出すのは…
あのときの
智也が好きだということを自覚した瞬間のこと―――。
「―――智也…」
それまでは、 別れた彼氏のことが忘れられなかったのに―――。
なのに。
「人の気持ちって…こんな簡単に変わるもの、なのかな―――」
意味もなく、 そんなことを呟いた。
その声は人混みの喧騒と夜空に咲き誇る花火の音に書き消された。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
*桜 side*
―――パンッ…。
「きれー…」
「だなっ」
裕樹さんが花火がよく見える穴場スポットに連れてってくれた。
そこは、 川沿いの場所で屋台からは少し離れているんだけど人通りも少なく落ち着いて花火が見られる感じの場所だった。
「良いところ…連れてきてくれてありがと」
素直にお礼を言うと。
「―――どーも」
少し赤い顔で裕樹さんが照れ臭そうに頭をかいていた。
なんか、 ちょっと可愛いかも。
クスッと、思わず笑ってしまうと。
「なんだよ…なに、笑ってんの?」
「ん~?別に~??」
「ったく…」
裕樹さんはそう呆れたように言葉をこぼしながら
空を見上げて花火を見ていた。
その横顔に…なんとなく目が離せない自分がいた。
―――隣に、 裕樹さんがいて…
いま、一緒に花火を見ている。
こんな日が自分に来るなんて想像もしたことなかったな―――。
ほんと、 いまだに…夢じゃないかって思う―――。
「―――桜?」
裕樹さんの声にハッとして、我に返る。
「あ…ごめん、なに?」
「いや…なんか、ボーッとしてたけど大丈夫か?」
心配そうな顔でそう聞く裕樹さんに、慌てて答える。
「―――大丈夫だよ!」
そう言ったわたしの表情を見て。
裕樹さんも、安心した表情に変わる。
「―――あのさ、 桜」
瞬間。
わたしの手を、 裕樹さんがそっと握ってきた。
その行動に心臓が鷲掴みをされたみたいに、ドキッと高鳴る―――。
「――――ずっと…一緒にいような。来年も再来年も…その先もずっと…」
普段なら言わないような、言葉を裕樹さんが言ってくれたことが…本当に嬉しくて―――。
思わず、 涙がこぼれ落ちた。
涙をみて、 慌てる裕樹さん。
「―――えっ!なんで、泣くんだよ?嫌だった??」
珍しく慌てふためいている、裕樹さんがおかしくて。
わたしは、 涙を目に浮かべたまま…笑顔で口を開いて裕樹さんの言葉を訂正する―――。
「―――違うよ…嬉しくって、 泣いてるの。嫌だなんて思うわけない」
涙をぬぐいながら、さらに言葉を並べる。
「―――何十年先もずっと…わたしは、裕樹さんの隣にいたい」
裕樹さん以外の人なんか、 ありえない。
わたしの一番は…貴方だけなんだよ。
代わりなんか、 考えられないぐらい
わたしは、 貴方が大好き―――。
夏の夜空のした―――。
お互いの気持ちを確かめ合うように
わたしたちは、 キスをした―――。
「―――じゃあ、 約束だからな」
「うん……」
そうやって、お互いに誓いあって
指切りげんまんを交わした…夏の夜の出来事だった―――。
このときは、 この幸せがずっと続くって…
馬鹿みたいに信じてたんだ―――。
- Re: 罪恋***好きでいてもいいですか?*** ( No.54 )
- 日時: 2018/12/10 03:59
- 名前: Aika (ID: qsIQOkd3)
Episode41:新学期。
夏の夜空に大輪の花火が咲くなかで。
わたしたちは、 誓った―――。
何年先も、 ずっと隣にいようと約束した。
このときのわたしは、ずっとずっと…大好きな貴方の隣にいられるものだと…そう思っていた。
だけど。
現実はそんなに甘いものじゃない―――。
そんなことをこのときのわたしは…知る由もなかった。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
長い夏休みも終わって…今日から新学期。
結局、あの夏祭りではぐれてから智也と志穂には会わないまま夏休みは終わってしまった。
二人とも元気にしてたかな―――。
そんなことをぼんやりと考えながらいつもの通学路を歩いていると。
目の前に見知った後ろ姿が映る。
ギターケースを背負った…見慣れた男の子の背中―――。
わたしは、その男の子の名前を大きく叫ぶ。
「―――智也~!」
すると。
その声に気がついて、 智也が振りかえる。
「桜っ!おはよ!」
いつもの見慣れた笑顔で、智也は手を振りながらそう言っていた。
わたしも、笑顔を返して智也の元へと駆け寄る。
「久しぶりだね~、 夏祭りの時以来じゃない?あのときは二人していなくなって急にはぐれるからビックリしたよ~」
何気なく、そんな会話をふると。
智也はさっきの笑顔とは一変して無表情になる。
「あー、 そうだな。悪かった」
あれ?
なんか…智也の様子がおかしい気がする―――。
気のせい、 かな。
なぜか、わたしはこのときの智也の様子が気にかかってしまって。
「夏祭りで…何かあった?」
無意識で…こんなことを口走っていた。
何聞いてるんだろう、 わたし。
そう思いながらも…言葉を並べてしまった。
恐る恐る智也の顔を伺うと。
何ともない顔に戻っていて。
あどけない感じで言う。
「―――別になーんも、ないよ。早く学校行こうぜ」
根拠はないけど。
智也の表情や声で…なんとなく、気づいた。
絶対に…何かあったやつだって――。
志穂と…喧嘩とか?
でも、それはない…か。
あの二人って些細な言い合いはするけど、それ以上の喧嘩はしたことないし。
でもでも。
他に思い付くことなんかないしなー…。
なんて考えていると。
気づいたら学校の下駄箱まで来ていて。
志穂と鉢合わせてしまった。
「―――あっ…桜!おは…よ」
わたしに気づいて挨拶をしていた言葉が。
隣にいた智也を見た瞬間に言葉を失う志穂。
わたしは、隣にいた智也に目をやると。
智也はいつものあどけない様子で志穂に向かって言葉をかけていた。
「―――おはよ、志穂」
それから、さっさと上履きに履き替えていた。
「―――おはよ…智也」
志穂も弱々しい声で挨拶を返していた。
それを聞くと智也は優しく笑ってわたしたちを置き去りにしてさっさと教室へと向かっていってしまった。
一連の二人の様子を見て…確信した。
夏祭りの夜に…この二人の間に何かあったことを―――。
- Re: 罪恋***好きでいてもいいですか?*** ( No.55 )
- 日時: 2019/02/04 01:53
- 名前: Aika (ID: PyqyMePO)
Episode42:見えない未来に、思うのは。
その日のお昼休みのこと―――。
志穂は、珍しく教室じゃなくて屋上で食べたいと言い出した。
わたしは、笑顔でいいよと返した。
きっと―――。
屋上にした理由は…誰にも聞かれずにわたしに相談したいことがあるからだと察したからだ。
「―――あたし…智也が好きみたい、なんだよね」
屋上の夏の生暖かい風が吹くなか。
志穂は、優しい声色でそう言った。
わたしから、背を向けていたため
志穂が今、どんな表情をしているのかは分からなかった。
今朝の二人の様子で…本当になんとなくだけど察していたからわたしは、さして驚かなかった。
少しの間のあと、わたしは…ゆっくりと口を開いて志穂に問いかける。
「―――もしかして、さ…夏祭りに告白したりした?」
聞くべきではない、
そう頭では分かっていても考えとは裏腹にわたしは
はっきりとそう口にしていた。
「おー…桜ってば~、ダイレクトに聞くね」
そう言って志穂は、乾いた笑い声を見せて。
それからうつむいたまま、答えた。
「―――気持ち、抑えられなくて…告ったんだけどフラれた」
震える声で…か細かった。
知らなかった―――。
ずっと、志穂と智也の傍にいながら。
わたしは、 志穂の想いに全く気づけずにいた。
いったい、いつから智也のことをそういう対象として見ていたのだろうか―――?
ましてや、志穂は…智也のわたしへの気持ちにも気づいていた筈なのに―――。
きっと…諦めようと忘れようと…そう思った瞬間だってあった筈なのに―――。
それでも…諦められず好きでいた気持ちは、きっと辛かったはずなのに。
誰にも言えずに…1人でずっと抱え込んでいた。
そう思うと…わたしから大粒の涙が溢れてこぼれ落ちて。
「桜?…どーしたの?」
急に泣き出したわたしにビックリした様子で志穂が見ていた。
「ごめんね…わたし、志穂が智也をそういう風に見てるの全然わかんなくって…それなのにわたしと一緒にいるの…辛かったよね」
そう言うと…志穂がゆっくりとわたしの元へと駆け寄ってくれて。
ハンカチでそっと涙をふきとって口を開いた。
「―――桜はなんも悪くない。たしかに智也に一途に愛される桜が羨ましいって感じる時もあったけどさ…その前にあたしは桜のことも大好きだから!」
ね?
そう言いながら見せる志穂の顔はとっても優しくって…。
わたしは、また涙がひとつ、こぼれた―――。
神様は意地悪だ―――。
みんながみんな、幸せになれればいいのに。
それなのに。
この世のなかには、想いを寄せる相手に報われずに涙する人もいて―――。
恋というものは、時には残酷で儚いものだとあらためて実感した―――――。
わたしと、裕樹さんはこのさき…一緒にいられる未来が存在しているのかな―――?
裕樹さんは教師でわたしは生徒だから
今の関係がずっと続く自信なんか微塵もない。
だけど―――。
今だけは…この先もずっと隣にいるのは裕樹さんであってほしい―――。
そうやってわたしは…固く信じていた―――。
- Re: 罪恋***好きでいてもいいですか?*** ( No.56 )
- 日時: 2019/02/08 01:48
- 名前: Aika (ID: PyqyMePO)
Episode43:夕暮れのなか、揺れる想い。
―――キーンコーン…。
放課後を告げるチャイムが鳴り、あっという間に新学期初日は終わってしまった。
先ほどの…志穂の泣きそうな顔がさっきから脳裏によぎっては離れずにいた。
―――志穂のあんな辛そうな表情…初めて見たかも。
何とも言えない複雑な想いを胸に抱えて…教室から出ようとしたときだった。
―――ドンっ
扉の前で…
ちょうど、教室に入ろうとした人物とぶつかってしまった。
「あっ…すいませ――」
そう言いかけた言葉が詰まる。
そこにいたのは…
智也だったから――――。
ヤバイ。
志穂のこともあるし…今はどんな風に智也と接したらいいのか分かんない。
わたしが、しどろもどろしていると。
智也はさして、気にした様子もなく。
「桜かー、 大丈夫だったか?怪我とかしてねぇか?」
ほんとに…いつも通りすぎて。
調子が狂いそうになる。
わたしは、智也から視線をそらして
「うん…だいじょーぶ…じゃね」
自分でも不自然だと思いながら、逃げるようにその場から去った。
だって…志穂の気持ちを考えたら。
もう、 智也と前みたいに仲良くなんて話せない。
だから、 だから――――。
「―――待って!」
瞬間。
後ろから腕を捕まれた。
な、 なんだろ。
わたしが横目で見ると…智也が髪をかきむしりながら、問いかけてきた。
「―――桜、さ。なんか、よそよそしくね?」
―――ギクッとした。
なんで…いつも智也は…わたしの心の奥底を読み当てるのだろう―――。
なにも答えられずにいると。
智也は優しく笑う。
「―――志穂から…祭りの時のこと、聞いたんだろ?」
「なっ…なんで、わかんの!?」
ビックリして…過剰な反応をしてしまい、周囲の視線が私たちに突き刺さる。
罰の悪い顔になってしまったわたしに、智也は耳元でコソッと言う。
「―――部活…今日はねぇから、一緒にかえろっか」
「あ……」
答えられずにいたわたしを無視して智也は鞄を取りに行ってしまった。
ほんと…勝手なやつだ―――。
ぼんやりとわたしは、そう思いながら扉の前で結局、智也を待ってしまった―――。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
いつもの帰路を智也と今日はふたりだけ。
けど…お互いに無言を貫いていて、静寂に包まれている。
―――いつも…智也と何を話してたっけ。
ヤバイ…頭が真っ白だよ―――。
「桜…だいじょーぶ?」
「へ?…あー、ごめん。なんか、智也と二人っきりが久々すぎて何を話したらいいのか分からなくなってるだけだから、ほんっと気にしないで」
捲し立てるようにそう言うわたしを見て、智也はクスッと笑った。
な、 なんで…笑うんだ?
すると、智也がこちらを優しい表情で見る。
「それってさー…俺のこと、意識してくれてるってこと?」
しばらく…思考が停止して。
ハッと我に返って言葉の意味を理解する。
「ちっ…違うから!断じてあんたのことなんか意識してない!」
「えー、そんなに否定されるとさすがの俺も傷つくなー」
全力で否定するわたしを見て。
智也がまた、茶化すように言う。
絶対にからかわれてる。
そう確信して睨んでいると楽しそうに智也が笑う。
「ごめん、 桜と二人でいられるのが嬉しくって…つい、からかっちまった」
不意に言われたその言葉に。
ほんの少しだけ、胸の鼓動が高鳴ってしまった。
無邪気な顔で…そういうこと、言うのはずるいな―――。
なんて、考えていると。
突然、智也は歩を止めて真剣な顔を向けて口を開く。
「言っとくけど…俺はまだ、お前が好きだから」
夕暮れのなか。
夏の…生暖かい風が、二人の間に流れる。
わたしは、俯く。
智也の想いは、嬉しい―――。
けど、わたしには…先生がいるし。
それに志穂のこともある。
だから…智也を選ぶことはたぶん、この先ない。
はっきりと、そう言おうとした。
だけど。
「―――たとえ、桜が先生を好きだとしても。俺は諦めない―――」
あまりの真っ直ぐな智也の視線から目が離せなくて―――。
気づけば…見とれている自分がいた―――。
- Re: 罪恋***好きでいてもいいですか?*** ( No.57 )
- 日時: 2019/03/01 00:53
- 名前: Aika (ID: dRebDXey)
Episode44:秘密の休日。
―――『たとえ、桜が先生を好きだとしても。俺は諦めない』
その言葉に結局何も返せないまま。
その日のわたしは、帰路について気がつけば家にいた。
自分の部屋のベッドにダイブする。
「―――何を…揺れてるんだろ、わたしは」
先生のことが……好きなのに。
智也に揺らいでる自分が情けなかった。
先生といる時間が短くて、不安になっているからだろうか―――?
だとしても、最低すぎる。
ため息をついていると。
不意にスマホの着信が鳴った。
その表示されている名前にわたしは、驚く―――。
―――相田 裕樹
「えっ……嘘」
わたしは、 スマホを手にとって電話に出た。
『あっ……もしもし?桜?』
「ゆっ……裕樹さん、 どうしたの?」
電話とはいえ久しぶりに学校以外で話をしているからか、わたしの声は緊張で震えていた。
『あ…んーと、これといって用はないんだけどさ…桜の声が聞きたくなっただけ、てきな?』
笑いながら、 裕樹さんはそう言っているけど
わたしの顔は途端に熱くなっていた。
電話でよかった―――。
これなら、 照れてるのバレてないし―――。
「もー、 何それー」
照れてるのを隠すように、 取り繕ってそう返した。すると、裕樹さんの笑い声が向こう側から聞こえてくる。
やっぱ、 電話で話すと微妙に声のトーンとか違うよな―――。
なんてことを、ぼんやりと考えていると。
不意に裕樹さんが口を開いた。
『あのさ、桜。 今週の土曜日って予定ある?』
「え、 ないけど…」
『じゃあさ、 デート…しない?』
突然の裕樹さんからのお誘いにわたしは、ビックリした。
「え、 いいの?」
『まぁな!遠出でも大丈夫か?』
「うん、大丈夫ー」
『じゃあ、 決まりな!』
詳細はLINEでやりとりをすることになり、その日の電話は終わった。
「裕樹さんと…デートか」
前回は夏祭りでみんなと一緒だったけど。
今回は、初の二人っきりのデート。
つまり、
ほんとの初デートだ―――。
「楽しみだなー…何着てこうかな」
この日のわたしは、 土曜日が楽しみすぎて
まったく寝つけなかった―――。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
それから、 土曜日―――。
ついに、 デートの日です。
「おまたせっ!」
マンションの下で待っていた裕樹さんの元へそう言って駆け寄る。
「待ったかな?」
「いや、俺もいま来たところだから。じゃあ、行くか」
「うん」
それから、 裕樹さんの車に乗って出発した―――。
そういえば、 裕樹さんの車に乗るのって
すごく久しぶりかも。
中学生の時以来かもしれないな。
なんてことを、ぼんやりと考えていると
不意に裕樹さんが口を開いた。
「服、 可愛いじゃん」
「へ!!?」
まさか、 誉められると思っていなかったので変な声が出た。
隣で運転している裕樹さんを見ると顔が赤く染まっていた。
裕樹さんでも…照れたりするんだな―――。
「あ、 ありがと」
わたしは、うつむきながらそう言った。
それから、気をまぎらわそうと思い話題を変えた。
「とっ…ところで今日はどこに行くの?」
「あー、 遊園地行こうと思って!少し遠いところなんだけど」
「遊園地かー!いいね!楽しみだな~」
そんな感じで他愛のない会話をしながら車の中での時間は流れた―――。
―――車を走らせて2時間。
目的地に到着した。
「わぁー!すごーい!久しぶりの遊園地だー」
「どれから乗ろうか」
マップを見ながら二人で悩む。
と、いうか。
我に返ると、すぐ触れそうな距離に裕樹さんがいることに気づき鼓動が高鳴る。
―――ヤバイ。
鼓動が…苦しいぐらいに高鳴ってる。
「桜?どした、ボーッとして」
「なっ…なんでもない。あ、あれ乗ろうよ」
わたしは、誤魔化したくて
適当な乗り物を指差して裕樹さんの手を引く。
「おっ…おい、桜!お前、ほんとにあれに乗る気かよ!」
「いいのいいの!どれ乗っても楽しいし!」
「けど、お前…怖いの苦手じゃ―――」
裕樹さんの声がこのときのわたしには、まったく届いておらず
そのアトラクションがお化け屋敷だと気づいたのはなんと、わたしたちの番になってからだった―――。
「ぜっ…絶対に手を離さないでねー」
「分かってるよ。お前こそちゃんと掴んでろよなー」
「うっ…うっさいー」
裕樹さんの腕にしがみつきながら、前に進む。
半泣きの状態のわたしに比べ裕樹さんは平然と前へ進んでいた。
怖く、 ないのかな。
「裕樹さんってさー、 お化け屋敷怖くないの?」
「こんなの作り物だろー、全然怖くねぇ」
うっ…さすが、大人だな。
こういうときも、冷静でクールなんだ―――。
なんか、 新しい一面を見つけた気がする。
瞬間。
―――ガタンッ。
急に後ろから物音がして。
「ひぃっ!!!」
わたしは、ビックリして
裕樹さんの体に抱きついてしまった。
それから、数分して何も起きないことを把握してから…改めて今の状況を理解した。
あれ?
わたし、いま…裕樹さんに自分から抱きついてる?
途端に恥ずかしさで顔が赤くなってわたしは離れようとした。
「ごっ…ごめん、 今離れ―――」
すると、 裕樹さんが
さらに強くわたしを抱き締め返してきた。
「―――え?」
何も言わずに、 ただ抱き締める貴方に対して。
わたしも、そっと裕樹さんの背中に腕を回した。
耳元から伝わるのは…裕樹さんの鼓動の音―――。
何ともない様子でいつも、わたしと一緒にいるけど…裕樹さんもこんな風にドキドキしたりするんだ―――。
そんなことを、このときのわたしはぼんやりと考えていた―――。
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