コメディ・ライト小説(新)

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ナニイロセカイ(半実話)
日時: 2017/11/14 15:01
名前: 雪姫 (ID: yZSu8Yxd)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel4/index.cgi?mode=view&no=16943

あれはいつのことだったかな_?





夏が終わり




秋が来た




少し肌寒い日のこと_




トントン。




誰かが階段を上がっている



トントン。



女の子が静かに一歩一歩ゆっくりと階段を上がって行きます



トント



到着。目の前に続く道は立入禁止と書かれた黄色いテープで塞がれていました




彼女はテープを引きちぎり




キィ





ドアを開けて中へ入いります




ビュゥゥゥウウ




冷たい風が彼女の頬を撫で 彼女は





世界を区切る壊れたフェンスの方へ





上を見上げれば 雲一つない青色の世界




下を見下げれば 部活動中なのでしょう



運動部員たちがグラウンドで走り回っている 茶色い世界




ポタ… ポタ…





晴天の空




でも 彼女の心はどんより曇り空




ポタ… ポタ… 




大粒の雨が彼女の頬を濡らします






フェンスを乗り越えて世界の外側へ





世界の内側からは楽しそうな笑い声





ぽんっと誰かが背中を押します





ふわりと浮き上がった体は そのまま__




















地面のアスファルトに飛び散った赤い液体





救急車のサイレンの音






彼女は死んだのかな、とただ純粋にそう思った





肌寒い秋の日の出来事_。










****
ナニイロセカイ[>>107]





                                             [>>106]

Re: ナニイロセカイ(半実話) ( No.109 )
日時: 2017/11/14 13:16
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: yZSu8Yxd)





サクラの花びらが舞う季節



満開の桜が綺麗 絶好のお花見日和




今日 わたしは通っていた小学校を卒業します_。





「ううぅ。寂しくなるね」

「みんな元気でね」

「――ちゃんもね!」

色々やることが終わって最後に教室で行われる涙のお別れ会。みんな涙を流して顔がぐちゃぐちゃ。

「皆さん中学校に行っても元気でね…シクシク」

あ。先生まで……。
皆涙を流して仲のいい子達は抱き合ったりして別れを惜しんでいます。
わたしも空気を読んで泣いたりした方が良いのかな?
と、思い頑張って泣こうとしてみたけど、涙は流れませんでした。
色々試行錯誤して悲しい気持ちなろうとしたけど、どうしても涙は出せませんでした。

「――ちゃん!」

顔も知らない。
名前も知らないクラスメイトと呼ばれるAさんがわたしの名前を呼んでます。

「離れ離れになっちゃうけど元気でね!」

両手でしっかりとわたしの手を握りしめて涙ながらに何かを言っています。

「バイバイッ」

名無しの誰かは一通り何かを言い終わると満足そうな顔をして他の友達の所へ走って行きました。
あの子は誰だったっけ? 
顔も名前も知らない名無しの子。

「みんなとの別れはもういいの?」

迎えにやって来たお母さんの所へ行くと第一声がこれでした。

「もういいの?」

もういいの? …よくわからない。
なにがもういいのか。
どうなったらもうだめなのか。
この時のわたしには意味がよくわかりませんでした。


今日で仲の良かった友達の半数とお別れしました。


知り合いの大半は同じ中学校に通います。


新しい学校での新しい生活が始まります_。











―始まりは嫌いです。








―新しいことは嫌いです。







ー新しい学校





ー新しい教室






―新しいクラスメイト






―新しい友達








全部。全部。全部。全部大嫌い。























満開に咲いたサクラが散りました。




先週降った大雨のせいで満開に咲き誇ったサクラの花びらは全て地面に叩き落とされて枝にはもうなにもありません。

真っ裸になったサクラの木。そしてわたしの心と同じどんより曇り空。

わたしが泣けない代わりにお空が泣いています。大粒の涙を流して泣いています。

大きな体育館。

大きすぎて自分は小さなアリさんになってしまったのかな、と錯覚してしまいそうなくらい広くて大きな体育館。
緑色のシートが床に広げられ、沢山のパイプ椅子が並べられています。

「じゃあ順番に座ってってー」

先生の指示のもと。言われるがままに指定された席に座りました。
周りを見れば知らない子ばかりで少し不安な気持ちになります。

「じゃあ。あともう少ししたら入学式が始まりますからね」

と言っている先生の声も聞こえない程、体育館の中はがやがやしています。
うるさい。こわい。沢山の人に囲まれてきもちがわるい。

"タスケテッ”

と心の中で叫んだわたしの悲鳴は誰の耳にも届きません。

入学式が始まって、校長先生の気が遠くなるような長い話、よくわからない退屈なカルキュラムが全て終わったところで入学式が終了。

はぁーやっと終わった。解放されると息をついたつかの間のこと。

今度は教室案内。

自分の教室を自分で探さなければいけない。

あー。いつになったらこの地獄から解放してくれるのでしょう?

北にある校舎の三階に一年生の教室があるらしいです。
一歩、一歩、丁寧に階段を上がっていきます。
ああ……気が重い。あと階段がきつい。どうせなら二階がよかった、もしくは一階。

心の中で文句を言いながら三階に辿り着くと、沢山の生徒達で溢れかえっていました。
……このまま引き返そうかな? 
とも思ったけどそうはいかない。仕方なく教室の出入り口の引き戸に貼ってあるというわたしの名前を探します。

教室は全部で七つ。
七つもあるんだ……多いよ。
しかもひとクラス四十人って多すぎだよ……窮屈すぎて吐きそうだよ……。

人込みをかき分け一つ一つ、貼り出された紙を見て行きます。

ない。

ない。

ない。

ない。

あった。

五つ目の教室でわたしの名前がありました。

わたしの苗字は中間あたり。
だからいつも探すのが大変。
あいうえお順で席に座るとだいたい真ん中の方の先生と真っ直ぐ見つめ合う席になるから、すごくいや。
目立つから。
わたしは目立ちたくないのに。ずっと日陰で静かに暮らしていたいのに……。

知らない人ばかりのクラスはいやだな……他に知っている人の名前はないのかな……と探そうとしたけど、

「邪魔よっ」

他の人に押されて逃げるように教室の中へ入ることしか出来ませんでした。

「でさー」
「わーい」

教室の中も中でずっこく賑やかでした。うるさいです。
そして知っている顔は何人かいました。
でも顔は知っているというだけで名前はおろか話したこともない人ばかりでした。

ああ_オワッタな。ただ単純にそう思いました。

「えーあたし達席とーい」
「ほんとだー最悪~」

黒板の前に人が集まっています。
話している内容を聞いてみると、自分の席が書かれている紙が貼り出されているそうです。

教室探しの次は席探しか……なんとも疲れる学校です。

また人込みをかき分けて黒板の前へ。左端から上下に順番に見て行きます。

ない。ない。な――あった。

男女二人。横に隣り合わせになった席の列をひとつと数えてそれが廊下、教室の中央、窓側の3列。
夏は日差しが熱いくてかなわない窓側の席、授業中先生にあてられる確率が高い中央の席、冬は隙間風が寒い廊下側の席。
うん、どれもどっこいどっこいですね。微妙です。まだ出入り口に近く、登校して来たらすぐに席に座れて、帰りのHRが終わったらすぐに帰れる、廊下側も後ろから二番目の席になったらは不幸中の幸いということにでもしておきましょう。
じゃないと悲しすぎて落ち込みます。

自分の席に座ってスイッチオフです。シャットダウンします。机の上にうつ伏せになって、瞼を閉じるんです。
自分の世界にこもってしまえば、煩わしい外の雑音なんて聞こえてこないから。
音の無いわたしの世界はとっても素敵な場所ですよ_?

静寂の世界   ( No.110 )
日時: 2017/11/17 09:05
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: 4CP.eg2q)

常闇の世界。

瞼を閉じたから目の前は真っ暗闇です。

なにも見えない。

無音の世界。

両耳は腕でふさいだから何も聞こえません。

心頭滅却すれば火もまた涼し。

それと同じ効果?

この世界にあるのは

混沌に満ちたわたしの心


    と


常闇と無音が支配したわたしだけの静寂の世界だけ



――だと思ったのに。






「――ちゃんっ!!」


誰かに体を大きく揺らされて無理やり、本当に迷惑な事ですが……机の上に俯せた体を無理やり起き上がらせられました。
起き上がる時に一度、ゴツンッ、とおでこを机に打ち付けて凄くイタイです。

「だいじょうぶぅ?」

無理やり静寂の世界から現実世界へとわたしを連れ出したのは小学校二年生の頃なかよくしていた女の子。

じゅっちゃん、でした。

ずっごく可愛いわけでも、そんな可愛くないわけでもない、中の中くらいの女の子。
ご両親がかなりのお金持ちで、お母さんはデザイナーさんで、着ているものはすっごくおしゃれさんで、持ってる物は全部可愛い女の子。
……そういえばこうやって面と向かって話すのは何年ぶりだろう?

「久しぶりだねっ」

ニコニコした表情でわたしに話しかけてくるじゅっちゃん。
そんな彼女にわたしは苦笑い。
見えていないのかな? それとも無視?
気にせずじゅっちゃんは話し続けます。どうでもいい内容を。一応聞くけど。
どうやらじゅっちゃんとわたしは初めて会った時ぶりくらいにまた同じクラスなったそうです。
教室に来たばかりで友達と呼べるような人がわたししかいなかったから、またなかよくしようね♪ とのことだそうです。なんて自分勝手な……。

またこの子と同じクラス、そしてお世話係りをしないといけないのか……そう思うと憂鬱な気持ちになりました。
別にじゅっちゃんのことを嫌っているとか、そうゆうのではないんです。……苦手意識はあるけど。
"今”でも大好きです。しんゆうだと思っています……そう"今”でも……。


空気の世界 ( No.111 )
日時: 2017/11/17 09:29
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: lEZDMB7y)

キーンコーンカーンコーン。

チャイムが鳴りました。
退屈な休憩時間が終わったみたいです。今度は何時間が始まるんだろう。

「じゃあまたあとでね」

いつも思う、上手すぎる作り笑顔でじゅっちゃんは手を振って自分の席へと戻って行くのと、ほぼ同じくらい教室の外にいたクラスメイトと思われる人達もぞろぞろ気持ちの悪い小さな虫のように教室に入って来て、自分の席に座っていきます。
全員が席についたところで改めて思いました……四人は多すぎるって。
わたしのかよっていた小学校の生徒の約八十パーセントがこの中学校にきたと聞いてます。だからかな? 多すぎる教室の中には、見知った顔が半分くらいいました。
まあ……じゅっちゃん以外は全員顔と名前を知っているだけという知人以下の人たちなんですけどね。

……なんてことを考えること数分。
教室の引き戸が開けられて、くせっ毛の女の先生が入って来ました。見た目年齢でいうと三十代後半か四十代くらいかな?
これはあとから知った話なんだけど先生もまたわたしたちと同じくらいの子供を持つお母さんらしいです。自分の家庭もあって大変な先生さんです。

一通り説明みたいなことが終わりました。
次は、新しい先生 クラス 定番ネタ 自己紹介タイム、などなど説明するのもめんどい定番ネタをこなしていきます。
でも自己紹介タイムか……わたしが一番嫌いな時間です。地獄の一丁目です。
なんでいつも初めての場所には自己紹介タイムなんて無意味ことに時間を使うんだろう。
そんなものに何の意味があるって言うんだろう。
別にクラスメイトのみんなとなんてなかよくするつもりもないし、興味なんて全くと言っていい程無いです。
それはみんなも同じはず、とゆうより興味津々なんて言われたら気持ち悪くて吐いてします。ドン引きです。

文句を心の中で訴えていると、前の子達が軽々と自己紹介していってどんどん自分の番が迫ってきています。
ああ…嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。この世界からどうにかして逃げられないかな。
頭が痛い?
お腹が痛い?
おトイレに行きたい?
それっぽい理由を色々考えて案を出してみたけど、どれも微妙です。

「宜しくねー。じゃあ次は――さん!」

時間オーバー。タイムアウト。時間切れです。わたしの番がきてしまいました。
ほらほらっと先生にせかされ渋々嫌々、椅子から立ち上がります。
みんなの目線がわたしに集中します。見ないで お願いだから わたしを見ないで――

「綺麗な瞳」

「……ぇ」

緊張で頭の中が真っ白になったわたしに先生がかけた言葉は意外なものでした。

「――さん。貴方とっても綺麗な瞳をしているのね? 翡翠色の瞳なんて初めて見た……もしかしてハーフ?」

「ぇ……あ…はい」

「やっぱり!」

どんなー? どんなー?見せてー! 見せてー!
教室にいる珍獣たちがざわめきだしました。動物園でパンダの赤ちゃんが生まれて、それを我先に見ようとする薄汚い人間たちを見ているよう。

――あぁ うるさい うるさい人達です。

こんな騒がしい世界なんて一秒たりともいたくない。
わたしは椅子に座り直して、また机の上に俯せ瞼を閉じて、またわたしだけの静寂の世界へと逃げ出しました。

「恥ずかしがり屋さんなのかな~?」

「あはは」

外の世界からわたしをからかう声 嗤い声 嫌な視線を感じる。

聞こえない。

聞こえない。

わたしの世界にはそんなもの存在しない。

なにもない わたしの世界には なにもない。

世界とってわたしは空気のような存在なんだから――

寄生虫の世界 ( No.112 )
日時: 2017/11/19 08:15
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: jAa55n87)

地獄の一丁目 自己紹介タイムが終わりました。

そして早くもわたしの中学校生活が初日でオワリを宣告されました。

「じゃあ、班でわかれて話し合ってねー」

次から次へと……本当に忙しいクラスです。
今度は四人一つの班にわかれて話し合いをするそうです。
班内での自分の役割を話し合いで決めていくそうです。
班で一番偉い班長とか。二番に偉い副班長とか。その他地味で楽だけどその分めんどくさいものなどなど。

わたしの班のメンバーは
隣の席に座っていた、黒くて四角いメガネをかけた背の高い真面目系の男の子。
その後ろに座っているのほほんとした平均的な背丈の男の子。
あとはわたしの後ろの席に座っていた、幼稚園の頃仲が良かった女の子。ふぅちゃん。
小学校は違ったから会うのは幼稚園の卒業式ぶりだね。久しぶりふぅちゃ……

「………ハァ」

話しかけようとしたけど、ふぅちゃんから返ってきたのは凄く重たいため息。六年ぶりに再開した幼馴染は別人でした。
幼い頃、仲の良かったあのふぅちゃんはもうどこにも居ませんでした。
頬杖をつき、不機嫌そうな顔をしてわたし達を睨み付けています。
目を合わせるのが怖くてわたしは他の男子二人に視線をうつしました。でも二人もふぅちゃんと同じように、不機嫌な顔でそっぽを向いています。
ああ……班のメンバーすら失敗してしまったようです。
周りの他の班からは楽しそうな笑い声が聞こえてきます。どんどん役割が決まっていってるみたいです。
でもわたしたちの班はというと……

「………」

「………」

「………ハァ」

わたしも含め班のメンバーはみんな消極的人ばかり、積極的に仕切るみんなのリーダーのような人ががいないからみんな黙り込んで、重たい沈黙、重たい空気になっています。
わたしの班だけ、他のみんなの班とは別世界みたい。ここだけくりぬかれたみたいな感覚になります。

みかねた先生が「じゃあ先生も手伝うから一緒に決めようか?」とありがた迷惑のお節介根性まる出しで手伝ってくれたので、一応その場はなんとかなりました。

わたしは役割の中でも比較的楽なものをやることに成功しました。そこだけは死守しました。
面倒くさい役割は全部ふぅちゃんが嫌々引き受けてくれました。それは絶対に誰かがやらないといけないことだから。

話し合いが終わり、本日二回目の休み時間。
わたしは当たり前のように机の上に俯せ、自分だけの世界へとダイブします。

「本当っムカつく!!」

ダイブしようと思ったけど、その前に聞こえたふぅちゃんの怒鳴り声で現実世界に引き戻されてしまいました。
どうしたんだろう? と思い、首は動かさずに耳だけ傾けてふぅちゃん達の会話を盗み聞きしてみます。
あっ。いやっ。大きな声で話しているから、すぐ前の席だから、たまたま聞こえてきただけですよ?

仲のいい友達に愚痴るふぅちゃん。
内容は最初から薄々は気づいていた事だけど、さっきの班の役割決めのときの話。

「なんで私がこんなのやらないといけないのっ」

……ごめんなさい。

「班の奴ら全然喋んないしっ」

……ごめんなさい。

「黙ってればいいってもんじゃないよね!! 話し合いに参加しろっての!」

……ごめんなさい。……ごめんなさい。……ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

「本当だよねー」

背後から聞こえてくるのはふぅちゃんの怒りの声。
ふぅちゃんの友達の笑い声。
二人の声が鋭い刃となってわたしの心にグサリと突き刺さります。
HPポイントはもうレッドを通り越して零です。
瞳から少し零れた雫をそっとハンカチで拭いて、わたしはまた自分の世界へと沈んでいくのです。


幼い頃から他人と話すのがあまり得意ではありませんでした。
その他大勢と群れるより、一人部屋の隅に居た方が落ち着きます。外でも家でも独りだから。

ちょっとしたことですぐに泣いてしまう 泣き虫さん。
涙が枯れても泣き続けました。そうでしか自分の想いを言えなかったから。

集団行動なんて無理。 人混み紛れてそのまま消え去りたい。

話し合いの場はいつも積極的なリーダータイプの人に全部お任せ。おんぶにだっこ。わたしは寄生虫。
優秀な人に寄生する事でしか生きられない寄生虫なんだ。

裏切りの世界 ( No.113 )
日時: 2017/11/21 11:46
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: ru6kJfJs)

キーンコーンカーンコーン。

今日もまた一つ授業が終わりました。授業が終わった事を、退屈な一時間目が終わった事を、教えてくれるチャイムが鳴りました。

「じゃあ出した宿題をちゃんとやってくるのよ」

はーい。と、打ち合わせでもしたかのように同時に言われた、クラスメイトのみんなの声。
さっきあったのは担任の先生の授業国語でした。
幼い頃から一人だったわたしは必然的に暇つぶしに本を読むようになっていました。
園児や小学生の頃は一日一冊くらいのペースで読んでいたなあ。本が沢山ある図書室のような場所で一人何時間でもこもって絵本や青い鳥文庫の本や赤川次郎先生や怪談レストランなんかを良く好んで読んでいました。懐かしいな。

中学生になった今では周りの友達の影響で漫画やアニメにも興味を持ち始めそっちばかり読んだり見たりするようになってしまって、小説は国語の教科書くらいでしか読まなくなってしまいました。

でも国語の教科書を読むこと自体は悪い事じゃないと思うんです。
だって一応教科書だから予習復習みたいなことが出来ると思う、それに学校で休み時間とかに読もうと思って持って来た本はもれなく盗まれるから。合計何冊盗まれたんだっけ? 悲しい気持ちになるので途中から数えるのをやめました。

その点教科書はいいです。盗まれる心配なんてないですもの。だってみんな同じ物を持っているのだから。
たまに忘れたから貸してと言われて貸したら二度と帰っては来なかったという事もありますけど。合計何冊カリパクされたんだっけ? 悲しい気持ちになるので途中から数えるのをやめました。

とにかく本を読むのが好きなわたし。
休みの日になると同じく本好きのお母さんと一緒にBOOKOFFに行っておもしろそうな漫画とついでに小説との出会いがないか探して回ったりしています。
本との出会いは一期一会。
古本屋さんだとその時を逃してしまうともう次に来た時にはない、もしくはさらにお手頃価格であったりするので見極めが難しいです。でもギャンブルをしているみたいでおもしろいです。

家の中が家族の趣味の物がいっぱいでごちゃごちゃしてるのはちょっと……ですけどね。掃除しなきゃな……と年末いつも思うのになかなか綺麗にならないお部屋。

基本休み時間は机の上に俯せになってわたしだけの静寂の世界へとダイブするのですが、前の授業が国語だった時とかは机の上に出してある教科書を開き物語の世界へとダイブしています。
わたしの世界は真っ暗でなにもない世界だけど、本の世界にはいろんな人が居て、いろんな動物が居て、いろんな生き物が居て、いろんな世界が存在しているんです。本の数だけ無数に。

物語の世界だとわたしはなんにだってなれます。悪の魔王にだって、その魔王を倒す正義の勇者だって、隣の家に住んでいる可愛い幼馴染だって、ケモ耳の妖怪にだって、植物や昆虫やスライム、なんにだってなれるんです。本の数だけ無数に。

さあ行きましょう。いざ物語の世界へと。

「―――ちゃん」

いつも嫌な意味でタイミンクがいいじゅっちゃんのご登場です。
開いた教科書を引っ張り上げ没収されてしまいました。ああ、わたしの物語の世界へダイブするための鍵が奪われてしまいました。

わたしの目の前で仁王立ちして嬉々として話しかける旧友のじゅっちゃん。今でも親友のじゅっちゃん。
まだ入ったばかりで慣れないクラス、わたしもじゅっちゃんもまだ友達と呼べるような存在をクラスの中に作れていません。だからじゅっちゃんは毎日休み時間になるとわたしに話しかけます。
毎回グループ分けになるとわたしのところにやってきます。ありがとう、本当はぼっちの悲しい子なのにそうじゃない、ちゃんと友達がいる普通の一般人だよってカモフラージュをしてくれて。

まるでそれが当たり前であるかのようにじゅっちゃんはわたしの前に現れます。

休み時間になると決まって現れるじゅっちゃんのことを鬱陶しいと感じることもありますが、わたしにはそれを邪険にできるほど気も強くないので、いつも即興のぎこちのない作り笑顔で答えぎこちのない聞いていて何が楽しいのか分からない会話をして、一方的に喋り続けるじゅっちゃんの話にうなずき続けます。気持ちが悪い作り笑顔をキープしたまま気持ちの悪い相づちをするんです。

キーンコーンカーンコーン。

また一つ休み時間が終わりを告げました。わたしの憩いの時間も終わりを告げました。
今日は物語の世界へダイブしようと思っていたのにできなかったな。

「鳴っちゃった。じゃあまた次の休み時間でねっ」

満面の笑みで手を振り自分の席へ戻っていくじゅっちゃんを生暖かい視線で見送ります。顔は気色の悪い作り笑顔のまま手を振って。

この退屈な時間は、日々はいつまで続くのかなと重いため息が出ました。
でもこの時間はそう長くは続きませんでした。だってあのじゅっちゃんですよ?

あの日から二週間たったある日の朝のことでした。

「でさ~」
「うんうんっ」
「本当!?」

朝学校へ登校してくると、いつもは遅刻ギリギリにやって来るじゅっちゃんが楽しそうにクラスの女の子達と話している姿がありました。知らない子なので小学生は別々だった子達です。

そうかクラスに友達が出来たんだねじゅっちゃん。良かった、楽しそうに笑う彼女の笑顔を見ているとわたしまで嬉しい気持ちになってきます。

わたしも友達を作らないとな。だってじゅっちゃんという諸刃もろはつるぎがいなくなってしまったら、わたしにはこのコンクリートジャングルというダンジョンで戦う武器がありません。素手で野獣モンスターと戦うことになってしまいます。それはあまりよろしくない状況だと思います。

非常によろしくない状況だと思われます。
なのでまずは友達の友達から。
友達の輪を広げようとわたしの中に存在するかさえ分からない、”勇気"と言う物を振り絞ってじゅっちゃん達に話しかけてみました。おはようって裏返った声で。

「………」

ぇ。

「あーー!! おはよーー!!」

じゅっちゃんはわたしの横を素通りして教室に入って来た友達Bの元へ駆け寄って行って抱き合い楽しそうに話しています。
納得。
わたしの心が判断した結論。それはなっとく。漢字二文字。ひらがな四文字。
なんでわたし忘れていたんだろう。初めて会った時から彼女はそうゆう女の子だったじゃない。

お家はそこそこお金持ちでいろいろ恵まれているのに欲しがりさん。わたしが持っている物を全て奪い取っていく小悪魔さん。
わたしがじゅっちゃんのことを最初旧友と呼んだのもその理由あって。とても大切な物を奪われ傷だらけされそして捨てられたから。

小悪魔のじゅっちゃん。彼女にとって嘘をつくのは呼吸するのと同義語。裏切るのだってそう。
お馬鹿でお人好しのわたしはこうなると分かっているのに、いつもじゅっちゃんに無償の供与をしてしまうの。
そして用済みになったら捨てられる。使い捨ての駒。

こうしてわたしはクラスで完全なるぼっちとなりました。絶海の孤島に取り残された可哀想な人となってしまいました。
まあそうなることはこの中学校に転校してきたあの日から分かっていたことですけどね。

それでもやっぱり現実は辛いものがあります。
ぐっと堪えたから目からは涙は流れてはいないと思う。誰もそのことでは騒いでいないから。

そっと自分の席へ荷物を置き、窓の方へ歩き、窓の外に広がる晴天の空を呆然と眺めて

ああ――どうか神様仏様先生様、わたしに気持ちの整理をする時間を下さいな。

誰にも聞かれないように心の中で祈ってみたけど、そんなの何にも効果なんてありませんでした。
もうパンドラの箱は開けてしまったんです。もう開けてしまった箱を閉じることは出来ないんです。

今日も退屈と言う名の地獄はじわじわとわたしの心を蝕んでいきます。

勇者はいつになったらお役御免になれるのでしょう。
悪の魔王を倒したら? でも倒しても実はそいつは四天王のパシリだとか、裏ボスの使いっぱしりだとか、散々な事を言われて第二第三の魔王が現れるんです。
勇者はいつになったらお役御免になって平凡で何もない退屈な日常を送れるのでしょう。

いつになったらわたしはお役御免となってこの世界から解放されるのでしょうか?


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