コメディ・ライト小説(新)

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ナニイロセカイ(半実話)
日時: 2017/11/14 15:01
名前: 雪姫 (ID: yZSu8Yxd)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel4/index.cgi?mode=view&no=16943

あれはいつのことだったかな_?





夏が終わり




秋が来た




少し肌寒い日のこと_




トントン。




誰かが階段を上がっている



トントン。



女の子が静かに一歩一歩ゆっくりと階段を上がって行きます



トント



到着。目の前に続く道は立入禁止と書かれた黄色いテープで塞がれていました




彼女はテープを引きちぎり




キィ





ドアを開けて中へ入いります




ビュゥゥゥウウ




冷たい風が彼女の頬を撫で 彼女は





世界を区切る壊れたフェンスの方へ





上を見上げれば 雲一つない青色の世界




下を見下げれば 部活動中なのでしょう



運動部員たちがグラウンドで走り回っている 茶色い世界




ポタ… ポタ…





晴天の空




でも 彼女の心はどんより曇り空




ポタ… ポタ… 




大粒の雨が彼女の頬を濡らします






フェンスを乗り越えて世界の外側へ





世界の内側からは楽しそうな笑い声





ぽんっと誰かが背中を押します





ふわりと浮き上がった体は そのまま__




















地面のアスファルトに飛び散った赤い液体





救急車のサイレンの音






彼女は死んだのかな、とただ純粋にそう思った





肌寒い秋の日の出来事_。










****
ナニイロセカイ[>>107]





                                             [>>106]

その二十三「季節外れの転校生」 ( No.84 )
日時: 2017/10/20 10:17
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: PGYIXEPS)

あっどうも。おはようございます、冬月ふゆづきひそかです。
夏が終わったのにまだまだ暑い日が続きますね。今日は夏休みが終わって初登校の日ですよ。ちなみに始業式は別日にありました。
校門前では美希たち生徒会の人たちが抜き打ちチェックとかしていて大変そうでした。僕は特にへんな格好とかへんな物を持ち込んだりしていないので、数秒で終わって教室で一人まったりとしています。
キーンコーンカーンコーン。
あ。HRが始まるチャイムが鳴った。

「みんなぁ、おはよぅ」

「「「おはようございまーす」」」

ふぁあ、浪川先生は今日もいい香りだなぁ。
僕たちのクラスの担任の先生、浪川羊先生。家庭科の先生でもあります。エメラルドグリーン色の髪と瞳が綺麗な先生でいつもいい香りがするコロンかな? を付けていてその匂いを嗅ぐだけで幸せ気分です。浪川先生が担任の先生で良かったです。

「今日はねぇ。みんなに言いお知らせがあるのよ~」

うふふと女神のような笑みの浪川先生。良い事ってなんだろう? 
クラスのみんながざわざわ……って話している声が聞こえます。離れた席に座っている美希の方を見てみたけど彼女も首を傾げて分からないみたいです。生徒会の人でも分からない良い事?

「入って来てちょうだぃ」

と浪川先生が教室の出入り口の引き戸の方へ声をかけると、閉じられたいた引き戸がゆっくり静かに開けられて

「…………」

「……わぁ」

伸ばした真っ黒な夜空のような黒い髪を下の方で括って青いリボンで一つにしている女の子が優雅に、モデルさんみたいに歩いて入って教卓の横、浪川先生の横に立ち僕たちの方を真っ直ぐに見つめます。
つりあがった眼尻はまるで獲物を狙うハンターのようです。……カッコイイ。初めてめっしー先輩に出会った時と似たような気持ちになります。

「自己紹介をよろしくねぇ」

振り返り黒板の方を向いてチョークを握って何かを書き始めました。あ、名前ですね。
え~と……青……龍……院……? 青龍院という名前を見てクラスのみんながざわめきました。僕は知らなかったけど青龍院財閥と言えば、しーパイセンのクラスメイトの水仙時先輩のお家と同じくらいの権力を持った町内会の会長さんらしいです。商店街の裏ボスみたいな水仙時財閥とは古くからライバル関係で睨み合いが続いてるとかいないとか……。

青龍院せいりゅういん 幽真ゆうまだ」

黒板に名前を書き終わった、青龍院さんは振り向き僕たちの方を見て言いました。はっきりとした口調で。

「よ、よろしくなー」

「宜しくねっ幽真ちゃんっ」

勇気を出して声をかけた挑戦者チェレンジャーも何人かいたけど、

「…………」

あの獲物を狙う狼のような眼光に蜂の巣にされてみんな撃沈しました……コワイ。

「じゃあ~青龍院ちゃんの席は~~」

浪川先生は教室の中を見渡すと、

「窓側の一番後ろの席が空いているから、そこに座ってねぇ」

「……はい」

窓側の一番後ろの席……って僕の隣の席だよっ。静かに近づいてきた青龍院さんは無言で僕の隣に座って、

「……よろしくね、青龍院さん」

「…………」

窓の向こう、青い空を見ていました。






つづく☆

その二十三「季節外れの転校生」 ( No.85 )
日時: 2017/10/22 11:13
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: tY8TK.KA)

HRが終わってそのまま一時間目の授業が始まってするするぅと時間が過ぎていって、
キーンコーンカーンコーン。

「これで本日の授業は終わります。課題を忘れないように」

「きりーつ、礼、着席」

「「「ありがとうございましたー」」」

一時間目の授業が終わりました。授業の間ずっと……ではないですよ? 左横に座っている青龍院さんを首を動かさず目だけで何度か見てみたのですけど、青龍院さんは授業の間ずっと物憂げな瞳で窓の向こうに広がる青空を見上げていました。……少し悲しそうな、寂しそうな、気持ちになりました。
一時間目と二時間目の授業の間にある10分間の休憩時間。
僕のイメージだと、新しく転校生さんが来た日のこの時間は転校生さんをクラスのみんなが新しく生まれた動物園の赤ちゃんを見に来る人みたいに、わらわら、うじゃうじゃ、集まるものだと思っていたのだけど……。

「…………」

青龍院さんの周り……そして僕たちの周りには誰もいません。……というより横前の席の人すらいません。
僕たちは絶海の孤島に流れ着いてしまった漂流者みたいな扱いを受けています。クラスのみんなは離れたところから青龍院さんを見つめひそひそ話をしているようです。ここから逃げる理由もタイミングも見失った僕はついで。

「ぉーぃ」

ん? 誰かに声をかけられたような気がします。教室の中を見回してみると、

「こっち、こっちっす」

「あ」

声をかけて来ていたのはクラスメイトの足田さんでした。
その傍には美希とドジラさんと下級生モブくんの姿もあります。美希の席にみんなで集まっているみたいですぅ。
足田さんが手招きしているので、僕もようやく絶海の孤島から逃げ出すチャンス券を手に入れることが出来ました。
……あっ、でも。

「…………」

美希たちのところへ行く前に、振り返り青龍院さんの方を見てみました。彼女は相変わらず窓の外に広がる青空を物憂げな瞳で見つめるまままでした。


つづく。

その二十三「季節外れの転校生」 ( No.86 )
日時: 2017/10/23 09:37
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: C/YHgPFP)

「みんな、あつまってどうしたの?」

美希を囲んで集まっていたみんなと合流です。
2年▽組の仲良し5人組の集合ですよ。

「どうっすか」

最初に、口を開いたのは足田さんでした。身をかがめて、僕たちだけに聞こえるように小声で喋っています。そして、彼女の視線は僕の後ろ……青龍院さんに向けられているようです。

「どうしたの?」

「青龍院さんってどんな人?」

「んぅー、すっごく悲し気な人……かな」

みんなは首を傾げて頭の上にクエスチョンマークが浮き上がっている感じでした。
席に座ってからずっと窓の外を見つめている、青龍院さんをひとことでいうならやっぱり……

「なんだか寂しそう」

「やっぱりひっかさんもそう、思うっすよねっ」

「どうしたの、足田さん」

急に足田さんが「フッフッフッ」ってなんだかRPGゲームの魔王城にいるザコボスみたいな笑い方をし始めたよ?
なにか悪い物でも食べたのかな? だいじょうぶかな、保健室に連れて行った方がいいのかな?

「突撃っすーーー!!!」

「おぉーーー!!」

「お、おぉー?」

「あはは……」

「はぁーー」

腕を天井高く伸ばす足田さんとドジラさんを真似して僕も右腕をあげました。下級生モブくんは苦笑い、美希は俯き大きなため息をついていて……美希の、幸せが逃げたりしないか不安だな。
……とか思っている僕のことなんて眼中にない二人、足田さんとドジラさんは勢いそのまま、

「行くっすよ、ミッキー!」

「わっ、ちょ、引っ張らないでくださいー、自分で行きますからー」

「早くはやっ……キャッ」

美希の腕を掴み引っ張ってそのまま、青龍院さんの元へ突撃しちゃったよ……だいじょうぶかな、途中で転んじゃったドジラさん。顔から倒れちゃっていたけど、だいじょうぶかな?
すっごく心配です。足田さんの前にドジラさんを保健室に連れて行った方がいいかな。
僕の不安要素とは関係のない場所では、新たな不安要素が発生しているようです。頭パーン?

教室の中にドンッと大きな音が鳴り響きました。鳴らした犯人さんは、足田さんです。青龍院さんの目の前に立った彼女が机をドンッと叩いたから鳴った音でした、あんな強めに叩いて手は痛くないのかな。

「ミッキーひしゃい(いたい)」

「そうでしょうね」

……あ、やっぱり痛かったみたいです。あとで保冷剤とか借りにみんなで保健室に行かないと、だね。

「…………」

頰杖を突いて窓の外を見ていた青龍院さんが蒼は動かさないで、目だけを動かして二人の方を見たよっ。睨んではいない……と思うけど眼力が強い、つりあがった眼尻からは睨まれているように見えるから不思議。
無言のまま二人を見つめているよ。ど、どうするのかな、この状況から……。

「自分っ足田っす! こっちはミッキーとこけているのがドジラさんっす」

「それあだ名だからっ!! 朱雀 美希です」

「ドジラじゃなくて……」

まずは普通に自己紹介。遠くの方からドジラさんの声がうっすら聞こえてきたような……スルーした方がいいのかな、みんなそうしているようだから。
青龍院さんの反応は、

「…………」

当然、無言。二人を見ていた視線もまた窓の外へと戻されてしまいました。

「リューイはどこから来たっす?」

「なに……そのあだ名……」

「駄目っすか? 青龍院だから、リューイっす」

「なんだか男の子みたいなあだ名だね」

「……男、みたいか」

あ! 青龍院さんが喋った! 正確にはひとりごとをぼそりと言っただけだけど、喋ったよ。良かったね、美希♪
僕たちの方を振り返った美希にガッツポーズで応援します。美希は苦笑い、手を軽く振ってくれたよ。
そこからの反撃は凄かったです、足田さんの質問攻めのラッシュがっ。マシンガントークっていうのかな、そうゆうの初めて見たよ。本当に弾切れすることなく言葉の弾丸ネタが永遠に感じられるくらいに打ち出されたんだよっ。僕にはそこまで喋れるほど言葉の弾丸ネタを持っていないから、すっごく羨ましいよ。
足田さんくらい話せたら、しーパイセンやめっしー先輩ともっと仲良くなれるのかな。弟子入りした方がいいかな。

「……………」

あっでも。一番凄いのはやっぱり青龍院さんかも。だって、マシンガントークの足田さんをずーーと無視し続けているから。すっと窓の外を眺めているから。すっごいよね、僕だったらあんな徹底した無視なんて出来ないよ、相手に申し訳なくて……。

「あと……もう少し……こけないように慎重に……」

「ドジラさん?」

起き上がったドジラさんが、平均台の上、サーカスの綱渡りの人、みたいな歩き方でのそりのそりと青龍院さんたちの元へ歩いて行っているよ。
……どうして、あんな変な歩き方をしているんだろ? あっちの歩き方の方がよけいに危ないような気が、

「キャアア」

「あ」

ドラドラガッシャーン!!

案の定、こけました。
しかも青龍院さんに突撃するような形で、頭から突っ込むような形で、ドジラさんと青龍院さん二人同時に椅子から転げ落ちてしまいました。

「だいじょうぶ、二人ともっ!?」

美希の席から見守っていた、僕と下級生モブくんは慌てて転げ落ちた二人の元へ駆け寄りました。

「チッ」

ドジラさんの下敷きになっている青龍院さんから、苛立ちの舌打ちが聞こえて来ました。わわっ……もしかしなくてもすっごく怒ってる??

「ぷっ」

「ほえ?」

ドジラさんの下敷きになっている青龍院さんは、片手で顔を隠して、小刻みに震えているよ。怒りで震えているのかとも思ったけど、

「ぷっ………くく……アハハッ」

そうじゃないみたい。眼尻の下に雫を付けて大笑い。

「も、もしかしてドジラさんがぶつかったせいで変な所を打っておかしくなったんじゃ……」

それは僕も一瞬、僕も考えてけどさすがに失礼だよ、美希。

「すまない」

一通り笑い終わって満足したっぽい青龍院さんは上にのっているドジラさんをどかしながら起き上がりました。

「このような屈辱的なことをされるのは初めてだったからな、怒りを通り越して可笑しくなってしまったようだ」

あっ、やっぱり怒ってたんだ、あの舌打ち……。
立ち上がって、ポンポンッと制服についたほこりを落としている青龍院さん……ってやっぱり大きい。教室に入って来た姿を見た時も思ったけど、すらっとした体形に背の高さは本当のモデルさんみたい。僕もそこそこはあるはずだけど、それよりも高い。ちょっと羨ましい……かも。

「ん、なんだ」

「……ぁ。いや、その」

目が合っちゃった。……どうしよう。

「君は確か……隣の席の……」

「冬月 密です!」

「冬月か。宜しく頼む」

と、差し出された左手。これはもしかして……

「握手は嫌いか」

「そ、そんなことはないよ、びっくりしただけだからっ」

両手で包み込むようにして、青龍院さんの手を握りしめました。冷たい手。

「君の手は温かくて羨ましいな」

「青龍院さんの手は冷たくて気持ちがいいね」

「なに?」

「今の残暑が厳しい日には必需品だね」

「うわー、ホントっ冷たくて気持ちいいー」

いつの間にか復活していたドジラさんが、後ろから青龍院さんを包み込むようにハグしていました。ほっぺたをすりすりして、女の子同士って結構スキンシップが激しいよね。

「こらっ。あまり近づくなっ」

「本当っす。ミッキーも触ってみるっすよー」

「うん。……冷たっ!?」

「き、貴様らっ」

最初は狼みたいな少し怖い見た目から、怖がられ遠ざけられていた青龍院さん。でもそんなのは僕らの勝手な勘違いだったわけで、本当はちょっぴりお茶目で可愛い女の子でした。
美希たちとじゃれ合っている姿は、本当にただの女の子でした。本気で嫌がっているように見えるのは、

「やめろと言っているだろう。阿呆共!!!」

……気のせいかな。

その二十四「図書室の主」 ( No.87 )
日時: 2017/10/23 10:52
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: C/YHgPFP)

昔々のお話。
辺境の古城に とても美しいと評判のお姫様が住んでおりました。
その評判を聞きつけ たくさんの殿方が 求婚に訪れましたが
城は囲むは堅固な城壁
誰も城内に 足を踏み入れることはできません。
殿方たちは 次々と城壁を超えに挑み そして敗れ去っていきます。
しかし 城を訪れる者の数は 一向に減りませんでした。
『この苦戦を越えた者が 絶世の美女と結ばれる』
そんなうわさが 国中にひろがり
我こそは 美女を射止めんという殿方が 後を絶たなかったのです。
さて……
挑戦者でにぎわう城壁の内側では
とうの お姫様が 頭を抱えておりました。
「ああ なぜこんなことに……」
誰かの些細ないたずらと 放置してうわさが 独り歩き。
膨らみに膨らんだ
彼女の評判は 現実の彼女とは かけ離れたものと なっていたのです。
「そりゃ確かに……このうわさをきっかけに殿方との出会いがあって……
 男性への苦手意識を 克服できればなんて思いもしらけれど……
 絶世の美女なんて 実際のわたしと違いすぎるよぉ……」
うわさの美女の正体は 内気で恥ずかしがりやな 普通の女の子だったのです。


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「ふう……」と一息ついて左手に握っていたシャープペンシルをころりと床へ転がした。本来は授業で頭を使いつかれた体を休ませるためにある休み時間の全てを使っての執筆活動はやはり少々体に堪えるな。
……でも視線を机に広げられたキャンパスノートにうつせば、物語がびっしりとノート一面に書かれている。これを見ると達成感が感じられ、嬉しい気持ちになる。

私の名は青龍院せいりゅういん 幽真ゆうま。男みたいな、名前だと? ああそうだろうな、家の跡継ぎとなれる男が欲しかった両親がつけた名だからな。……女の私なんかいらないのだとさ。

すーと息を吸い込めば、埃とかびの匂いが一緒に吸い込まれる。普通なら嫌な臭いだが、私にとっては古い本のいい香りだ。
此処は学校の図書室、生徒達が普段利用する一般エリアからさらに奥深くに位置する、古い本、または歴史的に貴重な本を保管しているエリア、普段誰も立ち入らないようなエリア。……私の根城とも言っていいかもしれない。
窓はなく切れかけた電球の灯りと持参した懐中電灯の灯りしかない薄暗い部屋。でもその方が読書や執筆活動に集中出来て丁度いい。

思えば私は記憶の始まりから本を読んでいるような気がする。物心ついた頃からとでもいえばいいか、気づけばずっと、365日毎日ずっとなにか本を読んでいたような気がする。
幼い子供が読んいる本と言えば、君はなにを思い浮かべる? やはり絵本? それとも自分で読むのではなく、読み聞かせや紙芝居などか?
私はそのどれも違った。絵本というものを知ったのは妹が生まれてからだ。私にはそんな玩具と呼ばれるものは買い与えられなかった。

男の子が欲しかった両親と生まれつき病弱で入退院を繰り返していた私。当然親からの扱いは良くない。女の身体でも、病弱な身体でも、青龍院の跡継ぎとして相応しい者になれるようにと、物心がつく前から勉強の毎日だ。一般的な他の子供のように遊ぶことは許されない。
「何時如何なる時でも青龍院財閥の人間として恥ずかしくない者でありなさい」それが両親の口癖。365日毎日きかされた、それは今でも変わらない。ずっとだ。

娯楽を知らない私が日々積もり重なるストレスというものを発散させるために選んだのは、本だった。元々両親が大の本好きで、広い家には何万冊という本が収納されている……らしい。誰も数えたことがないので、詳しい数は知らないがな。
目の前にある沢山の本。字ばかりで挿絵も難しい漢字にふり仮名もない分厚い大人の本。漫画しか読まないと宣言している妹は見ただけで嫌そうな顔をする。
私はこの本の中にはどんな物語が書かれているのか、楽しみで仕方ないけどな。姉妹なのに大きな違いだろう。私と妹は正反対の性格をしているらしい。まあ、それは追々機会があれば話すとしよう。

今日は私の話で勘弁いただきたい。……いや、私の好きな本の話で、だったな。
本に囲まれて育った私は自然と本の世界に惹かれのめり込み、やがて自分でも物語を書くようになっていった、冒頭部分で書かれている物語はその一部だ。

将来は立派な青龍院の跡継ぎに、青龍院の人間として恥の無いようにと育ててくれた両親には悪いが、今の私の将来の夢は小説家。このまま文学の道を究めるみたいと思っている。だって青龍院には、私なんかよりも立派で優秀な跡継ぎ候補がいるのだから……な。

「ふう……」ともう一度、息をついたところで休憩は終わりだ。
腕にスマホの画面を見れば時刻は17時30分。完全下校時間が18時だから、まだ30分は余裕があるな。ではあと30分だけ……書こうとシャープペンシルを握り直した時だった、あの五月蠅い悪魔共が私の根城を汚しにやって来たのは、

「なにここ、りっちゃんっカビクサッ!?」

「ちょっと千代紙さんっ、図書室ではお静かに!!」

注意している貴様の声が一番五月蠅い。
大和撫子とでもいうのか艶やかな黒髪を伸ばし四角い眼鏡をかけた委員長タイプの女と、阿呆を絵に描いたような顔な橙色の伸ばした髪を2つにわけて結んでいる女、2名が私の根城に侵入してきたようだ。
……なんの用があって? ここは一般的生徒の……立入禁止ではないが、先生でも滅多に近寄らない場所だぞ。

その二十四「図書室の主」 ( No.88 )
日時: 2017/10/24 14:54
名前: 雪姫 ◆kmgumM9Zro (ID: dpACesQW)

女2名は私がエリア中央付近に位置する長机が均等的に並べられたスぺース……自習スペースとでもいうのか、そこから見られていることもつい知らず奥の方へと入って行く。
別に興味などなかったが、今度書く話のネタにでもなりそうだったので観察してみることにしてみた。……委員長タイプの女と阿呆女、組み合わせとしては面白くもない――事件の香りがする。推理小説はかなり好きなジャンルだ。

「はぁ。なんでよりによって千代紙さんなんかと……」

1人大きくため息をつく委員長。

「世界史の授業で2人1組に分かれて、何でもいいからひとつテーマを決めて2週間後にみんなの前で発表するという内容で、どーしてアホの千代紙さんなんかと……組まなけれならなくなったのですか……とほほ」

委員長タイプはこちらが狙う狙わないに拘わらず、勝手に本人自ら説明してくれるから手間が省けて大いに助からる。委員長はその後も、1人で淡々と語る。

「先生が要したくじ引きで決めた組み合わせ。
 箱の中に入れた紙を引いて、書かれていた番号が同じだった人同士で組むだけのこと」

よくあるグループ分け方法だな。つまらない。そこの話は大いにつまらないな。省いてもいいぞ。

「――だったのにっ、きっと、いえたぶん、絶対に私が引いたあの紙は最藤くんと同じ数字が書かれていた、はず! そこに間違いはなかったのです! おばあちゃんの名にかけて!」

……急に声を荒げてきたな、図書室では静かに願いたいものなのだけど。あと何故自身の主張が間違いでないことを主張するために祖母の名を出してくる? 関係ないだろう、今は。

「なのにーーーーあのアホォォォォォ」

悔しそうな顔して歯を噛みしめ阿呆女を震える拳を押さえ見つめる委員長は手振り見振りでその時の出来事を再現する。本当に良く出来た委員長だ。

「最藤くんと同じ班になれますようにって近所にある神社にお百度参りしたんだからきっと大丈夫よ」

これはクジを引くときのシーンの再現か。……近所にある神社か。この近辺にある神社はみな勉学の神ばかりなのだが、そこらへんは気にしなかったのか。いやそもそも勉学の神に恋愛成就を祈ったところで効果はあったのか。
私の頭の中では色々な考えが巡っていたが……まあそんなことは委員長には関係ない話だ。気にせず、私が見ている事なんで知りもせず、委員長は再現を続ける。

「おばあちゃんがくじ引き必勝法は手に当たった紙を取ること! と、言っていたから私もそうしました」

諸説あるけど、な。

「取った紙は折れ曲がっていたので良く見えなかったですが……きっとあれは最藤くんと同じ3だったはずでした。間違いありません」

随分とまあ自信満々な話だ。

「なのに!! 千代紙さんが後ろからぶつかって来るからっ!!」

つまりはこうゆうことか。その最藤とかいう意中の男子と同じ組になれるかもしれなかったのに、阿呆女に邪魔され引いた紙は他の者手に渡り、もう一度くじ引きをする羽目になり、その結果が今に至ると、そうゆうことか?
「ウキャー」と猿山にいる猿のように喚き散らす委員長。五月蠅い眼鏡猿だ。いい加減黙らせるか。何故女達が私の根城に侵入して来た理由は分かった。もう良い、これ以上私の根城を汚されるのは好まない、ご退場願おうか、委員長と阿呆女2人まとめて――待て。
私はここで初めて自分の愚かさに気がつかされた。
ずっと私は委員長の1人芝居を見ていた。今後書く物語に活かせるかもしれないからと、観察していたのだ委員長の1人芝居を、だ。

「阿呆女は何処に――「ねぇーねぇー、古城のお姫様はこの後、どーなるの♪」貴様ッ」

遅かった。気が付いた時には、振り返った時には、もう遅かった。
いつの間に私の背後を取っていた、阿呆女は分厚い本で作った山の中に隠していたはずの薄っぺらいノートをペラペラめくり中に書かれている、創作の物語を読んでいたのだ。
大きな瞳の中にある星を輝かせ、それはまるで初めて物語を読んだ幼子のような無邪気な瞳。

「千代紙さんっ、貴方どこに……あら? 先客がいたのですね」

ちっ。委員長まで集まって来た。しかも阿呆女が「見てみてー、りっちゃんっ」と委員長にもノートの中身を見せている。
委員長はノートの中身を真剣な眼差しで見つめ、全て読み終わったのだろうノートを閉じ真っ直な瞳で私を見つめ

「貴方、生徒会に興味ない?」

「……は?」

見られたという恥ずかしさと、苛立ちで、怒りの火山が噴火寸前だった、投げかけられた一言「生徒会に興味がないか」だと? そんなのっ!!

「あるわけないだろ!それは私の小説だッ! 見るなッ! 返せッ!」

「ぁ」

私は委員長からノートを奪い返した。無理やり奪い取ったせいで、ノートが少し破れてしまったではないか……また新しいのを買わないと……。

「あー!! 思い出した!!」

「ッ。今度はなんだっ」

突然大きな声を上げた、阿呆女を睨み付ける。だがそんなのはこの女に全くといっていいほどに効果はないようだ。女は私に構わずあのクラスのうざい女共みたいに抱き付き、

「温泉旅行の時に出会った観光客の人だよー♪」

「はぁ? なにをッ言って! 放せ馬鹿!!」

「ゴフゥゥゥゥウウ!!!!」「---------ッ!!?」

抱き付いてきた阿呆女を必殺右ストレートで殴り飛ばし、その場から逃げ出した。
……あ。よく考えたら、後からやって来たのは阿呆女と委員長なのだから何故私の方が出て行かねばならなかったのだ?
ちっ。そう考えるとよけいに腹立たしい……。

「生徒会に興味があるか……か」

あの委員長が言っていた言葉を思い出し口に出してみた。
生徒会なんぞにこれっぽっちも興味などない。むしろ壊滅すればいい。あんな組織。

「――だが今後の創作活動に役に立つネタが入るかもしれない」

あの女2名に復讐できるチャンスが得られるというのなら考えてみる価値はあるかもしれない。
少しだけ真剣に考えてみるか、どうかを考えてみるか。
校門を出たところで全員強制下校するようにとのアナウンスが校内に流れているのが聞こえた、空が紅く染まった夕暮れの出来事。


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