コメディ・ライト小説(新)

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純度100%
日時: 2018/07/29 22:31
名前: 片岡彗 (ID: hevWx4Os)

*プロローグ*
言いたい。言いたい。言ってしまいたい。
駄目だって、そんなこと分かってる。分かってますよ。
でもこのままじゃ先生と生徒っていう脆い関係で終わって、会えなくなってしまう。
そんなの嫌だ。嫌、なのに…。
何も出来ない自分がもどかしい。
話し掛けられるだけで、頼られるだけでこんなに胸が高鳴って、嬉しくて堪らなくなるのに、遠い。
だって先生は私の担任でもなければ、部活の顧問でもない。
私との接点なんて、社会の授業だけ。
ねぇ…先生…?私………。



~簡単な内容紹介~
ちょっと変態的思考の女子中学生が、これまた少し変な先生に恋をするラブストーリーです。
甘さと苦さの対比は4:6くらい。
前半は苦さ多めです。
後半は、甘くなるように頑張ります。
亜希→→→→→→→(←?)前山先生
↑こういう関係図です。





~主な人物紹介~
櫻木亜希さくらぎあき
先生に不毛な恋をする中学3年生。
二次元の女の子をこよなく愛する。
ときどき、周りをドン引かせるような、変態発言をする。

前山貴文まえやまたかふみ
社会教諭。基本的に何考えてるのかよくわからない。
優しいのにどこか残念で、独身を拗らせている。恐らく一生結婚できない。

桧山侑美ひやまゆみ
亜希の親友。優しく、亜希の恋の唯一の理解者で、謎なほどに協力的。
天然。ときどき、裏の顔を覗かせる。




感想を大募集中です!
いいな、と思ったところはもちろん、厳しいお言葉も欲しいです。
厚かましいお願いではありますが、よろしくお願いします!

Re: 純度100% ( No.5 )
日時: 2018/06/17 22:36
名前: 片岡彗 (ID: hevWx4Os)

青様へ

わざわざありがとう。
感動で、目から水が……あ、出てないわ(笑)
でも、本当嬉しいです。水出てないのが不思議なくらい。
青ちゃまの言葉を力に頑張りまする。

Re: 純度100% ( No.6 )
日時: 2019/06/14 23:31
名前: 片岡彗 (ID: hevWx4Os)

トボトボトボ……
実際擬音にするとそんな感じの雰囲気で、私は靴箱から職員室までの道を歩いていた。
「(…憂鬱だ。)」
遅刻時間実に2分。
2分ですよ?たったの2分て。
受験控えてる時期に遅刻とか、怒られるに決まってる。
でも、たったの2分で怒られるとか何か腑に落ちなくないですか?
自業自得だから文句とか言える立場にないけど!
「はぁー…」
口から大袈裟なほどのため息。
うちの学校は、少しでも遅刻をしたら職員室に『入室許可書』なるものをもらいにいかなければならないのだ。
要は、今からいろんな先生が居るなかで遅刻宣言をする、ということ。何故自ら心臓を擦り切りにいかねばならんのか。
できるだけ、のんびりのんびり歩いてその時を引き伸ばしてみるが、不思議なことにこういう気持ちのときほど職員室と靴箱が異様に近く感じてしまうのだ。距離的には全く変わってないのだが。
閉まりきった職員室の扉を見つめ、取り敢えず心を落ち着けるために深呼吸。
………ヤバい。今まで遅刻したことなかったから知らなかったけど、こんなに緊張するものなのか。
「(遅刻常習犯の人とか一体どんな神経してるんだよ。もっとその勇気を別のところに使おう?ね?君のその勇気はきっと世界に大きく貢献できると思うなー?)」
私は何故か、気付けば知らない人を心の中で説得していた。…断じて頭がおかしくなったとかではない。
ただただひたすらに、このドアを開けることが怖くて怖くて堪らないだけなのだ。
そうこうしてるうちに職員室の前で5分以上が経とうとしていた。
ドアにも手をかけているのだが、それを横にスライドする勇気がどうしても出ない。
というか、その前にノックしなきゃいけないのか。
不安とか緊張とかで頭ぐっちゃぐちゃで礼儀として当たり前のことも頭から抜け落ちてしまっている。
「(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい………)」
背中に嫌な汗が流れ落ちる。
このままじゃ本当に教室にたどり着けない。
ならばいっそ開き直って帰ってやろうか。そうだよ。体調不良で休むなら怒られることは無いわけで。
そんな最終手段が頭をよぎった、その時だった。
「………ええっと。5分以上もそこで何してる?」
ドキーー……
急に話しかけられて驚きで跳ねる心臓。
でも…助かった!この人に遅刻のことを言えば取り敢えず公開処刑は免れる!
そんな淡い期待を胸に抱いて振り返った。
「……!な…何であなたがここにいるんですか……。」
絶望。私の目の前にいたのは、今一番会いたいような会いたくないような人だった。
「いや、何でって。ここ俺の職場だし。て言うか、その言葉そっくりそのまま櫻木さんに返すけど。」
ごもっともな言葉に私はうっと言葉をつまらせる。
確かに、今はホームルームの時間だ。教師がここにいても、生徒がここにいることはまずない。
すると先生はするりと私の手元に視線を移し、ほのかに微笑を浮かべた。
「な…何ですか…?」
私は先生に訝しげな視線を向ける。
「遅刻か。」
ギクッッッッッ
一番バレたくなかった人…前山先生に見事に図星を突かれた。
こんなことならまだ公開処刑の方がマシだった!神様が本当にいるなら至極意地悪だと思う。
そして、バレたくない一心で馬鹿なことに私は口から出任せを言った。どうせバレるのに。
「そ…そんなわけないじゃないですかー…」
あ、駄目だわこれ。動揺丸わかりだ。イントネーションもおかしかったし。
絶対終わった…恥ずかしい、と自己嫌悪に陥っていると。
「あっそう。」
えっっ…。
し…信じたの?あれで?
こんなの信じるとか逆に詐欺とかに引っ掛からないのか心配になるレベルだけど…。
あまりの驚きで私の口はポカーンと間抜けにも空いたままになる。
「じゃあ、これはなんだ?」
不意に先生はそういって私の右手を取って少し上に掲げた。
「うぇ!?」
思わず漏れた意味不明な声。
な…何!?
動揺する私をよそに、先生はニヤっ…と不適に笑って私の手が持っているものをもう片方の手で指差す。
それは…スクールバックだった。
これが私が遅刻したという事実をしっかり物語っていた。
う…うう…別に…!全く!断じて!ドキッとしたとかそんなことはない!あったとしても認めたくない!
でもそんな思いとは裏腹に顔にじわじわと熱が集まって赤くなっていることが鏡を見なくたって分かる。
こんな顔、見られるわけにはいかない。何か…何か言って誤魔化さねば!
「…せ………」
やっと口を開いた私に、先生は『どうだ。観念したか。』という顔でこちらを見ながら「ん?」と聞き返してきた。
「…せ…っセクハラ…ですよ!」
先生に捕まれていた手を強引に振りほどき、せめてもの抵抗にキッと先生を睨み付ける。
「セクハラって。」
先生はわざとらしく傷ついた顔をして肩をすくめてみせた。
「腕掴んだ位でセクハラって言ってたらやっていけんと思うけど。」
それはそうですけど!分かってますよ!?それぐらい!!
でも、語彙力が全くない私にはこれくらいしか言うことなかったんですよ!
ぐぬぬぬぬ……と先生を下から憎らしそうにじっと見つめていると。
「はあー…もう認めたらいいのに。早く言えって。俺にでいいから。『遅刻しました』って。今さら隠したってしょうがないないだろ。」
これは…私が言いやすくなるような環境を作ってくれているのだろうか。
やっぱり何だかんだこの人は、優しい…のだろうか。まぁ、そんなことは今は置いておこう。
取り敢えずこのチャンスを逃したらもう次はないだろう。私は一つ大きく息をすって,
「……………ち……………………ち………………………ち…こく……し…ました。」
何とか言えてホッとしたのも束の間、先生から驚きの言葉が出てきた。
「何で?」
………は?
「な…何でとは?」
「いや、普通遅刻した場合その理由言うだろ。」
なるほど、そういうことね。
それなら…ん?私なんで遅刻したんだっけ?
寝坊…じゃない。いつも通りの時間に起きた。なら何故。
ああ、そうだ。先生のこと考えてて、学校いきたくないなー…って思ってたら、侑美ちゃんが来てなんやらかんやらで遅刻したんだった。
でもこれって何て説明するべきなんだろう?
『先生のこと考えてたら、時間忘れちゃって。』
いやいやいや。ないないない。これは恥ずかしすぎる。
『別に先生に関係ないじゃないですか。』
いや。あるし。関係あるし。これもない。却下。
『先生といると胸がドキドキして、切なくなって、嫌になるんです。
何で生徒なんだろう。何で先生が先生なんだろうって考えちゃうんです。
…辛いんです。だから学校いきたくなくて……。』
これは一番ない。我ながら気持ち悪すぎる。
一番最初のより直接的な言い方になってるし。
て言うか私!脳みその中だけとはいえなに言ってるんだ!
誰も聞いてないけど、穴があったら入りたいレベルに恥ずかしい!!
そんなことを考えながら、答えも見つからないまま途方に暮れていると。
「何を悩むことがある?遅刻した理由正直に言ったらいいだけじゃん。」
いや!だから!!正直に言えないから困ってるんですよ!言ったら爆発する!!
「寝坊じゃないのか?」
そう、静かに問われた。
「いや、寝坊なら躊躇わずにさっさと言って早く解放してもらいますよ。」
後から思えば、ここで『はいそうです。』と答えなかった自分が謎過ぎる。
「寝坊じゃないなら何で遅刻したんだ?」
間髪いれずそう問われる。いや、話聞いてました?
言うの躊躇ってるんですから、私の気持ちも汲み取ってくださいよ。
言いたくないんですよ!でも、教師として聞く義務あるんだろうし、何より何か言わないと、変に思われてしまう……。
「え…えっとですね。あの~…それは~…あれですよ…」
…むしろ怪しくなってしまった。あれってどれだよ!
自分で自分に嫌気がさした。
…何故。私はこんなに馬鹿なんだ。
とうとう壁に頭を打ち付けたい衝動にかられた時。
「…ッハハ」
へ?
なんか今笑い声が聞こえたような。
え…もしかして私とうとう無意識のうちに笑ってしまうほど頭が狂ったのか。
ヤバいな。
え、待って、だとしたら今の笑い声、先生にも聞こえたんじゃ…。
最悪のケースが頭をよぎって、恐る恐る斜め上を見上げた。
「え?」
そこには笑っている先生がいた。
「ハハッ」っと声をあげて笑っている。
ああ、さっきのは私が無意識に笑ったんじゃなくて、先生が笑ってたんだ。良かった。一瞬本気で精神科にいこうかと思ったよ。内心かなり安心しつつ、それと共にその事実に頭を傾げた。

Re: 純度100% ( No.7 )
日時: 2018/06/18 00:48
名前: 片岡彗 (ID: hevWx4Os)

「あの~…何で笑ってるんですか…?」
先生の顔色を伺いつつ尋ねる。
「いや、現実で実際に『あの~…その~…』とか意味分からない指事語だけを連呼してる人はじめて見たなーって。」
ああ~…成る程。
それは私も思いました。おかげで死ぬ覚悟さえしました。
「俺は遅刻した理由にそんなに言いにくいことなんか普通ないと思うし、何をそんなに渋ってるのかも気になるし、入室許可書に理由も記入しないといかんし。まあ、言ってみな。」
だ…だから!何回言えば(心の中でだが)分かるんですか!
か…軽く言える内容じゃ無いんですよ!
私は、心の中で先生に八つ当たりする。
先生の目は好奇心を孕んでいるように見えた。
そんなの、面白いことが大好きな先生なんだからいつものことなのに、少しムッとする自分がいる。
分かってる。分かってますよ。先生は何も知らない。だから仕方ない。
そうは理解していても、それとこれとは話が別で。
私にも気持ちがある。
決意がある。
この想いは、ちゃんと墓場まで持っていくつもりですよ。
それでも、人の気も知らないで_なんて、自分勝手だけど思っちゃうこともありますよ。
だけど、何か言わないとこの場は収められない訳で。
でも、困ったことに私は嘘を吐けないタイプだから、適当なことを言っても一瞬でバレるだろう。
じゃあどうするべきか…
「いいから、もう早く言えって。」
黙ったままピクリとも動かない私に、先生はしびれを切らしたように先を促してくる。
その瞳は優しくて、何を言っても受け入れてくれる、そんな錯覚に陥る。
そんなことあるわけないのに。
取り敢えず、取り敢えず何か言わなきゃ…
「今日もまた前山先生の授業があると思ったら、憂鬱で憂鬱でたまらなくて、気づいたら遅刻する時間になってたんです!」
……………………………おい。今、私何て言った…?
『先生の授業があると思ったら憂鬱で憂鬱でたまらなくて』とか言わなかった…?
ま…まあ事実は事実だけど…これは感じ悪すぎる。いくらなんでも。
『何か言わなきゃ…』で出てきた言葉がこれって…。
それに、事実なのには間違いないけど、これではあまりにも意味が悪い方に変わりすぎている。
さ…最低だ……私…。
違うって、違うって早く否定しないと。言っていいことと悪いことはあるんだから。
謝って、間違ったって、言わないと…。
でも、謝って…謝ってどうするの?
なんて、説明するの?
答えがでないままに何も言えなくなってしまった私に、先生は驚きの言葉を落とした。
「なんだ。そんなことか。」
え…?
そ…そんなこと?どんなこと?そんなことだよ。
え?そんなことって…?ダメだ。何考えてるのか分からなくなってきた。
だって全然『そんなこと』って言う内容じゃなかったよね?
表情的に言葉の意味は悪い方に伝わっているようだし……。
完全に謝るタイミングを失ってしまった私は、罪悪感にさいなまれながら俯いた。
私と先生の間にしばしの沈黙が流れる。
私は不安と恐怖で押しつぶれそうで、沈黙がしんどくて、重い口を開いた。
「……あ…あの…。お…お…怒らないんですか?」
私が先に声を発したからか、先生は少し驚いた顔でこちらを見つめる。
「怒られたいのか?」
「っえ。いや。全くもってそういうので言ったんじゃありません。私、マゾじゃないので。」
先生のいつも通りの冗談じみた質問に少しだけ安心する。どうやら怒ってはないようだ。
「別に怒ってはない。誰にだって嫌な授業の一つや二つあるだろ。」
怒らなかったことに安堵はしたものの、それと同時に、"嫌な"という言葉に胸がズキリと痛む。
自分が言ったことで先生を勘違いさせたのだ。あんなことを言ったのだ。至極当たり前のこと。
でも、私はそれを訂正することさえできない。
それなのに、先生に、私が先生のことを嫌いだと勘違いされるのは、悲しい。
違います…そんな想いは喉までは上がってくるのに、声としては表せられない。
言えない。言えるわけない。
でも、勘違いされたままは苦しくて、つらい。
私は…好きだとはバレたくないけど、嫌いだと思われるのも嫌なのだ。
そんなの…虫がよすぎるって分かってる。
こんな自分が情けない。
結局何も言えなくて、自嘲して終わってしまう私。
「取り敢えず、もうそろそろ授業始まるし、教室に行きな。」
先生のその言葉に、私は反射的に時計を見た。
時計は8:20を指していた。
もうこんな時間なのか。私は、自分の思いに蓋をして、そっと頭を下げた。
「はい。お手数お掛けして本当にすいませんでした。じゃあ、私はお先に失礼します。」
それだけ言うと私はすぐに振り返って逃げるように走り出した。
ああ、なんで。こんなことなら簡単に謝れるのに、肝心なことは何もできないのだろう。
廊下は走っちゃいけないとか、そんなことに気を遣っている余裕今の私にはない。
奥の方から何かが込み上げてきて、涙が出そうだった。
そんな権利なんて、私にはないのに。
泣くものか、と唇を血が滲むほど強く噛んだ。
もう先生とはしゃべられなくなるだろうな、なんて今の私にはそんなことしか考えられなかった。
「(私ってどこまで自分本位なんだろう…。)」
苦さと醜さでくらくらして、いっそのこと壊れてしまいたかった。





_この時の私は予想もしていなかった。このあと、私と先生の関係が180度大きく変わることになるなんて。

Re: 純度100% ( No.8 )
日時: 2018/06/18 23:18
名前: 片岡彗 (ID: hevWx4Os)

*第3話・新手の復讐でしょうか…?*
キーンコーンカーンコーン…
学校と言う施設のなかでは、なんの変鉄もない無機質なメロディーが私の鼓膜を揺らす。
時計は午後4時30分を示していた。
私は今、明日からテストでもう普通なら帰っていないといけない時間に山積みのノートを見つめ、安堵の声を漏らしていた。
「お…終わった~…!!」
日直という名の一日雑務係のせいで、私は今の今まで提出物の社会のノートの点検をして出席番号順にならべるという単純なようで、めんどくさい作業に追われていた。
しかも今からこれを職員室に持っていかなければならない。
恨めしそうにノートを睨み付けてみるが、そんなことでノートがひとりでに動いて職員室まで行ってくれる訳なんてなく。
「めんどくさい。たいそい。もういや。帰りたい。私明日テストなんですけど。」
誰かに届けたいわけではない。
ただ、これくらい言っておかないとストレスで帰ってから爆発しそうだった。
でも考え方を変えればこれで帰られるのだ。
よし!と、自分に気合いをいれて、ノートを下からすくいとるように持ち上げる。
「…お…重っっ!!」
ズシッと私の腕にノートの重みが伝わる。予想以上の重さに一瞬よろけたが、落としてしまうともう一度並び替えなければならなくなるので、気合で踏ん張る。
そして、山を崩さないように一歩一歩慎重に足を踏み出した。
右…左…右…左…ゆっくりゆっくり歩みを進める。
幸い、三年生の教室は一階なので階段を通らず職員室に行くことができる。
珍しく誰の声も物音も聞こえない、恐ろしいほどにシーン…と静まり返っている廊下を歩きながら、私は4時間目…こんな雑用を押し付けられた原因でもある社会の授業の時のことを思い出していた。

Re: 純度100% ( No.9 )
日時: 2018/06/19 00:41
名前: 片岡彗 (ID: hevWx4Os)

「始めます。」
いつも通りの少し低い先生の声から授業は始まった。私は今朝のこともあって、ドキドキ…というか、ヒヤヒヤしていた。
「(朝は怒ってないって言ってたけど、やっぱり怖い……。)」
背中に冷たい汗が流れていって、先生の顔をまともに見ることもできず、取り敢えずノートと教科書を開いて俯く。
「…それで、衆議院の人間が真面目に働かない場合などには衆議院解散を行うことができます。この衆議院解散というのは…」
………良かった。いつも通り普通に授業が進んでいるようだ。
まぁ、それもそうか。根が真面目な先生だから、今日の朝の一件で、態度が変わるなんてことはやっぱり考えにくいし。
安堵しつつ、そっと顔をあげると先生は黒板に何かを熱心に書いていた。
「(『弾劾裁判』?『司法』?何それ?)」
自分で言うのも何だが、私は勉強はどちらかと言えばできる方だ。
それでも、この『公民』なるものとは何故か分かり合えない。…漢字の羅列ばっかりだし。
だが、できないの理由はもっと別のところにある。
……授業を聞いていないのだ。否、正確に言えば、聞けないのだ。
恋は盲目とはまさにこの事で、気付いたら先生のことをひたすらに見つめていて、授業が終わっている、なんてことがときどきあるのだ。
大体は、ノートを録ることに集中することで何とか乗り切っているのだけれど。最早、病気だ。
そうこうしている内にも、よくわからない単語を書いては説明している先生。
私はというと、やっぱり理解しがたくて、首を捻ることしかできない。
日本語…ですよね?という感じ。
でも分からないままだとテストで困るので取り敢えずノートに写して、暗記する。それしかない。
あんまり悪い点とりたくないし…。すでに何度かとってるから手遅れな感じもするけど…。
ようやくノートを写し終わって先生に瞳を向けたとき、先生は男子に何かを質問していた。
男子はというと首を捻って「うーん……」と考えに耽っている。
一体なんの質問をされたのだろうか。まあいい。私には関係ないし。と、そっと窓の外に視線を移した。
「(あ…雨降りそう……。傘忘れた……最悪。)」
なんて、本当に良い点とる気があるのか疑いたくなるほど全く関係ないことを考えていた。
だから、バチが当たったんだと思う。
「あー…じゃあいいや。今日は23日だから、出席番号23番の人に答えてもらおう。23番って誰?」
唐突に変わったターゲット。
「(うわー…悲惨。23番って誰だろ?取り敢えず、私じゃなくて良かっ…ん?私って、何番だったっけ……?)」
嫌な予感がしてノートの表紙を見る。
そこには紛れもなく23という数字がかかれていて…そうだった。私23番なんだった。
最悪だ…何質問されたかも分からないのに…。
朝の発言+話も聞いてないとか、悪印象どころか、救いようもない。
近い未来の地獄絵図が容易に想像できて、サーっと血の気が引く。
「(怖い…怖すぎる…。)」
でも、何もしないわけにもいかないし…。
私は覚悟を決めて、少しカタカタと震えながら恐る恐る右手をあげた。
「…わ…私…です。」
ドキドキドキドキ……
痛いくらいに心臓が鳴る。
今朝のことがあったのにこんなことって。
前山先生に何か言われたら、私、ショックすぎて多分生きていけない…。
伺うように前を見ると、流石に先生も少し驚いた顔をしてこちらを見つめていた。
でもすぐにいつもの無表情に戻って尋ねてきた。
「じゃあ、もし櫻木さんが何でも法律を作れるとしたらどんな法律を作る?」
……………………………。
まず最初にひとつ。何でそんな話になったんですか。
聞いてない私が悪いのだけど、その過程が私的には一番気になる。
その次に、この質問は将来の役に立つのか、何を意図して聞いているのか。
そこまで深く考えて、「そんなことどうでも良いか」に結局行き着いた。
どうせいつもの先生が大好きな雑談だ。大して大きな意味はないのだろう。
何か適当に言っておいて、この状況はさっさと終わらせるべきだと判断した。
「ええっと………。」
とはいえ。適当と言ってもなんと言うべきか。
今まで微塵も考えたことない議題を挙げられてパッと答えられるほど私の頭の回転は早くない。
んー…と数十秒考えて出た答え。でもこれ、言っても良いものなのだろうか。
チラリと先生を見てみれば、「早く。」と言っているような気がした。あくまで気、だけど。
「に……………お………………と…………け……………で……………ます。」
「え?ごめん。もう少し大きい声で言って。」
あぁ、もう少し私の適応能力が高ければ、もっとまともな答えが出たろうに…なんて、どうしようもないことを考えて。
もういいや、当たって砕けよう。
半ば投げやりに、私ははっきりこう言った。
「二次元の女の子と結婚できるようにします…かね。」
シーーーーーーーーン……………………
言った。
教室内は『え?』みたいな空気になってるけど言った。
内容は何であれ、しっかり答えた自分に称賛する。
そう。実は私は世に言うオタクと言うやつで、さらにその中でも女の子をこよなく愛するちょっと(というかかなり)珍しい人種だったりする。
「……………………ごめん。ちょっと意味がよく…………」
先生のこんな苦々しい顔、始めて見たかもしれない。
でも、その事に気付いていないフリをして続ける。
「だから、私は二次元の推しキャラの子と婚姻届という名の書類で結婚という契約を交わしたいんです。」
やっと口を開いた先生にそう断言する。もうここまで言ってしまったら止まらない。
「あ、でも誤解しないでくださいね?一緒に住みたいとかそんな不可能かつおこがましいことは考えてません。
だって二次元の女の子は二次元にいるからこそ輝けるのですから。だから実際の結婚生活は想像で構いません。
私は、結婚という夢だけは叶えげみたいんです!国家権力を使ってでも!!」
「ぶふっっっ‼」
男子はともかく、私がオタクだということを知っている人(クラスの女子全員)は一斉に吹き出した。
「何それ~!亜希ちゃん面白すぎ~!!」
私の回答に対しての歓声(?)が上がる。
いや…別に面白いことなんて言ったつもりはないのだけど。
男子は男子で冗談と捉えたらしく、失笑を浮かべている。
冗談と思っても失笑って。なかなか酷い。
教室内がよくわからない盛り上がりを見せたとき。
「ええっっー…………と…………じゃあ、二次元の女子と結婚できる法律を作りたいと…?櫻木さんは。」
「はい、そうですね。」
私があまりにもはっきりと断言したせいか、先生が『えー………』というなんとも言えない目で私を凝視する。
「………………………………。」
「………………………………。」
「………………………………。」
「………………………………。」
さっきの盛り上がりからは一変、教室に静寂が訪れる。
皆私と先生の二人に注目しているようだ。
お互いを見つめあったまま30秒。
………………………………………………………。
ぎ…ギブアップ………!!
流石に恥ずかしくて、顔が熱くて、私が先に目をそらす。
「………………………………。」
何か言った方がいいのか。でも何を言えば…。考えてはみるけれど、良い案は浮かばなくて。
「…………分かった。まあいいや。座れ。」
先に口を開いたのは先生だった。
良かった。やっと解放された。席についてほっと一息。
特に何も言われなかったことと、普通に会話ができたことで、胸が安堵と嬉しさで一杯になる。
それと同時に、また私の中の先生の存在の大きさを実感して。
放課後ぐらいに…朝のこと謝りに行こうか、やっぱり前山先生と喋られなくなるなんて堪えられないし、それに、何より先生を傷付けたんじゃないかって申し訳ないし…、そんな風に考えていたときだった。
「……………………第19条」
唐突に先生が皆に聞こえるように声を出したのは。
じゅ……19条………?
「思想及び良心の自由 思想及び良心の自由はこれを侵してはならない。」
先生のいきなりな言葉に皆が首をかしげる。と同時に先生と目があって……
「皆知ってると思うけど、こういう法律もあるから、どんな思想とか宗教とか持ってても個人の自由だからな。偏見とかはするなよ。たとえ『二次元の女子と結婚したい!』って言うやつがいたとしてもな。」
確かにこう言った。
…んん?これって私のこと…だよね。
ひ…酷い……。え、もしかして朝のこと本当はすごく怒っているとか?新手の復讐ですか…?
何にせよ、これは恥ずかしい。確かに私、結構すごいこと言ったけど!自分の蒔いた種だけど!
羞恥心は私にだってあるわけで。
しかも微妙に勉強と結びつけるのが流石というかなんというか。
皆笑ってるし!こんなに笑ったら皆19条間違いなく覚えるだろうよ!!
効率的な勉強方法だけどやめて!穴があったら入りたいっ……!!
恐らく真っ赤であろう顔を手で隠しながら前を見れば、そこには心底楽しそうに笑う悪魔がいた。


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