コメディ・ライト小説(新)

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☆星の子☆  番外編更新 (2/1)
日時: 2021/02/01 12:58
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3t44M6Cd)

閲覧ありがとうございます^^
はじめまして、またはお久しぶりです。朱雀です。この度執筆活動復帰しました(2019/10/14)。
初めての小説投稿で未熟な部分がありますが、楽しんで読んで頂けると幸いです<(_ _)>
アドバイスや感想などもお待ちしております。
ファンタジー要素満載なラブコメディです。後半からシリアス要素あります。

星の子のキャラ絵を担当して下さっているPANDA。さんがキャラ絵専用ページを作ってくださいました^^


※只今初期のお話を修正中ですので、一人称だったり三人称だったりします。ご了承ください。


>>1 登場人物紹介 (ⅰ) 主人公、部員、クラスメイト、Gトップチーム
>>2 登場人物紹介 (ⅱ) 反乱軍、政府軍

「まとめ」1>>45 〜まとめてみました。
「まとめ」2>>59 〜輝さん(空の義父)の話を簡潔にまとめてみました。



∞1幕∞

1章:1話ー>>3 2話ー>>4 3話ー>>5 4話ー>>9 5話ー>>12  6話ー>>13  7話ー>>15  8話ー>>18  9話ー>>19  
2章:10話ー>>22 11話ー>>23  12話ー>>26 13話ー>>31 14話ー>>32 15話ー>>35 16話ー>>36 17話ー>>40 18話ー>>42 19話ー>>44
3章:20話ー>>49 21話ー>>52 22話ー>>56
4章:23話ー>>60 24話ー>>61 25話ー>>64 26話ー>>65 27話ー>>66 28話ー>>67 29話ー>>70 30話ー>>72 31話ー>>80 32話ー>>83
5章:33話ー>>85 34話ー>>90  35話ー>>93 36話ー>>96 37話ー>>97 38話ー>>103 39話ー>>107 40話ー>>114 41話ー>>119
6章:42話ー>>123 43話ー>>132 44話ー>>135 45話ー>>143 46話ー>>148
7章:47話ー>>153 48話ー>>158 49話ー>>163 50話ー>>167 51話ー>>175 52話ー>>191 53話ー>>192 54話ー>>199 55話ー>>202 56話ー>>209 57話ー>>212 58話ー>>214 59話ー>>216
8章:60話ー>>223 61話ー>>237 62話ー>>239 63話ー>>245 64話ー>>252 65話ー>>255 66話ー>>260
9章:67話ー>>275-276 68話ー>>291-292 69話ー>>301
10章:70話ー>>325 71話ー>>328 72話ー>>333 73話ー>>343 74話−>>363-364

∞2幕∞

11章:75話ー>>366 76話ー>>374-375 77話ー>>378 78話ー>>387-388 79話ー>>398-399  80話ー>>403
12章:81話ー>>419 82話ー>>422 83話ー>>426-427 84話ー>>434 85話ー>>436-437 86話ー>>440-441
『戦争』
13章:87話ー>>445-446 88話ー>>452 89話ー>>460 90話ー>>461-46 91話ー>>466-46
14章:92話ー>>469 93話ー>>474-475 94話ー>>479-480 95話ー>>486-487 96話ー>>490-491
15章:97話ー>>498 98話ー>>501-502 99話ー>>505-506 100話ー>>510-511
16章:101話ー>>525-526 102話ー>>532-534 103話ー>>537 104話ー>>539 105話ー>>543-545 106話ー>>551
17章:107話ー>>555-556 108話ー>>566-567 109話―>>779-780 110話ー>>806-807 111話ー>>815 112話ー>>816-817
18章:113話ー>>821 114話ー>>822 115話ー>>825 116話ー>>826-827 117話ー>>831 118話ー>>832-833
19章:119話ー>>837 120話ー>>838 121話ー>>839




☆番外編☆

〜葵〜>>410-411

『100話突破記念 短編3本立て!』
 1「冥界」>>516
 2「科学者Xの休日」>>518
 3「星の子学園! Ep1」>>521

『バレンタイン企画!』 
 「少女と少年と約束」>>553-554

参照10万突破記念
「富士の山頂にて」 >>841


☆読者の皆様☆
*ちり様  *零十様(虎様)  *ボリーン様  *貴也様  *恋音様  *友桃様
*星ファン★様  *山口流様  *アスカ様  *青龍様  *PANDA。様
*。・*+みつき*+・。様  *風様  *ああ様  *宇莉様  *杏様  *王翔様
*あんず様  *朝倉疾風様  *ARMA3様(書き述べる様)  *黒田奏様
*日織様  *織原ひな様  *てるてる522様  *ひなた様   *ひょんくん様
*イレラ様 *美奈様

☆朱雀のオススメ!本紹介☆
第一回〜<秘密>>>222
第二回〜<トワイライト>>>250
第三回〜<灼眼のシャナ>>>281
第四回〜<妖界ナビルナ>>>329

☆キャラ人気投票結果発表☆
*第一回>>238
*第二回>>435

☆小説大会☆ 投票してくださった皆様、誠にありがとうございます<(_ _)>
2016年度夏  銅賞
2019年度冬  銀賞


スレッド作成日
2010.7.20

Re: ☆星の子☆  119話「建国神話」 ( No.837 )
日時: 2020/04/27 18:48
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

19章     119話「建国神話」


 遥か遠い昔の話。

 それは強大な力の塊だった。のちに人はそれを《神》と呼んだ。
 まっさらな地に生命の息吹がかかった。
 水を、緑を、動物を生んで育んだ。それらの運命は《神》の掌にあった。
 やがて一つの惑星に文明が出来上がった。
 《神》は考えた。一番素晴らしい国を創ろうと。
 それはままごとで遊ぶように造作もない。
 目まぐるしく発達する惑星。強く立派な国と、不思議な力を宿した赤子。
 《神》は産み落とす。変幻自在な光の。広大な暗い宇宙で光輝く星のように。
 《神》は銀河の海を見渡したい、隅々まで。

     ☆

 還元する。運命は循環する。
 魂は天へ、肉体は《神》へ。
 豊富な資源と聡慧そうけいな光の子。その惑星は煌びやかだった。
 それでも。それゆえに。
 力を得て富を得た民はより多くを求めた。
 《神》が創った自慢の国にたちまち戦火が広がる。

     ★

 眼が焼けるような赤だった。火の海だった。
 《神》は初めて、生んだ命を面倒だと感じた。
 《神》への崇敬を忘れ私欲に溺れた民を罰する。剥奪する。
 還元する。運命は循環する。
 狂い始めた歯車は戻らない。
 そして気付く。欲にまみれた哀れな命、それはどこからずるものか。
 全ては《神》のおごりだった。

     ☆

 排除する。うごめく闇を。くすぶる負の感情を。
 高慢を強欲を嫉妬を悲嘆を怠惰を憤怒を肉欲を憐憫を憎悪を恐怖を焦燥を侮蔑を空虚を絶望を。
 《神》は自身から摘出する。
 そうして器は作られた。不出来で不要な感情を閉じ込めた、およそ概念のような存在。
 豊かで正しい国を作り上げるための正当な犠牲だった。信じて疑わなかった。
 負の感情の掃き溜めとなる器が
 たとえ《神》の半身だったとしても。

     ★

 《神》は名付ける。
 国の名を『アステリア』。銀河の海で一層輝く星。
 神の名を《Holy Feather》。邪悪な心の一切を淘汰した聖なる光。
 奇しくも己の半身によって、悪の化身は封印される。
 その名は《Hollow Feather》。虚像として彷徨さまよい消失するはずだった闇。もう一つの神の名。
 
 還元する。
 運命は循環する。

Re: ☆星の子☆  120話「神の邂逅」 ( No.838 )
日時: 2020/07/08 20:11
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3t44M6Cd)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

19章     120話「神の邂逅」


空――

(いったい、なにが…………)

 視界がぐらぐらする。四肢に力が入らない。
 ムマと一緒に、最上階へ赴く光聖君の背中を見届ける時だった。空気中の密度が何倍にも膨れあがったかのように重く変質し、息苦しくなった。どこからか響く声の禍々しさに身体が硬直した。
 『アステリア』の再建。
 確か声はそう言って、それから……?

 私は倒れ込んでいた。眼を薄く開くと真っ白な光が飛び込んでくる。暗闇の中でずっと戦っていたために、その眩しさに慣れるには酷く時間がかかった。手探りで這わせた両手は虚空を掠める。

「うぅ……こ、光聖君? ムマ?」

 返事はなかった。ぞっと、胃に冷たい氷が滑り落ちたかのような恐怖と孤独に支配される。
 視界がようやく開けて私はよろよろと立ち上がった。身体を支えるため地につけた掌からは、冷たく硬い政府塔の床と打って変わりじんわりとした暖かさが伝わった。浜辺の砂を連想させる柔らかい感触に、少し心が落ち着く。
 光聖君と合流しないと。
 考えて顔を上げた私の瞳に映ったのは“白”だった。

「え、………………!?」

 見渡す限り何もない。
 吃驚して自分の両腕を持ち上げた。健康的な肌色と暗緑色の軍服。白く変貌を遂げたこの世界で私の身体は変化がない。なんとも奇妙な状況だが一旦胸を撫で下ろす。
 改めて周囲を見渡す。
 上下左右、やはり白く塗り潰された世界が広がっている。
 どうやって自分が足場のない空間で立っていられるのか全く不思議だった。
 そこでふと、政府塔へ近づくにつれて肥大していた胃の奥から込み上げるような不快感が綺麗さっぱりなくなっていることに気がつく。何気なく首にかかった紐を掴みペンダントを持ち上げた私は、言葉を失った。
 楕円形の装身具に埋め込まれた宝石から、鮮やかなあおの輝きが失われていたのだった。
 くすんだ石に、中から何かが飛び出てしまったような錯覚を抱く。

「……さっきまでの嫌な感じは、政府塔に国民の肉体だったものが不自然に集まっていたから。それを感じなくなったってことは、ここが政府塔……ううん、『アステリア』とは全然違うどこか別の世界、なのかな。問題が解決した、ってことはないよね……? それとも……ペンダントの力が、失われた?」

 一人呟いた言葉に返事はない。
 光を失った碧の宝石をよく観察する。このペンダントは、光聖君と同じ迷い星クズだったお父さんの形見だ。埋め込まれた宝石は先程まで、琥珀の彼のように心温まる優しい光を放っていた。
 胸の前でぎゅっとペンダントを握り締めると僅かに石から温もりが伝わり、微弱ながらくっと前方へ引っ張られた。白い世界に置き去りにされた私の、たった一つの道標みちしるべのように。
 微々たる動きだ。気のせいかもしれない。疲労からきた幻覚かも。

 ――それでも。
 確かに私の胸に希望が宿る。
 ペンダントが……お父さんが、導いてくれている。同じ気配を辿った先に、きっと光聖君がいる。

「私はまだこの国のこと、ほんのちょっとしか知らない。でもここはお父さんや光聖君の大切な生まれ故郷なの。
 どこの誰だか知らないけど……、『アステリア』の再建なんて……、世界を創り変えるなんて。そんな重要なこと、勝手に決めるなんておかしい!」

 一歩、力強く踏み出す。ふわりと体が持ち上がった。

「この戦争の――反乱軍のゴールは。『アステリア』の住民がみんな、幸せを獲得するためには。
 政府を正すだけじゃきっと解決しない。倒す相手はヒナさん達警官や政府じゃない。
 もっと大きな、強大な力そのものなんだね」

 まるで私の気持ちに同調するように軽くなった体は、白く広大な空間を一歩で数メートルも飛び越える。
 彼の元へ真っ直ぐ駆ける。


光聖――

 夢を見ていたのだろうか。
 輪郭が朧気おぼろげで、ぼんやりとした色彩だけ頭に残っている。僕は両の眼で青い海と緑の大地を眺めていた。きらきらした光の子。たちまち赤が燃え広がり、《誰か》は《誰か》を責め立てて。
 幽かな黒い影。
 
 悪性を詰め込んだ、《 僕 》の半身――――

『やはり来たか、ホーリーめ』

 ざらざらと掠れた声が聞こえ、どきりと体が硬直した――ような感覚がした。続いて心と裏腹に、恐れも躊躇もなく声が発せられた方へ目を向けた自分に奇妙な違和感を覚える。

(こ、こいつがH・F……いや、《ホロウ・フェザー》なのか……?)

 頭二個分低い位置にそれはいた。腰が折れ曲がった、黒い老人だった。まっ黒な肌に枝のように細い手足。ぎょろりと動く目玉は赤く充血している。すすけた灰色の布を身に纏ったそれは、頭を精一杯持ち上げてくすんだ黄色い瞳で僕を見上げていた。ひび割れた唇の端が不格好に持ち上がり、そこから真っ赤な舌が覗いて―――
 恐怖で喉が干上がり思わず後退あとずさろうとするが、適わなかった。この不気味な生命体 (と表現していいのだろうか?) から一刻も早く離れたいのに僕の体はてこでも動かない。そこで初めて、この体が僕のものでなくなっていることに気がつく。

(っ、今までで一番の恐怖体験中なのに、体が言うことをきかない……! どうすればいい!?)

 何者かに操られている感覚。
 さらには空やムマと政府塔にいたはずが、いつの間にか一面真っ白な空間に放り出されていることにようやく気がつく。僕と目の前の老人以外、人も物もなにも見当たらない不気味な空間だ。
 狼狽する僕を余所よそに、前の老人は嗄れた声を発する。

『世界を創り変える。燃料の残りは戦争で掻き集めた。あとは貴様から母胎の権限を奪うのみ』
「――この莫大な力が貴様に扱えると?」
(……………………?)

 自然と口が動いた。凜とした音色が老人の言葉を遮る。
 滑らかに言葉が紡がれると同時、果てしない単語の波がどっと押し寄せた。
 文字の羅列。
 本来の僕であれば到底扱いきれず、脳が破裂しそうな程膨大な情報が何故か綺麗に整理整頓され、詰め込まれていく。
 混乱の中、不思議と思考が洗練されるのを感じていた。

(僕と、輝さんは迷い星クズだった……なぜ僕らは故郷に帰れなかった? なぜ、警官に追われていた? 警官が守りたがった世界の平衡ってなんだ? 僕の中に眠るものは……、目の前の黒い生き物は……)

 如月光聖を苦しめていた数々の疑問が容易く紐解かれていく。

(そうか……僕の中には《ホーリー・フェザー》がいる。アステリアを創った神、僕ら生命の源――――)

 “如月光聖”が《ホーリー・フェザー》へと。上書きされていく。

 神は素晴らしい国を創り上げるために、あらゆる負の感情――悪性を排除した。自らを二つに分かち、悪性の塊を《ホロウ・フェザー》と名付け永遠のときの中で幽閉した。実際にそれは途方もない時間、形も意思も持たない虚像だった。一方で、長い年月が経ち人々の信仰力が徐々に弱まるにつれ、《ホーリー・フェザー》の神としての力は衰えていった。
 幾千の光の子を産み落とす母胎は、果てしない輪廻の中でいつしか巨大な宇宙のサイクルに組み込まれ、ただ機能し続けるシステムとなった。最早、独立したシステムに《ホーリー・フェザー》は必要なかった。もっともホーリーはその循環機能を編み出した神である。“命のゆりかご”である特性を応用する権限はホーリーにあった。幾多の生命エネルギーを利用した『アステリア』の創造は、その権能の一つだった。
 ホーリーは自身が弱体化しいずれ忘れ去られる存在であったとしても、それがこの国の、国民の辿る形であればそれで良いと考えた。
 まさかこの隙をついて《ホロウ・フェザー》が台頭するなど、微塵も想像しなかった。
 摘み取った悪性は国のあちこちで少しずつ芽生え始めていた。徐々に消えゆくはずだったホロウの自我は目覚め、遂に民衆の暗い感情を喰らう。かろうじて糧を得たホロウは世に留まり、ホーリーを引きずり下ろす機会を虎視眈々と狙った。
 そしてほんの数百年前――二つの立場は逆転する。
 
『私は貴様の半身。貴様に出来て私に出来ぬ道理などない!』
「……《ホロウ・フェザー》に渡った命は黒に染まる。産まれる子は力もなく寿命もない。そんな世界に救いはあるのか」
『はッ、私の創る国が、易々と神の座を奪われた貴様に劣るだと? いつまでも偉そうな口をきくなよ』
「ほう。確かに私は、少年の力添えがなければ貴様との邂逅かいこうも果たせなかった……その程度の神かもしれぬ。だが現に私はここにいるぞ」
『……』
「私の精神を母胎システムと同期させてアステリアを再生させる。その前に醜い悪性ホロウを永久凍結させねばなるまいが――」
『そこの依り代がなければ満足に活動できぬほど失墜した神に、なにができる!!』

 血走った両目を見開いてホロウと呼ばれた老人は掴みかかった。

『ギャッ!?』

 しかし光聖ぼく――もといホーリーに触れた瞬間、バチィッ!! と電撃のようなものがはしる。凄まじい衝撃を一身に浴びたホロウは数メートル後方へ跳ね飛ばされた。
 白い世界で、視えない地面に打ち付けた体を起こそうとするも、やつれた細い腕は力なく震える。虚弱な様を一瞥して“善性”は言葉を続ける。

「これが力の差だ。分からぬのか。所詮ホロウは薄汚れた悪の塊。どう足掻いたところで聖なる光の前に平伏する運命よ」
『貴様……!』

 ホロウは今度こそ激昂する。

『私を排除した《ホーリー・フェザー》こそが! 汚れた神だ! 落ちぶれた神だ!!
 今日ここで雪辱を果たす……そのおごりと共に粉々に散れぇ!!』

 おどろおどろしい風貌の老人は声を張り上げる。やせ細った貧弱な腕が振るうには酷く不釣り合いな、立派なロッドがその手に握られている。黒光りする丈夫な柄の頂点に嵌合した紫の石が強い光を放った。
 一方で。
 神様の操り人形と成り果てた光聖ぼくは、眩いつるぎを重々しく構える。
 激突する。

Re: ☆星の子☆  121話「彼らの秘密」 ( No.839 )
日時: 2020/08/05 18:05
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3t44M6Cd)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

19章     121話「彼らの秘密」

 迷い星クズとは。

 いわく、故郷へ還ることができない半端者。
 いわく、世界の平衡を乱す犯罪者。
 いわく、大義名分を振りかざした『銀河の警官』に追われる逃亡者。
 いわく――――。
 
     ☆

 また、同じ夢を見ていた。
 より鮮明で衝撃的な風景。遥か昔の《ホーリー・フェザー》の記憶が、フィルムを高速で巻くように僕の頭を駆け巡る。おびただしい時間と情報の波に溺れそうになる。
 迷い星クズが生まれた背景。その運命。

 『アステリア』の創造神《ホーリー・フェザー》。
 その信仰はいつの間に《H・F》に据え置かれていたのだろうか。

 永遠のときの中で消え去る運命だったはずの《ホロウ・フェザー》は、《ホーリー・フェザー》の弱体化に応じて自我に目覚めた。自らを不出来で不要な悪因子として排除した半身への怒りは治まることをしらなかった。そもそも、暗い思想から構成されるホロウはそのような感情しか持ち合わせない。
 気の遠くなる年月、水面下で着実と力を蓄えたホロウは遂に半身を征伐した。
 ホロウは民の信仰力をその身に受けるため、不服ながらも己の名を《H・F》と伏せた。尊大に振る舞えば、実直な民はそれを《ホーリー・フェザー》であると無意識に信じて疑わず、警官は忠誠を誓った。
 ホロウの野望。
 それはホーリーが建国した現在の『アステリア』をホロウの理想郷へと創り変えること。
 成し遂げるためにはどんな犠牲もいとわない。悪政を強いて民の怒りを煽り、政府軍と反乱軍を衝突させた。燃え広がる戦火はホロウの暗い感情を焚きつけた。

 虚空の存在から実体を得て、創造が施行されるまでに。
 神の手により一体どれだけ多くの命が失われただろうか。
 虚しくも《ホロウ・フェザー》に奪った命の重みはわからない。

 永劫の刻へ幽閉されるその間際、負った傷は深く、《ホーリー・フェザー》の魂は無数に砕けた。それぞれがホロウの支配下から辛うじて逃れた。
 『アステリア』の生命循環機能――光の子を産み落とす“母胎”へと。
 連綿たる生命の歯車は回り続ける。

 それが“天野輝”“如月光聖”ら、迷い星クズの正体。
 心の深層に《ホーリー・フェザー》が住まう、選ばれし光の子。
 
 ホロウは異変に気がつく。
 逃げ隠れた半身――善性の神が、幽閉から奇しくも逃れたこと。
 広大な宇宙を訳も分からず彷徨っていること。

 ホーリーの依り代である光の子に神の記憶はない。それほどまでにホーリーの魂は粉々に砕けていた。
 通常光の子は、役目を終えれば流れ星となり燃え尽きて、その魂は故郷へ還る。
 しかし故郷『アステリア』の支配者はホロウである。
 善と悪。光と影。太陽と月のように、全くの対極。
 
 結果、依り代は還れなかった。
 正しくは不思議な斥力が働き、半身が支配する故郷に弾かれてしまったのだった。

 神と対等に渡り合えるのは神である。
 《ホーリー・フェザー》を内包する迷い星クズらにその自覚はない。永遠に彼らは故郷へ還れず、神の自我は目覚めない……。そのように楽観視できればどれだけ良かったことか。
 しかしホロウはどこまでも神経質で臆病で。
自身の野望が、覚醒した迷い星クズ――すなわち、ホーリーに打ち砕かれることを最も恐れた。
 そして忠実な下部しもべである『銀河ギャラクシー・警官ポリス』に命令する。
 迷い星クズは世界の平衡を乱す悪因子。即刻排除せよ、と。

 ――それが僕の……迷い星クズの正体。

(ああ……)

 全ての事象が繋がった。自分が何者であるか、終わりの狭間でようやく理解した。
 僕の中で覚醒を遂げた《ホーリー・フェザー》の意思が絶え間なく流れ込み、心がぐちゃぐちゃに混ざり合う。
 《 神 》の記憶。途方もない時間の奔流に身体が押し潰されそうになる。
 僕の体は今も《ホーリー・フェザー》の好き勝手に動いているようで、いつの間にか僕の精神は遠く追いやられた。深海から地上を見上げているようだ。どこまでも続く白いノートに黒いインクを滲ませたような、朧気な風景がゆらゆら揺れる。音は反響し重なり合って、誰が何を言っているのかまるで分からない。
 きっと、残った意識を手放せば、僕はもう光聖ぼくに戻れない。そんな予感があった。
 その必死の抵抗を知ってか知らずか、《ホーリー・フェザー》の記憶の奔流は止まらない。
 何度も何度も。
 いにしえの軌跡を繰り返し辿る中で、突如見覚えのある風景が映った。

 無機質な病室と真っ白な少年。青い警官服を纏ったナツとリンとヒナ。初めてできた友との別れ。偶然で運命的な、迷い星クズとの出会い。浮かぶのは柔らかい笑みと澄んだ眼差し。富士から一望した山麓と静かな町。そして――――
 天野空との出会い。
 小柄で快活な少女。得体の知れない僕の話を真剣に聞いて、漆黒の瞳で真正面から向き合ってくれた。空と過ごす中学生活、部活動が新鮮で楽しかった。ナツ達に囚われた時。絶体絶命のピンチを一緒に乗り越えた。聞こえた不思議な声の主は、きっと僕の中の《ホーリー・フェザー》だったんだろう。

(これは……走馬灯なのかな…………)

 さらに意識が朦朧とする。光聖君、と僕を呼ぶ幻聴まで聞こえてくる。
 反乱軍に寝返ったリンとの再会。故郷の大戦に空がついてきたときは本当に驚いたし心配した。その反面、彼女とまだお別れしなくていいと。心の隅で安堵した、狡い自分。

(空は……、僕と知り合ってから怖い思いをいっぱいしたよな。ついてきてくれてありがとうって、最後まで守れなくてごめんって。伝えたいことが山ほどあるのに――)

 僕がたゆたうこの真っ白な世界は、二神の邂逅により生まれた共鳴世界だ。世界の裏側、強大な力の奔流にいる。こうしている間にも『アステリア』は刻一刻と、新しい世界に塗り潰されているのだろう。
 《ホロウ・フェザー》の目的は、この惑星に全く別の文明を築くこと。そこに勿論、僕が憧れた故郷の面影はなく、知り合った皆はいない。
 《ホーリー・フェザー》の目的は、『アステリア』をこの危機から救うこと。ホーリーが再び頂点に立ち、正しく民を導いて煌びやかな惑星を取り戻す。そのために、ホロウを今度こそ再起不能になるまで叩きのめすつもりだ。
 しかし《ホーリー・フェザー》は完全じゃない。多くの迷い星クズが捕らえられ、その度に力を失い続けた。今の状況は、半身であるホロウに近づいたことで共鳴が起こり、僕の表面まで引っ張り出されたというほうが正しいだろう。未だ僕の体を操っているのは、ホーリーがまだ実体化できないことを意味する。
 目的を成し遂げるには僕の力――否、僕の肉体が必要な筈だ。

 どちらの味方をするべきか……そんなのわかりきっている。
 でもそれでいいのか? 本当に《ホーリー・フェザー》は今までも、これからも、正しいのだろうか?

 脳裏に浮かんでは消える幻影。
 元はただ一つの神であったそれが、善と悪に分かち、ともすれば兄弟喧嘩のような――『アステリア』の命運を握る壮大な喧嘩を何万年と続けている。
 僕と空、輝さん、琉、学校の皆。
 ナツやリンにヒナ。故郷を護る警官達。
 ホロウの強いた悪政に反旗を翻した反乱軍。
 皆が皆、神のいがみ合いに巻き込まれた被害者だ。

(ふざけるな……)

 光聖君、と僕を呼ぶ少女の声。
 空の笑った顔、怒った顔、困った顔――ころころ変化する愛くるしいその表情が思い出され、どうしようもなく胸がいっぱいになる。
 故郷を取り戻す。空をまっすぐ家へ帰す。

 そのために、この馬鹿馬鹿しい喧嘩を終わらせてみせる。
 
 溺れ墜ちてゆく記憶の海で一筋の光を掴み取る。
 “如月光聖”を名乗り、僕が僕として生きたたった数十年の思い出。
 絶対に、絶対に手離すものか。

Re: ☆星の子☆  121話更新(8/5) ( No.840 )
日時: 2020/10/18 18:28
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

 こんばんは。お久しぶりです、朱雀です^^
 この度閲覧回数100000突破しました……!
 読者の皆様、本当にありがとうございます。

 続きの更新はもう少々お待ちください。11月末までにはなんとか仕上げたい……笑
 今後もよろしくお願いします。それではノシ

Re: ☆星の子☆  参照10万突破記念「富士の山頂にて」 ( No.841 )
日時: 2021/02/01 09:18
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3t44M6Cd)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

番外編 「富士の山頂にて」


 天野輝は優れた迷い星クズだった。
 故郷への帰還――――
 何十回の失敗の末、彼は己の境遇を悟り、心の深層に住まう者と向き合った。
 二神の誕生と決裂、『アステリア』の危機、己に託された運命。それは彼の予想を遥かに超えた壮大な物語だったはずだ。
 それでいて、天野輝はけろりと言ったのだ。

「馬鹿馬鹿しい」
「俺は貴方の我が儘に応える気はないよ」
「だって地球に、守りたいものができたから」

     ☆

 冷たい風が吹き抜ける。
 初夏とはいえ、標高2500メートルまで登れば冷える。麓の雪は溶け出す頃だろうが山頂近くの山肌は未だ白く覆われ、とても登山が出来る様子ではない。幻想的な霧が時折辺りを覆い隠す中、鮮やかな青を纏った影がにわかに現れた。
 つんとした女の声が静寂に響く。

「本当に迷い星クズがここにいるのかしら?」
「うん、数週間前、流星群に紛れて一際大きな光がこの町に落ちたようだ。あいつに間違いないさ」
「あいつって、……如月光聖?」
「あぁ。真っ先に私達G-チームに指令が下ったんだから――」

 今度こそ、という言葉を男はぐっと飲み込んだ。それを横目に金髪の美青年は小さく息を吐いた。白い息が漏れる。

「それで。なぜ奴は山に登った」
「知らないさ……こんなに寒い中登山だなんて、よっぽどの阿呆だ。ううう、追うこっちの身にもなってほしい!」
「ナツうるさい」

 じろりと睨まれ、ナツと呼ばれた青年は不服そうに口を噤む。
 彼らは『銀河ギャラクシー・警官ポリス』Gトップチームの三人組。はぐれた星クズを捕らえるために、遙々地球の島国まで出張中である。正しくは迷い星クズの内に隠れた《ホーリー・フェザー》の欠片を抹消するための重大な任務中なのだが、彼らは真の目的を知らず、数年に渡り迷い星クズといたちごっこを繰り返している。
 失敗続きでそろそろまずい、と思っている割に緊張感がやや欠如しているのはリーダーのナツであり、頼りないリーダーを叱咤激励するのはいつもヒナだった。
 ナツは一度大きく咳払いをして、ふんぞり返りながら「それでは今後の流れを確認する」と途端リーダー風を装う。リンはちらりと感動のない瞳を向け、ヒナはじろりと睨めた。
 それでも二人は、お調子者で明るいリーダーがどこか憎めなかった。
 代わり映えのない日々が尊いものであったと、彼らが気付くのはまだ先の話。

「迷い星クズの探索は俺が請け負う」
「光聖を見つけたら状況確認。一人だったらすぐに捕まえるわよ。誰かと一緒だった場合は離れた隙を見計らうか、あるいは夜が更けた頃を襲って」
「ヒナは卑怯だなぁ……」
「ナツが甘いの!」

 瞳をさらに吊り上げて恐ろしい形相で睨まれたナツは口を尖らせる。

「奴は一人のはずだ。雪も溶け残っている。人間が登山するには時期が早いだろう」

 当の二人はリンの言葉に耳を貸さず毎度の言い合いを始めていた。
 仲が良いのか悪いのか。
 やれやれと肩を竦ませ、騒ぐ同僚をよそ目にリンはそっと双眸を閉じた。周囲の空気を掴むため感覚を研ぎ澄ませる。
 彼にはサイコメトリー能力がある。他人の考えを読み取ることが出来るが、心にそっと忍び込めるような警戒心の薄い者にしか効果がない。稀に聞きたくもない声を拾うことがあるので、リンはこの能力を良いものと思えなかった。
 一方で、皮肉にもこの能力は重宝された。他人の思うことが聞こえる他、生物の僅かな気配を察知することにも長けていた。追跡にうってつけなサイコメトリー能力は、リンを『銀河ギャラクシー・警官ポリス』のトップチームという位まで押し上げたのだ。能力が使えなければ用なし、厳しい世界では即刻切り捨てられてしまう。

「――――、確かに。少し登ったところに迷い星クズの気配があるな」
「さすがリン!」
「日が暮れる前に進みましょう」

 霧が深くなる。
 先までの喧噪が嘘のように、辺りは再び静寂に包まれた。

     ★

「よし、今日はここで野宿にするかあ」

 朗らかな声が響いた。
 人の良い笑みを浮かべた男性が立派な鷲へ恐れもせずに近づく。

「光聖も上手に変身できるようになったな。よーしよし」
「わっ、ちょ……! もう戻るから離れてよ」

 乱雑に羽毛を撫で回され、黄色い嘴から不平が漏れる。鳥と人間が流暢に言葉を交わす異様な光景だが、彼らの他に人の姿はない。
 おっと悪い、と男が一歩退く。周囲がぱっと光に包まれ、代わりに美しい少年が現れた。光聖と呼ばれた彼は口を尖らせてくしゃくしゃになった琥珀の髪を撫でつける。

「あ~、つかれた! 輝さん、なんで僕を置いて飛んでっちゃうの? 追いつくのに必死だったよ」
「ははっ、ごめんな。空気が気持ちよくてさ、速度が出ちゃって、つい。光聖もいい運動になったろう?」
「まぁ……」

 柔和な笑顔でそう返されれば素直に頷くしかない。
 光聖と行動する男は天野輝。二人は宇宙の監視という壮大な使命を終えても故郷に還れない、半端な星クズだった。光聖はそれでも毎年果敢に挑戦していたのだが、天野輝はとうの昔に帰還を諦め、蒼の美しい地球で第二の人生を謳歌している。
 二人が出会ったのはほんの数ヶ月前。出張中の小さいアパートに転がり込んできた光聖に、輝は迷い星クズの先輩として変身術のコツから勉学まで指南している。
 師弟関係の二人は黙々とテントを建てる。

(輝さん、出張が終われば家へ帰るよね。奥さんと子供も待っているし……。そのあと僕は、どこへ行けば良いんだろう)

 考えて、しゅんと項垂れる。
 光聖は輝を心から尊敬していた。弟のように可愛がってくれた。物腰が柔らかく大人びた雰囲気が大好きだった。
 しかし想いを上手く伝えるのは難しい。光聖は人とまともな関係を築いたことなど片手で数えられる程しかない。

(いつも恥ずかしくて、はぐらかしちゃうけれど……次こそ、感謝を伝えよう)

 折悪しく。彼ら迷い星クズのもとに刺客の手が伸びる。
 光聖の想いが言葉になる日はついぞ来ない。

     ☆

 宵闇の中。青い警官服に身を包んだ三つの影が、天野輝と対峙する。

「それで? 『銀河の警官』が俺になにか用かな?」

 輝は柔和な笑顔を崩さず、現れた警官に語りかけた。
 言葉を失ったのはGトップチームの方だ。内輪で口早に意見を交わす。

「誰だ? 『銀河の警官』を知っているなんて――、」
「如月光聖とは別人のようだけど」
「纏っている雰囲気は瓜二つだ……同じ迷い星クズと見るのが妥当か」
「迷い星クズってそんなによくいるものだったか?」
「……いいわ。世界の平衡を乱す者はなんであれ、排除するのが私達の使命よ」

 そんな三人の様子が可笑しくて、からからと笑う声が響いた。

「なにが可笑しい」
「はは、一生懸命で可愛らしいと思ってね」
「っ、随分と余裕のようだけれど。貴方は私達が何をしに来たのかお分かり?」
「いやぁ、俺も迷い星クズをやって長いから。とはいえ、その青い警官服を見るのは久しぶりだよ。俺の担当は君たちと違ったはずだ。たしか……つばの広い帽子を被った男と、強面と、全身黒いローブの三人組。知らないか?」

 指折り数えられる大雑把な特徴。しかし彼らにはある姿が浮かぶ。リーダーは殉職したと伝えられ、残る二人は政府塔から前触れなく姿を消したことで有名な、最上のチームだった。風の噂では反政府の民間組織を立ち上げたのだとか。
 輝の口ぶりはかつてのCトップチームと何度か対峙したことがあり、その度彼らから逃げおおせたことを暗に告げていた。
 輝の表情から笑みが消え、瞳は鋭く細められる。

「ご苦労なことだね。君たちはただ良いように使われているだけだよ。迷い星クズの正体すら知らないだろうに」
「な、」
「大人しく故郷へ帰りなさい。そこで半端な迷い星クズを笑っていればいいさ。
俺は、この地球せかいを愛しているんだから。君たち警官に邪魔されたくないんだよ」
「わ、私たちの使命は迷い星クズの拘束。当初の目標とは違ったが――ここで出会ったからには責務を果たすっ」
「やめておけ、何のための行為かすら分かっていないだろう」

 輝の言葉に当惑するリーダーを、「しっかりしなさいよ」とヒナが小突く。冷ややかな厳しい視線を天野輝に向けた。

「ごちゃごちゃうるさいわよ、半端者。大人しくその首を差し出しなさい!」

 言い終わる前に、素早い動作で拳銃を構えた。
 乾いた発砲音が静寂を破る。

     ★

 得意の変化で燕の姿になった天野輝は木々の隙間を縫うように飛行する。敵が追っているのを横目に加速させた。

(俺は囮だ。光聖の居場所からなるべく遠くへ……敵を離さないと)

 冷静に状況を判断する。

(彼らはきっと光聖を追ってきた。向こうには優秀な追跡役がいるだろう。俺一人逃げたとして次に見つかるのは光聖だ。彼らは今度こそあの子を捕まえてしまう)

 以前輝を追っていた三人組は政府の在り方に疑問を抱いていた。たまに輝の前にふらっと現れては遊びのような追走劇を繰り返したが、決して輝を無理矢理連れ去り処分することはしなかった。

(だが今回は違う。彼らは至って本気、大真面目だ。迷い星クズの真相は知らないようだ、が……捕まればきっと、俺と《ホーリー・フェザー》の欠片は抹殺される――――っ!?)

 硝煙の匂いが鼻腔を刺激した。
 横腹が焼けたように熱い。
 撃たれた。そう認識したときには既に、散った鮮血が純白の火の粉となって空へ還っている。
 負傷した部位を庇うように重心を左へ傾ける。急旋回して敵の視界から外れると、燕はその小さな体をぐっと垂直に起こした。あらん限りの力を振り絞りぐんぐんと高度を上げる。
 バサバサっと乱暴に枝葉を揺らし、負傷した燕は樹林を抜けた。さらに山頂を目指して飛翔を続ける。

(もっと上へ。遠くへ……!)

 しかしそれは突然やってきた。
 くらり、と目眩が襲う。
 思えば輝は朝から晩まで変化術を使っていた。
 それだけでない。使命を終えてから、家族ができてから。そらで同胞と合流せず何年も人の姿を保ってきたのだ。
 迷い星クズは何にでも変化できるがその本質は鳥でもなく人でもない。
 着実に蓄積していた疲労がここにきて馬脚を現わす。無理な飛行のせいで腹部の傷が開いた。
 全身が悲鳴をあげる。
 遂に小さな燕は平衡感覚を失い、風に煽られなすすべもなく急降下する。

(しまった! 変化が解ける……!)

 残った力を振り絞り両翼を羽ばたかせた。墜落の勢いを殺して残雪で湿った山肌に近づき、人の姿に戻った天野輝はどさりと倒れ込む。
 空気が薄い。
 浅い呼吸を繰り返す。薄い酸素を必死に吸い込んでも息は上がるばかりだ。視界は霞み体温は奪われてゆく。輝は両腕を使って重たい身体を無理矢理押し上げる。ゆらりと立ち上がると脚を引きずりながら山頂を目指す。
 天野輝は優秀な迷い星クズだ。心の深層に住まう神と意思疎通ができた迷い星クズはここ数百年の間で彼ただ一人。
 しかし。

(……肉体が限界、か。俺としたことが、無茶をしたな)
『――アステルよ』
(あー……ちっぽけな神様? 今度こそ俺に力を貸してほしい)
『――其方に私の力は使役できぬ』
『ましてこれ以上の無理は其方の体が持たない』
(はは……、よく言う! さっきまで俺の体を使って、光聖に余計なことを口走ったろう。答えを明かすも何も、娘は俺の正体を知らない。関わらないでくれ……)
『――。私も其方もここで終いだ』
(……たのか? それで光聖に希望を託したって? はは、あの少年は目醒めないさ……俺が異端中の異端だったんだ)
『――』
(《ホーリー・フェザー》。貴方の願いは俺が叶える。だから……………)

 返事はない。

(初めから素直に神様の言うことを聞けば……事態は好転したのか?)

 意識が混濁する中、浮かぶのは愛しい母子の姿。

(ちっぽけなのはどっちだか)

 愛する者と添い遂げる。そんなささやかな夢さえ叶わない。
 人として暮らし、人を愛した。許されるのなら、この幸せな時間をまだ噛み締めていたかったが。

「ぐ、っ――!?」

 肩に鈍痛が走った。いつの間に距離を詰めていた追っ手が容赦なく射撃する。
 振り返らない。輝は歯をきつく食いしばり前を向く。懸命に足を踏み出す。
 満身創痍な全身に突風がびゅうと吹き付け、その凍てつく寒さに朧気だった意識が明瞭になる。
 汗と涙で滲んだ視界に光が差し込み、両の瞳は彼を取り巻く世界をようやく捉えた。

「――――――あぁ」
 
 映ったのは黎明。
 東の空が白み荘厳な陽の目が辺りを照らし始める。
 列島の太平洋沿いに高く聳える富士の山。その頂きから迎える朝焼けは涙が出るほど眩しく暖かい。

「……なにが、いけなかったかな」

 警官から、神から、使命から。逃げずに向き合えば、未来は変わっていたろうか。

「それでも、選んだ選択肢みちに後悔はないよ」

 輝は肌身離さず持ち歩いていた“お守り”をおもむろに取り出す。金色の装身具に埋め込まれたベニトアイトが、燦々さんさんと降り注ぐ陽光を浴びて鮮やかな光輝を放った。
 すっかり冷たくなったそれを固く握ると珍しく焦燥の滲んだ声が脳髄に響いた。

『なにを――』
(神様なら物に移り住むことくらい造作ないだろう? これは喋り相手にはなれないけど)
『アステルよ』
(このまま俺が捕まって貴方まで抹殺されてしまっては癪だからね。最後の我が儘だ。敵を欺くお手伝い、してもらうよ)

     ☆

(――あぁ、)
(永く美しい旅だった)

     ★

「今日の任務は完了ね。久しぶりの手柄だわ」
「はあ、やっとH・F様にお褒め頂ける……。よしっ、それを連れて協会へ向かうぞ。――リン? どうかしたか?」
「いや、…………。先に行ってくれ。俺は少し辺りを探索する」
「わかった、早めに戻れよ」

 獲物を担いだ青の刺客は音もなく姿を消した。それを見送った長身の男は、鋭い眼光で周囲を観察する。

(どうも引っかかるのは何故だ。まだなにか……本質的なものが、あるような)

 長い指で顎をさすりながら、うまく言語化できない違和感にリンは目を細めた。
 しかし自然の厳しさが広がるここでは植物の息吹すら感じられない。肌を刺すような冷気に身震いする。

(やはり思い違いか。ここは空気が薄くて思考が鈍るな。俺も帰還するとしよう――む)

 考え身を翻したところで、リンは雪の絨毯に埋もれたなにかを発見する。丁度仲間が天野輝を連れて消えた辺りだ。陽光がそれに反射され、地表近くの水蒸気が光を浴びてキラキラ瞬く。

「あれは……」

 残雪を踏みしめ近づくと、碧い石が埋め込まれた首飾りがそこにあった。

「迷い星クズが落としたか」

 同僚がこのような装飾品に頓着しないことをリンはよく知っていた。新手の罠だろうか、と用心するが特に異変は感じない。
 リンはおもむろに、冷えた装身具を拾い上げた。
 ほう、とため息が零れる。その力強い耀きに不思議と魅入られ、リンはそれを自然と懐に滑り込ませた。すると体が柔らかい暖かさに包まれ、羽が生えたかのように軽くなる。その心地良い気分に酔いしれる前に、高鳴る心臓を抑えた。

(――ふ、良い趣味をしている)

 珍しく口元を緩めた青年は、美しく流れる金色の髪を翻す。

 そうして本来の目標ターゲットが目を醒ますより前に、刺客はその場を後にした。


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