コメディ・ライト小説(新)

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☆星の子☆  番外編更新 (2/1)
日時: 2021/02/01 12:58
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3t44M6Cd)

閲覧ありがとうございます^^
はじめまして、またはお久しぶりです。朱雀です。この度執筆活動復帰しました(2019/10/14)。
初めての小説投稿で未熟な部分がありますが、楽しんで読んで頂けると幸いです<(_ _)>
アドバイスや感想などもお待ちしております。
ファンタジー要素満載なラブコメディです。後半からシリアス要素あります。

星の子のキャラ絵を担当して下さっているPANDA。さんがキャラ絵専用ページを作ってくださいました^^


※只今初期のお話を修正中ですので、一人称だったり三人称だったりします。ご了承ください。


>>1 登場人物紹介 (ⅰ) 主人公、部員、クラスメイト、Gトップチーム
>>2 登場人物紹介 (ⅱ) 反乱軍、政府軍

「まとめ」1>>45 〜まとめてみました。
「まとめ」2>>59 〜輝さん(空の義父)の話を簡潔にまとめてみました。



∞1幕∞

1章:1話ー>>3 2話ー>>4 3話ー>>5 4話ー>>9 5話ー>>12  6話ー>>13  7話ー>>15  8話ー>>18  9話ー>>19  
2章:10話ー>>22 11話ー>>23  12話ー>>26 13話ー>>31 14話ー>>32 15話ー>>35 16話ー>>36 17話ー>>40 18話ー>>42 19話ー>>44
3章:20話ー>>49 21話ー>>52 22話ー>>56
4章:23話ー>>60 24話ー>>61 25話ー>>64 26話ー>>65 27話ー>>66 28話ー>>67 29話ー>>70 30話ー>>72 31話ー>>80 32話ー>>83
5章:33話ー>>85 34話ー>>90  35話ー>>93 36話ー>>96 37話ー>>97 38話ー>>103 39話ー>>107 40話ー>>114 41話ー>>119
6章:42話ー>>123 43話ー>>132 44話ー>>135 45話ー>>143 46話ー>>148
7章:47話ー>>153 48話ー>>158 49話ー>>163 50話ー>>167 51話ー>>175 52話ー>>191 53話ー>>192 54話ー>>199 55話ー>>202 56話ー>>209 57話ー>>212 58話ー>>214 59話ー>>216
8章:60話ー>>223 61話ー>>237 62話ー>>239 63話ー>>245 64話ー>>252 65話ー>>255 66話ー>>260
9章:67話ー>>275-276 68話ー>>291-292 69話ー>>301
10章:70話ー>>325 71話ー>>328 72話ー>>333 73話ー>>343 74話−>>363-364

∞2幕∞

11章:75話ー>>366 76話ー>>374-375 77話ー>>378 78話ー>>387-388 79話ー>>398-399  80話ー>>403
12章:81話ー>>419 82話ー>>422 83話ー>>426-427 84話ー>>434 85話ー>>436-437 86話ー>>440-441
『戦争』
13章:87話ー>>445-446 88話ー>>452 89話ー>>460 90話ー>>461-46 91話ー>>466-46
14章:92話ー>>469 93話ー>>474-475 94話ー>>479-480 95話ー>>486-487 96話ー>>490-491
15章:97話ー>>498 98話ー>>501-502 99話ー>>505-506 100話ー>>510-511
16章:101話ー>>525-526 102話ー>>532-534 103話ー>>537 104話ー>>539 105話ー>>543-545 106話ー>>551
17章:107話ー>>555-556 108話ー>>566-567 109話―>>779-780 110話ー>>806-807 111話ー>>815 112話ー>>816-817
18章:113話ー>>821 114話ー>>822 115話ー>>825 116話ー>>826-827 117話ー>>831 118話ー>>832-833
19章:119話ー>>837 120話ー>>838 121話ー>>839




☆番外編☆

〜葵〜>>410-411

『100話突破記念 短編3本立て!』
 1「冥界」>>516
 2「科学者Xの休日」>>518
 3「星の子学園! Ep1」>>521

『バレンタイン企画!』 
 「少女と少年と約束」>>553-554

参照10万突破記念
「富士の山頂にて」 >>841


☆読者の皆様☆
*ちり様  *零十様(虎様)  *ボリーン様  *貴也様  *恋音様  *友桃様
*星ファン★様  *山口流様  *アスカ様  *青龍様  *PANDA。様
*。・*+みつき*+・。様  *風様  *ああ様  *宇莉様  *杏様  *王翔様
*あんず様  *朝倉疾風様  *ARMA3様(書き述べる様)  *黒田奏様
*日織様  *織原ひな様  *てるてる522様  *ひなた様   *ひょんくん様
*イレラ様 *美奈様

☆朱雀のオススメ!本紹介☆
第一回〜<秘密>>>222
第二回〜<トワイライト>>>250
第三回〜<灼眼のシャナ>>>281
第四回〜<妖界ナビルナ>>>329

☆キャラ人気投票結果発表☆
*第一回>>238
*第二回>>435

☆小説大会☆ 投票してくださった皆様、誠にありがとうございます<(_ _)>
2016年度夏  銅賞
2019年度冬  銀賞


スレッド作成日
2010.7.20

Re: ☆星の子☆  112話「守りたかったもの」(2) ( No.817 )
日時: 2019/11/04 17:47
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


 そんな顔をさせたかったわけじゃない。
 顔面蒼白にさせて、目に涙を浮かばせる少女を見やる。
 5年前、富士の山頂で拾ったこれを、やっと持ち主に返せる、か……。
 不思議と痛みはない。ただ、自分だった肉体が主の元を旅立ってゆくのがわかる。身体が嫌というほど軽くなり、どこへでも飛んでいけるような錯覚を覚える。
 最後まで、少女の姿を目に焼き付けておきたかった。顔に損傷がなかったのは不幸中の幸いといえよう。
 元より俺は、『銀河の警官』として世界中の迷い星クズを追って、排除してきた。それは天野輝も例外でない。奴が空の義父だと知ってもなお、忘れ形見を今の今まで渡せなかったのは俺の弱さだ。ヒナの逆鱗に触れたのも、くだんの件を伝えられずにいた俺の臆病が招いたことだ。
 そんな自分に救いはない。未練もない。
 ただ、お前を守れる最後で良かった。それだけだ。
 だから、泣かないで笑っていてほしい。無事に空がいるべき場所へ帰ってくれれば、それでいい。……ふ、俺がこの戦争に招いたくせに、我儘なことだな。

 最後。ヒナの攻撃を咄嗟に太刀で受けた。凄まじい力の前では抵抗も虚しかったが。
 かつての仲間に葬られるなんて、ちたものだ。
 ……このまま俺はどこへ行くだろう。
 もし、“あちら”の世界があったのならば……ナツと、会えるだろうか。お人好しのリーダーは、きっと笑って再会を喜ぶに違いない。
 そう考えると悪くない気がする。


 ――天野空、お前と出会って俺は変わったんだろう。
 いつの間にか、大切になっていた。命をしても守りたいほどに。
 この気持ちに敢えて名前をつけるのならば、そう、人は『愛』とよぶのだろうな。
 
 空。
 こんな俺を慕ってくれて、頼ってくれて、有り難う。
 また会える日を、待っている――――

Re: ☆星の子☆  112話更新(11/4) ( No.818 )
日時: 2019/11/04 20:27
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

 こんばんは、朱雀です。
 17章は112話で終わりです。そろそろ最終章かもです。あと20話くらい書けば完結できるかも?

 112話は途中から一人称が変わるので、文字数オーバーではないのですが2回に分けて投稿しました; 自分で書いておきながら、ちょっと、展開が辛すぎます……泣
 復帰後やたら話が重い気がしますが、特に私の作風が変わったわけではないです>< コメライ板だし明るく書きたいのは山々ですが、今回の話はかなり前の段階から私の中で決定事項でしたので……核心部分なので丁寧に書き上げたかったんですが、自信ありません;

 あと私、グロ表現等は読むのも書くのも苦手マンなので、今後もそういう表現はやんわりと包んでいきます。笑 なので星の子も流血表現×で火の粉が舞います。そういう理由です。見た目的には綺麗ですよね笑←
 
 こんなですが今後もお付き合いください。ではまたノシ

Re: ☆星の子☆  111話更新(10/29) ( No.819 )
日時: 2019/11/04 20:28
名前: ひょんくん (ID: xV3zxjLd)

(朱雀*@)さんお久しぶりです!

最近肌寒くなってきましたね。
朝なんか布団から出れず、朝飯抜きが続いちゃってます💦
朱雀さんは朝ちゃんと食べてますか?
朝飯食べなければ力も出ないので、食べる事お勧めします。
ごめんなさい、どうでもいいですね!

最新話読みました!

今日最新話更新されてるかなーて覗いてみたら、丁度更新されてたのでテンション上がりました^_^

いやーここにきて番外編の謎が解けましたね。
空も悪い子です、りんさんすらも手玉に取るなんて…

多分この後、空と光聖くんどっちも死んで天国での話になると思います。
そこで空が、りんさんと光聖くんどっちとるんだ?!て話になってりんさん選びます。
ごめんなさい、嘘です。

でもりんさんがもう出てこないてことが、信じられません!!

これからどうなるんだろう、楽しみです^_^

では、また更新されるの待っています。ノシ


Re: ☆星の子☆  112話更新(11/4) ( No.820 )
日時: 2019/11/04 20:54
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

@ひょんくんさん

 こんばんは。コメントありがとうございます!
 感想来るのが早くて、びっくりしました。嬉しいですv

 朝ご飯はちゃんと食べてます!笑
 寒くなりましたし、余計に布団から出たくなくなりますよね……ひょんくん(って呼んで良いでしょうか)もちゃんと起きて栄養摂って下さいね^^笑

 番外編、ってもしかして冥界のお話のことですか!? 覚えて下さって嬉しいです、そうですそうなんです。伏線伝わってて良かった~(*^^*)
 空ちゃんは、意外とモテモテです。大人になって、魔性の女になったらどうしよう;笑

 物語の舞台が次は天国ですか笑 コメント面白すぎて笑いました笑
 確かにAnother Storyで書いたら面白そう、かも……? 空には光聖君を選んでほしいですね笑
 リンは私の推しなので、今後も何らかの形で登場させたいなぁとは思っています。

 感想ありがとうございましたっ!

Re: ☆星の子☆  113話「炉心」 ( No.821 )
日時: 2019/12/01 23:24
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

18章     113話「炉心」


東軍 シャイニア  光聖、空VSヒナ――

 少女を守ったがために。夜空に瑠璃の粉が儚く舞っている。
 ――リン。貴方、なんて無様なの。
 一瞬の出来事に混乱しているであろう光聖は目をいたままじっと動かない。悲憤の表情を浮かべたまま、その唇が小さく震えた。

「リ、ン……」

 充血した目で私を睨む。

「お前……っ、どうしてそんなに平然としていられるんだ!? リンを――」
「――殺したけど。なによ? 可笑しいのはあんたの方じゃない。私達、さっきまで刃を交えていたのよ。お互い相応の覚悟があっての事でしょう?
 それとも……光聖は私を生かしておくつもりだったわけ?」
「そんなこと…………」

 言って少年は口ごもる。
 意識的に、私は右肩に触れた。腕があったはずのそこから茜の火の粉が舞っている。
 光聖の切っ先が届くより僅かに一瞬、引き金を引いたのが早かった。それでもあの時、私はあの女を殺すことで頭がいっぱいで、光聖の攻撃を避ける余裕なんてなかった。リンは助からずとも、光聖はその刃で敵討ちすることが出来たはず。
 ――甘いのよ、つくづく。反吐が出るくらい。
 傷口は燃えるようにじんじんと痛い。右腕がなくなってしまったのだから当たり前だ。
 歯を食いしばって痛みに耐える。それでも致命傷ではない。政府塔へ戻り手当を受ければ傷口は塞がるだろう。

 ――きっと、ナツとリンは、もっと痛い思いをしたに違いない。
 だからこんなの、なんともない。

 ふとそう考えると、虚無感がどっと押し寄せてきた。赤くなった目で私を睨み付ける少年を見ても、すすり泣く少女を見ても、先までの燃えるような感情が沸いてこない。
 光聖がどう行動に出るか分からないけど……このまま戦闘になれば次は確実に私が不利ね。
 武器は左手の短剣だけ。片腕のない状態で振るっても驚異にはならないだろう。まして光聖の持つ不思議な力は予想外だ。あの太刀や盾と渡り合えるとは到底思えない。
 勿論、私はここで死ぬ覚悟だって出来ている。H・F様は光聖が政府塔の、最上階に辿り着くことを懸念している。その理由は私には計り知れないけれど――――

『G-270』

 不意に脳内から声が響いた。思わず肩をびくりと震わせる。光聖が怪訝そうに眉をひそめた。
 私をコードネームで呼び“思念”を送れる人物。どくどくと、無自覚のうちに厭悪えんおが腹の底を渦巻きはじめる。

『戻ってこい。これはH・F様からの命令だ』
(……星クズをこの先へ通してはまずいのでは?)
『黙れ。時は満ちた』

 ぶつり、と一方的に言葉は途切れた。大きく息を吐き出して、少年から背を向ける。

「――不服だけど、私は一度政府塔に戻るわ」
「なっ……!? いかせるか!」
「あの女を放っておいていいの? 私を追いかけるよりも、そっちが大切なんじゃない?」
「……っ、卑怯だぞ」

 正直、このまま光聖に手負いの私を追いかけられては困る。本来の目的は迷い星クズの足止めだったはず。時は満ちた、なんて言われたけれど、それでも政府塔へは極力近づかせない方が良いだろう。
 さめざめと泣き続ける少女を一瞥し、光聖が悔しげに踏みとどまったのを見計らって、私は地を蹴って高く跳躍した。右の肩口が鋭く悲鳴をあげたが気付かぬふりをする。

「ヒナっ」
「光聖、あんたとりあうのは楽しかったわ。この先へ進むのなら止めはしない……そこの女が、もっと酷い目にあってもいいのなら、ね」

 後方で光聖が何やら吠えているが、もう耳に届かない。双翼を背に広げ、滑るように夜空を飛行する。
 私が外道であることは十分自覚している。何が正義で、幼い自分はどうして警官になりたかったのか、何を守りたかったのか――忘れてしまった。それでも。
 向かうは政府塔。私が忠誠を誓った、あの場所へ。

          ☆

「おかえりー。……って、え!? 酷い怪我じゃない!!」

 見慣れた扉を片手で押し開けると、耳に障る甲高い声が響いた。派手な黒い装束を身に纏った女は白いウサギを大事に抱え込みながら、珍しく私の負傷を気遣ってこちらに駆けてくる。高く二つに括った赤紫の長髪が揺れた。こちらも憎まれ口が息を吐くように零れ出る。

「もう少し静かにできない? 傷が疼くわ」
「んなっ。せっかくこの私が気にかけてあげてるのよ!? ほんっと、可愛くないわねー」
「結構よ。ムマの手を借りるほどじゃない」
「あっそ!」

 女は鼻を鳴らして、ゆったりとした黒いソファに再び腰掛けた。そのままティーカップに手を伸ばして優雅に茶をたしなむ。外界の混沌に我関せず、という風なその姿に、勃然と腹が立ってくる。

「――私の心配よりも、自分のことを心配したらどうなの。貴方、あんな小娘一匹捕まえられずに、のうのうと帰ってきたのよね? はぁ……一体どういう神経しているのかしら」
「うっ、それは……」

 頬を紅潮させ狼狽うろたえる。彼女の大きな瞳がせわしなく宙を彷徨さまよった。
 何故こんな使えない女が最高執行部隊に配属され、今も悠々と生きているのだろうか。
 ――なぜ、殺されたのはムマじゃなく、私でもなく…………ナツ、だったのか。

「……ちっ」
「な、なによぅ! 文句があるなら言いなさいよ!! 私だって、面と向かって舌打ちされたら……けっこう、傷つくんだからねっ」
「もういいわよ。私は上に用があるの」

 これ以上生産性のない会話は身体に毒だ。傷口を片手で押さえながら、私は広い部屋の奥を目指した。

「え、この部屋のさらに上って……」
「呼ばれたの、父様から」
「ま、まずはその傷を治しにいったほうがいいんじゃ」
「いいわ。痛くも痒くもないし」
「はぁっ!? さっき傷が疼くって――――」

 薄暗い部屋の一角、冷たい床の上に半径1 m程の円が縁取られている。普段は近寄らないその輪に足を踏み入れた途端、暗い紫の光に身体を呑み込まれた。ムマがはっと息を飲む気配がする。

「最上階へ」

 一寸の迷いもなく、目的地を呟いた。


 軽く瞬きすると、ゴスロリ我が儘女の姿はなくなっていた。代わりに青い警官服に身を包んだ厳格そうな男が腕組みをしながら立っている。金の刺繍が施された黒いマントを羽織っていて、ただの警官よりも位の高い人物であることが姿形からうかがえる。
 その奥で、天井に届きそうな程巨大な漆黒の炎が燃えていた。ドクン、ドクン――と脈動を繰り返しているのが目に映る。
 気味が悪い。思わず眉をしかめた。
 男はギョロリと冷徹な視線をこちらに向けて、厳めしい表情を一切崩さぬまま唸る。

「ようやく来たか」
「あれはなに」

 中央で禍々しく燃え盛るどす黒い炎。あんなものが政府塔の最上階にあったなんて知らない。否。その実、私が最上階までのぼったことは今の今まで一度たりともなかったのだから、当然か。

「――炉心だ」
「ろしん……」

 互いに中央の、“炉心”と呼ばれた炎へ目を向けた。
 父様に対する耐えがたい嫌悪感もこの時ばかりは腹の底にしまう。
 部屋で烈火がめらめらと火花を散らせているというのに、全く暑さを感じないどころか背筋が凍るような悪寒さえ覚える。それは規則正しく、ドクン、ドクン――と脈打っている。

 生まれるのだ。

 直感した。あれは胎動だ。なにか、良からぬものがこの国で産声をあげようとしている。とても長い年月をかけて “なにか” を喰らって成長してきたのだと、本能が呼びかけた。
 ――もしかして、
 
「あれが……H・F様の本体…………?」

 紡がれた言葉に返答はない。沈黙が、私の問いに首肯しているようであった。
 あの邪悪な塊が、私が崇敬してきた“H・F様”だというのか。
 ――冗談じゃないわ。間違っても『アステリア』の生の象徴である《ホーリー・フェザー》と同一視できない。むしろあれは――――
 と、静かに燃え盛っていたそれが突如動きを見せた。まるで生きているかのように黒い火の手を伸ばし、床を舐め回す。一回り大きくなったそれが、私を見た。

     『G-270――』

 ……喋った。
 信じがたいことに、私に向けて語りかけている。それは紛れもない、生命体だった。

     『G-270は、お前か』

 しわがれた声がゆっくりと、そう問いかける。
 その奇妙さに畏怖さえ覚え、気付けば私は片膝をついて漆黒の炎に頭を下げていた。「――は」と震える唇で何とか声を漏らすと、満足げにそれは笑った。

     『ふ、ふふ、ふはははははははははっ』
     『喜べ。私が特別に、力を分け与えてやろう』

 震撼する。恐怖が体中を駆け巡った。独特な掠れ声が、その嘲弄ちょうろうが、耳にこびりついて離れない。とてもこの世のものとは思えないそれが、私に力を与える、とそう言う。
 私は横目で、唇を真一文字に結び依然硬い表情を崩さずにいる男を盗み見た。
 ――どうしてこの状況で、平然としていられるのよ…………っ。
 硬直した私に不満を抱いたのか、笑うのをぴたりとやめてそれはささやきかける。

     『娘、不満があるなら申せ』
「――っいえ、有り難きお言葉に、感激しております」

 心にもない言葉が口をついて出る。すると“炉心”は胸一杯息を吸うように大きく膨らんだ。それがしぼむと同時に、真っ黒な炎心から同様に黒い塊が吐き出される。
 床に転がったそれはまるで粘度のようにうごめき、やがて黒い豹に変化した。しなやかな四肢で体を持ち上げる。暗闇を塗りたくったようにまっ黒な獣だ。
 シャドー……ではないようね。それでも犬が黒豹に変わったことを除けば瓜二つだわ。
 音もなくそれは私へ近づいてくる。美味い獲物を見つけたかのように瞳を爛々とさせ、獣は鋭い牙を覗かせた。驚いた私が僅かに上体を仰け反らすと「動くな」と男が叱咤する。男は険しい顔で私を睨んだ。

「政府軍の数も減った。最高執行部隊なんぞあてにならん。お前がこの塔の砦になれ」
「つまり、この身を捨てろと?」
「H・F様直々に力を与えて下さるのだ。光栄に思わんか」
     『娘、其処の獣に手を伸ばせ』

 痺れを切らした“炉心”が声を荒げた。
 黒豹はいつの間にか私の目の前まで歩を進めていた。その眼光に怯み、紡がれた言葉は震える。

「っ、私、どうなるの?」
「どうもならん。強さを手に入れるだけだ」

 娘が得体の知れない生物と接触しようというのに、彼は無責任にそう吐き捨てた。
 ……そうよね、私は生まれた頃から都合の良い人形だったわ。
 再三思い知らされて、どうしようもなく惨めになる。そういえば腕の負傷についても言及がない。最後の最後まで、父様にとって私は、ただの戦闘道具なのだ。
 ハクを思い出す。あの小柄な体で3匹の黒犬を手懐けていた。シャドーに比べれば目の前の黒豹は若干、いやかなり獰猛どうもうさが目立つ気はするけど……私だって、上手くやれるはず。
 思い切って片腕を伸ばした。そして左手が獣の、漆黒の毛並みに、触れ――――

「う、う゛ぁ、あ゛あああああああああっ」

 絶叫。
 全身が燃えるように熱い。内側から針のむしろで刺されるように痛い。目の奥で火花が飛び散る。
 触れた瞬間“影”となった獣が体内に入り込んだようだった。ハクがそうしてシャドーを取り込むのを見たことがある。まさかこんなに苦痛を伴うなんて。
 私の体が、その異物の侵入を拒否している。

     『わははははははっ』

 おぞましい笑い声が、私の喚き声と一緒になって部屋に響く。
 視界が、細胞が、心が暗黒に塗り潰されてゆく。痛くてたまらない。自我が薄れゆくのを感じた。
 私は脈動を続ける炎を精一杯睨んで必死の思いで叫ぶ。

「お前の目的は、なに……!?」
     『無論、新しい世界の創造だ』
     『娘にはその礎となってもらおうか』

 嬉々として“炉心”は答えた。
 私が間違っていた。政府が、警官が、崇め敬っていた“H・F様”こそ諸悪の根源なのだ。
 力尽きて冷たい床の上にどさり、と倒れこむ。
 
 ナツ、リン、ごめん……。また私、道を間違えたみたい――――

 瞳を閉じる。一筋の涙が頬を伝った。



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