コメディ・ライト小説(新)
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- ☆星の子☆ 番外編更新 (2/1)
- 日時: 2021/02/01 12:58
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3t44M6Cd)
閲覧ありがとうございます^^
はじめまして、またはお久しぶりです。朱雀です。この度執筆活動復帰しました(2019/10/14)。
初めての小説投稿で未熟な部分がありますが、楽しんで読んで頂けると幸いです<(_ _)>
アドバイスや感想などもお待ちしております。
ファンタジー要素満載なラブコメディです。後半からシリアス要素あります。
星の子のキャラ絵を担当して下さっているPANDA。さんがキャラ絵専用ページを作ってくださいました^^
※只今初期のお話を修正中ですので、一人称だったり三人称だったりします。ご了承ください。
>>1 登場人物紹介 (ⅰ) 主人公、部員、クラスメイト、Gトップチーム
>>2 登場人物紹介 (ⅱ) 反乱軍、政府軍
「まとめ」1>>45 〜まとめてみました。
「まとめ」2>>59 〜輝さん(空の義父)の話を簡潔にまとめてみました。
∞1幕∞
1章:1話ー>>3 2話ー>>4 3話ー>>5 4話ー>>9 5話ー>>12 6話ー>>13 7話ー>>15 8話ー>>18 9話ー>>19
2章:10話ー>>22 11話ー>>23 12話ー>>26 13話ー>>31 14話ー>>32 15話ー>>35 16話ー>>36 17話ー>>40 18話ー>>42 19話ー>>44
3章:20話ー>>49 21話ー>>52 22話ー>>56
4章:23話ー>>60 24話ー>>61 25話ー>>64 26話ー>>65 27話ー>>66 28話ー>>67 29話ー>>70 30話ー>>72 31話ー>>80 32話ー>>83
5章:33話ー>>85 34話ー>>90 35話ー>>93 36話ー>>96 37話ー>>97 38話ー>>103 39話ー>>107 40話ー>>114 41話ー>>119
6章:42話ー>>123 43話ー>>132 44話ー>>135 45話ー>>143 46話ー>>148
7章:47話ー>>153 48話ー>>158 49話ー>>163 50話ー>>167 51話ー>>175 52話ー>>191 53話ー>>192 54話ー>>199 55話ー>>202 56話ー>>209 57話ー>>212 58話ー>>214 59話ー>>216
8章:60話ー>>223 61話ー>>237 62話ー>>239 63話ー>>245 64話ー>>252 65話ー>>255 66話ー>>260
9章:67話ー>>275-276 68話ー>>291-292 69話ー>>301
10章:70話ー>>325 71話ー>>328 72話ー>>333 73話ー>>343 74話−>>363-364
∞2幕∞
11章:75話ー>>366 76話ー>>374-375 77話ー>>378 78話ー>>387-388 79話ー>>398-399 80話ー>>403
12章:81話ー>>419 82話ー>>422 83話ー>>426-427 84話ー>>434 85話ー>>436-437 86話ー>>440-441
『戦争』
13章:87話ー>>445-446 88話ー>>452 89話ー>>460 90話ー>>461-46 91話ー>>466-46
14章:92話ー>>469 93話ー>>474-475 94話ー>>479-480 95話ー>>486-487 96話ー>>490-491
15章:97話ー>>498 98話ー>>501-502 99話ー>>505-506 100話ー>>510-511
16章:101話ー>>525-526 102話ー>>532-534 103話ー>>537 104話ー>>539 105話ー>>543-545 106話ー>>551
17章:107話ー>>555-556 108話ー>>566-567 109話―>>779-780 110話ー>>806-807 111話ー>>815 112話ー>>816-817
18章:113話ー>>821 114話ー>>822 115話ー>>825 116話ー>>826-827 117話ー>>831 118話ー>>832-833
19章:119話ー>>837 120話ー>>838 121話ー>>839
☆番外編☆
〜葵〜>>410-411
『100話突破記念 短編3本立て!』
1「冥界」>>516
2「科学者Xの休日」>>518
3「星の子学園! Ep1」>>521
『バレンタイン企画!』
「少女と少年と約束」>>553-554
参照10万突破記念
「富士の山頂にて」 >>841
☆読者の皆様☆
*ちり様 *零十様(虎様) *ボリーン様 *貴也様 *恋音様 *友桃様
*星ファン★様 *山口流様 *アスカ様 *青龍様 *PANDA。様
*。・*+みつき*+・。様 *風様 *ああ様 *宇莉様 *杏様 *王翔様
*あんず様 *朝倉疾風様 *ARMA3様(書き述べる様) *黒田奏様
*日織様 *織原ひな様 *てるてる522様 *ひなた様 *ひょんくん様
*イレラ様 *美奈様
☆朱雀のオススメ!本紹介☆
第一回〜<秘密>>>222
第二回〜<トワイライト>>>250
第三回〜<灼眼のシャナ>>>281
第四回〜<妖界ナビルナ>>>329
☆キャラ人気投票結果発表☆
*第一回>>238
*第二回>>435
☆小説大会☆ 投票してくださった皆様、誠にありがとうございます<(_ _)>
2016年度夏 銅賞
2019年度冬 銀賞
スレッド作成日
2010.7.20
- Re: ☆星の子☆ 116話「仇敵」(2) ( No.827 )
- 日時: 2020/02/11 22:52
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
空だけは守りたい一心で、抱きしめる腕にぎゅっと力を込めた、その時。ザアァァァ――ッと、この場に不釣り合いな音が緊迫した状況を打ち消した。
「へ……?」
二人して間抜けな声が漏れる。僕の身体を両断する筈だった風圧の代わりに、冷水が全身降り注いだ。琥珀の髪からぽたぽたと水滴が垂れ、それは押し倒されたままこちらを見上げる空の頬へ落ちる。そこでようやく、音の正体が冷たい大理石を打ち付ける大雨によるものだと合点がいった。しかしここは政府塔内部。室内で突如雨が降った、ということは――。
濡れてびしょびしょになった軍服が急速に乾いていく。逆再生されるように、少女にかかった水滴が重力に反して浮かび上がり、小さな球となってたゆたう。目を白黒させる空を抱き起こし、よろよろと立ち上がった。
宙に浮かんだ無数の水球は、敵から守るように僕らの前に移動し、一点に集まった。直径2メートル程の巨大な水の塊。そこからパンッと水風船が破裂するような音が響き、弾けた水球から黒いローブ姿の長躯がぬっと姿を現した。
「………………………………………………ヒ、サメ」
初めてその肉声を聞いた僕は目を丸くした。何年も声を出していないかのように、発せられた言葉はぎこちない。短い一言だったが、想像よりも声のトーンが高い。反乱軍随一の長身だったので気付かなかったが、グロさんは女性だったのか……。
黒に染め上げられたローブから、ただならぬ憤怒の感情が漂っている。
ヒサメと呼ばれた男は顔を歪めた。口の端を引き吊らせ、笑いとも怒りともとれる複雑な表情で低く唸る。
「グラウディア……生きておったか、裏切り者め」
グラウディア、とは恐らくグロさんのことだろう。“ガルディメット・ジャッカル”をガルと呼ぶように、『アステリア』の民は親しみを込めて名前を略称で呼ぶ習わしがある。呼ばれたグロさんは身動き一つせず、ローブで隠れて表情も読み取れない。それでいて全身からふつふつと沸き上がる怒りだけは剥き出しだった。
「ぐ、グロさん、助けてくださってありがとうございます。あの……お二人は、知り合いですか?」
「否」
間髪入れずヒサメが答えた。皮肉めいた声色で、毒々しく言葉を続ける。
「そう生ぬるいものではない。なぁ?」
刹那。
パァン――と乾いた発砲音が轟く。空の肩がびくりと跳ねた。
見るとグロさんの手に立派なライフルが握られていた。警官が普段使う小型の拳銃とは、その威力も凶暴さも異なる。グロさんは直立したまま、敵を狙ってさらに弾を撃った。
対してヒサメは、双剣を雑に薙ぎ払う。剣先から生じる風圧が弾の軌道を逸らすため、敵に弾は届かない。攻撃は最大の防御とはまさにこの事だと内心で舌を巻く。しかしグロさんは動じず、的確に銃撃を続ける。
『上へ。早急に』
僕の前に立ちはだかるグロさんから、突如“思念”が飛んできた。彼女と“思念”で言葉を交わすのも今回が初めてだ。予想に反して中性的で優しい声色だった。
さっと部屋を見渡す。部屋の一角に階段を見つけた。しかしそれは僕から見て左奥に位置してあり、上へ行くには必然的に前方のヒサメを追い越さねばならない。
(でも、どうやって――)
『時機を指示。疾走』
(えっ)
指示したタイミングで走れということだろうか。言葉足らずで意味を汲み取るのが難しいと、ガルさんが度々嘆いていたのはこういうことか。
考えている内に彼女の言う時機は訪れた。
『参、』
僕は空の小さな手を握り、さっと目配せを送る。
『弐、』
前方で恐ろしい形相をした男が再び双剣を構える。あれは殺すための構えだ。体の芯が凍える。
『壱』
合図と同時、とにかくグロさんを信じて、僕は空を連れて階段へと一目散に駆け出した。
ヒサメは双剣を全力で振り下ろす――――!
しかし放たれた鋭い斬撃は僕らに届かなかった。部屋の温度が2-3 ℃程低下したような錯覚に襲われる。二つの真空刃が形そのまま虚空で凍りつき、パキパキと割れはじめる。
グロさんの他にもう一人、部屋に侵入した人物がいた。割れた窓の縁に足を乗せ、そこから身を乗り出し
「ヒーロー参上っ!! 光聖、空ちゃん、迷わず上へ進めぇっ!!」
悪戯っ子のような笑みを見せる銀髪碧眼の青年。
必死に足を動かす。階段の取っ手に手をかけた。堰を切ったように、後方では爆発音が爆ぜる。僕と空を傷付けないために手加減していたらしい二人が、本気でヒサメを殺しにかかっていることに少しの恐怖を覚える。絶えず鳴り響く爆音に急かされるように、僕らは政府塔の更に上へと疾駆した。
- Re: ☆星の子☆ 116話更新(2/11) ( No.828 )
- 日時: 2020/02/13 00:03
- 名前: イレラ (ID: XLYzVf2W)
はじめまして。新人カキコ小説家、イレラと申します。
☆星の子☆、愛読させていただいております⭐️
作品を通して本当に尊敬します。
長きにわたって更新し続けられ、沢山のファン(?)を獲得していらっしゃるので、
まさに鑑といいますか…ね?(語彙力は宇宙の彼方へ)
僕もそのような素晴らしい作品を作ってみせます!
この作品は僕の中の何かを変えましたよ、ええ。
まあ、まずは言葉の知識の問題ですかね(笑)
これからも頑張ってください!陰ながら応援しています!
- Re: ☆星の子☆ 116話更新(2/11) ( No.829 )
- 日時: 2020/02/13 14:03
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3t44M6Cd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
@イレラさん
はじめまして! コメントありがとうございます(*^ ^*)
尊敬だなんて勿体ないお言葉です……ただ自分の書きたいものを書きたいときに綴っていたら、こんなに年月が経ってしまいました。4年ほど更新しなかった時期はあったんですが;
語彙力は私もまるで伸びません!笑 最近は本を積極的に読むようにしています^ ^
今後も地道に頑張りますっ。また遊びに来て下さいノシ
- Re: ☆星の子☆ 116話更新(2/11) ( No.830 )
- 日時: 2020/03/09 18:41
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)
こんばんは、朱雀です。
なんと星の子が2019年度冬の小説大会で銀賞をいただきました!
投票してくださった皆様、誠にありがとうございます。
去年の10月に投稿を再開してから、なんとか月一投稿を目標に頑張りました。またこうして評価していただけたこと、素直に嬉しいです。
物語も佳境に入ります。
是非最後まで、空ちゃんと光聖くんの行く先を見守ってください^ ^
気が向いたら記念に番外編を書こうと思います(まずは本編をちゃんと進めます笑
ではまた。
今後もよろしくお願いします(*^^*)
- Re: ☆星の子☆ 117話「戦争の本質」 ( No.831 )
- 日時: 2020/04/02 17:32
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3t44M6Cd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
18章 117話「戦争の本質」
政府塔 光聖、空――
「はぁっ、はぁっ……――――」
したたる汗を拭う。ヒサメと対峙したあとは、その5階上まで誰もいなかった。下層ではグロさんとウルが善戦を尽くしているだろうが、いつ敵が追いかけてくるか分からない。僕と空は疲労が募る体に鞭を振るい、最上階を目指して階段を駆け上がっていた。
跳ねる心臓を掌で押さえる。目が眩み、滴る汗で視界が霞んだ。
「光聖君、体調悪い……?」
空が心配そうに覗き込んだ。
どうしてだろう。確かに政府塔に辿り着いてからというものの、僕の体は調子が悪いようだった。ただの疲労ではないことは薄々感じていた。耳鳴りと頭痛が酷く、ぎゅっと固く目を瞑れば途端に見知らぬ世界へ飛んでいきそうな、危うい浮遊感があった。胸の奥がざわざわする。
知ってはいけない、見てはいけない、開けてはいけない、そんな領域に足を踏み入れているような、いや、もう腰まで底なし沼に浸かっているような…………
「光聖君?」
「あー……、うん。ちょっと疲れちゃっただけ。心配しないで」
無理に笑って返したが、空は依然顔を曇らせたままだ。じっと見つめられると不覚にもどぎまぎしてしまう。
「なんだか……」
空が暗い顔で言いかけてやめた。
遥か上まで続くような階段が唐突に終わりを迎えた。最上階だろうか。唾を飲み込んで僕は足を踏み出した。
ヒサメと遭遇したバルコニーつきの大部屋はその隅に階段があったが、その上階は間取りが異なった。駆け上がった先には長い通路が伸び、壁の片側に幾つかの扉があるのみで、驚くほど静かで人気がなかった。
もう政府塔に警官はいないのかもしれない――
そう楽観したい自分がいる。そんな僕をたしなめるように、胸のざわつきはじくじくと僕を苛む。
「ここが、最上階……?」
通路の奥に黒くて大きな扉がある。幾重にも重ねた羽翼の模様が四角い扉を縁取っている。中央に彫られた鋭い鳥の目に睨まれているようで不気味だ。妙に禍々しいその扉は、一見してその奥に潜む得体の知れないものを予感させた。
どっと汗が噴き出す。先程から僕の心臓はドクン、ドクン――と不自然なほど規則的に、大きく拍動を繰り返す。
逼迫した状況の中、ここで尻込むわけにはいかない。グロさんが早くと背を押してくれたように、僕ら反乱軍に時間は残されていなかった。
(あれ、)
どうして時間がないなんて
――――《奴》が目醒める
夜明けまではまだ時間があるはずなのに
――――世界の再建
この扉の奥になにが
――――急げ少年
なにもかも
手遅れになる前に
「光聖くんっ」
力強く揺さぶられはっと我に返った。
「――――そ、ら」
空の黒目が不安に揺れる。
「っごめんね、僕なんだかおかしいみたいだ……。やっとここまで来たのに、こんな敵地ど真ん中で、空を不安にさせてごめん」
「私こそ……無理言って、ついてきちゃってごめんなさい」
「ううん、空がついてきてくれて助かったよ。まさかグロさんがいるなんて、気付かなかったし。塔に集まっているモノも――」
「それなんだけど……多分このお陰なの」
空は目を伏せて首からかけたペンダントを掌に包み込んだ。淡い蒼色に輝く楕円形の宝石が埋め込まれている。その儚い光に自然と目が奪われた。
「それはリンからもらった……?」
「ううん。これ、元はお義父さんの持ち物だったの。綺麗な宝石だなって子供の頃よく見せてもらったから覚えてる。お義父さん、肌身離さず持っていたから失踪した時に一緒に無くなったと思ってたんだけど……」
「そうか、輝さんの……。空の感覚が研ぎ澄まされているのはそれをかけたから?」
「そうみたい。感覚というよりは、うーん、もっと具体的な……視力が良くなったっていうか。物の本質がよく見えるような感じ、かな」
そして気遣わしげに、どこか寂しげな表情で僕を見た。二人の間に気まずい空気が微妙に流れる。
――――空は僕の本質を見抜いているんだろうか。
緊張しながら続く言葉を待ったが、数秒の沈黙ののち少女はふっと柔らかく微笑んだ。話題を逸らされたようだ。
「あともう少し、頑張らなきゃね」
再び、待ち構える漆黒の扉に目を向ける。緊張の面持ちで僕らは重い扉をぐっと押し開けた。
☆
「――っ、だれ⁉」
甲高い声が廊下に反響した。驚いて硬直した僕と対照的に、空はぱぁっと顔を輝かせ声の主の元へ駆け寄る。
「ちょ、ちょっと空!?」
「ムマっ!」
「わわっ! あら、さっきの……空、だっけ。なに、こんなところまで来ちゃったの?」
敵じゃないのか…………?
ぽかんと立ち尽くす僕のことなんかそっちのけで、女子二人できゃっきゃと騒いでいる。
大袈裟に恐怖を煽った扉の奥には拍子抜けするほど生活感のある部屋が広がっていた。小振りで洒落たスタンド式のランプが閉めきった部屋にぼんやりと明かりを灯している。黒を基調としたソファーやチェア、ピアノ、全身鏡……さらにはテーブルクロスのかかった机に焼き菓子まである。
家具と同様、漆黒のフリルに身を包んだ少女は純白のウサギを抱えて立っていた。大きな赤紫色の瞳と二つに結った長い髪は、派手な装束に負けず劣らず目をひいた。嬉しそうに彼女の方へ駆け寄った空に対して、困ったような嬉しいような複雑な表情で接している。「もうっ、ヒナはどこでなにしてるのよ……」と小さくぼやき、続いてぱっちりした瞳が僕へ向いた。口を尖らせ警戒心が滲む声色で尋ねる。
「で、貴方はなに? 女の子連れてこんな危ないところまでのこのこと」
「……君こそ誰なんだ? 政府塔の最上階にいるってことは敵じゃないのか?」
「最上階?」
ムマと呼ばれた女性は怪訝な顔をした。代わりに空が嬉々として答える。
「ムマは確かに政府軍の子だけど、次に会うときは友達だよって私と約束したんだ」
「ばっ……私は約束した覚えなんてないし! 空が勝手にそう言っただけなんだからっ」
「えー。でももう私に向けて攻撃してこないよ?」
「そ、それは」
頬を赤らめてあたふたするムマ。とりあえず害はなさそうなのでほっと息をつく。
大きな部屋をぐるりと一望するがさらに上へ続く階段は見当たらない。
「ここは最上階じゃないのか……? どこへ向かえば……」
未だガンガンと頭を打ちつける痛みに悩まされながら呟くと、赤紫の瞳が鋭くこちらを射貫いた。
「いい、これは忠告よ。この上へは行かないほうがいい。
……どのみちここへ来るまで遅すぎたわ。大人しく新世界とやらを迎える準備でもなさい」
「新世界?」
ムマはあっさりと重大機密であろう情報を漏らした。何も知らない空は小さく首を傾げる。
――――世界の再建
その言葉がぼうっと脳裏に浮かび上がる。しかし思惑が分からない。いったい誰が。世界を作り替えてどうするつもりなんだ。そして誰がそれに賛同するというのだろう。
「それを知っていて政府に加担したのか!?」
思わず糾弾すると、ムマは一層頬を紅潮させて喚いた。
「んなっ……そんな訳ないでしょっ! 私もついさっき知ったばかりよ。聞いちゃったの、偶然ね」
空の非難がましい視線を感じてうっと言葉を詰まらせる。ムマは苛々と言葉を続ける。
「最上階でもなんでも、勝手に行けば良いわよ。ただ私は親切で良い子だから忠告してあげてるのっ。貴方たち反乱軍がどうこうできる段階はとっくに終わっているわ。もうこの世界は終わりよ!」
「終わりって…………。今何が起こっているの? 私達どうなっちゃうの? この塔にどうして、亡くなった人達の欠片が集まっているの……?」
「欠片?」
堰を切って溢れた言葉のなか、ムマはその単語に反応した。眉を寄せてうーんと首を捻った数秒後、大きな瞳をさらに見開く。両腕のぬいぐるみをきつく胸元で抱きかかえ、震える声で呟いた。
「もしかして、それが燃料…………? ふんっ、やってくれるわね」
まさか。
嫌な予感が頭を掠める。胸の奥がざわざわと悪寒で掻き立てられた。
「まさかっ……空の言う通り魂を失った肉体が塔に集まっているとして、それが『アステリア』を作り変えるためのエネルギーになるのだとしたら……」
「そうね。きっと戦争を起こすことまで計画のうちなのよ。
――あははっ。結局警官も反乱軍も、特別執行部隊の私でさえ、ただの駒だったのね」
二人揃って絶句する。
空も僕も、戦争が始まる前――鍛錬の二ヶ月間は『アステリア』という世界の色々について簡単に学んでいた。僕らは、体力の消耗を伴うけれど自由自在に体を変化させることが可能だし、傷口から流れる血はすぐさま火の粉となって散る。絶命するとほんの数十秒で跡形もなく消滅することに空はかなりの衝撃を受けていた。本来なら魂は天界へ――『アステリア』ではその存在を信じる民が一定数いるようだ――、肉体は僕たちの母なる存在、偉大な《ホーリー・フェザー (Holy Feather)》の“母胎”へ還ることになる。今は、魂を失った肉体の残渣が間違って政府塔に吸い寄せられている状態だった。
僕らは《ホーリー・フェザー》から産み落とされ、最初の生は宇宙で過ごす。惑星を見守るなんていきなりご立派な仕事をこなし、任期を終えたら流れ星となって燃え尽きて、魂は故郷の『アステリア』へ帰還する。……まぁ僕はその過程を省いて故郷に来ちゃったわけだけど。故郷に還った魂が辿る第二の生は人間のそれと大差ない。ただ、どこの家の誰の子になるかは神の采配に委ねられる。人間よりゆっくり年老いて、やがて肉体は“母胎”に帰還する。そこから新たな生命が誕生する――とまぁ、こんなサイクルなんだそうだ。
二回も生死を経験するなんて、うんざりするような話だと思う。レオやウルに聞くと「宇宙にいた頃はあんまり覚えてねぇな」「退屈だったもんな」「光聖も早めに死んでこっちに来いよ」「『アステリア』のがよっぽど楽しいぜ!」「まぁたまーに戦争してるけど!」とおどけて返された。
「それでも……僕は最上階へ行くよ。ここでじっとしていても状況が変わるわけじゃない。反乱軍の皆に託されたんだ」
「わ、わたしも――」
「空はだめっ!」
ぴしゃりと一蹴されて空はたじろぐ。
「最上階へ行くにもセキュリティがかかっているだろうし、無事に行ける保証がないわ。私だって行ったことが無いんだもの、なにが待っているかわからない。ま、彼はそう言っても聞かないんだろうけど」
ムマの大きい瞳が胡乱げに僕を見る。
セキュリティ、か……。敵である僕がそれをパスできるとは考えにくい。引っかかるとどうなるんだろう。
行き方を問うと、ムマは扉から一番離れた部屋の隅を指差した。一見何の変哲もなさそうな冷たい床の上に、薄らと半径1 m程度の円が彫られている。
「あの上に立って目的地を告げるの」
「……それだけ?」
「セキュリティが作動した場合は塔の“最深部”に落とされるわよ」
最後は脅すように声を落として囁いた。最深部……ここが『銀河の警官 (ギャラクシー・ポリス)』の本拠地でもあることを考えると、拷問や処刑に使うような施設があるのだろうか。
ぶんぶんと頭を振って、脳裏によぎった最悪の結末を追い払う。
「空」
小さな肩に両手をおいて空と向き合った。澄んだ綺麗な瞳をじっと見つめて、言葉に力を込める。
「僕、行ってくるから。ここで待っていてほしい」
「光聖君……。私、……もう誰も失いたくないの」
「うん。大丈夫。僕を信じて」
「…………絶対、戻ってきてね」
両目に涙を浮かべながらもそれを決して落涙させず、今度こそ空は頷いた。
☆
大気が震える。
ズン、と全身が押し潰されるような圧迫感に支配されたのは、僕が床に彫られた円に足を踏み入れたのとほぼ同時だった。
まさかセキュリティが作動したかと錯覚したが、どうやら違う。悲鳴が聞こえた後ろでは空とムマが互いにしがみついて上からの重力に抗っていた。
なんだ? なにが起こった――?
僕の焦燥を掻き立てるように、続いて嗄れた男の声が『アステリア』全土に響き渡る。それは酷く恐ろしくて不気味な音声だった。
『我が名は《ホロウ・フェザー (Hollow Feather)》――』
『新たな神としてこの国を統べるもの』
『これよりアステリアを再建する』
聞いたことのない名だと考える一方、奥深くに眠る《 》はその正体を痛いほどよく知っていた。
「お前の思い通りにはさせない――――――――‼」
力の限り叫んで勢いよく円の内側へ踏み込む。瞬間酷く耳鳴りがしてこめかみが悲鳴をあげた。握り潰されるような心臓の痛み。ごふっと二酸化炭素が肺から吐き出る。
目的地を告げる前に脳裏が真っ白になり。
人も自然もなにもかも。
『アステリア』という一国は白くまっさらに塗り潰された。
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