コメディ・ライト小説(新)
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- 推しはむやみに話さない!
- 日時: 2022/07/01 00:45
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
自分の推しを教えると、学校生活即終了!?
何としてでも推しを隠し通せ!
一風変わった高校で、主人公(JK)は今日も今日とて、
推しはむやみに話さない!
どうもどうも、狼煙のロコです♪
『推しはむやみに話さない!』へようこそ。
予め言っとくと、この作品はやべえと思います。いろんな意味でね。
また、本作のキャラである前萌 寧音がまたすげえ奴で、明るめな空間にシリアスなパンチを与えてくれやがるかもしれません。
ご了承ください\(^^)/
一応既に終わりは考えていて、それに向けまったく肉づけしてない中身をねじ込む感じですかね。
まあ気が向いたら見てくれや。
伏線は頑張って入れたいところだが、難しいと思う今日この頃の私は、ラストまで見てくれることを望んでいます。
ご感想、ご指摘等ありましたら、本スレ、または雑談スレ『ナマケカフェ』にてお待ちしてます!
以上作者からの挨拶でしたあ。
『#目次!』
キャラ紹介 >>01
1話 >>02 2話 >>03
3話 >>04 4話 >>05
5話 >>06 6話 >>07
7話 >>08 8話 >>09
9話 >>10 一気見! >>02-10
【見えない!? アニメイトの刺客編】
10話(?視点) >>11
11話 >>12 12話 >>13
13話 >>14 14話 >>15
15話 >>16 16話 >>17
17話 >>18 18話 >>21
19話 >>22 20話 >>23
21話 >>24 22話 >>25
23話 >>26 24話 >>29
25話 >>30 26話 >>31
27話 >>32
背後鬼ルールまとめ >>33
28話 >>34 29話 >>35
30話 >>36←new!
一気見! >>11-
『#お知らせ!』
4/5 閲覧回数200突破!
ありがとうございます!
4/15 【見えない!? アニメイトの刺客編】スタート!
お楽しみに!
12/30 閲覧回数500突破!
ありがとうございます!
『#読者様からのありがたき返信!』
りゅ さん >>19-20 >>27-28
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.32 )
- 日時: 2022/05/30 23:10
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
『#ルール説明は短くない!②』
執事さんがまた一息ついて、説明を再開した。
「背後鬼はこのファッションエリアの二階から六階まででの範囲で行いますぞ。またスタッフ以外立ち入り禁止の部屋やお手洗いの個室などには入らないように」
「え! トイレは!?」
「行きたいなら今のうちに。長い戦いになりますぞ」
「い、行ってきます!」
私は小走りでトイレに向かう。さすがにトイレまでは黒服さんたちはついてこないようだ。ただ、このまま逃げるのは難しい気がする。もしかしたらシールにGPSみたいなのがあるかもしれない。もちろん、逃げる気なんてない。
私はこれに勝って、ローリエちゃんと友達になるんだ。我ながら天才的な思いつき!
道中、私は改めてあたりを見渡す。
やっぱりなにかおかしい。
いつもと違うのは……あっ! 洋服の並びだ!
洋服の位置関係がバラバラになっていて、移動するとき、何度も曲がらなきゃいけない。
それだけじゃない。洋服の位置が高くなっている。正確には並んでる洋服の上にもう一段洋服が並んでいる。
洋服の間に隙間はほぼなくて壁みたいだ。
多分、背後鬼のため?
トイレを済ませ、私はみんなの場所に戻る。早速今のことを聞いてみた。
「背後鬼の肝となる不意討ちをしやすくするために、服の並びはあえて複雑にしておりますぞ。高いところにも洋服があるのは、背の高い私もしっかり隠れるようにするためですぞ」
なるほど~。私は大きく頷きながらローリエちゃんの方を見る。
「なんですの! 私の背が低いと言いたいんですの! キーー!」
「な、なんで分かったの」
「ギイイー! くたばれですわ!」
ローリエちゃんは右左とリズムよく地団駄を踏んだ。かわいい。
「では、対戦形式について話していきますぞ」
私たちも真面目に耳を傾ける。
「背後鬼はペア戦。お嬢様と私のペア、野花様と未来様のペアで対戦しますぞ。基本ルールは先ほど説明した通り。加えて、私にだけ黒服との通信特権が与えられますぞ」
「な、何だって!」
よく分かんないけどなんかヤバそうだ。
「エリア内の各コーナーには黒服を二人ずつ配置しますぞ。彼らは近くに野花様と未来様お二人の姿を発見したとき、この小型通信機で私に居場所を知らせますぞ」
そういうと、執事さんは胸もとのポケットに差し込まれたものを私たちに見せた。まん丸の形をした本当に小さな通信機だ。
ローリエちゃんの話によるとこれも高性能で、通信の雑音が一切なく、通信相手が『まるでその場にいるかのように』聞こえるらしい。音量の調節もできるし耳や服のどこにでも付けられるしと大盤振る舞いだ。
「こんなに黒服さんがたくさんいた理由がそれかぁ」
ここではコーナーで服とかの種類が分けられている。ドレスコーナー、幼児服コーナー、かつらコーナーって感じだ。
だからコーナーごとに二人配置となったらそれだけでたくさん黒服さんがいるってことだと思う。
「その黒服さんたちが私たちの動きを邪魔する可能性がある私たちの居場所だけでなくどこに逃げたか伝えられる可能性があるこっちに勝ち目がない」
未来ちゃんが言った。確かに、これだと勝つのはほぼ無理だ。
「あくまで黒服が伝えるのはそのコーナーに野花様が来たか、未来様が来たか、または二人とも来たのか。それだけですぞ。コーナー外にお二人を見つけても、通信はできませんし、お二人の邪魔もできませんぞ。ゲーム中はどこか一点で静止して、その場から動くこともありませんぞ」
「なんかこんがらがってきた。未来ちゃんはわかる?」
「一応理解はしてる」
「さすが!」
私が未来ちゃんに親指を立てると、そっぽ向かれた。悲しい。
「あれ、そういえばローリエちゃんには通信特権ないんだ」
「ええ、しつだけですわ。ですからわたくしとしつがバラバラになっても、お互いの居場所を確認できませんわね」
「執事さんだけが特権持ちなのか」
執事さんをはやめになんとかしないとまずそうだ。
すると、未来ちゃんは続けざまに言った。
「監視カメラがあるでしょあなたたちはこっそり使うこともできる」
「見くびられたものですわね。ゲームをつまらなくする美しくない不正を私たちがするわけなくってよ! ファサア」
久々のファサア来たー! さすがだよ天使ロリエルちゃん。
「今野花さん変なこと考えませんでしたこと?」
「考えてない考えてない」
とりあえずそういう面での心配はいらないらしい。なんだかんだ優しいんだね。未来ちゃんも一応納得したらしい。
執事さんが様子を見てまた話し出す。
「さて、最後に二つのペアそれぞれの勝利条件についてですぞ」
「それぞれ? 勝利条件が違うの?」
「まず私たちの勝利条件は制限時間九十分以内に野花様と未来様お二人をタッチすることですぞ」
「え!? 九十分って長!」
本当に長い戦いだ。気を引き締めないと。
「そして、お二人の勝利条件はローリエお嬢様のタッチ、または制限時間九十分を過ぎることですぞ」
「あれ、私たち有利?」
「執事さんに通信特権がある分それくらいあって当然」
「そっか」
そもそも不意討ちが大事なこのゲームで居場所がバレるのはでかいもんね。執事さんを相手にしなくていいなんて、このゲーム勝てる!
「全力でお嬢様を守り抜きますのでご承知をですぞ」
このゲーム負ける!
なんてだめだ。絶対に勝つんだ!
「タッチされたらゲームの退場が決定し、それは私とて例外ではありませんぞ。つまり、制限時間内の野花様と未来様の退場で私たちの勝ち。制限時間内のローリエ様の退場または時間切れがお二人の勝ちとなりますぞ」
「なんとなく分かったような分からないような」
「あとでもう一度まとめて説明しますぞ」
「よ、良かった」
私はホッと胸を撫で下ろす。
「ふふっ。もう一つ大事なことがありますわ」
「え?」
ローリエちゃんが不敵な笑みを浮かべて、上目遣いになる。なんだろう?
「それはリタイアですわ」
「リタイア?」
「ええ。あなたたちが二人生き残っているとき、どちらか一人が自分の推しを暴露して退場できますわ」
そんな! そんなこと!
「そんなことするわけない!」
「一人が退場すると、制限時間が二十分短縮されますわ」
「え?」
「つまり私たちが勝ちやすくなる」
「そういうことですわ」
未来ちゃんにローリエちゃんが可愛らしく相づちを打つ。その天使の笑顔がたまに怖くなる。
絶対にリタイアなんてありえない。
「未来ちゃん。頑張ろう!」
「ええ」
いつもの冷めた低い口調に少し熱を感じた。未来ちゃんもやる気だ。私たちは勝って推しの秘密を守り抜く。そしてローリエちゃんと友達になるんだ!
私たち、頑張ります!
「それではルールのまとめですぞ」
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.33 )
- 日時: 2022/06/03 14:18
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
『#背後鬼ルールまとめ!』
・対戦形式
野花&未来ペアとローリエ&執事ペア(with黒服)のペア戦。ゲーム時間は九十分。
範囲は夕星アニメイトファッションエリアの二階から六階まで。一部立ち入り禁止。
館内は背後鬼用に服の並びを変えている。
・背後鬼とは
互いに相手のペアの背中を追いかける鬼ごっこ。両方のペアが鬼でもあり、逃走者でもあるということ。
・基本ルール
簡単に言うと、「タッチ!」と声を出してから相手の背中をタッチすればよい。
ただし、「タッチ!」と宣言してから二秒以内に相手の背中をタッチする必要がある。また、その三十秒後までは再びタッチができなくなる。
声は手の甲の黒のシールセンサーが青に変色する大きさで。
タッチ成功で館内にいくつか設置されたスピーカーからブザーが鳴る。
執事またはローリエがタッチされたら「ビッビー」と二回、野花または未来がタッチされたら「ビー」と一回鳴る。
タッチされた人はエリアから退場。ゲーム終了まで別所で待つ。
・特権ルール
1:執事のみ通信特権を持つ。
各コーナーには黒服が二人ずつ配置されている。
野花か未来、またはその両方の姿を担当するコーナーで発見した黒服は『○○コーナーで△△を発見した』と小型通信機で執事に伝える。
黒服はみなそれぞれの地点で静止し、通信すること以外でのゲームへの関与は不可。
2:野花と未来はリタイア特権を持つ。
使えるのは二人とも退場してないときのみ。一人が自分の推しを暴露して退場するのと引き換えにゲーム時間を二十分減らす。
・それぞれの勝利条件
ローリエ&執事ペア
ゲーム時間内の野花、未来二人のタッチ及び退場
野花&未来ペア
ゲーム時間内のローリエのタッチ及び退場
またはゲーム時間九十分の経過
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.34 )
- 日時: 2022/06/18 17:39
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
『#この勝負は負けられない!』
「さて、ルール説明はおしまいですぞ。ご理解されましたかぞ?」
「は、はい。多分だいじょぶです!」
緊張と不安で体をギクシャクとさせながら、私は全身でうなづく。
やっぱちょっと不安。ゲーム中にルールを忘れたらどうしよう。いやいや、最初から気持ちで負けてちゃだめだ私。ローリエちゃんたちが有利でも絶対に勝つ!
「ああ、それと」
「は、ハイイイイィイ!!」
突然の執事さんの声にびっくりして、思わず背筋を大きく反らしてしまった。
未来ちゃんはため息こそつかないものの、呆れ声を放つ。
「野花落ち着いて」
「はいぃ……」
落ち着け私。はいまずは深呼吸。スーハースーハー。
そのまま胸に手を当て心臓の鼓動を沈めてから、執事さんの話を聞く。
「背後鬼を始める前にこれをどうぞですぞ」
執事さんが何かを手のひらに乗せ、整った動きで私と未来ちゃんにそれを渡した。
「えっと、腕時計?」
白と黒のコントラストをなす、一見普通の腕時計だ。でも、今までの流れから考えるともしかして!
「超高性能腕時計!?」
「ただの腕時計ですぞ」
「え?」
「時間を確認するためのただの腕時計ですぞ」
「そ、そうですか……」
なんだかちょっぴり残念。それに私もう自分の持ってるんだよね。
私は右腕の服の袖をまくって自分の腕時計を執事さんに見せる。『草木の町人』の永音、美知留ちゃん、双葉ちゃんがデザインされていて、ベルト部分は白く、ケースは薄い桃色の可愛らしい時計だ。
そして、執事さんからの腕時計は未来ちゃんだけがつけることになった。
ローリエちゃんは指先を唇にそわせながらいたずらっ子のようににやける。
「時間確認はこまめにするのをおすすめしますわ。『リタイアするタイミング』が大切でしょう?」
「リタイアなんてしないからね! ね、未来ちゃんも」
私が振り向くと未来ちゃんはまたため息をついていた。
「未来ちゃん大丈夫?」
「……ええ」
まだ具合悪いのかな? 未来ちゃんを巻き込んだ以上、私がいっぱい頑張らないと。
腕時計の話が終わると、執事さんは私たちに手を差し出した。勝負前の握手?
「お二人の荷物をお預かりしますぞ」
「え!」
「どうかしましたかぞ?」
「え、えっと~」
それってまさか、私のリュックサックを預かるってことだよね。まずいぞ。
「はい」
「未来ちゃん渡しちゃうの!?」
「さすがにものを盗むことはしないはず」
「当たり前ですわ」
それはそうだろうけど。じゃあ!
「中身を見たりしないよね? ね?」
「見ますわ」
「見るのかい!」
思わずつっこんじゃったよ。それよりどうしよう。
リュックサックの中身はほぼ空だ。六間くんグッズをたくさん入れるためにね。でもなにも入ってない訳じゃない。
お年玉を詰めた財布に、お母さんお手製の女郎花の真っ黄色ハンカチとティッシュ、あとスマホ。そして。
──家にあった六間くん小型人形。
いいじゃん。六間くん連れてアニメイトデートしたかったんだもん。
だからもしここでリュックサックを渡したら……。
六間くんと離ればなれになっちゃう! せっかく一緒に来たのに。やっぱ耐えられないよ。だから。
「リュックサック持ったまま戦います!」
「あら、中に野花さんの推しがいらっしゃいますの?」
「そ、それはどうかな~」
私はリュックサックを抱き締めて口笛を吹いて見せた。完璧だ。
「図星ですわね」
「図星ですぞ」
「野花わかりやすい」
どうしてばれたし。
肩を落とす私とは逆に、執事さんは肩をすくめて言った。
「構いませんが、背中に背負っている以上リュックサックにもタッチ判定がありますぞ」
「なら前で抱えます」
「……くっ。賢い判断ですぞ」
執事さんが少し残念そうな顔をしている。してやったりだ。
私がどや顔をみせつけていると突然ローリエちゃんの高らかな笑い声が響く。
「おーーほっほっほ! これで背後鬼の準備は整いましたわ。それでは、最後にお互いの勝利報酬をわたくしが教えて差し上げますわよ」
ローリエちゃんは大きく手を広げる。この場の執事さんと黒服さんたちを包み込むかのような仕草だ。
「わたくしたちが勝ったら、あなたたちの推しを教えていただきますわ」
やっぱ目的はそれだよね。この勝負は負けられない。
私は思いきり自分を奮い立たせる。
次にローリエちゃんは右手だけを広げ、私たちの方にかざしてみせた。
「あなたたちが勝ったら、アニメイトに売られているものをなんでも、一人一つずつ差し上げますわ」
「いいの?」
「ええ、わたくしに二言はありませんことよ」
それならもう選ぶものは決まりだね。今からでもワクワクだ。
「以上ですわ。ルールを一つでも破ったら敗北ですから気をつけなさい。それでは早速始めましょう! おーーほっほっほ!」
やっぱりローリエちゃんは楽しそうだ。こっちも全力で楽しみながら闘うんだ。そうすればきっと、ローリエちゃんと友達になれるよね。
もろもろの説明も終わり、私たちはゲーム開始前の十分間で移動を始めた。
執事さんとローリエちゃんがどこに行ったかももう分からない。
ここからは真剣勝負。推しをむやみに話さないために、私と未来ちゃんは勝って帰るんだ。
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.35 )
- 日時: 2022/06/23 01:49
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
『#負けなんて考えられない!』
「いよいよ始まるんだね……また緊張してきた」
私と未来ちゃんは四階の永音のドレスコーナーをスタートの位置に決めた。
永音は『草木の町人』屈指の人気キャラだし、しかも今は梅雨の時期。永音はアジサイをモチーフにしたキャラでまさにドンピシャ。だから今日のイベントでは多種多様な永音の服が売られている。実際、目の前には赤や青紫をまとったみずみずしいドレスの迷路が広がっていた。
服の配置がより複雑になって黒服さん達の視界に死角も増えるはず。これが私たちの予想だ。多分合っていると思う。
私は腕時計で時刻を確認する。ゲーム開始まで残り三分。あ、そうだ。楓に連絡入れとかないと。
私は前に背負っているリュックからスマホを取り出し、メールの画面を開く。すると、楓からメッセージがきていた。
『のーちゃんと未来ちゃんどこー? キキちゃんと小麦ちゃんは今一緒にいるよ』
まずい。バッテリーがもう無い! 昨日の夜充電忘れたんだった。早く返信しなきゃ。
「私たちは別の場所で楽しんでるから、楓は楓たちでライブ楽しんでっと」
これをみてキキが嫉妬するだろうか。未来ちゃんと私、今二人きりだからね。くっくっく。
私は指を送信画面に近づけた、その時だった。
「ちょっと貸して」
「え? わっちょっと。未来ちゃんまだ私送ってない」
未来ちゃんは私の右手からスマホを抜き取ると、私が書いた文面を消しはじめてしまった。
「わーーなにしてんの!?」
「なんで助けを求めないの今は絶好の機会」
未来ちゃんが低く尖った口調を胸に突き刺してきた。
なんでってそりゃあ。
「それってズルいと思うし……」
「甘い」
「うっ」
「だから負けるの」
「え? どういうこと?」
「なんでもないとりあえずキキたちに助けを求める」
私が首をかしげている間に未来ちゃんの怒涛の高速タップが炸裂していた。ちょまって。
「だめだよ!」
私は未来ちゃんの持つスマホの上で右手を蜘蛛のごとく歩かせ、適当な文字を入力する。
途端、未来ちゃんの「は?」という声が耳を貫く。ごめん!
「どうして邪魔をするのいい加減にして」
「ほら。ローリエちゃんと執事さんが私のスマホを預からないで自由に持たせたのは、そういうことしないって信頼があったからだよ」
「敵の信頼とかいらないこの状況が分かってるの」
なんだか今日は未来ちゃんの口数が多い。いつも冷静なのに今はすごく焦ってるような。
「敵の信頼はいるよ! こっちが信頼を破ったら、相手も脅しで私たちの推しを暴きにくるかも!」
「それは……」
そうだ。ローリエちゃんは脅しがつまらないからゲームをやってるんだ。私たちがゲームが破綻させたら、脅しに切り替えることだってありえる。
我ながら冴えた発想だ。
「ねえ未来ちゃん。正々堂々戦って勝とうよ。そうすればローリエちゃんたちも推しを暴こうとなんてしなくなるよ」
「だからその正々堂々のせいで私たちは!」
「み、未来ちゃん?」
こんな大きな声出す未来ちゃん初めてだ。やっぱり私のせいでゲームに巻き込まれたこと憎んでるんだ。
「ごめん、私のせいで……未来ちゃんが怒るのも当然だよ」
謝ることしかできなくてごめん。でも、必ず私が勝つから。もう決意してるんだ。ローリエちゃんが真っ直ぐな意思を私に向けてくれたときから。
未来ちゃんは息を吐いた。わずかに震えた呼吸。少しの静寂の後、未来ちゃんは落ち着いた口調で話した。
「こっちもごめん」
「私もごめん。それじゃあお互い様だね」
「野花からお互い様って言うのウザい」
「えへっ」
私は小さくはにかみ笑顔を見せてみる。特に反応はなし。いつもの未来ちゃんだ。
「そういえば楓たちへの連絡は……」
もしかしたらいつの間にか送ってるかもしれない。私はスマホの画面に近づく。あっ。
未来ちゃんが私にスマホを返した。
「もうバッテリーが切れた」
「まじかー」
楓たち心配してるかな? 私たちに構わずライブ楽しんでほしいけど。
私はスマホをリュックにしまうと、拳を天井に伸ばす。
「それならさっさと勝って、すぐ楓たちに会おう! 頑張るぞー!」
「ねえ」
「未来ちゃんなーに?」
少しためらいのような間を開けてから、未来ちゃんは言った。
「最初はなにも言わず私に従ってほしい」
まさか、めったにない未来ちゃんからのお願い!? こんなのOK出すに決まってるよ。
「もちろん! よろしくね」
私は握手を試みたけど、華麗にスルーされた。
「じゃあ、背後鬼で勝てたら握手しようね!」
「勝手に決めないで」
「勝手に決めさせていただきます。ふっふっふ」
「ちっ」
「舌打ちなんて、め! 握手からハグにレベルアップ」
「いや」
「えー。友達なんだし~」
こんな和やかな会話をして私たちは残りわずかな時間を過ごす。そして、
《ブーーーーー》
背後鬼、開始だ。
- Re: 推しはむやみに話さない! ( No.36 )
- 日時: 2022/07/01 00:44
- 名前: 狼煙のロコ (ID: hDVRZYXV)
『#そんな未来はありえない!』
「はあ、はあ」
どれくらい時間が経ったかな。長い間走ってる気がするけど。
私は足を止めずに腕時計を確認する。
──まだ三十分か。
息が熱い。横腹が苦しい。お腹に抱えたリュックが不規則に跳ねて、呼吸が若干崩れる。足で床を蹴るたびに髪をつたって汗が飛ぶのが見えた。
私は額を服の袖で擦りながら桃色のドレスの迷宮を駆け回っていた。
警戒しながらも勢いよく、隙間なく並ぶドレスの曲がり角を右に進む。
「モモのドレスコーナーでNを発見」
まずい! 黒服さんに見つかっちゃった。
突然聞こえた声に私は思わず後ずさりする。
いや落ち着け私。モモシシちゃんエリアは黒服さんが少ない。すぐに移動すれば大丈夫。
ファッションエリアの五階。モモシシちゃんをはじめとする『草木の町人』の人外キャラの服が並ぶ、はずだった階だ。
実際に来てみるとなんと、モモシシちゃんのドレスコーナーしかなくてびっくりだ。一つのコーナーに黒服さんは二人まで。モモシシちゃん二人のコーナーは別々だけど、それでも黒服さんは合計で四人しかいない。
さらに服の並びが他の階よりも複雑だ。
だから簡単には執事さんにも見つからないはず。
モモシシちゃんが推しって言ってたから、ここにローリエちゃんがいると思って来てみたけど……。この服の配置を見る限りはやっぱいるっぽいな。
モモシシちゃんそれぞれのイメージカラーは桃色と黄色。そしてローリエちゃんが着ていたのは桃色のドレス。自分を目立たなくさせるためにモモちゃんのドレスコーナーにいるはずだ。
だから今そこでローリエちゃんを探してるけど、なかなか見つからない。逆に私が黒服さんに見つかってしまう始末。
まあ、何はともあれ場所を移動だ。
──未来ちゃんがいない今、私が一人で頑張るしかないしね。
『──ごめん野花』
未来ちゃんの低くて鋭い言葉を思い出す。さっきまで一緒にいたのにな。なんだか不思議な気分。だけどすぐ会えるよ。必ず勝ってみせるからね。
私はいったんシシちゃんのほうのドレスコーナーに行こうと桃色の壁に沿って進み始める。が、その時だった。
「はあ、やっと見つけましたぞ」
「ぎゃっ」
壁に手をつきながら息を整え、私をじっと見つめる執事さんがそこにはいた。
乱れた前髪をかきあげ、ゆっくり私に近づく。さすがの色気だ。でも今はそれどころじゃない。
「執事さん、なんだか焦ってますね。やっぱここにローリエちゃんが?」
私は作りたてほやほやの笑顔を執事さんに向けて少し煽ってみた。対する執事さんは、余裕の笑みで首をすくめる。
「さあ、知りませんぞ。ルール説明で申し上げた通り、私とローリエ様の間には通信手段がないのですぞ」
「ゲームが始まってから執事さんは何回も見てるけど、ローリエちゃんは一回も見てないんです。どこかに隠れてるんじゃないんですか? こことかこことかこことか」
ローリエちゃんをタッチするか時間切れで私たちの勝ちだ。ローリエちゃんの居場所さえ分かればなあ。執事さん強いから相手にしたくないのに。
私の言葉を鼻息で軽く流すと、執事さんは別の話題を切り出した。
「それにしても驚きましたぞ。まさか、まさか『未来様がゲーム開始数分でリタイア』されてしまうとは」
「……はい。私も驚きました」
私はあくまで平静を装っているかのように話す。下手に反応したら相手のペースに乗せられるかもだしね。
今は感情を押し殺すときだ。
執事さんは不服そうにしながら歩みを止めると、すぐにまた口元をニヤリとさせる。
「あとは野花様、あなたを捕まえるだけでローリエ様と私の勝利ですぞ。未来様のおかげで制限時間は減りましたが、どうやらそれも無駄なようですぞ」
そんなことない。未来ちゃんのおかげで私が勝つ可能性が上がったんだよ。それが無意味だなんて言わせないし、そうさせない。
私は勝つ。
「そろそろこのゲームも終わりですぞ」
執事さんが右足を一歩後ろに下げる。
その間も決して私から視線を離さない。獲物をとらえる狩人の目つきだ。青く透き通った瞳を大きく開いたまま、また一歩と足を下げる。
「このフロアは服の並びが複雑で監視する黒服も少ない。紛れるにはうってつけの場所ですぞ。ですが、私は野花様を見つけてしまった。あとは何度も何度も不意討ちを続けるだけ。はたして逃げ切れますかな?」
「必ず私たちが勝ちます」
「では、それを証明してみせてほしいものですぞ!」
途端、執事さんは私の視線の奥にあった曲がり角に入り、そのまま姿を消す。革靴の床を叩きつける音があたりに響く。
ああ、私今震えてる。これが武者震いなのか、恐怖からくる本物の震えなのか、自分でもよく分からない。
反響を繰り返す革靴の音が耳に入り込むたびに背筋に寒気が走る。
執事さんの最初の不意討ちがくる前に心の中で唱えた。
たとえ今孤独の戦いを強いられていても、それでも私のことを待ってくれる人のために負けられない。
未来ちゃんに楓、キキ、小麦ちゃん。
そして六間くん。さらに六間くん。
いつも通りの私のまま、みんなと接していきたいから。
楽しい学校生活を送り続けたいから。
私は勝つ。何度だって言ってやる。私が勝つ。
私が負ける? そんな未来はありえない!
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