コメディ・ライト小説(新)
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- 独りで立ち上がる水蒸気
- 日時: 2023/05/04 21:25
- 名前: 水蒸気 (ID: rKVc2nvw)
何にも囚われず、僕は空に溶けていく。
2章
カンパネルラ
3章
クチナシ
4章
小鳥
5章
水蒸気
- Re: クチナシは今日も笑わない ( No.26 )
- 日時: 2023/01/29 10:12
- 名前: 水蒸気 (ID: qBhLzr65)
何度も願う幻想。
クチナシの花を花瓶から引き抜いて、床に叩きつける。感情に任せて踏み付け、躙り、バラバラのぐちゃぐちゃになって汚らしいそれを見下ろしては「あーあ壊れちゃった」と他人事。子供が力加減を間違えて玩具を壊してしまったように。
それで楽になりたいのだ。
花は可哀想。
薔薇はまだ良いものだ。摘み取ろうと手を伸ばす人間をその茨で阻むことができる。この可愛いクチナシには、棘の一つもないのだから。摘み取って、踏み躙られて、あれだけ美しく咲きなさいと水を肥料を注いできた身勝手な人間に壊される。
結局どんな夢を見たってクチナシは花瓶の中で生き続けるし、私の指からは血の雫は落ちない。棘のないたおやかな茎に触れて、暖かくもないのに生命を感じる。
君の行動一つ一つが棘として心臓を傷つけること。結局幻想だ。人はそこに棘などないと言う。見えないのだ。私にも見えない。ならば何が刺さるか。
穴の空いた皮膚から零れ落ちる不満が、ただの追憶と追悼でしかない。
判断基準の一つに失望があるように、愛の証明は随分簡単だ。
いつの間にか使っていた水筒にカビが生えている。片付かない部屋の惨状を見てみぬふりしてのうのう吐息をする。
葬列に参加する日を誰よりも待ち望む。
あなたへの期待ばかりが萎れていく。
布団にくるまれて楽になるのならそれでもいい。微睡む夢の中で叶えばいいのに。
最悪の夢を見て、自分が嫌いになっていく。
- Re: 小鳥を結ぶ糸が切れてほしい ( No.27 )
- 日時: 2023/03/03 23:59
- 名前: 水蒸気 (ID: 12T.pym5)
春らしい風の匂いがする。
僕は静かに窓枠に手をかけた。少しの重みと共に、音を立てて硝子戸をずらせば、陽光に暖められた空気が部屋になだれ込んでくる。ほんのり冷たいそれは、肺に満たすとやはり春の味がした。
ちぴぴ、と可愛らしい囀りがする。何処から。庭の木に止まっていた鳶色の小鳥が降りてきて、窓辺に羽を休めた。
クララシカもカンパネルラもクチナシも駄目になったら、次は小鳥さん? 今の僕は最低だ。胸の隙間を埋める材料になるなら、なんだっていいらしい。
手を伸ばすと、小鳥は人差し指に可愛らしくとまる。ちぴぴ、と愛らしい囀りで、どうやら僕に寄り添ってくれるつもりらしい。
鳥かごに閉じ込めてやりたい、と思った。
僕のものにすれば、いつだってこの小鳥は愛らしい囀りで僕の寂しさを和らげてくれる。だけどわかっていた。もう何かに依存してはいけない。何より僕自身が苦しいのだ。
拠り所を見つけては大切にして、いつかは壊れていく。少女を象った人形の首が落ちる。花瓶の中の花はその香りだけ残して朽ちた。この小鳥も、幸福を運んで、僕のもとに留まったなら……王子と共に人の幸せを願った燕のように、冬を越せずに凍え死ぬのだ。鳥かごに閉じ込めたのは自分のくせに、僕はきっと酷い苦しみに苛まれる。
「鳴いてくれてありがとう」
僕は小鳥の止まる腕を振って、どこかへ飛んで行けと告げた。優しい小鳥。だけどきっと、僕は何かを愛することが怖くなっていた。
今まで散々失ってきた。きっとこの小鳥も、僕をいつか見捨てる。冬が来れば南の島を目指して飛んでいくだろう。いつの日か、ぱったりとこの窓辺に来なくなる。
それが怖いから、僕はせめてもの選別にと、小鳥の足に赤い糸でリボンを結んであげた。
でも、小鳥がどこか森の中を通って、木の枝に引っ掛けて解けてしまえばいいのにと思っていた。僕は鳥を縛るようなつもりで赤い糸を巻いた。だけど、僕のもとに留まってほしくなかったのだ。
僕は弱い。この小鳥が明日来なくなったら、寂しくて蹲る。
だけどそれでいい。また誰かを信じて傷付くよりずっといい。
「もうこんなところ、きちゃ駄目だよ」
言いながら、胸が張り裂けそうだった。
小鳥はちぴぴ、と小さく鳴いて、木の幹に止まる。そのまま僕が飽きるまでずっとそこにいた。
- Re: 小鳥を結ぶ糸が切れてほしい ( No.28 )
- 日時: 2023/03/22 07:46
- 名前: 水蒸気 (ID: 12T.pym5)
自惚れかもしれないが、愛されることは怖いことだ。期待に答え続けなければならないから。
そういえば昔、僕に好きな人でもできた? と聞いてきた女がいた。僕が少しおしゃれに目覚めたら、まずは異性の存在を感じるらしい。
気持ちの悪い女。
異性がいないと変われないような、可哀想な女だった。自分のために生きてない証拠だろう。
もしも。愛されているのだとしたら怖くも感じるのだ。関係が変わってしまうのが怖い。求めたくせに怖い。
変な感覚だ。好きなんだけど、そうじゃない。
- Re: 小鳥を結ぶ糸が切れてほしい ( No.29 )
- 日時: 2023/03/25 18:36
- 名前: 水蒸気 (ID: 12T.pym5)
家に猟銃はないけれど、あると仮定しよう。
窓の外にいる小鳥に向けて、ちゃきっと銃を構える。
引き金を引くのは、そんなに躊躇わなかった。
だって、小鳥は煩い。朝からピーチクパーチク。煩い。きれいな羽も嫌い。愛らしい姿も嫌い。
先日、手を伸ばしたら小鳥は指先に止まってくれた。爪が鋭くて痛かったからもう可愛くない。
架空の中から音は出ない。それでも、僕は小鳥を撃ち落としたのだ。硝煙の臭いがして、小鳥の羽が散る。
そんなに悲しいとは思わない。ただ少し、落ち込む。
そっか。クララシカが死んだのもこういうことだったのかな。こうやって失望されたのかな、僕は。
でも、だとしたら気味が悪いよ。
落ちているはずの無い小鳥の死骸を見下して、誰にでも可愛く鳴いていたんでしょ、と聞く。返事などないか。だって、小鳥は死んだから。小鳥は死んですらいないなら。
終わりは結構早かった。
僕はそろそろ独りで生きていくよ。
- Re: 独りで立ち上がる水蒸気 ( No.30 )
- 日時: 2023/05/04 21:43
- 名前: 水蒸気 (ID: rKVc2nvw)
鳥を失うのは早かった。失った、と言うと語弊があるだろう。僕はもう、誰かの肩を借りずに歩いていける。
炊飯器のスイッチを押して、1時間。ホクホクと立ち上る良い香り。それが僕だ。
お湯張りスイッチを押して五分。暖かな湯船から昇るのが僕だ。そんな感じの、形がなくて誰よりも透明で暖かな存在でありたいので、そう思うことにした。
脚なんか無いくせに、歩くことを決めた。カンパネルラは消滅したし、クチナシは手折ってしまったし、小鳥は撃ち殺した。僕の見ていたイマジナリーフレンズはみんな脳内から排除した。
と言うよりは、一人でも怖くなくなったのだ。光が無くたって暗い森を歩けるのは、月明かりを見つけたから。肩を借りずに歩けるのは脚がないから。前を見て、何にも囚われず進んでいく。
これは失望だ。落胆だ。僕の病気は、諦めることで治ったらしい。人に執着する意地汚さを病魔と呼んで、誰かのせいにする。そういう穢らわしさも、最早受け入れよう。僕自身は無色透明の美しいものであっても、その実汚れていても、どうだっていいのだ。
今日はきれいな夜。近所に有名な喫茶店を見つけたから、少しだけ満たされる。
最近、ご飯が美味しいのだ。こんな当たり前のことに幸福を感じられる水滴であれること。朝はたおやかな若葉の上を、朝露となって転がり落ちたい。落ちた先の柔らかな土に溶け込んで、しっとりと世界に馴染む。いつかは穏やかな革のせせらぎとなりたい。
意味の分からない文章は、どれだけ美しく洗礼されていたとて駄文と呼ばれる。僕はこれを駄文だと思う。
これは僕が僕を慰めるための日記だった。原稿用紙を破り捨てては狂乱するような病人さえ、イマジナリーだった。本当は画面の前で文字盤を打ってるだけ。何も狂っちゃいない。可哀想の演出。ドラマツルギー。
日記なんていつやめてもいいし、いつ書いてもいい。僕は文を書くことが好きだし、思考を吐き出すことが療法の一つだった。
正直僕は満たされている。まともになってきている。
葬列が葬列に見えなくなって、穏やかで忙しない、朝のひとコマに見える。冷たい風は季節を表しているから美しい。夏の匂いはノスタルジーに引き込んできて、こそばゆくて切ない。
ご飯は美味しい。
文学において満たされた人間の書く文字ほどつまらないものはないと思う。人は欠けたところを埋めるために文を書く。終わりには満たされることを願って。それをハッピーエンドと呼んだ。
多分僕は、十分にハッピーエンドだ。だからこの物語は終わってもいい。
最近好きな人ができた。嘘、最近じゃない。ほら、満たされちゃって惚気ちゃって、なんてつまらない文章!
それでもこの透明な蒸気が見たいなら、よろしくね。
これはちょっと頭のおかしい人が、自分の頭を整理するための吐き溜めです。