コメディ・ライト小説(新)

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独りで立ち上がる水蒸気
日時: 2023/05/04 21:25
名前: 水蒸気 (ID: rKVc2nvw)

何にも囚われず、僕は空に溶けていく。


2章
カンパネルラ
3章
クチナシ
4章
小鳥
5章
水蒸気

Re: 毒虫になっても君は来ない ( No.21 )
日時: 2022/10/23 11:53
名前: 水蒸気 (ID: Psp69lrY)

 季節は巡る。巡ってしまう。美しかった夏と秋も、いつかは冬と春になる。君はうつくしい季節だったのに、今ではすっかり冷たい雪だ。
 君死に給う事勿れ。誰かに死んでほしくなかった人の言葉だ。僕はこれが凄く嫌い。人に生きてほしいなんて願ったことより、早く死んでくれと願うことばかりだった。呪いばかりが人生だった僕には、眩してく疎ましい言葉だから、嫌い。
 誰かに死んでほしいなんて願いは贅沢なのか。生きてほしいなんて願いのほうが贅沢だろう。人なんて生まれた瞬間から人権だの法律だの感情に縛られる。嫌でも場所を取る、という歌詞があまりにもしっくりくる。邪魔なたんぱく質を、失うことを恐れられるほど愛し愛せること。贅沢だ。僕は殺したいやつのほうがずっと多いのに。

 カンパネルラの死体から芽が出て、花が咲いた。クチナシ。その白さを疎ましく思えど、そればかりだ。
 白くてきれいな花は、きっとカンパネルラの養分で育ったから、僕に擦り寄ってきて、とてもか愛らしい。かわいいクチナシの、花びらを揺らす仕草に、憎たらしさすらあって、僕が汚れてるみたいに思われるから本当に質が悪い。

 このかわいいクチナシの花は、僕がいなければ咲いていられない。クチナシは僕に依存している。カンパネルラを苗床に咲いたくせして、僕に寄生している。握り潰して、花びらを毟りとって、茎を手折って、踏み躙ってしまえればよかったのだが。
 僕はまるで我が子のようにクチナシを可愛がるのだ。可愛いクチナシ。食べてしまいたいほど可愛いから、口に詰めて、喉につまらせて、息ができなくなってしまったっていい。とか思ったのに、僕はこの花を君の代わりに愛して、これからはこの花瓶の花が枯れるまで、僕を養分に吸わせて、いつか僕が枯れるまで、この花に寄生されるのだろう。
 枯らしてしまいたい花に枯らされている。

Re: 毒虫になっても君は来ない ( No.22 )
日時: 2022/11/08 18:22
名前: 水蒸気 (ID: 6qu5WBQD)

 どれだけ薄まっても憎しみを消し去ることができないでいる。あなたのくれた言葉すべて、酷い呪いだ。しね、と願ってもあなたの声が何処までも何処までも何処までも私を蝕む。
 だからこのかわいいクチナシの茎に、鋏を宛てがった。風に揺れて甘く香る。誰のお陰で生きてるかもわからないかわいいクチナシ。
 堪らない気持ちになって、手折ってしまえと叫ぶのに、何かに引き止められて苦痛を知る。こんなこと繰り返して本当に馬鹿みたいだ。

 今日も酷い吐き気。空が青くて嘘みたいな色してる。秋晴れは偽物の空みたい。怯えるみたいに震える体をどうやって起こすのだろう。起こせるけど、気持ちがベットに置き去りになる感覚。吐きそうだ。
 吐き気の理由なんていくらでもあるけど、誰かにわかってもらいたいものでも無いから、吐き出しておいて、トイレに流して無かったことにしておく。

 今日はいきものをころしたくなった。昔からよくあのいきものをころしたくて仕方なくて、僕に行動力がないので殺さなかった。
 普通の人って、誰かをころしたいと思うことなんか無いらしいから羨ましい。本気で誰かをころさなければ生きられないとか、ころしかたを考えたりとかしたことなんか無いらしい。
 普通は無いんだって聞いて、やっと自分が普通じゃないことを知ってどうしてか笑えてきた。
 クチナシを枯らしてしまいたかったのも、いきものをころしてしまいたかったのも、同じ感覚なのだろうか。

 憎悪に喉の奥が焼けるような感覚があった。歯を食いしばって、必死に怒りを堪えた。ころしてやりたいって、明確に思って、なのに、それが親だから。急に自分が可哀想になって泣いていた。
 僕を造ったいきものは、僕を普通に造ってくれなかった。こんなに誰かを怨むこと。妬むこと。何もできない失敗作にされたこと。劣等感も弱さも孤独も。ついて回り続けるデバフに苛まれなければならないことも。ころしたくて堪らなくなる。

 またいつの間にか原稿用紙が文字で一杯になっていた。こういう感覚を自分だけが知っていて、紙面が文字で満たされていく感じだけは、僕だけのものだから。それは嫌いじゃない。原稿用紙を破くときだけ、少しだけ足が軽くなる。その軽さで飛んでしまえたら、鳥になってしまえたら。あの夜に落ちて頭から割れてしまえたら幸せなのに。
 僕はあの冷たさと恐怖に呪われてる。
 破いた紙片が散って、落ちて、部屋を満たしていく。
 こんな意味のない塵芥の中で、文字だけが風を受けて舞う。子供の頃、花見に行ったことを思い出した。そのあと、あのコスモス畑を思い出した。ピンク色の中を走り回って、楽しかったのにな、とか。コスモスの季節っていつくらいまでだろう。

 部屋にはあのピンクの代わりに塵が積もっている。涙ひとつぶ分だけ泣いて、また意味もない言葉が洪水を起こしている。

Re: 毒虫になっても君は来ない ( No.23 )
日時: 2022/12/06 13:01
名前: 水蒸気 (ID: 0otapX/G)

 玉座の上に胡座をかいて、世界を見下ろした。今日はなんて気分のいい日。人のつむじを見て、髪の毛薄いですねと嗤うくらいが丁度いい。
 僕はずっと底辺にいたと思っていた。大貧民。スペードのエースは最強の切り札。僕の隠してきたスペードのエースもジョーカーも、ようやく花開く。
 力の無いやつの言動は苛々する。謙って謙虚なふりをしてその実自分の素晴らしさを誇示したくて堪らないのだから穢らわしい。
 僕はああはならないぞと心の内に誓う。
 この美しい王座に相応しい王冠を守り続けてこそではないか。

 地を這う愚者を見て、僕はあれよりもマシだと思う瞬間にこそ本当の美しさがある。言葉を選ばずに言うのであれば、キモいんだよコミュ症、卑屈な発言で可哀想アピールしてんじゃねえよ。下手くそなくせに調子乗るな黙って練習しろよ。今風に言うと半年ROMれとかか? 自虐ネタも面白くねえし、面白くない時点だネタじゃなくて可哀想アピールと慰められ待ちだろ。お前を見てるとお前のようにはなるものかと背筋が伸びる思いだよ。ダメの模範解答みたいな奴がいてくれて助かったな。お前のしてること以外のことをしておけば真人間でいられるんだな。学校の勉強は大して意味はないけど、学校の勉強すらまともにやらない奴は人間性も小学生以下だからお察しだな。友達がいないことは自虐じゃなくてコミュニケーションが下手であるという自己紹介だろ。まともに人間社会に溶け込めないゴミ人間見てるとお前よりマシだって自己肯定感が上がって健康にいいね。ありがとう。

 それを表に出すことは同じ場所へ堕ちることと同義だから真似してはいけないよ。
 人を見下すことで人は心の健康を維持している。これは誰だってそうだ。それをせずに生きていられる人間はいない。そう思うと死にたくなるね。こんな汚れたままでなければまともに立つこともできないなら、人類滅亡するしかないから。
 人は浅ましい。浅ましいから生きていたくない。

 カンパネルラも昔は僕の神様だったのに、今では僕の手が無ければ枯れてしまう弱い花。手折ることすら僕の意のまま。

「可哀想に」

 白い花弁を撫でるのは、同情と蔑みの入り混じった視線。君の自己評価の高さが本当に気に食わないんだ。可哀想に思うんだ。君は花瓶に咲くことしかできないことを人にアピールするから、それも浅ましくて可哀想。そこで咲くことが嫌なら散ればいいのに、そうしないのだから面倒だなと思うんだ。不愉快なんだ。
 いつか僕が変わりに君の甘い香りごと握り潰して、散らしてしまおうって思うんだ。僕には行動力がないから、きっとそんなことしないんだけどね。僕のささやかな夢なんだ。

Re: 毒虫になっても君は来ない ( No.24 )
日時: 2022/12/18 10:23
名前: 水蒸気 (ID: uuJ5X2Y5)

 私は私のことを好きな人が好きよ。だからこんな花は嫌いなの。
 彼女はそう言ってクチナシの花瓶を倒した。机の上に水が溢れて、広がって、ゆっくりと床に滴る。
 彼女は細い指で花弁を摘むと、反対の手で茎を握り、引いて──クチナシを毟ってしまった。
 そこになんの感情も灯らないのだから、きっと僕はこれを望んでいたのだ。
 床に散る白を見ても可哀想とは思わない。いい気味だとも思わない。
 好きの反対は無関心。誰かの唱えた言葉が正しく意味を持つ。そっか、僕はもう君のこと好きじゃないし嫌いでも無くなってしまったんだ。
 どうでもいい。枯れ葉も山の賑わい。賑わいそのもののようだと感じている。踏むとカサカサ音を立てる。カムパネルラが何だったのかもわからぬまま、僕は枯れ葉を眺めている。

 いつの間にか寒空。熱の有無さえ白昼夢。落ち葉の埋め尽くす街路。その一枚一枚に何か思うことなど誰も無いだろう。僕もそうだった。きっと最初から何もなかったんだ。それは嘘。あった気がするけどもう思い出せないんだ。
 君のくれた言葉が痛かった春も夏も、今ではすっかり冬。雪すら降り積もらないから殺風景。そういう物自体が君だったように思う。

 僕の感情が動くのは君が邪魔をするだけだ。君が悪いから荒れるだけ。僕は悪くない。
 彼女の言う言葉は全くそのとおりだと思う。僕だって僕を好きな人にしか興味がないよ。それでいて、興味もない枯れ葉が僕のものに触れることは邪魔だと思うんだ。

 本当の事に気づく前に終わりにしたい。

Re: クチナシは今日も笑わない ( No.25 )
日時: 2023/01/09 10:14
名前: 水蒸気 (ID: bFuOnLu7)

 ホラー映画って見ることあるかい。あれって、精神的にショックな映像や展開が何度も続くだろう。もちろん僕だってあんなの見るのは辛いんだよ。でもね、辛いことが起こると、心の防衛システムが働くっていうのかな。とにかく、痛みを緩和しようとして脳の中で麻酔が出るんだよ。僕だけかな? アルコール漬けになったみたい、脳がフワフワして昂揚する感じあるだろう。あれが気持ちよくて、心のリストカットとでも言うのかな。あは、ほら、今もフワフワしてきたよ。頭がぼんやり熱くなって、胸の辺りがフワフワするんだよ。心地良いね。花瓶の君を見てると、そうなるの。

 今日もクチナシは美しく咲いている。可愛らしくて、白い花びらが瑞々しく美しい。

 君を花に例えた日からわかるべきだった。
 君は花だから、生き物だけど思考なんて存在しないから、花瓶の中にどんな毒物を仕込んだところで悲しまない。怖がらない。喋らない。
 花瓶の水を変えたってお礼の一つも言ってくれない。手折ったときもきっと、悲鳴の一つも聞かせてくれないのだから。

 だからこそ、蝶と同じくらい愛でることにした。

 愛は偉大だ。こんなに胸が満たされて、心臓の中に花が咲くみたいだ。僕の心臓が花瓶だったとするなら、白い薔薇で埋め尽くされているかもしれないし、オーニソガラムは枯れ果てて、クロッカスが茂るかもしれない。いいや、実際に君の口咲きから咲いて落ちた花で満たされているのだろう。

 僕はクチナシのすべてを許してあげる。君の香りもその白さも美しさも可愛らしさも許してあげよう。その上で呪ってあげよう。

 君の好きなところを10個上げるよりも嫌いなところを20個上げるほうが難しい?
 やってみたことがないからわからないけど。今となっては好きも嫌いも合わせて星の数ほど挙げられるよ。川が流れてひとときとして同じ水がそこに留まらないことが当然であるように。

 君を呪うための歌なら千夜だって歌ってみせる。明日もあなたに会うのだから、いつか殺されてしまう前に、すてきなあいのうたを贈り続けましょう。シェヘラザードのようにあなたを楽しませられなくてもいい。あなたは花瓶の花。きっと最初から、何も聞こえてはいないし、何も感じることだってない。ただ、風に揺られて枝葉を震わすことはあれど、そこに魂はないのだから。

 押すと高い音で鳴く人形みたいに、音が出るのが面白いから押すだけ。そういう感覚で花瓶の花を愛してる。

 君は、僕を異常者だと笑うかもしれない。僕の原稿用紙を笑ってくれるならいいよ。僕のクチナシは何もしてくれないのだから。


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