コメディ・ライト小説(新)
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- 雪と雫と日向
- 日時: 2023/01/14 07:11
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
タイトル
「雪と雫と日向」
あらすじ
容姿も頭脳も生まれも育ちもごくごく平凡な主人公・相沢雫。近所に住む幼馴染の兄弟、篠宮雪と日向は通称「美形兄弟」と名のつくほど端正な容姿を持ち、さらに兄は成績優秀、弟は運動神経抜群という才能の持ち主。決して交わることのないはずの平凡と非凡。日向が雪を溶かして雫が滴る──あるいは雫があれば雪解けを促せて枯渇も防げる……?
目次
プロローグ
>>1
第1章
>>2-25
第2章
>>26-
- Re: 雪と雫と日向 ( No.24 )
- 日時: 2023/01/13 10:09
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
「どうしたの? 大丈夫?」
慌てて走り寄り、声をかける。
そういえば。
覗き込む際の顔の位置が違う。
昔は膝を曲げて首を捻っていたのに、
今は膝も首も曲げる必要がない。
その代わり。
少し目線を上げなければならない。
それだけ、身長差が縮まったということ。
彼の身長が伸びたということ。
彼が成長したということ。
「兄貴は……いや、何でもない」
兄貴──そうか。
雪くんのことももう
お兄ちゃんと呼ばないんだね。
「……なんか寂しいね」
成長するのはいいことだし
必然だし避けられないこと。
それでも、昔の記憶が蘇ると
「あーよかったな」と思ってしまう。
記憶の中の関係はもう過去の話。
仲が悪くなったわけじゃないけど
昔のような距離感ではないということ。
時代が移り変われば人も変わる。
いつか、いずれ、違う世界になる。
あの頃の記憶は記憶に過ぎない。
もう二度と“同じ”にはならない。
- Re: 雪と雫と日向 ( No.25 )
- 日時: 2023/01/13 10:24
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
「……しーちゃん」
──え?
「……えええっ!」
聞き間違いではないだろうか。
自分の耳を疑った。
目の前の彼の表情を見ると。
少し耳たぶが赤い。
どうやら空耳ではないようだ。
「え、え、どういう心境の変化? 懐かしい? 懐かしいよね! 親近感湧くなぁ」
まくし立てる私の声に、
嫌悪の表情を見せ、両手で耳を塞ぐ日向くん。
赤くなった耳が隠れて、ちょっと残念。
せっかくかわいかったのになぁ。
「言っとくけど」
「ん?」
意を決して口を開いた日向くんは。
もうすでに冷めた表情をしていた。
「人前ではちゃんと先輩呼びするから」
宣戦布告のようにそう断言されて、
悲しいような寂しいような。
──あれ。でもそれって。
「つまり、2人のときはしーちゃんなんだ?」
「……お望みならば?」
失言したとか思ってないよね?
自分の発言に責任持ってね。
私は嬉しさのあまり、つい口もとが緩む。
懐かしい感情が戻ってきた気がした。
- Re: 雪と雫と日向 ( No.26 )
- 日時: 2023/01/18 08:48
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
第2章
***
慌ただしい春が忙しく過ぎ去り、
学生や社会人、新生活を迎える者が
手に入れたり与えられた新しいポジションに慣れる頃。
浮かれた雰囲気も
落ち着かない雰囲気も
ようやく沈静化した学校内。
とりあえず高校生活エンジョイしよう
と悠長に構えて遊び呆けるつもりの生徒もいれば。
さあかかってこい
とこれから待ち受ける困難に備えて
戦闘態勢を万全に整えるまじめな生徒もおり。
勉学に励むか、遊びに逃げるか。
両方を選ぶものもきっといるだろう。
──私もその両方を選びたい人間だ。
しかし、あいにく両立させる術を知らない
どっちつかずの選択肢すらない能なしである。
自分が両方を選びたくても、
片方だけですら手に負えるか分からない
不器用な人間だということに自分でも幻滅するしかない。
それなりに努力して、
今現在成績は可もなく不可もなくといったところで
顔面蒼白にならずに済んでいる。
高校生活の方はというと──。
- Re: 雪と雫と日向 ( No.27 )
- 日時: 2023/01/18 09:02
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
残念ながら、
エンジョイできるタイプでもなかった。
そもそも交友関係が狭くて、
結局あれから新しくできた友達はゼロ。
今でも頼みの綱は月夜だけ。
情報屋と取り引き相手か?
と思うようなやり取りばかり。
様々な、些細な報告までも受けて
それに対して何も返せない自分。
月夜にとっては何の利益もないはずなのに
それでも未だに私に構ってくれている。
つまらない人間なもので。
平凡以外の特徴がないもので。
相変わらず友達はできないわ、
会話という会話も事務的なもので
一言交わすか返事するだけか……。
いや、まあ……。
学校生活ってそんなもんだよね。
変に期待した自分が悪かった。
何を夢見てたか、間違いだった。
ドラマや漫画の世界とは違うのか。
現実は甘くない。
理想は脳内に留めるに過ぎない。
勉強ばかりの学校生活なんて、
エンジョイできるものか。
- Re: 雪と雫と日向 ( No.28 )
- 日時: 2023/01/18 09:17
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
私が知る、ドラマや漫画の中での
理想的な高校生活というのは……。
全校生徒が友達みたいな距離感だったり、
若い先生との距離感が異様に近かったり、
──それはまあ嘘くさいと
薄々気づいてはいたけど。
他にも……。
校則違反すれすれでおしゃれしたり、
放課後、友達と寄り道したりはしゃいだり、
イベントには積極的に参加したり、
思い出がたくさんできるのが学生生活。
大人になったらできないこと。
幼いままの遊び心を形にできる年齢。
夢を夢で終わらせないのが高校生。
行動力があって一生懸命なのが高校生。
あくまで理想で、もはや完全に夢の世界。
ドラマや漫画などに影響されまくった
事実行動力も人を動かす能力も皆無な凡人。
せっかく雪くんと同じ高校に入れたのに。
旧友もほぼゼロで
新しい友達をたくさん作ろうと意気込んでいたのに。
──日向くんの制服姿を見たとき。
どうせなら中学生に戻りたいと思ってしまった。
茨の道から逃げたくなってしまった。