コメディ・ライト小説(新)

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雪と雫と日向
日時: 2023/01/14 07:11
名前: once (ID: wsTJH6tA)

タイトル
「雪と雫と日向」

あらすじ
容姿も頭脳も生まれも育ちもごくごく平凡な主人公・相沢雫あいざわしずく。近所に住む幼馴染の兄弟、篠宮雪しのみやゆき日向ひなたは通称「美形兄弟」と名のつくほど端正な容姿を持ち、さらに兄は成績優秀、弟は運動神経抜群という才能の持ち主。決して交わることのないはずの平凡と非凡。日向が雪を溶かして雫が滴る──あるいは雫があれば雪解けを促せて枯渇も防げる……?

目次
プロローグ
>>1
第1章
>>2-25
第2章
>>26-

Re: 雪と雫と日向 ( No.19 )
日時: 2023/01/13 08:23
名前: once (ID: wsTJH6tA)

「気が変わって加入したくなったらいつでも言ってね!」

そのときはちゃんと立ち合ってあげるから、
と照れ隠しなのか顔ごと目を背けて伊藤さんは言う。

「え、あ、うん……」

気を遣ってくれたのか。
初めて知って、私は若干あっけに取られる。

「──ありがとう」

伊藤さんっていい人だね。
思わず顔がほころんだ。

「な……!」

伊藤さんは最初ぎょっとした表情で
私の笑顔を凝視して、すぐに
硬直していた顔を真っ赤に染め上げた。

みるみる移りゆく表情の変化に
なんだか感心してしまう。

「いい人、なんて……言われたことないし……」

紅潮した顔を手の平で覆い隠しながら
伊藤さんはぼそっとつぶやく。

その仕草がかわいくて。
不覚にもきゅんとしてしまう。
──恋心とは違うけど。

「ふふ」
「……まだ笑ってるの」

いつの間にか私と伊藤さんは、
気づけばいつも一緒にいる。

約束したわけでも契約したわけでもない
普通の交友関係を築いていた。

Re: 雪と雫と日向 ( No.20 )
日時: 2023/01/13 08:37
名前: once (ID: wsTJH6tA)

***

「相沢さん、ばいばーい」
「ばいばい伊藤さん、また明日」

未だに名字で呼び合う仲なのが
少し不思議な気はするけど。

今日も学校が終わって。
いつものように校門で道が分かれる。

帰り道が真逆な私たちは。
互いの住む家も知らないし
帰り道を共にしたこともない。

まだまだ知らないことだらけ。

それでも急いで深く知ろうとしないところが
お互いの性質で、共通する部分で、
気が合うのではないだろうか。

「また明日──しずくっ!」

え──!?

伊藤さんは最後に、私の名前を呼び捨てして
一言叫ぶと同時に走り去った。

まさかの言い逃げ?

目の前からいなくなった伊藤さんの残影
何も出てこない残像をただただ見つめる。

消化できない現状。
えっと?

「んーと……明日から名前呼び?」

しかも呼び捨て?
展開が早いなぁ……。

1人、首を傾げながらもようやく歩き出す。
伊藤さん──月夜が消えた方向に背中を向けて。

Re: 雪と雫と日向 ( No.21 )
日時: 2023/01/13 08:52
名前: once (ID: wsTJH6tA)

なんだか胸がざわつく。

原因は言うまでもなく、
耳に残る「雫」という
月夜が言い残したセリフ。

いや、私の名前なんだけど。
まさかの呼び捨てなのだけど。

「急にね、不意打ち」

整理できない現実。
戸惑いつつも嬉しくもあり。
明日がちょっと楽しみで。

つい先ほど別れたばかりの彼女に
一刻も早く会いたくなる衝動。

緊張もするけど、きっと今日の続き。
いきなり名前を呼ぶ、敬称略で。

「つきよ、つーきーよ、月夜」

本人がいないところで勝手に名前借ります。
何度も声に出して練習する。

発音やら尺やら気にして、
なんだろう友達作り初心者みたい。

自分のうぶな反応に、
自分でも驚きと照れがある。

「つきよー、月夜! つき──」
「……誰?」

──ひょっ!?

心臓が飛び出るかと思った。
急に後ろから低い声が飛び込んできて。

慌てて振り返ると、そこにいたのは。

Re: 雪と雫と日向 ( No.22 )
日時: 2023/01/13 09:08
名前: once (ID: wsTJH6tA)

「──え、日向くん?」

懐かしい学ランを着た、懐かしい顔。
清々しいほどの短髪が初々しい。

その表情は相変わらず、
感情を読み取れないクールな真顔。

まばたきする度、同時に
長いまつ毛も上下に動く。

「久しぶりだねー元気?」
「……まあ。誰? 何? ツキヨ?」

日向くんは後輩だけど、
私に敬語を使ったことはない。

生意気といえばそうかもしれないけど、
幼馴染なわけだし、かわいいし許す。

「あーうん、ちょっとね、友達の名前」

ちょっとね、と言いつつも
ほぼほぼ全容を話している自分。

「……はぁ。よそよそしい気がするけど」

興味なさそうな顔して察しがよいこと。
私は苦笑いでなんとかごまかそうとする。

だんまりを決め込んで続きを話さない私に
察しのよい日向くんは深追いしない。

「──し」

し?

「……雫先輩は今帰り?」

ため口のくせに敬称はつくのか。
しかも未だにあなたの先輩?

Re: 雪と雫と日向 ( No.23 )
日時: 2023/01/13 09:47
名前: once (ID: wsTJH6tA)

「そうだけど……昔みたいにしーちゃんって呼びなよー」

雫先輩と言われるのもしばらくぶりだけど。

この世で私をしーちゃん呼びしてくれる人は
たった2人しかいなかっのに。
それがいよいよ1人になるという現実。

いよいよ絶滅危惧される……。

幼い頃のあだ名が高校生になってもなお
継続することって珍しいことなのだろうか?
消滅してしまうのが普通?

「え、いや……」

意表を突かれたという顔で、後頭部をかく日向くん。
つぶらな瞳の奥が揺れるのが見て取れる。
動揺を隠し切れない様子。

そんなに困ることだったかな……?

「雪くんは未だにしーちゃん呼びなんだよ。取り巻きの子の感じで、一般的な思春期男子の感覚が麻痺してるのかな?」

何げなく話したつもりだったけど、
私の言葉を耳にした途端日向くんは立ち止まった。

「え?」

そのまま隣を歩いていると思いきや。
横を向くと日向くんの姿が消えていて驚いた。

「え、何?」

振り返ると、立ち止まっている日向くんがいた。
彼は考え込むみたいな表情で、その場に佇む。


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