コメディ・ライト小説(新)

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雪と雫と日向
日時: 2023/01/14 07:11
名前: once (ID: wsTJH6tA)

タイトル
「雪と雫と日向」

あらすじ
容姿も頭脳も生まれも育ちもごくごく平凡な主人公・相沢雫あいざわしずく。近所に住む幼馴染の兄弟、篠宮雪しのみやゆき日向ひなたは通称「美形兄弟」と名のつくほど端正な容姿を持ち、さらに兄は成績優秀、弟は運動神経抜群という才能の持ち主。決して交わることのないはずの平凡と非凡。日向が雪を溶かして雫が滴る──あるいは雫があれば雪解けを促せて枯渇も防げる……?

目次
プロローグ
>>1
第1章
>>2-25
第2章
>>26-

Re: 雪と雫と日向 ( No.4 )
日時: 2023/01/11 08:30
名前: once (ID: wsTJH6tA)

不慣れなことをすると痛い目に遭う。
おしゃれなんてガラじゃないのに。

結局いつも通り、
着飾らないままの自分で
新しい学校生活をスタートさせることになった。

***

「──行ってきまーす!」

自宅の玄関で靴を履き、
振り返って元気よく言う。

「いってらっしゃーい」

奥の方からそんな返事が聞こえた気がしたので、
──恐らく家事に追われる母の声だろう──
私は安心して扉を開けて家を飛び出した。

間に合うかな?
不安を抱え、時間を確認する余裕もなく
思わず走り出す。

──すると。

「しーちゃん!」

突然後ろから声をかけられて、ぴたりと立ち止まった。
その通称で私を呼ぶ人は、この世界に2人しかいない。

そしてこの声は──。

「雪くん!」

聞き間違うはずがない。
腹の底に響く、心地よい音程と
人を惹きつける、魅力のある声。

Re: 雪と雫と日向 ( No.5 )
日時: 2023/01/11 08:46
名前: once (ID: wsTJH6tA)

振り返ると、そこにいたのは。

「しーちゃん、後ろに寝癖ついてるよ」
「っえ!? うっそ、どうしよ!」

近所に住む、1歳年上の男の子。
篠宮雪しのみやゆきなんて
名前もかわいいけど容姿も抜群。

幼い頃から家族ぐるみで仲がよく
昔はその名がぴったりなほど
愛くるしい見た目をしていた雪くん。

成長するにつれてすっかり男前になった彼は
身長も私を遥かに突き放して伸びたし
顔つきもかわいいより断然かっこいいが完成。

道行く人が振り返るほどの美男子。
二度見必須の爽やかイケメンって感じ。

性格も見た目に劣らず、
まっすぐに好青年に育った。

こうやっていまだに近所の幼馴染に気軽に
声をかけてくれるくらい、満点な男の子だ。

憧れないわけがない。

寝癖の箇所を手で押さえて、愛想笑いで返す。
内心恥ずかしさでいっぱいだ。

Re: 雪と雫と日向 ( No.6 )
日時: 2023/01/11 10:43
名前: once (ID: wsTJH6tA)

しーちゃん、と呼んでくれる人は
もしかしたらもう雪くん1人だけかもしれない。

***

──相沢雫あいざわしずく

「雫ちゃんだからしーちゃんだね!」

初対面で挨拶を交わしたとき、
最初に手を差し出してくれたのは雪くんだった。

優しさと美しさと嬉しさと
いろんな感情が押し寄せてきた。
彼の全てに心と目を奪われてしまった。

意思とは関係なく体が勝手に動いて
その手を取り、握手を交わしたら。

「しーちゃん」

彼の後ろからひょこっと顔を出して
2人の握手に自分の手を重ねてきた少年。

えっ!?

驚きのあまり声も出せずに硬直していると。

「──ははっ、日向ひなたも握手したかったんだね!」

笑顔でその少年の頭をなでる雪くん。
し、知り合い?

「──ほら日向、新しいお友達に挨拶しよう」

雪くんに促された少年が、私の前に出てくる。

Re: 雪と雫と日向 ( No.7 )
日時: 2023/01/11 09:24
名前: once (ID: wsTJH6tA)

「……篠宮日向しのみやひなた

その一言だけ発すると、すぐにそっぽを向く。
先ほどの積極性はどこへやら。

「──日向ってば。……ごめんね? ちょっと無愛想な子なんだけど、普段はいい子なんだよ。僕の弟、しーちゃんの1個下になるかな。仲よくしてね」

代わりに兄である雪くんが紹介してくれる。
弟くんか、どうりで美形なわけだ。

雪くんは全身から滲み出る天使オーラがすごいけど、
一方で日向くんはスタイリッシュな研ぎ澄まされた美貌。

2人とも置き物になってもおかしくないくらい
出来上がった美形兄弟なんですけど──?

***

「──寝癖はなかなか直らないね」

雪くんが困ったように眉をハの字に下げる。
残念ながら寝癖の位置が見えないもので
もう気にしないでおくしかないと思う。

私自身完全に諦めた。
……こういうところが女子力ないんだよね。

自分のアイテム不足に幻滅する。

「──そういえば日向くんは?」

常に雪くんの後ろにくっついている印象、
ではなくて。

つい最近まで同じ中学校に通っていて
どちらかといえば雪くんより日向くんの方が
よく顔を合わせる存在だった。

それが今日は見当たらない。

Re: 雪と雫と日向 ( No.8 )
日時: 2023/01/11 09:38
名前: once (ID: wsTJH6tA)

「ああ、日向は朝練じゃないかな」
「えっ、朝練って部活の?」

意外な返事だった。

だって日向くんは部活動が嫌いで──
というか集団行動が苦手で敬遠気味だったのに。

「最上級生になって部活動の責任が重くなってるんだろうね。朝練なんて、まじめに取り組む方じゃなかったのに」

だからしょっちゅうサボってた。
無断で休んで帰宅したり、仮病使ったり。
試合当日勝手に休んだこともあるくらい。

怒られても懲りずに続けていて、
先輩に目をつけられて叱られていたし、
退部すればいいのに……と思っていた。

「部活、続けてるんだ……」
「せっかく入った部活だからね、そろそろ真剣にしなきゃって思ったんじゃない?」

真剣に……。

「無理しないでね、って伝えといて」

口が勝手にそうつぶやいていた。
雪くんも驚いた顔で私を見る。

「──そうだね」

でもすぐに笑顔を繕って、
雪くんは優しくささやいた。


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