コメディ・ライト小説(新)
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- 雪と雫と日向
- 日時: 2023/01/14 07:11
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
タイトル
「雪と雫と日向」
あらすじ
容姿も頭脳も生まれも育ちもごくごく平凡な主人公・相沢雫。近所に住む幼馴染の兄弟、篠宮雪と日向は通称「美形兄弟」と名のつくほど端正な容姿を持ち、さらに兄は成績優秀、弟は運動神経抜群という才能の持ち主。決して交わることのないはずの平凡と非凡。日向が雪を溶かして雫が滴る──あるいは雫があれば雪解けを促せて枯渇も防げる……?
目次
プロローグ
>>1
第1章
>>2-25
第2章
>>26-
- Re: 雪と雫と日向 ( No.9 )
- 日時: 2023/01/11 09:49
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
***
最近私は学習したことがある。
それは──。
「──雪くーんっ!」
「篠宮雪くーん!!」
学校では雪くんに近づかないこと。
これは入学して一番驚いたことだ。
中学校時代にはなかったあの
漫画の世界でしか知らない
「取り巻き」や「ファンクラブ」が
実在するなんて……。
まず、学校に着いて校門をくぐると
真っ先に取り巻きに囲まれる雪くん。
移動もスムーズにはいかない。
ちょっとの動作もままならないほど。
密集している取り巻きたちに
雪くんは怒るでも騒ぐでもなく
ただただ困ったように笑うだけ。
なんで拒絶しないんだろう?
もしかしてその状況を気に入っている?
私は不思議でならない。
嫌じゃないから否定しないんだよね?
拒否しない理由がないんだよね?
意外だった。
雪くんがそんな……女好きなんて。
私はそっと距離を置いて、
そそくさと靴を履き替え、
自分の教室に向かう。
- Re: 雪と雫と日向 ( No.10 )
- 日時: 2023/01/11 09:58
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
取り巻きだけならまだしも
ファンクラブなるものが実在するらしい。
実際に私も加入しないかと
同級生に誘われたほどだ。
1人では心細いので一緒にどうか?
というお誘いのようだったけど。
新入生がまさか
その子がまさか
雪くんに好意を抱いているとは……。
雪くんはそれほど偉大な人物なのか。
「学年順位また1番だって」
「さすがっ!」
噂話の対象は雪くんのようだ。
確かに先日行われたテストでは
学年順位1位を記録していた。
私もすごいと思ったし
功績だなぁと本人に伝えたところ。
「はは、ありがとう。でもそんな珍しいことじゃないと思うよ」
と謙遜なのか自慢なのか曖昧な返事を残していた。
「どういうこと?」
意味が分からなくて、
でもそのときは聞きづらかったので
同級生に「学年1位が珍しくない意味」を問うた。
そしたら案外答えは簡単だった。
でもそんな……その発言は必要ですか?
- Re: 雪と雫と日向 ( No.11 )
- 日時: 2023/01/11 10:10
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
「篠宮先輩は定期テストで2位と1位を行き来するレベルらしい」
同級生の雪くんファンに聞いた話。
もうそれは武勇伝と呼べるだろう。
雪くんってそんな秀才だったんだ……。
今さらながら、脱帽。
というか全然私が横に並べるような存在じゃない。
一般人以下の私からすれば
有名人以上の雪くんは
もはや別格だ。
「──ねえ,篠宮先輩って彼女いるのかな……」
遠くを眺めながら、同級生が放った言葉は、
心の声がぽろっと出たみたいだった。
「え」
私は完全にフリーズした。
そんなこと……考えたこともなかった。
そうか……そうだよね。
確かに、そういうお年頃だもんね。
可能性がないわけない。
「中学校時代はずっとフリーだったらしい。なんか部活が忙しかったって本人が語ってる噂をファンクラブの先輩から聞いた」
へえ、そうなんだ……。
──っておい。
「君、普通に自分1人でファンクラブ加入しとるやないかい」
- Re: 雪と雫と日向 ( No.12 )
- 日時: 2023/01/11 10:29
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
「えっ!? いやいや、加入する前の段階で。誘い文句にひたすら篠宮先輩の武勇伝聞かされるんだよぉーっ。ていうかまさか相沢さん! 私の名前知らないで今まで会話してたのっ?」
ものすごい剣幕。
今自分の過失ごまかそうとしたよね?
「……え、あ、まあごめん。名前知りません」
私にも非があったので正直に自白して謝る。
自己紹介のときに確か……遠藤? 近藤?
いや、内藤さん、だったような……?
「伊藤ですっ! 伊藤月夜!」
違った……。
すみません伊藤さん。
あまりの申し訳なさに目を伏せるしかない。
「まあ名前のことはいいんだけど。ファンクラブ加入するなら相沢さんと一緒がいいなと思ってて」
え、なんで私指名?
ぽかんと口を開けて首を傾げる。
「だって相沢さん、篠宮先輩のこと好きでしょ?」
…………は?
「──なんでそう思うの?」
私は内心ドキリとした。
いや、ヒヤリだったかもしれない。
「だって」
- Re: 雪と雫と日向 ( No.13 )
- 日時: 2023/01/11 10:41
- 名前: once (ID: wsTJH6tA)
「篠宮先輩のこと名前呼びだったし、興味の対象が先輩だけじゃない?」
他のことには一切見向きもしないのに、
そう言って伊藤さんは頬を膨らませる。
「そ、そう、だっけ……」
私ってそんなに極端だった?
態度にまで現れるほど?
確かに、同じ高校に入ったのも
この学校に雪くんがいるからで。
幼い頃からずっと追いかけてきた。
──きらきら光り輝く雪の結晶を。
降る雪は、掴むとすぐに溶けてなくなる。
積もった雪も、いずれ溶けて消える。
一生残る雪はない。
氷は必ずいつか溶けるもの。
雪くんは消えない。
だって人だから。
分かってはいるけど。
年齢を重ねるうちに
学年を上がっていく度に
雪くんはだんだん遠い存在になる。
この学校に入ったときにはもうすでに
偉大な人物になっていて、
とても簡単に手が伸ばせる存在ではなかった。
確かにまだ、話してみればあの頃のまま
人懐っこい温かな笑顔を向けてくれる。