ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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人生ゲームはデスゲーム 【四章目開始っすな】
日時: 2011/12/28 09:35
名前: No315 (ID: D71pwe7j)

どもども〜、No315です。

とりあえず、小説描くのは初めてではないんですが、久しぶりにも程があるのでおそらく駄文です。
よろしくお願いしま〜す。
あ、荒らしはするなよ〜





ある日の彼は思いました。
  なぜ、自分だけがこんな目に遭うのかと。

ある日の彼は思いました。
  なぜ、他の人はみんな幸せなのだろうかと。

ある日の彼は思いました。
  他の人は人生をどう感じてるのだろうと。。

ある日の彼は考えました。
  どうすればそんなことを知ることができるのだろうと。

ある日の彼は気づきました。
  そんな方法などないと。

ある日の彼は思い出しました。
  自分の今までの最悪な人生を。

ある日の彼は思いつきました。
  人生が変わった時、人はその人生をどう見直すのだろうと。

ある日の彼は始めました。
  狂ったような、人生のデスゲームを。




 第一章「始まりの日 Geme Start」
>>1 >>2 >>7 >>8 >>9

 第二章「世界のルール Game Rule」
>>13 >>14 >>15 >>16

 第三章「真実は裏側に Darkness Truth」
>>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23

 第四章「プレイヤーと日常 Everyday Battle」
>>24 >>25 >>26 >>27 >>28 >>33 >>34 >>35 >>36 >>37 >>38

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Re: 人生ゲームはデスゲーム 【ただいま三章目】 ( No.19 )
日時: 2011/10/10 13:08
名前: No315 (ID: vBUPhhME)

篠崎紅架とは翔と同じ、奏神高校の同級生であり親友だ。紅架と知り合ったのは一年の時で、入学式が終わった後、翔が同じクラスの顔と名前を出来るだけ速めに覚えようと周囲を見渡していると、不意に隅っこの席でただ一人、誰とも関わらずに、何も見ずに座っている篠崎紅架が目に入った。そしてその顔を見たとき、思わず紅架の席まで移動し、声を掛けてしまったのだ。
その表情カオが中学の頃の誰かに似ていたから。

「よ、出席番号九番の篠崎紅架」

 名前と出席番号は前の黒板に書かれていたのですぐ分かった。だか、掛けた言葉がまるで、中学からの知り合いが軽く話しかけるような第一発言だった。なんの計画性も無しに声を掛けた翔は内心で『しまったぁぁぁぁぁ!』と叫び散らしていた。翔の言葉に紅架はピクリと反応し、ゆっくりと翔の方を向く。その目はしっかりと翔を捉えているが、翔を全く見ていない。いや、見ようとしていない。
 紅架は翔の顔を少し眺め、前の黒板を見る。おそらく翔が誰なのか知ろうとしているのだろう。だが、翔は席に座っていないので、席を基準として書かれた名前の欄を見ても、意味が無い。紅架もすぐそれに気づき、翔の方を再び見る。そして、

「誰?」

 とだけ言う。喋る際に瞳が少し揺らいだのが気になったが、とりあえず翔は、無計画で突っ込んだ自分を恨みながらスマイル。

「俺は雨原翔。出席番号二番。お前と同じクラ……」

「あ、そう」

 翔が言い終わる前に会話終了。紅架はもう翔の方を向いておらず、ただ最初と同じように、なにも見ずに、ただそこに『いるだけ』の状態になっている。
 一方、会話を無理やり打ち切られた翔は、スマイル状態のまま口元を引きつらせ、硬直している。
 どうやら、意外と手強いようだ……
 翔は硬直したまま、次にどんな声を掛けるか脳をフル回転させて考える。紅架は翔がずっといるのは気づいているのだが、咎めることも、見ることもせず、座っている。翔はしばらく思考した挙句、友好関係を深める時は使えと言われた父親の言葉を使うことにした。

「あー、篠崎」

「何?」

 紅架は無視をする気はないようで翔の言葉にきちんと反応し、もう一度翔を見る。相変わらずその目は捉えるだけで見てはいないのだが、次の翔の行動に少なからず紅架は絶句した。
 翔はスッと息を吸うと、足の間隔を二十五cmに広げ、左手を腰に当て、右手を胸の中心から二十二cm離した状態で親指をグッと上げる。そして、お得意のスマイルと共に白い歯を煌めかせ、

「親友になろうぜ!」

 ……と言った。
 翔が出した声は教室中に響き渡り、クラスメート全員が翔と紅架に注目する。紅架は完全に唖然としており、口をポカーンと開けたまま翔のことを『見ている』。
 教室内に静寂が走る。その静寂が何秒か続くとついにその静寂は破られた。しかし破ったには翔でも紅架でもクラスメートでもなく、

「雨原君!」

 とどこか緊張した声を上げながら、教室の入り口の前で立たずむ他クラスの女の子であった。

「はい?」

 翔は呆けた声を出しながらその女の子を見る。
今自分のことを呼んだのだろうか? っいうかどこかで見かけたような……
 その女の子は他クラスの教室内にズカズカと入り込み、翔の目の前まで歩く。顔が真っ赤になっている。入学早々熱でも出したのだろうか?

「あ、あの! お話があるので、放課後屋上に来てください!」

 唐突に女の子が叫ぶようなボリュームで言い、そのまま顔を真っ赤にしながら教室から出ようとするが、その肩を誰かが掴んだ。振り向くと少し困惑したような表情の翔が女の子の肩を掴んでいた。女の子の方は自分を掴んでいるのが翔だと気づくと、ただでさえ真っ赤な顔がさらに赤くなり、何かを期待するように翔のことを見る。

「えっと、君」

 翔は戸惑いながらもゆっくりと口を開ける。女の子は翔の次の言葉に期待をふくらませながら、翔の言葉を待つ。

「え〜、屋上は危険だから普通に閉鎖されているよ? だから待ち合わせるなら校門とかにしたほうがいいと思う。あと物凄い熱があるけど大丈夫? なんなら保健室に……ってあれ? どこ行くの!? おーい!」

 翔の言葉が終わらない内に女の子は光る青春の涙を溢れさせながら教室をジェット機のような勢いで出て行く。グッバイ。我が恋よ。
翔は混乱しながらも慌てて走り去った女の子の後を追う。
 ちなみに、先ほどの女の子が、翔の志望した高校を調べ上げ、受験間際にその高校に志望校を変え、そしてそのまま入学するという荒技をやってのけた片思いの生徒だということは知ることもない。
 残った教室内の生徒達は、入学したてで告白しに来たあの女子とその告白に全く気づかなかった翔に呆れ半分、感激半分でため息を一斉に吐き出した。
 その様子を紅架はずっと見ていた。

 翌日。
 結局、あの女の子が誰だったのか分からず、どこか釈然としない様子で登校した翔。教室に鞄を置き、また、クラスの顔を覚えようと周囲に意識を向けようとした時、不意に後ろから声が聞こえた。

「雨原……だっけ? まぁ、親友くらいならなってもいいぞ」

 振り向くと紅架が翔のことを見ていた。その顔もどこか楽しそうで、昨日のような無感情さは見られない。なぜいきなりこんなに友好的な性格になったのかは謎だが、翔は特に気にすることはせず、

「あぁ、よろしく、篠崎!」

 笑顔で紅架の元に歩み寄り、差し出されたその手を握るのであった。
 そして二年になった頃、翔と紅架はまたもや同じクラスで、常に二人で行動し、周囲からも親友と認識されていた。そんな平穏な毎日が『あの光景』で一瞬にして壊された。


Re: 人生ゲームはデスゲーム 【ただいま三章目】 ( No.20 )
日時: 2011/10/22 23:18
名前: No315 (ID: vBUPhhME)

その日、翔と紅架はいつものように歩きで下校していた。そしていつも通っている奏神公園を抜けた所で、紅架の元にサッカーボールとその持ち主の子供が現れ、その子供が走り去っている所でいきなり紅架の様子がおかしくなった。
 紅架は走り去る子供に何かを叫び、それが聞こえていないと知るや、物凄いスピードで走りだしたのだ。その時翔は、いきなり走りだした紅架を呼び止めようとしたが、紅架は聞こえていないのかそのまま走り続ける。そして紅架がその子供に追いつくとその小さな体を突き飛ばし、それは起きた。
 派手なクラクションと甲高いタイヤの滑る音が同時に響き、紅架に何か巨大な物体が目にも止まらぬ速さでぶつかってきた。紅架はその物体に抗うことはできず、まず頭を強打され、服などが何かに引っかかったのだろう、そのまま前に進もうとする物体に紅架は引きずられ、その物体——電気自動車が止まる頃には紅架は奏神高校の制服を赤に染めていた。翔はその光景をいまだに理解することは出来ずにただそこに立ち止まっているだけだった。だが、先ほどの子供の泣き声ではっ、と目を覚まし、鞄を放り投げながら、紅架の元へ走る。
 ただ紅架の名を叫びながら。

その後、翔は車の運転手の携帯を取り上げ、病院に連絡した。そして一番そのまま翔と紅架は埼玉の私立総合病院に送られた。そして、紅架はまずそこで、手術をするのだが、あまりにも外的傷害と脳のダメージがひどいため、応急処置だけをして、県病院に任せることになった。そこで埼玉ではなく、東京の新宿のとある病院に紅架が輸送されると翔と病院の連絡を聞いてやって来た紅架の家族達は告げられ、翔は紅架の家族に送られ、新宿へと向かった。

そして、今に至る。
今、紅架は、怪我はなんとか全て治したが意識不明の状態で様子を見る状態となっている。脳のダメージはまだ深刻な状態なので、安静にするために、翔達はロビーで待つことになっている。ロビーには翔と稔以外に紅架の父親や奏神高校の教師などが来ている。いつもの翔なら待ち時間がある時はいつも誰かと雑談などをするのだが、今はとてもそんな気分にはなれない。なにせ、翔はもしかしたら紅架をこんな目に遭わせずに済んだのかもしれないのだ。
あそこで紅架を止めていれば、紅架を救えたかもしれない。
あそこで男の子に会わなかったら、紅架は走り出さなかったかもしれない。
あそこであの道を通らなかったら……
あそこで俺が、紅架を誘わなかったら……
 いくらでもあそこで紅架をあんな目に遭わせずに済んだ方法があったかもしれない。いくら仕方ないと言っても親友が目の前で事故に遭ったのだ。それで平気でいられるはずが無い。

Re: 人生ゲームはデスゲーム 【ただいま三章目】 ( No.21 )
日時: 2011/10/23 21:22
名前: No315 (ID: vBUPhhME)

「雨原君」

翔の様子を見ていた稔は、そっと声を掛ける。翔が顔を上げると稔は大体翔の心境を察しているのだろう。そっとため息をつく。

「別に雨原君が悪いわけじゃないよ。実際、雨原君が迅速に行動してくれたから早く病院に来れたじゃない」

「でも……」

 翔は無表情な顔で稔から目を逸らす。

「いくら迅速だろうが結果は変わらなきゃ意味ないし、起きてしまったことは変えられません。俺がどれだけあそこで冷静になろうが紅架の身に変化なんてないんですよ」

「あら、前向きの君が言う台詞かな?」

 それでも翔の表情は変わらず、ただ黙る。稔はそのことに気づいているが、あえて一方的に翔に話しかける。

「確かに、君がどんな行動をしようが起きたことは変わらない。起きてしまったことから逃げないのも正しい。でも君が悪くないのに必要以上に責任を抱えるのはどうかな?」

 その言葉に翔は稔に視線を向けるが、いまだに黙ったままだ。翔だって責任を抱える必要がないと気づいている。しかし、どういうことかそれを降ろすことができない。否、自分が手放そうとしていない。心のどこかで自分が悪いと感じているのだろう。心のどこかでどうして自分でなく紅架が傷ついたのだろうと思っているのだろう。翔はどうしてもその思いを否定することができずに、かなり中途半端な感じで責任を背負っている状態だ。
 そのことを稔に言うこともできずに、ただ一人でそのわけのわからない中途半端な責任を背負ってしまう。もう、自分がなにをするべきか、何かを償うべきか、それさえも分からない。
 そう……

「……背負いたくて背負ってるわけじゃない」

 無意識に翔は呟く。そしてすぐに声に出したことに気づきはっ、と稔を見る。当然、稔は全く聞き逃しておらず、少々目を見開いたがすぐに元に戻り、はぁ、とため息を吐いた。

「なるほどね、だいたい分かったわ」

 稔は平然とした顔で言う。

「表面上はちゃんと自分は悪くないと『理解』しているけど、雨原君のその優しい心が勝手な罪悪感を生み出して、自分が悪いという『思い』が『理解』を包み込んでいるってところかしら」

「……そんな感じです」

 翔はまだあまり理解していない様子で頷く。稔はそんなことお構いなしで続ける。

「別に、それは悪いことではないけど、今のように優しい心で生まれた罪悪感がその心自体を潰すっていうのはやめたら?紅架をそんなに思ってくれるのは嬉しいけど、紅架が目を覚ました時に今みたいな雨原君がいたら凄く落ち込むでしょうしね」

「じゃあ……どうすればいいんですか」

 翔は無気力に呟く。いまだに自分の心を整理できていない。そんな翔はなにをすればいいのか全く分からない。確かに自分のせいで目覚めた紅架がまた傷つくのは嫌だが、今の状態からどうすればいいか分からないからなにもすることができない。
 稔はそれを見ると少し微笑みながら平然と言う。

「いつもの雨原君でいいんじゃない?」

 翔は目を見開く。たったそれだけのことだろうか?翔は稔にそんな視線を向ける。それに稔はやはり平然と答える。

「だから、紅架が目を覚ましたら、いつも通りの前向きな雨原翔が迎えてあげるだけでいいんじゃないかな。そしたら、ちょっと怪我がひどいけどいつもの二人に戻って一件落着。それでいいでしょ」

 いつも通りの雨原翔。
 そうだ。それだけでいい。簡単なことだ。紅架が目を覚ましたら、まず怪我の具合などおかまい無しに殴ってやらないとな。あんなに無茶したんだし。もしそれで記憶喪失になっても別に構うことではない。それが、いつもの雨原翔。そして、いつも通りの、俺達の日常に……

「確かにそうですね……ありがとうございます。とりあえず、いつも通りの俺として、目覚めた紅架をぶん殴ってやります」

「うん。どこからそんな思考が出てきたのかは知らないけど、元の雨原君に戻ってよかった。そういう切り替えのいい所が雨原君の長所だよね」

 そこには、もう絶望に暮れた翔ではない。いつもの、前向きな雨原翔がいた。

「紅架、目覚めますかね」

「目覚めるでしょう。なんせあたしの息子の紅架よ」

 稔は自信満々に言う。どこからそんな自信がでてきたのかは、何ヶ月か前、紅架の家に行った時の会話を思い出すと、容易に想像できるが今は言わないでおこう。
 とりあえず、翔はその自信については触れず、少し真顔になって言う。

「でも、稔さん。不安なんですね」

「ん? どうして?」

 翔の言葉に稔はキョトンとした顔で翔の顔を見る。

「もし紅架が帰ってこなかったらと思って、不安でいるんですね」

「何言い出すかと思えば、大丈夫よ、あたしはそんなに弱気じゃないって」

 稔は笑いながら翔に言葉を返すが、翔は表情を崩さぬまま、稔の左腕を指差す。

「だって、左手、すごく震えてますから」

「あっ」

稔はしまった、という風に左腕を隠すがもう遅いと察したのか、少し俯き、呟く。

「……うん、実際不安なんだよね、あたしの息子だから、なんでも乗り越えられると思ってるけど、実は不安。いくら強気に振舞ってるあたしでも紅架がいなくなると思うと……胸が、痛い……怖い」

「稔さん……」

 翔はこんな状態の稔にこの話を持ち出すのは気が引けるが、できるだけ早く覚悟を決めてもらわないといけない、と自分に言い聞かせる。自分勝手だとは思うがそれが正しいと決めたから、翔は稔に話す。

「よく聞いてください。俺はあの時、救急車が来るまでずっと紅架の様子を見ていたから分かりますけど、あそこまで怪我や出血をした状態でもう五時間は経っています。いくら応急処置をしたといってもあれじゃあ……」

「やめて」

唐突に稔に遮られた。稔は俯いたまま少し震え、少しずつ言葉を搾り出す。

「まだ……分からないよ……いくら意識不明だからって紅架は実際ここまで『まだ』生きてる……生きてるんだよ。なのに諦めるなんて……そんなの……親らしくないし、あたしらしくも……」

「稔さん」

 翔はすこし語気を強めて稔を呼ぶ。

「確かに紅架はここまで頑張ってきました。確かに紅架は強いです。でもその強さはあんな怪我さえ耐えられる強さではなく、ここまで必死に生き延びた強さなんです。でもそれも限界なんですよ。もう許してあげてください、紅架を。そして、覚悟を……」

「篠崎さん。院長がお呼びです。奥へ」

 突然受付の人が呼び出しをして、翔の言葉は中断される。紅架の父親や教師が立ち上がって奥に行くのを見て、稔も立ち上がり、

「いくら無理なことでも、最後まで足掻いてみたいじゃない……」

 そう翔にしか聞こえないようなボリュームで呟きながら後に続いて行った。それを見、翔も後を追って歩きだす。
 覚悟しなければならない。その行為が親友を見捨てるような行為に見えても。
 それが、紅架にできる、最後の思いやりだからだ。

Re: 人生ゲームはデスゲーム 【ただいま三章目】 ( No.22 )
日時: 2011/10/24 21:38
名前: No315 (ID: vBUPhhME)


「えと、篠崎紅架さんのご両親と担任の先生。そして、紅架さんのお友達ですね」

 翔たちが案内されたのはとある一室の手前であった。そこにおそらく院長らしき人物が待ち構えていて、軽く挨拶を行った。

「それで……紅架はどうなったのですか」

 稔が落ち着かない様子で早く紅架の状態を聞きたがっている。それは翔を除いて皆同じことだった。

「篠崎紅架さんは、頭をかなりの勢いで頭を強打して、その時点で脳が潰れて死んでもおかしくありませんでした。しかし、彼は驚異的な力強さでここまで生きてきました。手術前にも一度目を覚ますほどの生命力でした。そして、その紅架さんですが……」

 院長は心底申し訳なさそうに、ただ、現実を告げる。

「……その強さにも限界が来たようです。先程、息を引き取りました」

 紅架が死んだ。
 院長の言葉は的確にその現実を告げていた。それを聞いた稔と父親はその場で肩を寄せ合い、俯く。教師はその二人を見てどう言葉を掛けるかを迷っている。翔はだいたいの覚悟はして聞いたのだが、やはりなかなか耐える事のできない事だ。歯を食いしばり、そっと俯く。院長はその様子を見て、少し気まずそうに言う。

「……奥に紅架さんがいます。会いに行ってあげてください」

そして、翔達は部屋の中へと促される。

カーテンが閉められたほぼ白で統一された部屋。静寂が支配し、薬品の臭いが微かに感じられる部屋。部屋の隅に一つのベッドがあり、そこに静かに眠るように目を閉じる親友の姿がある。怪我の痕が少し痛々しく残るその顔は苦しそうとも幸せそうとも思わせない、ただ目を閉じてるだけのような表情。今にも目を開けそうな様子だが、そんなことはありえない。翔はそっと心でそう念じた。せめて、親友の前で情けない顔は見せたくない。

「紅架……」

 稔がそっと呟き、紅架の元に歩み寄る。紅架の顔を見つめ、何度も頬を撫でる。父親も紅架の元に歩み寄り、「紅架……紅架……」と繰り返し呟く。
 しばらく翔はその様子を見ていると誰かに肩を掴まれた。振り向くと担任が気まずそうな顔で翔を見ている。

「雨原君。君も悲しいだろうけど、今は家族だけにしてあげよう」

「……はい」

 翔は最後に稔と父親、そして紅架を少しだけ見つめ、部屋を出て行った。

気がつくと、翔は見知らぬ廊下を歩いていた。
 部屋から出たあと、担任と一言二言交わした後、ロビーに戻ろうと歩いていたら、少しボー、として、いつのまにか見当違いの廊下を歩いていた。初めて来る病院だから、基本的に右に部屋、左に部屋。のような光景だけが見えてる気がする。
 とりあえず、誰かに道を聞いてさっさと戻ろう、と人を探すことに目的を変える翔。しかし、あまり使われていない部屋ばっかりなのか、なかなか人が見当たらない。
 だんだん不安になってきた翔の耳に、ふと、人の話し声が聞こえた。翔はやっと人が見つかったと、声のした方に近づくが、

「それで、今日来た患者……篠崎君だったかな? 彼のデータはどうなってるんだい?」

 唐突に現れた篠崎という単語にピタッと足を止める。翔の目の前には応接室と書かれた部屋があり、どうやらここから声が聞こえるようだ。

「はい、手術前にちゃんと『デジタルクローン』をスキャンしました」

 どうやら、部下と上司の会話だろう。なにやらわけの分からない単語が出てきているが、それと紅架がどう関係しているのかがとても気になる。

「よし、それじゃあ後でソフトに送り込んどけ。あと……」



「篠崎紅架はちゃんと死んだか?」



「なっ!?」

 翔はその上司らしき男の言葉に驚愕する。病院の中で患者にちゃんと死んだか確認するなんて、あきらかにおかしい。翔は周りに人がいないのを確認し中の会話に集中する。

「はい、っていうかあれはもう治しようがありませんでしたよ。見ただけで物凄くひどかったし。目立つ怪我とかは治しましたが中はそのままほっておきました」

「よし、それでいい」

わけが分からない。なぜ、そんなことをしているのか、患者を治さずに見殺しにした?
翔は突然でてきた展開について行けずしばし混乱する。しかし、なぜか頭の隅ではこいつらが紅架に何かをしていると冷静に解釈していた。

「それにしても、よくこんなことしてばれませんね。もう何年も続けてるのでしょう?」

「ああ、俺達が狙ってるのは、死にそうな患者だからな、少ししか死亡率のない奴はとことん治してるし、時々本気で治す時もあるからな。ほら、手は尽くしたけど無理でした、的な?」

「なるほど、確かにそれなら疑われませんね」

 奥で二人の笑い声が聞こえる。翔はその声に嫌悪感を覚え、拳をきつく握り締めながらその部屋を後にした。



その後、翔は稔達と合流し、そのまま車に乗せてもらい、埼玉に戻った。
 車で走ってる道中、翔達は一言も喋らなかった。それぞれ紅架を失くした喪失感が残っているのだろう。翔もあの部屋の会話のことは一切喋らず、ただ静寂が車内を支配したまま、車を走らせた。

Re: 人生ゲームはデスゲーム 【ただいま三章目】 ( No.23 )
日時: 2011/10/25 21:07
名前: No315 (ID: vBUPhhME)


六月八日 埼玉県 奏神高校 第二教棟三階 2—E教室内
 翌日、翔が交通事故で亡くなったことはもうほぼ学級内に広まっており、朝から騒然とした雰囲気であった。それぞれ、

「ねぇ聞いた?昨日、内のクラスの篠崎君。亡くなったんだって」

「あ、聞いた。交通事故らしいね」

「へ〜。俺は初耳だな」

「あいつ、二年になった時は結構学校に馴染んでたのにな……」

などと皆好き勝手に紅架の話題を出しまくっていたり、紅架と仲良くしていた生徒の所に励ましに行ったり、中には職員室にまで押しかけ、詳細を求めに行った生徒までいる。翔はそれを眺めながら、ゆっくりと昨日の応接室での会話を思い出す。

『篠崎紅架はちゃんと死んだか?』

『あれはもう治しようがありませんでしたよ。見ただけで物凄くひどかったし』

『俺達が狙ってるのは、死にそうな患者だからな』

あの病院がなにを企んでいようが、翔には関係ない。むしろ、関わらないほうが懸命というものだろう。
 だけど、もし、あいつらのせいで紅架がまだ苦しんでいるのなら、俺は……

「ほらほら、席に着きなさい。授業が始まりますよ」

 教室に突然入ってきた担任の言葉に翔の思考はそこで停止される。教師の言葉に他の生徒たちも反応し、それと同時に多数の質問と反論が教師に降りかかる。

「先生! 篠崎君はどうして亡くなったのですか!?」

「事故に遭っただけなのにどうして死ぬんですか!?」

「クラスメートが亡くなったと言うのにどうして落ち着かなきゃいけないんですか!」

「交通事故で亡くなったくらいしか教えられてないのに、納得いきません!」

「だいたい篠崎の奴は運動神経もいいし、交通マナーはちゃんと守る奴なのに交通事故っておかしくないですか!?」

「分かった分かった! とりあえず落ち着きなさい!」

 担任はその言葉の嵐に対応しきれずただ「分かった!」と叫びまわる状態だ。翔はその様子をただじっくりと眺めながら、授業にならない授業を受けるのであった。


 雨原家
 俺はなにを考えているのだろう。死んだ紅架がまだ苦しんでいるなんて、とても馬鹿馬鹿しい妄想だ。
 翔は心の中で呟きながら、自分の部屋の中に入り、学校の鞄をそこらへんに放り投げ、壁に背を預け、ずるずると座る。制服から着替えることはせず、ただ動かずに天井をなんの意味もなく見上げる。
 どうして、あんなことを考えてしまったのだろう。確かに、あの病院が紅架に何かしたのは分かるのだが、なにもしなくても死ぬのは、もう翔が確信していたことだ。ふと思い出すとデータがなんだか言ってたからなにかのサンプルに扱われたのかもしれない。それでも紅架が死んだことには変わりは無い。結局、最終的には、あれは知っていても知らなくても、翔になんの影響の無いことなのだ。気にする必要などない。
 しかし、なぜか、あの事を気にしてしまう、なぜか嫌悪感を抱いてしまう。翔には関係のないことなのに。
 もういい。さっさと寝て忘れよう。
 翔がゆっくりと体を持ち上げ、そのまま、ベッドに乗り込もうとしたのだが、不意にズボンのポケットから、携帯のメールの受信音が鳴り出した。
 携帯を取り出し、送信者を確認すると、だいぶなつかしい名前が載っていた。
 そして、翔はその内容を読み……




 六月十日 東京 寄永よりなが
 学校が休日のこの土曜日。翔は朝から埼玉を出て、元は品川と呼ばれたこの町に足を踏み入れた。ほとんど人と建物しか見えない町の中で翔は、昨日のメールをもう一度確認し、その人物に会いに行くのであった。


 翔の下に送られた一通のメール
『よっ、ひさしぶりだな、こういう時はなんかちゃんとしたあいさつとかするべきなんだろうけど、俺、そんなの知らないし面倒だから省くぞ。
ニュースを見た。お前の親友の篠崎とかいう奴が亡くなったんだってな。本当ならここで慰めとかご愁傷様ですとかすると思うけど、それどころじゃないし面倒だから省く。んで、本題だが、お前、篠崎が亡くなった病院、覚えてるか? あそこは西新宿総合病院っていう所なんだけどな、あそこで篠崎は治療を受けたんだろう? なら、篠崎は死んだんじゃない。殺されたんだ。後の結果が同じでもな。お前も、あの病院に行って、なにかおかしいと思わなかったか? ま、あいつら思いっきり隠してるから運がよくないとまず無理か。
 篠崎は病院の奴らに殺され、恐らく死んだ今でも苦しめられてる。意味が分からないか?まぁ普通はそうだろうな。でも事実だし。とりあえず、今、苦しめられてる篠崎を救いたいって言うなら、今週の土曜、寄永の北広場に来い。協力してやる。んじゃまた。                               送信者  桜木 蒼(さくらぎ そう)』





三章終了


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