ダーク・ファンタジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

昨日の消しゴム
日時: 2013/10/19 00:49
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)

 「———— かかる異様の者、人に見ゆべきにあらず。」





 遥か記憶の彼方。
 あの時、はじめて人を好きになった。


 初めて彼女に逢った日は、とても風の優しい日で。
 ただただ、やわらかな陽ざしが澄んだ空からふりそそいでいたと思う。


 そんな記憶も、今となっては他人のもののよう。
 幸せだった遠い日々は、思い出すたびに薄れていくばかり。
 いっそのことなら、はじめから出会わなければ良かったのだろう。


 今はただ、何も感じぬ孤独の中で、
 人外と成り果て、血の匂いを求めて彷徨うだけ。







 ……今は昔、忘却の物語。



◆壱、ソノ者、人ニ非ズ。◆
>>1 >>7 >>8 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>22 
>>23 >>24 >>25 >>26


◆弐、蛇愛ヅル姫君◆
>>29 >>32 >>35 >>36 >>37 >>40
>>41-43 >>45-47 >>50-56

 
◆参、鬼ノ記憶◆
>>57-

Re: 昨日の消しゴム ( No.6 )
日時: 2012/07/07 19:25
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: LWvVdf8p)

>王様サマ

うわぁーっ、ごめんなさい!コメント頂いていたのに今まで気がつかず、返信遅れてしまいました……

というか王様さんに敬称を付けたら王様様になってしまいました(笑)
どうでもいいですねorz

お褒めの言葉ありがとうございます。でも自分なんてまだまだひよっこでございます。もっともっと魅力的な文章を書かれる方がここには大勢いらっしゃいますよ(゜∀゜)!


■お知らせ■
期末テストがまだ終わらないため、更新がめちゃんこ滞っております……
今週末には更新します。うわぁぁぁぁぁあああテストバロス!!

Re: 昨日の消しゴム ( No.7 )
日時: 2012/07/12 23:02
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: LWvVdf8p)
参照: もう我慢できないから更新。明日数学のテストだけどね!



——————じゃあ、まず最初に僕から質問。

自己って何だと思う?俺は俺だぞ、っていう確かな自己定義って。



僕っていう自我は、どんな定義を持って苓見土我という存在に帰結するんだろうね。僕が僕である由縁。僕が僕である証拠。

考えてみればキリが無いんだ。勘付いてるとは思うけど、僕はすごい長生きで、ギーゼラの生きてきた時間の百倍近くは生きてる。でも、この疑問にはそれだけの時間を以てしてもどうしたって答えが出ない。自己と他者との境界は常に曖昧で、それ故に人は孤独を嫌がるんだと思う。どんなに足掻いたって自分と他者を区切る完璧な壁は創り出せないから。壁が作れず、完全に自分の世界に籠ることができないのなら、誰かと関わって生きていくしかないから。……そこまでは分かっているんだけど。


あはは、すごっく分かりにくい話だね。ごめん、僕の回りくどさは昔からでさ。


……例えばさ、ギーゼラ。君ってどこまでが君かな。—— 爪の先から髪の一本一本まで全部が私だって? うん、じゃあそういうことにしようか。だったらさ、抜け落ちた髪の毛はやっぱり君だって言える?君を動かしてる血液一滴一滴までもが君だって言える?


「言えるわ。だって私の一部であることには変わりないのだし。」
ギーゼラが、にっこりと不敵に微笑んで答えた。風が吹いて、耳に掛かった長い髪がゆらゆらと揺れる。遠くで、カモメの鳴く声が聞こえた。

「うん、この質問をするとね、初めはみんなそう言うんだ。それで僕はこの答えが来ると必ずこうして見せるの。……見ててね。」

そう言って、さっきギーゼラから貰った小さなクッキー缶を開ける。可愛げな装飾のなされた蓋を開けると、中には香ばしい香りと共に、砂浜色のクッキーが沢山入っていた。その一つを摘まんで、もう一回ギーゼラを見る。

「今から僕はこのおいしそうなクッキーを食べようと思います。そこで質問なんだけど、このクッキーは僕?それとも僕じゃない?」

そう言ってクッキーをひょいと口に放り込んだ、目の前の灰色の髪の日本人を見て、ギーゼラが朗らかに笑う。「もちろん土我じゃないに決まってるわ。だってそれ、私の作ったクッキーだもの。」

「ははは、確かにそう思うよね。でもどうかな。さっきギーゼラは血液の一滴一滴も自分自身だ、って言ったよね。今食べたクッキーはやがて僕の身体の中に吸収されて、僕の一部になる。そしたらさ、このクッキーも僕って言えないかな。」

「む。確かにそうかもしれないけど……」なんとなく負かされたような気がして、悔しい。「でも、食べる前のクッキーは確かにあなたじゃないはずよ!質問の仕方が悪いわ。」
少し意固地になって、負けん気で答えてしまった。我ながら幼い子供のようで、恥ずかしい。でも優しい土我はごめんごめん、と笑って受け流してくれる。

「ははは、確かに僕の質問の仕方が悪かった。でもさ、僕の言いたいことは分かったでしょ。………今の例とは逆に、僕が虎かなんかに片足食べられちゃったとする。でも体の大部分は残ってる。片足が無くなったって、僕が僕であることに変わりはないよね。そんな感じで次はライオンに右手を食べられちゃう。でも、僕が僕であることには変わらない。こんな感じで次は、ってやってくとさ、結局僕が僕じゃなくなっちゃうのっていつなんだろうね。」

「頭が食べられちゃったときじゃない?脳が無ければ考えられないのだし、人格も無くなってしまうのだから。」

「脳 イコール 自分  って考え方だね。先進的でよろしい。じゃ、条件を変えてみる。このままもっともっと技術が進歩して、……そうだなぁ、二十一世紀になったらあるいは———— 脳を人工で作れるようになったとする。ギーゼラの脳そのまま、同じ脳を作るんだ。それで、ギーゼラとまるまる同じ脳を持ったギーゼラ二号ができたとする。脳が同じなんだから考えることも趣味も、それに特技だってぜーんぶギーゼラと一緒。だって脳イコール自分なんだから。そんなギーゼラ二号のことを、それでもギーゼラは自信をもって「これは私よ!」って言える?」

「それは……ちょっと無理かな。」いっくら自分と同じ脳を持っていたとしても、それは自分じゃない。だって私という存在は、ここに確かに居るのだから。

「そうだよね、それに関しては僕も全くの同意見。自分が二人居るなんて考えただけで気持ちが悪いし、そんなの肯定したくない。脳がすなわち自分自身なんだとして、それと同じ脳を持った自分のクローンが居たとしても、やっぱりそのクローンは自分じゃ無くて他人なわけで。ああ、何の話をしていたのだっけ。」

ギーゼラはこんな答えの無い僕の質問に飽きてしまったのか、僕の話なんてもう聞かずに、良く晴れた空に、気持ち良さ気に涼しい風に髪を遊ばしている。僕が見ているのに気が付くと ああ、ごめんなさい、と全く悪びれずに謝ってきた。

「ごめんなさいね、土我の話があんまりにもつまらなくて……、じゃなくって、あんまりにも途方も無い話だから私ついつい飽きてしまって。」
「うぅ、ギーゼラは容赦ないなぁ。」ちょっとションボリして、肩を落として見せるとギーゼラはふふ、と愛らしく笑った。



「うん、そんなに言うならもうこの話止めるよ。確かにつまらないしね。」
「そうよ、私が聞きたいのはあなたの昔話。あなたの持論じゃないわ。」
相変わらずに容赦無い彼女のコトバ。けれど、悪意の全くない純粋さは、どこか聞いていて気持ちがいい。


——————— とおくで、なみの おとが きこえた。



「それじゃあ今から始めましょう、つまらない僕の、つまらない昔話を。僕の話を信じるか信じないかは君次第。まぁだけど、暇つぶしくらいにはなると思うな。」

Re: 昨日の消しゴム ( No.8 )
日時: 2012/07/12 23:00
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: LWvVdf8p)


                ■ 第壱話 ■
               ソノ者、人ニ非ズ








———— 人売りが来たぞ。
—————— 鬼子商人が町に来よったぞ。



平安京、一条大路より船岡山を越え遥か外京の地。

人商人ヒトアキンドの一団がどこからともなく現れた。
彼らは灰に薄く汚れたくたびれた直垂姿で、のそのそと、身売りの子供を入れた大きな檻をこれまたくたびれた牛にのそのそと曳かせてやって来た。その、あまり快くない一行に町の人々は明らかに嫌悪の表情をしたり、はたまた好奇心を剥き出しに騒ぎ立てたりと、多彩な反応を示す。

やがて人商人の周りに人だかりができ始めた。そこでもう十分に人が集まったと商人の長は判断したのだろう。歩みを止めて、牛を止めて、牛と檻とを繋いでいた綱を牛から放してやった。


———————— 檻の中の子供たちは、ここぞとばかりに急に大きな泣き声とも叫び声ともつかぬ騒音を立て始める。


檻の隙間という隙間から悲鳴と共にうじゃうじゃと伸ばされた何本もの小さな手を商人は鬱陶しげに一瞥した。一息吸うと、人だかりに向かって大声を張り上げる。

「おおや、礪屋の人売りじゃ、日暮れまでじゃ、買いたいもんは俺に言え。」


しかし野次馬な人々はなかなか子どもを買おうとしない。興味津々に、檻の中の子供を見ているだけだ。
「鬼子がおるぞ。」野次馬の大衆の中から、そう言った声が聞こえた。「どこじゃどこじゃ、」「左の奥じゃ、鬼子が一人おる。」「見えたぞ、鬼子だ、確かに居るぞ!」「俺にも見せろ。」「どこじゃどこじゃ……」

商人は心の中で舌打ちした。確かに仲間の言った通りであった。鬼子を一緒に売りに来るべきではなかった。きっと人々は不吉な、気味の悪い鬼子と一緒の檻に入れられた他の子どもまで気味悪がって買わないのだろう。
いらいらとする頭を抑えて、商人は檻の中の鬼子を探した。鬼子は、他の子どもがしているように檻の外に手を伸ばしたり騒ぎ立てたりすることもなく、ただただ一人静かに檻の端でじっと座っていた。その、不気味な琥珀色の瞳で人々を睨みながら。他の子どもとは違う、老人のような灰色の髪を微かに風にそよがせながら。

すると突然、人々の間にどよめきが走った。何が起こったのかと、商人は鬼子から目を離して大衆の方に向き直る。

「おお、陰陽師の旦那か。」
一際目立った、長身の人物が向こうからゆっくりとした足取りで現れた。深草色の狩衣姿で、薄青色の指貫を穿いている。
この陰陽師だと名乗る長身の男は、商人にとって数少ないありがたい常連客であった。何のためにかは知らないが、陰陽師はたまにふらりと現れては気に入った子供を数人買っていくのだった。何に使うのかと聞いても不気味に微笑むだけで教えてはくれない。人々はきっと怪しげな妖術の生贄に、子供の生血が必要なのだろうと勝手に推測しては恐ろしがっていた。

陰陽師は商人の前まで現れると、しげしげと檻の中を観察した後に、商人に向き直った。


「のう、鬼子がおるな。」いつも通りの、無機質な声音でそう呟く。「あれを私におくれ。いくらじゃろか。」

商人は正直に驚いた。絶対に売れないと思っていたのに。「でも旦那、いいのですか。あれは見ての通り見た目が……」
「構わぬ。それゆえ気に入った。」
「はぁ。」相変わらずにおかしな男だ。しかし、鬼子を買ってくれると言うのだからありがたいことこの上ない。

「そうだ、もう一人買おう。あの子と一番仲の良い子を売っておくれ。」
「は……?」
「きっと一人では寂しいだろう、鬼子も。」

鬼子と一番仲の良い子だと? 商人には見当も付かなかった。商人は子ども達をいかに上手に売りさばくかしか考えておらず、彼らの交友関係など考えたことも無かった。
第一に、もし商人が子どもたちを注意深く見ていたとしても、鬼子にはおおよそ友と呼べる者は居なかった。檻の中の子供たちも、大人たちと同じように、鬼子を気味悪がって遠ざけていたからだ。

商人は檻の中から鬼子と、もう一人適当に選んだ男の子を出させた。ほかの子供が羨ましがってぎゃあぎゃあと不愉快な叫び声を上げる。
商人は陰陽師の前に鬼子とその子を二人並んで立たせた。鬼子は、隣に並んだその子とやはり大きく違っていた。白すぎる不吉な肌、薄すぎる不気味な瞳、年老いた老人のような灰色の髪。

陰陽師はほぉ、と感嘆の声を上げた。そして商人に金を払うと、膝を折って鬼子と同じ目線になって、顔を覗き込んだ。
鬼子は、死んだ目付きで陰陽師を見つめ返した。まだ幼い子供だというのに、あらゆる意味でその子は年老いていた。

「そなたに名をやろう。」陰陽師が囁いた。「今日がお前の誕生日だ。さすれば五行の土が欠けておるな、通り名は 土我ドガとせよ。」
「……土我。」
「そうだ、土我だ。またな、真の名もやろう。」

そう言って、陰陽師は声をより低くして、鬼子の耳元で囁いた。
「よいか、真の名は誰にも言ってはならぬ。しかるべき人に出会ったら、その時にのみ、口にしてよい。」








                      ◇



隣に座ったギーゼラが、呆気に取られてポカンと口を開けていた。普段の勝気な彼女からは想像できないくらいに面白い顔になっている。

「平安京…?地名かしら。」
「うん、そんなもん。今から千年と百年ちょっとくらい昔の日本の大都市だよ。」
「そ、そう。」ギーゼラが相変わらずびっくりした顔のまま、僕を見つめた。二つの綺麗な青の瞳に見つめられて、なんとなくまごついてしまう。「土我のその髪の毛……若白髪じゃなかったのね。」
「ちょ、若白髪って!ひどいなぁ、生まれつきだよ。」何を言いだすのかと思ったら、若白髪と来た。
ギーゼラがそんな僕を見て柔らかく笑う。「でも、そんな鬼だなんて言われるほどだとは思わないけれど。グレーって普通に優しそうでいい色じゃない。」

ざぁ、と風が強く吹いた。
「そりゃね、ここじゃどんな色の髪でも、どんな色の瞳でも珍しくは無いだろうけど。僕の生まれた国はヨーロッパとは違ってね、みんな黒い髪の毛でみんな濃い茶色の瞳をしているんだ。だから僕みたいなアブノーマルはすぐ虐められた。それも、迷信とか本気で信じていた時代だったから余計にね。人と違う者は、例外なくみんな“鬼”と呼ばれた世界だったから。」

「ふぅん。」ギーゼラが唇をタコみたいな形にした。「でも私、土我のその瞳の色好きよ。とても綺麗だわ。」
「何か照れるな、ありがとう。」




——————— とおくで、なみの おとが きこえた。

Re: 昨日の消しゴム ( No.9 )
日時: 2012/07/13 18:22
名前: 王様 ◆qEUaErayeY (ID: X..iyfAg)
参照: https://twitter.com/#!/ousama2580

地味に最初からずっと見てるよ

Re: 昨日の消しゴム ( No.10 )
日時: 2012/07/14 20:31
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: 8uCE87u6)

再度コメントあざっすm(_ _)m
読んで下さる方がいらっしゃるのはとても励みになります!
ちなみにこの物語は夏休み中には書き終わらす予定です(゜∀゜)


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。