ダーク・ファンタジー小説

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昨日の消しゴム
日時: 2013/10/19 00:49
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)

 「———— かかる異様の者、人に見ゆべきにあらず。」





 遥か記憶の彼方。
 あの時、はじめて人を好きになった。


 初めて彼女に逢った日は、とても風の優しい日で。
 ただただ、やわらかな陽ざしが澄んだ空からふりそそいでいたと思う。


 そんな記憶も、今となっては他人のもののよう。
 幸せだった遠い日々は、思い出すたびに薄れていくばかり。
 いっそのことなら、はじめから出会わなければ良かったのだろう。


 今はただ、何も感じぬ孤独の中で、
 人外と成り果て、血の匂いを求めて彷徨うだけ。







 ……今は昔、忘却の物語。



◆壱、ソノ者、人ニ非ズ。◆
>>1 >>7 >>8 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>22 
>>23 >>24 >>25 >>26


◆弐、蛇愛ヅル姫君◆
>>29 >>32 >>35 >>36 >>37 >>40
>>41-43 >>45-47 >>50-56

 
◆参、鬼ノ記憶◆
>>57-

Re: 昨日の消しゴム ( No.46 )
日時: 2013/10/13 17:06
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)



 瞬間、蛇の身体が弾けた。

 真っ白な和紙でできた長い体躯は、空を切って土我目がけて飛んでくる。頭についた、大きな目を大きく開き、その闇に続くような瞳孔に獲物を捕らえて。

 
 「くっそ、……!」

 どうにか身をかわして、後ろに飛び退くと、あの赤い単衣を着た童女が大きな毒蜘蛛へと姿を変えて、八本の足をちぐはぐに動かしてこちらへ走ってきた。


 急いで体制を立て直して、庭へと飛び出した。驚くことに、荒れた庭にぼうぼうに生えていた背の高い雑草は、白い人の腕に変わっていた。そして何本もの白い手が四方八方にうごめいて、土我の身体を捉えようと、こちらへ、こちらへと手招いている。


 「なんなんだ、これは!」
 すると背後、すっかり毒蜘蛛に変身した童女だったモノが、飛んでくる音がした。即座に身を屈めると、土我を飛び越して蠢く腕の中に飲み込まれるように姿を消した。


 “ふふふふふ……、ふふふふふふ……”

 幼い女の子の笑い声が、天から、地から、どことなく聞こえてくる。

 もう駄目だと思った瞬間、視界の端、庭の端に置いてある平たい大きな石の上に、壁部屋が白い顔料で描かれているのを見つけた。


 「ええい、ままよ」
 右足に力を込めて、その石へ向かって跳んだ。
 着地と同時に細く白い腕がにゅるにゅるとこちらへ伸びてくる。童女の笑い声が引き攣って聞こえる。


 「由雅! 助けてくれ!頼む!」

 そう大声で叫ぶと、視界は一変し、見ていた世界は闇の中へと消えて行った。



————————————————————————————————————————————




 どすん。



 大きな音がして、見も知らない部屋へと着地した。
 きゃああ、と若い女の悲鳴が聞こえる。



 「ゆ、由雅さま、あれを、あれを……!」
 「ん?」


 由雅が振り向くと、そこには懐かしい、ひどくやつれ果てた土我の姿があった。ひどい顔をしている。

 ここは後宮の一室。
 普通に考えれば、男が存在すること自体が異常だ。というか有り得ない。
 少し前にここに新居を移った由雅だったが、こんなところにひょんな人物が現れるとは、予想だにしなかった。


 「あら、土我さんじゃあないですか」
 驚きのあまり声も出ない女官などお構いなしに、由雅が嬉しそうに土我に近づく。
 「なぁんだ、まだくたばってなかったんですね!」


 「く、くたばりかけた……」
 訳が分からなすぎて、情けの無い声しか出ない。
 「ここはどこだ……」


 「はは、後宮ですよ。土我さんあなた、見つかったら縛り首ですよ。なんでこんなところに居るんです……、って、おい!吐かないで下さいよ!うわあああー」


 急に気持ちが悪くなって、胃の中のモノを全部吐き出した。さっきの女官がまたきゃあきゃあと騒ぎ立てている。うるさい、だまりなさい、と由雅がぴしゃりと言うと、彼女は涙目になりながら部屋の隅まで逃げてしまった。

 「すまない……う、」

 また吐いてしまった。せっかく、ひさしぶりに喰ったマトモな飯だったのに。胃の中が全部ひっくり返るような感覚だった。




———————————————————————————————————————


 その後、しばらく落ち着いてから由雅があの日のように質問攻めしてきた。


 こちらは話している元気など全くないのだが、質問に答えないと追い出すぞと脅すので仕方なく話に応えていた。殺人の事、赤面の鬼の事、死にかけていたこと、そして由雅の家を訪れ、得体の知れない者たちに襲われたこと。そこで目玉の付いた蛇から聞いた、都を襲った飢饉と殺人の真相のこと。そして、庭の石にあった壁部屋に飛び込んだら、ここに来ていたこと。

 話し終わると、今度は聞いても居ないのに由雅が彼女自身のことをすごい勢いで話し始めた。色々とあって元の家には住めなくなったので母のつてを使って今は宮仕えということで一番人気のない一室をもらってここで住んでいること。実はあの鴨という老人は人ではなく、本当に鴨であったということ。それに、母親の悪口、云々。


 「はーあ、でも、わたし土我さんにまた会えてすっごく嬉しいです。もう二度と会えないと思ってたし、このまま平凡で無価値な人生を歩んでいくんだと思っていたところだったので」

 「……何を贅沢な。いいじゃないか、食うものがあって、着るものがあって、屋根があって。巷では毎日何人も行き倒れて路上で死体になって転がっているんだぞ」

 「いいですね、ワクワクします。そういうの」
 由雅はまったく悪びれずにニコニコと笑う。本当に罰当たりな娘だと思った。


 「じゃあ、こういうのはどうです? 二人でこの国を救う英雄になりましょうよ。あなたが最強の霊剣になって、私がその補佐になりましょう。これであなたは死なずに済むし、私は退屈を紛らわせることができる。どうです、なかなか素敵な脚本でしょう?」

Re: 昨日の消しゴム ( No.47 )
日時: 2013/10/13 17:42
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)


 「はぁ?」


 由雅が人差し指をピンと立てて、愉しそうにくるくると回した。

 「いいじゃないですか、あなたなら神様たちの用意したこのくだらない遊びの勝者になれる」
 ビシッ、と回していた人差し指を止めて、俺の額を指す。

 「……ただし私と組んだら、ね。」



 「そんな……」
 「嫌なの?」由雅が可笑しそうに笑う。「だって殺されちゃうんでしょ。下手すると。というか何もしなかったら確実に」

 「まぁそうだが……」
 「逃げる、っていうのは無理ですよ多分。あなたと違ってねぇ、世間の人間はね、生への執着は半端無いんだから。奴ら生き残るためだったら何だってしますよ。それこそ地獄の果てまで追ってくるような。ああ、地獄だったらもう死んじゃってましたね。あははは。」


 「で、死にたくないんでしょ。土我さんは」
 「ああ……」


—————————————————————————————————————————————

 その後、由雅は女官に高価な宝石を持たせて、俺のことを誰にも喋らないように口封じして、部屋から追い出してしまった。


 「あんなんで大丈夫なのか。あの女、口が軽そうだぞ」
 「ふふん」由雅が得意そうに笑った。「私がそんなに馬鹿な女に見えます? あの宝石を渡すときに、呪いをかけておきました。土我さんのことを喋ろうとすれば、急な頭痛にあの女官は襲われます。それこそ頭の割れんばかりに……ね」

 不敵に笑う由雅を眺めながら、あの女官も運が悪いものだ、可哀想に、としみじみと思った。


 「じゃあ、早速作戦を立てましょう。まず、何か私の家に巣食っているとかいう単眼の蛇の化物はあのままにしておいた方がいいですね」

 「なぜ?」

 「なぜって、そりゃああとの三人も始末してくれちゃうかもじゃないですか。そしたら最後に土我さんと蛇が一騎打ちすればいいんですよ」


 「はぁ、なるほどな」
 「はぁ、って。あなた本当にやる気あるんですか!?」

 「正直言ってあんまりない。というか人殺すのにやる気満々だったらただの危ない奴だろう。気乗りする方がおかしい」

 「あー、もう!!」
 由雅がいらいらと地団太を踏んだ。


 「いいですか? 相手は神様ですよ、しかも彼らは平気で疫を蔓延させて十万人も殺している。さらに何の罪もないあなた方を鬼にさせて、殺し遊びをさせている。この状況で誰に非があるって、そりゃ土我さんじゃもちろんない。神様ですよ、悪いのは。だからじゃんじゃん思う存分やっちゃって大丈夫です。地獄には落ちませんよ、私が保証します」


 「お前に保証されたって、なんの保証にもならないのだが」




 その時だった。急にガタガタと部屋全体がきしみ始めた。

 「あら地震?」
 「お前の地団太じゃないのか」

 「……っ、!違いますよ!失礼な!ってうわああああああああ!」


 急に、床板が割れて、その下からあの蛇の化物が、現れた。さっき見た時よりも大きくなっている。そして大きな目玉を床下からギョロリとだして、部屋全体をゆっくりと見回すと、あの腹の底まで響くような低い声で喋り出した。


 『ははは、人の噂をしているようだから、こうしてわざわざ会いに来てやったぞ』



 「土我さんっ!」
 由雅はどこにそんなものを隠し持っていたのか、いきなり大きな太刀を土我目がけて投げてきた。土我は瞬時に、太刀の太い柄を、しっかりと受け止めて刀身を鞘から抜く。


 バーン、と床板が吹き飛ぶ音がして、蛇が恐ろしい速さで襲ってきた。その正面を太刀を振るって切りつける。


 どさり、蛇の半身が床に落ちる。


 「……やった!」
 由雅が興奮して声を上げる。



 そう、安堵したのもつかの間。二つに裂かれた蛇は、それぞれがまた命を持ったようにくねくねと動き出して、今度は二匹になってこちらへ飛んできた。


 「う、わ……!」
 反射的に太刀を振るって、顔目掛けてきて飛んできた方は払い落とせたが、足元に飛んできた方は防ぎきれなかった。


 「痛っ……!」
 蛇の細い体は、うねうねと足首にきつく撒きついて、離れない。すると巻きつかれた裸足の足首から、足先までがどんどん青黒く変色していくのが分かった。物凄く痛い。


 「失せろ!」
 由雅が、高い声で叫んで、花瓶の水を蛇に掛けた。花瓶の水は、宙に浮かんでいる間に透明から黒色に色を変えて、そして蛇の姿になって土我の足首に絡んでいる蛇目掛けて食らいついた。


 「土我さん、こりゃあ随分と立ちの悪い女蛇ですよ!まさか惚れこまれたんじゃあないですか!」


 『なんだと、生意気な小娘め……!』
 何重にも反芻して聞こえる裂かれた半身の、二匹の悪蛇の低い声が、鈍とした怒りを含んで響く。

 蛇は今度は由雅向かって弾き飛んだ。


 
 「あっはははははは! あたしの方に飛んできたのが運の尽きね!!」



 たん、と由雅がその華奢な足を一歩踏み出す。

 しっかりと両眼で蛇の動きを捉えながら、右手で一文字に空を切る。
 それはまるで一秒一秒、いやそれよりもずっと刹那、小さな時間のすべてが止まったよう。


 長い黒髪は自由に宙を舞って、そして空を切り裂いた右手からは紅蓮の炎が溢れだす。



 『おのれぇえええええええええ!!』

 蛇の身体は、燃え盛る炎に包まれ、そして瞬間に黒く燃えた。



 あとには、虚しく灰塵がふわりと部屋の中央で舞っているだけだ。




 「ふぅ、っと。これで一匹退治しましたね。土我さん?」
 「お、おう。そうだな……」


 由雅が、すっかり荒れた部屋の真ん中に立って、舞い散る灰に目を細めながら楽しそうに笑った。

Re: 昨日の消しゴム ( No.48 )
日時: 2013/10/13 17:56
名前: 王様 ◆qEUaErayeY (ID: Ej01LbUa)

あげます!!!!

確かryukaさんは高3でしたっけ?受験、頑張って下さいね!!!

Re: 昨日の消しゴム ( No.49 )
日時: 2013/10/13 18:53
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)


>王様さま


アゲ、ありがとうございます!お久しぶりです!
そうです高校三年です(゜ω゜)チーン

受験頑張りますお……!
ちょっと今日は頑張り疲れて(笑) 小説に逃げてますwww

Re: 昨日の消しゴム ( No.50 )
日時: 2013/10/13 21:11
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)




◆◆



 「土我—! いるでしょー中にいるんでしょー」
 自室で目を閉じて、昔のことを考えていたらドアの向こうからギーゼラの声がした。悪酔いしているようで、いつもより声が変だ。


 「おはなしのつづきー! なんかフランク今日うざいから置いてきちゃったのー」


 ああ、しょうがないなぁ。僕はベッドから立ち上がって、たぶんべろんべろんに酔いつぶれているだろう彼女を迎えに行った。


 玄関のドアを開けると、むん、と酒の匂いがした。しかもかなり強そうなやつ。
 ギーゼラは蒼い瞳で僕を上目づかいに睨みつけると、にやりと笑って抱き付いてきた。

 「やーん、土我びびってるぅ」
 「そりゃ、驚くでしょう。なに酔ってるの、しかもこの匂い、ウイスキーでしょ」

 「あったりーうふふー」


 駄目だこりゃ。僕はまともにギーゼラと話すのをやめて、華奢な彼女を抱いてソファの上に放って置いた。こういう風に酔ったギーゼラは放って置くしかないのだ。いつ、意味の分からない魔法を使い始めるかわからない。


 「ねーぇー、土我ー」
 「なに。早く寝てよ。僕ゆっくりしたかったんだけど」

 「寝かせないわよー、早くお話のつ・づ・き! 気になっちゃってしょうがないじゃない。喋ってよ。わたし寝ないから」

 「……まったく」


 まったく、無防備な人だ。つくづく思った。
 綺麗な形の生足が、ソファの端っこから無造作にはみ出ていて、まぁ俗な言い方をすれば、エロかった。


 「いいよ、じゃあ話してあげる。まぁ、たぶんギーゼラ途中で寝ちゃうだろうけど」


 「寝ないもん!」
 ギーゼラが怒ったように、足でバタバタと音を立てた。


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