ダーク・ファンタジー小説

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昨日の消しゴム
日時: 2013/10/19 00:49
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)

 「———— かかる異様の者、人に見ゆべきにあらず。」





 遥か記憶の彼方。
 あの時、はじめて人を好きになった。


 初めて彼女に逢った日は、とても風の優しい日で。
 ただただ、やわらかな陽ざしが澄んだ空からふりそそいでいたと思う。


 そんな記憶も、今となっては他人のもののよう。
 幸せだった遠い日々は、思い出すたびに薄れていくばかり。
 いっそのことなら、はじめから出会わなければ良かったのだろう。


 今はただ、何も感じぬ孤独の中で、
 人外と成り果て、血の匂いを求めて彷徨うだけ。







 ……今は昔、忘却の物語。



◆壱、ソノ者、人ニ非ズ。◆
>>1 >>7 >>8 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16 >>17 >>18 >>22 
>>23 >>24 >>25 >>26


◆弐、蛇愛ヅル姫君◆
>>29 >>32 >>35 >>36 >>37 >>40
>>41-43 >>45-47 >>50-56

 
◆参、鬼ノ記憶◆
>>57-

Re: 昨日の消しゴム ( No.21 )
日時: 2012/12/13 19:45
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: SjxNUQ9k)


ふ、ふ、……


 ふ ゆ や す み だ −−− !!




キタ━━━(゜∀゜)━( ゜∀)━(  ゜)━(  )━(  )━(゜  )━(∀゜ )━(゜∀゜)━━━!!



……た、いう訳で帰ってきました。ryukaです。
ryukaの高校の冬休みは早いもので。 まぁ学校には登校して出席確認ぐらいはするのですが、もう事実上の冬休みでつ(゜∀゜)!!

一日で完結までもってく!! とか豪語しましたが(笑)、まぁフツーに考えて無理でした。ははは。
といふ訳で、これからこの冬休み期間中、ちょくちょく更新していきますので、お付き合いよろしくお願いいたします。ペコリ


>>王様

支援あげありがとうゴザイマス!!
これからぼちぼち更新頑張って組んでよろしくです(`∀)!!

Re: 昨日の消しゴム ( No.22 )
日時: 2012/12/13 21:30
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: SjxNUQ9k)


ついに、今日も陽が落ちた。

先程から降っていた雨は強くなる一方で、どんどんと街の温度を下げていく。
この雨のせいなのであろうか。ついに、恐れていたことが起こった。リトの咳がぴたりと止んで、熱が出てしまったのだ。熱が出たからには、もう、死、以外の道はない。ましてや幼子の身である。今晩を越すこともできないかも知れない。

しかし、どうすることもできない。
喉が渇くと言えば水を差しだすし、寒いと言えば火を起こしてやる。
しかし、楽にしてくれ、と頼まれても何もしてやれることは無い。ただただ、慰めにもならない下手な言葉を掛けてやる。それさえも、無駄に思えてきてしまう。

蔵の外で、犬が煩く吠えていて、リトが頭に響くと言うので、黙らせに外へと出た。
ギギギギ……と、重たい蔵の扉を開けると、予期せぬ、不吉な影が立っていた。昨晩、出会った銀髪の鬼であった。

俺の怪訝な表情を読み取ってか、鬼はハハハ、と低い声で笑った。
「若造、今晩はお前の番だぞ。なかなか動かぬものだから、こうしてわざわざ催促しにやって来てやったのだ。」

「人外に用は無い。失せろ。」
すると鬼は困ったように真紅の面を長く、黒い爪でガリガリと掻いた。「そうともいかんて。」
話にならないと思った。これ以上、鬼と関わると余計なことしか起こらないので、蔵の扉を再度、閉じることにした。


「待て待て。お主、病のおなごを助けたいとは思わんか。」扉を閉める腕が、瞬間、止まる。
「と、いうと?」

「話を聞く気になったか。嗚呼、いい子だいい子だ。気付いていると思うがな、今日は八日目だ。即ち8人が今宵の内に殺されなくてはならん。いいか、八日目の今日が一番大事な日なのだ。そして七日目の入れ墨を持つ者はお前だ。もう分かったかな?」
「俺に人を殺せと?ふざけるな、何がおなごを助けるだ。」

すると鬼は呆れたように鼻を鳴らした。
「馬鹿は相も変わらず馬鹿やの。褒美をやる。その褒美があのおなごの病を治すことということだ。うまい話だぞ。」
「……断る。人外の言うことは信用ならん。とっとと失せろ。」

「何故だ?人の紡ぐ言霊よりも、我らの言霊の方が信頼はあるはずであろう。己の私欲の為にすぐに数多の嘘をつく人間よりはな。
人を殺すのが怖いのか?罪深いのか?それならいいだろう、南市の牢獄に行け。そこの罪人衆のうち、明日、処刑が行われるものがちょうど八人おる。全員、一番北の牢に繋がれている。奴らをやれ。どうだ、相手は罪人で、しかも死ぬべき日が少しずれるだけだ。何も悪いことは無かろう。
八人の悪人を殺して、一人の無垢な子供が救われるのだ。良い話ではないか。」

「………」
黙る俺を鬼はしげしげと表情の無い面で眺めた。「まぁいい、ここまでだ。もし今宵、八人が用意できなかったのなら、それはそれでいい。どうなるかは俺の知ったことではない。」

そこまで言うと、鬼の周りから、紫色の煙がしゅうしゅうと出てきて、鬼の姿を丸ごと包んだ。しばらくすると、煙は失せて、鬼も一緒にそこから消えていた。



………八人の悪人を殺して、一人の子供が助かる。


あの鬼は約束を守るだろう。鬼は嘘をつけない。そんなことぐらい教えられなくとも知っている。
扉の前で呆然と立ち尽くしていると、後ろから苦しそうな声がした。熱で頭のおかしくなったリトが、もうこの世には居ないはずの母親を呼んでいるのだ。
急いで近づくと、俺の姿を見てリトは擦れた声を精一杯に張り上げた。
「母さま、ねぇ私ね、私、体が重いよ。うまく息ができないの。」ぽつり、ぽつり。まるで喉を絞るように、言葉を紡ぐ。
「阿呆、無駄に喋るな。」
「母さまったら、ひどい。」それでも、苦しそうな笑顔を見せる。




“人を殺すのが怖いのか?罪深いのか?”




ふいに耳元で、鬼の囁く声が聞こえたような気がした。銀色の長い髪が、目の前でちらついたように感じた。
……違う。人殺しだなんて、そんな下賤な存在にはなりたくないだけ。




“何を云う?お前は奴婢だ。綺麗に生きようなど、もとより叶わぬ願いではないか”
“少しだけ、死ぬ日にちがずれるだけだ。少しだけ”
“それともお前は幼子が目の前で苦しもうとも、平気なのかな?”





邪鬼の問いかけが、頭の中で永遠にガンガンと響いた。両耳を塞いでもあの鬼の声ははっきりと、むしろより明確に聞こえてくる。一瞬の間も開けずに。同じトーンで、何の抑揚もなく。




それはまるで、人を狂わす呪いのよう。
だんだんと、正常な思考が侵されていく。




「リト、一刻ほどで帰ってくる。それまで傍にいてやれんが、許してくれ。」

リトは、やっと会えた母親が留守にしてしまうのは残念だったが、強がって微笑み、母さまいってらっしゃい、と小さな声で付け加えた。
………一刻、そんな小さな時間、黙って耐えて見せるんだ。

Re: 昨日の消しゴム ( No.23 )
日時: 2012/12/22 14:47
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: geHdv8JL)

……
………

………………


暗い蔵の中でふと、リトが目を覚ますと目の前に見知らぬ人影が立っていた。黒い布袴姿の若い男で、裾から少し、赤の衵が見える。着ている衣服の豪華さとは対照に頭には冠など無く、長く灰色の髪は結いもせずに腰まで無造作に垂らされていた。

「だれ?」
すると男は感情の無い、低く冷たい声で答えた。「名乗らぬ奴には名乗らぬ。契約を果たしに来た。お前に憑く病の怪を取ってやろう。」
すっと、男の腕がリトの顔面に差し出された。驚いて男の手を見ると、掌の中央には緑色で、何やら文字が書いてあった。

「読め」男が囁いた。「さすれば怪は離れる。」
リトは困ったような表情をする。「えと、ごめんなさい。私文字読めないの。」

すると、男の呆れたようなため息が聞こえた。「お前は勘違いをしている。もう一度よく見ろ、そして感じたままを声と成せ。文字とはそういったものだろう。」
「……ふーん、そうなんだ。」
言われるがままに、リトは再度、男の掌を見つめる。絶対読めないのに、と思いつつ、何となく適当に発音してみた。


  が、い、と、う、ぼ、う、こ、う、が、ま、


「なんだか恥ずかしいや。こんな感じでいいの?」窺うように聞くと、男はゆっくりと頷いた。
リトが発音すると同時に掌に書かれた緑色の文字は赤色に染まり、まるで溶けるかのようにゆっくりと、空気に消えていった。

「うわー!お兄さんの文字、すごいね!」感心して言うと、男は何も言わずに立ち上った。
「………朝まで眠れ。」

そう言うと男はリトに背を向け、蔵の外、洞々と深まる外の闇へと姿を消していった。
一人、蔵に残されたリトはどうしてか、とても眠くなった。このまま起きていて、土我に今の不思議な男の話をしてやりたかったが、あまりにも眠すぎて、到底無理そうだ。

いいや。どうせ土我は私がまだ起きていたら怒るだけだろうし。
明日の朝にでも話してあげることにしよう。





Re: 昨日の消しゴム ( No.24 )
日時: 2012/12/15 17:56
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: geHdv8JL)

              
                ◇


「……はぁ。」

ため息をつくと、黒天の夜空に、吐いた息が白く映った。
全身が凍るように冷たい。浴びた飛沫の匂いに思わずむせ返った。


「やっぱり、あなただったんですね。土我さん。」
ジャリ、と目の前の砂利を踏む足音が遠くから迫ってくる。それと同時に、自分の意識も少しずつ、少しずつ薄れていくのが分かった。
身体は嫌と言う程冷たさを訴えているのに、意識だけが熱でも出ているみたいに火照っている。……どうにも、立ち上がる気が失せてしまったのでそのまま地に寝転がっていた。

「……違う。」
「八人。土我さんは八人やりました。」ジャリ、と最後の足音が止んだ。目の前に現れた女は、由雅だった。「罪人でも、その命はやはり人と同じものです。あなたの罪は一生消えない。あなたは死ぬまで人殺しだ。」

さらさらと、背後の小川が綺麗な音を立てて流れている。「どうとでも言え。」どうしてお前がここに居るんだ、と心のなかで毒づいた。
「まぁ結構です。それで、七日目の入れ墨は土我さんが入れられましたよね。そして、」由雅が着物の右袖をまくし上げた。右腕の中程に、八匹の蛇の絡みついた模様があった。「ほらこの通り、八日目の入れ墨はこの私が入れられましたとさ。覗き見してたらこの通りですよ、全くツイてないわ。」

「お前も俺も不運だったな。」どうした訳か、眠くて眠くて舌が回らない。「眠い。放っておいてくれ。」
「やがて夜が明けます。ここに居たら人に見られますよ、血まみれなのに。」
「……放っておいてくれ。眠い。眠いのだ。」




それを最後に、俺の意識は綺麗に途絶えた。
その晩見た夢は、どうしてかとてもいい夢だった気がする。

Re: 昨日の消しゴム ( No.25 )
日時: 2012/12/19 23:03
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: geHdv8JL)



翌朝。


寒さのあまりに目が覚めた。
暗かった空は、少しずつ白み始めていた。


ふと、自分の手を空に翳すと、赤かった。血の、鉄の錆びた臭いがした。
ああ、やはりアレは現実だったのだな、としみじみと思った。


けれど、これで、リトが救われるのなら別にいい。
もう、リトや矢々丸とは会わない。こんな迷惑な知人は居ない方がいいのだ。


よっこらしょ、と気を取り直して立ち上った。これからどうするのかを考えなくてはいけない。取りあえず、寒いが川で汚れを落とすことにしよう。

ふらふらと定まらない意識を抑えて、まるで突き刺さるような冷水に、足の先から入った。その冷たささえ、今は心地が良かった。


水は、早朝の空の色と同じ、淀んだ灰色だった。

小川の岸には、背の高い葦が群を成して生えていた。
その中に、周りの灰色から際立って、藍色のものが見えた。あれは何だろう。

近寄って見てみると、藍色の上等な着物であった。もっと言うと藍色の着物を着た、由雅だった。葦と葦の間にもたれ掛るようにして、目を閉じてじっとしている。

この変な女は、一体何なのだろう。こんなに水は冷たいというのに。やはり何ひとつとして、考えていることがさっぱり掴めない。


「おい、何をしている、お前。」
話しかけても返事が無い。まさか死んでいるのじゃないだろうな、と思って肩を揺らすと、そのまま由雅はがっくりと頭を垂れた。

「おい、おい!」
本当にヤバいのかもしれない。急いで由雅の体を岸に上げ、自分も岸に上がった。たっぷりと水を吸い込んだ着物が、やけに重かった。


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