ダーク・ファンタジー小説

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【更新停止】
日時: 2017/10/13 22:44
名前: 夢精大好きちんぽ丸 (ID: 3p1tWxjm)

やぁ、またかとか思った?
僕だよ、ちんぽ丸だよ。
夢精が大好きだけど、不能だから勃たないで日々苦悶の日々を送っているよ。
割とマジの真正童貞だよ、誰か名医でも紹介してよ。

これはファジー版に投稿してる短編集と違って、長編だよ。
前ここに書いてたやつの焼き直しだよ、なるべく更新停滞はしたくないよね。夢精に二言は無いよ、頑張るよ。
感想とか評価とか批判とか絶賛歓迎してるよ、だけどPNを変えろっていうお言葉には絶対負けないよ、戦うよ、僕は夢精大好きちんぽ丸として世の中に抗い続けるよ。

それじゃあ少しでも楽しんでいってね。割と胸糞悪いお話を書いていくんだけどね。



最後に一言。
「捻りの無い下ネタは害悪。捻っていても害悪」

Re: 初芝君は気色が悪い ( No.9 )
日時: 2015/10/21 21:43
名前: 夢精大好きちんぽ丸 (ID: 3p1tWxjm)
参照: https://twitter.com/Toremoro1467

『七話・そろりと物語は歩き出す』①


 生きている内に人は、一体何人の人間を愛す事になるんだろう。
 一人だけしか愛さないで、愛を終わらせないで、そのまま最後を迎える人も居るだろう。何人も何人も愛して愛されて、そして最後までそれを全うして果てる人も居るのだろう。
 きっと色んな愛情の形がある。きっと色んな愛情の結末がある。そのどれもが何か大きな意味を、そして小さな意義を携えて、進行していく一つの命なんだろう。
 だけど、僕にはそんな事は推測しか出来ない。だろう、としか言えない。僕はそうやって、推測して推量して邪推して、そんな事しか出来ない。
 僕は人を愛せなかった。
 僕は僕を愛せる人を愛せなかった。
 これは残念ながら予測じゃなく、経験則なんだ。
 だって、僕には。


 人というのは気色が悪すぎる。








「ねー、ホントにこんな所が行きたい所だったの?」
「うん、まーね」
 僕の行きたい所に行くという心音の申し出に乗っかり、今僕と彼女は商店街に来ていた。
 この様々な商店が両脇に所狭しと並び、客を呼び込む老若男女の騒々しい声が響き渡る。まさしく商いを営む人間の戦場と表現するべき場所。
 両脇からの声の荒波に揉まれながら、僕達は戦場の真ん中に空いた道をゆっくりと歩いていた。
 買い物をしているご婦人方や、放課後に成って僕達同様暇しているのであろう制服姿の学生。八百屋のオッサンや魚屋の親父の声。それらを無視して、僕等はずんずん歩いていく、会社員らしきスーツ姿の男性など、実に賑やかな人間の集合具合である。

「それで? 初芝はこんな所に来て何がしたいの? 買い物?」
「うーん? まー、そんな所かな」
「?」
 僕の煮え切らない返事に、心音は顔を可愛らしさを保ったまま器用に顰める。
 彼女は虚ろで不気味な瞳をしているくせに、表情は割と豊かでコロコロ変わる。先ほど会った萩原の方がよっぽど顔は無表情……というか萩原の場合は常時しかめっ面で不機嫌そうである。将来皺が多くなりそうな奴だ。
 っと、話が逸れた。
 僕が此処に来た理由、まあ、なんていうか。実は何もない。
 僕は始め、心音に行きたい場所を聞かれたときに、既に「僕に行きたい所なんてない」と答えている。
 ゲームセンターに誘導しようとも思ったが、よくよく考えたら、彼女と楽しく遊べるほど僕に金銭的余裕なんてあるはずもなかった。
 でもやっぱり、お金があったとしても行ったかはわからない。僕は彼女の要望には黙って従うけど、自分の要望を問われると如何にも返答に詰まる。
 でも一つだけ、望みがあるとすれば。心音の傍で、彼女の事を適当に見やっていたい。
 あくまで適当に。理由なく。責任なく。義務なく。目的無く。そうやって眺めていたい、彼女の笑顔とか仏頂面とか怒った顔とか無表情とか、飛び跳ねる姿とか走り回る姿とか歩く姿とか、何でもいい。そういうのを見ていたい。
 僕は人を愛せない、だから心音を愛すことはない。このデートは彼女をサポートする為の、唯の偽物だ。だけど、多分、僕は彼女の事を気に入っている、友人として。
 決して恋人としては好きはなれない、愛す事も出来ない。だけど、僕は彼女の事を気に入っている。
 ならば、彼女はどうだろう? 心音は僕の事をどう思っているんだろう。
 わからない。そんな事は、分からない。
 だけど、一つだけ言えるのは。彼女がもし僕の事を男として好きなんだとしたら、僕はきっと心の中で気色悪さを滲ませながら、彼女の好意を受け入れるんだと思う。
 一年前の、名前も、顔さえも憶えていない、告白してきたあの娘と違い、心音は僕の大切な人なんだから。
 こういう偽物らしい考えを抱く奴を、きっと最低な人間だと言うのだろうとは分かっている。
 でも、だからこそ、僕は彼女を見やっていたい。出来れば何時までも。


 そんな事は無理だなんて百も承知だけどさ。

Re: 初芝君は気色が悪い ( No.10 )
日時: 2015/10/22 22:27
名前: 夢精大好きちんぽ丸 (ID: 3p1tWxjm)
参照: https://twitter.com/Toremoro1467

『七話・そろりと物語は歩き出す』②



「よし、心音。そろそろ帰ろうか」
「え? まだ何もしてないよ初芝?」
「お墓にも行ったし、適当に商店街もぶらついた、これ位で丁度いいんじゃないかな?」
 さっきまでのちょっと鬱々とした思考を放棄して、僕は心音に言う。 案の定彼女は若干不満そうだが、正直僕はちょっと疲れていたから勘弁してもらいたい。
 僕は自分の陰々とした考えに、疲れていた。
「……初芝、大丈夫?」
 心配そうに眉を潜めて、彼女は小さい体で僕を下から覗き込む。
 違う、それはダメだろう。
 彼女を心配するのは僕の役目なんだ、彼女に心配されてはまるっきり逆じゃないか。
「大丈夫だよ。僕は大丈夫すぎる程に大に丈夫だよ」
「いや、意味わかんないよ。気色悪い」
 ……こいつ本当に僕を心配してるのか良く分からないんだけど。
 ってか、気色悪いが口癖になって来てるよね、嫌すぎる口癖だね。その内、朝とかに会ったら『おはよう気色悪い』とか言われるのかな、嫌すぎる。
「……。ま、まあ。今週の休みにまた会うし、その時にでも出掛けようよ。なんなら神父とも一緒に、三人でさ」
「……ん」
 尚も心音は不満そうだったが、どうやら納得してくれたらしく、彼女は小さく頷いた。
 本当は土日はゆっくり家でゴロゴロしていたいタイプの僕だが、これも【役責】である、仕方ない。それに、彼女と、そして神父と一緒に出掛けるというのはあながち悪くない事のように思えた。
 神父にもしかしたら休日予定があるかもしれないが、構うものか。そんなものはオールキャンセルだ。我らが美鶴心音様のご機嫌取りは、何よりも優先すべき事なのだから。

「……じゃあ、もう帰ろ、初芝」
「うん、そうだね」
 漸く納得してくれたらしい心音が暗い目で明るく笑いながら言う、それに僕は軽く微笑みながら返事をする。
 今日も色々あったし、色々なかった。いつも通りに、平凡な日。後は彼女を送って、それで僕も家に帰る。
 それだけだ。
 うん、それだけ。




 【それだけなら何も始まらないで終わっていたかもしれない】。




 軽い衝撃だった。
 ドンッ、と左横から人がぶつかってきた。
 ちょっと痛かっただけで、対した事は無かった。丁度、商店街の出口の曲がり角らへんで、注意が疎かになっていたからだろう。
 ぶつかった方は衝撃で倒れて、持っていた鞄も落としていたけど、僕の方はよろめいただけで倒れなかった。
「あ、すいません」
 反射的に僕は謝った。ぶつかってきたのは向こうだが、被害が大きそうだったのも向こうである。なんとなくこっちが悪い気がした。だから謝った。
 倒れた人は女だった。白いシャツに薄手の上着を着ていて、下は長めのスカートを履いている、ラフでいて清楚な感じの女性、というより女子だった。年齢は僕より下みたいだけど、心音よりは身長が高そうだ。
「大丈夫ですか?」
 倒れている彼女に手を差し伸べる、誰から見ても紳士的な僕。それに対し、女は顔を上げてこちらを見てくる。
 普通の顔だった。平凡な、美しくもないが醜くもない、可愛いとは思うが、特徴があるわけでもない。長い髪が目にかかっていて表情が読み取りづらいが、まあホント普通な感じの子だ。
 そんな彼女と視線が合う、そして合ったその瞬間。
 彼女が口を開く。声が出る。その声さえも美しくも濁ってもいない、普通の声。
 そんな【気色悪い程平凡な女】が、僕を見るなり、何処か呆けた顔でこう言った。

「初芝、那奈詐……?」

「え?」

 なんでこの女は僕の名前を知っているんだ?
 僕はこんな娘は知らない、あまりもの覚えの良い人間でも無いけど、流石に一度くらい会っていれば引っかかる程度の記憶力はある。だから彼女の事は全く知らない筈だ。
 僕が知らないのに、相手の方が知っているというのは、中々に不気味である。だから、質問した。

 多分、それがいけなかった。


「えーと、あの、何処かでお会いしましたっけ?」
 瞬間。
 その言葉を聞いた瞬間。
 平凡だった彼女が。
 普通だった彼女が。
 そんな彼女の顔が。
 どうしようもなく、【歪んだ】。
 吃驚した、そして同時に恐怖した。人間は、こんな風に顔を歪められるのか? そう思うよな、そんな顔。
 そして多分、この歪んだ顔が表している意味、それは。
 憎悪という奴だったと思う。

Re: 初芝君は気色が悪い ( No.11 )
日時: 2015/10/24 02:54
名前: 夢精大好きちんぽ丸 (ID: 3p1tWxjm)
参照: https://twitter.com/Toremoro1467

『七話・そろりと物語は歩き出す』終


「……ふ、ふは、はは、ははは、はハハハハハ……っ」
 歪んだ顔をした少女が、倒れた姿勢からゆっくりと立ち上がりながら、こちらを眺めて哄笑してくる。
 ああ、これは嫌な顔だ。そして嫌な感じだ。そして、途轍もなく【気色悪い】。
「そーか、そうよね、そうなのよね。アナタにとってはその程度でしょうね、その程度だったんでしょうね。わかるわわかるわかるわかってたわよ」
 ブツブツ陰気に呟きながら、それでも視線をこちらから外さずに、彼女は周りの空気を低下させていく。
「え、えーと、あのどうしました?」
 恐る恐る僕は彼女に尋ねる。本当は走って逃げ出したかったが、今隣には心音が居るから、そんな事は出来ない。彼女は運動音痴だ、僕の全力疾走については来れないだろう。ってか、元々女の子に平均男性のスピードで走れなんていうのは無茶だ。
 だから聞いた、逃げ出せないから対話しようと思った。怖いけど、ってかマジ怖いんだけど、何この娘。
 いきなり笑い出すとかあれですか、ホラー映画ですか? その内腰を曲げてエビぞりしながら、エクソシストに這い寄ってくるんじゃないだろうな。

 そしてその妄想はあながち間違っていなかった。
 寧ろもっと現実的で、嫌な方向に間違っていなかった。

「どうしたかって? ははっ……ホント、マジで、ホントにさぁ……」
 そこで彼女は近くに落ちていた鞄をひょいと手に取り、ゴソゴソと探って、中から何かを取り出した。
 そしてそれを僕が視認するよりも早く、彼女は一足で僕まで駆け寄り、そして僕に【抱き付いた】。
 女性特有の何か甘いような切ない様な香りを間近で感じる。彼女の顔が、僕の胸元にあった。だから、小さくて聞き逃しそうな彼女の声もなんとか聞き取れた。
 そして、その意味を聞き返そうとする間もなく、彼女は僕から離れて、鞄を持って、去って行ってしまう。
「なんだ、今の……?」
 疑問符だらけだ、意味が分からない、意味が分からなかったが、なんだか、とても、とてもなんだか、体が、重い……? 
 重いって、どういう?
「初芝—。それ、痛くないの?」
「へ?」
 心音が何か言っている。痛い? どういう事だ? そう聞き返したくて、彼女の顔を見る。
 心音は虚ろで暗くて気持ちの悪い目で僕の下腹部あたりを見ていた。僕もその視線につられて、そこを見る。
 そして見た瞬間、思考が止まった。


 銀色が刺さっていた、腹に、銀色が吸い込まれていた。


「ああ、成るほど、ね……」
 僕は納得の呟きを漏らしながら、ゆっくりと倒れる。
 体が重かったから、横たえた方が楽そうだったから倒れる。
 制服が汚れるのは嫌だったけど、どうせもう赤く染められちゃってるしいいや。
 それより、さっきの女の子、ほんとなんだったんだろうか? 誰だったか全然わからない。
 だけど、分かったことがある。彼女が僕に抱き付いてきたのは、僕に銀色を突きこみたかったからで、先ほどの彼女の言葉の意味はこういう事だって。
 ああ、さっきあの女は確かに幽かに言った。


『消え死ね』


 そう、言った。

「ああ、やば。……これ、ほんと、やばいかも……」
 崩れ落ちながら、僕は適当にぼやく。すごく体が重いのに、不思議と痛くない。面白い感覚だ。
 でも痛くなかったから、冷静に周りが見えた。
 事態に気づいて慌て始める周りの人が。
 駆け寄ってくる買い物袋を持ったご婦人やら、商店街でさっきまで野菜を売ってたオッサンやらなんやら。
 茶髪の若者が、青ざめた顔しながら携帯で電話しているのも見えた。多分、あれだ、救急車でも呼んでくれてるのかもしれない。
 面白いのは、こんな状態の僕を写真で撮ってる連中だ。撮ってどうすんだよ、阿保かお前ら。僕が死んだら化けて出てやるからな畜生……。

 そんな中、一つの視線に気づく。
 翳った瞳で僕を真っ直ぐに見つめる奴。
 無関心じゃないんだ。
 無関係でもない。
 無感情でも無さそうだ。
 そんな彼女が、伽藍の瞳で、空虚な眼で僕を見つめる。
 【見つめる事だけしている】
 ほんと、予想通りでちょっと笑えるよ。
 美少女が、何も映さない瞳で、何もせずにずっと見てくる。
 やっぱり、ものすごく気持ち悪くて気色悪い。
 そんな女の子だった。
 美鶴心音は、やっぱり。
 矢張り彼女は。




 気色悪い

Re: 初芝君は気色が悪い ( No.12 )
日時: 2015/10/25 12:47
名前: 夢精大好きちんぽ丸 (ID: 3p1tWxjm)
参照: https://twitter.com/Toremoro1467

『八話・とかくこの世はジャージだらけ』1


 人が人として生きるときに、絶対に侵しちゃいけない事は、結局の所一つだけだと僕は思う。
 【他人を殺しちゃいけない】。
 この一つ。
 誰かを殺したその時に、人は人じゃない何かになる。
 殺人という行為に何かしらの意味や意義を飾り付けても、結局本質的にそれは血みどろの形しか顕さない。
 一つ、例を挙げよう。
 此処に家族がいる。とても素敵であったかい家族、そうだね四人家族だ。
 父親、母親、兄、妹、そしてペットも入れて、一軒家に住んでいる。
偶には喧嘩もする時もあるけど、それすらも本物の愛情の前では些細なことで。
 お父さんの収入が少なくて、偶に節約に頭を悩ましたりしなきゃいけない事もあったりだけど、それでもやっぱり笑顔が絶えることはない。
 そんな典型的に幸福そうな家族。
 そんな家に一人の強盗が入ってきた。
 時間設定は夜中だ。当然家族は寝静まっている。
 強盗もそれを理解していたから、こっそり忍び入り、金目の物をとっていこうと思ったんだろう。
 ちょっと大胆に過ぎるとは思うけど、成功率は五割位はあるんじゃないかな。
 ああ、だけども残念ながら、彼が家の箪笥をごそりと探っているときに、家族の一人、妹さんが起きてしまった。
 トイレにでも行こうとしたんだろうね。起き出して廊下を歩いているときに、開けっ放しの部屋に居る強盗と目が合ってしまった。
 当然、強盗は驚いて、気が小さかったんだろう状況が理解できる硬直してしまった。
そして、妹さんも驚く。必然、彼女は悲鳴を上げた。大きな大きな声で。
 その声により目を覚ます。初めに父親、次に母親、兄も遅れて目を覚ます。大きな声がした方に彼らは駆けつける。
 そこには荒らされた箪笥と、硬直している強盗がいる情景、そのすぐ近くでワンワン泣いている家族がいる情景。
 さぁ、君ならどうする?
 きっと色々な対応も対処もあるだろうね。だが、この家族達は強盗に襲い掛かった。
 家族を守るために。
 そして近くにあった、飾られた壺やら、仕舞い忘れたゴルフバットやら、テーブルにあった灰皿なんかで強盗を殴りつけた。
 家族を守るために。
 強盗が怖いからだ、強盗に家族が襲われるのが怖いからだ。だから滅多打ちにした、無我夢中で、強盗が動かなくなるまで。

 家族を守るために。

 そして最後には動かなくなった強盗と、ワンワンと泣き続ける妹。
 返り血で汚れきった、父親と母親と兄。そういうのが残った。
 彼等の妹さんを守る気持ちは、他人の流した血で成り立つ様なモノだった。



 僕はそれを愛情とは呼びたくない。

Re: 初芝君は気色が悪い ( No.13 )
日時: 2015/10/26 22:16
名前: 夢精大好きちんぽ丸 (ID: 3p1tWxjm)
参照: https://twitter.com/Toremoro1467

『八話・とかくこの世はジャージだらけ』終



 覚めた。
 目が。
 世界がやけに暗かったが、目を開けると光が差して来て逆に眩しい。ゆっくりと明るさに慣れながら、あたりを見回す。
 白い清潔な天井に、夕方だからか淡く光っている電灯と、涼やかに頬を撫でる風。
 自分はどうやらベットの上に寝かされているようだ。
 はて? 何故僕はこんな清潔感あふれる空間のベットで寝て……


『消え死ね』


 ……あー、思い出した。そうだった、僕は見知らぬ女性に刺されたんだった。向こうはやたら僕の事を恨んでたというか、憎んでた感じだったけど、ほんと誰だったんだろう。
 それとも勘違いとかかな? もしくは心音みたいな、みてくれは可愛い女の子とイチャいてた僕を見て、イライラしてリア充刺殺しよ。ってなったのかな。何それ凄い迷惑。
「っつ!?」
 と、下らない事を思考していたら、ズキリと下腹部辺りに重く鋭い痛みが走った。
 痛みの発信源に目を向けると、包帯がグルグル巻いてある。ついでに服も薄青い物に着替えさせられてあるのも確認した。
 清潔な部屋の清潔なベット、清潔な服装、そして腹部に巻かれた包帯。つまり、此処はもしかしなくても病院って事だ。
 僕が倒れてしまったあの後、多分誰かが電話でもして救急車を呼んでくれたんだろう。それなりに騒ぎになってたみたいだし。
 まあ、別に大した怪我でもなかったみたいだ。包帯をお腹に巻いてあるくらいで、他に何か処置されているわけでもなし。刺さった場所はそこまで致命的な場所でもなかったのだろう。
 それでも、助けを呼んでくれた人には感謝感激雨霰だ。あのまま大量失血でもしてたら、死んでたかもしれないしね。

「んーっと、さて、これからどうしようか……」
 病室はどうやら個室のようで、自分以外に人がいない。一人で居るにはちょっと広すぎる部屋だ。それに清潔的過ぎて、逆に落ち着かない。
 ってか、なんでこの程度の怪我でこんな好待遇なんだろう? 少し開いた窓からの景色を見ると、どうやら僕が刺された商店街からそう遠くない地元の大病院に居る様だが、こんな所で待遇よくされる覚えはない。
 ん?
 いや、待てよ?
 大病院で好待遇……。僕個人がこんな好待遇を受ける筋合いは毛ほどもないのは確かであるけど、そうだ、忘れてた。【あの人】ならそういうコネもあるかもしれない。
 だってあの男は莫大な財産を持ち合わせていて、僕みたいな平凡な高校生には及びもつかないパイプをいくつも持っている。
 その癖、果てしなく気まぐれで、快楽的に行動を起こす人間である。
 だって、あの心音に新しい居住所をポンッと、なんの対価も得ずに渡すような男だ。
 幾ら大病院であろうが、知己の怪我人に個室を手配するくらい訳ないだろうし、そんな事をする理由さえも、気まぐれ、という一言で済む。

「まったく、また変な借りを作ってしまった……」
 顔を片手で抑えて呻く。
 別に彼は借りを作ったからと言って、対価を要求するわけではないのだが。無償で相手に何かをしてもらったとき、そこに生じるのは端的に言えば義理である。
 彼はあの時僕に良くしてくれた、だから僕はそれに対して恩を返さなくてはいけない。
 そういう思考に普通の人間は向かう。
 僕は普通で平凡な人間だから、素直に彼に感謝して、何時か恩を返さなくては! となる。
 そして何時までも返す当てのない恩はかなり膨れ上がっており、僕の現状は借金に追われる不良債権者の様相を呈している……。
 まあ、それでも彼は本当に恩返しなんて望んでいないんであろう態度だから、ぶっちゃけ借り逃げしたろ。とか思ってるんだけどね……。
 
 コンコンッ

 と、そんな不埒な事を考えていると、部屋のドアがノックする音が聞こえてきた。
 この病院のお医者さんか、看護師さんが、患者である僕の様子を見に来たのだろうか?
「はーい、どうぞ」
 僕はちょっと声を張り上げて返事をする。
 そして、その声を聞いて、スライド式のドアがゆっくり開き、外側から病室に人が入ってくる。
 高い身長に長い手足、眼鏡をかけていて、顔つきはやたらと柔和な、三十代後半の多少熟成された雰囲気を漂わす男。
 だが、なによりも、どれよりも、どんな要素よりも目を引くのは。
 【ジャージ】。
 心音の様な、見るものに危機感を与える色合いではなく、薄青色したスポーティで爽やかなジャージである。
 その男は、部屋に入ってくるなり、顔を笑顔の形に歪めて、嬉しそうに僕に言ってきた。
「やーやー、那奈詐君。刺されたって聞いたからビックリしたよ〜。怪我、ダイジョブ?」
 僕はこいつを知っている。知っているなんて次元じゃない位には知っている。
 ってか、さっきからずっと話していたのが、こいつだ、この男だ。
 心音と僕にとっては大変な借りがある人物で、向こうにとって僕達は……なんだろうか? 
 まあ、この人の考えてることなんて全く全然わからない。わかるのは金持ちで、人好きのする男で、恐ろしいほどのお人よしに【見える】って事。
 そして、名前は、本等 九例(ほんら くれい)であり。僕達が彼を呼ぶときに使う愛称は——

「……お見舞いどうもアリガトウ。【神父】」

——ってな感じである。


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