ダーク・ファンタジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 花鳥風月‐平安‐
- 日時: 2017/03/27 15:57
- 名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)
—それは、美しく儚い少女の物語。掟を破ったがために起きた哀しい人生。少女は剣を手にする。冷たく銀色に光る、封印された魔剣を—
「イヤよ!ぜぇぇたいにイヤ!!誰が結婚なんかするもんですかっ!!」
時は平安、ある山奥にある某貴族の生き残りが住む屋敷—
「姫様!結婚ではございません!婚約でございます!」
「同じことよ!!」
そこには、お転婆なお姫様が暮らしていました。
〔まだ十三歳なのよ?なんでもう結婚なんてっ!〕
姫は召使の言うことも聞かずに部屋にこもる。
「姫様ぁ!!」
姫様、姫様と部屋の外はまるで大合唱のよう。
「あー、もう!うるさーーい!!」
バンッ、と障子を開ける。しかし、そこには想像していたよな多くの召使達は一人もおらず、代わりに、
「らーんーひーめーさーまー?」
「ぎゃあ!!!」
低いしわがれた声のおばばが障子の目の前に立っていた。
「おばば!!」
「蘭姫!あの者達の言うことを聞きなさいと言ったでしょうに!!いますぐに支度をしなさい!!」
迫力のある声で言う。さすがの蘭も迫力負けをしながら、
「でもー、私、まだ十三歳なんですけどー…」
と、声小さめの必死の抵抗をした。しかし、その抵抗も聞こえたのか否か、おばばは大きな声を上げて、
「いますぐ仕度をせいーーーーー!!」
「はいーーーー(涙)」
「蘭姫様、それは災難でしたね。」
「そうなのよ、鈴鈴。」
おばばに怒鳴られた蘭は、おばばの手伝いの下、婚約者になろう人に会うための身支度をしていた。
「鈴鈴、そんなに姫様を甘やかさないでおくれ。」
「おばばは厳しすぎなのよう。」
「まぁまぁ、もしかしたらとっても良い方なのかもしれませんし、一度くらいは会ってみてもいいかもしれませんよ?」
鈴鈴は微笑んで言う。日本古来からいる精霊の一人である鈴鈴は、蘭のお友達兼付き人なのだ。
「第一に、姫様とは生まれる前からの婚約者なのですよ?」
「分かってるわよ。だけどねおばば、一回も会ったことがないのにどうしたらそんなに嫌がらずにすむと思う?」
「それは仕方のないことなのです。」
おばばが蘭の髪を梳かしながら言う。少し違和感の覚えるような声で。
「さて、姫様。身支度もできましたし、早速会談のある座敷へ移りましょう。」
嫌な空気をも吹き飛ばすかのような声と笑顔で、鈴鈴が言った。
—数分後。少しばかりの化粧をほどこした蘭と、蘭の後見者であるおばば、付き人の鈴鈴の下に門番からの通達があった。
「鴛鳥親王様が到着したようです。ご覚悟を決めて下さい、蘭姫様。」
「おばば様。」
「親王をお通しせよ。」
ドキンっ、ドキンっ…
〔何?この感じ…。寒気がする。何?何?〕
ガラッ
障子が開く。何人かの使いと共に中に入ってきたのは—
〔うわぁ、ちょっとカッコいいかも…。〕
「下がれ。」
「ハッ。」
親王がお付の者に命じると、みんな下がり、部屋の中には三人と一匹(?)になった。
「お久しぶりです、おばば。」
「出雲よ、元気にしていたか?」
出雲、と呼ばれた親王が、おばばと二、三言話す。そして、おばばが蘭の方に向かい、
「こちらが蘭姫だ。」
と言った。急に話を振られた蘭は、慌てておばばに(さっき)教え込まれたお辞儀の姿勢をつくる。
「初めまして、蘭でございます。」
蘭にしては丁寧に優雅に挨拶をした。
「この姫が…」
じっと蘭を見つめる親王。
〔あんなに綺麗な顔で見つめられたら、頭が沸騰しちゃうよー!〕
そんなことを考えながら顔を赤くする蘭しかし—
「豚猿だな。」
…。
ブタザル…?
「…っ!!誰が豚猿よ…っ!」
あのあと。豚猿、と呼ばれた蘭は、思いっきり親王に蹴りを入れた。そんな親王も、手当ての後、現在は別室で休んでいる。
「まぁまぁ姫様。そんなに怒らないでください。親王様もそこまで悪気があった訳ではではないのでしょうし…。」
「悪気がなかったからって許されるもんじゃないのよっ!…それとも鈴鈴、私って本当に豚猿?」
「そんなわけないじゃないですか!!」
「うぅー」
蘭は机に伏せる。すると、
「言われたもんはしょうがないだろう。」
としわがれた声が。顔を上げると、おばばと
「ちゃっかりおばばと一緒に入ってくんなー!!このヘンタイーー!!」
親王。蘭はすぐそばにある竹刀を手に取り親王の方に向けた。
「親王はわしがお連れしたんだ。って蘭姫!!いますぐ竹刀を下ろしなさい!!」
「イヤよ!」
「そんなことを言っている場合ではない!!掟を忘れたのか!」
「忘れたわけないじゃない!鏡を見なければいいんでしょ?」
そのときっ
『分かる…分かる…もう少し…もう少し…憎しきかぐやよ…』
〔かぐやですって…?〕
頭の中に声が響く。どろどろとした、気味の悪い声…。
『かぐや…かぐやよ…』
〔?!〕
いきなり、右側から強い風が吹く。驚いて右側を見ると…
—そこにあったのは鏡だった。
『みぃーつけた♪』
‐続‐
- Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.21 )
- 日時: 2017/05/14 13:06
- 名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)
…梓邸
「このお蕎麦、美味しい〜♪」
「あぁ、郷土料理って感じがする。」
颯とも合流した一行は、梓の家で昼食をとっていた。
「この蕎麦は立川蕎麦っていうきす。土佐の人一押しの料理なんぜよ。」
「へぇ。出雲は食べたことあった?」
「ん?まぁ、一度だけ。兄さんと一緒に。」
その言葉を聞いて、おばばの顔が少し曇った。蘭は、出雲にお兄さんがいたんだなぁ、と心で思いつつ何となくそれ以上その話題を引っ張ることは出来なかった。ただ単に、何となくだが。
「…にしたち、まっこと梓は料理が上手いのぉ。」
マイペースな口調で颯が梓に笑いかける。梓は少し照れながらも、
「おばさん達のお陰ちや。」
と答えた。その様子を見て蘭と出雲は少しだけ微笑む。その様子は、まるで夫婦そのものだったからだ。
お腹もいっぱいになったところで、おばば達は村の散策に出かけた。珊瑚は持ち前のコミュニケーション力で、既に友達を作っている。雨月はこの村の工芸品に興味があるようでそっちの方に回っている。おばばと鈴鈴は新しく薬草を摘んで薬を作るようだ。
蘭と出雲は二人がかりで村に伝わる書物を読み込んでいた。
「やっぱり、この村にいるのは間違いないようだけど…」
「誰だかは、さすがに分からないな。」
そんな会話をしていると、出雲の手が止まった。ページを捲る音が聞こえなくなったため、蘭は後ろを振り返る。
「どうかしたの?出雲。」
「雷が鳴り、雨が激しく降りかかるとき。闇に使える使者達が、一人の子供を生贄に取る。」
「?どうしちゃったの、ついに頭がおかしくなったの?」
「そんな訳あるか。…この書物にこう書いてあったんだ。昔の民話か何かだろう。ただ…」
「ただ?」
「この続きが破られているんだよ、これ。話が続いているのに、その後が破りとられてる。」
「単なる悪戯じゃないの?」
「もしそうならいいんだが…引っかかるのはこの、」
「「闇に使える使者。」」
「絶対に言うと思った。」
「同じことを考えているのなら話は早い。もしもこれが、妖のことなら…」
「私達がいる間に何か起きるわね。」
そう言うと、蘭は本棚の一番上の所にある一冊の本を手に取った。すると、
「え?きゃ、キャア!!」
上っていた梯子が後ろに倒れ、その弾みで本棚にあった本が何十冊落ちてくる。
「蘭!!」
痛い—と思ったが、何も頭や体にぶつからない。おかしいと思ってそっと目を開けて上を見ると、そこには出雲の顔があった。
…つまり、だ。成り行きとは言えど、現在蘭は出雲に抱きしめられている。
自分でも顔が熱くなったことに気付く。
「何顔赤くしてんだ?まさか、俺のこと意識した?」
「そ、そんなことないわよ!!」
「クック、おもしれー顔。」
「なっ!」
出雲は慌てて赤面する蘭を嘲笑うかのように、数分間は蘭のことを抱きしめていた。
「梓、入りなさい。」
その夜、梓は父に呼ばれていた。
「失礼するがで。何の用なが?」
梓は思いっきり土佐弁で返す。
—梓は父が嫌いだ。土佐弁も、土佐自身も嫌うこの父が。
「梓、お前は役目を果たすときがきた。」
父はニンマリと笑った。これでようやくお前から解放されると。梓は走り、走った。彼の元へ。大好きな彼の元へ。…もう、あと二日で会えなくなってしまう彼の元へ。
- Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.22 )
- 日時: 2017/05/21 11:44
- 名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)
梓は走った。今までで一番速く走ったかもしれない。
息は切れ、ただひたすらに、走る。
—その日は月が出ていた。月明かりが梓の顔を、涙を照らしている。
「颯!!」
「あ、梓?!」
梓は勢い良く颯に抱きついた。颯が夜な夜な稽古をする場所まで走ってきたのだ。颯は汗をかいたからなのか上半身は裸だった。が、躊躇なく自分に抱きついてきた梓の様子の異変に気付いて咎めることもしなかった。
「…どうかしたがか、梓。」
「…。」
ゆっくりと梓に問うものの、梓は答える代わりに首を横に振るだけ。颯は一旦木刀を地面に置いて、ゆっくりと座った。勿論梓と共に。
颯は優しく梓の髪を撫でた。漆黒の、美しい髪を。そして、髪に自身の顔を埋める。梓はいつも強い。何があってもへっちゃらだ。…しかし、颯と二人きりになると梓はたまに弱みを見せる。まぁ、簡単に言えば甘えてくるのだ。…時々。梓のこんな一面を知っているのが自分だけ、ということが何となく嬉しい。それくらい、こいつに惚れ溺れているのだということを自覚する。
数十分後、梓の押し殺した声が規則正しい寝息に変わった。泣き疲れたのだと思うと、やっぱりまだまだ子どもなんだということを思う。自分だって年齢こそ変わらないくせに。
〔おんしばあは、どうしたち守りたいんじゃ…。〕
もう一度、ギュッと梓を抱き寄せる。
「いやぁ、すまんね。毎回毎回。」
梓邸。寝てしまった梓を家まで運んでいき、家の呼び鈴を鳴らす。すると、梓の父親が出てきた。
「いやぁ、別にどうってこともないきによ。」
わしはわざと明るく笑う。梓の父の顔に張り付いた薄っぺらい笑顔に負けじとして。
「じゃあ君も気を付けて帰ってくれ。」
その一言で締め、わしを家から追い出す。さっきの梓の様子といい、梓の父がわざわざ出てきたことといい、今日の梓邸はどこかおかしい。
「ちくっと調べてもらうかぇ。」
そう颯が呟いたのは、颯自身だけが知ること。
「梓ちゃんの家を探ってほしい?」
雨月と喧嘩している最中に、急に現れた颯にそう言われた。
「何か変なことを考えてるんじゃないでしょうね?」
私は眉を顰めた。
「変なことと言えば変なことなんけんど…。」
颯はらしくもない苦笑いを浮かべた。
「へぇ、梓って親父いたんですねェ。」
「確かに。昨日お邪魔したときは見なかったわね。」
「ほき、梓が昨夜様子がおかしうて。梓の父親だってそうじゃ。何かがおかしい。絶対に何かあるんちや。ながに…」
「つまり、梓ちゃんの家で起こっているかもしれない『何か』を突き止めてほしいわけね。」
「そうじゃ。」
「梓ちゃんのためにも一肌脱ぎましょう、雨月。」
「俺もですかィ?!…まったく、しょうがないでさァ。」
「よろしく頼むわ。」
そう言って颯はその場を立ち去っていった。姿が見えなくなってから、私達は少し小さな声で会話をする。
「梓ちゃん、愛されてるわね。」
「あぁ、そうだねィ。」
「それに…気付いた?」
「当たり前でさァ。男の勘、舐めんなよ。」
「こっちの台詞よ。バカ。」
「クソ。」
「マヌケ。」
「死ねよ。」
「そっちがな。」
互いに悪態を突きつつ、二人の足は梓邸へと向かっていた。
「…そうか。この村にそんな民話が…。」
此処は民宿。おばばの知り合いの女亭主のご好意で泊まらせてもらっている。あの書物のことはさすがに知らなかったらしい。
「他に何か分かったことは?」
「別の書物でけど、百年に一回だかなんだかって書かれていたけど…。」
その言葉で、おばばはハッとした。
「どうかした?」
「百年に一回の呪い…。もしかしたら、今年かもしれん。」
「?!」
「どういうことだよっ!!」
「詳しいことは話せん。が、きっと今年のことだ。しかも、我々のいる間に起こる…。絶対に、なんとしてでも白虎を見つけるのじゃ!!」
あまりの慌て様に蘭と出雲は息を呑む。
「刹那…。」
外に出る。顔からは一滴の涙が零れた。
「お前は今、どこにいる…?」
小さく呟き、顔を俯かせた。
‐続‐
- Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.23 )
- 日時: 2017/05/21 12:24
- 名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)
「う〜ん、よく見えないなぁ。」
此処は梓邸。颯に依頼されてすぐに雨月と共にやって来た。ちなみに屋根裏に隠れて偵察中である。
「二人でいても見つかる危険性が高まるだけでさァ。俺は取り合えず梓の親父の方を見てくるな。」
そう言って二手に分かれたのは数分前。この間から隣にいることが当たり前のようになっていたためか、何となく寂しさを感じた。
「…って、何変なこと考えてるんだろう、私。」
ハッとして気持ちを切り替えて梓の部屋を天井から覗き込む。梓が一人、部屋にいるだけでそう変わったものは無い。
〔やっぱり、颯の思い過ごしだったんじゃないかな…?〕
そんなことを考えていると、急に襖が開いた。
「梓。」
そう言って入ってきたのは四十代くらいのおじさん。
〔もしかして、これが颯の言っていた梓ちゃんのお父さん?!〕
その顔をよく見ようとしてもっと覗き込もうとした瞬間、
ギギッ
〔?!〕
バランスを崩して屋根裏がおかしな音を立てた
〔もしかしてこれ、屋根裏が抜けるパターン!?〕
ヤバイ、と思った瞬間、ふわりと体が浮いて、誰かの腕にすっぽりと抱きかかえられる。
「何やってんでィ、てめェは。バレたら今までの苦労が水の泡だぜィ?」
「雨月!!」
「梓の親父を追ってきたらてめェがバランス崩して屋根裏抜けそうになってたんでィ。感謝しろよ?」
「不本意だけど、ありがとう…。」
「よしよし。今の音を不思議に思ったみてーだが、本題に入りそうじゃねェか。」
そう言って雨月は私に目配せをして、静かにするように言う。私は頷いて耳を澄ませた。
「…梓、用意は出来てるな?」
「はい、勿論できてゆう。」
「いいか、百年に一度の祭りの生贄になることは大層栄誉ことなのだ。一人の子の命で村が百年間は保つ。この仕来りを忘れるな。」
「…はい。」
「では、また明日。あと一日の人生を楽しみたまえ。」
そう言って梓の父は出て行く。
「…生贄?」
「ウソだろィ?」
「い、今すぐ蘭様達にご報告に!!」
「百年に一度の祭りの生贄が梓ちゃん?どういうこと?」
「詳しいことまでは分かりませんが、生贄なのは確かです。」
珊瑚と颯が大慌てで帰ってきて、いきなり皆に収集をかけるなど珍しいと思っていた蘭だが、二人の報告に呆然とした。
「出雲あの書物と同じだわ…。」
「あぁ。」
「あの書物、ですか?」
頭に?を浮かべた二人に、出雲が丁寧に教える。
「何か他に情報はなかったのか?」
「…きっとその祭りは明日ですぜィ。」
「え…!で、でも、そんな様子は無いじゃない!!」
「もし、あの家族の中だけで祭りと呼んでいたら?梓の親父しか日時を知らず、町人達は知らされていなかったら?これで辻褄はあいますぜぃ?」
「確かにな…。」
「このこと、颯には言う?」
「やっぱり言っといたほうが—」
「ダメじゃ。」
「お、おばば?!どうして…」
「絶対に言ってはならん。このことは今此処にいる全員だけの秘密じゃ。」
「でもっ…」
「蘭様。」
「鈴鈴…」
「取り合えず、おばば様の言う通りにしましょう。」
そう言って、鈴鈴は目を伏せた。
蘭はただただ、呆然とするだけだった。
‐続‐
- Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.24 )
- 日時: 2017/05/22 20:20
- 名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)
ヒュッ、ヒュッ
竹刀が朝の風を斬る。
空は青く澄み渡り、風も清々しい程に気持ち良い。
〔なにか、ある。〕
そんな空模様とは裏腹に、颯の心は曇っていた。
昨日、珊瑚と雨月に偵察をお願いしたは良いものの、結局結果報告は返ってきてはいない。一体どういうことなのだろうか。やはり、自分の思い過ごしに過ぎなかったのか。
〔いや、でも…〕
証拠は無い。だけど、何故か絶対になにかある、と言える漠然とした自信。一体、この自信は何処から来るものなのだろうか。
ヒュッ、ヒュッ
竹刀が、風を斬る。
「おばば、今日だけど…」
「分かっておるよ。安心せい。」
「やっぱり、颯に言っといた方が…。」
「出雲、絶対に言うでない。」
「は、はい…。」
誰も知ることの無い祭り。今日の夕方、一人の少女が生贄にされることも知らない。
「おばば、これがもし妖の仕業だとしたら…。」
「その場合もそうでない場合も、残らず叩き斬れ。」
「うん。」
闇の使者、というのが本当に妖なのかも分からない状態。これでは事前準備も出来やしない。つまり、一発本番ということである。
「火神招来っ!!」
「水神招来!」
「行け〜!!あそこにいる気に食わない奴を丸焦げにしてしまえェェェ!」
「あの気に食わねェ豚を今すぐビショビショにしてやれェ!!」
一発本番、という言葉を聞いた二人は、それぞれの力の微調整を、と言って闘い始めた。しかし…
「…豚はやっぱり女の子に言っちゃだめよ?」
蘭は雨月に向かって小さく呟く。勿論、雨月はまるっきし聞いてはいない。やはりそこへ登場するのは、一番登場してほしくない…
「お前の場合は豚じゃなくて豚猿、だろ?」
「出雲〜!!!」
蘭もこいつに前、豚猿呼ばわりをされた。
「猿並みに剣は上達したかい?」
「余計なお世話!!!」
「そんじゃ今から一戦やろうか。」
「受けて立つはわ!!」
こちらも相変わらず喧嘩が絶えないようである。
「蘭様も、出雲様も、お元気そうですね。」
「あぁ、そうだな。」
「旅に出るときは、もうちょっと暗かったですし。」
「味方も見つかって、きっと心の荷が軽くなったのさ。」
「…そうですね。ところでおばば様、その絵は何ですか?」
「あぁ、これかい?これはね——」
夕方。
キュッと腰の辺りで帯を縛る。
普段ならあまり着ない、白い着物。いわゆる白装束である。
髪を解き、くしをかける。あぁ、自分の髪はこんなに長かったんだ、と改めて思い知らされる。
あの夜以来、颯とは会っていない。もし会ってしまったら、絶対に泣いてすがってしまう。助けて、と助けを求めてしまう。だけど絶対にそんなことしてはいけない。これは家の仕来り。村人を守るための、大切な仕来り。村を治める家系すらも知りえないこと。
—これで正解だ。合っている。
そう心に言い聞かせて、私はくしを置いた。
「う〜ん、疲れたぁ。」
「もう一仕事あるだろィ。何寝言言ってやがる。」
「煩いなぁ、もう。」
私は雨月と見回りという名の散歩をしていた。軽く小言を言い争いながら進んでいく。と、そのとき
〔何か、来た!!〕
私と雨月は同じ瞬間に振り向いて、同時に地を蹴った。
「ほぉぉぉぉ!!!」
叫びながらいきなり現れたでかい怪物にクナイを投げる。出雲は真剣で斬る。
キャアキャアと言いながら、歩いていた村人達は一斉に逃げ始めた。全員が居なくなったことを横目で確認してから、雨月と頷き合う。
「おりゃぁぁぁ!!!」
「ほぉぉぉぉぉ!!!」
二人の叫び声が村中に響き渡った。
—わしらが駆けつけたときには、二体目が片付けられるところだった。少年と少女がクナイと真剣を振り回して闘っている。また、三体目は金色に輝いた髪を持つ少女と、もう一人の少年が真剣で倒している。それでも大きな怪物はなくならない。次から次へと出て来る。
〔わしも—〕
と思って家から持ってきていた真剣を握りなおしたそのとき。
「闇からの使者よ。生贄だ。」
そう言った、聞き慣れた不気味な声が響いた。怪物は一旦動きを止める。少年少女達も、動きを止めて振り返った。
そしてその視線の先にいたのは—
〔梓っ!!〕
白装束に身を包んだ梓だった。
「この娘の命と引き換えに、我が村に百年の繁栄を—」
いや、このオッサンなに言ってんだ?梓の命と引き換えに、この村を幸福にしろと?
わしは自分の父さんの方を見ると、あからさまに冷え固まっている。—聞かされていなかったか。
梓と視線がぶつかる。一瞬だけ、一瞬だけだが、哀しそうに微笑んだ。
熱いものがこみ上げてくる。梓、梓…
「梓…!!」
手を伸ばした瞬間、
『グゥゥゥゥ!!』
怪物が梓を上に持ち上げた。今にも食べてしまいそうだ。少年少女達はまた怪物に斬りかかるが、今までと違いビクともしない。
わしは立ちすくんだ。…前もこんなことがあったような気がする。遠い昔、過去の記憶…。
「はや、守れんのはいやじゃき…」
そう呟いた時、わしの視界は急に黒白に染まりはじめた—
‐続‐
- Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.25 )
- 日時: 2017/06/03 16:11
- 名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)
「はや、守れんのはいやじゃき…」
颯が呟いた。…無意識に。自分でも何を言っているのか、理解出来なかった。しかし、颯がそう呟いた途端に辺りは黒白に包まれていく。まるで、色が黒と白に飲み込まれていくような、不思議な光景。見れば、自分と珊瑚と雨月以外の人々は止まっている。あちらも同じような不思議で腑に落ちない顔付きをしていた。
颯は目を見張る。一体どうなっているのか、と。
「おい。」
いきなり呼ばれて声がした方を振り向くと、そこには一人の青年がいた。自分と同じ、白銀に光る髪を持つ青年。
「…おんし、何者じゃ?」
颯はいきなり現れた謎の青年に向かって、警戒態勢を取ろうとした。…しかし、どうしたって警戒出来ない。逆に安心感が湧き出てくるばかり。
「ほがに警戒しのうてもよい。わしの名は刹那、おまんの前世の姿よ。」
「わしの、前世…?」
「そうじゃ。そして、前白虎でもある。」
「…」
「おんし、大切なおなごがいるじゃろう?」
「…」
「そして、それは生贄の家の娘でもある。」
「…」
「わしのときもそうじゃった。やけど、結局は守ることが出来んかった。」
「…四龍の一人でも、出来んことはあるじゃろう。」
「やが、今は違う。」
「おんなじじゃ!歴史は繰り返されるもんじゃきに!!」
「そうかもしれん。じゃが、そんな理由でそのおなごの事、諦められるんか?」
「それは…」
「おまんは知らないと思うがの、わしらは約束したんじゃ。次に生まれ変わり、四龍の力を合わせたとき。絶対にこがな過ちを犯さないと。」
「…っ」
「おまんは、大切なおなごのことを救いたいと思わんか?」
どんなときも側に居てくれた梓。ずっとにこにこ笑って、なんでも許してくれた彼女。それなのに、今自分は彼女を見捨てるのか?あの哀しそうな笑顔を、見逃してしまうのか?そんなの、そんなのは—
「…いや、じゃきに。」
「…」
「わしは、梓を助けたい!!!」
「…よく言った。」
刹那は少しだけ笑った。
「颯よ。お前を新しい白虎として任命する。」
彼がそう言った瞬間、颯は自分の中に何かが入ってきたような感覚に襲われた。ゆっくりと閉じていた目を開く。するとそこには、刹那ではなく珊瑚と雨月が立っていた。
周囲がまた、色を取り戻していく。
〔わしは、梓を必ず助ける…!!〕
‐続‐
☆次回、白虎編最終回!!梓と颯の運命は?!