ダーク・ファンタジー小説

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花鳥風月‐平安‐
日時: 2017/03/27 15:57
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

—それは、美しく儚い少女の物語。掟を破ったがために起きた哀しい人生。少女は剣を手にする。冷たく銀色に光る、封印された魔剣を—
「イヤよ!ぜぇぇたいにイヤ!!誰が結婚なんかするもんですかっ!!」
時は平安、ある山奥にある某貴族の生き残りが住む屋敷—
「姫様!結婚ではございません!婚約でございます!」
「同じことよ!!」
そこには、お転婆なお姫様が暮らしていました。
〔まだ十三歳なのよ?なんでもう結婚なんてっ!〕
姫は召使の言うことも聞かずに部屋にこもる。
「姫様ぁ!!」
姫様、姫様と部屋の外はまるで大合唱のよう。
「あー、もう!うるさーーい!!」
バンッ、と障子を開ける。しかし、そこには想像していたよな多くの召使達は一人もおらず、代わりに、
「らーんーひーめーさーまー?」
「ぎゃあ!!!」
低いしわがれた声のおばばが障子の目の前に立っていた。
「おばば!!」
「蘭姫!あの者達の言うことを聞きなさいと言ったでしょうに!!いますぐに支度をしなさい!!」
迫力のある声で言う。さすがの蘭も迫力負けをしながら、
「でもー、私、まだ十三歳なんですけどー…」
と、声小さめの必死の抵抗をした。しかし、その抵抗も聞こえたのか否か、おばばは大きな声を上げて、
「いますぐ仕度をせいーーーーー!!」
「はいーーーー(涙)」

「蘭姫様、それは災難でしたね。」
「そうなのよ、鈴鈴。」
おばばに怒鳴られた蘭は、おばばの手伝いの下、婚約者になろう人に会うための身支度をしていた。
「鈴鈴、そんなに姫様を甘やかさないでおくれ。」
「おばばは厳しすぎなのよう。」
「まぁまぁ、もしかしたらとっても良い方なのかもしれませんし、一度くらいは会ってみてもいいかもしれませんよ?」
鈴鈴は微笑んで言う。日本古来からいる精霊の一人である鈴鈴は、蘭のお友達兼付き人なのだ。
「第一に、姫様とは生まれる前からの婚約者なのですよ?」
「分かってるわよ。だけどねおばば、一回も会ったことがないのにどうしたらそんなに嫌がらずにすむと思う?」
「それは仕方のないことなのです。」
おばばが蘭の髪を梳かしながら言う。少し違和感の覚えるような声で。
「さて、姫様。身支度もできましたし、早速会談のある座敷へ移りましょう。」
嫌な空気をも吹き飛ばすかのような声と笑顔で、鈴鈴が言った。

—数分後。少しばかりの化粧をほどこした蘭と、蘭の後見者であるおばば、付き人の鈴鈴の下に門番からの通達があった。
「鴛鳥親王様が到着したようです。ご覚悟を決めて下さい、蘭姫様。」
「おばば様。」
「親王をお通しせよ。」
ドキンっ、ドキンっ…
〔何?この感じ…。寒気がする。何?何?〕
ガラッ
障子が開く。何人かの使いと共に中に入ってきたのは—
〔うわぁ、ちょっとカッコいいかも…。〕
「下がれ。」
「ハッ。」
親王がお付の者に命じると、みんな下がり、部屋の中には三人と一匹(?)になった。
「お久しぶりです、おばば。」
「出雲よ、元気にしていたか?」
出雲、と呼ばれた親王が、おばばと二、三言話す。そして、おばばが蘭の方に向かい、
「こちらが蘭姫だ。」
と言った。急に話を振られた蘭は、慌てておばばに(さっき)教え込まれたお辞儀の姿勢をつくる。
「初めまして、蘭でございます。」
蘭にしては丁寧に優雅に挨拶をした。
「この姫が…」
じっと蘭を見つめる親王。
〔あんなに綺麗な顔で見つめられたら、頭が沸騰しちゃうよー!〕
そんなことを考えながら顔を赤くする蘭しかし—
「豚猿だな。」
…。
ブタザル…?

「…っ!!誰が豚猿よ…っ!」
あのあと。豚猿、と呼ばれた蘭は、思いっきり親王に蹴りを入れた。そんな親王も、手当ての後、現在は別室で休んでいる。
「まぁまぁ姫様。そんなに怒らないでください。親王様もそこまで悪気があった訳ではではないのでしょうし…。」
「悪気がなかったからって許されるもんじゃないのよっ!…それとも鈴鈴、私って本当に豚猿?」
「そんなわけないじゃないですか!!」
「うぅー」
蘭は机に伏せる。すると、
「言われたもんはしょうがないだろう。」
としわがれた声が。顔を上げると、おばばと
「ちゃっかりおばばと一緒に入ってくんなー!!このヘンタイーー!!」
親王。蘭はすぐそばにある竹刀を手に取り親王の方に向けた。
「親王はわしがお連れしたんだ。って蘭姫!!いますぐ竹刀を下ろしなさい!!」
「イヤよ!」
「そんなことを言っている場合ではない!!掟を忘れたのか!」
「忘れたわけないじゃない!鏡を見なければいいんでしょ?」
そのときっ
『分かる…分かる…もう少し…もう少し…憎しきかぐやよ…』
〔かぐやですって…?〕
頭の中に声が響く。どろどろとした、気味の悪い声…。
『かぐや…かぐやよ…』
〔?!〕
いきなり、右側から強い風が吹く。驚いて右側を見ると…
—そこにあったのは鏡だった。
『みぃーつけた♪』
‐続‐

Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.11 )
日時: 2017/04/11 16:21
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

青龍編


「うわぁ、とってもにぎやかですねー!」
蘭達一同は、南にある忍者村から東にある本豪街へと足を向けた。青く澄み渡る空、雲一つない晴天。太陽の光がいっぱいに差して、明るい風景がより一層明るくみえる—…が。
「おばば〜、もうだめ、歩けないよーー!」
蘭が心の底から訴える。…そう、忍者村から本豪街まではとても遠い。
「蘭様、平気ですか?」
「ホンットに体力無いんだな、お前。」
「姫様、もうお疲れですか?」
珊瑚と出雲とおばばは全くもって疲れていないらしい。
「蘭様、無理なさらないで下さいね。」
私が大きくなれればいいんですが…と、鈴鈴は蘭の肩の上から声を出す。
「ダメよ、鈴鈴。大きくなると大変なんでしょう?」
鈴鈴は大きくなることはできるものの、どうも体力と精神力を大幅に削減させてしまうらしく、滅多に大きくはならない。
「まぁ、それくらい話せるならまだ平気だろう。」
「なっ…!ホントに疲れてるんだからねーー!!」
「ハイハイ。」
〔本当に出雲ってよく突っかかってくるんだから。〕
すると、いきなりおばばが足を止める。危うくひっくり返りそうだったところを、寸前で出雲が止めてくれた。
「ありがと、出雲。…おばば、急に止まらな—」
急に止まらないでよね、と言おうとした時、何故おばばが足を止めたのかが分かった。
「やぁ、お久しぶりですね、桂殿。」
おばばが嫌味たっぷりに言う。相手はニッコリと笑って、
「本当に久しぶりですね、おばば様。」
と返した。
〔おばば、顔は笑ってるけど目が笑ってない!恐すぎる…。〕
「何故ここに?我らが来ることを知っていたようだ。」
「まぁ、風の噂でね。」
「では、我らの旅の目的も存じておるのか?」
「四龍を探しているのだろう?残念ながらここにはいないよ。だが、折角ここまで来たんだ。ゆっくりしていってくれたまえ。」
「あぁ、そうするよ。」
それに…とおばばが続ける。
「本当にここに青龍がいないと分かった訳ではないからな。」
その言葉に反応して、桂がギロリとおばばを睨む。負けじとおばばも睨み返した。

「私、あの桂って人、きらいかもです…。」
「心から好いている奴なんかこの世にいやせんよ。」
ふわふわとした布団に寝転んだ珊瑚は、ぶるっと身震いをする。
「あのギロリとにらんだ顔。本当に恐かった…。」
「まぁ、桂はちょっと迫力あるかもね。」
下宿先は、おばばの知り合いの旅館。とても綺麗で大きく、部屋は沢山余っているので好きに使ってよいと言われた。
「おばば様にはいろいろとかしがあるからね。」
そう言ってワハハ、と笑った女将さんを見て、蘭は思ったのである。
〔一体おばばには知り合いが何人いるのだろう…〕
と。
「…にしても、あれは絶対にクロだろう。」
出雲が言う。出雲は男だが蘭の護衛として一緒に寝ることになっている。
「桂様が?」
「あぁ。」
桂とはここ数年会ってはいない。会ったのはきっと、まだ家族が生きていた頃だろうから…四歳から六歳ぐらいのときか。第一印象は「ひげを生やしたおじさん」。確か、ちょっと紳士風だった気もするが…。なんとなく、数年前とは雰囲気が違う。何故だろうか?そういえば、昔会った時は護衛の者なんて一人も付いていなかったのに、さっきは四人くらいいたし…。
〔単なる偶然かしら…?〕
同じことを考えていたらしく、出雲がおばばに問う。
「桂って、護衛なんて今まで付けていたか?」
「そういえば、昔は付いていなかったね。噂だと、ここ数年、急に人柄が変わったそうだ。」
出雲も昔、桂に会ったことがあるのだろう。おばばの説明を聞いても、腑に落ちないような顔つきだ。
「でもおばば様。青龍はどうやって探すおつもりなのですか?」
鈴鈴が不安げに聞く。
「確かに。いないと断言されてしまっては、どうすることもできないのでは…?」
「まぁ、とりあえずは情報収集からだ。時間もたっぷりあるしな。」
おばばがニッコリと笑う。
—しかし、そのとき、個々に心の中で引っかかる何かを感じていたのだ。
‐続‐

Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.12 )
日時: 2017/04/10 17:35
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

こんにちわ、鏡花です。
遂に青龍編がスタートしました。
新キャラの桂とは、一体どんなキャラクターなのでしょうか?
春休みも終了し、新学期がスタートしたため、投稿するのが遅くなるとは思いますが、気長にお付き合いください。
「花鳥風月‐平安‐」
よろしくお願いします!

Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.13 )
日時: 2017/04/11 16:54
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

—夜。
月はきらきらと輝いており、空は群青色に染まっている。雲一つない今日は、十分月明かりで夜を越せそうだ。
「蘭様、平気ですか?」
「うん。ちょっと眠れないだけ。」
蘭は宿屋の庭を散歩していた。おばばには絶対に夜に外に出るなと言われているが、どうしても眠れぬ夜は外に出たくなる。これもきっと、昔の癖だろう。眠れぬ夜は、よく父が外に連れ出してくれたものだ。
〔妖を恐れているおばばの気持ちも分からなくもないけど。〕
こっそりと外に出ようとした際に鈴鈴に気付かれて、一緒に鈴鈴も来ることになったのだ。
「いえ、そちらではありませんよ。おばば様に怒られないかの方が心配なんです。」
「あー、ちょっとやばいかもしれないけど、まぁ平気でしょ?」
そう言ってウィンクする蘭の顔を見て、鈴鈴が「やれやれ…。」といった風な顔をした。
数分間歩いて、庭を一周ぐるりとしたあと、
「さぁ、帰りましょう。」
と鈴鈴にささやく。その瞬間、
〔?!〕
背後から誰か
が飛び掛ってきた。気配を感じてワンテンポ遅れながらも振り向く蘭を庇うようにして、鈴鈴が呪文を唱えて氷の破片を相手に突き刺す。
「うぐっ!!」
氷の破片が皮膚の色々なところに突き刺さったのだろう。血と共に声を上げて崩れかける。蘭が慌てて相手の確認をしようとして手を伸ばしたとき、
ヒュッ!
と音がして、蘭の手が届く前に矢が相手の心臓を狙って空をきり、突き刺さった。よく見てみると相手は男で、どこにでもいそうな若者。胸に突き刺さった矢からは血が滴り、服には血がにじんでいる。
「蘭様、穢れます。」
そう言って鈴鈴は蘭が男に触らぬようにして、小さな笛を吹いた。すると、
「蘭様ァーー!」
と言って珊瑚を先頭に、出雲とおばばがやって来た。
「おい、蘭!平気か?」
「姫様、怪我はありませぬな?」
「珊瑚、出雲、おばば〜!」
あまりにも事が急に過ぎていったので、蘭はホッとしたのと同時に地面にへたり込んだ。そんな蘭の後ろに浮いている鈴鈴の視線の先をたどったであろうおばば達は、ハッと息を呑む。
「おい、それは…」
「きっと桂殿に洗脳された人でしょう。…バカな奴。」
鈴鈴が冷たく言い放つ。その声があまりにも冷酷で冷え切っていたため、みんなが驚いた。
「蘭様、本当に怪我は無いんですね?」
鈴鈴が念を押すように聞く。
「う、うん…。」
「ならよかったです。」
蘭の答えを聞いて元通りの笑顔になった鈴鈴は、蘭の肩に乗った。
「おばば様、取り合えず戻りましょう。また襲われたら困りますから。」
その声にハッとしたおばばは、相槌を打って皆を促す。
〔鈴鈴よ…。そんなに怒るでない。〕
声に出せない本音を、おばばは心の中でそっと洩らした。

Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.14 )
日時: 2017/04/17 19:02
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

その次の日。珊瑚は一日中ずっと考え事をしていた。
〔なんだろう、この不思議な感覚…。今までには無い、心の中で誰かに呼ばれている感じ…。〕
この街に来てから、眠っている間でさえも感じる不思議な感覚。この感覚に一度陥ると、当分の間ボーっとしたりして、なかなか抜け出すことができない。
〔そういえば…〕
今朝の夢も、何かいつもとは違うような感じだった。うろ覚えで、よくは思い出せないけど…
〔そう、確か…青い瞳を持つ男の子で、とっても髪が長くてきれいで…。とても静かそうな男の子。それに、手になんか付いていたような…〕
それくらいしか思い出すことは出来ない。まるで霧がかかったようにモヤモヤしていて、それ以上は思い出せない…。
〔どうしよう。このこと、おばば様に言った方が—〕
バコーーーンっ!
「いった〜い!!おばば様ヒドイ!」
「酷いのはお前だろう、珊瑚!せっかく朝稽古をしているというのに…お主はもっと、朱雀の力を持っている大切さを自覚せい!!」
思いっ切りおばばに竹刀で叩かれた。

「り、鈴鈴…おはよう。」
「おはようございます、蘭様。」
珊瑚がおばばに怒られている間、蘭は出雲と共に食事を取っていた。そこへ、今までずっと寝ていた鈴鈴が起きてきた。
〔鈴鈴、平気かなぁ。〕
昨夜の一件があったため、蘭は鈴鈴と少し気まずい気持ちになっていた。今までの鈴鈴からは、想像もつかないような、冷酷な眼差し、温かみがひと欠片もこもっていない淡々とした口調…。そのことを考えると、無意識に鈴鈴から視線をそらしてしまう。そのことに気付いた鈴鈴は、きゅっと口を結んで、何事も無かったかのようにフラフラと居なくなった。
「…。」
その一部始終を無言で見ていた出雲は、俯く蘭に向かって声をかけようと口を一瞬開きかけた。しかし、その言葉を飲み込む。
—そうして長い沈黙の中、出雲がついに意を決心したようにして、沈黙を破った。
「蘭。鈴鈴は、お前のこと、嫌いになったわけじゃねぇぞ?」
少し意味が違うか、と内心冷や汗を噴きながら、出雲は続ける。
「えーと、つまりその、鈴鈴はお前に対してあんな風に冷たくなったりしねぇから。」
そう言って、蘭の様子を伺う。蘭はゆっくりと顔を上げた。その口はきゅっと結んであり、への字に曲がっている。瞳いっぱいに涙を溜め、
「そんなの、分かってる…」
と、消え入りそうな声で言った。その瞬間、より一層顔を歪め、嗚咽を始めた。出雲はゆっくりと蘭の頭を自分の胸に引き寄せて抱きしめた。
その様子を、鈴鈴は見ていた。今にも泣き出しそうな顔をして。そして、おばばと珊瑚は少し顔をそらして苦しそうに顔を歪める。二人は鈴鈴とは違う所から、その様子を見ていた。

〔あんなにも蘭姫様と出雲様が苦しんでいるんだ。私も何かしないと。〕
その晩。珊瑚はおばばにも何も言わずにそっと宿屋を抜け出した。
〔たぶん、桂って人が黒幕のはずだから…〕
そう思って珊瑚が向かった先は、桂邸だった。
〔此処にくれば、何かがきっと掴めるはず!〕
勿論、言わずとも警備の人は沢山いるが、忍者村で鍛えた珊瑚には痛くも痒くもない。
〔よっと!〕
屋敷内に入ると、向こうからドンチャラドンチャラと音が聞こえてくる。きっと、女と遊んでいるのだろう。その音を背に、珊瑚はゆっくりと歩く。…と、そこへ、明かりが薄っすらと灯った部屋があるのに気付く。
〔どうして此処に明かりがついているの…?〕
ただの興味本位だった。音を立てないようにゆっくりと障子を開けると—
ゴンッ
鈍い音がして、珊瑚の体はゆっくりと倒れた。

Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.15 )
日時: 2017/04/24 19:19
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

「…い、ぉい…、おい…、おい!!!」
「?!」
誰かの声に反応して、珊瑚は飛び起きた。…いや、正確には飛び起きようとした、が正しいだろう。—そう、珊瑚は飛び起きれなかった。何故かというと、手足が縄で結ばれていたからである。ついでに口にも猿轡があり、しゃべれない状態なのだ。
「やっと起きたか…。」
奥の方から男の子の声がする。部屋が暗く、まだ目も慣れていないせいか、よくは見えない。
〔あぁ、やっと目が慣れてきたな…。〕
珊瑚は数回瞬きを繰り返す。だんだんと男の子の顔が見えてくる。そして、小さい窓から月明かりが差し込み—
〔?!〕
胸が異常に脈打った。男の子—少年の顔はとても綺麗で、大体の女子はこの顔を見たら<ドキン>なんだろう。しかし、珊瑚は違う。明らかに今のは<ドクン>だ。胸の鼓動がだんだんと速くなる。
〔何…?何なの…?〕
珊瑚が困惑したような顔つきでこちらをじーと見てくることにイライラとしたのか、少年は、
「お前、誰?」
とぶっきらぼうに問う。その声で我に返った珊瑚は言葉を紡ごうとするが、
「んーーー、んっ、んーーー!!」
猿轡が邪魔で言葉にならず。その様子を見て少年は可笑しそうにククッと笑い、
「お前、馬鹿?」
と言った。顔と言葉のギャップに少し驚きながらも、珊瑚はこんな時ように鍛えられていた猿轡解きを実践して、見事に猿轡を外した。
「すげー。」
感嘆する声に少し胸を張る。
〔こんなとこで使うなんて思わなかったケドね…。〕
「で、しゃべれる様になったみたいだから聞くけど、あんた誰?」
「あんたとは失礼な。珊瑚よ、覚えておいて。…そんなことよりあなたこそ、青龍でしょ?」
珊瑚は真剣な目で聞いた。
「な…!何でそのことを知ってるんだ?桂と直轄の部下しか知らないはずなのに…。」
やっぱり、と珊瑚は笑みを浮かべる。あの蒼い澄んだ瞳に長い髪、ぜったいにそうだと思った。なんにせよ、ようやく先程思い出した夢に出て来るあの男の子にそっくりだったんだから。
「私は朱雀。あなたが夢に出てきたからわかったのよ。」
「ゲ、勝手に人を夢に登場させるなよ。」
その言い方にカチン、と来たが、そこは堪える。
「ねぇ、こんな所で何してるのよ?」
「桂の営業の手伝いさ。あのクソジジイ、俺をコキ使いやがる。俺だって、好きでこんなトコにいるわけじゃねぇさ。」
「…なら、私達と旅をしない?」
「旅?」
「そう。蘭姫様と親王である出雲さま達と共に、妖を封印するのよ。私達四龍の力が必要なのよ。」
「旅、か…。よし、行く。こんなつまんねぇ所にいるよりかはましだろうし。」
「ホント?!じゃあ、今すぐに此処から脱出しましょう!」
「脱出てどうやって—」
「作戦会議♪」
そう言って、珊瑚は自分の手首の縄を解く。そして足も自由にすると、少年の縄も解いた。

「大変です!姫様!」
「もぅ、なによ、朝っぱらから…。」
蘭はおばばの声で目を覚ました。朝っぱらといっても、すでに八時である。
「珊瑚が、珊瑚がどこにもいないのじゃ!!。」
その一言で、蘭の目はハッキリと覚めた。
「どういうこと?!」
「おいおばば、珊瑚がいなくなったって本当か?!」
出雲が慌てて入ってくる。—鈴鈴も一緒だ。
〔珊瑚、一体どこにいっちゃったの—?!〕

「…そういえば、あなたの名前、まだ聞いてないわ。」
「俺?俺の名前はだな、雨月うげつだ。」
「雨月、ねぇ。じゃあ雨月、よろしく頼むわよ。」
「あぁ、それじゃあ行くぜ、珊瑚。」
「えぇ!」
そう言って、二人は部屋から出た。

‐続‐


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