ダーク・ファンタジー小説

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花鳥風月‐平安‐
日時: 2017/03/27 15:57
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

—それは、美しく儚い少女の物語。掟を破ったがために起きた哀しい人生。少女は剣を手にする。冷たく銀色に光る、封印された魔剣を—
「イヤよ!ぜぇぇたいにイヤ!!誰が結婚なんかするもんですかっ!!」
時は平安、ある山奥にある某貴族の生き残りが住む屋敷—
「姫様!結婚ではございません!婚約でございます!」
「同じことよ!!」
そこには、お転婆なお姫様が暮らしていました。
〔まだ十三歳なのよ?なんでもう結婚なんてっ!〕
姫は召使の言うことも聞かずに部屋にこもる。
「姫様ぁ!!」
姫様、姫様と部屋の外はまるで大合唱のよう。
「あー、もう!うるさーーい!!」
バンッ、と障子を開ける。しかし、そこには想像していたよな多くの召使達は一人もおらず、代わりに、
「らーんーひーめーさーまー?」
「ぎゃあ!!!」
低いしわがれた声のおばばが障子の目の前に立っていた。
「おばば!!」
「蘭姫!あの者達の言うことを聞きなさいと言ったでしょうに!!いますぐに支度をしなさい!!」
迫力のある声で言う。さすがの蘭も迫力負けをしながら、
「でもー、私、まだ十三歳なんですけどー…」
と、声小さめの必死の抵抗をした。しかし、その抵抗も聞こえたのか否か、おばばは大きな声を上げて、
「いますぐ仕度をせいーーーーー!!」
「はいーーーー(涙)」

「蘭姫様、それは災難でしたね。」
「そうなのよ、鈴鈴。」
おばばに怒鳴られた蘭は、おばばの手伝いの下、婚約者になろう人に会うための身支度をしていた。
「鈴鈴、そんなに姫様を甘やかさないでおくれ。」
「おばばは厳しすぎなのよう。」
「まぁまぁ、もしかしたらとっても良い方なのかもしれませんし、一度くらいは会ってみてもいいかもしれませんよ?」
鈴鈴は微笑んで言う。日本古来からいる精霊の一人である鈴鈴は、蘭のお友達兼付き人なのだ。
「第一に、姫様とは生まれる前からの婚約者なのですよ?」
「分かってるわよ。だけどねおばば、一回も会ったことがないのにどうしたらそんなに嫌がらずにすむと思う?」
「それは仕方のないことなのです。」
おばばが蘭の髪を梳かしながら言う。少し違和感の覚えるような声で。
「さて、姫様。身支度もできましたし、早速会談のある座敷へ移りましょう。」
嫌な空気をも吹き飛ばすかのような声と笑顔で、鈴鈴が言った。

—数分後。少しばかりの化粧をほどこした蘭と、蘭の後見者であるおばば、付き人の鈴鈴の下に門番からの通達があった。
「鴛鳥親王様が到着したようです。ご覚悟を決めて下さい、蘭姫様。」
「おばば様。」
「親王をお通しせよ。」
ドキンっ、ドキンっ…
〔何?この感じ…。寒気がする。何?何?〕
ガラッ
障子が開く。何人かの使いと共に中に入ってきたのは—
〔うわぁ、ちょっとカッコいいかも…。〕
「下がれ。」
「ハッ。」
親王がお付の者に命じると、みんな下がり、部屋の中には三人と一匹(?)になった。
「お久しぶりです、おばば。」
「出雲よ、元気にしていたか?」
出雲、と呼ばれた親王が、おばばと二、三言話す。そして、おばばが蘭の方に向かい、
「こちらが蘭姫だ。」
と言った。急に話を振られた蘭は、慌てておばばに(さっき)教え込まれたお辞儀の姿勢をつくる。
「初めまして、蘭でございます。」
蘭にしては丁寧に優雅に挨拶をした。
「この姫が…」
じっと蘭を見つめる親王。
〔あんなに綺麗な顔で見つめられたら、頭が沸騰しちゃうよー!〕
そんなことを考えながら顔を赤くする蘭しかし—
「豚猿だな。」
…。
ブタザル…?

「…っ!!誰が豚猿よ…っ!」
あのあと。豚猿、と呼ばれた蘭は、思いっきり親王に蹴りを入れた。そんな親王も、手当ての後、現在は別室で休んでいる。
「まぁまぁ姫様。そんなに怒らないでください。親王様もそこまで悪気があった訳ではではないのでしょうし…。」
「悪気がなかったからって許されるもんじゃないのよっ!…それとも鈴鈴、私って本当に豚猿?」
「そんなわけないじゃないですか!!」
「うぅー」
蘭は机に伏せる。すると、
「言われたもんはしょうがないだろう。」
としわがれた声が。顔を上げると、おばばと
「ちゃっかりおばばと一緒に入ってくんなー!!このヘンタイーー!!」
親王。蘭はすぐそばにある竹刀を手に取り親王の方に向けた。
「親王はわしがお連れしたんだ。って蘭姫!!いますぐ竹刀を下ろしなさい!!」
「イヤよ!」
「そんなことを言っている場合ではない!!掟を忘れたのか!」
「忘れたわけないじゃない!鏡を見なければいいんでしょ?」
そのときっ
『分かる…分かる…もう少し…もう少し…憎しきかぐやよ…』
〔かぐやですって…?〕
頭の中に声が響く。どろどろとした、気味の悪い声…。
『かぐや…かぐやよ…』
〔?!〕
いきなり、右側から強い風が吹く。驚いて右側を見ると…
—そこにあったのは鏡だった。
『みぃーつけた♪』
‐続‐

Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.6 )
日時: 2017/03/30 10:46
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

こんにちわ、鏡花です。
『花鳥風月‐平安‐』も、ようやく四話目突入いたしました。閲覧が毎日少しづつですが伸びていっているので、とても嬉しいです。
一応大きな部類に分けますと、一〜三話目が「プロローグ編」、四話目からは「四龍‐朱雀‐編」です。もし、朱雀、青龍、白虎、玄武に興味があったら、「四神」で検索してみてください。wikが出てきます。
時が進むにつれて、鈴鈴の登場回数が少なくなっていっている気がします。これからは、もっと鈴鈴の登場回数を増やしていくぞ!
イラスト掲示板の方にも、自作の蘭ちゃんを載せておきたいとおもいますので、なにとぞよろしくお願いします。

Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.7 )
日時: 2017/03/31 12:52
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

「うーん、うーん…」
夜。自分のテントで寝ている珊瑚は、ずっと唸っている。

〔ここはどこ…?〕
何故か自分一人が、暗い森の中に立っていた。忍者村のすぐそばの森の中かどうかは、自分には判断できない。ただ、ただ暗いだけ。
〔っ…あれは?〕
暗いだけ、と思っていた森の中に、一筋の光が見えた。天に向かってまっすぐと伸びる、とても眩しい光—。
リンッ、リンッ、リンッ…
微かに鈴の音が聞こえる。優しい、きれいな音…。無意識に引き寄せられていく。足が勝手に動く。それなのに、一ミリも不安は無い。まるで、母に抱きしめられているかのような、安心感と温かいぬくもりを感じる。
光のそばまで行った珊瑚は、その眩しいほどに輝く光を見上げる。
〔知ってる…。この光、何だか知ってるよ…そんな気がする…でも、どうして…?〕
すると、光の中から鈴の音に混じって、微かな声がした。
『可愛い私の分身…未来の私よ…おいで、もっとこっちに…』
そして、光の中から、スッと白い手が伸びてきて、珊瑚の頬をさわる。
「誰…?あなたは誰なの…?」
恐る恐る光に向かって話しかけてみる。
『私…?私はね…』
光の向こうに、薄っすらと人影が現れる。そして、その人影の顔が明らかになったとき、珊瑚は呆然として一言呟いた。
「わ、た、し…?」

「うーん、気持ちの良い朝ね!珊瑚ちゃん、鈴鈴。」
「そうですね、蘭様。雲一つ無いどころか、風一吹きもありませんね。」
「確かに。だけど、忍者は風とお友達ですから。ちょっと寂しいかもしれません。」
「そういうものなの?」
「はい。」
すっかり打ち解けた蘭と珊瑚、鈴鈴は、もう一度珊瑚の案内で忍者村を散策していた。
「それに、風がないと、ちょっとムシムシするかもです。」
「えー、ムシムシはキライだなー。」
「ふふ、好きな人なんていませんよ。」
「それにしても、よくできた村よね。」
「まぁ、ずっとありますから。」
おばばの言った通り、忍者村には全ての物が揃っていた。
「そう、楽しそうじゃないか。」
そう言って向こうから歩いてきたのは出雲。
「出雲。」
「おはようございます、出雲様。」
出雲は面倒くさいからと言って、この村の人には親王ということを隠している。それでも、おばばの連れということで名前に様つきで呼ばれているのだ。
「なんか用?用が無いならサッサと帰って。」
「ちょっと酷くねぇか?」
「うるさい!!」
「って、そんなことは置いておいて、だ。珊瑚、この近くの森はどうなってる?」
「後ろの森のことですか?」
「あぁ。」
「別に普通の森ですよ?森の中央に湖があるってだけで…あっ!」
「どうかしたの?珊瑚ちゃん。」
「今朝の夢…」
〔あの夢、あの森だったんだ…。〕
確か、一筋の光があるところ、湖だったような…。あのときは気付かなかったけど。そんなことを珊瑚は考える。
「珊瑚さん?」
心配そうに鈴鈴が呼びかける。
「蘭姫様、出雲様、鈴鈴ちゃん…実は…」
そう切り出して、珊瑚は今朝見た夢のことを三人に話した。
パリンッ!
珊瑚が全て話し終わったとき、すぐそばで食器の割れる音がした。驚いて全員が振り向くと、こちらを凝視したおばばがいた。体がわずかに震えている。
「珊瑚、お前…」
お前はまさか—
おばばは聞き取れないほどの小さな声で言った。

‐続‐

Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.8 )
日時: 2017/04/03 10:48
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

「珊瑚、お前…」
おばばが震えている。こんなおばば、初めてみたかも…
そんな風に思ったのは蘭だけではなかった。出雲も、珊瑚も、鈴鈴でさえ驚いて目を瞠っている。おばばがもう一度何かを言おうとして口を開きかけたそのときだった。
「森から何かが来るぞーーーー!!!」
急にそんな声が聞こえて、声がした方に振り返ると、男の人が走って必死に声を辺りに振りまいている。おばばは我に返ったようにハッとすると、杖を持って身構える。
「クソ、もう嗅ぎつけたか…」
出雲もチッ、と舌打ちして剣をいつでも抜けるように準備をした。そんな二人の様子に珊瑚は少し驚く。
「珊瑚さん、ここは危ないので、早く避難を!」
鈴鈴が珊瑚に向かってそう言った。見れば、もうほとんどの人が逃げている。
「でも、まだあの中に樹が—」
樹がいる、と診療所に指を指していおうとした瞬間
ザワッ
木々が一気にざわめき、森からこの世のものとは思えないような黒い何かが出てきた。
『かぐやよ…かぐやの臭いがする…』
「…っ!!」
あまりの恐ろしさに、珊瑚は言葉を失った。
「蘭っ!」
「蘭姫っ!」
おばばと出雲の呼びかけに、蘭はうなずく。
「四龍よ!我の手に!今こそ我に力を与えよ!」
蘭がそらに手をあげて呪文を唱えると、四龍が出てくる。そして、同時に蘭の髪は艶のある黒髪から、光り輝く蜂蜜色に変化した。
一連の流れを見てあまりにも驚いた珊瑚は腰を抜かして動けなくなった。
「出雲!珊瑚に結界を!」
おばばの合図で出雲は珊瑚のそばに駆け寄り、無理やり立たせて安全なところへすばやく移動、お札と剣を使って珊瑚の周りに結界を張る。
「珊瑚、絶対びここから動くなっ!動いたら結界が解ける!」
一言だけ言って、すぐに出雲は結界の方に神経を集中させた。
その間に、おばばは自分の持つ杖と魔力で、蘭は四龍を使って鈴鈴に補助してもらいながら妖を倒す。しかし、いくら切っても切っても妖は森の奥からどんどんと出てくる。
「なんでこんなにもいるの?!」
「さぁ、分かりませんが…っ蘭様、後ろ!!」
「えっ?!ハッ!」
蘭の背後に迫ってきていた妖の、腹のあたりを切って殺す。
「これではらちがあかないっ!」
おばばの方も苦戦している様子だった。
その様子を、珊瑚は出雲の背中の後ろから見る。黒い物体が蘭やおばばによって切られ、黒い血のようなものを出しながら空気に溶けていく様子は、とても残酷で恐ろしいほどに恐かった。震えながら絶対に動かないようにしよう、と思っているときに、蘭達の元から離れていく妖に気付く。不審に思って見ていると、その妖が向かった先は—
〔樹っ…!〕
診療所。蘭達は妖が診療所に向かっていることにも気付いていない様子で、出雲は結界を保つのに、もう大量の神経と体力を消費しているはず…それでも妖はどんどんと診療所の方に向かっている。足が震える。それでも、樹のためにしなければならない。樹は私の大切な家族だから—!
そう思った瞬間、無意識に足が動いていた。背に風を感じたのであろう出雲が、ハッと驚く。
「珊瑚っ!!」
〔ごめんなさい、出雲様…。だけど、樹は大切な私の家族なんです…〕
出雲の声が聞こえたのであろうおばばと蘭が、一瞬だけ珊瑚の方に振り向く。その視線さえも珊瑚は気に留めない。
「ダメっーーーーーー!!!」
珊瑚が叫んだのと、妖が診療所の真上から手を振り下ろしたのが、ほぼ同時だった。しかし、一気に風景がセピア色に変わり、妖が一気に空気になって溶けた。驚いて辺りを見回す蘭とおばば、そして出雲、鈴鈴。しかし、珊瑚だけは、上をずっと見上げている。木々も小鳥も、何もかもが止まっており、動くことができるのは五人だけ。
「おばば、これは一体—」
蘭がおばばに問いかけるものの、おばばはシッと人差し指を口にあてて、静かにするように伝える。
すると、天から静かに一人の少女が降りてきた。珊瑚の真上から、と言ってもよい。珊瑚は自然と少女と両手とも合わせた。
「今日の夢に出てきた…。」
珊瑚が小さな声で問いかける。少女は静かに微笑みを浮かべてゆっくりとうなずく。
『私の名は朱雀。南を守る四龍の一人だ。…と言っても、龍ではなく紅い鳥に変化するんだがな…。どちらにせよ、お前私、私はお前だ…。』
珊瑚はただ呆然と、朱雀と名乗る少女の方を見ていた。
「珊瑚は朱雀の生まれ変わりだったのだ…。」
おばばが呟くように言う。
『お前はなんという?』
「珊瑚、です。」
『では珊瑚。お前に六十八代目の朱雀の力を与える。』
「朱雀の、力…?」
『お前には使命がある。あの者達の救いとなり、共に歩む使命が…。朱雀の力はあの者達を助けるときに、きっと役に立つであろう。…珊瑚、きっとお前なら大丈夫。この力、きっと使いこなせるであろう。』
そう言って、朱雀は紅い鳥に変化をし、珊瑚のなかに入った。
途端、珊瑚は倒れた。

「おばば様…」
珊瑚が目を覚ましたのは、あの数時間後だった。
「珊瑚。やっと目を覚ましたかい。」
おばばがちらりと珊瑚を見て言う。
「樹はっ…!」
思い出したように一気に珊瑚は布団から飛び起きる。
「平気じゃ。そこまで心配しなくとも、樹は外で元気に蘭姫達と遊んでおる。」
その言葉を聞いて、珊瑚はホッと胸をなでおろした。
「珊瑚。お前、さっきまでのこと覚えているか?」
「うん。」
倒れる前の記憶は、しっかりと珊瑚の頭の中に残っていた。
「珊瑚。」
「おばば様。こんな私がほんとうに南の朱雀なのかはわかりません。本当に朱雀だったとしても、朱雀の力を使いこなすことができるか不安です。それでも、あの方達のお役に立てるのであれば。お役に立てるのであれば、一緒にいても良いですか?」
「珊瑚…ありがとう。」
おばばがギュッと珊瑚のことを抱きしめた。
「さぁ、おばば様。蘭様達と樹の下へ行きましょう。」
言葉通りに立ち上がった珊瑚は、おばばと共に元気よく、診療所から出て行った。
‐続‐

Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.9 )
日時: 2017/04/06 12:41
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

「…ところでおばば様。朱雀の力って何なんですか?」
その珊瑚の問いかけに、一同全員は驚いて呆れた。
「珊瑚…知らないの…?」
「はい。朱雀の力、朱雀の力とはいうけど、それが結局のところ何なのかは知りません。」
ニコニコと笑う珊瑚を見て、この先本当に平気なのだろうか?とその場にいる全員が思う。
「おばば、珊瑚に力の説明してなかったの?」
と呆れ気味におばばに問う蘭。おばばは苦笑いを浮かべながら、
「何にも聞いてこないから、とっくに分かってるものだとばかり思っててなぁ。」
と言う。珊瑚も珊瑚だが、おばばもおばばだ。更に呆れた蘭を横目に、おばばはコホン、と一つ咳払いをする。
「珊瑚。前世の朱雀から貰った紅玉、持っておるな?」
おばばの問いに、珊瑚は自分の手首を見る。そこには、美しく光り輝いている紅の玉がつけられている。
「これのことですよね?」
「あぁ、そうだ。その紅玉は、鳥達の心と調和している。もし、人生最大のピンチだと思ったら心の中で念じるのじゃ。そうすれば、きっと鳥達が助けに来てくれることだろう。それともう一つ。」
そう言っておばばは、珊瑚の手を取った。
「火神招来と、唱えてみよ。」
「火神招来!」
おばばの言う通りに珊瑚が唱えると、珊瑚の手からふわりと火が浮かんだ。
「これはっ…!」
珊瑚や蘭、鈴鈴は勿論のこと、何故か色々なことに詳しい親王、つまり出雲でさえも目を瞠って驚いている。
「今はわしの力で火を抑えておるが、もしも抑えなければ大きな火がつく。朱雀は火の守人でもあるから、火を自由自在に操ることができるのだ。」
おばばの説明に皆が納得する。
「なんかカッケェ〜」
出雲はいいな〜とでも言いたげに、珊瑚の手に浮かぶ火を見つめていた。

「えぇーー!!出雲様って、親王だったんですか?!」
その後、一緒に旅に出るのだからと言って、おばばは出雲の身を明かした。
〔そうか、珊瑚にはまだ言ってなかったのか。〕
そんなことを思う蘭。
「何故、親王であるあなたが、おばば様や蘭姫と共に行動するのですか?公務だってあるでしょう?」
珊瑚が首をかしげて尋ねる。そこは、蘭が未だに謎な部分でもあった。
「ちょっと興味があるんでな。」
〔やっぱりその答え。〕
蘭が屋敷にいるときに尋ねて返ってきた言葉と同じ。
〔一体何に興味があるのよ?〕
蘭がそんなことを考えているとき、その質問を聞いたおばばは、何故かクックと笑った。そんなおばばを横目で睨みながら、誰にとも無く出雲は問う。
「一体、次はどこにいくんだ?」
おばばはまだ笑いながら、
「次は東の青龍だよ。」
と言った。
「おばば、東にはまた、村があるの?」
「いや、今度は村ではなく、街だよ。」
「東の街っていうと、桂様が士気をしている街ですか?」
「そうだよ、鈴鈴。桂のことは、知っているだろう?」
「えぇ。何度か都の式典でみたことがあるわ。ひげをはやしたおじさんでしょ?」
「おじさん言うでない!バチが当たるぞ!」
「…桂か。あまり良い噂を聞いたことはないが。」
「蘭様、出雲様。その桂っていう男の人は一体…?」
「そうか、珊瑚は知らないのね。」
「桂とは、東の街・本豪街を支配している領主のことだ。ただ、裏で黒いことをしているという噂があってな。あの街周辺で起きた人斬り事件は、全てあいつが仕組んだのではないか、という噂もある。朝廷もマークしうている人物なんだが、なにせ権力が強すぎて手出しできない状況なんだ。」
〔確かに、いくつか噂話をしていたわね…〕
屋敷にいた召使の女の人達も、いくつか話していたきがする。
「なんか、怖そうですね…」
珊瑚は出雲の話を聞いて、少し身震いをした。

「フン、ようやく来るか…」
暗い部屋の中、男はニヤリと笑う。
「どうするのですか、桂様。」
「当たり前だ。…処分させろ。」
男はそんな恐ろしい言葉を、スラっと吐き出す。
「ハッ!」
使いの者が下がってからも、男はニヤニヤと笑いを浮かべ、一枚の写真を取り出した。
「青龍は渡さぬ。たとえこの身が滅びようと、絶対に…」

Re: 花鳥風月‐平安‐ ( No.10 )
日時: 2017/04/10 16:34
名前: 鏡花 (ID: .MlM.eMp)

「四龍‐青龍編‐」を前に…
☆出雲特別編☆

—そう、君はいつも笑っていた。遠くからしか見れなかったけど、いつも君の周りには、華が咲いているようにきらきらと光るものがあった。


出会う前から。


「出雲、バイバイ…」
〔だめっ…、離れていくな…っ〕
誰だかはわからない。ただ、とても愛しい人だということだけはわかる。少女が自分の下からフッと消えていく。いくら手を伸ばしても、彼女には届かない。
少女が完全に消えたその瞬間
俺は頭を叩かれて飛び起きた。

「出雲っ!!お前はどうしてそう、いつもいつも…っ!」
「まぁまぁ、父さん。」
俺は、ただ寝相が悪かっただけなのに、何故か正座をさせられていた。
「しょうがねーじゃん、寝相はどうやったって治らん。」
「出雲ーーー!!」
「まぁまぁ。そういうことを言ってはいけないだろう?出雲。」
怒る寸前(…というか、もうすでに怒ってる?)父さんと、少し反発する俺の仲裁に入っているのは、俺の兄さんだった。
「出雲も父さんも、互いに謝らないといけないよ?」
「ムゥ…」
「うぅー。」
俺と父さんは、互いに少し睨みあってから、
「「ごめんなさい。」」
と同時に頭を下げて謝った。顔を上げてから兄さんを見ると、兄さんはいつもと変わらず微笑みをうかべていた。そして、俺の視線に気付くと、更にニコッと笑った。そして、俺の耳に自分の口を近づけると、
「この国の統治者である天皇の頭を下げるところを見れたんだから、よしとしよう。」
と、小さな声で言った。
「おい、そこ何はなしているんだ?」
父さんが怪しげな顔をする。しかしその声は無視して、
「とりあえずご飯にしよう。」
「あぁ、朝飯だー!!」
と言って部屋を後にする。父はあからさまにショボーン、としていた。その顔を確認した俺達は目を合わせてひそかに笑った。
—俺の父さんは、この国の現統治者であり、つまりは天皇。俺と兄さんは次期天皇候補の中にいる。…とは言っても、一番有力なのはやっぱり兄さんで、正式な親王に当たる。ただし、俺はそのことを羨ましがるわけでもなく、逆に大歓迎だ。俺は天皇なんかになるのは御免だし、兄さんは要領も良くしっかりとしていて、現天皇の父さんよりも天皇に合っていると思う。最近では、家の中では母さんの次に強い権力を持っていると思う。勿論、俺はそんな兄さんが大好きだ。

朝飯を食い終わると、おばばがやって来た。
「おばば様、どうしたのですか?」
「おばば、何かの用か?」
「久しぶりじゃの、親王と出雲。相変わらず親王は丁寧で、出雲は憎ったらしいガキじゃの〜」
そう言っておばばは俺の頭に手を乗せてワシャワシャとする。
「ちょっ…!やめろよーー!」
騒ぐ俺を横目に、おばばは兄さんに事を話す。
「親王よ、お主は今日、何も予定はないだろう。」
「あぁ、何も。」
「ならば、山のほうにいるうしおのところへ行かないか?汐も今日は暇で、剣の練習をすると言っておったし。」
「汐のところへ?!勿論、行きたいです!」
「兄さん、おばば、汐って誰だ?」
ようやくおばばから解放された俺は、聞き慣れない名前に首を傾げた。
「出雲、汐は兄さんの大切な大切な友人だ。山奥にある屋敷に、お母さんとお父さんと妹とくらしているんだよ。」
「山奥に…?」
「あぁ、そうだ。とっても優しい人達なんだ。汐の妹君は、いずれお前の正室になるんだよ。」
「俺の正室…?」
「そう。それは、出雲が生まれてくるずっと前から決められていたことなんだ。」
あまりにも飛びすぎた話に、俺の頭には沢山の「?」が並ぶ。その様子を見た兄さんはクスリと笑って、
「おばば様、今日は出雲も連れていきましょう。」
と言った。おばばは露骨に顔をしかめ、
「出雲は汐になら会えるが、姫には会えんぞ?」
と言った。
「それでも、遠目から見るくらいなら平気だろう。今日は屋敷の庭ではなくて、岩場で練習をすればいい。」
その言葉を聞いて俺は目を輝かせ、その様子を見たおばばは根負けしたように、一つ大きな溜息をつき、
「そういうことならいいか。」
とお許しをくれた。
「ただし、絶対に姫に会ってはいけない。」
恐ろしい顔で条件を出して。

「いやぁ、汐は本当に強いな。」
「何言ってんだ。朔眞さくまだってそうとうだぜ?」
兄さんと汐の対決に、俺は圧倒されてしまった。二人とも、とても強くて勝負は互角、引けを取らないその迫力は、俺が武道の道へ進んだ要因の一つかもしれない。ただただすごくて、目を輝かせてみていると、汐がそばに寄ってきた。
「おいおチビ。」
いきなりそう呼ばれて驚いていると、汐は俺の目線に合わせるように腰をかがめた。
「あれ、見えるか?」
汐が指を指した方向に向いてみると、遠くの方に一人の少女が見えた。お母さんと思しき女性と一緒に花を摘んでいる。
「あれがおチビの将来の正室であり俺の妹だ。」
俺はまた少し驚いた。遠目からでもわかる、あんなに綺麗な少女が、自分の将来の正室だということに。また、あまりにもその少女の雰囲気が、今朝の夢に出てきた少女にそっくりで。
「俺は妹が大好きで、愛してる。ただ、もうこれ以上、俺は勿論母さんも父さんも、あいつのことを守ってやれない。だからおチビ、お前が守ってくれ、俺の妹を、蘭を…」
汐の目が真剣すぎた。あの目を、いまでも忘れない。そして、その様子を、おばばと兄さんは静かに見守っていた。

その後、俺はおばばから、少女の家族が全員死んだということを聞かされた。…勿論汐も。そして、それと同時に少女の中に流れる血についても教えられた。しかも、そのまた数日後、次は兄さんが暗殺された。何者がやったのかは、今でもわかってはいない。
俺は剣を抜く。何があっても、必ず少女を守ることを心に誓って。そして俺は戦う。少女の—蘭の笑顔を守るために。汐との約束を心に秘めて…。


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