ダーク・ファンタジー小説

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【螺旋の先へ】 第一部 彼方の訪問者
日時: 2019/04/16 22:34
名前: 以蔵 (ID: uKR9UL7u)
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=1127.jpg

黄泉町。
そこは、小説よりも奇なる事実が待ち受ける場所。



霧を吹き出す海岸。
必ず遭難する山。
吸殻のような死体が浮かび上がる川。
突然性格が急変する謎の現象。



そして最も奇怪なのは、もうこの町には一人としてこの事件を探る人間がいなくなったということだ。
探れば必ず、死体になる。





─衣無家─

伽羅周からす、学校に遅れるぞォ」

「行かねェよ、『オレに休みを与えろブラック教育機関』ってセンコーに伝えとけ」

「何言ってる。そういうのはオレの息子の言うことではねェな。教育的指導の鉄拳パンチを喰らわしてやるッ」

陽気な髪型の男が、丸刈りの少年を殴ろうとする。
丸刈りの少年はそれをまともに受けたが、
少年の顔はグニャリとマヌケな音を立てて凹んだ。

これが衣無家の親子喧嘩だ。

「チクショウゥ!親の鉄拳も受けずにまっすぐ育つワケがねェ!忌の際に咽び泣いて後悔しやがれッ!」

「歪んだ拳でまっすぐな子供は育たねェ」

「あーァーんーたーァーらアアアァァァーッさっきからうるッさいのよ。朝くらい静かに寝かせろやオス豚ども」

そして親子喧嘩に割って入ったのは、丸刈りの少年の姉だった。
毒ッ気しかない女で、かわいさは皆無だ。
丸刈りの少年は姉に堂々と言い返す。

「清楚さの欠片もねェオマエみたいな姉を持ってオレはつくづく不幸だッてェの」

「はン?マジで言ってる?姉様に向かってよおぉぉぉ!」

姉は怒りに任せて少年の頬をつねる。
すると、そこだけがブギョッという生々しく滑稽な音と共に千切れた。
少年は流石に焦ったのか、しかし謝罪はせずに発狂した。

「のォオオオあァああッ!!!オレの頬がッ!?!!?!??!?」

「謝るまでくっつけてやんないから」

「すまねェ!」

「あ、あとスーパー丸出で缶ビール三本買って来い。『いつもの』やつな。ひとつでも間違って買ってから即殺す。ほら分かったらさっさと行け」

息継ぎすらしないで姉はこれだけ言い切った。
少年は半泣きになりながらスーパーに向かった。

残った父親が小声で言う。

「あの………私は………」

「………うっせ」

姉は鬱陶しそうな声で呟いて自室に戻った。
平日なのに朝から晩まで寝ているのだ。
ちなみに少年は高校一年生で、姉は高校三年生。

少年は、姉の苦労を全て押し付けられ、今日もスーパーまでの道を走る。

Re: 【螺旋の先へ】 第一部 彼方の訪問者 ( No.11 )
日時: 2019/04/21 11:01
名前: 以蔵 (ID: uKR9UL7u)

無情。

男の一生は、見知らぬ別の男の一瞬の『食事』の犠牲となった。

「美味かったか?オニ」

『影』に話しかける男。

オニに喰われた牧泰は、その残骸ひとつすら残さずに消えてしまった。

「おっと、ここでボーナスステージか」

男の目に留まったのは豪邸。さぞや大家族が住んでいるのだろう。

「オニの好物は、人生に絶望した奴の体さ。

この豪邸にはいるかな?」

こっそりと覗き込む。
体が小さい分、見つかりにくい。

豪邸の中には

「少女一人か───骨と皮だけみたいだが、虐待でもされてるのか?」

虐待されていれば好都合だった。
そういう場合、多かれ少なかれ『絶望』しているからだ。

「フフフフ───じゃあ、いただくか」

男は食事の支度を始めた。

Re: 【螺旋の先へ】 第一部 彼方の訪問者 ( No.12 )
日時: 2019/04/21 19:17
名前: 以蔵 (ID: uKR9UL7u)

「お邪魔…するよ」

下の窓は閉まっていたが、不用心にも上の窓が開いていたので男はそこから侵入した。
一人、部屋の中にいた少女は咄嗟に飛び退いた。
生命を脅かす存在を察知して。

「おっと、本当に一人か。え?こんな無防備な家に。一人か。

家族は?いるんだろう?こんな豪邸に、こんな今にも潰れそうな痩せ細った女の子一人しか住んでいないなんてありえない話だからねぇ。

で、今は好都合だがそうも言ってられないんだな。

君を喰えば今度はそいつらを喰わなきゃならないからね。

別に他の───道端を歩いてるサラリーマンを後ろから喰い殺しても構わないんだ。

でもそれは私の美学に反する。私は一度コレと決めた食事を諦めはしない。

たとえ店が閉まっていてもオーナーと料理人を呼びつけて無理矢理そこで食事する政治家のように

私は一度決めた食事のためならば何だってやるさ。

さあ、こんなに長話してたんだから逃げても良かったというのに、君は逃げなかったね。

もしかして喰われるのが趣味かい?だとしたら味の鮮度が落ちるなぁ。

この子───オニと言うんだがね、この子は絶望した人間が好物なんだ。

そして私は人間の絶望そのものが好きなんだ。

君を絶望させてみたいんだが、どんな風にすれば絶望するのかい?」

少女は限界まで後退りした。
しかしそこでドアにぶつかる。

「───」

「教えてくれよ───餌としての君を知り尽くしたいんだ。

ほら、君だって原産地も生産者も知らないバナナは食べないだろ?」

男は不自由そうな素振りも見せずに、その体で接近してくる。

「───」

「何か言え───」

と、飛びかかろうとした男の体が固定された。

「あがぁぁぁあぁぁぁッ───!

なッんだこれはァ!?」

少女は立ち上がった。

そして、先程少女がぶつかったドアからは、風呂上がりであろう夜祇が。

「あーら、引っ掛かった?

こんな豪邸にこの程度のセキュリティがあってもおかしくはないと思わない?」

「うが──ぁ──ぁ──!動けん!くそ───放せ!放せェェェェッ!」

「この張り巡らせた『糸』は認証した者以外を捕獲する。

捕獲された者は私の許可なく脱出出来ない」

だがそこで、男の影が蠢いた。
少女は咄嗟に、再び飛び退いた。

「何───どうしたの、アンタ」

「ははははははッ!生憎そっちは鈍いみたいだな!

じゃあお前から死ねッ!」

男の影はたちまちバケモノのような姿になり、夜祇に向かっていった。

「なッ───何だってェの!?」

「お前の糸とて、コイツは捕獲出来まい!

行け、オニ!そいつを喰い殺せッ!」

Re: 【螺旋の先へ】 第一部 彼方の訪問者 ( No.13 )
日時: 2019/04/22 00:55
名前: 以蔵 (ID: uKR9UL7u)

上半身のみの男は、女のように伸ばした髪を片手で乱暴にかきあげ残虐な笑みを浮かべる。

「ははァ、父親と母親は不在と見た。

とすれば、あとはガキだけか。

なぁに、たかだか女二人でオニに勝てる筈がない。

だから絶望しろッ!

そしてそのまま喰われてしまえッ!」

しかし夜祇はオニの素早い食い付きを回避した。

「ホラー映画ってのは、絶望した者の顔を見ることに意義があると思ってるよ。

充足感だとか、満ち足りた幸福だとか、そんなのはチープなんだ。

人間にはもっと欠落が必要なんだよ。

それが『絶望』さ。

私はかつて失恋してね。

その時はとても『絶望』したよ。

その時さ。私は『絶望』する自分の姿に興奮したんだ。

ナルチシズムってやつだね。

同時に理解したよ。

欠落したモノにこそ美があるんだと。

私は完成された人間だった。だから彼女に嫌われ、失恋に至ったんだと。

私は迷わず下半身を切り捨てた。

するとどうだ。欠落した私は以前より何倍も美しいではないか。

私は更に自分の腕をも切り捨てた。

そうしたらもう、完成だ。

私は未完に至るという『完成』をむかえたんだ」

「───長話は終わった?アンタの悪癖はその」

先程まで饒舌に話していた男の───その背後に、夜祇はいつの間にか移動していた。

「お喋りなところねェ」

Re: 【螺旋の先へ】 第一部 彼方の訪問者 ( No.14 )
日時: 2019/04/22 08:30
名前: 以蔵 (ID: uKR9UL7u)

「───ッ!!どういうことだ!?

こ……ここにも!

ここにも!私の眼前にも!背後にも!

なぜお前が二人もいるんだァァァー!!?」

錯覚などではない、はっきりとしたもの。

「鈍感ねぇ、どちらかが本物。どちらかは糸で作った偽物。

基本的に私の糸は透明だけど───」

オニが攻撃する。
それを喰らったのは───

「にッ─」

偽物。
すると、偽物はバラバラになり、
がんじがらめの男に更なる戒めとなって巻きついた。
更に、

「ぐ───おおおぉおおおぉおおおぉ───ッ」

いつの間にか、偽物は増えていた。
もはやどれが本物か分からない。

少女はそれを見ていることしか出来なかった。
だが、もうじき終わる戦いだ。今更助力は必要ないだろう。

男は次第に『絶望』を感じ始めていた。
それはもはや後戻り出来ないということへの『絶望』と
こうして『絶望』を抱くことへの『絶望』。

「く、ぅ、ううううう…」

オニが偽物を喰う度にがんじがらめにされる。
男はそこでもうひとつの感情に気がついた。

「───」

死への『希望』。
がんじがらめは苦しい。
だが、死ねば苦しみは途絶える。
もっとも目的を途中で放棄することになるのは業腹だが
今の彼に、冷静な判断力はもうなかった。
締めつける糸が、

真上で待ち構えるギロチンの刃のように

砂の牢獄の奥底に潜むアリジゴクのように

自らの命を削っていた。
意識が朦朧とする。

「ぉ───おげッ──あ"──

あ"あ"あ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッ!」

糸はとても頑丈で、オニに噛みつかれても千切れず、逆にオニの主を縛る。
オニはそれでも構わず、先程からがむしゃらに
偽物だけを確実に喰っている。

なぜ本物にありつけないのか。
朦朧とする意識の中でそればかり考える。

すると、死の寸前の慈悲か、

「───」

見えた。
あれは。

「───そう───かッ」

男の顔に笑みが浮かぶ。

「おま───ァ──え───ェェェェェ───」

偽物と本物。それらに色がついたような、
視覚のバグ。

青白い『偽物』に混じって、赤い『本物』がひとつ。

「お──オ"ッ────オ"ォ"ォ"ォ"ニ"ィ"ィ"ィ"ィ"ィ"ッーッ!!!

ソ"イ"ツ"ヲ"ッ!

ソ"イ"ツ"ヲ"喰"ェ"ッッ!!!」

Re: 【螺旋の先へ】 第一部 彼方の訪問者 ( No.15 )
日時: 2019/04/22 08:43
名前: 以蔵 (ID: uKR9UL7u)

「『土地の骸』の出来損ない───それがオニ。

オニは仮にアンタと繋がったように見えても、結局のところ独立した『土地の骸』の域を出ない。

分かる?

『土地の骸』ってのは、この町でしか存在し得ない。

これも分かる?

あと───アンタは『オニに人間を喰わせて、失くした自分の体を取り戻す』つもりらしいけど

オニは『空腹を満たす』だけの質の悪いヤツよ。

アンタの体は戻らない。

てか、そもそも戻るわけがないわねェ。

失ったものは戻ってこない。

特に他人から奪ってばかりのアンタなんかにはさ───

そして、」

男はもう限界まで『絶望』していた。
そこに更に、夜祇がたたみかける。

「アンタが死ねば供給不可能となって

オニも消える」

ブツン───


がんじがらめの男はついに息絶え───

オニもその場から消滅した。


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