ダーク・ファンタジー小説
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- パンクな世界のスチームな僕等
- 日時: 2021/06/24 07:30
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
初投稿です。
高校生がスチームパンクっぽい世界で冒険するお話しです。
拙い部分も多くあると思いますがよろしくお願いします。
目次
第1話 >>1-4
第2話 >>5-7
第3話 >>8-16
第4話 >>17-24
第5話 >>25-32
第6話 >>33-39
第7話 >>40
- 第5話 #3 ( No.27 )
- 日時: 2021/04/16 23:38
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
女性はお礼を言うと、日取りを決めて去っていった。
「新くん、よかったの?引き受けちゃって」
伊藤が不安そうに僕の顔を覗き込んだ。
「うん。申し訳ない気がするけど、あの女の人の気持ちを無視するのも気がひけるし」
そう答える僕をみて、ヴィルが大袈裟にため息をついた。
「ったくよ。嫌ならはっきり言えよ。前にも言ったろ?」
「なんだよ。連れてきたのは、ヴィルでしょ?」
ヴィルがバツの悪い顔で目を逸らした。案外彼はわかりやすい男なのだ。
「ま、無理がある依頼なのは確かだよね〜。でも安心してね〜、アラタ。ボクらがこっそりサポートもするからさ〜」
「うん、頼んだよみんな」
各々が静かに頷いた。
こうして、無茶な孫偽造をする依頼が始まったのだった。
- 第5話 #4 ( No.28 )
- 日時: 2021/04/18 01:33
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
依頼者の女性と待ち合わせた駅に、僕等4人で待っていると、彼女は少し遅れてやってきた。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
彼女の父親が営んでいた孤児院は、汽車で向かわなければならない。切符代は、彼女がもってくれるらしい。
汽車に乗り込む。電車とは違う、レトロな空間が広がっていた。
駅弁を食べながら、僕はドキドキしていた。見ず知らずの他人が、孫のふりなんてできるのだろうか。
「この次で降りるから」
降りた駅からおよそ10分ほどの場所に、家があるらしい。
住人を呼び出すブザーを、僕は押せずにいた。すると伊藤が、笑顔で僕の手を握った。
「大丈夫、緊張しないで。私も一緒だもの」
伊藤の言葉に、僕は頷く。相変わらず緊張はしているが、少し楽になった。
勇気を出して、ブザーを鳴らす。ブザーの音がけたましく響いた。
しばらくして、老人が1人家から出てきた。
- 第5話 #5 ( No.29 )
- 日時: 2021/04/18 18:33
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
老人は、僕等を訝しげに眺めていたが、後ろにいる女性に気づき顔を綻ばせた。
「エマ、どうしたんだい」
「おとうさんに合わせたい人がいたから、連れてきたの」
エマさんが僕を指さす。
「おとうさんのお孫さんを見つけてきたの」
老人は、僕の方を見て、優しく笑った。
「そうか…よくきたね。上がりなさい」
僕等の後ろでリュカとヴィルが息を呑んだ。まさか、こんなあっさり信じるとは思わなかったのだろう。
老人は、僕等を孤児院にあげた。子どもたちの声が響く。
「あんた、名前はなんて言うんだい?」
「新です」
「…。そうか。しばらく待っていておくれ」
少し広い応接室に僕等を通すと、老人はどこかへ行ってしまった。
「なぁ、あの爺さんちょろくねぇか」
「ヴィル、失礼だよ」
「そうそう。エマさんに聞こえたらどうすんのさ〜」
小さな声で耳打ちをする。
ヴィルの気持ちもわからなくはない。あまりに簡単に信じてくれたものだから、驚いてしまっている。
しばらくして老人が、お茶を持って戻ってきた。
「つまらないものしかなくて、すまんね。そうそう、新くん。君と2人で話しをしてみたい。お友達のみんなもいいかね?」
驚きつつ、僕は頷く。老人は、それを見ると、僕を自室へと案内した。
質素な部屋にある、小さな机と椅子。そこに僕を座らせると、自分はベットに腰掛ける。
「どこから話そうかね?」
老人は、ひとつ呟くとこちらをみた。
「まず、私も自己紹介をしようか。私の名前は、白田勇作と言うんだ」
思わず僕は固まった。それは、どこからどう聞いても、日本人の名前だった。
- 第5話 #6 ( No.30 )
- 日時: 2021/04/19 13:18
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
「驚いているかい?私も驚いているよ。ここでは黒髪は珍しいし、君のような響きの名前も珍しいからね。きらきらとした髪色と名前ばかりだ」
勇作さんは、そう言ってコーヒーをひとくち啜る。
「ここに、私の故郷に似た場所はなかった。まあ、偶然君が故郷の人に似た容姿でもおかしくはないがね」
「勇作さん、あなたは一体…?」
「君が結局、私と同じか、そうでないかわからないから、君に言ってもさっぱりかもしれない。私はね、この世界の生まれじゃないのさ」
思わず、息を呑んだ。この人は、僕等と同じ迷い込んでしまった人なのだ。
僕の様子を見て、勇作さんも確信したらしい。
「君もそうなんだね?」
「…はい」
勇作さんは、おもむろに棚に近寄り、そこからキャンディを取り出す。優しい手つきでそれを僕の目の前に置いた。
「そうか、若いのに逞しいな。いくつだい?」
「16です」
「そうか、私はこちらにきた時は47だったからね。君は若いし、すぐ順応できただろう」
勇作さんから、僕は目を逸らした。僕は別に逞しくもないし、すぐ慣れたわけでもない。
この言葉は伊藤にかけるべきだ。彼女の方こそ逞しい。女の子は、そんなふうに褒められても嬉しくないかもしれないが。
勇作さんは、僕と伊藤がどのようにしてこの世界に来たのか、今までどうしていたのかを聞いてきた。僕も素直に話した。
僕の話しが終わると勇作さんは、今度は自分について話し始めた。
- 第5話 #7 ( No.31 )
- 日時: 2021/04/22 18:29
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
勇作さんは、普通のサラリーマンだった。一人娘も嫁いでいって、定年退職までのんびりと奥さんと過ごすつもりだった。
ある時、久しぶりにあった娘は嬉しそうに彼に言った。
『お父さん、私おかあさんになるの。』
それから、勇作さんは孫に会うのが楽しみで楽しみで仕方がなかった。
もうすぐ孫が生まれるという時だった。タクシーから降りると、そこは見慣れた我が家の玄関ではなく、見知らぬ外国の街並みだった。
勇作さんは、必死になって帰る方法を探した。でも、なんの手がかりも見つからなかった。
「私は、諦めてしまったよ。もう妻にも、娘にも会うことはできない。孫の顔を見ることも叶わない。あれから20年も経ってしまった」
勇作さんは、目を閉じて子どもたちの笑い声を聞く。
「未練はある。でも、私は満足もしている。たくさんの子どもたちに囲まれて、眠ることができる」
目を開けた勇作さんは、僕の顔を見た。切なそうに、でも慈愛に満ちた表情だった。
「君には、悪いことをしたね。同郷のよしみだ、何かあったらまた来なさい。私が元気なうちなら、力になろう」
「…ありがとうございます」
元の世界に帰る方法はない。その事実は、僕に重くのしかかる。
でも、勇作さんはずっとひとりで、それを抱えていたのだ。そして今、僕の気持ちも肩代わりしようとしてくれている。
その優しさがかえって辛くて、僕はうまく声が出なかった。