ダーク・ファンタジー小説
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- パンクな世界のスチームな僕等
- 日時: 2021/06/24 07:30
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
初投稿です。
高校生がスチームパンクっぽい世界で冒険するお話しです。
拙い部分も多くあると思いますがよろしくお願いします。
目次
第1話 >>1-4
第2話 >>5-7
第3話 >>8-16
第4話 >>17-24
第5話 >>25-32
第6話 >>33-39
第7話 >>40
- 第一話 #2 ( No.2 )
- 日時: 2021/04/04 15:58
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
頭上からは電車が通るような騒音がする。いや、違う。正確に言うなら、この汽笛の音は汽車だ。
わけも分からず立ち尽くしていた僕は、ふと我に帰った。
「そうだ…!携帯…!」
母に電話でもメールでもすれば良い。ここがどこだろうが、連絡がつけばこっちのものだ。
電源を入れるとスマホのアンテナは全く反応しておらず、圏外の文字が虚しく光っているばかりだった。
自分の場所も分からず、母との連絡もつかない。16にもなって完全な迷子だ。恥ずかしいったらありゃしない。
とは言え、スマホが圏外だとマップを開くこともできない。今、僕にできることなんて、途方にくれて立ち尽くすことくらいだった。
どこからか人の声が聞こえてくる。どうやら、このわけのわからない場所にも人はいるようだ。自分以外にも人がいる。それだけで少し安心できる。
しかし、そのわずかな安心もすぐに消えた。聞こえてくる人の声は、よく聞くと男の怒鳴り声だ。それが少しずつ近くによってきている。
恐怖で体を震わせていると、1人の女の子が目の前に飛び出してきた。長く艶やかな黒髪をサイドテールにしている。黄色っぽい明るい色の瞳を、不安そうに揺らしていた。
「伊藤さん…?」
「渡辺くん?」
僕の目の前にいる彼女は、クラスメイトの伊藤六花その人だった。
- 第1話 #3 ( No.3 )
- 日時: 2021/04/04 15:59
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
伊藤はしばらく驚いた顔をしていたが、きっと僕を睨みつけた。
「その家に入れて。そんであのおじさん、追い返して」
「はぁ?」
「いいから!あとで話す!」
そう言うと滑り込むように扉の中に入った。
「おい」
立ち尽くしていると、頭上から野太い声が降ってくる。恐る恐る顔を上げると、スキンヘッドのいかつい男が、僕を見下ろしている。
「女がきただろ」
「いや〜、知らないですね」
男はギロリと僕を睨みつける。
「ほんとだろうな。嘘だったらどうなるか、わかってるよな?」
脅しのテンプレのようなセリフを吐く。僕はガクガクと頷くことしかできない。
男は舌打ちをすると去っていった。それを確認して、僕も滑り込むように扉の中に入った。
「ありがと」
伊藤は、ソファに座っている。見慣れない私服姿の彼女をチラリと見て、僕もソファに腰掛ける。もちろん、少し離れた位置だ。
「正直に言うとね、渡辺くんは私のこと、あのおじさんに突き出すと思ってた」
「なんで」
「渡辺くんって大人しいし、静かだし。守るって言うより守られる側っぽいもん」
伊藤は、僕の方を見てからかうように笑う。
「なんなら、私の方が強いかも」
伊藤の言っていることは間違っていない。たしかに僕は、学校では大人しい方だ。でも、さすがにイラッとはする。
「…馬鹿にしてる?」
「違うよ。感謝してるの」
ふと、伊藤は真顔になった。
「渡辺くん、ここがどこかわかる?」
僕は静かに首を振った。
「わからない。急にここにきて」
「そうだよね…。ねぇ渡辺くん、私のこと馬鹿にしない?」
伊藤の言葉に僕は頷く。クラスメイトをいきなり馬鹿にするほど、僕は嫌なやつではないつもりだ。
「ここきっと、異世界だよ。私たちの世界じゃない」
- 第1話 #4 ( No.4 )
- 日時: 2021/04/04 16:00
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
「異世界?」
「うん。私ね、いつも通り最寄りの駅で降りたの。でも、いつもの駅じゃなくて、ここに出た。これっておかしくない?渡辺くんもそうなんでしょ?」
「そうだけど、それだけで異世界って…」
いくらなんでもありえない。そんなことが起こるのは、ライトノベルだけで充分だ。こんな、なんの前触れもなくファンタジーなことが起こってたまるか。
「街も何もかも私たちの知ってるものじゃない。まるで一昔前の外国みたいなのに、機械とかは私たちが使っているのとほとんど同じ性能なんだよ?このテレビもそう」
そう言って伊藤の指差したテレビは、たしかにアナログテレビのような見た目に反して、流れる映像の画質は僕の知ってるものと大差ない。冷や汗が流れる感覚がする。
「そんなことって…。」
「でも、そうじゃなきゃどう説明するの?地名も知らない場所なんだよ?」
伊藤の言葉に僕は何も言えなかった。彼女の言う通りなのだ。そうじゃなければ、この状況をどう説明すればいいのだろう。
「そうだったら、どうするの?帰り方もわからないのに、こんなよくわからないとこで、どうすんだよ!」
つい声を荒げてしまった僕を見て、伊藤は優しく、でも困ったように笑った。
「やっぱり渡辺くんは守られる側だ、なんか守りたくなるもん。小柄だからかな」
「やっぱり、馬鹿にしてるでしょ」
まだ成長期が来てないだけだ。不貞腐れてる僕を見て、伊藤は力強く言った。
「大丈夫、だって1人じゃないもの。2人だったらきっとなんとかなる。それに拠点もあるし」
そう言って、ソファをバンバンと叩く。どうやらこの部屋、いや家のことを言っているようだ。
「誰か住んでるかもよ」
「もう私たちの家だよ」
伊藤はにっこりと笑った。
「絶対帰ろうね、伊藤くん」
こうして、僕と伊藤の異世界での生活が、唐突に幕を開けたのだ。
- 第2話 #1 ( No.5 )
- 日時: 2021/04/04 16:01
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
カーテン越しに朝日が差し込む。僕は、かすかに目を開けると、静かに起きあがった。
見渡すとそこは見慣れた自室ではなく、一昔前と今の外国を足して割ったようなリビング。石畳みに印象的な柱時計やランプが並ぶ。所々に金属質な歯車が回っているが、この歯車がどのような役割を果たしているのか、僕には全くわからない。
寝ていたソファから立ち上がって、カーテンを開ける。爽やかな朝日が部屋中に広がる。大きく伸びをした後に、パーカーを着た。
僕がこの部屋で目が覚めたということは、昨日の出来事は夢ではなかったのだ。いや、もしかしたら、長い夢を見てるのかもしれない。もう一回寝たら、次に目が覚めた時は自分の部屋で、何もかもいつも通りなんてこともあり得る。むしろ、そうであってほしい。
「おはよう、新くん」
そんなことをグルグルと考えていた僕に、伊藤が声をかけた。いつも結っている長い黒髪は下されている。
「朝、早いんだね。なんとなく、新くんは朝弱いと思ってた」
「おはよう。その…、伊藤さん、名前…」
伊藤とは、そんなに仲が良いわけではない。クラスメイトと言っても、話したことも数えるほどしかなかった。それがいきなり、名前呼びだ。これで戸惑わない男子はいないと思う。…あくまで、僕の持論だが。
「私さ、自分の名前好きなんだよね。」
「そうなんだ」
「そうなの。ロッカってひびきが、すごく好きなの。だから、誰かに名前呼ばれるのも好き。でもここでは、新くんと2人だけでしょ?私が名前で呼べば、新くんも下の名前で呼んでくれるかなぁ、なんて」
そんな急に呼べるわけないだろ。戸惑っている僕を見て、伊藤はにっこりと笑った。
「ベット譲ってくれてありがとう。おかげでよく寝れた」
「ならよかった。朝ご飯作るから待ってて」
「ありがとう。新くんきっと、いい旦那さんになるね」
顔が火照るのを感じて、僕は慌ててキッチンに向かった。
もしかして伊藤は、昨日から僕をからかって楽しんでいるのだろうか。それなら、いちいち反応するのも馬鹿らしい。こんなに照れる必要もきっとない。これはきっと、伊藤なりの距離の詰め方なんだ。
- 第2話 #2 ( No.6 )
- 日時: 2021/04/04 16:02
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
今まで誰かが住んでいたのか、この家は全体的に小綺麗だった。このキッチンもそうだ。わずかだが、食料もある。
パンをオーブンに入れて少し焦がし、ベーコンを薄く切る。卵もあるが、いつのものかわからない以上、あまり使いたくはない。
ベーコンに火を通して、トーストの上にのせる。あまりにも簡易的だが、朝食のできあがりだ。
「美味しそう!」
伊藤は嬉しそうに、トーストにかぶりつく。
「伊藤さん、これはすごく大事な話しなんだけど」
「なに?」
「食料、残り少ない。だけど、俺たちはここのお金を持ってない。」
信じたくないが、いきなり異世界に来た僕等は、もちろんお金なんて持っていない。このままでは、帰る前に餓死することになる。
「なんとかなるよ。そうだ、お店開こう!運が良いことに、家はあるんだし!」
あまりに突拍子のない話しに、僕は伊藤を二度見した。
「お店って…、なんの店をするつもり?そもそも、ここも誰かの家だし、お店を開くなら申請とかしないとダメなんじゃない?」
「新くんは真面目だな。異世界なんだよ?大丈夫だって」
さすがに楽観的すぎやしないか。わけがわからない異世界だからこそ、慎重に行動するべきだと言うのに。
「お店は、なんでも屋にしよう。開店準備、あんまりいらなそうだし」
「本気で言ってる?」
「本気だよ。帰るためには、まずここで生活できるようにしなきゃ。」
伊藤は伊藤なりに考えて、そして行動しているのだ。彼女の目には、並々ならぬ決意が浮かんでいる。
「わかったよ。じゃあ、準備しよう。看板作るくらいは、やらないと」
「!ありがとう、新くん!」
僕は喜ぶ伊藤を尻目に、物置きへ向かう。昨日この家を探索した時に、ガラクタの置かれた部屋を見つけた。そこなら適当な看板の材料があるだろう。
「店の名前、どうするの?」
ついて来た伊藤に声をかける。伊藤は、ワクワクとした声でこたえた。
「もう決めてるの。きっと新くんも気にいるよ」