ダーク・ファンタジー小説
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- パンクな世界のスチームな僕等
- 日時: 2021/06/24 07:30
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
初投稿です。
高校生がスチームパンクっぽい世界で冒険するお話しです。
拙い部分も多くあると思いますがよろしくお願いします。
目次
第1話 >>1-4
第2話 >>5-7
第3話 >>8-16
第4話 >>17-24
第5話 >>25-32
第6話 >>33-39
第7話 >>40
- 第3話 #5 ( No.12 )
- 日時: 2021/04/04 16:07
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
街の奥のほうにある屋敷。それがリュカの家のようだった。
リュカは、生垣の間から敷地に入る。どうやら、ここからこっそり出入りしているようだ。そのまま、離れのような建物を目指す。
「あそこがボクの実験室だよ〜。いい?こっそりだよ?」
僕等は、神妙な顔つきで頷く。
と、そこにいきなり声がかかった。
「おかえりなさいませ、ルーカス坊っちゃん」
「きゃっ⁉︎」
伊藤が素っ頓狂な悲鳴をあげる。リュカは、小さなため息をつくと背後に立った中年の男を見上げた。
「ジェームズ、ルーカスはやめてって言ってんだろ。全然可愛くねー」
「申し訳ございません」
ジェームズと呼ばれた男は、リュカに丁寧に謝罪をする。
「待って!リュカちゃん、男の子だったの⁉︎」
「伊藤さん、今そこじゃないと思う」
「だって!ずっと女の子だと思ってた!新くんは気づいてたの⁉︎」
「いや、気づいてなかったけど」
あわあわと捲し立てる伊藤を、必死に宥める。今大事なのは、リュカの名前でも性別でもない。家の人に見つかったことだ。
「よくも坊っちゃんに無礼な口を…!」
現にジェームズは、ものすごく敵意丸出しで僕等を見下ろしているのだ。
息巻くジェームズを、リュカが宥める。
「やめて、ジェームズ。この2人はボクのお友達だよ。ボクが招待したんだ」
「…承知いたしました。無礼をお許しください。」
「いい、ジェームズ?パパには内緒ね?絶対に実験室に入れないで」
「かしこまりました」
ジェームズは、一礼すると去っていった。
ジェームズを見送ったリュカは、こちらを見て、しゅんとした顔でうつむいた。
「やっぱり、男の子で可愛いのが好きなのダメ?」
「ダメじゃないよ、別に。驚いただけ」
僕の言葉は少しそっけなく聞こえたかもしれない。でも、個人の好きなものに口出しするなんて傲慢だ。好きなものは好き。それでいいじゃないか。そんなの人それぞれだ。
「パパは、ダメって言うんだ。ボクは跡取りだから、可愛いのはダメ。好き勝手したらダメ。アレもダメ、これもダメ。」
リュカは、舌打ちをする。
「ボクはボイド家の跡取りの前に、ただのリュカなのに」
「パパ以外の人はなんて言ってるの?」
「ママも、ジェームズも、ボクの好きでいいとは言ってくれてるけど…」
「なら、それでいいよ。俺たちもリュカが好きなものは好きでいいと思う。そんなこと言うのは、君のパパだけなんだから」
リュカは驚いた顔をして、伊藤のほうもチラリと見た。伊藤も静かに頷いた。
リュカはスカートの裾をぎゅっと掴んで、深く息を吐いた。それから、可愛らしくスカートを広げながら、一回転した。
「ふふふ♪ボクの初めてのお友達が2人でよかった」
リュカは僕等の間に入ると腕をくんで、実験室へと引っ張っていった。
- 第3話 #6 ( No.13 )
- 日時: 2021/04/04 16:08
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
リュカの実験室は、材料を買った店の中と似た雰囲気の場所だった。
見慣れない器具や薬品で溢れていて、独特な薬品臭が漂う。あまり綺麗とは言えないが、整頓はされていて、よくある綺麗に散らかっている部屋という印象だ。
リュカは小さな椅子を2つ、どこからか持ってきて僕等を座らせると、自分は先程買った石を乱雑に取り出した。それから、黒っぽい薄手の手袋をつける。
「2人とも、ちゃんと見ててね!きっと、すごいってなるから!」
「もちろん!頑張ってね、リュカちゃん」
リュカは笑顔で頷くと、手際よく作業を始めた。
薬品を丸フラスコに捧ぐと、石をその中に投げ入れる。じゅわっという音をたてる石には目もくれず、理科の濾過の実験で使ったような、複数の器具をセットする。濾過器に、石を浸けた薬品を通す。驚いたことに、石は溶けきって無くなっていた。濾過した液体を、別の器具に入れると一息ついて僕等の隣に座った。
「しばらくしたら、できると思う。それまで暇だけど、ごめんね〜」
「なんだか、理科の実験みたいだったな」
「理科?錬金術だよ?」
僕の言葉にリュカは首を傾げた。説明をするのは少々面倒だ。
「一発で結晶になるといいけどな〜。そうじゃないと、違う薬品付け足すことになるんだ〜」
そう言いつつも、リュカはとても楽しそうだった。
- 第3話 #7 ( No.14 )
- 日時: 2021/04/04 16:08
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
試験管を入れた装置は、どうやら冷却に使うものらしい。約5分ほどで、固まって結晶体になるのだという。
リュカは、丁寧に試験管を取り出した。3本の試験管には、それぞれ色の違う結晶体がキラキラと輝いている。
「すごい。綺麗だね」
「でしょ?今回はなかなかいいできだよ〜」
リュカが試験管から結晶を取り出す。簡単にやって見せたが、実は難しいんじゃないだろうか。薬品や使用する器具と装置を間違えてしまうと、全く別のものが…、ヘタしたら何か有害なものができてしまうんじゃないか。
「もうちょっとまってもらっていい?」
「いいけど、これで完成じゃないの?」
僕の質問に、リュカはいたずらっぽく笑った。
「結晶体の生成はね♪ここからは錬金術でもなんでもない、ただのボクの趣味かな〜」
錬金術も趣味なんじゃないのか。あえて口には出さないが。
リュカは小さな作業机に向かった。机の上には、工具のようなものがたくさん置かれている。
リュカは、マスクをつけるとできた結晶の形を整え始めた。3つとも丁寧に整えると、研磨を始める。
そのあとは、金属のチェーンと少し丸まった金属、あと指輪のような金属を取り出す。それらに、加工した結晶体を取り付けた。
「ジャーン‼︎リュカ特製アクセサリー!」
出来上がったのは、ネックレスと指輪とイヤリングだった。結晶の生成から、アクセサリー製作まで、リュカ1人で全ての工程を終わらせてしまったのである。普通だったら考えられない。
「これがロッカので〜、これがアラタのね!こっちがボクの!」
リュカは伊藤にネックレスを、そして僕にイヤリングを渡すと、自分は指輪をつけた。
「お友達の証ね!」
「ありがとうリュカちゃん!」
「大事にするよ」
早速、伊藤はネックレスをつける。僕も、彼女にならってイヤリングをつけた。そんな僕等を見てリュカも、満足そうに笑っている。
その時、すごい勢いで部屋の扉が開けられた。
- 第3話 #8 ( No.15 )
- 日時: 2021/04/04 16:09
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
扉の向こうに立っていたのは、男だった。リュカにどことなく顔が似ている。しかし、まとっている雰囲気はリュカとかけ離れていた。
「…パパ」
リュカが小さくつぶやいた。
父親。この男が。
「ルーカス、おまえはまたこんなことをやって!それに誰だ、こいつ等は!」
「ごめんなさい、パパ!この2人はボクのお友達で…、ボクが勝手に…」
「言い訳は聞きたくない!」
父親はリュカの手を乱暴に掴んだ。その手には、かなり力が入っているのだろう。リュカの顔が苦しそうに歪む。
「…痛っ」
「おまえは、家の跡取りなんだ!自覚を持て!悪魔でも人間のフリくらいできるだろう⁉︎」
父親は、リュカの手を掴んだまま怒鳴り散らす。リュカが痛がっていることなどお構いなしに。リュカに罵声を浴びせ続ける。
気がついたら体が動いていた。リュカの手を無理矢理、父親から引っこ抜く。無意識のうちに、僕は父親を睨みつけていた。
「リュカが痛がってます。やめてください」
「なんだ、おまえ」
「僕はリュカの友達です。」
多分、イラついていたのだと思う。普段なら絶対に、こんな行動は取らないだろう。もしかしたら、伊藤の大胆なところがうつったのかもしれない。
とにかくこの時の僕は、怒鳴り散らしている見ず知らずの男なんて、怖くなかった。
「おまえ、知らないんだな…。こいつは、悪魔だ。おまえたちは、騙されているんだ。こいつは…」
父親が言いかけた時、銃弾がどこからかとんできた。弾丸は、父親の頬をかする。
見ると、扉の前に拳銃を構えたジェームズが立っていた。
「坊っちゃんに無礼を働くものは許しません。たとえそれが旦那様でも」
淡々とジェームズは告げた。リュカは、尻餅をついた父親に近づく。そしてはっきり言った。
「パパ、ボクは家を出るよ。ボクは自由に、自分のやりたいことをやりたい。ボクらしく生きたい」
父親はしばらく震えていたが、しばらくして小さな声を洩らした。
「好きにしろ…。家から悪魔が消えるなら十分だ」
父親はつめたく言い放った。ふらふらとゆっくり立ち上がり、去って行った。
「待てよ!せめて謝って…」
「いいんだ。ありがと、アラタ」
リュカは、寂しそうに笑った。
「ジェームズさんは、大丈夫なの?リュカちゃんのお家の使用人でしょ?」
「私のご主人は、ルーカス坊っちゃんだけです。なんの支障もございません」
ジェームズは、やはり淡々と言った。
「リュカ、家から出るって言ってたけど、これからどうするの?」
僕の質問にリュカは、口元を綻ばせる。いたずらっ子のような顔だった。
「ボクから新しく、なんでも屋に頼みたいことがあるんだ〜」
- 第3話 #9 ( No.16 )
- 日時: 2021/04/04 16:10
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
あれから数日が経った。
最近見つけた小さな物置を改装した部屋から、降りて窓を開ける。朝食を作って、玄関に看板をかけると、そのまま玄関の掃除を始める。この一週間のうちに習慣になった、僕のモーニングルーティーンだ。
この後は、テレビを見るかラジオを聞くかしながら伊藤とぼんやり過ごすのだが、今日は来客が決まっている。
「もうそろそろくるかな?」
「くると思う」
伊藤もソワソワしながら、来客を待っている僕は昼食の準備をしようと立ち上がった。
ちょうどその時、カランと来客を知らせる鐘が鳴った。
玄関には、可愛らしい洋服に身を包んだ男の子と、男の子より頭二つ分くらい背の高い男が立っている。リュカとジェームズだ。
あの日、リュカが僕等に頼んだ“お願い”。それは、自分をこの家に居候させて欲しいというものだった。僕等は二つ返事で了承した。
それから、リュカは荷物のまとめを、僕等はリュカ用の部屋の確保をして、今日から本格的にリュカの居候が始まる。
「坊っちゃん、本当にお一人で大丈夫ですか?」
リュカの荷物を置きながら、ジェームズが聞く。
「ジェームズは心配性だな〜。家でのボクの仕事、押し付けてるのに」
「構いません。主人の命令ですので」
ジェームズは、淡々と答えた。
リュカの荷物を全て運ぶと、ジェームズは帰っていった。やはりリュカのことが心配なのか、ちらちらと振り返りながら。
「改めて、2人とも。ボクのお願いを聞いてくれてありがとう」
「気にしないで。なんでも屋だし」
そう言った僕の背中を、伊藤が勢いよく叩く。
「そうそう。それにリュカちゃんは友達でしょ?友達のお泊まりなんて大歓迎よ」
リュカはこの言葉で、心底安心したようだった。
「じゃ、リュカの歓迎会やるか。気にいる料理、あるといいけど」
「もしかして、アラタが作ってるの⁉︎」
「新くんのご飯、結構美味しいんだよ?」
「マジ⁉︎」
その日は、晩までずっと歓迎会が続いた。僕等のこの世界での生活は、まだまだ始まったばかりだ。