ダーク・ファンタジー小説
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- パンクな世界のスチームな僕等
- 日時: 2021/06/24 07:30
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
初投稿です。
高校生がスチームパンクっぽい世界で冒険するお話しです。
拙い部分も多くあると思いますがよろしくお願いします。
目次
第1話 >>1-4
第2話 >>5-7
第3話 >>8-16
第4話 >>17-24
第5話 >>25-32
第6話 >>33-39
第7話 >>40
- 第4話 #0.5 ( No.17 )
- 日時: 2021/04/04 16:11
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
街中を1人の青年が歩いていた。
見事な金髪は乱雑に切り揃えられ、頭にはゴーグル、作業着のような服を着ている。本当に何かの作業員なのだろう。服と顔が所々、煤で汚れていた。
そんな青年の横を、小綺麗な紳士たちが通り過ぎていった。その手には、新聞が握られている。
「万能薬の本格導入だとさ」
「なんでも治る薬なんて、便利なもんを実用化させるなんてな」
「錬金術ってのはすごいね。煤まみれをなって機械を弄るより、よっぽど便利だ!」
聞こえてくる言葉に、青年は大きく舌打ちをする。
ふと青年が足を止めた。そこは高架下の二階建ての家。玄関には看板が下がっている。
『なんでも屋 歯車のランプ』
その下のランプのさらに下にもう一つ、小さな看板が下がっていた。
『綺麗な宝石、お作りします』
青年は苛立ちのままに店に入った。
- 第4話 #1 ( No.18 )
- 日時: 2021/04/08 11:28
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
玄関から入ってすぐそこに、キラキラとしたアクセサリーが並べられる。
リュカが、自分の作った結晶体を加工・販売しているスペースだ。この家に住み始めてすぐに、彼はこのスペースを作ってしまった。悔しいことに僕等のなんでも屋業よりも、儲かっている。
「いっそのこと、リュカのアクセサリーショップにした方がいい気がしてきた」
「何言ってんの、アラタ〜」
「なんでも屋のほうも、ちょくちょくお客さん来てるじゃん!」
伊藤が慌てて言った。僕は知っている。伊藤も同じことを、前にリュカに言っていたことを。
「それにしても、すごいよね。物置を一晩で研究室に替えるし、こんな綺麗なの作って。DIYもできるなんて」
「そんな褒めても何も出ないよ〜」
リュカは照れているが、実際すごいことだ。
「でもよかったの、リュカちゃん?研究室と部屋、一緒にしちゃって」
この家は、一階がリビングとダイニングと、キッチン。2階が寝室2つ。そして地下に物置といった間取りだ。
2階の寝室を1つ空けておいたのだが、リュカはそのまま改造した物置ですごしていた。僕をソファで寝かせるのが嫌だったらしい。本当に申し訳ない。
「も〜!大丈夫だって!」
リュカはそう言うが、年下のリュカが地下にいるのだ。こちらとしては、とてつもなく申し訳ない気持ちになる。
カランと来客を知らせる鐘が鳴った。
入ってきたのは、僕等より1つか2つ上の男だった。アンティークなゴーグルが頭に乗っかっていて、厚手の手袋とブーツ、首元にはスカーフ、ベルトにはポシェットがいくつかついていた。所々、煤で汚れている。
「いらっしゃいませ」
伊藤が笑顔で男に話しかける。彼はどこか不機嫌そうに、家を見渡した。
「これ、錬金術だよな?作ったの、誰だ」
そのまま、リュカの作った結晶を乱雑に指さす。
「ボクだけど」
リュカが、静かに手を挙げた。
「ならおまえ、俺と勝負しろ」
- 第4話 #2 ( No.19 )
- 日時: 2021/04/07 00:04
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
リュカは、目をパチクリとさせた。
「勝負〜?」
「蒸気機関は知ってんだろ」
僕と伊藤は頷いた。
世界史の授業でも習った。産業革命のきっかけとなった発明。この世界では主流で、機械の動力源はほとんど蒸気だ。
「俺は蒸気技師だ。錬金術師はみんなして見下しやがる。どっちが優れているか、はっきりさせてやる」
この人が不機嫌な理由は、それなのか。錬金術は、突き詰めれば無から有を生み出すこともできるという。だからといって、見下すのはどうかと思う。
でも、彼もどこかやけになっている。無理もないかもしれないが、リュカに当たるのもいかがなものか。
「いいよ、受けてたってやる。ボクも、自分の技術がどこまであるか、興味あるしね」
リュカがニヤリと口元を歪める。相当自信があるようだ。
「じゃあ、あなたの依頼は…」
「俺とこいつの勝負の手伝いと、判定。」
ぶっきらぼうに答える彼に、リュカが頬を膨らませた。
「こいつじゃないんだけどっ!リュカっていうかわいい名前が、あるんだけどっ!おにいさんのこと、無愛想デカブツって呼ぶよ!」
「やめろ、ほとんど悪口じゃねぇか。ヴィルヘルムだ、ヴィルヘルム。そう呼んだら許さねぇかんな」
リュカとヴィルヘルムさんが、バチバチと火花を散らす。その様子を見た伊藤が、僕に耳打ちをする。
「この2人、いいライバルになりそうだね」
犬猿の仲の間違いな気がする。伊藤はやっぱり楽観的な気がする。
なんだかまた、一悶着ありそうだ。
- 第4話 #3 ( No.20 )
- 日時: 2021/04/07 20:03
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
次の日から2人の対決が始まった。毎日何かを作って店に持ち込んでは、僕等が気に入ったほうを決める。勝負は5本勝負だった。
リュカの作るものはほとんどが装飾品。それに対してヴィルヘルムさんが作るものは、より実用的な機械類だ。正直に言って比べられるものじゃなかった。
3日目に入って、結果はリュカの1勝1敗1引き分けとなった。
「なんで!?なんでそっち選んだのさ!」
「なんていうか、食洗機がすごくほしくて…」
気まずくなって目を逸らす。今日、引き分けになったのは、言わずもがな僕と伊藤で割れたからだ。
リュカは、昨日に続いて今日もヴィルヘルムさんに票を入れた僕のことが、心底気に食わなかったようだ。
もちろん、リュカの作ったランプもすごく綺麗で素晴らしい。だが、家事をしている僕的には、ボタン1つで皿洗いが終わるのは、とても魅力的だった。
完全に僕の私情である。
「ほら、新くん手がガサガサだったじゃん?何がなんでも、水仕事したくなかったんだよ」
完全に僕の私情で選んだが、伊藤のその言い方はどうかと思う。リュカの慰めにもなっていないし、何より僕の手はそこまで荒れていない。
「駄々こねるなよ、選んでもらえなかったからって」
ヴィルヘルムさんは、そう言いながら食洗機の最終調整を始める。家のキッチンにこのまま設置してくれることになったのだ。
「大体、俺はおまえと違って遊びじゃねぇんだよ。蒸気機関に命かけてんの」
「…何それ」
リュカが静かに、でも吐き捨てるように呟いた。
「あんたがそれで仕事してるから、学会に入ってもないボクはお遊びってこと?仕事にしてるかどうかで、本気度が変わるってこと?」
彼にしては珍しく感情的だった。
「ふざけんな。ボクは本気だ。偉ぶってんじゃねぇよ。蒸気機関なんて、錬金術の研究のおこぼれの癖に!」
叫んで、リュカは俯いた。その肩が小さく震えている。伊藤が、そんなリュカの肩を優しく支える。
「ボクの好きな気持ちを、侮辱するな…!」
絞り出すような声だった。リュカはそのまま、逃げるように家を飛び出す。
「待ってリュカちゃん!」
慌てて伊藤が追いかけていく。後には、唖然としている僕とヴィルヘルムさんだけが、残された。
- 第4話 #4 ( No.21 )
- 日時: 2021/04/08 12:09
- 名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014
ヴィルヘルムさんは、面倒くさそうに頭をかいた。
「んだよ」
無意識にヴィルヘルムさんの方をみていたのだろう。彼は僕にじとりとした視線を送る。
「えっと…」
「言いたいことあるなら言えよ」
ヴィルヘルムさんの言葉に、僕はあからさまにたじろいだ。
苦手なのだ。思ったことを言うことには、それなりの責任がついてくる。相手を傷つけてまで、自分の意見を言おうとはどうしても僕には思えなかった。
いや、これはただの言い訳な気がする。ただ、自分の意見を否定されるのが怖くて、何か言って嫌われるのが怖くて、逃げているのだ。
「えっと…、言い方が悪かったと思います」
おっかなびっくり、声を出した。まとまっているようで、まとまっていない。
「リュカは、本当に錬金術が好きで…。自分の好きなことを自由にできるのを、喜んでいるんです。詳しくは言えないけど、今までずっと否定されてたみたいで…。だから、リュカはきっと、また自分を否定されたと思ったんだと思います」
ヴィルヘルムさんは小さなため息をついた。しばらく黙っていたが、彼もゆっくり喋り出した。
「俺も、言い過ぎたとは思う。ガキ相手にムキになって情けねぇ」
彼も、言葉を探りながら話しているようだった。
「好きなもんを否定されるのは、悲しいし辛い。でも、やっぱ負けるわけにはいかねぇし、こっちのが優れてんだってみんなに知らせなくちゃいけないんだ」
「なんでですか。僕から見れば、どちらもすごい技術なのに。勝ち負けなんてないのに」
ヴィルヘルムさんが、僕の顔をまじまじと見た。それから、少し意外そうに口を開いた。
「普通はさ、話題になってるほうを褒めるんだよ。おまえみたいに、どっちもすごいとか言わねぇんだわ。比べて、どっちかは遅れてるって文句言いつつ、遅れてるほうにも頼って暮らすんだ」
そんなことないとは言えなかった。ヴィルヘルムさんは、技師だと言っていた。発明や発展の最先端にいるこの人は、きっと散々そう言われてきたのだろう。
ヴィルヘルムさんは立ち上がりながら、押し黙ってしまった僕の頭を優しく叩いた。
「ま、おまえはそのままでいてくれよ?あ〜、弟がいたらこんなの感じかなぁ」
彼の顔は、今までの腹ただしそうなものではなく、どこか優しい。僕と彼は、そんなに年も離れていないと思うのだが。
「リュカは、あいつらと違う。もちろん、俺とも違う。純粋に楽しんでる、あいつが羨ましい。でも、俺はやつらに見せつけねぇと。じいちゃんの発明を馬鹿にしたやつらに…!」