ダーク・ファンタジー小説

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パンクな世界のスチームな僕等
日時: 2021/06/24 07:30
名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014

初投稿です。
高校生がスチームパンクっぽい世界で冒険するお話しです。
拙い部分も多くあると思いますがよろしくお願いします。

目次
第1話 >>1-4
第2話 >>5-7
第3話 >>8-16
第4話 >>17-24
第5話 >>25-32
第6話 >>33-39
第7話 >>40

第4話 #5 ( No.22 )
日時: 2021/04/09 01:23
名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014

 ヴィルヘルムさんは、拳を握りしめて微かに震えた。
 それから、僕の方をチラリと見た。しばらく悩んだ様子だったが、彼はソファに勢いよく腰掛けた。
「ここまで話したから、もう全部言うわ。リュカとロッカが戻るまで、時間もありそうだしよ」
 ヴィルヘルムさんは、そう言ってコーヒーをひとくち飲んだ。僕もテーブルを挟んで反対側のソファに座る。僕が座ったのを見届けると、ヴィルヘルムさんはポツポツと語り始めた。

 ヴィルヘルムさんの祖父は、蒸気技師の中でも、得に優秀な人だったらしい。新しいものを発明しては、世に出してきた。研究熱心で向上心のある人だった。だからこそ、他の技師たちからも一目置かれていた。
 そんな彼の祖父が、最後に発明したもの。それが電気も使った機関の発明だった。この家にあるラジオも、テレビも、ヴィルヘルムさんの祖父が、開発したらしい。
 しかし、彼の発明は錬金術学会に奪われてしまったのだ。
『これには、電気が使われている。なので、厳密言うとこれは蒸気機関ではない。電気を発見したのも我々だ。だから、これは我々のものだ。』
 学会の会長は、そう言い切った。
 もちろん彼の祖父も抵抗した。しかし、それも虚しく、発明は奪われてしまった。
 周りの目は冷たかった。人々の態度は、機関車を発表した時とはまるで変わっていた。
「許せなかった。じいちゃんから盗んだのはあっちなのに。ここぞとばかりに、俺たちに当たってきた。きっと最近になって生まれたパッと出の俺たちが気に食わなかったんだな」
 学会の人たちが、蒸気技師たちを炎上させたということだ。何も知らない一般の人たちは、『蒸気機関は錬金術のパクリ』という情報を信じてしまった。学会の思惑通りに…。
「俺は認めさせたい。じいちゃんのためにも。じいちゃんの発明だって、世に知らしめる」
 ヴィルヘルムさんの顔には、固い決意の色満ちていた。

第4話 #6 ( No.23 )
日時: 2021/04/10 00:07
名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014

 決意に満ちてはいたが、どこか辛そうだった。
「焦ってたんだな、俺。結局、認めてほしかっただけ、褒めてほしかっただけだったんだ」
 きっと、ヴィルヘルムさんは、リュカと張り合っている間は楽しかったんだろう。自分の使命も忘れて。
 でも、忘れきることも出来なかった。
「自分が嫌だったことは、やらねぇって決めてたのにな」
「謝ればいいですよ。リュカはいいやつだから、すぐ仲直りできるはずです」
「仲直りってほど仲良くねぇよ」
 ヴィルヘルムさんも、根がとてもいい人なのだろう。だから、リュカに言ったことも気にしているのだ。
 なら、少し傲慢かもしれないが、2人が仲良くなれば良いと思う。伊藤が言った通り、いいライバルになるはずだ。
「それに、ヴィルヘルムさんのは、本当に便利だと思っているんです。だから、自信がなくなったり、つらくなった時は、僕が褒めます」
 ヴィルヘルムさんは、一瞬ポカンとした。それから、照れ臭そうに笑った。
「俺、いい弟分ができたわ」
「弟分にはなってないです」
「もっと砕けてもいいんだぜ?」
 そう言って、わしゃわしゃと僕の頭を撫でる。僕は、不機嫌な目線を彼に送った。
「…僕はそこまで子どもじゃないよ、ヴィル」
 ヴィルの笑い声が、2人きりの店内に微かに響いた。

第4話 #7 ( No.24 )
日時: 2021/04/11 21:40
名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014

 しばらくして、少し目を腫らしたリュカが、紙袋を両手に抱えて帰ってきた。
「リュカ、それ何?」
「明日作るやつの材料。明日のは、ぜっったいにアラタも気にいるから!」
 そう言って、隣の伊藤に視線を送る。伊藤も笑顔で頷いた。
 それから、ビシッとヴィルに指を指す。指した方の手で持っていた袋が落ちて、中身が床に転がった。
「調子乗んなよ、ヴィルヘルム!こう見えてボクは、天才なんだからな!あんたに、認めさせてやる!」
 転がった袋の中身を、リュカが丁寧に拾っていった。
 全て拾い終わる時に、ふとリュカが手をを止めた。チラリとヴィルに目線をやる。
「…あんなこと言ったけど、ボクだってすごいって思ってるんだからな」
 ヴィルは、驚いた顔でリュカを見た。それから、ニッと笑った。
「俺からしたら、おまえはまだまだだけどな」
「ふざけんな!そこは褒めるところでしょ!?」
 取っ組み合いを始める2人を見て、伊藤が微笑ましそうに目を細めた。
「やっぱりあの2人、いいライバルだね。」
「どうなることかと思ったけどね。あと、伊藤さん。俺はそんなに手荒れしてない。」
 不貞腐れて答える僕を尻目に、伊藤は楽しそうに笑っていた。

第5話 #1 ( No.25 )
日時: 2021/04/12 10:52
名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014

 穏やかな日差しが、部屋中を包み込んでいる。
 ソファでうとうととしている伊藤とリュカに、ブランケットをかけてやると、僕もソファに腰を落とした。昼食後の温かな日差しは、どうも眠気を誘ってくる。
 慣れというのは怖いと思う。2ヶ月前にここに飛ばされた時は、目に映るもの全てが奇妙で、なんだか恐ろしくすら感じていたのに、今では普通に暮らしている。
 この家は特に落ち着く場所で、少なくとも僕にとっては居心地の良い場所になった。
 向こうも、同じくらい時が経っているのだろうか。それとも、こっちとは時間の流れが違ったりするのだろうか。向こうでは、僕と伊藤はどのように言われているのだろう。ニュースとかになっているのだろうか。
 普段、3人で騒がしく過ごしているぶん、こういう時はグルグルと色々考えてしまう。
「アラタ!邪魔するぜ」
 勢いよく扉が開かれる。入ってきたのは、ヴィルだ。
 あれからよくうちに来るようになった。相変わらず、彼の中で僕はかわいい弟分らしい。なんでも、ずっと弟が欲しかったとか。
 すごい勢いで扉を開いたからか、寝ていた2人も目を覚ました。
「…何?すごくうるさい…」
「あ、ヴィルヘルムさんだ…こんにちは」
 2人とも寝ぼけ眼で、大きなあくびをした。
「お昼はもう済ましちゃったんだ。お茶とお菓子用意するから」
 慌ててキッチンに向かおうとする僕に、ヴィルが声をかける。
「アラタ、5つ頼むぜ」
「5つ?」
 僕と伊藤、リュカ、ヴィルで、用意するのは4つで良いはずだ。キョトンとしている僕遠見て、ヴィルか少し雑に自分の背後を指さす。
「客、連れてきてやったんだよ」
 ヴィルの背後には、中年の女性が1人立っていた。

第5話 #2 ( No.26 )
日時: 2021/04/16 01:25
名前: 夏菊 (ID: SLKx/CAW)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13014

 お客さんの前に淹れたての紅茶を置く。女性はひとくち口に含むと、柔らかく微笑んだ。
「このお茶、とてもいい香りね」
「そうでしょう?アラタはこう見えて、淹れるのが得意なんです」
「こう見えては余計だよ」
 僕はそう言いつつ、瓶からハンドクリームを適量とり、塗る。ヴィルとリュカの対決の4日目の作品だ。リュカの宣言通り、香りも強すぎず、手によく馴染むハンドクリームは、僕のお気に入りになり重宝している。
「それで、どんな依頼なんですか?」
 伊藤の質問に、女性は切なそうに答えた。
「私は孤児でね、ある時おとうさんに拾われたの。おとうさんは子ども好きでね、孤児院のようなものを作ってたのよ。そんなおとうさんに、この間病気が見つかったの」
 女性が苦しそうに俯いた。血は繋がっていなくとも、彼女にとっては大好きな父親だ。
「それで私はおとうさんに聞いたの。何かやり残したことはある?って。そしたら、孫の顔が見たかったって」
 女性は顔を上げて、僕の顔をまじまじとみた。
「あの人も黒髪だった。あなたなら孫のふりができるんじゃない?」
 無茶だ。バレた時に1番傷つくのは、彼女の父だ。
「それはちょっと…」
「あなたたちにしか頼めないの、おとうさんのためにもお願いします」
 女性は深々と頭を下げる。そこまでされてしまうと断ることなど出来なかった。
「わかりました。その依頼受けましょう」


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