ダーク・ファンタジー小説
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- 疾風の神威
- 日時: 2022/05/15 13:35
- 名前: 野良 (ID: JGdWnGzk)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13281
“虚無”。
突如として現れた、人を襲い、食らう、謎の生物。時として他の生物にも化ける。なぜ、どこから現れたのか、誰にもわからない。
“神威団”は、そんな“虚無”たちを殲滅するために結成された。神威団は全団員が、“虚無”を倒すための武器を所持している、政府公認の組織である。
これは彼らが命を懸けて戦った、歴史の1ページである。
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こんにちは、野良です。初めての作品となります。
あらすじの通り、主人公たちが“虚無”を倒し、その謎を解き明かしていく、という物語です。
慣れない投稿で荒削りなところもありますが、よろしくお願いします。
主人公のプロフィールです↓
夜明刹那(17)
水瀬高校の2年生。皐月隊の隊員。武器は黒い大鎌“黒咲”。虚無を抹殺するために神威団に入団。誰に対しても敬語。にこにことほほえみを浮かべていることが多い。基本穏やかな性格だが、敵対者には容赦しない。任務では、常に大鎌を運んだり、振り回したりしているため、意外と筋力がある。常に青いマフラーを巻いている。
~オリキャラを募集してくださった方々~
氷水飴様
roze様
綾音ニコラ様
くれみと様
アリサ様
- Re: 疾風の神威 ( No.22 )
- 日時: 2022/04/16 23:58
- 名前: 野良 (ID: JGdWnGzk)
私の妹は、凪という名前だった。青いマフラーに茶髪がよく似合う、明るくて優しい自慢の妹だった。
両親は、二年前に死んでしまった。出掛けた先で知らない男と揉めて、殺されてしまったのだ。男は国の偉い人の息子で、どう手を回したのか、重い罪には問われなかった。もちろん、再審を何度も訴えた。だが、私の声が届くことはなかった。
__それ以来、私は妹と二人で生きてきた。両親が遺したお金と保険金を使って、なんとか暮らしていた。
あれは、一年前__私が高校一年生の時だった。当時、凪は小学五年生。11歳だった。
「凪、買い物に行ってきますね」
「あ、もうそんな時間?わかった、行ってらっしゃい!」
「ええ。一人で大丈夫ですか?」
「もう、心配性だなぁ…。大丈夫!だって私、もう五年生だよ?」
「ふふっ…。それもそうですね。じゃ、行ってきます」
「うん!行ってらっしゃい!」
私は、あの子の太陽のような笑顔が、何よりも大好きだった。
その日は特売の日だったので、行きつけの店は混んでいて、帰るのが二十分近く遅くなってしまった。
歩いていると、スマホが鳴った。見ると、通知が来ていた。
《水守街道付近に黒い化け物が出現。付近の方はお気をつけください。》
当時は、まだ奴らに“虚無”という名前は無かった。というのも、見られる姿も少数で、被害もごく稀だったからだ。__だから、私は気にとめず、急ぐことをしなかった。
「ただい__…ま…」
何気ない気持ちで家に帰ると、中から嫌な空気が押し寄せてきた。両親の知らせを聞いたときと、同じ空気だ。家の奥から、わずかに黒い靄が溢れ出す。胸騒ぎがして、いつも凪がいるリビングへと向かった。
「…おね…ちゃ…」
「…ぇ…」
私は、絶望した。
凪が、血塗れになって床に倒れていたから。
「凪…!!」
まだ意識はある。だが、呼吸が弱々しい。私に心配をかけたくないのか、凪は衰弱しきった笑みを私に向けていた。
「…おねぇ…ちゃ…だい、じょ…ぶだか、ら…」
「凪、喋ってはいけません…!」
凪を抱き上げ、鞄からタオルを出し、血を止めようと傷口に押し付ける。なのに、血は止まらない。私はすごく焦っていた。大切なものを、なくしたくなかったから。
「どうして…!!」
私たちが、何をしたのだろう。
なぜ、こんなひどい仕打ちばかり受けるのだろう。
私は必死で手を動かした。もう、何も失いたくなかったから。凪は、私に残されたすべてだったから。
「大丈夫、必ず助け__」
彼女が、私の頬に触れた。私は何も言えなかった。その手が、どんどん体温を失っていく。
「…おねぇちゃん…最…後の、わがまま…聞いて、くれる…?」
「…な、凪…駄目ですよ…」
今にも消えそうな声で、凪が私に言う。
「…幸せに、なって…。私、の…分まで…」
私の腕の中で、彼女は冷たくなっていく。その顔は、幸福に満ち溢れた、幸せそうな笑みだった。
最後の力を振り絞るように、凪は言った。
「ありがとう…。ごめんね…」
彼女は息を吐き出して、目を閉じた。
「…凪…?凪!!」
凪は、その後目を開くことは無かった。私はその体を何度も揺さぶった。無駄だと分かっていたが、そうせずにはいられなかった。
「…は、ははっ…」
自嘲するように、乾いた笑いが出る。
__涙をこぼす。
「…あ、あぁ…
うわあ"あぁぁぁあぁぁッ!!」
たった一人の大切な人さえ、守れない。
そんな自分が、憎かった。
――――――――――――――――――――
「…このマフラーは、あの子の形見なんです。あの時の気持ちを、二度と忘れないように」
マフラーを撫で、遠くを見つめる。そんな私を、Dr.ナナは心配そうに見つめた。
「私が選択肢を間違えなければ、妹は死ななかったかもしれないのに」
「…それで、神威団に来たのかい?」
「ええ。あの日から、虚無を根絶やしにすると決めたんです」
Dr.ナナは、それ以上何も言わなかった。早く行かなければ__そう思い、ベッドから出ようとする。彼女が慌てて言う。
「骨にひびが入ってたんだ。無理に動かない方が__」
「いえ、そういうわけにはいきません。…私には、休んでいる暇などないんですから」
「…応急措置はしてあるけど、決して無理はするなよ」
「はい。ありがとうございました」
Dr.ナナに頭を下げ、私は医務室をあとにした。
- Re: 疾風の神威 ( No.23 )
- 日時: 2022/04/23 16:12
- 名前: 野良 (ID: vGUBlT6.)
「あっ…!」
「おや…」
医務室を出ると、杏がいた。私を見て目を丸くし、その後ほっとしたような顔をした。
「良かった、目が覚めたのか…!」
「ええ。…あ」
言いながら、私はあの時のことを思い出し、「あの時は、助けてくれてありがとうございました」と、頭を下げた。杏は照れくさそうに笑うと、首をふった。
「いやいや。仲間を助けるのは、当然のことだろ?」
「ふふっ…。…そういえば、先輩たちはどこへ?」
「ああ、先輩たちは談話室で休んでるよ。お前が起きるのを待ってたみたいだから、顔を見せたらどうだ?」
「ええ。そうします」
そう聞かされた私は、杏と共に談話室へ向かった。
――――――――――――
「あ、刹那ぁ!」
「夜明!」
談話室に入るや、先輩は立ち上がり、佐助は駆け寄ってきた。「もう動いていいのかよ?」と訊いてきたので、笑ってうなずいてみせる。
「そっか…。べ、別に心配だったわけじゃねーからな?」
「…素直じゃないな…」
「先輩、何か言いました!?」
「あー言ってねえよ。…まあ、お前なら大丈夫じゃないかって、なんとなく思ってたけどさ」
その言葉と裏腹に、まだ不安が顔に残っているように見える。だが、先輩にそう言ってもらえるのは光栄だ。安心させたくて、私はほほえんでみせた。
「そういえば、刹那の様子を見に行く時に見たことない人がいたな」
「見たことない人?」
「ああ。赤髪に緑色の目の人だ。団服を着てたから、多分団員の人じゃないか?」
「…赤髪に緑眼?」
杏の言葉に、先輩が反応した。
「え、あ、はい。誰か探してる感じで__」
ガチャ
杏が言い終わらない内に、突然扉が開いて、男の人が入ってきた。その人は部屋の中を見回して、先輩を見ると嬉しそうな顔をした。
「__なんや、ここにおったんか」
「え?」
その人の口から出た言葉は、のんびりとした京都弁だった。びっくりしている私、杏、佐助にほほえんで、「ああ、僕のことは気にせんでええよ」と言う。目線は先輩の方を向いている。一方で、先輩も驚いているようだった。
「元気やったか、“兄弟”?」
「「「き、兄弟!?」」」
彼の言葉に、私たち三人の声が重なる。驚いた。先輩に兄弟がいるなんて、聞いたことがなかった。だが、先輩は慌てて訂正した。
「あー違う違う!そういう血縁的な兄弟じゃなくて…」
「パートナー、やろ?」
「あー、んー…まあ、分かりやすく言えばそういうことだ」
赤髪の人は、八重歯を見せてにっと笑った。そして、思い出したように言った。
「ああ、自己紹介がまだやったな。僕は溝呂木交喙。君らの先輩で、皐月隊の副隊長や。よろしゅうな」
「ふ、副隊長…!?」
「そや。まー色々事情があって、これまで顔は出せへんかったけどな」
「素直に重傷負ってたって言えよ…」
色々不思議なところのある人だ。人当たりは良いのだろうが、どこか飄々としている気がする。好奇心を隠しきれていない佐助が、「武器ってなに使うんスか?」と訊く。
「あー、武器なぁ。僕が使うんは、コンパウンドボウの“荒鷲”や」
「コンパクト棒?」
「佐助…コンパクト棒じゃなくて、コンパウンドボウですよ」
「そや。見るか?」
そう言うと、溝呂木先輩は武器を出現させ、見せてくれた。ブン、と音がして、黒と鳶色の弓が現れた。よく見てみると、赤いお守りがついている。弓に関しては素人の私が見ても、かなり重そうな弓だ。
「僕の“荒鷲”には、照準器、レーザー照射器、無線リモコンやら、色んなカスタマイズがされてるんや。最大で、矢を9本添えての発射なんかもできんで」
「すっげー!」
「その弓…何キロあるんですか?」
「んー、何キロやったかなぁ…。“荒鷲”が160ポンドやから…72キロ?」
「ななじゅっ…!?」
度々驚く私たちに、彼は「そないに驚くことかいな」と言う。…驚かない方が不思議だと思うが。
「いいなー!俺もスコープとか欲しい!」
同じ遠距離武器を持つ佐助は、きらきらと目を輝かせている。溝呂木先輩は、八重歯を見せて笑った。
「んじゃ、僕のことはここまで。君らのこと教えてくれへん?」
「えー、と…。一年、夜明刹那です。よろしくお願いします」
「男虎佐助!よろしくおなしゃす!」
「碓氷杏です。よろしくお願いします」
私たちが自己紹介すると、溝呂木先輩は笑って、「よろしゅうな」と言った。
「…ま、色々つかみどころのない奴だけど、言うこと聞いてやってくれよ」
「兄弟から君らのことは聞いとったでー。ま、僕も副隊長として頑張るわ」
緑色の目を細めて、溝呂木先輩は笑って言った。
- Re: 疾風の神威 ( No.24 )
- 日時: 2022/05/05 13:07
- 名前: 野良 (ID: JGdWnGzk)
「そんで…君ら、こないな場所で何しとったん?」
溝呂木先輩が不思議そうに訊いてきた。私自身も疑問に思っていた。
「ああ、夜明が起きるまで待ってたんだ。団長にまだ報告してないからな」
皐月先輩が言うと、溝呂木先輩は、ちょうどいい、と言いたげに笑った。
「ちょうど良かったわ。僕も戻ったこと団長に報告してへんかったさかい、一緒に行くわ」
ということで、私たちは団長の元へ向かうのだった。
――――――――――――――――――――――
コンコン
「団長、柚月です。報告が遅れてしまいすみません。入ってもよろしいですか?」
部屋の扉をノックし、先輩がそう呼びかける。数秒の後、「ああ、いいぞ」と声がした。いつもはすぐに返ってくるのに、誰かと話でもしていたのだろうか?
「失礼しま…す…?」
部屋に入った瞬間、皐月先輩は驚いたような顔をした。無論、私たちも驚いた。団長の他に、久しぶりに見る、彼の姿があったからだ。
「ゼロ…!」
そう呼ぶと、彼は振り返った。いつもと変わらない微笑みを浮かべている。
「…久しぶり…」
数秒の沈黙の後、彼はそう言った。皐月先輩と溝呂木先輩が、不思議そうに言う。
「え?君ら、知り合いなん?」
「それ、俺も思った。こいつ誰なんだよ?」
「…」
ゼロは黙ってしまう。彼は昔のことが原因で、ほとんど喋ることができない。それを知っている私は、代わりに説明した。
「彼は…ゼロといいます。私たちの同級生です。本名は“春川れい”といいますが、私たちは“ゼロ”と呼んでいます」
「…え?“彼”って…君、男の子なん?」
「…」
私の説明に、ゼロはこくんと頷いた。佐助が嬉しそうに言う。
「ひっさしぶりだなぁ!今までどうしてたんだよ?」
「…特訓…」
ゼロはそう言った。どうやら長い間、特訓に言っていたらしい。彼は任務に対する意識が強い。おそらくそのためだろう。
「ゼロは別の隊に属してるよ。…それで、柚月。報告に来たんだろう?」
団長にそう言われ、皐月先輩がハッとする。私たちもすっかり忘れていた。
「えっと、隣町の虚無は、全て討伐しました。まだ、大量発生した虚無のことは、わかってません。…それと、途中で予想外のことが…」
「…それは、私の口から話します」
先輩に代わり、私が口を開く。
「…逃げ遅れた避難者の、ゆりという女の子を、あの時安全な場所へ隠そうとしていました。しかし、私が先輩たちのもとへ向かおうとした時、異変が起きたんです」
「異変…?」
「はい。…彼女の体が黒い靄に包まれ、虚無のように変貌を遂げたんです。そして、彼女と戦闘になり、私は傷を負いました。…杏や先輩たちが来てくれなければ、私はとっくに死んでいた」
「…まさか、奴らは…」
私が説明を終えると、団長は何か考え込んだ。私たちは、団長の言葉を待っていた。
その時だった。
「__“他の生物に化ける”__それこそが、奴らの能力ですよ」
「!?」
男性の声が聞こえた。驚いて振り返ると、そこにいたのは、
「お初にお目にかかります、神威団の皆様」
三人の男性だった。一人目は、白髪に右目に包帯を巻いた糸目の人。二人目は、灰色の髪に紫目の男性。三人目は、水色っぽい白髪に灰色目の少年。いずれも、水瀬警察署の制服を着ていて、右胸に金色のバッジをつけている。
「お、お前ら、誰だ…!」
佐助が警戒して牙を向く。白髪の男性はクスッと笑い、「そう警戒なさらないでくださいよ」と言った。
「私、水瀬警察署虚無対策部の風見氷室と申します」
「俺は楪恵斗。よろしく」
白髪の人と灰色の髪の人は名乗ったが、少年は黙っている。少年に向けて、白髪の人は言った。
「紗羅、自己紹介を」
彼の言葉に、少年は反応した。
「…命令を承諾。…紗羅といいます。僕は対虚無用として創られたアンドロイドです。よろしくお願いいたします」
本当に、彼はアンドロイドなのだろうか。どこからどう見ても、普通の人間にしか見えない。
「虚無対策部って…こないだニュースでやってたやつ…?」
「その通り。主に私が指揮を執っています」
風見さんが笑って言う。いい人そうだが、なぜ警察が神威団へやって来たのだろう。
「団員たちにはまだ話してなかったな。これから、虚無対策部と連携してやっていこうって話になったんだ」
団長の説明に、みんな驚いている。それもそうだろう。神威団と警察、といえば、仲の悪いイメージしかないのだから。
「…急、ですね…」
ゼロが呟いた。確かに、なぜ今までいがみ合っていたのに、急に連携などという話になったのだろう。風見さんが説明した。
「昨今、虚無の数は増えるばかりです。それにともない多くの命が奪われているのに、いつまでもいがみ合っている訳にはいかないでしょう?」
いがみ合っている訳には、なんて理由、今更すぎると思うが。まあでも、何にせよ戦力がアップするのは良いことだ。
ふと思い出したことを、私は訊いてみた。
「虚無が他の生物に化ける、という話…詳しくお聞かせ願えませんか?」
「もちろん。お話ししましょう」
風見さんは微笑んで頷いた。
- Re: 疾風の神威 ( No.25 )
- 日時: 2022/05/12 12:30
- 名前: 野良 (ID: Oiud.vUl)
「まず…ゆりという女の子のこと、ナナさんから聞きました。何でも、突然虚無へと変貌を遂げたとか」
「はい」
「そこで、その子の事を紗羅に調べてもらいました。…ゆりさんは、一ヶ月前から行方不明になっていたようです」
「…行方不明?」
一ヶ月前と言ったら、もう既に虚無の被害が多発している時期だ。彼女は虚無に襲われたのだろうか。だとしても、なぜ虚無がゆりさんに化けるのだろう。
「それって、虚無に殺られたんですか?」
私が訊くと、風見さんは首を振った。
「さあ…遺体も、遺品も発見されていませんので。死んだとも、生きているとも明言できません」
「…そう、なんですか」
「ですが、奴らが他の生物に化けるというのは、確かな情報かと。近頃、傷害や殺人事件なども多発しているのですが…その多くの目撃情報に、“黒い靄”があるんです」
「それって、もしかして…」
杏の言葉に、風見さんは「ええ」と頷いた。
「人間に化けた虚無、ですよ。…奴らが人に化け、罪無き人を襲っている。そして多くが、被害者と関係を持つ人間に化けているんです。
恐らく刹那さんの場合、あなたとは何の関係も無く、ただ襲いたかった、もしくは食料としたかっただけでしょう」
そう言い終わると、風見さんは私たちをじっと見据えた。さっきまでの穏やかな雰囲気はどこへやら、微笑んではいるが、上手く感情が読み取れない。
風見さんは、笑い飛ばすようにクスッと笑った。
「虚無をずっと相手にしている皆様のことですから、これくらいのことは分かっているのだとばかり思っていましたよ」
「「「「…は?」」」」
そう言われ、私たちは思わず声を出した。警察署の人にしてはいい人そうだと思っていたのに。
「…マスター、そろそろお時間です」
紗羅にそう言われると、風見さんは「もうそんな時間ですか?」と言って、私たちに笑みを向けた。
「残念ながら、ここでお暇しなければならないようです。…では、これからよろしくお願いいたしますね」
そう言うと、彼は部屋を出ていった。
と思ったら、黒髪の男性__楪さんが、私たちに寄ってきた。
「ごめん、気を悪くさせちゃったかな」
そう言ってきたので、私たちは驚いて首を振る。楪さんは、困ったように笑った。
「なら良いんだけど…。上の人からの指示とか、色々キツくてね。風見さんも、別に君たちのことが嫌いだからああ言ってる訳じゃないんだ。あの人も必死なんだよ」
「…なら、良いですけど」
楪さんは申し訳なさそうに苦笑いして、「じゃ、またね」と言って、部屋を出ていった。
――――――――――――――――
「…チッ。なんだ、あいつら」
彼らがいなくなった後、佐助が舌打ちをしてそう言った。さすがの私も、少々不愉快だ。
「なんか、けったいな人やな。ころころ雰囲気変わって…」
「あれって、本当に協力する気あるんですかね…」
口々にそう言って、顔を渋らせる。急に協力しよう、何て言ってきた時点で、信用する気は無かったが…まさかあそこまで煽ってくるとは思わなかった。
「…団長は…あの人たちを、信用しているんですか」
ゼロが訊くと、団長も困ったような顔をした。
「…信用は、まだしてない。あくまで利害の一致だからな」
「…それ、大丈夫なんですか?」
「断言はできない。だが、虚無が増え続ける今、追い払う訳にはいかない」
そんな団長の言葉に、私たちは不安を覚えるのだった。
- Re: 疾風の神威 ( No.26 )
- 日時: 2022/05/19 22:30
- 名前: 野良 (ID: JGdWnGzk)
「んだよあいつら…!」
解散して本部を出てからも、佐助はまだ怒っていた。佐助は怒りっぽいので、余計気が立っているのだろう。
「まともな奴らかと思ってたのに、急に態度変えやがって…。あいつら協力する気あんのかよ!」
「団長の言うことだから、何か考えてることがあるんじゃないか?」
杏がそう言うも、佐助はなおも不満そうにしている。そりゃそうだろうとは思う。協力だの連携だのと言っておきながら、あの言い方。私だってまだ腑に落ちない。
「だから俺は嫌だっ__」
ガサガサッ
佐助がそう言った瞬間、道脇の植え込みが揺れて、何かが飛び出してきた。
「うぉわっ!?」
「な"ぁお~」
飛び出してきたのは、ただの猫だった。こっちを一瞥すると、すぐに走り去ってしまった。だが、驚くのはこの後である。
「…あれー…?行っちゃったかなぁ…」
猫に続いて、白い長髪の少女が出てきた。水瀬高の制服を着ているが、植え込みから出てきたせいで、あちこち葉っぱが付いている。
私たちは、彼女を知っていた。
「…あれ、夜明ちゃん?」
「凍玻璃さん…!?」
私たちが驚くと、彼女は「奇遇だねー」と手を振った。顔は相変わらずの無表情である。
凍玻璃雪娜。それが彼女の名前だ。仲は良いが、名前が同じなので、お互い苗字で呼びあっている。
「びっくりしたー…!お前どっから出てきてんだよ」
「…えー…?植え込みだけど…」
「んなの分かるっての!」
「…相変わらずぽーっとしてるな…」
凍玻璃さんは、いつも不思議な雰囲気を醸し出している。初めての時は戸惑いはしたが、今は和ませられる。
「…あ、そうだ。夜明ちゃんたちに朗報だよー。団長さんが、一週間休暇とって良いよーって」
「え、マジ!?」
真っ先に食いついたのは、佐助だった。任務の時は生き生きしているくせに、切り替えが早すぎる。凍玻璃さん曰く、団長は私たちが動きっぱなしだったのを案じてくれたそうだ。
「よっしゃー!じゃ、明日学校終わりにどっか行こーぜ!」
「それは良いな」
「ええ。…ですが、代わりは一体どの隊が…?」
私がそう言うと、凍玻璃さんが胸を張った。無表情で分かりづらいが、自信のようなものを感じる。
「皐月隊の代わりは、私たち“凍玻璃隊”が努めるよ」
そう言う彼女の言葉は、決して伊達ではない。凍玻璃さんは、私たちと同い年なのに隊長を務めている、凄い人なのだ。
「それは安心ですね」
「お前は強いもんなぁ」
「うん。…だから、任せてよ」
警察との一件で曇っていた私の心は、彼女のお陰で少し落ち着いた。