二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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ポケットモンスターBW *道標の灯火*
日時: 2020/09/15 16:16
名前: 霧火# (ID: HEG2uMET)

初めまして、霧火と申します。

昔からポケモンが好きで、今回小説を書こうと思いました。
舞台はポケットモンスターブラック・ホワイトの世界です…と言っても舞台はゲーム通り
イッシュ地方ですが、時間軸はゲームの【数年前】でオリジナル・捏造の要素が強いです。
そして、別地方のポケモンも登場します。Nとゲーチスは出ないかもしれません(予定)。


!注意事項!
   ↓
1.本作のメインキャラは【最強】ではありません。負ける事も多く悩んだりもします。
2.書く人間がお馬鹿なので、天才キャラは作れません。なんちゃって天才キャラは居ます。
3.バトル描写や台詞が長いので、とんとん拍子にバトルは進みません。バトルの流れは
 ゲーム<アニメ寄りで、地形を利用したり攻撃を「躱せ」で避けたりします。
4.文才がない上にアイデアが浮かぶのも書くペースも遅いため、亀先輩に土下座するくらい
 超鈍足更新です。
 3〜4ヵ月に1話更新出来たら良い方で、その時の状態により6ヵ月〜1年掛かる事があります。
 申し訳ありません。


新しいタイトルが発表されてポケモン世界が広がる中、BWの小説は需要無いかもしれませんが
1人でも多くの人に「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえるよう精進致しますので、
読んでいただけたら有り難いです。

**コメントをくれたお客様**

白黒さん パーセンターさん プツ男さん シエルさん
もろっちさん 火矢 八重さん かのさん さーちゃんさん

有り難うございます。小説を書く励みになります++


登場人物(※ネタバレが多いのでご注意下さい)
>>77

出会い・旅立ち編
>>1 >>4 >>6 >>7 >>8 >>12 >>15
サンヨウシティ
>>20 >>21 >>22 >>23
vsプラズマ団
>>26 >>29 >>30 >>31
シッポウシティ
>>34 >>35 >>39 >>40 >>43 >>46 >>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>55 >>56
ヒウンシティ
>>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71 >>72 >>75 >>76 >>78 >>79
ライモンシティ
>>80 >>82 >>83 >>88 >>89 >>90 >>91 >>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>106 >>116 >>121 >>122 >>123 >>126 >>127 >>128 >>130 >>131 >>134 >>137 >>138 >>141 >>142 >>143 >>144 >>145 >>148
>>149 >>150 >>151
修行編
>>152 >>153 >>155 >>156 >>157 >>160 >>163 >>166 >>167 >>168 >>169 >>170 >>171 >>173 >>174 >>175 >>176 >>177 >>178 >>180 >>182 >>183
>>185 >>187


番外編(敵side)
>>188

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Re: 39章 リオvsアーティ⑤ ( No.76 )
日時: 2018/02/13 16:06
名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)


「ヒトモシ、戦闘不能!ハハコモリの勝ち!」

リオはヒトモシに近付き、傷ついた身体を抱き上げる。
自分の身体が浮いた事に気付いたヒトモシは、ゆっくりと目を開け、申し訳なさそうにリオを見る。


『モシ…』
「ヒトモシ、貴女はよく頑張ってくれたわ。戻ってゆっくり休んで」

ヒトモシをボールに戻し、リオはアーティに向き直る。


「最後は貴女に任せるわ…バルチャイ!」


リオの最後のポケモン──バルチャイを繰り出す。
アーティはハハコモリとバルチャイを交互に見て、口を開く。


「お互い手持ちは1体。この戦いも、いよいよ大詰めだね」
「そうですね…でも、私は最後まで諦めません。勝つのは私達です!」
「その意気だよリオちゃん。ボク達も全力で挑ませてもらうよ──ハハコモリ、糸を吐く!」

ハハコモリは口から糸を出すと輪を作り、素早くバルチャイ目掛けて投げる。
カウボーイのような見事な縄…否、糸捌きだ。


「バルチャイ、風起こし!」

バルチャイは飛んで来た糸を空高く飛ぶ事で躱すと、翼を羽撃かせて強風を巻き起こし、
ハハコモリにダメージを与える。


「葉っぱカッター!」

風が止んだ事を確認し、ハハコモリは無数の葉を飛ばす。
翼を顔の前で交差させて攻撃に耐えるバルチャイ。
効果は今一つだが、先端が尖った葉は、確実にバルチャイの身体に傷を付けていく。


「バルチャイ!」

ハハコモリの猛攻に押されかけたバルチャイだが、リオの声に飛んで来た葉を翼で叩き落とすと、
安心させるように片方の翼を上げる。


「まだ…行けるの?」

こくり、と頷いたバルチャイを信じ、リオは攻撃を仕掛ける。


「分かったわバルチャイ!乱れ突きで反撃よ!」

バルチャイは上昇、下降、遠回りに飛んだりしてハハコモリを翻弄し、鋭い嘴を減り込ませる。


(この子は元々特攻が低い。今覚えている《風起こし》は特殊技──いくら効果抜群とはいえ、
この技でハハコモリを打破するのは難しい…それなら物理技で勝負に出た方が勝算はある)


4回目の攻撃が終わるとバルチャイは距離を取るため上昇する。


「逃がさないよ!足に掴まるんだ!」

ハハコモリの頭上から1m上を飛んでいたバルチャイだったが、元々身長が1.2mあるハハコモリ。
ジャンプする事でハハコモリは一気に接近し、バルチャイは片足を掴まれてしまった。


「なっ…!振り落として!」

バルチャイはハハコモリを振り落とそうと必死に飛び回るが、自分より体重が2倍以上あるポケモンに
足を掴まれているため、疲労が溜まり始めていた。


「リーフブレード!」

それを見過ごさず、ハハコモリは片腕の葉を伸ばしてバルチャイを斬りつける。
攻撃を受けた事で自身の足を掴んでいた手が離れ、なんとかハハコモリから解放されたが、
既にバルチャイは満身創痍だった。


「バルチャイ、羽休め!」

バルチャイはフィールドに降り立ち、翼を畳む。
一見するとただ休んでいるだけに見えるが、この技は最大HPの半分のHPを回復する技だ。

リオは態勢を立て直すため、この技を指示した。
アーティはそんなリオと、翼を畳んでいるバルチャイを見て──静かに笑った。


「虫の抵抗!」

小さな虫達がバルチャイに向かう。


(悪タイプだけど、飛行タイプも併せ持つバルチャイには虫タイプの技はそんなに効かない)


そう思ったリオは慌てなかった。


「…?風起こし!」

しかし虫達に集られ表情を歪めたバルチャイに、嫌な予感がして指示を出す。
バルチャイは風の力で虫を引き剥がしたが、疲れはいまいち取れていないように見える。


「何で…!?虫タイプの技が、こんなに効くなんて…」
「《羽休め》は回復技でもあるけど、使用したその時だけ飛行タイプじゃなくなるんだ。
 つまり、タイプが〈悪〉だけになったバルチャイに、虫タイプの技は効果抜群というわけさ」


(どうやら回復技という事しか理解してなかったようだね)


目に見えて驚いているリオにアーティは1人で納得する。


「…そうだったんですか。でも、さっきより体力が回復した事は事実です!バルチャイ、飛んで!」

バルチャイは翼を広げ、上昇する。


「よし!そのまま突っ込んで!」

天井近くまで到達していたバルチャイは翼を少しだけ折り畳むと、一気に急降下する。
そして地面スレスレで体勢を立て直し、ハハコモリに真正面から接近する。


「正面から来るとはね…!リーフブレードで迎撃だ!!」

ハハコモリは地を蹴り、両腕の葉を伸ばして斬りつける。
骨に覆われてない脆い場所──顔面を狙って。


しかし、


「『!?』」

《リーフブレード》が直撃する瞬間、バルチャイは身を翻して軌道を変え、ハハコモリの背後に回り込んだ。


(しまった!この技は──)


「騙し討ち!!」

前のめりになったハハコモリの背中を、翼で殴りつける。
直前でこんな動きをされるとは思ってなかったハハコモリは完全に油断していて。
バルチャイの渾身の攻撃をその細い背中に喰らい、地面に倒れる。


「立つんだハハコモリ!」

片足と片腕を突っ張り、なんとか起き上がろうとするハハコモリ。
自分を見下ろすバルチャイと視線が絡み合う。


そして──体を支えていた片腕がパタリ、と倒れたと同時に、ハハコモリの身体が崩れ落ちた。


「ハハコモリ、戦闘不能!バルチャイの勝ち!よって勝者は……チャレンジャー・リオ!」


試合終了を意味する審判の声がした後も、暫く固まっていたリオとアーティ。
先に動いたのはアーティだった。


「…ありがとうハハコモリ。キミの流れるような美しい攻撃の数々、ボクは更にキミを…虫ポケモンが
 好きになったよ。ゆっくり休んでいてくれ」

ハハコモリをボールを戻し、バルチャイとリオに近付く。


「おめでとうリオちゃん」
「アーティさん…」

実感が湧かないのか、ゆるゆると顔を上げたリオに微笑む。


「キミとポケモン達の友情、根性ハートには恐れ入ったよ。ボクに勝った証として
 このビートルバッジを受け取ってくれ」


手を取って掌に黄緑色に光り輝くバッジを置くと、リオは何回か瞬きして、やがて目を輝かせた。


「ありがとうございます!」


虫ポケモンを見つけた時の自分と同じ顔をして礼を言う少女に、アーティは心が温かくなるのだった。



リオvsアーティは、リオの勝利で幕を閉じました。
正直…かなり長かったですね。執筆している本人も、こんなに長くなるとは思わなかったり←
キレ者(?)同士のバトルという事で力を入れたんですが、リオはあまり頭を使ってない上、
終わりは呆気ないですね……反省せねば。

Re: 登場人物(随時追加・変更) ( No.77 )
日時: 2018/02/03 21:06
名前: 霧火 (ID: h4O0R2gc)

リオ 女 >>41
本作のメインキャラ。主に彼女にスポットライトを当てて物語が進む。

アキラ 男 >>42
リオの幼馴染で親友。

マオ 女 >>59
リオの姉。

リマ 女 >>60
リオとマオの母親。

ムトー 男 >>61
リマの父親でリオの祖父。

ハジ 男
アキラの祖父。育て屋。

ハツ 女
アキラの祖母。育て屋。

サパス 男
プラズマ団の1人。マアトと行動する事が多い。

マアト 男
プラズマ団の1人。サパスと行動する事が多い。

レイド 男
ポケモントレーナー。

デント 男
サンヨウジム・ジムリーダー。草タイプのポケモンを使う。

コーン 男
サンヨウジム・ジムリーダー。水タイプのポケモンを使う。

ポッド 男
サンヨウジム・ジムリーダー。炎タイプのポケモンを使う。

アロエ 女
シッポウジム・ジムリーダー。ノーマルタイプのポケモンを使う。

アーティ 男
ヒウンジム・ジムリーダー。虫タイプのポケモンを使う。

Re: 40章 休息 ( No.78 )
日時: 2020/09/07 23:25
名前: 霧火 (ID: HEG2uMET)

ジム戦を終えたリオとアーティは、傷付いたポケモン達をジョーイさんに預け、
今は回復待ちと渇いた喉を潤すため【噴水広場】のベンチに座って飲み物を飲んでいた。

「リオちゃんはこの後どうするんだい?」

缶コーヒー片手に尋ねたアーティに、リオは飲んでいたサイコソーダから口を離す。

「今日はもうポケモンセンターに戻って休みます。明日はこの街を観光して、出発するのは
 明後日にしようと思います」

(最近バトル続きで皆も疲れてるだろうし、ヒトモシ達を休ませてあげられる良い機会だわ)

立ち上がり、腰に手を当てて男らしく一気にサイコソーダを飲み干して(それにアーティが目を剥いたのを、リオは知らない)、ライブキャスターを取り出す。

「あ、もうこんな時間。私、そろそろヒトモシ達を迎えに行きます。アーティさんは?」
「ボクはもう少し──そうだ。待ってリオちゃん」

立ち上がったリオの手を掴む。
リオは疑問符を浮かべ、ベンチに座っているアーティを見下ろす。

「ボクのジムにある、あの蜜の壁。やっぱり改良した方が良いかな?」
「うーん。蜜の壁を突き破るなんて滅多に味わえない貴重な体験で面白いし、ハチミツから
 虫ポケモンを連想出来て、いかにも虫タイプのジムらしくて良いと思うので、個人的には改良は
 必要無いと思うんですけど、他の挑戦者──特に女の人がどう思うか……あ、全ての女性が
 嫌がるとは言いませんよ?魅力的なジムだし気に入る挑戦者も居ると思います!」
「そ、そっか」

自分の意見を語った後に力強くフォローしたリオからアーティはそっと目を逸らす。
キラキラと輝く満面の笑顔で嬉しくなる様な事を言ってくれたリオに悟られぬ様に、アーティは
喜びでだらしなく緩んだ口を缶コーヒーを飲むフリをして隠す。
リオはと言うとアーティの僅かな変化に気付かず、缶を缶用ゴミ箱に捨てていた。
それにホッと息を吐き、リオが戻って来たタイミングでアーティは口を開いた。

「うん、リオちゃんの言葉は嬉しいけど……そうだよねえ。挑戦者が減っても困るから、本物の
 蜜じゃなくて何か別の——例えば、ローヤルゼリーの壁にしようかな」
「あ、それ、良いと思います!」
「そう?じゃあ、帰ったら早速ジム内装のデザインを変えないとね」
「Σ決断すんの早っ!!」
「はははっ」

悩みが解決したのか、アーティはいつも通り爽やかに笑う。

「引き止めて悪かったね。ボクはもう少し休んでからポケモンセンターに向かうよ」
「そうですか?それじゃあ、お先に失礼します!」

ぺこり、と頭を下げてリオはにっこり笑うとポケモンセンターに向かって歩き始める。
そんなリオの背中を、アーティは目を細めながら見続ける。

(彼女は年齢にそぐわない洞察力を持っている。そしてボク達ジムリーダーにも思い付かない様な
戦略と、強運を持っている)

アーティはアロエ戦で見せた相手の先入観を利用したリオの戦略とヒトモシが出した《煉獄》、
そして今日の自分との戦いを振り返る。

(今はまだ子供で知らない事も多いけど、これから先バトルの知識と経験を重ねれば


──彼女は化けるぞ)


そう考えたら震えが止まらなかった。
恐怖ではなく、それは歓喜に似ていた。
未知なる虫ポケモンに出会った時の様な、そんな感覚だった。

「……キラキラしてるなあ」

いつの間にかリオの背中を見続けるアーティの視線は熱く、それこそ蜜が蕩ける様な甘い甘い物へと
変わっていた。
そんな視線の変化に、向ける方も向けられる方も最後まで気付く事は無かった。


 ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼


数分後……


「あの、ジョーイさん。今日も泊まって行って大丈夫ですか?」
「勿論良いですよ!じゃあ、部屋の鍵を渡しておきますね」

ポケモンセンターに戻って来たリオはヒトモシ達のボールと〈33〉と書かれた客室の鍵を受け取り、
部屋に向かって歩いていた。

「33号室は、と……あった、ここね」

指定された部屋に入って鍵を掛ける。
ボールを机の上に置き、リュックと脱いだパーカーを椅子の背凭れに掛けて、ベッドの上に寝転がる。

「おやすみ、皆……」

小さく欠伸をして、リオは深い眠りへと堕ちて行った。


 ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼   ┼


次の日。

リオは33号室でヒトモシ達をボールから出し、お互い街の人に迷惑を掛けない様に注意しようと
誓い合ってから、ヒトモシ達と共にヒウンシティを観光していた。
1日10食限定のヒウン名物・ヒウンアイスを皆で分け合って食べたり、マッサージを受けに行ったり、
カフェでミックスオレを貰ったり……

リオ達は、久々に羽を伸ばして観光を楽しんでいた。

「色んな絵があるのねー……」

そして今リオ達が居るのは、様々な絵が飾ってある【アトリエヒウン】という建物だ。

「オー!!」
「!?」

絵を見て歩いていると、ヒウンジムのヨウスケ達と同じ格好をした男が早足で近付いて来た。
そして目の前まで来たかと思えば、急にヒトモシを抱き上げた。

「なっ、何ですか!?」

驚きで硬直するヒトモシを男の手から救い出し、抱き締める。
チラーミィ達も、怪しさの塊の様な男に敵意を向ける──が、男は突き刺さる視線を物ともせず
ヒトモシを見つめる。

「んー、良いね!インスパイアされるよ!」
「飲……酸っぱいや?」

聞き慣れない単語に首を傾げていると、男が喋り始めた。

「あ、急にごめんねー!ミーはちょいと絵を嗜んでいるんだけど、今日は炎タイプのポケモンを描きたい!
 そう思っていた所にきみが来たから、つい興奮しちゃった!」
「は、はぁ」

早口で捲し立てる男にリオは相槌を打つ事しか出来ない。

「そこでお願い!絵を描くのに、きみのヒトモシをちょいと借りたいよ!」

ずいっと迫って来た男に、リオは目を泳がせる。
リオは誰に対しても動じなそうに見えて、実はこういう押しが強い相手には弱かったりする。
付き合いの長さからか、何故か幼馴染の押しには全く屈しないが。

暫く顔を背けていたリオだったが、遂に折れた。

「……分かりました。じゃあ、絵を描き終わるまでここで待ってます」
「うーん。それはちょっと無理よ!」

まさかの却下にリオは目を丸くする。

「静かにしてても無理ですか?」
「ミーと同じ芸術家に見られるなら兎も角、モデルのポケモンのトレーナーさんに近くで見られてたら、
 何だか落ち着かないね!1時間……いや、30分で完成させるから、それまで外で待っててほしいねー」
「で、でもヒトモシ1人を残して行くのは……」
「話は聞かせて貰ったよリオちゃん」
「Σアーティさん!?」

入り口の壁に寄り掛かり優し気な眼差しでリオを見ていたのは、ジムリーダーであると同時に
芸術家でもあるアーティだった。

「昨日ぶりだね。ヒウンシティを堪能しているかい?」
「あ、はい。とても広くて充実してるから皆と楽しんでます。アーティさんはいつからそこに?」
「リオちゃんがそこの彼の熱意に折れた辺り。ボクは気分転換で此処に来たんだけど、」

アーティがリオの前に立ち、リオの顔をじっと見つめる。
リオもじっとアーティの顔を見つめていたら、包み込む様にアーティに手を握られた。

「まさかリオちゃんが居るとは思わなかった。会えて嬉しいよ」
「ありがとうございます。私も会えて嬉しいです」

本当に嬉しそうに笑うアーティにリオも嬉しくなる。

(私みたいな子供にも優しくしてくれるし、本当にジムリーダーの人達は素敵な人ばかりだわ)

「あの、トレーナーさん。そろそろ外に出て貰っても?」
「ヒトモシの事は心配いらないよん。ボクが責任を持って見守っているからね」

笑顔で親指を突き出したアーティに、リオは安心して頷いた。



「今から30分か……」

じっとしているのは性に合わないので、絵が完成するまで外で過ごす事にしたリオ。
現在の時刻を確認する為にライブキャスターを手に取る。

「あれ?」

リオは目を瞬かせる。
昨日までは普通に機能していたライブキャスターの画面が灰色に染まり、壊れたテレビの様に
ノイズが入っていたからだ。

「電波が悪いのかしら?」

リオはキョロキョロと街を見渡す。
何人かトレーナーが通り過ぎたが彼等のライブキャスターは正常で、ポケモンセンターの上に
設置されている大型テレビの映像も乱れていない。

(故障?でもコレ、10歳の誕生日にお母さんに買ってもらった新品……)

どうしたものかとリオが溜め息を吐いた時、南側のゲートから叫び声が上がった。


「ヒトモシと、ライブキャスターの事が気掛かりだけど——行ってみよう!」

リオは声のした方に向かって走った。

Re: 41章 劔と少女 ( No.79 )
日時: 2018/02/13 16:16
名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)


ヒウンシティ・南ゲート。
そこで、奇妙な追い掛けっこが繰り広げられていた。


「はぁ、はぁ…かっ、返して下さいよぉ〜!」

眼鏡を掛け、長い黒髪を後ろで1つに縛った青年はよれよれの白衣をはためかせ、
前を走る人物を追い掛ける。

途中、通行人にぶつかり嫌な顔をされるが、彼にそれを気にする余裕は無い。


「……。」

人を避けながらもスピードは落とさず、数十m先を走る少女。
しかし疲れたのか、この追い掛けっこに飽きたのか…足を止めて青年を振り返る。
光が差し込まない深海のように青く冷たい目が、青年を射貫く。
感情の無い目に青年は小さく悲鳴を上げるが、勇気を振り絞り、恐る恐る口を開く。


「そ、その子は、ぼぼぼ僕の大切な子なんです!か、返して、下さいっ……」

懇願する青年に、少女は青年から奪ったモンスターボールを見て僅かに眉を動かす。


「…ピーピー五月蝿い。五月蝿いのは、嫌い。」

無表情で、機械のように淡々と言葉を並べる少女。


「イコール、力尽くで黙らせる。」

少女は袖の中からモンスターボールを取り出し、空へと投げる。
光が消え、現れたのは全身が刃物で出来たポケモン──刃物ポケモンのコマタナだ。


「コマタナ。追って来ないように、足を切り落として。」

青年の顔から血の気が引いた。
恐怖で足が竦み、青年はその場にへたり込む。
ゆっくりと近付いて来るコマタナに、青年は手を使って後ろに下がる事しか出来ない。


「足の次は、歯を全て抜く。そうすれば少しは静かになる。」

欠伸をしながら言う少女に、青年の額から汗が垂れる。
助けを求め視線を彷徨わせるが、道を歩く人は皆、目を逸らして足早に去って行く。
関われば、己にも危険が及ぶからだ。

青年は視線を眼前のコマタナに移し、力無く笑った。


「…やっぱり、この世は無情なんですね。知ってましたけど……」

コマタナが刃の付いた腕を上げる。
後ろは海、前にはコマタナ、もう逃げ場は無い。
青年は次に来るであろう痛みに、目をギュッ、と瞑る。


「シビシラス、電磁波!」


コマタナが腕を振り下ろそうとした、その時──突然動きが止まった。


「丸腰の相手に攻撃するなんて、随分と酷い事するわね」
「…誰。」

少女が眉根を寄せ、後ろに立っている人物を睨む。


「生憎、貴女みたいな物騒な人に名前は教えたくないの」

そう笑ってリオは少女の横を通り、頭を抱えて震えている青年に手を伸ばす。


「…大丈夫ですか?」
「!き、君は…?」
「ここだと落ち着かないんで、場所を移動しましょう。シビシラス、もう1度、電磁波!」

シビシラスは今度はトレーナーである少女に微弱な電気を飛ばし、痺れさせる。
その際に、持っていた青年のボールが落ちる。
転がって来たボールを手に取り、リオは青年の手を引く。


「あっ!?」
「行きますよ!こーゆー時は逃げるが勝ちです!」


走り去って行くリオと青年を、少女は無表情で見つめる。



『コマッタ?』
「…五月蝿い。目的は、もう果たしたから良いの。」


コマタナを戻し、痺れていたのがまるで〈嘘〉のように、少女は走って人混みの中へと消えていった。



「いやぁ〜!あそこで君が来てくれて助かりました!僕って、昔っから運だけはあるんですよね〜」
「はぁ…」


(立ち直り早いわね、この人)


一方ポケモンセンターに逃げ込んだリオは、青年のテンションの高さに呆然としていた。
少し前まで恐怖からか身体を震わせていたのに、中々追って来ない少女に「助かった」と確信してから、
ずっとこの調子だ。


「おっとっと。僕ばっかりお喋りしてすみません。そういえば、自己紹介がまだでしたね」

ポカン、としてるリオに気付き、青年は咳払いをして白衣を正す。


「僕はパイソン。しがない研究員です」
「私はリオっていいます」

簡単な自己紹介を終えた2人は、互いに握手を交わす。
パイソンはへらり、と頼りない笑みを浮かべる。


「リオさん…君は命の恩人です。何か、お礼をさせて下さい」
「いや、いいですよ、そんn「むむっ?それは…ライブキャスターですか?」え?あー…はい。
 なんだかさっきから調子が悪くて」

リオの話を聞いたパイソンの眼鏡がキラーン!と光った。


「それならば、僕がコレを完っ壁に直しましょう!勿論リオさんは恩人だから、お金なんていりません!
 大丈夫です!こう見えて機械には強いんで、任せて下さい!」
「あ、あの…パイソン、さん…?」

左手にライブキャスターを、右手にドライバーやペンチを持って興奮気味に口を動かすパイソン。


(はっきり言って不安しかない…!)


そんなリオの心情など露知らず、パイソンはライブキャスターの修理に取り掛かる。


「ふむふむ…最近、液体状の何かにライブキャスターを落としたりしてませんか?」
「液体……」

リオはヒウンジムの、ハチミツの壁を思い出す。


「恐らく、液体の一部が僅かな隙間に入って故障しちゃったんでしょうね〜」

拡大鏡を覗き込みながら手を動かすパイソン。
カチャカチャと独特な音がする中、ジョーイさんが歩いて来た。


「お疲れ様です、パイソンさん」
「有り難うございますジョーイさん。もう少しテーブルをお借りしますね〜あと少しで直るんで」
「ええ」

ジョーイさんから受け取ったコーヒーを一口飲み、再度手に道具を持つ。
そんなパイソンの背中を見ながら、ジョーイさんはリオに耳打ちする。


「パイソンさん…普段は頼りないけど、機械が故障したらよく修理しに来てくれるんです。
 腕は確かだから安心して大丈夫ですよ」

にっこりと笑うジョーイさんに、リオも笑って頷く。


「直りました〜!」

その直後に聞こえた嬉しそうな声に、リオ達はパイソンの元へ駆け寄る。


「映像も良し、音も良し、データも消えてない。修理完了で〜す!」

リオはパイソンからライブキャスターを受け取り、1つ1つ確認する。
最初の時より画像も音もよくなったライブキャスターに、リオは顔を緩め、パイソンに向き直る。


「パイソンさん、ありがとうございます!」
「どういたしまして。いやぁ〜…やっぱり、お礼を言われるのは照れますね〜」

頭を下げるリオに照れ笑いを浮かべるパイソン、そんな2人を交互に見て微笑むジョーイさん。
和やかな雰囲気が漂う中、ポケモンセンターの扉が開いた。
勢いよく入って来たのは、清掃員の格好をした(手にはデッキブラシを持っている)男の人だ。


「パイソンさん!ああ、やっぱりここに居たか…うちのパソコンが調子悪いんだ、
 ちょっと見てくれるかい?」
「分かりました〜それでは僕はこれで…リオさん、本当に有り難うございました!」
「はい。こちらこそ、ありがとうございます!」

清掃員のおじさんの背中を追い、パイソンはポケモンセンターを出て行った。


「…あ!ヒトモシを迎えに行かなきゃ!」


そしてリオもまた、ヒトモシが待つ【アトリエヒウン】に向かうのだった。

Re: 42章 砂漠の先の輝きの街 ( No.80 )
日時: 2018/02/13 16:36
名前: 霧火 (ID: OGCNIThW)


「…うわぉ」

リオは目の前に広がる風景に、感嘆にも似た声を漏らした。

4番道路。
【フリーウェイ】と呼ばれるバイパスがある一方で、肝心のライモンシティへと続く道は
吹き荒れる砂嵐のせいで未だに整備されておらず、長く険しい砂漠が続いている。


(ヒトモシ達を事前にボールに戻しておいたのは正解だったわね)


考えている間にも砂嵐は容赦なくリオを襲う。
普通なら目や口に砂が入りそうだが、リオは動じず歩を進める。

旅立つ前の日…リオは旅先で何があるか分からないという理由で、リュックの中にありとあらゆる物を
詰め込んでいた。
天気の影響で旅が長引いたりする可能性だってある──町中から外れて自然の中で暮らし
育って来たからこそ、リオはそういった事に敏感だった。

そして今、リュックの中に入っていた物が活躍していた。


(念のために準備しといてよかった)


目と口を保護してくれているゴーグルとマスクに感謝しながら、リオはライモンシティへと向かった──



ライモンシティ。
遊園地を中心としたテーマパークが立ち並ぶ活気溢れる街だ。
遊ぶ所が多いため娯楽都市と呼ばれる一方、夜になっても街から光が消えない事から
輝きの街とも呼ばれている。


「…やっと、着いた…!」

そんな明るい街とは対照的に、リオのテンションは珍しく低かった。
決して疲れたわけでも砂漠の暑さにやられたわけでもない。リオの元気が無い原因は、
靴の中に入った砂にあった。


「うぅ…ジャリジャリして、嫌な感じ……」

靴の中に入った砂の感触が靴下を通して足の裏に伝わる。
気分がいいとも言えない独特の感触に、自然と眉間に皺がよる。

こうなるのが嫌でリオは最初から裸足で砂漠を歩こうとしたが、近くに立っていた山男に危険だと止められ
渋々断念するしかなかった。


「…早く砂を洗い流そう」

フラフラとした足取りでポケモンセンターに入る。


しかし…


「ごめんなさい。今、お部屋は空いてないんです」

困ったように笑ったジョーイさんに、リオの願いは儚く崩れ落ちた。


「え…も、もしかしてシャワーも使えなかったり?」
「ええ。今日の砂嵐は特に酷いから、シャワーを使うトレーナーさんも多くて…だから番号札を
 配っているんですけど…」
「そ、そうなんですか。…ちなみに、今何人ぐらい待ってるんですか?」

部屋が空いてないのは仕方ない──そうリオは思った。
ライモンシティを訪れるのは家族連れや観光客が多いが、その一方で宿泊施設が少ない。
そのため、ポケモンセンターに泊まれないのはある程度想定済みだ。

野宿でもいい、お風呂に入れなくてもいい──この砂を落とすためにシャワーさえ使わせてもらえれば、
リオは満足だった。


(30〜40人くらいなら待てるから、それまで時間潰そう)


そう、思っていたのだが。


「え、と…600人くらいですね」


(ろ、ろっぴゃく……)


ジョーイさんの口から出た桁違いの数字を聞いて、目眩に襲われたリオはそのまま後ろに倒れるのだった。



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「…」

シャワーを諦めたリオは遊園地の前を流れる川をボーッと眺めていた。


(この川で砂を洗い流して、…なんて、それは流石にダメよね。公共の場なんだし。やっぱりここは、
チラーミィの《アクアテール》で…)


チラーミィのボールを手に取った時、視界に沢山の人が映った。


「…?何かしら」

ライモンシティに着いた時には出来てなかった人集りに首を傾げる。
そして1度ボールをベルトにセットして、好奇心の赴くまま、リオは人集りの中に入って行く。
どうやら2人の男女が【ビッグスタジアム】の前で何やら口論しているらしい。

リオは人混みの僅かな隙間から耳を傾ける。


「これは俺が決めた事なんだ!何と言われようと、譲るつもりはねぇ!」
「!」

リオは聞き耳を立てるのをやめて、屈んで隙間から声のした方を覗き込む。
そしてリオの瞳に映ったのは、


「やっぱり!おー……きゃっ!?」

誰かの足がお尻にぶつかり、リオは漫才で見るような滑り込みで人混みから弾き出される。







 。

長い沈黙と突き刺さる視線に、徐々に顔が熱くなるのをリオは感じた。


(どうしよう。流石にこの気まずい空気の中、顔を上げるなんて事出来ない…!)


冷や汗を流すリオ。相変わらず周りは静まり返ったままだ。
そんな沈黙を破る猛者が居た。


「大丈夫か?」

素っ気ない、しかし優しい声音にリオは少しだけ顔を上げ──笑った。


「…うん、大丈夫。ありがとう」

差し出された手を取り、起き上がる。
擦りむいて赤くなったリオの額を見て、手を差し出した人物は目を細め、口許を緩める。


「相変わらずだな、リオ」


嬉しそうに言ったアキラに、リオは苦笑した。


そんな2人を、1人の女性が見ているとも知らずに…



お久しぶりです、霧火です。
今回リオはライモンシティに到着、そしてアキラと再会しました。
「何でアキラが先にライモンシティに?」…という疑問は次回明かされます。
そして、謎の女性の正体も…

それでは、次回もお楽しみに!


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