二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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オリバト1
日時: 2010/06/24 18:05
名前: sasa (ID: cLFhTSrh)

これからオリバトを書きます。
内容はとても残酷なので注意してください。

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Re: オリバト1 ( No.36 )
日時: 2010/07/11 05:12
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

太陽が、僕らを照らしていた気がした。
いつか、また会えたらと、僕らは語り合う。
明日はもうやってこないけれど
未来はいつか来るんだ。


いつか。きっと。



遠藤俊夫(男子4番)と久住幸助(男子8番)は呆然と後ろで青井千沙(女子4番)を見ていた。
死体が横たわる、この部屋で。


最初から最後まで見ていた。まさか、死ぬとは。こんなことになるとは思わなかった。


「……幸助、これ、やばいんじゃないの?」
「…そう、だな…あいつ、いかれてるよ…」


ずっと何年かこの先も、笑顔で変わりないことを祈っていたのに。
此処の所為で。政府の所為で。国の所為で。



僕らの未来は、絶たれたんだ。



「逃げよう、俊夫…此処危な…」



言い終わらないうちに幸助の身体にいくつか矢が刺さった。驚いた俊夫は顔をあげて千沙の方を見た。狂っていた。笑ってこっちを見ていたのだった。
何処からきたとは思えないほど全てが恐怖感に襲われた。


何故、こいつは簡単に奪うことができる?
どうしてこのゲームに乗ることを決めたんだ?
いや、しかし…。



…どっちにしろ、俺は死にそうだ。



でもそれはただの思い込みに過ぎなかった。千沙がいつの間にか倒れていたのだ。わけがわからないといったふうに。






…あれ?俺死にかけたんじゃないか?




「アンタも死ね」



酷く、冷たい声に俊夫は驚き、振り向いた途端、いきなり刃が自分の心臓に食い込んでいった。気持ち悪い感触と共に口から血を吐いた。誰がやったのか、分からないまま、俊夫は死んでいった。それをずっと建物から建物へ隠れていた清水大吾(男子11番)は偶然目撃したのだった。彼は目を見開いてたった今殺した少女、阿久津雪奈(女子8番)を睨みつけた。



「何だ、アンタもいたの?今の今まで何処に行ったかなって思ったんでね」
「今…殺したな」
「ああ。これは足立のためにやってるんだよ。このクラスおかしいから。足立のためにみんな、みんな死んでいくんだ。それはアタシがやっていることだしね」
「そんなことをして足立は喜ぶか」
「喜ぶさ。心も少しは晴れるんじゃない?」
「足立はそんなに冷たくないはずだ」
「さあね。アンタも死ねば」



日本刀からブッシュナイフに変えて、走り出した。足が速い雪奈に敵うわけもなく、動かないうちに腹を刺される。


「ぐ……」


ナイフの刃が中を抉っていくのが分かる。思わず目を顰めた。目の前の雪奈を見た。---

それは、殺人を楽しんでいる目だった。呆然と大吾は目を開いたまま崩れ落ちた。そのまま息がないことを確認すると雪奈は家を出た途端、海の近くを見た。二人が横たわっていた。
地面に赤い血が流れていたのを知る。



---飛び降りて、自殺?


どっちにしろ、死んだことはもう変わらない。
アタシは足立のために人殺しをしているんだ。
それは意地でも変えない。


必ず。


【残り:10人】
男子04番遠藤俊夫
男子07番木本俊太
男子08番久住幸助
男子11番清水大吾
女子04番青井千沙
女子05番青木里香 死亡。

Re: オリバト1 ( No.37 )
日時: 2010/07/10 10:39
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

痛いと思える人はまだ大丈夫だと思う。
痛いと思わなくなってしまった人は、もう笑うことすらないんだろう。
現に私は痛いとは思えない。
殴られても、蹴られても、もうまるでそれが当たり前かのように。



「絶対」とか「希望」とかそんなのはもうない。
その証拠に、私を信じてくれる人はいないのだから。



足立梢(女子13番)は適当に道を歩いていた。殺すために探している人がいるため。
だが、梢は仮に考えていた。殺したらこれから先私はどうやって生き延びることができるのだろうか。何の罪もない、クラスメイトを殺すのだけは勘弁だ。



ああ、あの私のことを邪魔する園崎葵(男子13番)を殺せるのか。
残りの人を殺して生を掴むのか。



どちらにしろ、私は生きたい。何故かと言うと死んで本当に私という存在が消えてしまうのが怖いため。私が死んだら私のために泣いてくれる人、悲しんでくれる人、亡骸を抱いてくれる人はいるのだろうか?いや、いない。絶対いないんだ。私なんか存在感ないし、寧ろ、嫌われているから。死んでいいって思われてるから。絶対大丈夫なんてなかったんだ。みんな私を見て見ぬフリをしていた。それは仕方がなかった。
あんな、酷いこと、誰だってされたくないもの。陰湿な嫌がらせ、屋上に呼び出されて殴られたり、蹴られたりの繰り返し。酷いときはカッターで制服を破くとか、血を流すとか。でも私は痛いとは思わなかった。最初は痛くて痛くて、泣いてたけれども、今だったらもう泣かなかったし、痛みも感じなかった。昔誰かが言っていたっけ。



「痛いと思う人はまだ大丈夫って言える人なんだ。痛いって思わない人は心を何かの理由によって、亡くしてしまう人」 だと。


だとしたら、私は当てはまるんだろうか。私も。私も、心を亡くしたのかな。幸子が私を裏切ったとか。いきなり不審者に襲われたとか。友達があの件によって一人もいなくなったとか。笑わなくなったのも、泣かなくなったのも、残ったのは悲しみとか、恐怖とか、憎しみだけだとか。いじめられるのにも慣れたとか。周りの人の視線が鋭くなったとか。私は、



私は、此処にいていい人じゃないって知ってしまったとか。



「梢はそういうのない?」
「うーん…私はないかなあ」
「そうか」
「こーには?」
「俺はないよ」



思い出した。あの時が一番楽しかったの覚えてる。 あの人と話すのが凄く楽しくて夜更かししたこともあった。バスケで負けた。あの人は「なんとなくやっただけ」と言ってのけた。初めてだというのに、上手かった。あの人は間違いなく応えて私を応援しようとしていたんだったな。私はそれに気付くのに時間がかかったけど。あの人は、素直じゃないから。



「こーにさ、もう一回歌を歌って!」
「……何で」
「何でって、もう一回聴きたいから!お願い!」
「やだ」
「ケチ!歌うぐらいどうってことないでしょ?」
「俺にとっては、ある」
「生意気!」
「生意気で結構」



ねえ、輝丹。もしも私の立場になった貴方ならやっぱり無視し続ける?自分を傷つけた人を殺せる?
嫌いな人だったらいいけど、大好きな人だったら、やっぱり殺せないかな?自分を裏切った大切な人を簡単に殺していいのかな。



「梢、この雑誌貸したげるー。おもろいんよー」



……何でだろう。あの頃の、苦しい時とか悲しい時とか泣きたい時に思い出すのはいつも楽しかった時ばかり。辛いことを思い出すのは嫌だけど楽しいことも思い出すの嫌なんだ。思い出しても、意味ないのに。意味なんてなかった。


「足立さん」


声がして梢は怯えも何もせず、ゆっくりと前を見た。冷たい地面の方を見て考え事をしてたから気付かなかった。愛野由唯(女子1番)だった。


ちょっとだけ、何故か怖い気がした。今更だったけど。


【残り10人】

Re: オリバト1 ( No.38 )
日時: 2010/07/10 10:50
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

もう生きること分からなくなった。
ただ今目指しているのは、自分と同じ人間。
愛してくれた人が死んでしまうなんてとても悲しいってこと分かった。
遅いけど。もう遅いけど愛される意味も分かった気がする。



その人はにっこりと私に向かって笑みを浮かべた。でも、人間どうなるかなんて分からない。逃げなければ。逃げなければ私なんてすぐ殺されてしまう。立ち止まらないで構わず歩いた。だが愛野由唯(女子1番)に呼び止められて足立梢(女子13番)は由唯の存在自体をうざく感じた。


「待って、足立さん。私も貴方と同じなの」
「………」
「本当よ。あのね、香山君いるでしょ」
「………死んじゃったけどね」
「…でね。その人、私を救ってくれた」
「………?」
「愛してくれと頼んでないのに、私を愛してくれた」


突然の由唯の話に梢は目を顰めた。愛してくれた?いや、そんなお惚気話は私興味ないんですが?大体どうしてこんな私に突然話しかけてくるんだ。確かに香山君が愛野さんを好きだっていうのには意外だったけど、何故。


「私、香山君殺したの。」


梢は目を見開いて由唯を見た。由唯は相変わらず微笑んだままだった。どさりと、ディパックを置いていた。思わずつられて自分も置いた。理由はただ重いだけ。


「私はね。両親に虐待されたの。だから愛してくれることは決してなかったし、私もこんな両親なんかに愛されなくていいって時々は思った。でもやっぱり寂しいものね。人間って普通愛されたいって思うんだよね。そんなところに香山君が、好きだから。愛してるからって言ってくれたの。でもその前に殺そうとして殺しちゃった。クラスメイトも何人か殺した。でも後悔はしてないわ。はい、これ」


由唯はノートを取り出して梢に渡した。それは梢が詩を書いていたノートだったのだ。何故由唯が持っているのか知らないが、梢はゆっくりと受け取る。ページをめくってみた。


…懐かしい。
でも思い出してはいけないような、気がする。


「勝手に読んじゃったの」
「………」
「凄いね。元気もらっちゃった」
「…………」
「これで、人殺すのやめたの。これから貴方と一緒に歩こうと思って」
「……え?」


何処かで聞いたような気がする。いやでも、こんな私と一緒に歩いたって面白くない。愛野さんまでいじめられてしまう。だから平気。大丈夫だって今言いたいけど中々口に出して言えない。どうして?


私は、心の何処かで誰かを待ってたの?


「ねえ、これ好きなの。歌ってみてもいい?」
「……か…っ…てに…すれば…」


戸惑っている梢を見て構わず由唯はノートを借りてページを広げた。いくつかめくると、ゆっくりと歌い上げた。



大地を素早く駆け回り
風が吹き 身体が動き
走って走って走りまくれ
解き放て 無限の緑へ


何かが僕を支配してるんだ
心が僕を痛めつけるんだ
けれども何も今は無い
今こそ扉の鍵を開けて


風は其処へ 水までも浴びせ
もっと君が輝けるように
空は青く 地面は滑らかに
解き放て 無限の光へ


空が傷ついて泣いているんだ
その下の人々が泣いてるんだ
こんな残酷の世界から
逃げ出すチャンスを頂戴


炎は熱く 氷が溶ける
水が炎を消すように
僕が君を助けるから
解き放て 無限の闇へ


解き放て 希望の光へ



梢は今度こそ本当に懐かしい気持ちでいっぱいだった。この詩はまだ私が痛いと思えた時期に書いてたものだ。この時は本当に「希望はいつかある。だから我慢してればいい」って思った。でもそれもすぐ崩れたんだったっけ。


「本当にいい詩書けるね。今はもう書かないの?」
「……書か…ない。嫌なこと思い出すし」




『これいいやん!みんなー梢の詩いいんよー!』




だから、なんでこんな時にばかり思い出すんだ。
もう忘れたはずだろう?あの時の楽しさ、幸せを。



「そっか。うん」


由唯は嫌なことを聞かずに頷いた。その瞬間足音が聞こえ、思わず立ち上がった。
梢もまた同じだった。グロック19を一応持って構えた。


「足立さん、私の後ろにいて」
「……そっちこそ…私は銃…持ってるから」
「そう。じゃあ遠慮なく」


何となく、由唯とはまともに話せそうな気がした。けど此処ではそんなのもできない。
足音がはっきり聞こえた途端、梢の目が大きく見開かれ、銃を相手に向ける。由唯は不思議そうに見つめていたが、それもすぐ消えた。


何故なら浅井幸子(女子9番)が隣にいる安藤学(男子1番)と並んでこっちに向かい歩いてきたので。向こうもまた、梢に驚いていた。

「……梢…」
「幸子」


沈黙が漂う中、梢はとっさに銃を幸子に向けた。



こいつなんか。
幸子なんか大嫌いだ。



殺してやる。



「大嫌い」


銃声が大きかった。同時に鳥が羽ばたいた。


【残り:10人】

Re: オリバト1 ( No.39 )
日時: 2010/07/10 11:00
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

大嫌いと大好きって言葉は正反対だけど時にそれに対する反応も違ってくる。
なんて、誰が言ったんだろう。
最初から関わることなどしなければよかったんだ。
そうすれば少しは未来変われたのに。



「梢…」
「大嫌い」



少し掠めただけだった。浅井幸子(女子9番)は足立梢(女子13番)を見ていた。
幸子は呆然とする。目が怖かった。梢の目は何処か恐怖を感じたのだ。それぐらい、自分を恨んでるって証拠で、幸子は悲しそうな顔をする。それに気付いた梢は不愉快そうな顔で幸子を睨みつけた。


「アンタなんか嫌い」
「梢…話を…」
「嫌。嫌い。思ってたの。幸子を、殺そうって」


同時に銃声がまた響く。危ないことになると予測した安藤学(男子1番)が幸子の肩を押した。かなり、しんどかった。


今起きてることがどんなに大変なことなのか分かってるつもりだ。
けど、このままじゃ可哀相なことになる。



「あ、安藤…」
「逃げた方がいい」
「え?」
「足立さん、殺そうとしてるんだよ」
「でも、うち、梢に謝ってないんよ…」
「謝る前に殺されたら意味ないだろ?」
「……いやだ。いややけんね!!梢…!」
「え、待って、浅井さん、危な…!」


言い終わる前に口を塞がれ、学は驚き、顔を上げた。愛野由唯(女子1番)がこちらを見てにっこりと微笑んだ。けど、それは悲しくて今にも泣きそうな顔だった。幸子を見るともう梢の方へ駆け寄っていた。


「…え、愛野さん?」
「ごめんなさい。ちょっと黙ってて」
「愛野さん、どういうこと?!」
「二人きりにさせてあげたらいい」
「二人きり…って余計危ないだろ?!」
「いいじゃない。足立さんが浅井さん殺せば事は上手くいくの」
「そんな……」


本当にそれでいいのか?
それで、本当に問題は解決するのか?
足立さんが、殺さなきゃいけない?
殺したら、スッキリするとでも?


……違うはずだ。


浅井さんは、謝りたいと言ってた。
ならそれで大丈夫なはず。


そう思い込ませようとしたその時、幸子の歌声が届いた。
弱くて、でも頑張ろうっていう気持ちが伝わっていくのはどうしてだろう。




争うのは止めて 皆で歌おう
喧嘩は止めて 皆で歌おう


迷いながら 私たちは歩く
ゴールというモノを目指している
Peaceの日常 どうか壊さないで
私たちは 笑顔を絶やさない


Peaceの歌を歌おう
迷わないで 苦しまないで
喧嘩したって 何も得られないよ
何も変わりはしないよ


殺し合いは止めて 皆で歌おう
奪い合いは止めて 皆で歌おう


戸惑いながら 私たちは歩く
生きると言うコトを学んでいる
Peaceの毎日 どうか崩れないで
私たちは 歩くのを止めない


Peaceの詩を歌おう
悲しまないで 裏切らないで
命を取ったって 悲しむのは自分だよ
残ったモノは後悔と涙


戸惑いながら 私たちは歩く
生きると言うコトを学んでいる


Peaceの詩を歌おう
悲しまないで 裏切らないで
命を取ったって 悲しむのは自分だよ
残ったモノは後悔と涙




これはバスの中で青木里香(女子5番)が歌ってた梢の歌。学はこれを聞いて何故か悲しくなった。あの時確かに自分達は笑って歩いて泣いて生きて此処にいたんだ。なのにこのプログラムの所為で、もうお互い同じクラスで学校に通って、そこにいるだけの人はもう殆どいなくなった。多分これからもっと、いなくなるんだろう。幸子や梢、由唯や他…。そして自分自身も。


そう思ったら泣きそうになった。
けど泣かずにいよう。



この状況で自分にできることは我慢できることぐらいしかないのだから。



銃声がまた鳴った。それからしばらく静かになった。

不思議に思い、由唯に状況を尋ねようと顔をあげると由唯は泣いていた。その先には赤い液体をぶちまけてある幸子の身体と、銃を下げて死体を見下ろしている梢の姿があった。


でもその背中は何故か「助けて」と泣いているかのように思えた。


【残り:9人】
女子09浅井幸子 死亡。

Re: オリバト1 ( No.40 )
日時: 2010/07/11 14:37
名前: sasa (ID: q6B8cvef)

信じよう、信じようって
何度も言っては消え、また言って消えての繰り返し。
希望はある。絶望はさせないと
力強く、俺達は決めたんだ。


あの子達を、救おうって。



ただ、それだけだったんだ。



「……で?武器は……探知機と携帯と…催眠スプレーと…ハンガー?なんだそりゃ、役に立たないちょなー」
「……井山、運任せなんだよ、わかる?」
「葵、弱気になりすぎー。もっと気楽に行こぜ?」
「行けないからこうなんです。津田、大輔、助けてくれません?こいつうるさいし正直なんとかして欲しいんですけれども」
「「無理、頑張れ」」
「……………」
「まあまあしょげなーい、葵」



もう夕方ぐらいにはなる。歩きながら武器を確認する井山健太(男子2番)と呆れかける園崎葵(男子13番)と二人のやり取りをじっと見つめるしかない、近藤大輔(男子9番)と津田高貴(男子15番)はお互いため息をついていた。少しずつ距離が縮んでいく気がした。時間が経つごとに。だが、大輔は弟、祐輔のことを考えていたのだった。もう一つ気になることがあった。もう一回携帯使って篠塚充に電話をかけようとして迷っていた挙句、やめておいてしまった。二度もいきなり携帯にかけるのはどうか、相手が対応に困るかだ。現に「は?無言電話?」とうざかられていた。



祐輔は大丈夫だったんだろうか。



「近藤?どうした?」
「あ、…な、何でもない」
「さっきのことか?あれは俺もちょっと言いすぎた」
「いや…うん…」
「しかし、あの二人よく息が続くな。ずっと喋ってるぞ、数分前から」
「案外気が合うんじゃないかな…」



大輔がそう言い放った瞬間、葵が素早く大輔の方を見て「俺はこいつが大嫌いだ!」と叫んだ。きょとんと大輔と高貴は目を点にしてそれから笑った。



「何だよ、何で笑うんだよ!意味わかんねえっつうの!」
「えー、お前、俺のこと嫌いなの?俺お前のこと好きなのにー」
「そっち系の趣味はねえ!気持ち悪い!!」
「じゃ大事な親友ー」
「俺に悪戯系の親友はいない!いつから俺とお前親友になったよ?!ああああ馬鹿馬鹿馬鹿!!スプレー持つな!」
「試してみてーのよ、葵さん♪」
「何で俺?実験台にすんなよ!眠くなっちゃうだろ!」
「それは大丈夫!」
「何が?!」
「俺がお前抱えるー♪」
「はあ?!余計大丈夫じゃねえだろ!いやだ、俺ぜってー嫌だかんな!!」
「そんじゃ、大輔ー津田ー、離れろー」
「本気?!ちょ、ちょっと待て、嫌だっつってんのわかんねーのか?いや、お前わざとだろ?!マジ?!」
「マジだよ?」
「やめやめやめ!!ろくなこと起きやしない!」
「お前うるさいからかけちゃうー」


じたばたと暴れる葵に健太は笑いながらスプレーを向けた。本当に本気でやったな…と二人は硬直する。




いつかのこと。
もう戻れないとは言わせないよ。



「健太、お前葵ばっかりいじめてんな…」
「いじめてなんかねーぞ?」
「いや、いじめてるって絶対……」



健太はスプレーにより眠りに落ちた葵を抱えて歩行を再開した。後ろで大輔は呆れていたが構わずに歩いた。自分の横にいる高貴にもう一度話しかけた。


「な、津田」
「何」
「俺、祐輔のために死ぬってのもありかな」



こんなこと祐輔は望んでないの分かってる。
でもそれじゃ俺の気は済まされないから。



「……なるべく戦って死にたいけど…戦う相手はいないんだよな。つーか元々いないけど……ホント情けない」
「…お前それ本気か?生きたいとは思わない?」
「うん。むしろ…生きる意味なんてなくなったのかもな」
「生きる意味?」
「俺の生きる意味は、祐輔が無事でいてくれることだったと今思った。でもいないんじゃあ生きてる意味なんてない。ただそれだけのこと」
「……お前子供のくせに大人っぽいこと言うな」
「大人も子供もそう変わらないと思うんだ」
「何故?差が違うだろ?」
「ううん、きっと同じ。昨日の昨日まで俺大人なんか嫌いだーとか思ってた。自分勝手で喧嘩ばっかりして、少しは子供の気持ちも考えろよ!って感じだったんだけどさ違った。大人も大人で昔は子供だったし、色々子供より大変な思いをしてるんだとさ。なんていうのかな。とにかく焦らないでいこう、みたいな」
「……いいんじゃない」
「そっか?」
「うん」
「そうだといいよな」
「おう」
「俺も生きて帰れたらお父さんとお母さんに謝らなきゃな。嫌いとかうるさいとか言ってごめんって、な。っとに俺昔から人を傷つけることしかできない馬鹿なんだよな」
「そうしとけ。俺は無理」
「心の中でも?」
「おうダメだ」



まだ子供だってことボクラは分かっているつもりでも大人を信じることはできない。それでも大変だと思えればそれでいいような気がする。



みんな人間だとわかればそれでいい。



「近藤」
「何だ?」
「ありがとうな。俺お前に答えを教えてもらったような気がする」
「そうか?そう言われると照れるよ」
「ああな。俺も言ってて恥ずかしいよ」




ずっと笑えていれば。


それだけでいいと思ったのに。



悪魔は突然現れるものなんだ。




「………え…?」



大輔の目にはただ真っ赤でしかならなかった。自分の前で笑ってくれた高貴の全身が一瞬にして赤くなり、スロモーションのようにゆっくりと倒れていたのだ。遠くにいる人はそれを嘲笑うかのように銃を大輔に構えていた。よく見ると赤井雅子(女子6番)だった。こっちを見て笑っていた。



「健太、走れ!」
「え?何で?重いよこいつ……ってうわあああ?!山本ー?!どうしたんだよこれ!」
「いいから!俺も後で追いかける!走れったら走れよ!」
「え、は?あ、ああ、了解いたしました、近藤隊長!」
「それでいいんだ!死ぬなよ!」



健太の姿が見えなくなった途端、大輔は安心してため息をついた。それよりまずは向こう…雅子をどうにかするかだ。


何があったのか分かんないけど。
津田を殺すなんていい度胸してるじゃん。
だって親に謝りたいとか言ってたんだぞ。
なのに殺すなんてありえないし。
もう、生きて謝れないだろうが。



「赤井ー!!」



希望が一瞬にして欠片になり消えた。


【残り:8人】
男子15番津田高貴 死亡


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