二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- オリバト1
- 日時: 2010/06/24 18:05
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
これからオリバトを書きます。
内容はとても残酷なので注意してください。
- Re: オリバト1 ( No.16 )
- 日時: 2010/06/27 05:49
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
「………ということで…」
しばらくして幸子は言った。三人は顔を見合わせ、こっそりと会話している。心の中で勝ち誇ったように舞い上がった。
ふふ、どうなん?これならできそうにないやろ?分かったら、さっさと馬鹿なことはやめてほしいわ……
「いいねえ、それ!いいていあーん!」
さくらがぱっと喜んで幸子の手を握った。当然、幸子は「は?」と驚いた顔を見せた。何?何なん?まさか、本当に実行するん?
「…で、でも…」
「んじゃ、今日の放課後にね!幸子も来るんだよ!」
霞はいつの間にか「浅井」から「幸子」と呼ぶようになり、念を押して何回も幸子に「いいでしょ?」と繰り返し言った。
三人は楽しそうに歩き、屋上から教室に戻った。一人残された幸子は呆然と三人が歩いたその先を見つめることしかできなかった。
そして放課後。図書委員で遅くなった梢は鞄のヒモを肩にかけて下駄箱に向かった。
上靴から靴に変え、帰ろうとするところを、渡辺という少年が声をかけた。
「あ、渡辺君。どうしたの?」
「梢、待ってたよ。一緒に帰ろうか」
渡辺は笑って手を差し出したが、梢はあの時の戸惑いは見せず、微笑み返した。最近此処の所、渡辺と雑談をするのが楽しくなってきたからであった。だから疑いもしなかった。この頃は、まだ人を信用していた。
「じゃあ、ちょっと寄り道しようよ」
「いいぜ。公園まで行こうか」
お互い手を握り合って公園に着くまで歩いた。今日会った出来事をお互い話して笑いあった。だが、時間が経つにつれて、梢は疑問を思い浮かべる。公園はそっちじゃない。別の公園に行くのか、それとも迷ってるとか?そう思った梢はちょっと困惑したような笑顔を見せた。
「近藤君。公園、そっちじゃないよ?」
「じゃあ、走ろうか」
予想と違った答えを出されて、その上、腕を掴まれて梢は顔を歪ませた。長い間走って、やっと着いた場所は名前も場所も知らない森の中。肩で息をしている梢は一回り見回した。暗くて、足場も見えない。此処は本当に森?
「…渡辺君、此処…」
言い終わらない内に、肩を押されて梢は小さな悲鳴と共に尻餅をついた。あまりの痛みに目を顰め、渡辺を見上げた。
そのとき、霞達がやってきた。それだけじゃない、梢の親しい人達も来ていたのだった。梢は訳が分からず、呆然と友達を凝視する。
「…貴方達、どうして此処に?」
疑問が沢山頭の中で作られる。それを遮るように、霞が梢に近付き、縄を梢の両手を丁度梢の前にある大きな木に縛り付けた。
「痛……っ、や、やめて!何を…」
梢は、恐怖を感じ、叫ぼうとした途端、いきなり頬に痛みが走った。霞が叩いたんだろう。それから代わる代わると梢の友達、一人一人が、梢の身体のあちこちに痣を作った。次々に起きる痛みに梢は何も言えず、涙を流すしかなかった。怖い。痛い。
誰か助けてよ。どうしてみんな私を傷つけるの?友達なのに、どうして?
「はーいこの辺で終いにしよっかあ。んじゃ、帰りたい人は帰っていいよお。私らはまあだ梢を痛めつけないといけないから残るよ」
さくらの声が合図なのか、数人か、走って家に帰った。残ったのは、さくら、霞、聡音、幸子、渡辺だった。とはいえ、幸子は影から覗いて見ていたけれど。
聡音が、ナイフを梢に見せつける。
「きゃははは、んじゃ、本番に入りまーす♪」
笑いながら、ナイフの刃を梢の頬に当て、振った。赤い液体が、つうっと流れていく。
聡音は顔を、他にもさくらは足を、霞は腕を。何度も切りつけた。
「あああ!痛…っ、やだあ!やだ、やめて!お願い、許して!痛、痛い…!助けてえ!痛いってば!いやああ!」
鋭い痛みに梢は精一杯叫んだ。だが、さくらはニヤリと笑い、そして渡辺が梢の腰を押さえつけた。同時に頭を下げるように押さえられ、梢は泣きながら目をつぶった。
「うう…、渡辺く…、どうして…。怖い…やだ…」
そんな言葉は届かず、その間、さくら、霞、聡音が「せーの」と掛け声を合わせて背中をナイフで切りつける。
全部見ていた幸子は怯えていた。それを見つけた梢は絶望の目に変わった。最も仲の良かった幸子が、今こうして梢を助けず、見ているのだから。
ナイフで切りつける行為が何度も続いた後、梢は気絶した。とんでもないことをしてしまったと罪悪感が幸子を襲う。思わず逃げるようにして走った。
「……その後は知らん…。必死で逃げてたから…。翌日は、梢は休んでた。その翌日、梢はあちこち、包帯巻いてきた。その時、もう笑わなくなった。信じられる人が一人もいない。友達がいない。親は心配して違う学校に行ったら?と言っとったみたいやけど、梢が拒んだ。多分逃げたと思われたくなかったやろなあ。その後も、うちはいじめに参加して、梢を傷つけとった。もう目が死んでた。何も喋らなくなった。でもある日梢は言ったんよ。「私を否定しないで」って。それからうちは霞達から離れた。もう梢の傷つく姿見んのいややったけ…」
話はとりあえず終わった。学は呆然と幸子を見つめるしかできなかった。そんなことがあったなんて、と驚いた同時に、幸子を恨んだ。
「…何故助けてやれなかったんだ」
「ごめ…」
「足立さんが、あんな風になったの、結局は浅井さんの所為じゃないか!」
いい加減、切れた。絶対会わせてやらないと学は心の中で思った。
同時に誰かが悲鳴をあげた。
【残り:27人】
- Re: オリバト1 ( No.17 )
- 日時: 2010/06/27 05:07
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
みんな、恐怖という名の種しか与えてくれない。
何でか、分からないけど、分かる気がした。
それは、私が、必要無い存在だから。
死んでも全く変わらない世界があるから。
足立梢(女子13番)は、時計を持ち上げ見た。5時半になった。あと三十分で放送が流れる。時間は遅く感じた。梢にとって「時間」というのは自分を苛々させるものしか考えてない。以前までは小説とかを書くと時間が早く感じたが今はどうもしない。何をやっても、小説を書いても、絵を書いても、全部全部、時間稼ぎのように思えた。最近は暇じゃないからあまり書かなくなったが、どうだろう。また書きたいとはもう思わないし、嫌なこと思い出すからっていうのもあった。まあ、兎に角今はこの状況をどうにか乗り越えようと思った。運動神経も頭のよさも、どちらかと言えば、中間の方だと自分では思う。でもあまり長くは走れないし、頭もそこまでキレてはない。むしろ、私という存在があっていいのかと時々悩んだりした。
ハッとまたいらないこと考えたと梢は酷く後悔する。息を深く吸って吐いた。そして確認する。
私は、いらない。
私は死んでいい人間。
だから、酷い目に遭うのよ。
痛いのも慣れた。殴られるのも、切られるのも、蹴られるのも、陰険な嫌がらせにも全部、全部。
笑い方?泣き方?そんなの分からないよ。
もう嬉しいというのも、楽しいというのも、分からなくなったの。
残ったのは、恐怖と悲しみだけ。
でも…全部、全部いらないの。私には何もいらない。
むしろ、私なんていらない。
私も、自分のことなんていらないから。
此処は、医療所。こんな小さな島によく医療所なんか設置できたな、と梢は心の中で感心する。色々薬が置かれていたが、危険薬品と普段の薬品の区別が未だに分からない梢はとりあえず放置しておいた。どうせ此処に怪我した誰かが来るだろうし、大事な薬を私が持って行って、なくなったら大変じゃない?ま、そんなの私が知ったことじゃないけれども。薬なんか全然分からないし。全く役に立たないのね、此処も、まあ……。
ディパックを抱えて、出ようかと思ったその時、誰かの足音が聞こえた。思わずドアノブに手をかけるのを止めて、後ずさりした。まただ。また誰かがやってくる。今度は確実に此方へ向かっていっている。だんだんと足音が大きくなり、やがてそれは、ぴたっと止まった。多分此処の前で足を止めたんだろう。窓も、誰かを確認できるものもない、此処は薬品とドアしかないのだ。梢は確認しておいた支給武器に手を伸ばす。カマで何とかできるわけではないが、威嚇攻撃なら何とかできるだろう。ガチャっとドアノブを回した音が聞こえる。梢は静かに目を閉じた。
他人を信じるなんて、ふざけるな。
信じた結果があれだっただろう?
懲りたら、もう信じるな。
誰も信じるな。誰も、誰も…。
「梢?」
ふんわりとした優しい声で、梢は目を開けた。栗色の髪と、薄紫色の髪がふわりと揺れた。青木里香(女子5番)と赤井雅子(女子6番)だと分かると、梢は目を顰めた。
「何?」
と聞くと、もう一方の強い声が、梢の耳に入った。
「よかった、里香がアンタを探してたのよ!あたしはその付き添いなんだけど、でもよかったら、一緒に行動しない?里香もいるし、安心できるよ!」
雅子に、にっこりと微笑まれて梢は呆けた。
何よ、人を疑うより、先に人を信じているの?どうしてそんなに簡単に「一緒に行動しよう」とか「安心できるよ」とか言えるの?
きっと、裏切られた、絶望にも似た、気持ちを味わったことないのね。なんかずるいよ。これって。
「…武器は?」
梢の声により、二人は顔を見合わせた。お互いディパックから武器を取り出した。次の瞬間、梢の目が見開かれた。
ウソ。何でこんなところにあるのよ。どうして…?
「あのね。雅子は、外れ武器だったの。昔の漫画で…私はこれだったの。ロープっていう頼りないもの。ね。これなら安心できるでしょ?お願い、信じ……」
「きゃああああ!」
里香の声を遮り、梢は悲痛にも似た悲鳴を上げ、雅子と里香の間を通り抜け、走った。悲鳴に驚いた二人は梢の名を何度も呼んだが、梢の姿が小さく、もう聞こえてはなかった。
何であんなのがあるの?どうしてみんな、みんな私を邪魔するのよ!!ねえ、どうして!?園崎君といい、里香達といい、どうしてよ。何で恐怖しか与えてくれないのよ!
怖がらないと私は決めたはずでしょう?私は強くなるんでしょう?そのために私はどれだけ、自傷したというの?
住宅街の通り道にあった石で梢の身体は折れ、転んだ。それでも立ち上がってすぐ走り続けた。
もうこれ以上、恐怖に襲われないように。
安らぎを得られるように。
あともう少ししたら落ち着こう。
そして、考えよう。
【残り:27人】
- Re: オリバト1 ( No.18 )
- 日時: 2010/06/27 16:49
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
いつかは叶うと思っていた夢は今壊れた。
絶望ってこんな感じなのかな?
穴山琴音(女子14番)はそこらへんの家より大きな家にあったピアノを見つけた。
何故か昨日もピアノを弾いていたのに、懐かしいと思った。
これもこの状況の所為なのだろうか?
いや、自分が思ってたより、この状況は酷かった。もう見てしまったのだ。
死体を。鈴木悠斗(男子12番)と、沖田俊介(男子5番)だったんだ。
鈴木君は、明るくて無邪気だった。よく私のところに来て「ピアノ弾いてみて」とふざけたように笑っててかなりムカついたけど、弾いてあげたら「上手いね」と言ってくれた。何か、嬉しかったんだ。うん、何処か嬉しかった。
でも、死んじゃうなんて、ありえないよ。どうして鈴木君は死ななきゃならないんだよ?誰が鈴木君をあんなふうにしたの…?
……沖田君は、いつも元気なかった。去年か一昨年にあった、変な噂の所為だろうか。
確か、沖田君の弟がプログラムで死んだとかそういうのだったような。
でもあれは根拠というものがなかったし、本人の確認もできなかったから時間が経ってすぐ消えたけど。
でも、もしも本当だったら、何で誰も沖田君を励ましてくれなかったの?
気味悪かったから?関わるといいことが起きないから?そんなの、最低野郎が言うことじゃない!
沖田君も、沖田君だよ。どうして助けを求めなかったの?助けを求めてたら何かが変わったんだよ。何でよ?
そっと、鍵盤に触れた。軽く押すとポロンと音が聞こえる。慣れている音なのに何処か違った。切なくて、別れを惜しむかのような----。
「…もう、お別れかもしれないよね」
呟いた自分の声も何処かが元気ない。きっと死ぬと分かってるからだ。認めてる気がして、思わず鍵盤を叩いた。それからゆっくりと音を奏でた。
音にあわせて琴音はゆっくりと歌い始めた。
【残り:27人】
- Re: オリバト1 ( No.19 )
- 日時: 2010/06/27 17:04
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
これが、最後の私だけの演奏会。
貴方の幸せ 此処にありますよう。
僕の幸せ そちらにありますよう。
泣かないで。笑っていて。
もう君の傷つく顔、見たくないから。
いつか君の笑った顔 僕だけのものでありますよう。
剣をゆっくりと抜いて 捨てて 僕に微笑んで
誰も君のこと傷つけはしないから 震えるその手を
いつか 優しく握ってあげる
泣かないで もう雨は上がった
振り向かないで 此処にいよう
貴方の幸せ 此処にありますよう。
僕の幸せ そちらにありますよう。
泣かないで。笑っていて。
もう君の傷つく顔、見たくないから。
琴音は元々作曲が得意だった。誰かの詩を曲にして歌うこと、それはもう日常茶飯事だったのだ。
歌い終え、同時に演奏を止める。じっとピアノを見眺めてそれから立ち上がり、スピーカー等、窓の方に向ける。
近くに放送室みたいなのがあった。これで誰かが聴いてくれるとありたがいけれども。
自分の荷物にあった、詩入りのノートを見つける。それは青木里香(女子5番)が勝手にこっそりと入れたものだった。言うまでもない、それは足立梢(女子13番)のモノだ。パラ…とページをめくる。どれもそれも素晴らしい詩だった。日付は2001年から2002年になっていた。彼女がまだ活発的な少女だった頃。戦争を訴えるようなモノ、明るいモノなどが多かった。次のページを開いた瞬間、琴音は背中に悪寒のようなモノを感じた。2002年の7月12日。
「もう誰も信じないと決めた」
出だしはそうだった。
勇気が必要って分かってるけれど 助けを求めることもまた勇気なんだ
もう信じたくない 信じたら何が残るというの
貴方達が思ってるより 現実は時に愚かなモノだって 分かってる?
いつか----いつか親しい人に裏切られるんだ。そして涙を零すんだ。
そんなこと起きてほしくないなら そんな目に遭いたくないなら
人を心から絶対信じないこと。
本当は認めたくなかった けどそれは現実逃避しているだけだ。
なら私は消そう。 私はいらないってこと理解しよう。
私は、いらないのだから。
----違う。私は少なくとも貴方をそう思ってない。
琴音はギュッと下唇を噛んだ。梢の詩に思いが込められていたのか、琴音にはひしひしと伝わってそれが恐怖や悲痛に感じた。梢もまた苦しんでいたのだと思う。2年生になったばかりの頃。梢のよくない噂が立っていて、誰も梢と関わらなくなった。それからだと思った。琴音は梢のことを「悪い人」なんかじゃないって確認したのは。
ある日のこと。琴音はピアノが売ってある所によく通っていた。いつかお金を貯めて、自分だけのピアノを買うって決めていたのだ。親に「ピアノやりなさい」と言われて買ってもらったピアノじゃ、意味ない。自分が買ったピアノで、自分だけの音を奏でる。そう決めた。そしてそれが叶ったら、私だけの音楽を、世界中の人々に知ってもらうという夢を大きくしたはず。だけど、現実はそうもいかなかった。値段が高いことに琴音は愕然とする。自分のお小遣いじゃ買えないと学校で落ち込んだ時期があったのだ。
そのときだ。教室で梢が琴音の傍を通り抜けて「今じゃ、ダメ?」とぽつり呟いたのは。
はっと顔を上げて、梢を見たが、もういなかった。誰かに呼び出されてたようだ。それから酷い目に遭うとは、琴音は予想したにも関わらず止めなかった。見捨てたのだ、彼女を。
現在彼女はどうしているのか分からない。
ただ今は、昔の彼女の気持ちを此処で明かそう。
私のことは後回りでいい。
今本当に思った。彼女を助けたいってことを。
彼女は、苦しんでいた。
その前の彼女は、楽しんでいた。
彼女の人生をあっと言う間に滅茶苦茶にした、あの人達に分からせてやるのだ。
自分の大切なモノが、どれだけ貴重で素晴らしいモノなのかを。
スイッチはオンにした。これで私の音楽が島中に流れることになる。
分かってる。こんなことしたら、獲物にされてしまうこと。
でも諦めたのだ。生きることを。彼女は彼女でいてほしいためだけに。
友達にも生きてほしいためだけに。
鍵盤にそっと両手で触れて、奏でた。ゆっくりと奏でた。
そして、歌う。
一人一人の思い出が 一つとなり 輝きだす
貴方の思いも 此処にちゃんとあるから
孤独じゃないってことはわかってはいるんだけれども友達が「また明日ね」って手を振る瞬間 怯えた
思い知らされる 頑張っても同じだと
でも もう振り向かない 振り返さないよ…
一人一人の思い出が 一つとなり 輝きだす
貴方の思いも 此処にちゃんとあるから
怖がらなくていい 一人じゃないって何度でも呟いてあげる
ほら 後ろに みんながいる 幸せなこと
演奏を続けている間、少しだけ穏やかになれた。これも彼女のおかげだ。
ゆっくりと未来のこと考えれたのも。そしてこんなふうに夢をバッサリ諦めたことも。友達が二人も出来て、楽しく笑っていられたのも。全部あの頃の彼女のおかげだ。
ギィとドアが開く音がしたにも関わらず演奏を続けていた。分かっていた。でも生きたいとは思わない。
【残り:27人】
- Re: オリバト1 ( No.20 )
- 日時: 2010/06/27 17:11
- 名前: sasa (ID: cLFhTSrh)
「穴山さん。ちょっとだけ、時間くれる?何故こんなことをしたの?」
この声で琴音はすぐ分かった。愛野由唯(女子1番)だ。
前に声でわかるようなものかと疑問があったが今は気にしなかった。彼女に応えて弾いていた手を止める。
「生きるのは嫌だからそれに伝えたいことがあったから」
それには理由がちゃんとある。友達のため。今頃何処を歩いているだろう彼女のため。由唯は溜息をついて琴音に向かって微笑んでみせた。
「本当にそうなの?貴方には夢があったんじゃないの?」
その質問に琴音は少しだけ戸惑った。でも、もう決めたのだ。これでも最善の行動を尽くしたつもりだ。自分の命はどうでもいい。琴音はそう思った。
「諦めた。何もかも。」
「少しは希望を持ってもいいのに簡単に諦めていいの?」
「うん」
「そう……なら何したっていいよね」
にこっと微笑む由唯に対して何処か不快感を感じた。笑ってくれてるのに、何だこの感じは。何したっていい?まさかやる気?!由唯に視線を戻すと右手に棒みたいなものが握られていた。僅かだが、血がついている。まさか誰か殺したのか?
「ねえ、こっちも聞いていい?」
普通に話したつもりだった。自然に声が震えている。だが、由唯は微笑みを絶やさなかった。
「いいよ」
「それ…他に誰か殺したの?」
琴音の質問に由唯は一瞬目を大きくして驚いた。次にまた微笑んだ。
「ええ。一人ね」
「だ、誰を……」
「鈴木君よ。彼はとても優しくて、いい人だった」
悠斗の名前を出されて驚いた。あんなふうにしたのは、目の前にいる棒を持った彼女なのか?彼女が彼を滅茶苦茶に殺したのか?
「それで私を殺すの?」
「そういうことになるかな。最初は痛いだろうけど我慢して。……すぐ楽にしてあげるから」
発した言葉と同時に由唯は琴音に近付き、右腕を振り上げた。ガンッという音と共に琴音の悲鳴が上がる。
由唯はそんなことも気にせず、狙っていた頭を見事ぶつけた。
「いや、あああ!」
「ごめんなさい。我慢してね」
頭から血を流して痛そうに顔を歪め、必死にもがく琴音を見て悲しそうな表情を浮かべる。とどめに腕を振り上げたその瞬間、琴音の手が由唯に差し伸ばされる。
何かを伝えたがっているのか?
いや、でも無駄だ。時間が惜しい。誰かが来るかも分からない。だから早くやってしまおう。鉄棒に力を込めてぶつける。頭は割れ、そこから血が流れる。伸ばしていた手が力なく下げられ動かなくなった。同時に由唯の目から涙が頬を濡らした。
「痛かったでしょう…でも、バイバイ」
ぽつりと呟かれた由唯の言葉は吹いてきた風と共に消えた。
【残り26人】
女子14番穴山琴音 死亡。
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