二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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曇天 子供の頃の腐れ縁と女の縁は切っても切れない。up
日時: 2009/09/13 00:01
名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)

こんにちは。あらためまして護空です。


pcのバグか何かで、俺の書いた小説が消えてしましました。(多分)
かなりの大ダメージです。
そして、途中から書くと初めて見た人が訳わかんなくなると思うので、初めから新たに銀魂ワールドを作り上げていきたいと思います。
  

 目次  


 >>16  1.結局、春一番てどれですか。

 >>20  2.たまの怪我だもの、チヤホヤされたい。

 >>24  3.知らない人についていったら駄目。
 
 >>30  4.そう、それはまるで大空の様な。

 >>34  5.いい女ってのは見た目じゃねェ。ココだ、ココ。

 >>43  6.死んだ人も出てきます。ご了承下さい。

 >>49  7.同じネタは、忘れた頃にやってくる。

 >>56  8.警察だって、マナーを通せ。マナーを。

 >>63  9.味見は三回まで、味わかんなくなるから。

 >>71  10.学校じゃ給食の時間はスターウォーズ

 >>76  11.寝る子は育つ。育つッたら育つ。

 >>85  12.風見鶏はまわる。

 >>87  13.風見鶏の向く方。

 >>90  14.風見鶏が鳴いた。

 >>92  15.幼馴染みって突然気になっちゃう時が来る。

 >>104  16.昔は良かったって、昔は昔。

 >>106  17.二度寝は命取り。

 >>110  18.覚えてろとは言わない、忘れるな。

 >>115  19.空白。

 >>120  20.男も女も、背中で語れ。

 >>128  21.誕生日は酒を呑む為の口実である。

 >>132  22.笑顔の裏には何かある。

 >>138  23.最近自分の記憶力が信じられない。

 >>141  24.冷やし中華始めました。みたいなノリはやばい。

 >>143  25.綺麗な女も、良い男も、絶対訳アリ。

 >>148  26.誤解が誤解を生んで、結局最初の話ってなんだっけ。

 >>152  27.子供の頃の腐れ縁と女の縁は切っても切れない。
     

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Re: 曇天 最近自分の記憶力が信じられない。up ( No.140 )
日時: 2009/07/02 17:40
名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)

ちょっとあげます^^

Re: 曇天 最近自分の記憶力が信じられない。up ( No.141 )
日時: 2009/07/11 00:01
名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)

 まだ梅雨が抜け切らない、初夏の朝。
 まだ少し、湿気があるものの、久しぶりのすっきりした快晴であった。
 そんな雨上がりのぬかるんだ道を、黒い革靴で歩く青年が一人いた。耳には白いイヤホンをして、微かに音漏れをさせながら。比較的、軽い足取りで何処かへ向かっている。
 その青年とすれ違う人々は、小さな音漏れを聞きつけて思わず振り返る。
 青年は、落語を聞いていた。


 24
冷やし中華始めました。みたいなノリはやばい。


 栗色の髪をした男が、真顔で万屋のインターホンを押した。落語が絶えず流れるイヤホンをした男である。中で軽やかな音が響くが、人が出てくる気配は全くと言っていいほど無い。
 男は立て続けに二回ほど押した。反応はない。つづいて三回。物音一つ無い。
 そんなことを繰り返しているうちに、彼は手を止めることなく、インターホンを連打しだしていた。もはや軽やかな音などはなく、インターホンはサイレンと化した。
 すると、次の瞬間、男の左側にあった戸が、店の主人のもの凄い跳び蹴りによって吹き飛ばされ、下の階へと姿を消した。
 息切れと、硝子が派手に砕け散る音のみが十数秒続いた後、主は青筋を立てて叫んだ。
「うるせぇぇぇぇぇ!!!一回鳴らして出なかったら大人しく帰りやがれぇぇぇ!!」
「おはようございます。旦那」
 戸の右側に立っていた男は、主に右手を挙げて挨拶をする。主の方は、尋常じゃないサイレンの音で目覚めさせられた為、機嫌がいいわけはない。右の頬がぴくぴくと痙攣をしている。
「あ?総一郎くんじゃねーか。てめえ何時だと思ってやがる」
「八時でさぁ」
「なに当たり前みたいな顔してんの。ふざけんなよお前」
「仕事してるひとが八時に起きてるのは当たり前でしょう?旦那ぁ」
 男が無邪気な顔をして首を傾げた。主の方は、なにか言いたげな顔をしたが、腕を組んで黙り込んでしまった。
 男は、してやったりと、緩く口元を吊り上げる
「いい仕事を持ってきたんで、中にいれてくんなせぇ」  
 主は首を傾げ、白髪頭をかきならがらも、渋々「あがれ」と言った。

「はああ!!?丹波を一日貸せだぁ?」
 銀時は沖田と二人、事務室の大きなテーブルに向き合って座っていた。
 ここ最近、吉原関連の仕事で朝帰りの為、万屋の生活は一般人とほぼ逆転しつつあった。そのため、神楽も、新八も、丹波も、現在進行形で寝ている。銀時も、沖田が来るまではぐっすりと眠りこけていたところだった。
 水商売をしているなど、口が裂けてもこの目の前にいる沖田には言えない。ありえないスピードでこの噂が広まってしまうことが、容易に推定できたからだ。
 銀時はいい仕事と聞いて沖田を部屋にあげたのに、仕事の内容があまりにもあれだったので興ざめしてしまったらしい。ソファの背もたれに腕をかけ、怠そうに開いている方の手をひらひらと泳がせた。
「だめだ、だめだめ。とっとと帰りな」
 沖田は不満げに、右手を懐へ突っ込んだ。
 この様子を、神楽達三人は寝室のふすまから覗いていた。銀時が仕事を断れるかどうか、不安だったからだ。
「お、銀ちゃん断れそうネ」
「はー、よかった。さっき帰ってきたばっかりなのに、丹波さんをまた仕事になんかだせませんよ」
「いや、でも危ないと思う」
 丹波が部屋を覗きながら顔をしかめた。
「高い金積まれたら終わりだな」
「大丈夫ネ!あいつがそんな大金持ってるはずがないアル」
 そう神楽が自信満々に胸を張った瞬間、ふすまを覗いていた新八が小さい声をあげた。
 沖田が懐に入れていた手を抜きだし、厚みのある札束を取り出してぼんとテーブルに投げたのである。丹波の思惑通り、銀時の目の色が変わった。
「大事な仕事なんでねィ、金ならいくらでも出しまさァ」
 にやりと沖田の口元がきついカーブを描く。ドS王子の降臨であった。銀時は札束を前に目を白黒させて呻った。
 そして、
「ふつつか者ですが、宜しくお願いします」
「ふつつか者はてめぇだぁぁぁぁぁ!!!」
 銀時が頭を下げた瞬間に、新八と神楽のライダーキックが綺麗に顔面に決まった。
 丹波はもう既に、部屋で着替えだしていた。

「なんで旦那の服なんか着てるんですかィ」
「上司命令」
 丹波は顎が外れるのではないかと思うほど大きな口を開けて、それを隠そうともせずにあくびをした。目尻にうっすら涙がたまる。
 丹波は昨夜も吉原で働いていたというのに、その疲れは微塵にも表情には表れてはいなかった。そんな彼女はあっさりとした口調で、隣を歩く沖田に聞いた。
「で、仕事って何?」
 しばらくの沈黙。様子がおかしい事に気が付いた丹波は、沖田の顔を見る。目を合わせようとせず、道路を挟んで向こう側の通りを見ていた。
「あ、あそこのラーメン屋、冷やし中華始めてらぁ」
「おーい。ちょっと、沖田君」
 丹波は呆れたようにため息をついた。
「なんで俺を呼んだわけ?」
「いや、」
 沖田は珍しく、焦ったような素振りを見せ、隊服のポケットやら懐をごそごそと探った後に、二枚の紙切れを丹波の目の前につきだした。
「大江戸ねずみらんどのチケット、二枚あるんで、ちっとばかり俺のオフに付き合って貰おうかと」
「まじですか」
「いやですかィ?」
 沖田は目を合わせないまま、ぽつりと呟くような口調で問いかけた。丹波は「いや」と頭をかきながらこたえる。
「なんで、俺?」
「丹波さんじゃなきゃ駄目なんでさぁ」
 丹波は深い理由は聞かずに、ふうんと鼻にから抜けるような声をあげる。
 二人が歩いている背後の茂みが、がさがさと揺れる。そして、まるでモグラのように白と桃色の頭が生えた。後ろで新八が呆れ顔で突っ立っている。
「ななななっ!!あいつ…桜とデートする為にあんな大金を持ってきたアルか!!」
「俺だって一緒に遊園地なんざ行ったことねぇのに」
「沖田さんも沖田さんですけど、僕らも僕らですよね。こんな大金もらっといて、依頼人のあと付けてるなんて」
 そういって新八は、銀時から渡された大金を見つめた。
 すると、新八はなぜかその紙幣に違和感を感じ、眼鏡をずりあげてじっと見つめてみた。
 すみっこの方に、「こども銀行」の文字が。
「銀さんんんんんん!!!これ偽札ですよ!」
「なんだとぉぉぉぉぉう!!おまっ!早く言えやぁぁぁぁぁ!!!」
「あんたが一番最初に受け取ったんでしょうが!!」
「銀ちゃん!あいつタクシーに乗ったネ!!」
 新八と銀時が口論をしている内に、二人はタクシーに乗ってしまったらしい。銀時達もタクシーを待つが、来る気配はなさそうだ。どうするかと行っているときに、脇に止まった黒い車がクラクションをならした。
「のれ」
 隊服を脱いだ土方と近藤であった。なにやら表情はやや曇り、焦っているように見えた。訳も分からず三人が車に飛び乗ると、土方は思いっきりアクセルを踏んでタクシーを追いかけ始めた。
 土方の運転は荒く、車体は右へ左へと大きく揺れた。体勢が立て直せずに、後部座席で三人がぐちゃぐちゃと団子状になる。
「あああああぶね!!もっと柔らかく運転できねーのか」
「うるせぇ!シートベルト閉めろ、シートベルト!」
「なんでそんなに慌ててるんですか!沖田さんと丹波さんが遊園地に行くのがそんなにまずいんですか!?」
 新八が死にものぐるいでシートにしがみついて叫ぶが、土方は「向こうで話す」と言ったきり、口を開かなくなった。 
 そんな酷い運転だった為、大江戸ねずみらんどに着く頃には、土方以外の乗車していた人物が全て酔っていた。神楽などに至っては、銀時に背中をさすられながら駐車場の隅で今朝のご飯を一升分リリースしていた。
「土方さん、なんで今日は沖田さんのこと追ってるんですか」
 土方はなぜかサングラスを掛け、渋めに煙草をふかしながら言った。
「今日は、あいつの誕生日なんだよ」
「誕生日?」
 新八はあまりにも平凡な理由に、すこし気が抜けてしまった。すると、近藤が難しい顔をして、腕をくんで新八の後ろから声を掛けた。
「沖田の誕生日はすごいからな、もうほんと…すっごいからな」
「わっかんねーよ!どこがどう凄いんだよ」
 なんでも、彼の誕生日のことを話すと、ストレスでなんか毛が抜けそうになるらしい。どんな誕生日だったのかと、聞いてみたかったものの、土方の顔がだんだん蒼白になってきてしまったので、新八はそれ以上聞こうとはしなかった。
「つまり、あいつから桜をまもんなきゃなんねってことだ」
「銀さんはその台詞言える立場じゃないでしょ」
 銀時は神楽の背中をさすりながら、視線を上に上げた。この元凶を作った当本人であるくせに、なぜか彼はヒーロー気取りであった。新八の視線が鋭く刺す。
「お、総悟達が中にはいるぞ」
「おっしゃぁぁぁぁ!!桜を守るアル!」
 嘔吐から復活した神楽は、右手に風船、頭に子供用キャップをかぶり、猛ダッシュで入り口へと走っていった。確実に、丹波を守ると言うよりも、思いっきりエンジョイする勢いであった。
「おいい!!あいつもう目的が違うぞ!目が違うもの!なんか食う気満々だったものぉぉぉぉ!!」
 銀時は大声で叫ぶと、大慌てで三人を追っていった。
「なぁ、あいつら追ってきてるぞ」
「しってまさぁ」
 丹波が中を歩きながら、沖田にぼそりと囁きかけた。後ろの方で、ぎゃーぎゃーと騒ぎながら後を着いてくる、派手な団体がいた。しかし、沖田はなにも慌てることなく、丹波の横で鼻歌を歌いながら、ご機嫌そうに歩いている。
 普段はつかみ所がないけど、こんな一面もあるのかと、丹波は少しだけ嬉しくなった。今日一日ぐらい、この青年のわがままを聞いてやってもいいかな。とまで思うようになっていた。
「何アル。もうかれこれ二、三時間たってるのになんのアトラクションにも乗らないアル」
「こっちは三十分経たずしてもうおやつタイムにしてたってのに」
「てめぇら、やる気あんのか」
 銀時と神楽は、茂みに顔を突っ込んでポップコ−ンをほおばりつつ、遠くから沖田達を観察していた。
 土方こそはぴりぴりとして、なにやらそわそわとしていたが、予想外にも、丹波と沖田は楽しく会話をしながら、買い物を楽しんでいる程度のようで、何も心配をすることはなさそうに見えた。
 土方は殆ど一人で、双眼鏡を覗いていた。すると、丹波と沖田の様子が、少しだけおかしかった。
「なぁ、俺みたいなのと歩いてて楽しいのか?」
 丹波は可愛らしいぬいぐるみを眺めながら、隣にいたはずの青年に声を掛けた。
「なんでそんなこと言うんですかィ」
「俺、男みたいじゃん。もっと可愛らしい子がいるだろ。神楽とかさ」
 沖田はぶっと吹き出し、口元に手をやって笑いをこらえている。丹波が訳も分からず首を傾げると、沖田は碧眼を真っ直ぐと見つめた。もう目はそらさない。
「丹波さん、手ぇ繋ぎましょう」
 目を丸くする暇も、聞き返す暇もなく、丹波は沖田に手を引かれ、何故だかわからないが走っていた。
 いきなり店を飛び出した二人を見て、銀時達は唖然とした顔をしていた。
 外はもう、夕方だった。
「な、なぁ!」
「なんでさぁ」
「これは、手を繋いでるってゆうのか?」
 息を途絶えさせながらも、丹波は走りながら聞いた。沖田は何の返事もせずに、ただ手首を強く掴んで走っていた。
 何処に向かっているのだろうと、丹波が思っていると、沖田は客足が引いてきた観覧車の前でスピードを緩めた。そして、銀時達に追いつかれる前に、滑り込むように観覧車に乗り込んだ。
 そうとうな距離を結構なスピードで走った為、丹波の息は酷い乱れようであった。沖田も、額の汗をぬぐいながら、土方の唖然とした顔を見ながらにやりと微笑んだ。
「はー、疲れた。なんであんな走るわけ」
「だって、あいつらに捕まっちゃうじゃねぇですかィ」
「なんで観覧車に乗ったわけ」
「乗りたかったからですよゥ」
 なにやら丹波は疑問まみれで不満そうな声で、立て続けに質問を重ねてきた。沖田はなかなかない、ゆっくりとしたこの時間の中で、ただ外を眺めていた。ここで、丹波がまた同じ質問をしてきた。
「なんで、俺とここに来たかったわけ?」
 今度は、すこし呆れたような、でも、すごく柔らかい声だった。
 沖田の中で、昔の記憶のどこかにあった声と、静かに重なり合う。求めていたのはやはりコレだったと、心の中で、勝手に一人で納得をした。
「毎年、この日に派手なことをするんですがねィ、なんともしっくり来なかったんでさぁ」
「うん」
「土方をいっくら困らせたって、近藤さんにこれでもかって甘えたって、どーもしっくりこねぇ」
 丹波はやはり、わかったような、わからないような曖昧な相づちをうった。理解しようとはしているのだ。腕を組んで、首を傾げているのだから。沖田はそんな姿を見て、やはりどうもこらえきれなくなったらしい。小さな幼稚園児が、母親の胸に顔を埋めるように、沖田は丹波に飛びついてしがみついた。
 丹波はいきなりの事に硬直するが、様子がおかしいことにすぐ気が付いた。
「母親の顔は覚えてねぇんでさァ。でも、姉貴の顔はいっくら忙しいときでも頭の奥でちらついてる。それが、なんで丹波さんと重なるんだか、俺にはわからねぇ」
「うん」
「まったく別人なのに、」
「うん」
「なんで…」
「…うん」
 頭の上ではただ、「うん」と言う声しかこぼれなかった。それが逆に居心地が良くて、沖田は彼女の腹部に顔を強く埋めて、呼吸を繰り返した。頭にぽんぽんと軽い振動が伝わってきた。
 未だに消えない暖かさが、今頭に響く振動と共に、絞り出されるように蘇る。それがたまらなく嬉しくて、沖田は少年に帰り、大きな声をあげて泣き出した。
 丹波は沖田の栗色の髪から、すぐ隣に並ぶ空に目を移した。
 日が沈んだ後の濃い朱色の空と、月を迎える深い群青の空が泥水のように混ざり合っていた。

                                     7月8日

Re: 曇天 冷やし中華はじめました。みたいなノリはやばい。up ( No.142 )
日時: 2009/07/24 23:15
名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)

うっぎゃぁ!かなりほったらかしですみません;;
護空です。
なんか、みなさん忙しいんですかね。
なんか寂しいですねー。

ちょっとあげます^^

Re: 曇天 冷やし中華はじめました。みたいなノリはやばい。up ( No.143 )
日時: 2009/07/24 23:15
名前: 護空 (ID: bG4Eh4U7)

 すっかり梅雨が明けて、ようやく江戸はからっとした初夏の陽気を迎えた。
 耳にはちらほらと蝉の鳴き声が聞こえだし、茶屋の店先にぶら下がった風鈴も、それに便乗するかのようにちりちりと爽やかに騒ぎ立てた。
 そんな陽気になっても、万屋は相変わらず吉原でバイトを続けていた。遊女の着ている煌びやかな着物も、艶っぽい化粧も、それぞれがもはや自分一人で全て出来るまでになっていた。稼ぎも良く、昼と夜の仕事がしっかりと分けられるので、これ以上に良い仕事はないのではないかと思うほどである。
 しかし、ここ最近様子がおかしい。吉原に岡っ引きやらが降りてくるようになってきた。その理由や事情はまだ知らないが、きっと幕府の裏で何かがあったに間違いはなかった。
 吉原だけではない、上の江戸でも何やら妙に騒がしいのだ。
 何かがゆっくりと動き出している。
 三日月の下で頬におしろいを塗りながら、四人は妙な胸騒ぎを感じていた。
 

 25
 綺麗な女も、良い男も、絶対なんか訳アリ。


 それぞれの部屋での接待が、二、三人ほど片づいた頃である。時計の針は十時を回っていた。化粧直しの為に、四人は化粧室にいそいそと集まっていた。鏡は小さな部屋に六つ、壁に張り付いているので互いの顔は見えないが、各々が隣に誰か居るのだけをとりあえずは感じていた。
「さっき銀さんの部屋からすごい音したんですけど、なんですかアレ」
 新八がアイラインを引きながら銀時に視線を送る。銀時は唇に紅を差しながら、少々不機嫌気味に「あ?」と返事をして目玉だけ新八の方を見ていった。
「いや、それ俺じゃねえよ。神楽、神楽。俺殴るだけだったもん」
「えええええ!客殴ったんすか!駄目でしょそれ」
「だって、気持ち悪かったアルし」
「お前もかぃ!丹波さんなんとか言ってやってくださいよ」
「酔ってるから一発くらいわかんねーじゃん」
「いや、しらねーし!ってか丹波さんまで!?」
 そんな他愛もない話をしていたが、丹波だけは少しだけ意識が違っていた。この間来た、名前の知らない客がいっていた言葉が、どうも引っかかって仕方がない。もしかしたら、今回の遊女さらいの事件と関与しているのではないか、とまで考えていた。が、あの濃いサングラスの下から覗いた瞳に、陰はなかった。
 あの人じゃないといいんだけどな。
 心の奥で、なぜかあの男のことを庇っている。丹波に理由は分からなかった。しかし、直感であの人は違うと、信じている面があった。
 化粧を終えて、四人は板張りの廊下へでた。すると、月詠が相変わらずさらりとした顔をして立っていた。手には文字がぎっしり書かれたリストのようなものが。四人全員、軽く嫌な予感がした。
「どうしたんですか。月詠さん」
「今日は銀時、神楽、新八の部屋に警察の幹部殿がお見えになる。心して就いてくれとの事じゃ」
「げっ、めんどくせーな。お行儀良くしなきゃなんねーじゃん」
 銀時がぶーぶーと口をとがらせると、丹波は目を丸くした。
「あれっ、俺は?」
「桜は、前から予約の入っていたお客さんじゃ。職業と、名は伏せてある」
 まあ、こんな客は珍しくないからな。と月詠は至って冷静である。
 この言葉の後、銀時は月詠になにやら文句をつけていたが、丹波の耳には全くと言っていいほど、聞こえてはいなかった。
 丹波の脳裏には、サングラスを掛けたあの男がちらついていた。

「あーあ、面倒臭ぇ。幹部とかまじこんなトコくんなよ。仕事をしろ、仕事を」
 銀時は任された満月の間に入り、中央の座布団に腰を据え、後から後から沸いてくる不満の声を口に出していた。しかし、すぐに月詠が給料アップと言っていたのを思い出して、まぁいいか。と、吹き出した鼻息と共に肩の力を抜いた。
「お銀。お客様が入るぞ」
 月詠の声を聞いて銀時は綺麗に座り直し、着物の襟を直すと、さっきの態度とは打って変わって、おしとやかに畳に手をついた。戸の擦れる音と共に深々と頭を深く下げる。
「お銀でありんす。」
 返事はない。
 男は刀をがしゃんと音を立てて置くと、疲労の混じった様なため息を漏らしながら座布団に腰を埋めた。かちりとライターの鳴る音がして、一瞬にて部屋に煙草の匂いが立ちこめる。
 なんだ。態度のでかい客だな。
 銀時は思わず顔をしかめて顔を上げた。今日はかつらの髪を結わえずに出てきたので、長くのびた前髪が微かに左目にかかるが、確かにはっきりと相手の男の顔が見えた。
 半分瞳孔が開いたような鋭い眼光。整った顔立ち。さらさらの黒髪、しかもストレート。そして、マヨネーズ型のライター。
 確実に黒星であった。
 ひっ…土方ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?
 銀時は頭が真っ白になった。詰めが甘かったと後悔した。警察幹部と伝えられた時点で逃げるべきだったと。
 あまりに衝撃的な出来事が目の前で起きてしまい、口を大きく開いたまま硬直してしまった。これで自分のことがバレては、未成年をお水商売に就かせているという時点で確実に豚箱行きではないか。
 冗談じゃねぇ。
「…おい」
 土方の声にびくりと身体が跳ねる。銀時は顔が出来るだけ見られないように、白銀の長髪を頬の横に垂れ流しにして「はい」と返事をした。彼の脳裏には、自分を侮蔑の目で見下ろしあざ笑う、憎らしい鬼の副長の姿が浮かんでいる。
「おい、女。聞きたいことがある」
「え」
「どうした?」
 まさかと思って顔を上げた。土方の目は至って大まじめに、自分の顔を見つめているのである。脳裏の鬼の副長の姿は何処にも見あたらない。
 銀時は一か八か、息を呑んで思い切って聞いてみた。
「お侍さん。前に何処かでお会いしませんでしたか?」
「…いや。白い髪の女は初めて会ったからな」
 銀時の脳裏に、希望の光が差した。
 こいつ、気が付いてねぇ!
 どんだけ鈍いんだと内心呆れていたが、「勘違いでした」とだけとりあえず言って、銀時はほっと胸をなで下ろした。ここで真選組に見つかってしまっては、いままでここで積み上げてきた仕事のキャリアとこれからのお給料が全てパーになってしまう。
 気が付いていないなら好都合、すぐにお仕事モードにスイッチを切り替え、表面だけの綺麗な笑顔を浮かべて聞き返した。
「ところで、聞きたい事ってなんですか?」
「ん、ああ」
 土方は懐のポケットをかき回し、一枚の写真を出して銀時に見せた。
「この男を、ここら辺で最近見かけるか?」
 銀時が手に取ってのぞき込むと、そこには見覚えのある顔があった。
 昔に会ったことのある、あまり良い印象ではない顔。ピンクの髪に、白い肌、そして、綺麗な笑顔の青年であった。
 
「桜でありんす」
「知っているでござるよ。桜殿」
 深く下げた頭の上から、ひと月前に聞いたはずの声が落ちてきた。丹波が驚いて顔を上げると、そこには脳裏に浮かんでいた男のイメージとは全く裏腹の男が立っていた。
 髪型は変わらないが、サングラスもヘッドホンも付けていない。堅苦しい黒いスーツ姿の男であった。男は上着を脱いで、ネクタイを緩めながら、まるで家に帰ってきた旦那のように、座布団の上に腰を据えた。
「あの、どうしたんです」
「なにがでござる」
「依然お見えになった時と、お召し物が随分と違っているものですから」
「ああ。これでござるか」
 男が自分の左側に置いた上着を軽く持ち上げ、目を合わせた。小さく丹波が頷くと、男は何故か少し、照れたように頭をかいた。
「実は仕事帰りで、そのまま来たのでござる」
「へぇ、それは随分と立派なお仕事なんでしょうね」
 丹波が酒をつぐ手を止め、感心したように目を丸くし、尊敬の眼差しで男を見つめた。ところが男の方は、その目を見るなり逃げるように顔をそむけてしまった。顔は複雑な心境をあらわにしている。
「さぁ、立派なものなのかどうなのか」
「一体、どんなお仕事なんですか?」
 男はちらりと丹波の方に視線を泳がせてから、決心したように彼女を真っ直ぐに見つめ、低い声で言い放った。
「主の声を聞きに来たのでござる」
 
 神楽の兄貴じゃねぇか。
 銀時は写真を見つめて、思わず険しい表情を浮かべた。すると、土方は目の前にいる白髪のキャバ嬢の表情の変化を察したらしく、すぐに問いかけてきた。
「どうした。見覚えがあるのか?」
「え、いや。こんな派手な頭の人は見たこと無いですよ。うん」
 慌てて首を横に振ったが、その焦った反応が裏目に出てしまった。土方の目力に鋭さが一気に三割増、言葉遣いも乱暴になった。
 もはや、そこらへんに居るゴロツキとあまり変わらない。
「何か知ってるンなら、とっとと話せよ」
 まずい、これはまずいぞ。何か手を打たなければ何かいろいろやばい。
 そう思った瞬間、一つ飛ばして向こうの部屋から、爆音に近い音と罵声が店中を揺らした。何かものに例えて言うならば、部屋にダンプが突っ込んできた、あんな感じである。
 その上、神楽の声と、よく頻繁に聞く若い青年の声だ。
「てんめぇぇぇぇっ!!この写真何処で手に入れたアル!」
「てめっ!チャイナじゃねぇか!未成年がなんてトコにいるンでぃ!!しょっぴくぞ!」
「てめぇも未成年だろうが!!このハゲ!その首しょっぴかれてぇのかぁぁ!?」
 二人は廊下へ飛び出し、取っ組み合いの大喧嘩。新八も部屋から慌てて飛び出して、神楽の動きをどうにかして止めようとしていた。
「神楽ちゃん!押さえてって!ここお店の中だし!!」
「うるっせぇ!駄眼鏡!!その唯一の取り柄を粉々にすんぞ!!」
「ええええ!意味わかんないし!!なんか意味もなく僕被害者だし!」
 神楽は兄の写真を見せられ、すっかり頭に血が上ってしまい、もはや手の付けられない状況であった。
 もう最悪な展開、四面楚歌であった。土方がふすまから顔を覗かせて、廊下の様子をうかがっている間に、銀時はそっと店の窓にすり寄っていった。
「おい。万屋」
 窓枠に肩脚を掛けた瞬間、ドスの利いた低い声が響き、背中を一気に凍らせた。体中が変な汗まみれであった。銀時は目を白黒させながら、ブリキの機械のようにゆっくりと声のした方を振り返って見た。
 鬼の副長、降臨である。
「どういう事だ、これ。未成年こんなとこで働かせて、ただで済むと思ってんのか天パ」
 あまりの威圧感に、思わず目が熱くなって、涙目になった。鬼の副長は照明を背にして、顔に黒い陰を帯びている。
 しょっぴかれるならまだいい、完璧殺される。
 頭の中で必死に念仏を唱えだした時である。今度は新月の間から、鼓膜を引き裂くような丹波の悲鳴が響いた。
「桜!!!」
 銀時は急いで立ち上がり、土方を押しのけて部屋を飛び出した。沖田と喧嘩をしていた神楽も、なぜか新八を床へ激しく突き倒して銀時の後を追う。
 乾いた音を立てて、勢いよく部屋の戸が開かれたと同時に、部屋から勢いよく強い風が吹き込み、銀時のかつらを吹き飛ばした。
 部屋はがらんと静まりかえり、中央の座布団の脇でとっくりが倒れ、口から酒を吐いていた。しかし、猪口だけは綺麗に上を向いていた。
 銀時は明け放れた窓に駆け寄り、闇の中に顔を突っ込む。吉原の夜は明るい。あちこちが煌びやかなネオンで、まるで真昼のようである。
 しかし、頭のすぐ上は真っ暗である。三日月がこちらを見下ろし、白い歯を見せてにやりと笑っているだけであった。
     

Re: 曇天 綺麗な女も、良い男も、絶対訳アリ。up ( No.144 )
日時: 2009/07/30 13:45
名前: 悠里 (ID: eCQLZ4l8)

こんにちは〜、ここに来るのは何週間ぶりなんでしょうかね?
悠里でっす。

桜さん誘拐されちゃいましたね!
私の予想はきっと神威の所までいくんじゃないかと思ってるんですが…。
神威でてきた時点でテンションが…!
後ろに家族がいなくてよかったです。ひゃっほう!
銀さん触ったおっさんとオタクが物凄く嫉妬しましたよ。私にもさわr(黙れ
沖田は誕生日に桜さんと過ごせてよかったですね!
アニメの新しいEDにはミツバさんでてるし!

久しぶりのコメントこんなんでゴメンなさいorz
続きが気になる…!!!
今度はもっと速く見るように心がけよう…。
ではでは。


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