二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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東方書古録
日時: 2011/01/18 22:17
名前: 変態と狼と猫と騎士 (ID: DTrz5f5c)

どうも皆様、クリックありがとうございます。
この小説は【東方Project】の二次創作作品【幻想入り】です。
その為以下の要素が含まれます。

・キャラ崩壊
・オリキャラ要素
・原作独自解釈
・ネタ成分

これらに耐性が無かったり、抵抗がある場合は【気をつけて】この作品をお読みください。
尚この作品はリレー小説の為、作者・主人公が複数人います。
以下が作者一覧となります

・トレモロ
・agu
・Nekopanchi
・とある騎士

それでは以上を以て作品紹介を終わりにさせて頂きます。
できれば楽しんで読んで頂けると幸いです。

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Re: 東方書古録 ( No.22 )
日時: 2011/04/07 21:52
名前: Nekopanchi (ID: 271PzwQK)

「あ、いえ、てっきり名前は『ヒゲ夫』さんとかだと思ってたのでちょっと驚いていただけですよ」

…………!?

「『ヒゲ夫』な訳ないだろ!? と言うことは何!? 俺は産まれた時にもう不精髭生えてたとでも言うの!? 何なの俺!? ねえ何なの!? 大体産まれた時既に不精髭生えてる赤ちゃんいたら恐ぇよ! 助産婦さん戸惑うわ!」

笑顔で酷いこと言うねあんた!? ていうか俺ってこんな早口でツッコめたんだ!? 自分でも吃驚したよ!

「違うんですか?」

「そこで不思議そうにきょとんと首を傾げられても!?」

そして大妖精の純粋さにもお兄さん吃驚だよ!
……おい誰だ今『お兄さんじゃなくてオッサンだろ?』って言ったの!


いや、でも……うん、やっぱりこの子凄い純粋……。…社交辞令って概念がないんだろうね…だって可愛らしい微笑み浮かべながら容赦無く心抉ってくるんだもの……もしこれが確信犯ならかなりのドSだけど悪意は全く感じないし……。

「あ゛ー、ともかくこの話は『俺の名前はヒゲ夫じゃない』って事で終結な」

俺は仕切り直す様にわざとらしく咳払いをして、話を終わらせようとする。……が……

「あのー、結局マナブさんは産まれた時にもう髭が生えていたんですか?」

「髭の話は終結って言ったよね!?」


『終結』と言ったにも関わらず大胆に訊いてきた大妖精に、思わず目を見開いて声を荒げてしまった。……と言うか生まれて初めてゴリラを見るかのように目を輝かせながら俺を見るなよ大妖精! アレか!? 毛深繋がりか!? でも俺の髭はあくまで無精髭だからそれほど長くないんだけど!?

「あ゛ー、もういい! 次は俺が訊く番だ! さっき君は自分の事を妖精って言ってたけど妖精って具体的に何さ!?」

もう嫌気が差したのでさっきから疑問に思っている『妖精』について訊くことで髭の話を強引に絶ち切る事にした。すると大妖精は俺の勢いに気圧されたのか驚いた様に後退るも、すぐに口を開いた。

「あの、結局マナブさんのその髭は——」

だから初めてゴリラを見るようなキラキラした目で俺を見るなよ! そのキラキラした目が痛いよお兄さんは! ……それに読者もここで『お前お兄さんじゃなくてオッサンだろ』って思うのやめろ!

俺は大妖精が言い終わるより先に、と言うより大妖精の声に被せるように声を荒げる。

「よ・う・せ・い! 俺は妖精について聞きたいの! 髭はもうたくさんだわかったかうりぃぃぃぃぃ!!」

……もう何もかもが嫌になって顎の不精髭を人差し指と中指の爪で引き抜きながら半ばなげやりに、後半は完璧に声を裏返しながら叫んだ。

すると大妖精はビクッと震えて諦めた様に押し黙るも、見るからに不満そうに口を尖らせて俯き、小さく残念そうに「髭……」と独りごちる。

一体何がお前をそこまでさせんだよ!?

「はぁ……わかりました。妖精について教えればいいんですね? ……とは言っても、納得できるまでの説明が出来る自身はありませんが……。」

……本当に不本意な様で、あからさまにため息をつかれたが、何はともあれ、『妖精』の詳しい話を聞くことで話が進展するかもしれないし、何よりもう当分は髭について訊かれる事は無いだろう。

「ええと、じゃあまず『妖精』について詳しく話すにあたってどうしても教えて貰わなければならない事があるんですけど……」

いつの間に気を取り直したのか、大妖精の顔からは先程の不本意そうな様子は微塵も感じられず、今は真剣で、神妙な面持ちで俺を見ていた。……何やらボケ一切無しの真剣な話の様だ。

「……わ、わかった。知る限りの事は答えるよ」

これまでにない大妖精の、真剣な迫力に、思わず息を飲んでしまいながら返答する。
大妖精は俺がYESの意思表示をしたのを確認すると、神妙な面持ちを少しも崩さず、ゆっくりと口を開く。

「ありがとうございます。それでは聞きますけど————」

……彼女は何故かそこで言葉を切り、もう一度真剣な眼で俺を見る。

……い、一体どんな事を訊いてくるんだ……!? ……一体なんなんだよこの重苦しい空気は…!。

この重苦しい空気の中で、彼女は一体どんな事を訊いて来るのかは全く予想出来なかったが、一つだけ予想出来た。……それは答える事を一歩でも間違えたなら大変な事になるような……そんな危険を孕んだ質問という事……少なくとも先程髭髭言っていた遊び半分の質問じゃない。

……そんな重苦しい空気の中、大妖精が静かに息を吸って言葉を続けた。




















「結局マナブさんの髭は……」

「終いにゃ張りっ倒すぞお前」

もう、刹那だった。大妖精が言い終わらないうちに言葉が出たよ

……心の中で思いっきりずっこけたよ! あんだけ雰囲気作っといて何でまた髭について訊くんだよ!! それに……

「何で妖精について話すのに俺の髭について知らなきゃなんねえんだよ!?」

「聞かないと気になって仕方がないんですよ! 妖精について教えるどころじゃないんですこの馬鹿!」

……それまでずっと真剣な顔だったが、いきなり可愛らしく眉間にシワを寄せて怒鳴り始める大妖精。

「逆ギレ!? というかなんで!?」

「だってマナブさん程のオッサン見た事ないんですよ! 髭も天然パーマも含めて!」

「答えになってねえ!?」




————拝啓おふくろ様。そして親父様。
……俺が高校生にしてオッサンみたいなのは一体どっちの遺伝子のせいでしょうか……。 でも何はともあれ——

「あー、もう教えてくださいよ! 何でそんな無精髭が生えて——いや、もういいです、ハッキリ訊いちゃいます。何でそんなオッサンみたいなんですか!」

「や、やめろ! 肩つかんで揺らしてくんな!」

「マナブさん髭! ねえ教えてくださいよひーげーー!」

「もう嫌だあああああああぁぁ………」

ガクガク揺らされながら、誰に言うわけでもなく、悲鳴にも似た切実な言葉が漏れた。

——親父でもおふくろでも誰でもいいからこの子を止めて……。


つづく

Re: 東方書古録 ( No.23 )
日時: 2011/04/14 21:24
名前: あぐ (ID: gWH3Y7K0)

——ともかくも馴染んできたのかもしれない【非常に不愉快ですが】


家族とはこんなものなのかも知れない——自分でも拉致されてこういう考えが浮かぶとは驚きだ。
ここの住人は騒がしくて、親切で、陽気で……温かい。たった数日間しかいないのに、そう思ってしまう。
紫は自堕落で、どうしようもない妖怪。藍さんは常識人で真面目だが、橙のことになると途端に暴走する。当の橙は素直で良い子なんだがね。

まぁ、そんなものであるけども、さて若干付け足してみよう。

紫は自堕落でどうしようもないかも知れないが、まだ息子かどうかも分からない俺に慈愛を見せてくれる。風呂に一緒に入ろうなんて声を掛けられた時は吃驚した。
藍さんは常識人で真面目。橙のことになると途端に暴走する。正直、鼻血を垂らしながら橙に迫るのは非常にマズイ、残念だといわざるを得ないのだが、
基本はやはり落ち着いた理性的な人で、紫の暴走の沈静役や、家事全般を担当してくれる。俺に対しても何処か弟や息子を見る様な温かい瞳だ。
橙は橙で素直で良い子。時折悪戯を仕掛けてくるが、可愛いもの。彼女と縁側で寛ぐのは日課になっていて、しかも兄の様に慕ってくれている。

正直、向こうの現実にいた時よりも充実している生活だ。家には家族がいて、コンビニ弁当ではなく手料理。辛い時や悲しい時には誰かが慰めてくれる。
あの鉄と金と血で出来た巨大な歯車に誰が戻りたくなるのか。少なくとも常人ならそうは思わない……ただ、ただ俺は生憎、疑り深い性格だった。
彼女らは誘拐犯なのだ。俺をおかしな理由で“向こう”から拉致してきた連中なのだ。それに妖怪、幻想郷。そう言った話を上手く飲み込めずにいるのも確かだった。

俺は彼女らに騙されているのではないか? 本当は俺は壮大な手品に目暗ましをされているだけで……そうだ、薬物でも打たれているんじゃ……
——思考がそういう風な方向に飛ばないと言ったらそれは嘘を付くことになる。因果な性格だと実に思う。
幼少の頃から、両親の庇護と愛情を受けていないと歪んだ人間に育つという好例かも知れない。

しかしともかく、現時点ではどうも出来ないのも確かだ。屋敷の庭を散歩ぐらいなら許されるが、それ以上は決して許可はしてくれない。
紫が述べる所によると「何の力も持っていない貴方なんかが出て行ったら、瞬殺されちゃうわ! 絶対に駄目よ!」とのことだ。

そんな感じで半ば監禁状態ともなっている俺。

今も縁側で明るく輝く星空を見上げながら、透き通った冷気を肺に吸い込んでいる。

「……嫌になるほど……綺麗だな」

瞬く星たちを見ながら、そうポツリと呟いてみる。
どうも美しすぎたり、綺麗すぎるものは苦手だ……

「——ふふ、何か含む所でもあるのかしら?」

「くぁwせdrftgyふじこlp;@:『』!?」

ニョっと出てきた八雲 紫。言葉にならずに腰を抜かした。

「し、心臓に悪い。いきなりスキマから現れるのは止めてくれ!」

「あらあら。酷い言いぐさね。息子にちょっと悪戯しようとしただけなのに」

「……そのちょっとした悪戯が俺にとっては非常に心臓に響くんだよ」

嬉しそうに微笑みながら首を傾げる紫にそう素っ気なく告げてやると、彼女はくすくすと静かに笑った。

「で、どうしたの? 痛く感傷的になってるみたいだけれど?」

トコトコと歩いてきて、俺の隣に座る紫。

「……何でもないさ。ただ、ここや元の世界について考えていただけだ」

「そう。でも……貴方は疑っているのね。私たちを——そして幻想郷を」

「……——君は俺の心を読めるのか?」

「ふふ。顔に書いてあるのよ。顔に」

紫は鈴の音を転がした様な、綺麗な笑い声を漏らす。

「ねぇ。智。一つだけ、貴方に約束するわ」

彼女はそう言って、俺の顔をジッと見つめた。

「私は貴方を、絶対に不幸になんかさせない」

その言葉にはとても強い意志と——愛情が篭っていて。

「そうかい」

俺には眩しかった。

Re: 東方書古録 ( No.24 )
日時: 2011/05/06 20:28
名前: とある騎士。 (ID: qeBMbyuH)

『自分自身の記憶、それは幻想』

夢を見た。

とても気味の悪い夢。



自分はすでに廃墟になった街を彷徨い歩き

青と黒が混じり合い、気味の悪い空を

私(僕は)は見つめ死んだような目で(僕は——)




見つめている

(死んだの………か?……そして此処は——)



そして私は此処が何処かなのかも解らないまま
いきなりそこら辺に置いてあった——木の棒…?…………いや、違う!あれは漆黒の【長剣】だ………

剣の先には——これは人の血…だろうか?赤黒い血痕が残っていたのだった

そんな恐ろしい長剣に私はぎりっと強く握りしめていたのだった
私はその剣を持つなり我に返った。

辺りを見回すとそこは——






















【血の海で祭り上げられた、屍、髑髏。そして——いったい、人のどのパーツなのかも解らないほどぐちゃぐちゃに殺された人の山が自分の目の前にあった】






『——ぐっ…………』
私は酷い吐き気に襲われた

しかし、時がたつと意識が朦朧としてきた
するとどこからか軽やかなリズムに合わせ、

笛を弾いている男が現れた

彼は何かを伝えようとしていた。しかし、そこで意識が途絶えたのだった——


——私は目覚めると、カーテンと窓を遮り、部屋に入ってきた光に目を細めた。

何故だかすごくホッとしていた
しかし、汗がべったりと服にひっつき気持ちが悪い
それに……鼓動がすごく早い

夢の記憶は繊細に覚えている

…………恐ろしい夢なんて小さい頃以来だ。
なんて昔のころを思い返していると

何故だか具合が悪くなってくる
そして胸騒ぎがした

それはもうすぐ訪れる夏のざわめきか——?それとも



『悪夢の始まりの合図』だろうか…………——?

こんな事を考えるのは私の悪い癖だ
しかし、今回は

ただ事ではない気がしてならない。

私は決心した
自分を強くするため、自分を直すため、自分を……——


















自分を殺すため………に。旅にでることを。


?????『「すべては——この○○○○○○の為……に。」』

『すべては——……………』



Re: 東方書古録 ( No.25 )
日時: 2011/05/11 22:29
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

『伍話・鳥妖怪と奇妙な外来人と笑顔が素敵な向日葵』1/2




【過去】

「なあ、ホントにやってくれるのか?」
「勿論だって。つーか、何回その質問するの?」
「いや、俺は大助かりだけどよ。お前は俺の為に、その……」
「あー、もういいのいいの。君の幸せイコール僕の幸せ。OK!?」
「……。本当にありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
「……お前ってホント心の底から意味わかんねえつーか、狂ってるよな」
「ん? 別に狂ってないさ。人の笑顔がみたいっていう普通の思想だろう?」
「お前死んだあとどうやって、俺の笑顔視るんだよ」
「……」
「考えてなかったのか」
「そ、そんな事無いよ! きっとアレだよ、死後の世界から見守ってるよ!!」
「なんかそれってこええな」
「あ、それか死んだあとに異世界に行って、そこから見守ったりとか?」
「……とんだファンタジー脳だな」
「分からないよ、何せ世界は不思議いっぱいさ。だから、もしかしたら——」


「——死後に桃源郷に行けたりするかもよ?」







【現代】

「あったあった。ちゃんと待ってたねェ〜。えらいぞ我が屋台」
「そいつは良かったね。屋台が待たずして、勝手に動くはずがないからね」
「馬鹿。盗まれてる可能性を示唆したんだよ!」
「微妙に示唆って言葉の使い方、間違ってないかい?」
霊夢の神社を出発後、ミスティアと青年はとある森に来ていた。
そこは昨日の夜、ミスティアが青年を発見した場所である。
「あんた連れて行くために、私はこの子を置いくしか無かったからさ。ったく、人間の為に我が子を置いていくなんて。ホント、感謝してよね」
「屋台を子供扱いする、異常神経は放っておいて。それ引っ張りながら【人里】とやらに行くのかい?」
「そうよ? あたりまえでしょう?」
ミスティアの返答に、青年は少し頭が痛くなる。
こんな大きなものを引きながら歩くなんて、移動速度も遅くなるし、万が一妖怪などに襲われた場合危険が増す。
青年はそう考え、ミスティアを説得するため言葉を並べる事にしてみた。
「ミスティア。そんなでかい箱を持っていったら——」
「箱じゃない!! 私の子供、またの名を屋台!!」
「……。あなた様のご子息を連れて言ったら、時間が無駄に食いやがると思うから、置いていきやがりませんか?」
ミスティアの変質的な、器物への愛情の波に必死に耐えながら、青年は提案する。
だが、彼の提案にミスティアは目を見開いて怒りのオーラを発し始めた。
「何言ってんの!! この子を置いて行けって? そんくらいならあんたをここに置いていくわ!!」
論理破綻。本末転倒。
というよりもとより論理なんて考えてない様子で、ミスティアは捲し立てる。
だが、青年とて譲れない。
成るだけ安全かつ慎重に【人里】に辿りつきたいのだ。
ならば、その邪魔になる可能性はなるだけ消しておきたい。
「ミスティアはその屋台を運びながら、とっさに俺を守れるのかい?」
「当然よ!!」
青年の疑問に、即答する鳥妖怪。
これだけ自信を持って言われると、青年もあまり強く言えなくなる。
だが、矢張り不安は消えない。
「あのねぇ。あんた少しは私を信用しなさいよ、私はここらじゃそこそこ強い妖怪なのよ?」
「そうなのかい?」
眼前の少女がとても強いようには見えない。
唯の華奢で小さな女の子。そう青年の目には映る。
尤も、人間離れした羽やらなんやらは付いているが……。
「でもなぁ〜」
尚渋る青年に、ミスティアは不満げな顔で彼を睨みつける。
「ああ、もう!! だったら今からあんたと弾幕ごっこでもなんでも……」
「?」
唐突に黙るミスティア。
疑問に思った青年は、彼女の顔を見る。
どうやら、彼女は自分の後ろを見て硬直しているようだ。
「どうしたの? なんか後ろに居るのかい?」
青年も彼女が視ている方へ視線を移す。
そうして、移した視線の先には、今まで通ってきた木々が生い茂った道が眼に入る。
と、そこで何か物体が遠くに見えてくる事に気づく。
「ん?」
緑と赤。
どうやら物体では無く、誰か人がこちらに歩いてくるようだ。
上側が緑。下側が赤。
どんどんその人影は近づいてくる。
そして、近づくにつれ人影が、髪が緑色で、赤と白を基調とした、どこか清楚な感じがする服を着た女性だという事が視認できた。
視ていると、何故だか向日葵の様なイメージが浮かぶ。
「誰だろ、あの人」
そんな女性を眺めながら、青年はミスティアに尋ねようと思い、顔を元に戻す。
するとそこには青年を驚かせるモノが待っていた。
それは——


【遠く離れていく屋台の背中】


——だった。

Re: 東方書古録 ( No.26 )
日時: 2011/05/11 22:30
名前: トレモロ (ID: vQ/ewclL)

『伍話・鳥妖怪と奇妙な外来人と笑顔が素敵な向日葵』2/2


「え?」
硬直。
屋台を引っ張っているのは、ミスティアだろう。
つまり、ミスティアが自分を置いて逃げた。

【自分を置いて逃げた】

「って、ちょっと待てよオイいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
自分でも吃驚するほどのスピードで、ミスティアを追いかける青年。
どうやら、彼は身体能力が人並み以上にあるらしく、遠く離れていたミスティアに直ぐに追いついた。
「なぁに、とんずらこいてんの!! ちょっと酷くない!? 滅茶苦茶酷くない!?」
「あわわわわわわわわわ!!」
青年の全開の全速力突っ込みに、ミスティアは全く取り合わず。
青ざめた顔をしながら、必死に屋台を引っ張って走る。
「ちょっと! 聞いてんの!?」
再度怒鳴る青年。
すると、ミスティアは漸く彼の存在に気付いたような顔でで、彼に視線を向けて怒鳴り返す。
「やばば、やヴぁい!! やばすぎるよ外来人!!」
「は!? 何が!? 何がヤバいって!?」
全ての言葉に大声で反応し合う二人。
どうやらミスティアは何かに酷く怯えているようだ。
何に怯えているのか、青年には皆目見当がつかない。
もしかして、屋台を置いていくのが嫌で走って逃げたのだろうか?
別に、そこまで嫌がるなら屋台くらい持っていってもいいのに。
と、そんな思考を始める青年だったが。
次の言葉でそれが思い違いである事を知る。
「後ろの、後ろの女! あれが、ヤバいんだって!!」
「あの人が?」
ミスティアに言われ、走りつつ後ろを振り向く。
するとそこには。

飛んでこちらを追ってくる女性の笑顔が視えた。

「へ?」
飛んでいる。
人が飛んで笑っている。
「何アレ……」
青年は一瞬呆けてしまう。
人間は飛ばない。
人間の女の人が飛ぶはずがない。
そんな思考が、彼の頭を駆け巡る。
常識が打ち破られた感触。
「ええぇ?」
余りの事態に認識力が追いつかなくなる青年。
色々な事が同時におきすぎて、彼の思考が停止してしまった。
それでも、ミスティアにつられる様に、全速力で走り続ける事だけはやめなかった。
「普段はこんな所に滅多に来ないのに! あんな、あんな怪物女が来るなんて!!」
ミスティアは叫ぶ。
泣き叫ぶ。
後ろから迫り来る極大の恐怖の塊に、ありったけの生存本能を発揮させながら。
【彼女】の名前を呼ぶ。


「なんで、風見幽香がこんなところに居るのよぉ!!」


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