二次創作小説(紙ほか)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

はじまりのあの日
日時: 2017/09/24 18:09
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

はじめまして


ボーカロイドの二次小説。話しはオリジナルのストーリーです

神威がくぽ×鏡音リン

MEIKO×KAITO

氷山キヨテル×Lily

めぐっぽいど×VY2勇馬

巡音ルカ×鏡音レン×初音ミク

の組み合わせがダメという方は、読まれない方が良いと思います

恋愛小説のつもりですが、そこまで恋愛じみた話しではありません(あくまでつもり)



どうぞ宜しくお願いいたします



登場人物(最終的に登場する人物)


元音メイコ(もとねめいこ)


継音カイト(つぎねかいと)


初音ミク(はつねみく)


鏡音リン(かがみねりん)


鏡音レン(かがみねれん)


巡音ルカ(めぐりねるか)


重音テト(かさねてと)


神威がくぽ(かむいがくぽ)


神威めぐみ


カムイ・リリィ


神威リュウト


カムイ・カル


氷山キヨテル(ひやまきよてる)


可愛ユキ(かあいゆき)


Miki(みき)


猫村いろは(ねこむらいろは)


歌手音ピコ(うたたねぴこ)


オリバー


ビッグ・アル


IA(いあ)


呂呂刃勇馬(ろろわゆうま)


歌い手総勢21名



プロデューサー1

プロデューサー2

プロデューサー3



Re: はじまりのあの日 ( No.29 )
日時: 2017/09/28 17:27
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

仏の顔も三度まで。三本締めに万歳三唱。日本は、どうやら『3』という数字に何かがあるようだ。ワイドショーの司会者が告げる。そういえば、伝説の三塁手も、背番号『3』だ。3の響きで思い出す、あの日の三次会。宴も進み、おねむになった天使様が、マンションの客間でお休みになった後のこと。残った『まだまだイコウ』組、リビングで始まった『三次会』さっきの記憶の本。栞を挟んだあのページ。わたしは手を掛け、降りていく—

「大切にしないとダメよね〜。さ、大切に頂きましょうか、お酒もおつまみも。無駄にしたらダメよねぇ」

言うが早いか、焼酎の瓶に手を伸ばすめー姉。さっき彼が話していた話題を蒸し返す

「はっはは、め〜ちゃんにかかっちゃ、全部お酒だね。お酒の神様、メイコ様」
「さてな、カイト。メイコは酒の神じゃ、ないんじゃな〜い。お前にとっては」

膝の上に座るわたし。見上げると、不敵な笑みを浮かべる彼に聞いてみる。めー姉はお酒の神様ではないらしい

「どういうこと〜がっくん」
「ん、殿」
「お酒の神様っぽいけどね〜、めー姉」
「酒乱の神様じゃねえのかぁ」

頭の上、疑問符が浮かぶ、わたしとカイ兄。ミク姉は思案顔。そういうテト姉、杏のお酒で上機嫌。ピコ君、Mikiちゃんのアホ毛が、クエスチョンマークに。何を言うか、メンバーの興味は、彼の次の一言に

「『弁財天』だろカイト。メイコ様は、お前の『女神様』じゃな〜い」
「ちょっ。と、殿」
「あらっ。嬉しいこと言ってくれるじゃない、神威君。それとも何かご不満、カイト」

紫様が告げたとたん、真っ赤に染まるカイ兄。その兄を、盛大に抱き寄せるめー姉。きつくキツク抱きしめる

「わ〜、め〜こさんと、カイトのに〜さんも仲良しさ〜ん。もえもえ〜」
「新婚の夫婦(めおと)よろしくでゴザル」

瞳を輝かせ、足をパタパタする、IA姉。ご馳走様でござると、微笑むアル兄。ただ、二人のスキンシップって

「でも、ぼくには『弟大好きお姉ちゃん』のコミュニケーションに見えちゃいます〜。あ、Mikiちゃん、あ〜ん」
「あ、うちも〜。で、いっつも『やめてよお姉ちゃ〜ん』って照れちゃうの。わ、ありがと、ピコきゅん。お返しに、あ〜ん」

わたしの気持ちを、完璧に代弁してくれる、ピコ君、Mikiちゃん。今度は、たがいのアイスクリームをシェア、食べさせあう。この二人も仲良しさん

「ベンザイテンって、神様っすか、テルサン」
「そうですよ、勇馬さん。美しい女神様です。財産をくださる女神様、七福神としても絵描かれますね。本来はインドの守護神様、守り神様です。財産の恵み、守護の女神。メイコさんにぴったりですね」

先生、ミルクティーを一口。嬉しそうに、ババロアを食べる。質問する、勇馬兄はこだわりシュークリーム。めぐ姉と一緒

「メイコ殿が、拙者達をPROJECTへ導いてクダスッタ。歌い手という、かけがえのない『財』を下さったでゴザルナ」

真摯な眼差し、お酒でやや顔が赤いアル兄。その目が赤いのは、感慨と感謝の想いからだろう。シャンパングラスを翳し、シャンデリアの光を見る

「そして、メイコ姉様ご自身が、人々に『歌』という『財』を振りまくのですね。素敵ですわ、お姉様」
「護りの女神様も頷けるよね〜。メイコね〜さんが、PROJECTの櫓(やぐら)を支えてたんだもん」

こちらは目が潤んでいるルカ姉。同様に感謝の言葉。Mikiちゃんは微笑みの中に、感謝の想いが滲み出ている

「あらウレシイ。ありがとうテル先生。みんなもありがとう。かけがえのないあなた達の言葉、とっても嬉しいわぁ。今、宝船に乗っている気分ね」

言葉には『笑っているよ』という感情が籠もる。ただ、その顔は、すでに泣き笑いのめー姉。人一倍、苦労をしてきた姉と兄

「まさに七福神の弁才天じゃない、メイコ様。その意味では、俺らにとっても女神様か」
「ほんと〜だよね。メイコさんが初めてくれた、プロさんと一緒に。だから今、わたし達も歌えるんだもん」

カラカラ笑い、ホタルイカの沖漬けを食べる紫様。めぐ姉も感謝の微笑みだ

「七福神といえば、福神漬けもアテにいいわねぇ。カイト、あったよね、福神漬け」
「結局は、酒じゃね〜か。メイコちゃんは『酒乱の弁才天』だぜ」

今だ赤面中のカイ兄に頬をくっつけるめー姉。お酒に話題を移したのは、泣き顔を見られたくないから。楽しげなテト姉の皮肉はスルー。手酌で、ふたたび杯を満たそうとして

「あっ、お、お酌させてよ、ね〜ちゃん」

驚くめー姉。メンバーも目を剥く。カイ兄は言った『ね〜ちゃん』と。言った本人、自覚して、ユデダコ色に

「ふふふふふっ、カイトォ、久々に聞いたわぁ。懐かしい、可愛かったわね、あの頃。今でも可愛いけど〜」
で、話し始めるめー姉。カイ兄の首に腕を回し、頬をつついている

「まだ、二人っとも年齢一桁の時ね、そう呼んでくれてたの。懐かし〜い。夏休みとかにね、泊まりに来る度、一日中遊んで。ず〜と一緒に居て。休みが終わって、帰る日には電車の乗り口で泣いちゃってね」

懐かしさを滲ませながら、今度こそ、破顔するめー姉。アッケに取られるわたし達。泣き顔を誤魔化すため、これみよがしにイタズラお姉の微笑み

「はいはい、ソウデシタ。はぁ〜、恥ずかしい。でもね、オレは想ってたんだよ。め〜ちゃんは、オレだけのね〜さんだって。あの頃から今まで、ずぅ〜っと変わらない」

ユデダコ状態から、やや復活しつつカイ兄。ため息をつき、目に涙が浮かんでいる。ただ、開き直ったか、公然と惚気始める。抱き寄せられていた腕を抜け、めー姉の太ももに頭を乗せる。そのまま、寝そべってしまう

「きゃああああ〜、オノロケだぁ〜。メイコね〜さんの膝枕ぁぁぁ。カイトのアニさん、ごちそうさま〜」
「天使様が居ないからって甘えちゃってさ〜。ったくケシカラネぇ、もっとやれ、ヒュ〜」

Mikiちゃんとリリ姉、学年違ってタイプは違えど女子高生。姉兄の関係に敏感な反応を示す

「おお、なんと素晴らしい構図かっ。ぐっじょぶ、メイカイ」
「モハヤ、これもお決まりでゴザル」

激写するミク姉。呆れているアル兄

「も〜結婚したら良いんじゃね、めー姉とカイ兄。おれ、お似合いだって思うけどな〜」
「あら、レン、おマセな事言うようになったわねぇ。ま、時間とタイミングの問題よ。ねぇ、カ・イ・ト」

片目を瞑り、左手を、甲の側を見せてくる。カイ兄の手を上げさせる姉。よく見ると、その小指に光る、お揃いデザイン、色違いのリング

「あっもしかして〜、それ婚約指輪ぁ〜」
「わっ、めー姉、カイ兄、結婚するの〜」

とてつもなく嬉しげなミク姉。撮影を続けつつ、身をのりだして聞く。わたし自身も前のめりになる

「はは、違うよミク。これはペアリング。ま〜、意味合い的には似たようなものかな、リン。一応、そんな意図で贈らせていただきました。オレからめ〜ちゃんに」
「うふふ、嬉しかったわ〜。まさか、子供の頃から好きだったカイトにね〜。追いかけてきてくれるなんて思ってなかったもの」

膝の上、照れっ照れで、眉を下げながらいうカイ兄。夢見心地のめー姉

「あ、もしかしてカイ兄ってさ。めー姉追いかけて参加したの、このPROJECT。グミ姉達みたいにさ」

思いついたように聞く、片割れ

「半分当たり。もう半分は、オレも歌うことがスキだから。めーちゃんはね、子供の頃から目指していたんだよ。一流の歌い手に成ることを。夏休みは、二人で歌ったよね」

わたし達が、参加する前の話を聞くのは、初めてではない。でも、ここまで過去の話しを聞いたことはなかった。二人の関係に踏み込んだお話も

「本当に懐かしいわ。そしたらね、カイト言ってくれたの『ならボクも歌い手に成る。ね〜ちゃんと同じ、一流の歌い手に』ってね。そしてね、一流の歌い手に成ったその時はって、くれたわね、あの日も」
「あはは、玩具の指輪ね。ごめんね、あんなので。しかもさ、勝手に告白しちゃって『お嫁さんになって』なんて。でも、嬉しかった。しっかり頷いてくれたとき」

さっき、わたしと片割れの記憶を運んで来てくれた『伝説の宇宙戦艦』は、二人の思い出も運んできてくれたようだ『宝船』に『宇宙戦艦』響きは違えど『船』あの日のキーワードは『船』だった。心地よいお惚気話しに、自然とわき起こる、祝福の歓声

「オイオイ、やるじゃないカイト。な〜るほどなぁ。俺が来た日に言ってたじゃない『アタシの、オレの』ってさ。そんな子供の頃からなのか。そのペアリングで完璧じゃな〜い」
「へっ、チクショウ、幸せ者共め」
「まぁお熱い。コチラまでのぼせてしまいそうですわ〜」

豪快な物言いの彼、心の底から賛辞を贈る。声のトーンも弾んでいる。テト姉は、ヤヤつまらなさそうだ。頬を染めるルカ姉の声には、憧れの想いが滲んでいる

「っしゃ、センセッ。二人の婚約祝いにしちゃお〜ぜ、この三次会〜」
「リリィさんに賛同いたします。お二人を祝福いたしましょう。皆さん、飲み物を」

素敵な提案だとメンバー、今だ膝枕状態の二人の周りに集まる。めー姉にシャンパンを満たしたグラスをわたすルカ姉。カイ兄のテーブルの前、リキュールを置く紫の彼。牛乳瓶のような形。彼の地元限定の、ヨーグルトリキュールだ。スイーツや簡単なお菓子、おつまみを手に大集合

「じゃ〜、メイコアネさん」
「カイトさんもですよ〜」
「「お幸せに〜」」
「「「「「「「「「「お幸せに〜」」」」」」」」」」

アホ毛♡のMikiちゃん、ピコ君が発声。全員笑顔。そうだろう、こんなおめでたいこと、やたらにはない

「ありがとう、大好きなみんな。これからも宜しくね。愛してるわ、カイト」
「本当にありがとう、みんな。何だか、突然の流れになっちゃったね。め〜ちゃん、オレも同じ気持ち」

わたしが生まれる前から、想いあっていた二人。婚約発表、いや、もう結婚式と言っても良かったカモだ

「こんなケーキで済まないが、もうヤっちゃおうじゃない。二人の共同作業〜」
「ガクサンに同意。メイサン、カイサンがヤでなきゃっすけど。これ、ナイフっす」

みんなノリノリ。紫様、ホールサイズの半分ほど残っているケーキを用意。紫の彼とカイ兄、二人の『弟』を公言する勇馬兄も嬉しそう

「わ〜観たいな〜ぁ。二人の婚約ケーキ」
「ふたりで手を重ねて、きょうどうさぎょう」
「IA姉、婚約ケーキなんてあったっけ〜」

萌えていることが、丸わかりのIA姉、カル姉。朗らかにツッコム片割れ

「い〜じゃな〜い、レン。行事なんて、人が勝手に『つくっちゃう』ものだもん。お目出たい事は、何度お祝いしたって良いもの〜」

またも、彼の口調を真似て言う。紫の彼が言っていたことを告げるわたし

「そ〜いうことじゃな〜い。リン、覚えてたんだ。レン、こだわるものと、こだわらなくて良いモンがあるじゃない」
「あはは〜、リンちゃん、アニキの真似だ〜。たしかにそ〜だよね『ハロウィン』とか『春土用』とか、最近になってやたら行事増えたよね」

豪快に笑って、応えてくれる紫様。めー姉、カイ兄のラブオーラで、アホ気がずっとハートマーク。Mikiちゃんも同意見

「あ〜確かに〜。読み方とか日付にコジツケて、やたら作るよね、おにぃ『なんとかの日』ってさ」
「ま、半分は大手企業の売り上げ向上が目的だ、リリ。土用丑だって、うなぎ屋が困ったから生み出された日じゃない。さて、それはいいからカイト、メイコ、どうする」

ケーキへ、ナイフを入れるかを問う、紫様

「ありがとう、神威君。喜んでさせて頂くわ。ふふふ、カイト。ここまで来たら、もう逃がさないわよ〜」
「するよ、殿。みんながお祝いしてくれてる。凄く嬉しい。大丈夫、め〜ちゃん。逃げる気なんかない、オレこそ逃がさない」

言って起き上がるカイ兄。めー姉に、恭しくナイフを渡す、勇馬兄。紫の彼は、ケーキを二人の前に置く。正々堂々、動画撮影を始めるミク姉は

「い〜よ〜ぉ、二人とも。ケーキ終わったら、目線頂戴ね〜」

どこかの『ナニカ』なカメラマン的台詞。一度見つめあう、姉と兄。その顔は幸せに満ちている

「さ〜、お二人による、ケーキ入刀です〜」
「初めてじゃないケド、共同作業だよ〜」

今度はアホ気が祝福サンバ、ピコ君、Mikiちゃん。皆の前、手を重ね、ケーキナイフを持つ、めー姉、カイ兄。ショートケーキに、ナイフを入れる。拍手喝采、誰かが鳴らす口笛。クリスマスの残り物だろうか。いつの間にか持ち出したクラッカー、二人の頭上に、舞う紙吹雪。わたし達に向かって、片手を振る姉と兄

「幸せにな〜カイトっ。珍しくキザな台詞ハイタな『オレの方こそ逃がさない』だって〜。歯が浮く〜」
「お二人の行く末に、幸多きことを祈念いたします」

皮肉っぽい物言いのリリ姉。でも満遍笑顔には、祝福の想いが溢れている。キヨテル先生は心からの言葉

「♫〜」

ルカ姉の歌声。結婚式と聞いて、思い出さない人はイナイのではないか。その有名曲を口ずさむ。メンバー全員、思い思いに声を重ね始める。歌う、というよりはスキャット。このメンバーならではの祝福の仕方。次第、体中でリズムを刻む者、指を打ち鳴らす者、パーカッションを口ずさむ者。主役である姉と兄まで、スキャット大会に参加し、祝宴が大いに盛り上がる

「いえ〜い、めいさま、かいさま〜」
「Wonderfuooo Berryオメデト〜サンでゴザル〜」
「幸せに生きようじゃな〜い、女王様とマブダチよ」

飛び跳ねて喜ぶ、カル姉。新たに、スパークリングワインのコルクを飛ばすアル兄。紫の彼、背後から二人を抱きしめる

「ん〜、にいさま、ねえさまぁ〜」
「みんなにぎやか〜」
「ど〜したのぉ、何かあったの」
「メガ、サメチャイマヒタ」

リュウト君、ユキちゃんと手を繋ぎ、いろはちゃん、オリバー君と身を寄せ合う。どんちゃん騒ぎで、天使様を起こしてしまったようだ、罪深い

「ああ、皆さん、申し訳ありません。ですが、とてもお目出たい事があったのですよ」

眉を下げ、お詫びを言うキヨテル先生。天使様達に、今あった祝い事を説明する。おねむだった目の中に、天の川銀河が瞬く天使様

「おめでとうございます、かいとさん」
「メイコさん、カイトさんのおよめさ〜ん」

丁寧に頭を下げるリュウト君。憧れの表情、ユキちゃん

「わ〜新婚さんだ〜。カイトさ〜ん」
「オメデタイデフ〜メイコサ〜ン」

身を寄せ合って飛び跳ねる、いろはちゃん、オリバー君。二人も凄く嬉しそう

「うふふ、ありがとうね、天使様」
「とっても嬉しいよ。ありがとう、みんな」
「よ〜し、子供達も目が覚めたみたいじゃない。たまには夜更かしして良いぞ〜。フルメンバーで、メイカイ様を祝福しようじゃない」
「「「「やった〜」」」」

眠気が飛んで、完全に覚醒した天使様。紫様の提案で、祝宴に参加する

「何のみたいかな、りゅ〜ちゃん」
「みんな揃って乾杯だよ〜」
「良いことは、何回会ってもイイよ〜ぅ」

カル姉、弟を気遣う。めぐ姉は勢揃いでの乾杯を促し、IA姉はテンション全開。あの日は夜通しお祝いをして。翌日は眠たい中、宴の後片付けをしたな。あ、油のボトルが一つ、切れた。買い置きを取るため、移動。することで、わたしの意識は今へと帰還。そういえば、あの『宇宙戦艦』リメイク二作目も出るんだっけ。レン、作るんだろうか、八隻目—

Re: はじまりのあの日 ( No.30 )
日時: 2017/09/30 12:28
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

一大観光都市、京の都。昨今では、ホテルが予約できないと、問題になっているそうだ。そうか、考えもしなかったな、あの日は。わたし達は『歌う』事によって泊まることが出来た。老舗と呼ばれる素晴らしい宿に。京の都。わたしとレンが、14歳を迎える一週間前の出来事。歌い手総勢21名。西の古都で公演をすることになった冬の日。わたしは又、記憶の扉に手をかける—

「忘れ物はありませんね、みなさん」
「「「「「「「「「「は〜い、先生」」」」」」」」」」

修学旅行の学生のように手を挙げ、微笑みあう一同。実際、メンバーでの修学旅行のようなものだった

「戸締まりも確認してきたよ、殿」
「よし、出かけようじゃない」

新幹線に乗るため、最寄り駅まで車で移動

「大人数になってからの全員公演、楽しみだよね〜」
「子供達が緊張してなきゃいいけどな」

当然のように、彼が運転する車。その助手席で約三十分。駅の駐車場で預かって貰う

「お、来たね、おはようみんな〜」
「時間に正確じゃねえか、感心感心」
「電車も遅れは無いみたいよ〜」

プロデューサー、スタッフと合流、構内を歩く。たかれるフラッシュ、あがる歓声。PROJECTが、世の中に浸透した証。だけど、奢ってはいけない。慢心してはならない『人の心を癒やせるよう』願いが籠もったPROJECT。鼻に掛ければ、その願いが台無しになる。新幹線を待つ間、記念写真やサインに応じる。一人一人に頭を下げる。握手を交わす。喜んで貰える事が、本当にありがたい事だと感じた

「車両、二区画借り切ったから〜」
「好きに座ってくれ。他の乗客に迷惑はかけんなよ」
「あたし達は、スタッフと別の車両にいるから」

特急列車の車両二区画。先頭車と二号車を借り切る。歌い手に、一般の方が殺到しないようにとの配慮。プロデューサー、スタッフが二号車。わたし達は一号車に乗り込む。私物を網棚に乗せ、思い思いに腰掛ける

「がっくん、隣座ってイイ〜」
「良いんじゃな〜い。よし、カイト配っちゃおう」

図々しく陣取るわたし。そして、包みを開ける彼、兄。出てくる、使い捨てケースに入れられたお弁当

「お弁当、作っておいたから。中身は、皆一緒だよ。あ、大人組と子供組は違うけどね」
「飲み物、お茶と牛乳。好きな方選ぼうじゃない。回してさっさと食べちゃおう。ヨーグルトはデザートな」
「お、気が利くじゃね〜かカイト、かむいも」

紫の彼と兄の優しい心配り。自分たちだって、これから歌いに行くというのに。三時起きして、お弁当を作ってくれていた

「アザッス。がくサン、カイサン」
「ぽ兄ちゃん、カイトさん、本当にお疲れ様です」
「やった〜朝からごちそうだ〜。ありがと〜、に〜さん達〜」
「ヤハリ、朝餉(あさげ)はワショクが良いでゴザルナ」

メンバー各々取りに来る。受け取って座る、勇馬兄とめぐ姉。向かいの席にはIA姉とアル兄が座って、ご馳走朝ご飯に盛り上がる

「さあみなさん、お礼を言って頂きましょうね」
「力つけておかないとなっ。良く噛んで食べよ〜ぜ」

天使様にお配りするキヨテル先生。リリ姉、飲み物を手渡す

「わ〜おいしそう。すごいね、リュウトくん」
「だいこうぶつばかりです、ゆきちゃん」
「ゴホカ(豪華)ナアサゴハンデフ、イロハチャン」
「ね〜、オリバーくん。がくおにさん、カイトさん、ありがとう〜」

椅子を向かい合わせて腰掛ける天使様。みんな揃っての公演は初めて。緊張していた様子だったけど。お弁当の蓋を開け、宝石箱でも見るように目が輝く。気持ちをほぐす効果もあったようだ

「がっくん、カイ兄、ありがと〜」
「よし、頂こうじゃない」

いただきますの大合唱。向かいの席にはカイ兄、めー姉。対面で座る。お弁当の蓋を開ける。からすガレイの照り焼き、卵焼き、ほうれん草のおひたし。甘くて大きなうめぼしに、かまぼこ一切れ。肉団子、揚げない唐揚げから成る、お手製弁当。子供達には、野菜と豆腐で作ったハンバーグ、揚げないフライドポテト、ナポリタン。エビフライ。卵焼き、別ケースの野菜サラダは共通のおかず。二人のご飯を口にしてしまうと、下手な駅弁では、とうてい満足できない。あちこちで美味しいの声が上がる

「しかし、アタシら幸せ者よね〜」
「ん、どしたのめーちゃん」
「だって『歌う』って自分たちが一番好きなことをしてさ。人から喜んで貰って。そうして、食べていけるって幸せでしょ。しかも、タダで作ってくれる専属シェフが二人もいるのよ〜」

お弁当、ノンアルコールビールと一緒に食べるめー姉。ご機嫌の様子で、カイ兄の背中をたたく。確かに、幸せなことだと思う。好きなことで食べていけることは。その分、しんどい時もあるけれど

「はは、メイコ、そいつはさ。お前達が必死で築き上げたからじゃない。このPROJECTの土台を。俺なんか、その上に乗っかってるだけ。食事くらい世話させていただこうじゃない」

軽い口調で言った彼。するとめー姉、カイ兄、真剣な顔つきになって

「神威君、あなたもよ。貴男も、その土台を一緒に固めてくれた。カイトと一緒に、ね。アタシはそう思ってるんだから。乗っかってるだけ、なんて言わないで」
「そうだよ殿。何時かも言ったけどさ。オレも頼りにしてるんだから、殿のこと。苦しい事だって、このメンバーだから乗り越えていけるんだしさ」

真面目にかえす。紫の彼、ありがとうと返答し、お茶の缶をノンアル缶と合わす

「そういやさ、来年の秋だったかな。修学旅行で都に行くの。おれとリン、フライングで京の都じゃね」

真後ろに座るレン。膝立ちで身をのり出してくる。思い出したように、言う。確かにそうだ

「はは、レン。別に、いつ行ったって良いじゃない。それに、友達と行くのも楽しいだろうけど、俺らメンバーで乗り込むのも、格別じゃない。恭悦至極〜」
「そっか〜。そだね、がく兄」

そのレンを見上げ、撫でながら返した彼

「そうですわ、レン君。このメンバーで古都。公演も観光も、おおいに楽しまないと損ですわぁ」
「わたしも京の古都初めて〜。楽しみだね、ルカ姉、レンくん」

レンの隣、座っているルカ姉。その正面ミク姉。公欠や、早引けが多い学生組。正直、友達は少なかった。仲良しの子はいたけど

「みんなでミヤコ〜。もう、すでに楽しいで〜す」
「カルも、ふらいんぐ古都でびゅ〜」
「盛り上がっちゃお〜ね、ピコきゅん、カルちゃ〜ん」

ピコくんと座るMikiちゃん、正面カル姉。今日も三人、お揃いのフリルドレス。相変わらずドレスが似合うピコくん、末恐ろしい

「修学旅行か〜来たなぁ。あん時は、ウチも中坊だったな〜。やっぱ全然気分がちっがうな、みんなで来ると〜。じゃ、センセは引率のセンセ〜だな」
「ですか。でも私、学校の教員ではなかったので」

天使組の後ろに座るリリ姉。嬉しそうに、隣のキヨテル先生に話しかける

「あはっ。細け〜ことは良いじゃん。ウチはセンセに先導して貰いたいだけダカラ。はい、センセあ〜ん」
「あ、す、すみません」

リリ姉が素早く差し出す卵焼き。有無を言わさない気配に押され、食べるキヨテル先生。リリ姉は、先生の反応に上機嫌

「頂くだけでは、申し訳ありませんので。お返しの卵焼きです。リリィさん、どうぞ」

手を添えて、差し出される卵焼き。不意打ちだったのか、リリ姉顔が深紅になる。でも、次の瞬間、思い切り嬉しそうに口をあける。夢見心地の顔で食べている、と

「いや〜これまた、い〜い画(え)が撮れた。ナイス、先生、リリ姉」
「何してるんですか、ミクさん」
「撮ってんじゃね〜よミクっ」

この場面も、ミク姉によってすっぱ抜かれ、ディスクに保存されている。ミク姉、どんな趣味なんだろう。まあ、総じて賑やかに朝食を終える

「「「「「「「「「「「ごちそ〜さまでした〜。おいしかったよ、おに〜ちゃ〜ん」」」」」」」」」」
「「おそまつさま〜」」

使い捨てのケースを回収してくれる、アル兄。買っておいた、食後のお茶でくつろぐ。と、さすがに朝早かった兄と彼。疲れからか、船を漕ぎ出す

「ふふふっ」

もたれかかる兄を笑みながら撫でるめー姉。わたしに微笑みかける、姉。人差し指一本、口の前。静かにというサイン。なんとなく羨ましかった。チビのわたしと彼では、それができない。体格に差がありすぎて。あの日のわたしは、なぜ姉達のようにしたかったのか。考えも及ばなかった。それでもせめて、と。コートを彼に掛けてあげたっけ。そうするわたしを見て、生暖かく微笑む姉。なぜ、そんな顔で見つめられるのか。当時のわたしは分からない。声にせず『なに』と咎める。めー姉『なんでもない』と口だけ動かし、手を振る。益々生暖かくなる視線。胸に芽生える、おかしな感情。恥ずかしさ、情けなさ、悔しさ。怒りに嫉妬。どれも当てはまるようで、全てズレているような。混ざった感情。めー姉に、悪気など無かっただろうに。子供だったんだよね

「みなさん、お兄さん達はお疲れです。起こしてしまわないよう、後ろの座席に移動しましょう」
「静かにな。後ろでトランプでもやろ〜ぜ」
「「「「は〜い」」」」

声を潜め、先生、リリ姉、天使様。微笑ましいやりとりに、わたしもめー姉も頬が緩む。わたしは芽生えた感情も、穏やかに引っ込む。彼の綺麗な寝顔を見る余裕も生まれる『まつげ長いな』と、何故だか鼓動が速くなった覚えがある。彼を観ながらしばらく列車に揺られている、と

「ほ〜ら、二人も起きなさ〜い」

めー姉に起こされる。どうやら眠ってしまったようだ。わたし、逆に彼に寄りかかっていた。やや照れながら起きるわたし。彼は自分に掛かっている、わたしのコートをみて

「優しい気遣い、ありがとうリン。おかげで暖かかったじゃない」

そう言って撫でてくれた。その言葉が、とてつもなく嬉しかった

「忘れ物はダメですよ〜」
「確認して降りなきゃね〜」

ピコ君、Mikiちゃんが注意喚起、揃って電車を降りる。降り立つ駅は目的地ではない。乗り継ぎの特急列車を待つためだ。駅の構内、駅ビルの中で数分を過ごしていると、ここでも気付いてくれる人がいる。握手や記念撮影に応じているうち、乗り換えの特急が到着。特別車両である、一号車に乗り込む

「お、すっげ、豪華〜。修学旅行と全然ちゃう(違う)わ、やっぱ」
「グリーン車ですからね、恐縮しますよ」

リリ姉、乗車して感想。先生は眉を下げる

「りゅうとくん、いっしょにすわろっ」
「おとなりです、ゆきちゃん」

手を繋ぎ合うユキちゃん、リュウト君

「イロハチャン、フワリ(すわり)マショウ」
「オッケ〜、オリバーくんっ」

腕を組む、オリバー君、いろはちゃん。お隣さんが決まって、腰掛ける天使様

「お隣さんが決まったら、お向かいさんですよ」

キヨテル先生が、オリバー君、いろはちゃんが腰掛ける席を回し、向かい合わせてあげる。天使様、大喜び

「じゃ〜、隣に座ろ〜ぜセンセ。天使様の横にっ、座席も回転〜」
「はは、リリィさん、少し落ち着きましょう」

花が咲くリリ姉を、宥め(なだめ)ながらキヨテル先生。通路を挟み、天使様の横、向かい合って腰掛ける

「アラ、その手がありましたわ」

ミク姉に、レンの隣を譲ったルカ姉、目が輝き席を回転させる。ふたり掛けのイスと一人掛けのイス。わたしはさっさと彼の横に、と

「リン、俺と一緒ばっかりで飽きない」

気遣ってくれたのだろう、別席を聞かれるが

「ん〜、わたしはがっくんの隣が良いな」

躊躇無く、隣席を申し出る

「なら、窓側、通路側、どっちがイイ」
「窓側〜」

遠慮というものを知らない

「ならゎたし、二人の前〜。眺めて萌えてよ〜ぅ。お話しもできるし」
「あ、IAちゃん、わたしも〜。席迎え合わせて座ろうね」

IA姉、めぐ姉が正面に座る。席も決まって、電車に揺られる

「先程の駅で煎餅買いモウシタ、好きな方はどうぞデゴザル」
「あ、コーヒー買っといたよ〜」

アル兄、カイ兄のお気遣い。楽しく彼と会話を交わし、IA姉めぐ姉に生温かかく眺められる。その目線は気になったが

Re: はじまりのあの日 ( No.31 )
日時: 2017/09/30 12:30
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

小雪舞う、京の都に着いたのは十時半を少し回った頃。ホームから、改札を抜け広い駅の構内へ。一斉に集まる視線と、上がる歓声。注目されるのはありがたいこと。旅行に来ていた、外国の方にまで声援を頂く。天まで届くのでは無いかという階段の前

「は〜い、皆さん笑って〜」

修学旅行の学生さん。引率の先生からのお願いで、一同、記念写真に収まる。カメラマンを務めた、わたし達のプロデューサーが促す笑顔。手を振ってくれるみなさんに別れを告げ、待機していたバスに乗り、公演の会場へ入る。簡単な打ち合わせ、荷解の後で昼食を済ます。仕出し屋さんのお弁当、大きなエビ天が美味しかった。小休止の後

「さ〜、リハ〜サル始めるよ〜」
「チビ四人、お前等揃っては初陣だぜぇ」
「緊張しすぎちゃ、ダメよ〜」

一時から三時半までは、内容の濃いリハーサル。公演は五時から。この日、口火を切るのは、天使組四人の歌とダンス。言葉遊びの歌。ミク姉が歌ったのをカバー。リハーサルを終え、シャワーで汗を流す。衣装、メイクをあわせる。徐々に緊張を高めてゆく。適度な緊張は、上演に良い効果をもたらす。ただ、子供達四人の緊張は、どう見ても違う。初めての大舞台に、硬直する

「リュ〜、みんなも、ダイジョ〜ブだって。楽しくやればい〜んだぜ。心配すんな」

公演開始、三分前。ステージの脇、緊張で、半泣きの天使様。リリ姉がワザと強く頭を撫で

「大丈夫です。皆さんは誰よりも練習していました。その通りに歌って踊れば良いんですよ」

父親のように。キヨテル先生も、一人一人の手を取る

「お前達、全力でやって来い。何かあったらすぐに呼べ。俺が必ず救けに行ってあげようじゃない」

優しい彼、天使様の面前で言う。頬を、両手で包む。公演の幕が上がる

「「「「はじめましてみなさま。よにんでうたうの、はじめてです。おうたも、おどりもがんばりま〜す」」」」

自己紹介の後、天使組が歌い踊る。わたしたちは、その間、舞台袖で祈っていた。失敗しないように。実力を出し切って貰えるように。お客さんに、気に入って貰えるように。歌が始まる。踊り始める。歌詞一つ、ポーズ一つ。決まる度、頷くわたしたち。握る手に、汗が滲む。祈るように見るルカ姉。手を合わせ、何か称えるアル兄。テト姉も、普段決して見せない、半泣き顔。わたしも、彼の腕にしがみつく。彼の顔『弩』真剣

「「「「ありがと〜ございました〜」」」」

歌が終わって、お礼の言葉を述べる天使組。鳴り止まない、拍手と歓声は、大成功の証。舞台裏へと駆けてくる四人。安心したのだろう。張っていた気も抜けたんだろうな。泣き笑いの子供達。メンバー全員、我先にと抱きしめた。天使様が、口火を切ってくれたおかげ。その日の公演は、どこか新鮮な盛り上がり方だった。何というか、皆さんの声が、いつも以上に暖かかった。そういえば、あの日が初めてだった。わたしと彼、二人で歌ったときに上がったあの声。お客さんの

『がくリン来たぁぁぁ〜』の声

あの時は無性に嬉しかった。大喜びして、ハイテンションで、彼を引っ張るように乱舞したことを憶えている。緊張が解けた天使組も、わたし達と共に歌い踊る。大盛況の公演が終わる。アンコールに、二曲で応える。後に、フルメンバー初の伝説公演と評価を頂いた、京の都での舞台だった

「りゅ〜、よっく頑張ったぞ〜。格好良かったぜぇ〜」
「ありがとうございます、りりねえさま」

楽屋に入る。真っ先にリリ姉、リュウト君を撫でながら

「ユキさんもお疲れ様です。大変素晴らしかったですよ」
「あ、ありがとう、ひやま先生」

ユキちゃんは照れ笑い、お水を手渡す先生

「ねこちゃんもおりこうさん」
「ぼく、感動しちゃった〜」
「ちょ〜かわいかったよ〜」
「カルちゃん、ピコさん、ありがとう。Mikiちゃんも〜」

お揃いコスチュームの、カル姉とピコ君達。撫で回されるいろはちゃん。Mikiちゃんは汗を拭いてあげる

「オリバーもよく頑張った。四人の中では、お兄さん。皆を纏めていたじゃない」
「アリガトホ、ガクサン」

紫の彼、オリバー君を抱き上げながら。皆が思い思い、天使様を褒め称える

「さあ、ジュースで乾杯しましょ。その後身支度して、旅館で大宴会。打ち上げよ〜」
「張り切ってるじゃんメイコちゃん。ま、この後は飲んべえタイムだ。思いっきり楽しむぜ」
「ふふふ。ワタシも頂けるようになってから、すっかりお酒の虜ですわ」

乾杯を促すめー姉、自分もお酒顔のテト姉。ルカ姉もお酒は大好きだ。ジュースで乾杯、渇いた喉に染み渡る

「っしゃ〜お・ま・え・達〜。これからも一緒に歌って生きていこうじゃな〜い」
「「「「ありがとう、みなさ〜ん」」」」

満遍の笑顔、天使様。打ち抜かれ、萌えあがるわたし達

「さ、さあ、身支度しちゃいましょう」

ダメージコントロールをした、めー姉が言う。急ぎ足で、身支度に入る。旅館に移動する前、プロデューサーに告げられる

「五部屋取ってあるから、部屋割りは好きにしてね〜」
「タク(タクシー)が迎えに来るからよ」
「打ち上げも楽しんじゃってね」

スタッフ、プロデューサーは別のホテルに宿泊。21人の歌い手に、専属スタッフを含めると約50名。さすがに宿一つでは収まらない。それなりに、知名度も上がったため、混雑回避の目的もある。わたし達はスタッフと別れ、公演主催者サイドが用意してくれた老舗旅館へ。宿が取れないという現象が起こる中で、老舗を貸し切る贅沢さ。ありがたさと同時に、申し訳なさも込み上げる。圧倒的な趣の門をくぐる。なんだか、バチがあたりそうだった。さてその旅館、部屋割りはNYのホテルと、別の意味でモメた

「ま、ヤロウとお嬢わけで良いじゃない」
「そうですね。NY(以前)とは、場合が違いますから」

言う彼と先生

「え〜、ウチ、センセと一緒の部屋がいいなぁ。子供達四人とウチとセンセで一部屋〜。リューもユキも一緒がいいだろ〜」
「ゆき、リュウトくんといっしょがいいな」

それぞれあがる声に

「ま、子供達は一緒がいいな。保護者は、ルカ、頼もうじゃない。風呂の時は声かけてくれ」
「男の子は、私達で引率いたしますので」

振り分けを進める、キヨテル先生と神威『先生』ルカ姉は、天使様の頭を撫でながら

「承りますわ、神威さん、氷山さん。みなさん、お姉さんと休みましょうね」
「「「「は〜い」」」」

手を上げる、お利口さん四人。お利口さんでなかったのは、わたし達の方だ

「え〜、おにぃ、ウチとセンセでいいじゃ〜ん」
「いや、そうもいかないでしょう」

困る先生。そのリリ姉の不満を皮切りに、色々な所で抗議の声

「カルもピコピコ、ミキミキと一緒がいい」
「わたしも、レン君と一緒がいいな〜」

もちろん、わたしもそれに参加する

「わたしも〜。がっくんと同じ部屋がいい〜」
「リンちゃんと神威のに〜さんが同室。なら、ゎたしもその部屋がい〜なぁ」
「おいおい、我が儘言うんじゃ〜ない。キリが無くなるじゃない」

困惑する彼、キヨテル先生も困り顔。それは、わたしの、わたし達の『成長』を、考えてくれていた証。そんな気遣いを考えないわたし達。さすがに見かねためー姉、最高位の権力を発動させる

「はいはい、文句言わない。そういう不満出さないための男女割りでしょうが。これ以上文句言うと、打ち上げ参加禁止にするわよ〜」

たちまち押し黙る。何も言えなくなって、すんなりと部屋割りが済む

「あ〜あ。まいっか。こ〜なったら打ち上げ楽しみまくろっ。リンと眠るのも初めてだしなっ」

言って、豪快に撫でてくれる。わたしは、神威の姉三人と同室を申し出た。姉達と寝るのも初めてだったから。彼と同室になる、その次に、心躍る選択をした。四人が入っても、余裕たっぷりの広い部屋。リリ姉荷物を置きながら、残念そうに言う。心の中、控えめに賛同し、打ち上げ会場へ向かう。提供された食事は、都名物の湯葉や生麩田楽、湯豆腐などのフルコース

「おと〜ふだ〜。おいしそ〜う」
「熱々ですからね。火傷しないように」
「気をつけて食べろよっユキっ」

勢いよく、湯気が立ちこめる打ち上げ会場。ユキちゃんを、挟んで座る、先生とリリ姉

「生湯葉に生麩の田楽。豆腐も消化にも良いからな。たくさん食べて良いじゃない」
「取ってあげるから言ってね、リュウト君。はい、まずお醤油で〜」
「ありがとうございま〜す。りんちゃん」

お兄ちゃんモードの彼。お姉ちゃんぶるわたしは、湯豆腐を取ってあげる。その上に、ショウガとネギをかけている。リュウト君、やっぱり好みが渋い

「あんたたち、一番頑張ったんだから。沢山食べなさいね、いろは」
「わ〜おいしそう。ありがとう、メイコさん」
「しっかり食べて、大きくなってね、みんな」
「アリガトフ、カイトサン」

天使様の頭を撫でる、兄と姉。何だか、子連れの若夫婦的光景。和食に豆腐、あの日のわたしを含めて。子供だと、文句を言いそうなメニューかもしれない。でも、めー姉曰くの、専属シェフ二人。カイ兄と紫様の作る日本料理。特に、紫に彼が作る和食は美味しい。その食事のおかげ。メンバー全員、和食の虜。美味しい湯葉や豆腐に舌鼓。肉料理として、和牛のしゃぶしゃぶまで付く。肉食派のリリ姉やテト姉も大満足。大人組は、日本酒との相性最高と大いに盛り上がっていた

Re: はじまりのあの日 ( No.32 )
日時: 2017/09/30 12:33
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

その日の夜の出来事

「いや〜やっぱ今日も格好良かったな〜センセ」

二次会の買い出し組や、ホテル残留組。それぞれ別れ温泉につかり、部屋に戻る。すでに四人分の布団が、敷かれていた。寝そべるわたし達。リリ姉が唐突に始めるガールズトーク

「おにぃやメー姉もカッケエけどさ。やっぱセンセが一番だな。普段のやさし〜時と、ロックモードのギャップがたまんね〜」

すごく嬉しそうに枕を抱き、脚をぱたつかせるリリ姉

「カルは、ピコピコとみきみきが良い。二人、かあいい。観てるだけで、ほっこりこり」

カル姉、温泉饅頭を頬張りながら会話に参加

「み〜んな格好良かったよ〜。でもやっぱり、ぽ兄ちゃんが一番かなぁ。あ、でも確かに。ピコ君や勇馬君は『かわいい』色の方が強いかも〜。リンちゃんはだれ〜」

わたしの右脇、寝そべるめぐ姉が聞いてくる。あの日のわたし。迷うことなく

「がっくん。がっくんが格好良かった〜」

繰り広げられた女子トーク

「リン、ホントにおにぃがオキニ(お気に入り)だな〜。なんで、確かにおにぃも超格好良くてやっさしくて〜」

基本、彼の妹、私の姉達はブラコンだ。惜しみない賛辞を述べる

「歌も料理も上手いけどさぁ。リンの気に入り方パネエじゃん。なんで〜、一回聞いてみて〜んだ」
「あ、わたしもちょっと気になるかも〜。リンちゃん、わたしたちが来る前の、ぽ兄ちゃんとのお話聞かせて〜」

わたしのふとんに集まる姉達。寝そべるわたしの頭の上、カル姉もやって来て、ほっぺたを挟まれる

「聞かせてリンリン」
「ほら、はけ〜、はいちまえ〜」
「教えて〜リ〜ンちゃ〜ん」

めぐ姉、リリ姉にくすぐられる。そんな風に可愛がってくれる、姉達が大好きだ。あの日も今も変わらない

「あはははは。や、やめて、話す話す〜」

言う私、解放してくれる姉

「は〜。ん〜とね。初めてだったんだ。他の事務所のプロデューサーが歌い手さん、連れてくるの。わたし達、一族以外の歌い手さんが来るの。楽しみだったな〜」

あの日の気持ちを話す。何一つ包み隠さず

「で、待ってたらね、超きれ〜なお侍さんが来たの。それが、がっくん。それでね、初めてなのに、わたしとレンの見分けができたの」
「そんなに似てたの、小さいときのリンちゃんとレンくん。まあ、今も髪型そろえると、凄く似てるけど」

聞いてくるめぐ姉

「うん。めー姉とか、プロデューサーも間違えるくらいにね。でも、がっくんすごいんだよ。一回も間違えたことないの。それにね、レンを王子、わたしを姫みたいって言ってくれたの。嬉しかった。お姫様なんて言われたことなかったし」

嬉しかった思い出が溢れる

「誕生日、忘れられちゃったことがあってね。でも、がっくんだけは憶えててくれて。靴、プレゼントしてくれたんだ。嬉しくてしょうがなかったなぁ。冬休み、楽しくしてくれたのもがっくんだったし」
「あ〜、冬休みに騒ぐの始めたのっておにぃだったんだ。メー姉が提案したんだと思ってた」

リリ姉に顔を向ける。背をそらし、片肘をつき、手の甲に顔をのせたリリ姉。小悪魔なポーズで

「うんっ。宿題してたわたし達にね、甘酒持ってきてくれて。勉強『頑張らな〜い』って。おせちとかご馳走もつくってくれたんだ〜」
「そういえば、ぽ兄ちゃん。前にチョコ嫌い克服できたの、リンちゃんのおかげって言ってたけど。何したの〜、リンちゃん。わたし、ビックリしちゃった。久しぶりに会ったら、ぽ兄ちゃん、チョコ食べられるようになってるんだもん」

今度はめぐ姉を見る。うつぶせになって微笑んでいる

「んとね、一緒に住んでたときね。わたし、がっくんの部屋に行ってみたくてね。頼んで、連れて行って貰ったことがあったの。刀とか見せてくれた」
「あ〜、居合いか。何がおもしれ〜のかなぁ。たまに、勇馬とチャンバラしてっけどさ〜。重音さんとも手合わせしてっけど。痛くねえかあれ」

今度は寝そべって、横向きにわたしをみるリリ姉

「『大切なモノ護れるように鍛えとけ』ってがっくん言ってた〜。リリ姉達、護るためじゃないかなぁ、鍛えてたの」

何気ないわたしの一言、頬が緩む姉達

「かる達も、りんりん達も。あにさまが護ってくれる」

夢みる乙女顔のカル姉。でも、本当のこと。カイ兄、めー姉、そして、彼。何処へ行っても、どんなときでも護ってくれた。わたし達を育ててくれた

「ったく、護ってくれんなら置いてくなっつ〜の」

頬を染めて言うリリ姉

「でもさ、嬉しかったよねリリちゃん。ぽ兄ちゃんが格闘家やめるって言ったとき。このPROJECTに加えて貰えるって聞いたとき」

今度は、わたしの知らない彼の話をするめぐ姉

「めぐ姉、がっくんは何で格闘家やってたの。そういえば、リリ姉とカル姉って『親族』さんだよね。なんで一緒に暮らしてたの」

気になったことを素直に聞く

「あ、んとね。リリちゃんのお父さんは、わたしのお父さんの弟さんなの。ヨーロッパで、演出家さんやってる人でね」
「ウチが生まれる前、日本来てさ。活動おわって、また本来の拠点、ヨーロッパに戻らなきゃならね〜って。ウチ、外国行きたくね〜し、転校とかもイヤだってったら〜」
「あにさまのお家で暮らすことになった。近所に住んでたし、カルもリリ姉様も、あにさま好きだし、お得ぷらん」

共同生活のワケを語ってくれる、姉三人。そうか、わたし達メンバー、家族と距離が離れてしまう。だからこそ、より縁(えにし)の深い『家族』になるんだな、メンバー同士。チラリと考える

「格闘技はね元々、お父さんに、子供の頃から鍛えられてたらしいの。総合格闘技って言ってたな。お父さん居なくても、道場には通えって厳命されてたらしくって」

プロレスやボクシングなど、格闘技を観るのが苦手なめぐ姉、困り顔。ただし『お相撲』は好んで観る、相撲女子

「オジキが音楽関係の人間だからさ。おにぃも音楽の高校、大学いってたんだけどぉ。歌い手になりたいなら、自分の実力で成れって」
「はたちまでに芽が出なければ、辞めて別の道へ進め。おじさんの言いつけ」

説明してくれる姉達。彼が来た時、25歳だと言っていた。じゃあ

「がっくん、どこからもスカウトとかなかったの。あんなに歌上手なのに」
「うん、リンちゃん。上手いだけじゃだめなんだって。いろいろあるらしいよ。きっと、お父さんの名前出せば、一発合格だろうけど」
「コネとか絶対使うなってオジキが言ったらしい。でも、このPROJECTはそんなの関係ね〜じゃん」
「かくとうかしながらも、あにさま歌ってた。歌うことが好きだから。ある日、らいぶはうすに現われた人に誘われたって」

そうか、そこで神威組のプロデューサーに出会ったのか

「スカウトしたらし〜ぜ。プロ(プロデューサー)が。この声しかねぇって。おにぃ嬉しそうだった」

そんな苦労をして、彼はやってきたのか。あの日の京都、姉達の部屋。初めて知ったこと

「そっか、がっくんそんなに大変だったんだ」
「わたしも嬉しかった。安心した。試合が終わった後ね、ぽ兄ちゃん、傷だらけで帰ってくる事ばっかりだった。恐かった。ぽ兄ちゃん、壊れちゃわないかって」

やや涙ぐむめぐ姉、本当に心配だったのだろう

「でも、あにさますごく強かった」
「バカ正直に、正々堂々闘いすぎなんだよおにぃ」

拳を握るカル姉、ファイティングポーズ。しかめっ面のリリ姉。傷ついてほしくなくて。でも、強い彼が誇りの姉達の言葉

「寂しさもあったけどね。ぽ兄ちゃん『これからはそうそう会えなくなる。仕送りはしようじゃない』って。その辺りでね『お母さん』家に帰ってきたんだけど」

表情がさらに曇るめぐ姉。今は、一緒に住んでいるのに。本当にブラコンさん。でも、表情が曇った理由はそれだけではなかった

「おにぃ、付き合ってた彼女とも別れてさ。オバサン、昼間は家に居ないで仕事。だからウチらは、おにぃみたいに成りたいって。必死に追いかけた」
「そうすれば、あにさまにあえるから。かる達も歌が好きだから」
「がっくん、恋人さんいたんだ」

リリ姉の方に向き直る。かなりの勢いで。リリ姉たちが、歌い手に成るために重ねただろう。その苦心など考えもせず反応した『彼女』という単語。わたしの反応にリリ姉、完全無欠の小悪魔スマイルで。わたしを小突いて

「なんだ〜気になるのか〜リン」
「あ、う、うん。だって、ほら、わたし知らない話しだから」
「あにさま、もてもて。バレンタインは、ようかんの山」
「え、カル姉、何でようかん」

バレンタインようかん。とてもシュール

「あのね、リンちゃん。ぽ兄ちゃんが、チョコ苦手って情報、いつもすぐに拡散するから。和菓子は好きって言うのも。ほら、前にみんなで、越後に行ったときに買った、あのようかん。ぽ兄ちゃんの好物なんだ〜」
「あのツラで長身、細マッチョ。ハイスペックの超おにぃ。優しいし、気配りうめぇし、モテね〜方がおかしいっつの」

質問に答えてくれるめぐ姉。リリ姉の言葉。確かに、それは納得がいく。なぜか溢れる、焦りに似た感情

「どんな人だったの、彼女さん」
「ん〜、あ、あのね。何となく『今』のルカちゃんに、似た感じの美人さんだったよ、リンちゃん。ぽ兄ちゃんが、音大の時からのおつきあいだったな」
「あ、確かに。初めて会った頃のルカは、もっと子供な感じだったけどさ。最近やたらキレ〜だよな。今のルカには似てるかも」

めぐ姉の言葉。脳裏に浮かぶ、ルカ姉の姿。何一つカナワナイ。そんな劣等感

「って〜、話変わってるじゃん。リン、おにぃのチョコ嫌い直した話し、続きツヅキ〜」

リリ姉に頬を、指でつつかれれて。話しがすり替わっていたことに気付く

「あ、ごめんリリ姉。でも、わたしの知らない、がっくんのお話聞きたかったんだもん」

チョコ克服の話しに戻るわたし。本当はあの日、もっと聞きたかった。彼のことを

「がっくんの部屋に行った後ね、今度はわたしの部屋に来て貰ってね、お茶したの。遊びに行かせて貰ったお礼〜」
「わ〜ぉ、ダイタ〜ン。リンが、おにぃを連れ込んだのか〜」
「こらこら、リリちゃん。そんなこと言ったらダメ。ぽ兄ちゃんがいたら怒られちゃうよ〜」

苦笑し、たしなめるめぐ姉。その言葉の意味を知らないあの日の私

「その時ね、お招きのお返しににって。チョコレート食べさせてくれたの。いつもより、高級なチョコレート。すっごくおいしかった。でも、がっくん、チョコ苦手って。食べられないの、もったいないな〜って思って〜」

話すのが楽しくて、思い出が嬉しくて。気持ちが高揚。そのわたしを、微笑みながら見ていた姉達。どんな事を考えて見ていたかは、今も分からない。わたしのおしゃべりは続く

「ホワイトチョコも知らなかったんだよがっくん。食べさせてあげたの。そしたら『甘っ』って言ってたな。でも、おいしいって。その時からね、チョコも食べられるようになったんだぁ」
「だからばれんたいんぱ〜てぃ〜、することに」
「そうなの、カル姉。それがきっかけ〜」

わたしの頭の上。座布団に座っているカル姉がのぞき込む。上機嫌になって、そして、神威の姉を本当の姉と思い始めたからこそ、話し始めたのだろう。始まりのあの日を

Re: はじまりのあの日 ( No.33 )
日時: 2017/09/30 12:35
名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)

話し始める前、それでも一応念を押す。この話しは

「あとね、歌披露のお話。この話、するのはめぐ姉達だから。他のメンバーには、ごめんだけどナイショ。わたしとめー姉。カイ兄にミク姉。あと、レンしか知らない。実は、ルカ姉も知らないお話」
「お、メズラシイ。隠し事無しのリンがねぇ」

少し、モードが真剣になるわたし。そう、これはきっと、わたしの中で、生涯誇りに想うこと。自己紹介、歌披露。その席で始めから、わたしと彼のように声を重ねた者。そんな歌い手は誰一人現れなかったから

「うん、リリ姉。これは、これだけは。わたしの中で、一番大切なお話。がっくんとわたしだけのお話だから」
「そんなに大切なお話、聞いていいの、リンちゃん」

心配そうに聞いてくれるめぐ姉。わたしの真横に転がってきて、頭を撫でてくれる

「お姉達だから。めぐ姉達には、知ってて欲しい。がっくんの事も教えてくれたし。でも、ほんとナイショだよ」
「ないしょ。かるは言わない。約束」

言って、わたしとおでこを合わせてくれるカル姉

「ん、ウチも。リンが、ウチらを『お姉』って思って話してくれんだ。約束だ。秘密にする」

彼の部屋で、泣いたあの日のように。リリ姉とゆびきり。親族といっても、やっぱり兄妹だと感じる

「じゃあ、お話しするね。新しいメンバー来ると、その日にするよね。歌披露。歓迎会はベッコ(別)になったけどさ。歌だけは、皆の前で歌うよね。がっくんが来た日は、歓迎会も一緒だった。めぐ姉達の時と同じように。でね、その時歌ったんだ、一緒に」
「え、その日に合わせたの。リンちゃんとぽ兄ちゃん。出会ったばっかりだったんだよね」

驚くめぐ姉。そう、声を重ねるには、普通しっかりと打ち合わせをする。何度も歌い込む。それでも、声がうまく重ならない時もあるというのに。あの日のわたしと彼。奇跡のように重なった声。紡ぎ出された歌。その旋律の美しさは、姉と兄と弟もお墨付き

「うん。わたしがね、一番初めに歌ったの。最初に聞いてほしくて。そしたら、がっくん『君に会えて良かった。俺の歌、変わるかもしれない』って。歌ってくれてね。その日、歌を合わせたのはわたしだけ。みんな、歌披露はしたけど。合わせたのは、わたしだけだった」

天井を見る。カル姉から、視線を外して

「ん〜なコトがあったんだ、おにぃとリン」

わたしを見たまま、仰向けになるリリ姉

「途中からは、我慢できなくて。わたしも一緒に歌い始めた。すっごく楽しくて。もう一曲、初めから一緒に歌った。めー姉もカイ兄も、すっごく褒めてくれた『こんなにも重なるんだ』って。レンは『負けない』って言ってたけどね最後は褒めてくれた」

あの日を思い出す。長身の彼、八歳だったチビ。椅子にのって、彼は、少しかがんでくれて。声を重ねたあの日

「あの日、言ってくれたな〜。レンと一緒に、がっくんの膝にのってて、眠くなったの。そしたら、二人とも部屋まで運んでくれて。最初にわたしを寝かせてくれて『おやすみリン良い夢を』って。がっくんはレンを王子って言ったけど、がっくんのほ〜が、よっぽど王子様って感じ」

天使組、キヨテル先生だけに見せる、優しい笑顔。あの時は、わたしにも見せてくれた。慈愛の笑顔のリリ姉。でも、その双眸を、すぐに小悪魔天国よろしく変えて

「あ〜あ、おにぃもツミなヤツだな〜。無意識天然ツミツクリ。リンをど〜するつもりやら」
「ちょ、リリちゃん」

慌てて言葉を遮るめぐ姉。あの日の私は意味が分かっていなかった

「だいじょうぶ。あにさまは護ってくれる。りんりんを、かる達を」

また、わたしの両頬を、優しく包んでくれるカル姉。そこで、ケタタマシク、鳴り響くチャイム。何事かと、急ぎ開けに向かう。何かあると嫌なので、四人全員で。そこにいたのは

「あんたたち〜二次会始めるわよ〜」
「は〜い、め〜ちゃん、騒ぎすぎないで〜」

お風呂上がり、浴衣姿。ご機嫌のめー姉と、おもりのカイ兄だった。四人、顔を見合わせ、吹き出す。ふいに、めー姉の顔が優しくなる

「あ〜ら、リン。なんだかもう神威の姉が、実のお姉ちゃんみたいね〜」
「え、や、めー姉そんな—」
「ふふふ。そんな日が来るかもしれないわね〜」
「はは、そうなったらオレは、泣いちゃうかもね」

お酒のニオイを纏うめー姉、意味深に言う。わたしの頬を撫でてくる

「へへへ、ごめ〜ん、メー姉。ウチもう、リンはマジの妹って思ってんだ〜。取っちまって、ご・め・ん〜」

リリ姉腕が、わたしの肩に回される。神威の姉達も笑う。兄は少し、寂しげに。とことん子供の私には思い至らなかった。何を言っているのかを

「さ、アタシの部屋に集合。二次会するわよ〜」

早々とお酒モードに切り替わるめー姉。半ば強制的。でも、嫌なら顔だけ出して、すぐに帰ればいい。それが、めー姉の方針。でも、なんだかんだ結局は、最後までみんな二次会を楽しんでしまう。紫の彼風に言うなら『ステキな女王様』の魅力の一つ

「メイコ姉様〜おつまみとお酒。ソフトドリンクも買ってきましたわ〜」
「飲めない組にお菓子もな。天使様は起こすなよ。寝かせといてあげようじゃない」

バッグを手にルカ姉。酒瓶と、おつまみの袋を手に、やってくる紫の彼。コンビニに行っていたことが、袋の印でわかる。二人が私服だという点からも。白を基調にしたドレスタイプの私服、ファーのマフラー、ピンクのボレロ。ハイヒールのルカ姉。白のマフラー。黒、スヴェードのライダースジャケット。ライトグレーのパンツ、黒い革靴の彼。一次会のお酒の酔いのせいか、少し、足下がおぼつかないルカ姉。紫の彼に寄りかかり、腕を組んでいる。傍目には、大人の超美形カップル。非の打ち所がない

「がっく〜ん。これから二次会するんだよね〜」

さっきの話『ルカ姉似の恋人』思い出して。それが、すごく気になって。一目散に彼のもとへ飛び込む

「おっと、元気なのが来た」
「買い出しありがと〜。ルカ姉も。早く初めよ〜」

そこはわたしの場所だと言わんばかりに腕をとる。始まりのあの日、聞いた台詞が嬉しかった

「リ〜ン、スリッパも履いてないじゃない」
「あ」

彼に言われ、とたんに恥ずかしくなる

「俺も風呂入ちゃうからさ。先に、メイコの部屋行ってて。めぐ達も、リンをお願いしようじゃない。カイトこれたのむ」
「あ、うん」

袋を兄に手渡す彼

「さ、リン」
「ん、がっくん」

と差し出される手。素直に従う。抱き上げてくれる。横抱き、姫だっこ

「はは、何時かよりは大きくなったな。ほい。足、ちゃんと洗っておいで」

部屋の入り口に降ろしてくれる

「ありがと〜がっくん」
「ん、なんだリリ、めぐ、カルまで。気になる眼差しじゃない」

生暖かく、わたしたちを見ていた姉三人

「っくくく、な〜んでも、おにぃ」
「ははは、リンちゃんも自覚ないんだ〜」
「うふふ、天然カルが認める天然コンビ」

吹き出すリリ姉。皮切りに、気付けば、周りに居た全員含み笑い

「っふふふ、はは。ホント、神威君は過保護ね〜」
「うふふ、レンくん、リンちゃん、天使様。でも、神威さんは特に—」
「リンに過保護だよねっ、殿は〜、ははは」
「そうか。そんなことないじゃない」
「自覚ないのね、神威君らしいわ〜はははっ」

何度も、彼の背中を叩くめー姉。交わされる、大人組四人の会話

「お〜い二次会すんだろ〜。って何、何か有ったの」
「おつっす〜。てか、ホントどしたんすか、皆さん」
「含み笑いが連鎖しているでゴザル」

別の部屋から出てきた、レン、勇馬兄。アル兄も含み笑い大会に、疑問符を浮かべてたっけ。あの後の二次会で、結局わたしは膝の上。彼にせがんで膝の上。周りのみんなに言われたな。天然無自覚ペアと。本当に気付いていなかったのか、気付かないフリだったのか。さてどうなのだろう。時報の音で、意識が今へと戻ってくる。わたしは『フリ』だったのかもしれない。けれどもう、どちらでもいい。今のわたしにとっては—


Page:1 2 3 4 5 6 7 8



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。