二次創作小説(紙ほか)
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- はじまりのあの日
- 日時: 2017/09/24 18:09
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
はじめまして
ボーカロイドの二次小説。話しはオリジナルのストーリーです
神威がくぽ×鏡音リン
MEIKO×KAITO
氷山キヨテル×Lily
めぐっぽいど×VY2勇馬
巡音ルカ×鏡音レン×初音ミク
の組み合わせがダメという方は、読まれない方が良いと思います
恋愛小説のつもりですが、そこまで恋愛じみた話しではありません(あくまでつもり)
どうぞ宜しくお願いいたします
登場人物(最終的に登場する人物)
元音メイコ(もとねめいこ)
継音カイト(つぎねかいと)
初音ミク(はつねみく)
鏡音リン(かがみねりん)
鏡音レン(かがみねれん)
巡音ルカ(めぐりねるか)
重音テト(かさねてと)
神威がくぽ(かむいがくぽ)
神威めぐみ
カムイ・リリィ
神威リュウト
カムイ・カル
氷山キヨテル(ひやまきよてる)
可愛ユキ(かあいゆき)
Miki(みき)
猫村いろは(ねこむらいろは)
歌手音ピコ(うたたねぴこ)
オリバー
ビッグ・アル
IA(いあ)
呂呂刃勇馬(ろろわゆうま)
歌い手総勢21名
プロデューサー1
プロデューサー2
プロデューサー3
- Re: はじまりのあの日 ( No.9 )
- 日時: 2017/09/25 07:13
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
かん高い、萌えボイスが耳に付く。BGMがわりに点けていた、TVを見やる。写し出される、新しいアニメの告知。彼氏の膝の上、乗っている彼女さん。またも、記憶図書館の扉が開け放たれる。贖わず(あがなわず)わたしは入場を決意する—
「初めてだね、よろしくがっくん」
「リンと一緒。気合い入れて行こうじゃない」
あの事変の後。わたしと彼のレコーディングは現実のものとなった。歌う。歌う。恋の歌。昔々を舞台にした。少し悲しい、恋の歌。精一杯に背伸びして、気持ちを込めて。彼の声から、いつも以上の本気が伝わってきたのが嬉しかった
こぎつけた、PV収録。撮影に使ったのは彼の家。その場所で、彼の膝の上、歌えるのが嬉しかった。その合間。休憩時間。わたしは彼に言ってみた。ぴろっと舌をだして。おどけたふりをして、半分は、本気で
「わたしはがっくんになら、買われても、飼われてもいいな」
「やめろ。大切に思ってるひとを、売り買いなんざしたくない。こんなところにやりたかない」
けっこう、まじめに怒られた。彼は言った。吉原を舞台にしたこの歌と、この設定が、実は好みでないと『わたしと』でなければ歌わなかったと。その言葉が嬉しすぎて。帰宅後、部屋で一人、ジタバタした。今もメンバー全員に秘密だ。それ以来、わたしと彼のデュエットは少しずつではあったけど。確実に増えていった
「今度は、この曲。ふたりに歌って貰おうかな」
「これは、カバーじゃねーぞ〜」
アップテンポ。ノリのいい曲を収録。そのPVの撮影。彼と踊れるのが嬉しくて。慣れない、高めのヒールを履いたことも相まって。ダンスの動きが激しかったのも手伝って。結構ひどめに足首をひねった。挙げ句、転んで、膝を擦り剥いってしまった事がある
「〜う〜っ」
打った痛みで、息が止まる。擦り傷がビリビリする
「大丈夫かリン」
彼の問に答えられない。それでも顔をあげ、泣き笑う。大丈夫だと、口だけで言う。声は出ない
「無理するな。おい、救急箱もってこいっ、何突っ立てるっ」
いつになく、大声をあげる彼。まごつく、撮影スタッフに檄を飛ばす
「痛むぞ、染みるぞ、我慢しろ」
消毒薬を傷口に。必死こいて我慢。彼が直々に手当をしてくれる。ガーゼ、包帯を巻かれる。膏薬を足首に貼る。同じように、包帯
「すまなかった。俺が下手くそなばかりに」
言って、頭を撫でてくれる。それだけで、痛みが紛れたことを覚えてる。断じて彼のせいではない。わたしが、調子に乗って、うわついて。自爆しただけなのに。彼は、念のためと病院へ連れて行ったくれた。診断の結果、骨に異常は無かった。ただ、靱帯が少し伸びたということで、全治一週間と告げられた。病院から戻ってその日、一日中
「俺のタイミングが悪かったから。今日は一日、リンの召使い」
と、お風呂、お手洗い以外。どこへ行くにも抱いて、運んでくれた。それも嬉しかったのだけど。本当に嬉しかったのは三日後の、あの出来事—
「まだ痛む、リン」
「う〜でも行きたいよ〜」
カイ兄の問いに答える。今日から連休。以前から予約していたいた温泉施設。個室風呂があるからと、日帰りで、メンバー全員訪れよう。めー姉の提案だったのに。右足首にはシップと包帯。膝にはガーゼ
「その足じゃ、ちょっと無理だろ〜」
「ん〜、昨日シャワーでも染みるっていってたし」
レンの言葉に、涙が浮かぶ。めー姉。そう、お湯につかるなど無理だ
「じゃあ、じゃあ。キャンセルして、皆でパーティーでもしないかな。無理して行くことないよ〜、リンちゃん」
「グミ姉に、ミクさんせ〜。温泉はまたいつか行けるから。今日の楽しさ、プライスレス」
「カルも、めぐ姉様とみくみくに。リンリンのけ者、めっ。ぱ〜てぃ〜たのしい」
やさしい、めぐ姉達の言葉に申し訳なさがこみ上げる
「え〜でも、おれ行きた〜い。ここまで、予約待ちだったじゃないか〜。待ってたのにさ〜」
「でもねぇ、レン。あ、キャンセル料かかるけど—」
「なら、お前等行ってこい。俺がリンと留守番してる」
不満を言うレンを、諫める(いさめる)めー姉の言葉に、紫の彼が割り入った
「いいの、神威君」
「おにぃ、一人の居残りすんの」
「キャンセル料、アホらしいじゃない。せっかく予約も取れてんだし。車、俺以外ならカイトと重音しか出せないし。一台じゃ足りないだろ。一人じゃない、リリ。リンがいる」
「お〜気が利くじゃね〜か、かむい」
軽口で言う『重なり逢う音色(かさなりあうおといろ)』重音テト。紫の彼の同級生。一度『隊』へ所属し、最近退役。歌い手へ戻ってきた。だからこそ、一番、平和を願う歌い手。たまに、紫の彼と、『鍛錬』と言って、格闘の組み手をやっている。そう、テト姉の歓迎会も込みでの湯治企画なのだ
「リン一人、留守番じゃ〜、万一ってことも心配じゃない。歩きも心許(こころもと)ないし。ボッチにするのも、イヤだしな。重音の歓迎会やるじゃない。晩餐用意しといてやるから。騒ぐだろ、今日は」
沈んでいた心。やさしい彼の提案に、たちまち浮上をはじめる
「いいのっがっくん」
「ほんとにいいの、がくさん」
「いいよ、リン。ミクも。楽しみにしてたじゃない。行っといで」
「かむい〜お前自身が万一になるんじゃな〜い」
「どうゆう意味じゃな〜い」
「がっくん、悪いことなんてしないよ、テト姉」
「ふっふ〜、リンたん。そうゆう意味じゃないんだぜ〜」
「チビに変なこと教えんな重音。お前アホだろ。ありえねぇ」
彼の口調をまねた、テト姉と彼のやりとり。あの日は意味が分からなかった。そうして、賑やかに。おみやげ、買ってくるねと、みんなが連れだって、ワイワイ出かけていったあと。静かになった彼の家。広い居間。彼が出てくれた座椅子にこしかける。同じく用意してくれた、手作りの、ビスケットをつまみながら
「ちょっと待ってて」
言われて五分。天井を見上げる。家(マンション)とは、全く違う造り。高い天井。畳敷き。わたしの前には、木製の丸テーブル。床の間。置かれた彫り物。障子張りの雪見戸。木製の引き戸。木目張りの廊下。タタミの部屋は、家にだってあるけれど、本物の畳の感触と香りは全然違う
「お・ま・た・せ〜」
よそ行きに着替えた彼がやってきた。やっぱり格好いい
「がっくん」
「みんなが楽しんでるんだから、俺等も二人、楽しいことしようじゃな〜い」
お姫様だっこされる
「大型店(ショッピングモール)まで遠出して、昼ご飯。ついでに、晩餐会の買い出し。あと、がんばったリンにプレゼント。何か好きなの一つ、買おうじゃない」
やさしい彼の言葉。温泉に行けなかった残念さなど、完全に消えてしまう。思えばこれが初デート。彼とわたしの初デート。ありがとうとお礼を言うと
「出かける前に、リンもお着替え、お召し替え」
と言って、タワーマンションに歩き出す
「やった〜いいのがっくん」
「どのみち、買い出しは必要。リンと楽しく行こうじゃな〜い」
家の中。少し前まで、彼が使った部屋の前。通り過ぎ、自分の部屋。運んでもらって、身支度をする。選んだのは、白いフリルがあしらわれた、黒のワンピース。少しでも、大人に見えるよう、少しでも彼に見合うよう。そんなふうに、意識せずに考えて。わたしの部屋の前、着替えを待っていてくれた彼。ひょこひょこと、出て行って
「がっくん、結んで」
「おし」
合わせて選んだ、白のリボン。黒のフリルがワンポイント。まだ自分では、上手に結べなかった頃。器用な彼に、頭の上、結んでもらう。再び抱き上げて貰い、家(マンション)をでる。車の助手席へおろされる。そこで気付く
「がっくん、くつ」
「ああ、すまん。取ってこよう」
持ってきてくれたのは、おしゃれサンダル。黒に白の水玉模様。服と、わたしのセンスに合わせてくれる、彼の心遣い
「この靴なら、あんまり負担にならないんじゃない」
「ありがと〜。がっくん、ハカセテ、履かせて〜」
「お安いじゃな〜い」
図々しいお願い。応えて履かせてくれる。二つの家屋の戸締まりをして、彼は運転席へとやってくる
「がっくん、ほんとにホントにありがと〜」
「出かけようじゃな〜い」
言って彼は、車を出す。道すがら、わたしは彼に言う
「がっくんごめんね。温泉、行きたかったんじゃない」
「ん、まぁな。でもほら、リン。俺と踊ったせいで、ケガしたじゃない。だから、その罰ゲームとお詫びかな」
「がっくんのせいじゃないよ〜」
「い〜や、俺のせい」
「違うってば〜」
「俺のせ〜い」
「リンが悪いんだよ〜」
「俺が悪いじゃな〜い」
そんなことを言ってくれた、やさしい、優しい紫の彼。幸せでいっぱいだった。車の中、私好みのBGM。途中、自販機で買ってくれた飲み物。いつもは、長く感じる移動時間。楽しさで、あっという間に目的地、大型店舗の駐車場。少し待っててと、言われて。理由が分からず待っていると。車いすを押して、彼が来る。足が痛い、わたしに向けてくれた、精一杯の思いやり
「お待たせ。最近はしっかり備えてるじゃない。乗っちゃえリン」
「ありがと、がっくんっ」
だっこして、おろしてくれる、車いす
「あ〜でもでも、包帯、ガーゼ。ちょっと恥ずかしいかも」
「リンが頑張って仕事した勲章。なにも恥ずかしがることないじゃない」
かけられる、優しさに満ちた言葉
「その勲章へのプレゼント。何がイイ」
そして、嬉しい贈り物まで、彼はわたしにくれたのだ。遠慮もなく、少し考えてから
「新しいリボンがほしいかも」
「じゃ〜それからいこうじゃな〜い」
彼の思いやりに包まれて、わたしはお店を巡る。騒々しさの中、彼と二人だけに思える楽しい時間。ただ、現実はそうもいかない。ファッションアイテムのお店の中。なんとなく、感じる視線。歌い手として、PROJECTとして。認められてきたこその視線なのだろう。10歳の黄色いチビと、27歳、紫の長身、超美形。押している車いす。そんな、異色の組み合わせだったことも手伝ったのだろうけど。紫の彼にうながされ、選んだのは、白のリボン。レース生地。金の糸で。刺繍の施された、美しいリボン。店員さんに頼み、試着させてもらう
「うん、似合ってるじゃない、リン。今日の黒ワンピにも、映えるしかわいいぞ」
そんなことを言われて、他のリボンを選ぶ気に、なれるはずなど無い。即座に決断する。会計へ向かい、支払いをする彼。店員さん、仲がよろしいのですか、と声をかける
「ええ、かなり」
そんな彼の返答が、ものすごく嬉しかったことをおぼえてる
「リン、昼ナニ食べたい。今日はとことん、リン、オンリー」
ふいにかけられた、彼の声。考える。彼の作ってくれるもの、すべておいしいのだけれど
「このモールの中にあるもので、な」
そうか、外食しようと言っていた。遠慮もなしに考えて
「うなぎが食べた〜い」
「うな丼一つはいりま〜す」
モール内の店へと連れて行ってくれた彼。うなぎのタレで、口の周りを汚すわたし。ぬぐってくれる、飲み物を持ってきてくれる優しい彼。楽しくておいしい、昼食を済ませ、食料品を買って帰る。彼の家で、ご機嫌で、晩餐会の準備をした。いや、手伝った。足をかばっているため、変な歩き方になる
「イスで出来る作業、お願いしようじゃない」
彼が言ってくれる。イスに腰掛け、作業する。要するに、ほとんど彼が準備したようなものだった
「がっくん、今日ありがとう。リン、温泉行くより楽しい」
「リンが元気になって、よかった。痛みもあったか、昨日から落ち込んでたみたいじゃない。元気なかった」
「だって、がっくんにも、みんなにも。迷惑かけちゃったから—」
「迷惑なんてないじゃな〜い」
「でも〜」
「リ〜ン」
わたしの前に来て、ひざまずく。正面から、彼と目が合う。心臓がはねる
「俺は、迷惑になんか思ってない。みんなもそう。一生懸命、歌っただけじゃない。もう、ソノ話しは止めにしない」
思いやりに、涙が溢れる
「う、ありがとがっくん。っき今日、みんな—」
「泣くことないじゃない。さ、かわいい笑顔のリンに戻って。ご飯の用意、しようじゃない」
言って、抱き上げてくれて。わたしをポンポン、たかいたかい。たちまち、笑顔になるわたし。ふたたび、晩餐会の用意にもどる。そのうち、飲み物やピザ、おつまみなどを買い込んだメンバーが、ドヤどや帰宅
「迎えに出ようじゃない」
「うんっ。がっくん」
彼はわたしを抱き上げる。小脇に抱えてくれる。玄関に向かう途上、帰って来た、みんなと鉢合わせる
「お、リンたん。無事か〜。かむいにてっきり〜」
「アネキ、そのネタ、もうやめて。アタシも不愉快。神威君、そんな男じゃない」
「ごめん、オレも、テト姉さん」
「にゃっはっは。わりぃワリィ。ま、でも、かむいだからこんな軽口たたけんだ。口先でもう言わないって言っとくぜ」
テト姉。やたらと、彼をそういう人にしたがってたな。めー姉、カイ兄まで、不快感を示す
「でもでもっ、リンちゃん、ぽ兄ちゃん。お洋服が朝と違うかな。リンちゃんはリボンもハジメテ見るのだね。ナニナニ、どうして〜」
「リンね、がっくんとお出かけして、ごはんしたんだよ。買い物もして〜」
「リンちゃん。では、その美しい髪飾りは」
「がっくんに買って貰ったの〜」
めぐ姉、ルカ姉に誇らしげに語ったわたし。リンが一番楽しんだんじゃないの。なんてめー姉に言われたほど。正直本当に楽しかったな。そして、煌びやかに始まった晩餐会の途上、わたしが、彼との外出を、リボンを。何度も自慢したのは、言うまでもない。シュシュをテーマにした歌が聞こえてくる。意識が今へと戻ってくる。わたし、ホントに幸せ者だ—
- Re: はじまりのあの日 ( No.10 )
- 日時: 2017/09/25 07:14
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
スポーツのニュース。コメントを述べるのは、彼(か)の地で活躍した野球選手。引退した、偉大な日本人スラッガー。そうだ、あの日は冬だったから、観ることは叶わなかったけれど。わたし達は行ったのだ。彼が喝采を浴び、活躍していたあの土地へ。記憶があの地へ飛んでゆく。わたし達も、喝采を浴びたあの時へ—
「「「「「「「「「入浴」」」」」」」」」」
疑問符を浮かべるわたし達に、プロデューサー三人が告げる
「いや、New York。みんなでボケかまさないでよ」
「俺もビビッたけどさ。ミュージカルの聖地で公演してくれって」
「あたしも腰ぬかしたもん。そりゃ混乱するかもね〜」
プロデューサー、三人の言葉。私が10歳、十二月初旬のお話。新たに加わった、三人目のプロデューサーは若い女の人。メンバーが増えて、仕事が捌ききれないから。手を貸してと、二人のプロデューサーに促され活動に参入した。わたしたち、そして、神威組のプロデューサーの後輩だという。二人は言う。感性と才能はオレ達より上だろうと。メンバー多数参加型の曲が得意。事実、彼女の評価は右肩上がり。膝に乗っているわたしと、乗せてくれている紫の彼。見るなり彼女は
「うふふ〜あたしは押すよ、二人とも。バンバンきっかけ作っちゃうからねっ」
言った。そして、わたしと彼をよくデュエットさせてくれた。それが、やたらと嬉しかったけど、まだ、外見は少女といっても、差し支えないその人は
「気付かないの、気付こうよ二人とも」
とよく悪態をついた。その意味、あの頃は分からなかった
三人目のプロデュサーと共に、メンバーに加わった歌い手もいる
「初めまして、氷山キヨテルと申します。今、24歳です『識高の歌人(しきこうのうたびと)』というコンセプトを頂いてます。塾の講師から、歌い手へ転身させていただきました。ロックバンド活動でスカウトしていただきまして」
自己紹介したキヨテル先生。彼女の秘蔵っ子だという。宿題など、わからないことを聞けば、やさしく丁寧に教えてくれる。まさに、PROJECTの先生。今は、神威の家に居候(いそうろう)先生の歓迎会。髪を上げ、ロックモードで歌う姿を見て、リリ姉は目を煌めかせていた。それ以来、よく、リリ姉、カル姉の勉強の面倒を見ているという。特に、リリ姉からは、ことある事に質問攻めだとか
「それにしても、NYか。まさか、びっくり、サプライズじゃない。海外に、行ったことあるヤツ、お手上げ」
「ボクだ、かむい。英語できね〜けど」
「ワタシもですわ。神威さん。イギリス英語なので多少差異はありますが話せます」
「私もです。英会話ならできますよ。書くのは苦手ですが」
「四人か。俺含めて、会話できるのは三人だな」
海外に行ったことがあるのは、派遣されたこともある、テト姉。留学経験のある、ルカ姉。ロックフェスタで滞在したキヨテル先生。そして、格闘技の大会でNYを訪れたことがある、紫の彼だけだ。その他のメンバーは海外遠征など初めての事
「「「PROJECTが世界に認められた」」」
プロデューサーは泣いていた。わたし達は、パスポートの作成、衣装の選択、送付。滞在計画などに、きりきり舞い
「でも、楽しみだわ〜NY」
「楽しいとこだメイコ。だだし、気はぬくんじゃない」
「子供達から、目を離してはいけませんよ。防寒対策もしっかりしないといけませんね、神威さん」
「殿もテルさんも、少し過敏じゃないかな」
「いや、カイト」
「カイトさん」
「「なめたらいかん」」
「はい」
キヨテル先生と紫の彼。出発前から言っていた。出発当日、朝。たちどころにその日。国内の空港。ここからすでに、声を掛けられて。写真撮影を求められ、とても嬉しかった。大きな荷物ケースを押し、歓談する大人組。めぐ姉、リリ姉、カル姉、ミク姉も、ころころバッグを横に華やいで。わたしとレンは無邪気にはしゃぐ。浮き足立たないように、搭乗手続きを前に、キヨテル先生が告げる
「みなさん、NYは人が多く、街も広いです。一人で行動してはいけません。必ず、大人と一緒に動いてくださいね」
「いざとなったら、護ってやる。ゲキタイしてやるぜっ」
気遣ってくれるキヨテル先生。ジャブを打つテト姉
「「「「「わかりました〜」」」」」
応えるチビ組
「それから、寒さも厳しいです。風邪をひかないように。必ず寒さ対策をしてくださいね」
「「「「「は〜い」」」」」
キヨテル先生は、前々から、寒さ対策を考慮。プロデューサーと相談。現在、女性、男性。違ってお揃い。女性は、空飛ぶ蒸気機関車のヒロイン。白くした感じの格好。男性は、白のロングコート。赤くして、拳銃持ったらある漫画のパクリ。帽子、マフラーはおもいおもいの色形。そんな出で立ちの、目立つ集団
「ありがとうなテル。子供達、大切にしてくれて」
「とんでもない。子は鎹(かすがい)宝物ですからね」
「今、テルも言ったように、必ず誰かと手をつなげ。はぐれるんじゃない」
「ぽ兄ちゃんが言ったように。何かあったら、大きな声だしてね。絶対助けに行くからね」
「「「「「わかった〜」」」」」
同様に彼、めぐ姉
「じゃあ、リンはがっくんと手をつなぐ」
「いいじゃな〜い」
「ミクさん、レンくん。つなぎませんか」
「いいよ、ルカ姉」
「ミクも〜」
両手に花のルカ姉
「ウチは、もうおっとな〜。だれとつなぐかな〜」
「いけませんよ。リリィさん。ご自分を大切に。大人の人とつないでください」
「なら、センセつないでくれんの〜」
「いいですよ」
軽口のつもりだったのか。うつむいて、まっ赤になるリリ姉。手を差し出す先生
「あ〜じゃあ、つないだげる。センセが迷子んならないよ〜に」
「はい、よろしく」
早口で言って、がっしり腕組み。勢いでめがねがずれる先生。荷物ケースの上。腰掛けている黄色いの。押してくれてる、紫の。いつだったかも押されていたな。初めての飛行機、海外。ひたすら楽しみで、足をぱたつかせながら
「にゅ〜よ〜く初めてっ。た〜の〜し〜み〜」
「迷子にだけはなるんじゃないぞ」
わたしの頭に顎をのせ、真剣モードで告げる彼。きっと彼は、滞在中。誰よりもメンバーを気にかけていたのだろう。登場開始を告げるアナウンス。乗り込む機内。一角を貸し切り。よくここまで来たモノだと思った。バス一台、借りるのに、四苦八苦していたわたしたちが。いま、ジャンボジェットを。一区画とは言え貸し切る。本当にありがたい
「マナーは護って。でも、好きな順ですわってね〜」
同行する、プロデューサーの言葉。わたしは、当然のように彼の隣に座る。と
「リン、窓側がいいんじゃない。景色見えて」
「ありがとがっくん。リンそうする〜」
優しい彼の気遣い。ただ、怖いもの知らずだった頃なのに離陸の時、初めての感覚。エンジンの轟音。急に怖くなってしまって。隣に座る、彼の大きな手を強くにぎる
「大丈夫。大丈夫」
言って、両手でさすってくれる。優しい彼。飛び立ってからは、幸いにも機体は安定。初めての空の上。どこまでも青かった
「さすがジャンボ。乗り心地抜群。輸送機とは比べものにならないぜ。食事も、良い物出るみたいだし、快適カイテキ」
テト姉。周りのメンバーと、カードゲーム。わたしも、しりとりをしたり彼がポータブル機材でDVDを観せてくれたり。乗り物酔いをしないタチで良かったと思う。飲み物が振る舞われる。あの日、初めて知った。コンソメスープや、オレンジジュース
「コンソメ、お願いします」
めー姉は、乗り物の中ではお酒を飲まない。彼が買ってくれた、ラスクが美味しくて、機内食もおいしくて。ついていたオレンジを、彼がわたしによこしてくれて
「オレンジ好きだったじゃない」
「ありがとがっくん、じゃ、このチョコあげる」
「それは、リンが食べる。育ち盛りダカラ」
やりとりが。彼との、みんなとの時間が楽しかった。後半は、長いフライトに、飽きてしまったのだけれど
「リン、みんなも。飽きたら眠っとこうじゃない。時差ぼけしなくてすむから」
紫の彼の気遣いで、メンバー全員、時差ぼけせずにすんだっけ。TVの音。CMの騒がしい音で、記憶の土地から、強制送還。あの選手の試合、観たかったな。などと思いつつ、夕食の準備に集中する—
- Re: はじまりのあの日 ( No.11 )
- 日時: 2017/09/25 07:15
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
CMからニュースへ切り替わる。サッカー代表が空港へ帰還。熱烈な歓迎を受けている。わたし達も、こんな暖かな歓迎を受けたことがあった。そう、NYのあの地。今日は、思い出につかる日だなと諦めて、何度目かの記憶図書館来訪を開始する—
「「「「「「「「「「「「「「「Waaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」」」」」」」」」」」」」」」
降り立った空港から、熱烈な歓迎を受けた。嬉しくて泣きそうだった。入国審査の人にまで、握手を求められた。集まってくれた、人、人、人。掛けられる声、求められる、握手。フラッシュの光にクラクラする。用意してくれた大型バスに乗り込むまで、人の波にかき回された
出発前から、メンバー全員で決めていた。会場入りをするまえに、まずは、あの場で献花。黙祷して、哀悼の意を捧ぐ。せめて、皆々様が安らかであるよう、祈りを込めて歌います、と。その後は、日本ではお目にかかれない、超高層ビルの谷間を移動
「すっご〜い。高いビル〜」
「さすが違うわね、NY」
わたしはもちろん、めー姉さえも、お上りさん上等で見渡した。到着した、ミュージカルの聖地で歌う。その公演でも、大声援をいただく。侍姿で歌った彼への声援はおおきかった。何より、みんなカタコトの日本語で
『miku cha~n』
『rin cha~n』
と、声をかけてくれたのが嬉しかった。誰かに安らぎを、与えられている。思い込みでも、そう感じることができたから
一日目の公演終了後、クタクタになりながら、たどり着いたホテル。用意していただいた、中心街の高級ホテル。豪華な造り。素晴らしい食事に、目が飛び出しそうだった。ホテルマンの方との会話は、紫の彼、先生、ルカ姉が翻訳してくれた。用意していただいて幸せだったのだけど、モメタのはその部屋割り
「全部二人部屋だって。どうする」
ホテルの最上階。めー姉をハジメ、大人組が悩む
「日本(くに)だったら、男女分けでいいんだがな」
「NYですから。どうしますか、神威さん」
「ま〜、大人、子供ペアでいくしかないじゃない」
「仕方有りません」
子供組を気遣ってくれた、大人達の優しさ。男女がどうのなど、あの日のわたしは考えるはずもない
「おし。デカいのと小さいの。ペア組むぞ〜」
「ミクさん。ワタシと寝ませんか」
「いいよ〜ミク、ルカ姉と一緒のお部屋〜」
ミク姉、ルカ姉に抱きつく
「レン。アタシと組むわよ」
「うん、めー姉」
抱き上げるめー姉。まだ照れのないレン
「リンがっくんと一緒がイイ〜」
「うん、リン。重音やめぐの方が良くない」
わたし、彼の腕にすがりつく
「がっくんがいい〜」
「じゃ、そうするか」
だっこしてくれる
「じゃあ、わたしはカルちゃんと同じ部屋で」
「めぐねえさまさま。一緒にねます」
ごきげんに抱きついてゆくカル姉
「リリたん、ボクと寝ようぜ」
「重音さん、アザ〜ス」
腕組みリリ姉
「じゃ、オレはテルさんと相部屋かな」
「よろしく、カイトさん」
それぞれ、キーを手に。入る部屋。広々とした洋室。鎮座する大きなベッド。テーブル。大画面のTV。荷物を置いて、さっそく横になるわたし。疲れていた
「ふわ〜ふかふか。気持ちいい〜」
「リン、まず、お手々洗って、風呂入ったら。すぐに眠れるじゃない」
「うん、リンそうする〜。そうだ、がっくん、一緒に入ろうよ〜」
「一人で入ろうじゃない。俺はほら、門番してるから」
「わかった〜」
恥じらいも何もなかった。彼と入浴したことは、マンション在住の時を含めて一度も無い。服を脱ぐ。下着だけになって
「じゃ〜入ってくる〜」
「ごゆっくり〜」
部屋のシャワールームに入る。日本と違って、浴槽にお湯ははらない。シャワーだけで体を洗う。ボディソープも、シャンプーも。香りだけで、高級なモノだとわかる。簡単に入浴を済ませ、パジャマになって彼の前へ
「あがった〜」
「よし、リンおいで。乾かしてあげようじゃない」
「ありがと〜」
ベッドの上、髪を乾かせてくれる。その後、彼もシャワーを済ます。長い髪を乾かすのに時間がかかってたな
「やっと一息か」
髪をポニテにしながら彼。電話をかけ、ルームサービスを頼む。TVを点ける。当然ながら英語。わたしには全く聞き取れなかった。部屋の戸がノックされる。運んでくれたボーイさんに、チップを渡す。テーブルに置かれる、ミニボトルのウィスキー。わたしの前には、ホットミルク
「よく眠れるように。お疲れ様、リン」
「明日からも、がんばろ〜ね、がっくん」
お酒と牛乳で乾杯する。雑談を交わす。ホットミルクは甘くて美味しかった。二人の杯が空になり、歯を磨いて、うつらうつらする。ベッドに運んでくれた彼。わたしをベッドに置き、離れようとするその彼のシャツを、離さなかったわたし。嫌々と、頭を振った覚えがある。その日、結局一緒に眠ることになった彼。わたしを起こさなかった、優しいやさしい、紫の彼。朝目が覚めて、横を見ると彼がいた。珍しく、わたしの方が先に目を覚ました。朝日が、カーテンの隙間から零れている。思いっきり伸びる。彼の横。朝からとても気分が良かった
「がっくん、がっくん。おはよう」
彼の耳元で囁くわたし。やや間があって、彼が覚醒しはじめる
「—ああ、リンおはよう」
「今日も良い天気みたいだよ」
横になったまま、わたしの頭を撫でてくれる。至福の感触に、しばらく酔っている
「〜お〜し、起きますか、リン。朝ご飯、行こうじゃない」
「みんなも起きてるかなぁ」
体を起こす、わたしの体を起こしてくれる彼。歯を磨き、洗顔、身支度を済ませる。彼にリボンを結んで貰う。携帯で、彼がメンバーと連絡をとる。朝食に行こうと。キーを持って部屋の外に
「おはようございます、神威さん、リンさん」
「おはよう。殿もリンもよく眠れた」
「ぐっすりだよカイ兄。がっくん、一緒にねてくれたから〜」
「シャツ、掴んで離してくれなかったじゃない。リンと一緒にガッツリ寝た。おかげで体調バツグ〜ン」
朝型のカイ兄、先生。話す部屋の前。他のメンバーを待つ
「おっす、かむい、みんな」
「朝ご飯いこ〜ぜ〜」
「おっは〜みんな。今日もよろしくね〜」
「大変過ごしやすいお部屋ですわ」
テト姉、リリ姉、にっこりと。ミク姉、ルカ姉、微笑ながら合流。談笑していると
「ふわわっ。おはですみんな〜」
「ねむねむ。おはようみんな」
朝が弱い、めぐ姉、カル姉、やや眠たげにやって来る。そして、一番朝が苦手な二組
「うい〜おふぁよう〜」
「はああ〜寝たりないわ〜」
めー姉とレン、お互いにひっついてかばい合いで部屋から出てくる全員集合で朝食へ向かう。華やかなレストランスペース。バイキング形式の朝食。どれもおいしそうで迷っていたわたしに
「リン、ちょこっとずつ取れば、色々食べられるじゃない。みんなで分けて食べよう」
そんな声を掛けてくれた、優しい彼。TVの音。意識が帰ってくる。ちょうど、バイキングレストランの取材。食べきれないほど取っているお姉様がた。もったいない。あれ、絶対残すよね—
- Re: はじまりのあの日 ( No.12 )
- 日時: 2017/09/25 07:16
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
TVに映る、NY最大手新聞の字幕。あの経験、本当におおきなものだったな。記憶の扉、もはや自動ドア状態で開けられる—
「ルカ姉にあ〜う」
「妹分ながら嫉妬しちまうぜ」
「ありがとうございます。お二人だって綺麗ですよ」
NYでの四日間の公演。日を追うごとに、来場者の数が増えていったそうだ。そしてご褒美、オフの時間。光のさざ波のもと、カフェで休憩。キャラメルカプチーノが美味しかった。夕刻、世界一のクリスマスツリーを観る。タクシーで移動。高級ショッピング店が立ち並ぶ、五番街でお買い物洋服のお店の中。みんなで試着。ミク姉、テト姉と共に感嘆。薄桃のドレス。本当にキレイ。まるで花嫁だ。紅いドレスのテト姉、エメラルドグリーンのミク姉。黄色いチビは見劣りしている気がしてならなかったあの日。まあ、今でも勝てる気はしない
「ありがと〜ルカ姉」
「ふっ、ふん。嬉しくなんかねぇんだからっ」
「なんでこうなってんの」
「あら、似合ってるじゃない、レン。将来が心配なほど」
「だよね、め〜ちゃん」
「レン君とてもかわいらしいですよ」
「可愛いぞ、レン。リンも愛らし〜じゃない」
「ありがとがっくん」
紫の彼の言葉。簡単に気持ちが向上する、単純なわたし
「そのまんまお買い上げでいいんじゃネ、レン。あ〜あ。ウチもルカみたくキレイに成れたらな〜」
「リリィさんも、濃金色ドレス。大変良くお似合いです。お綺麗ですよ。レンさんも、とても可愛らしいですね」
薄茶色の燕尾服を纏うキヨテル先生。言われてリリ姉、まっかっか
「僕も似合うと思うんだけどな〜レン」
「俺も。コレで歌うってのアリだよな」
「あたしも。がくちゃん、かいちゃん。レンクン、挟んで立ってみて」
同行した、プロデューサー達の声。ダークシルバーのタキシードの彼、オモシロそうに。ブラックのモーニングを着たカイ兄、吹き出しながら。中央に、黒のフリフリドレスのレン、不満げに
「れんれん、いちばんお姫様」
「「「よし、これ行こう」」」
「〜〜〜〜〜カンベンしてくれ〜〜〜〜〜」
後日、これがきっかけで、あるユニットと名曲が生みだされた。その後、寄ったアクセサリーのお店。華やぐ姉達から、やや距離を置く。一番ちびで、女らしくないわたし。可憐な宝石類なんて、どうせ似合いやしないから。と
「なにしてんの。リンも選ぼうじゃない」
「え、がっくん」
わたしの手をひいて。躊躇なく、選び始める彼
「わたし、にあわないよ〜」
「俺が似合うの、選ぼうじゃない」
彼がアクセサリーを選んでくれる。イスに座らされ、とっかえひっかえ試着。照れ、幸福、恥ずかしさ。ぐるぐるにまざる感情で、全身が熱を持って。頭のてっぺんまで熱くなって。足が床に付いていないような感覚
「これ。リンにぴったり。Sorry—」
「が、っくん」
「お買い上げ〜」
「そんな、悪いってば〜」
わたしを尻目に、店員さんと英会話。もう止められない。そうしてわたしに贈ってくれた、ネックレス。銀のリングにプラチナリボンのついた、ショートチェーンのネックレス
「ちょっと早い誕生日のプレゼント」
彼に連れられ店の外。摩天楼、電飾装飾が光り輝く、クリスマスシーズン夜空の下。そんな、映画のようなシチュエーション
「寒いけど、少しだけ」
防寒のため、巻いていたマフラーが外される。かがんで、さっそく首に掛けてくれる。目が合う。ぞくりとするほど優しい目。イルミネーションの燦めきに、完全に勝るそのキレイな瞳の目尻が下がる。そして、ショーウインドウのガラスに、わたしを向ける。写し出される、デザイン違い。白いコートのわたしと彼。首元に輝く白銀の首飾り
「ほら、お似合い。大人になっていくじゃない。11歳、おめでとう、リン」
わたしの頬を優しくなでて、くれながら。一週間後、十二月二十七日。わたしと、レンの誕生日。覚えていてくれた彼。幸せで涙が込み上げる。鼻声で、彼に告げる
「ありがとう、がっくん。大切にするね」
「喜びすぎなんじゃない」
「さ〜次、化粧品行くわよ〜男共〜あら、神威君、リン」
華やかに出てくる、めー姉。姉達も、百花繚乱。女王と姫が家臣達を引き連れている風情。店の前、佇むわたし達に気がついた
「リン、マフラー外すな。風邪をひくじゃん」
「りんりん、ねっくれす似合ってる。かあいい」
気付かないレン、気付いてくれたカル姉
「わわっ、かわいいネックレス。ぽ兄ちゃんが買ってあげたのかな。リンちゃん、すっごく可愛いよ〜」
「私も、そう感じます。大変お似合いですよ。まるで、リンさんのために作られたかのようです」
破顔しながら、めぐ姉。眼鏡をつまみ、微笑みながら先生
「そ、リンにちょ〜っと早い誕生日プレゼント。後でレンにも。ドレス買ってあげようじゃな〜い」
「いらね〜からっ、がく兄」
「うそうそ、コレ。レンに。おめでとうレン。大きくなっていくじゃない」
彼がレンに手渡したのは、青水晶の数珠ブレス。ネックレスと一緒に購入していたらしい
「え、ほんとっ、ありがとっがく兄、やった〜」
たちまち、喜んで、腕にはめ、飛び跳ねるレン
「お似合いです。かっこいいですよ、レンくん」
褒めるルカ姉。ますます喜ぶレンの後ろで
「神威君」
「殿」
「「ありがと」」
「NYのごたごたと、夢見心地で、リンとレンの誕生日」
「また、トビそうになってた。本当にありがとう、殿」
「忘れちゃダメじゃない。また泣かせる気か」
溢れる彼の優しさに、改めてふれた摩天楼での夜。宝石店のCMのBGMで、意識が今へと帰ってくる。あのネックレス、今も大切にしまってある。ここ一番の時に身につけるため—
ワイナリーに来ています。特集を報じるリポーター。高い棚、隙間無く並ぶ、赤白の瓶。木造の建物。少し薄暗いのは、ワインを劣化させないためだと、彼から教わった。だから、造りが似てるのか、あの土地のワイナリーに。記憶の小部屋行きますか—
「メイコ。明日、郊外のワイナリー行こうじゃない」
一週間の滞在でNYを満喫。女神像を観た。超高層ビルの最上階、百万ドルの夜景。光の洪水を見ながら食事をした。わたし達も歌ったあの聖地で、ミュージカルも見ることが出来た。そして、あのサプライズ。思いやりに溢れることを仕掛けてくれるのは。いつでも優しい、紫の彼
「あら、神威君、アメリカはウィスキーの国なんじゃない」
「NY、合衆国ではワインの美味しい街じゃな〜い。良いとこ知ってんだ、行ってみない」
「うふふ、喜んで」
お酒の提案に、乗らないはずがないめー姉。とても嬉しそう
「テルも、白、好きだったじゃない。同行しない」
「是非、神威さん。あの老舗ワイナリー。まさか訪れることができるとは思いませんでした」
「みんなも行かない。美味しそうなモノあるみた〜い」
「オレいくよ殿」
カイ兄、右手を挙げる
「ミクも〜。わ〜楽しみ〜」
「わたしも参加で、ぽ兄ちゃ〜ん」
「全員参加でおっけ〜じゃね、がく兄」
こうして、訪れたワイナリー。通された、歴史を感じるたたずまいの部屋。並んでいたのは、美味しそうな料理。本格的なピザ。極太のウィンナー、骨付きチキン。豆のサラダに、肉のサラダ。アメリカンドッグに巨大なハンバーガー。日本ではお目にかかれない、本場アメリカンフーズ。あきらかにパーティームード
「実は、みんなで来ること決まってから。予約入れちゃった。これ、やりたくて」
「神威君—」
「がっくん—」
「Sorry master—」
マグナムボトルを注文した彼。コルクを抜いて
「ありがとう。始まりの歌姫。安らぎの声風。貴女が、貴方たちが。作ってくれた、道の上。この液体よりも紅い、血が滲むような苦労の上に。俺達は立ってます。すべてに捧ぐ歌娘、俺はあなたの歌声で、参加を決めました。。合わせ鏡の歌声、俺を映し出してくれてありがとう。今日は万感、感謝とお礼の想いを込めまして。ささやかながら、宴を用意させていただきました」
颯爽とめー姉に、紅い中身を注ぎ言う
「ありがとう。我が家の頼れる御館様。神威君、貴男にだって、いつも助けて貰ってるのよ。ね、愛するカイト。信じられる。今のこの状況。地方の薄汚いライブハウスで。笑われて、ヤジられて、けなされて、たまに褒められて。歌っていたアタシ達」
うっとりと、グラスを見ながらめー姉
「NYで、喝采浴びて公演。ワイナリー、貸し切って祝宴。ホント、信じがたいよね。愛してるよ。めーちゃん。殿だって。妹の、弟のため。オレ達のため。必死に仕事してくれて。殿がいないメンバーなんか、もう考えられないから。ありがとう、オレ達の御殿様」
白ワインを注がれながら、カイ兄
「気高き貴女様の声に、導かれ。私は此処にいます。優しいカイトさんの歌に憧れ、歌い手に成ることを決めました。偉大な神威さんの仕事への真摯な姿勢。尊敬し、見習っています。ありがとうございます。みなさん」
カイ兄に、ワインを注ぐ、キヨテル先生泣き笑い
「がっくん、がっくんが来てくれて良かった。だって、がっくんが来て、ルカ姉が帰って来て。わたし達、歌のお仕事ふえたもん。今、にゅ〜よ〜くにいるのだって、絶対、みんなのおかげだよ。めー姉、カイ兄ありがとう。みんなホントにありがとう〜」
あの日のわたし、微笑みながら
「メー姉、ウチ、メー姉みたいにナンノが目標っ。カイトの歌声好きだから。おにぃ、支えてくれてあんがとおっ」
泣きながら。リリ姉がめー姉に抱きつき
「カルっも、めい様好きっ。かいっ様、あいしてるっ。あにさま大大だい好きっ」
カル姉がじゃくりあげながら。各々が、全員が。メンバーそれぞれにに感謝して。縁(えにし)を再確認する
「さ、辛気くさいのは無しにして、乾杯しましょ」
「冷めたらおいしさ半減だもんね、めー姉」
「へっ、柄にもなく湿っちまったぜ」
レン、今度は意識がゴチソウに移行する。軽口を言うテト姉、こういう軽口は絶妙なのに
「だな、レン。発声を命じてほしいじゃない、メイコサマ」
「ありがとね、神威君。発声は〜カル〜」
「うれしいめいさま。うれしい、みなさま。ありがとあにさま。にゅ〜よ〜く。びっくりビックリ。みんなのおかげ。カル達の歌、聞いてくれてる人達のおかげ。みんなみんなにありがとう。いっせーの〜で」
「「「「「「「「「「か〜んぱ〜い」」」」」」」」」」」
本場の豪快な米国食。日本では味わえない美味しさだった。そうしてどこへ行っても、わたし達ははしゃぎ、目を輝かせ、ひたすらに楽しんだ。ただ、その最中彼は
「カイト、メイコ、重音。テル、ルカ、めぐも。子供達から目、離すなよ。絶対迷子にさせんじゃない」
そう言って、わたしと手をつなぎ、離さなかった
あの頃からだったな。記憶図書館を退館し、思う『チビ』と言う呼称が『子供達』に変わった彼。あの時はきっと、わたし達を。本当の子供同様に、想い始めたのだろう。やさしい彼と過ごした、大都会での日々—
- Re: はじまりのあの日 ( No.13 )
- 日時: 2017/09/25 07:17
- 名前: 代打の代打 (ID: d/GWKRkW)
甘党の向けに、チョコレートスティックを籠の中に盛っておく。ついでに、ホワイトの、クランキータイプのモノも。チョコか。11歳。NYから帰った二月後。始めてお小遣いで買って、彼に送ったあの日。記憶の部屋、いつの間にか、入り込む—
「がっくん、バレンタイ〜ン」
夕刻。家(マンション)のリビングに顔を出す彼。腕には、なにやら袋を下げ、両手持の大きな箱。バレンタインは明日だけど、本日はメンバーの都合が合いやすい。だからみんなで盛り上がろうという、めー姉の提案だった。メンバー同士のチョコレート交換も、この日から始まった
「お、ありがとうリン。こんなことに、わざわざお小遣い使わなくても良かったのに」
「えへへ、バレンタイン。みんなへの感謝を示す日なんだって。ルカ姉が言ってた〜。その袋持ってあげる〜」
「そっか。ありがとう、嬉しい。お利口さん」
一度箱を適当な台に置き、かがんで撫でてくれる彼。彼に贈ったのは、板チョコながら、少し高級なホワイトチョコレート。わたしに袋を預けてくれる。その中から、一つ、包みをとる。白の袋でラッピングされ、黄色のリボンがついている
「そんなリンに、はい、チョコレート。作ってみた。中に、生キャラメルが入ってる」
「ええっ。ありがと〜がっくん。うっわ〜聞いただけでおいしそ〜う」
市販のチョコレートなど、遙かにしのぐ、彼のチョコ。手に持って、暖炉、ソファのスペースを抜け、大テーブルの間へいたる
「あ、待ってたよ殿」
「がく兄、今日は料理、おれらにお任せって事だったから」
朝から、腕をふるっていたカイ兄。わたしとレンも手伝った。午前中は仕事だっためー姉、キヨテル先生。さっきチョコを手に帰って来た、めぐ姉、リリ姉は午後仕事。ミク姉、ルカ姉は一日仕事。夕方には帰ると言っていたが、まだ戻っていない。どうやら、押しているらしく、先に食事をしていてと連絡が入る
「おお、ありがとな。美味しそうじゃない」
テーブルの上、湯気を立てるホワイトシチュー。カニのフライに麻婆春雨。スープに浮かぶワンタンと、定番の野菜サラダ。紫の彼がカイ兄に直伝した、ふろふき大根
「ぽ兄ちゃん」
「おにぃ」
「あにさま」
「「「はい、チョコレート。だ〜いすき」」」
妹達に飛びつかれる紫の彼。めぐ姉たちもそれぞれに、わたしたちとチョコレート交換をしてくれた。ただ、リリ姉は、キヨテル先生だけに少し高めのチョコを渡していた
「っと〜、待てまて、妹よ。落としそうだったじゃない。デザートに、これ、作ってみた」
テーブルに置かれる箱。開かれる。出てきたのは、大きなツヤツヤのチョコレートケーキ。感嘆の声が上がる
「すっご〜い殿。もしかして、料理オレ達に振ったのって」
「がく兄これケーキなの〜」
「そ、これ作るため。ザッハトルテ。オーストリアの、伝統的なチョコレートケーキ。カイトの誕生日も近いじゃない。バースデーケーキも兼ねてってトコロかな」
「え、ホント、殿。うっわ嬉しい、ありがとう」
子供のように喜ぶカイ兄
「わわわ〜、ぽ兄ちゃん。おいしそ〜」
「本格的〜神威君。チョコレート苦手だったのうそみたいね」
「これは芳しい(かぐわしい)ですね、神威さん。甘党のわたしには堪え(こたえ)られませんません。このルックス」
「だよねセンセ。すっげ〜おにぃ、こんなの作れんだぁ」
「リンのおかげ。克服できたじゃない」
撫でてくれる彼。そのての感触が、ひたすら心地良い
「それから、みんなにチョコ作った」
「え、作ったの、殿」
「マジ、ウチのもあんの、おにぃ」
「決まってんじゃない。はい、リリ。中に蜂蜜入ってる」
「ありがとーおにぃだ〜いすき」
飛びつくリリ姉。彼が、どんなチョコをくれるか、もはやみんな、心待ち。一同、彼の前に整列
「メイコにはブランデー入り。カイトは中にバニラクリーム。レンはバナナのペースト。めぐはいちご、煮詰めてクリームと混ぜた。カルはマシュマロをチョコでコーティング。テルには、コーヒークリーム。ああ、ケーキ冷蔵庫にしまって、カイト」
「了解。殿、チョコレートもケーキも嬉しいよ。ありがとう」
チョコを受け取って、ケーキをしまいに向かうカイ兄
「ミクとルカは後からだな」
「ありがとね神威君。わ〜うっれしい〜」
「よし、まず乾杯しちゃおうじゃない」
始まった、バレンタインのご飯会。でもあの日、主役だったのはごはんよりも、彼の作ってくれたザッハトルテ。そしてチョコ。途中から全員、気にかかってしょうがない。自分たちで作った料理は、早々に撤収。また明日以降、食べれば良い
「さ〜あ、神威君。食べさせて頂戴なっ」
「あんま期待しないでほしい。初めて作ったモンだ、まずかったらイヤじゃない」
「がく兄、あの見た目でマズかったら、ウソだから」
冷蔵庫より、彼が持って来たる未知の洋菓子。大理石のように輝くチョコレートのザッハトルテ。そのケーキが、テーブルに鎮座したとき玄関ホールの呼び鈴が鳴る。モニターを確認し、迎えにでるキヨテル先生。姉達の外灯を手に戻ってくる
「たっだいま〜。うう、寒かった〜」
「戻りました。あら、とても良い香り」
ナイフを入れるまでには間に合った、ミク姉、ルカ姉。手を洗って、リビングにやって来る
「お帰り、ミク、ルカ。ごはんはどうする〜」
カイ兄の心遣い。答える二人の姉
「いえ、一応食事は済ませて来ましたので」
「塩っ辛いだけだったよ〜あのロケ弁。お水〜、あれ」
「なんだか、こちらでは、初めて見るものがありますわ。神威さん、もしやこれは」
「何これ〜。すっごく甘いにおい〜」
高まる気持ちを、隠すこと無く話す二人の姉
「ぽ兄ちゃんが作ってくれたの〜。ザッハトルテってケーキなんだって」
「これから切り分けるから。食べるか、ミク、ルカも」
「もっちろん、がくさんっ。わあ〜おいしそうぅ〜」
「やっぱり。頂きますわ、神威さん。留学先のお宅で頂いた以来ですわぁ」
ルカ姉は食べたことがあったらしい。それでも、ミク姉同様、目が輝いていた
「あ、その前にみんな〜わたし達から」
「チョコレート。受け取ってください」
二人も、買ってきたチョコレートを銘々に配る。和やかに華やか。そして彼
「俺からも二人に。はい、チョコ」
彼もチョコレートを二人の姉に手渡す
「殿が作ったんだって。中身がそれぞれ違うらしいよ〜」
「ミクには、メロンのペースト。ルカは桃を煮詰めたやつ」
「ええっ。メロン〜。わ〜楽しみ」
「ありがとう神威さん。食べるのが楽しみですわ」
花が咲いたように喜ぶ二人。それぞれにお礼を言う
「さ〜、ケーキ食べましょ。カイト、切り分けて〜」
「おっけ〜め〜ちゃん」
「では、私もコーヒーを煎れましょう。紅茶もいいですね。オレンジペコが残っていたはず」
「センセ、ウチも手伝う〜」
「ああ、メイコ。今日ここまで、ほとんど飲んでないだろ。これ、一緒に飲もうじゃない」
切り分けを、兄に命ずるめー姉。各種お茶を煎れに向かう先生とリリ姉。そこで彼が差し出す、瓶。中身は琥珀色の液体で満たされている
「ん、神威君、何。アイスコーヒーか何か」
「いや、コーヒーウォッカ。コーヒー豆をウォッカでつけ込んだヤツ。スイーツとも、相性いいんじゃない。飲み過ぎ注意」
「わ、神威君ありがとう。も〜最高じゃないの」
瓶を置き、ショットグラスを取りに行く彼。真剣に切り分けてゆくカイ兄。それぞれにケーキが行き渡る頃、湯気たつ和、洋、英国。各種お茶と戻ってくる先生と紫様
「さ、切り分けた。一切れが大きいよ〜」
パン皿に、いっぱいイッパイのザッハトルテ。子供のわたしにとっては夢見心地
「すっご〜い。塩辛ロケ弁の舌が癒されそ〜う」
「ブレンドも入りました。紅茶も。砂糖は不要かと思います。ミルクはお持ちしました」
「センセ〜って、お茶の煎れかた上手いよな〜」
「お配りいたしますわ。氷山さん、リリィさん。本当に美味しそうなザッハトルテですわぁ」
そうして始まる、スイーツパーティー。カイ兄が切り分けた、紫の彼作の美味しそうなザッハトルテ。銘々好みの飲み物。これで気分が高揚しないほうがどうかしている
「さ、始めようじゃない。第二次会」
「わたし達にとっては一次会開幕だよ〜がくさん」
「そっか。ま、どんなものか、みんな、食べてみてくれ」
「いただきま〜す、ぽ兄ちゃん」
「あにさま、ありがと」
口を付けるわたし達。ちょうど良い甘さ。おいしい。すごく美味しい。ほろ苦のチョココーティング。しっとり甘めのスポンジ部分。そこにサンドされたジャム。絶妙と言う他ない
「素晴らしいお仕事ですわ、神威さん。あちらでも、これほどのモノは食べたことありません〜」
「おいし〜がく兄。これ、ジャムはなに」
「杏の缶詰を煮詰めただけ。簡単でおいしい定番じゃない」
一口食べ、ウォッカを含む彼
「合うわ〜ウォッカ。抜群じゃない、神威君」
「こんなに大きなチョコレートケーキ。おいし〜し、夢みたい〜。ありがとがっくん」
「夢は言い過ぎじゃない、リン。でも、いいな、確かに。変なモンにはならなくて良かった。ウォッカと合うじゃない。カイト、コーヒーリキュールもあるけど飲む」
夢中で食べているカイ兄に聞く紫の彼
「いやもう完璧だよ殿。こんな美味しいの始めて。最高の組み合わせ。リキュールもいただきま〜す」
「神威さん、私にもウォッカいただけますか。コーヒー豆をつけ込んだと伺いました。牛乳で割って飲んでみたいです」
「お、テル。それもおいしそうじゃな〜い」
「あはっ、センセチョコついてる。カワイイな〜もう」
キヨテル先生の口の端、ついたチョコを指で拭うリリ姉。ぬぐった指を舐める
「素晴らしい画をありがとう、ふたり〜」
「って、なにしてるんですっ、ミクさん」
「おまえ、撮影してんじゃね〜よ」
この辺りから、ミク姉が変なものに目覚めたんだっけ。彼が来て、またも新たに加わった。二月中盤の甘味祭り。ただし、体重管理は大切なので、この前一週間。この後、冬休みまでの一週間。徹底的に糖質制限、カロリー制限をする。これも、メンバーの掟になったっけ。TVの糖質制限の文字を見て、意識が今へと帰ってくる。今日は、甘味祭りではないので、用意するものはおかず祭りだなと思う—