二次創作小説(紙ほか)

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Re:Re:ポケットモンスター REALIZE
日時: 2024/03/05 19:54
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: xPOeXMj5)

はじめまして。これまで二次創作板(総合)にて同名の作品を書いておりましたガオケレナです。
この度、より書きやすい場を求めて移設することとなりました。移設作業が終わり次第こちらで続きを書く予定です。宜しくお願いします。

現在のあらすじ
一番の仲間を失った深部ディープ集団サイド最強と言われている青年ジェノサイドであったが、世界を一変しかねない騒動を収めて以降平穏な日々を送っていた。
そんなある時、これまで確認されることの無かった"メガシンカ"が発現したという噂を聞き、調査へと乗り出す。
それと同時に、深部ディープ集団サイドの世界では奇妙な都市伝説が流布していた。結社の人間を名乗る男の手紙を受け取った組織は例外なく消滅してしまうという、悪戯にしては程度の低い噂。
メガシンカを追っていたジェノサイドの元に、正にその手紙"解散令状"を受け取ってしまった組織の人間が現れて……。
結社。それは、深部ディープ集団サイドそのものを含めた裏社会全般を作り上げた、大いなる存在。それが今、ジェノサイドと相見える。

第一部『深部ディープ世界ワールド

第一章『写し鏡争奪篇』
>>1-7

第二章『シン世界篇』
>>8-24
 >>8-10 堕天狗といかずちの包囲網
 >>11-13 包囲網第二幕・妖精の王
 >>14-16 激闘 ライブハウス
 >>17-19 暴かれた真実、膨らむ疑惑
 >>20-24 霊峰の戦い

第三章『深部消滅篇』
>>25-
 >>25-28 メガシンカ発現
 >>29-31 解散令状
 >>32-34 メガシンカの恐怖
 >>35-40 平穏なる港町、横濱よこはま
 >>41-43 夢の国での悲劇
 >>44-47 同士諸君よ、戦いの時だ
 >>48-   叛乱
 >>    後片付け

第四章『世界終末戦争アルマゲドン篇』
 >>    不協和音

第二部『世界プロジェクト真相リアライズ

第一章『真夏の祭典篇』
>>

第二章『真偽ボーダー境界ライン篇』
>>

第三章『偉大グレート旅路ジャーニー篇』
>>

第四章『タイトル未定』
>>

第五章『タイトル未定(最終章)』
>>

〜あらすじ〜

 平成二十二年(二〇一〇年)九月。ポケットモンスターブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiはゲームにおいてもグローバルな交流を果たす便利なツールと化していった。
 時を同じくして、ゲームにしか存在しないはずのポケットモンスター、縮めてポケモンが現世において出現する"実体化"の現象を確認。ヒトは突如としてポケモンという名の得体の知れない生物との共生を強いられることとなる。

 それから四年後の二〇一四年。一人の青年"ジェノサイド"は悲観を募らせていた。

 世界は四年の間に様変わりしてしまった。ポケモンが世界に与えた影響は利便性だけではなく、その力を悪用して犯罪や秩序を乱す者を生み出してしまっていた。
 世はそのような悪なる集団で溢れ、半ば無法な混乱状態が形成される。そんな環境に降り立った一人の戦士は数多の争いと陰謀に巻き込まれ、時には生み出してゆく。

 これは、ポケモンにより翻弄された世界と、平和を望んだ人々により紡がれた一つの物語である。



【追記】

※※感想、コメントはお控えください。どうしてもコメントや意見等が言いたい、という場合は誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にて作成予定の解説・裏設定スレにて御願いいたします。※※

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.1 )
日時: 2023/09/13 18:07
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: tOQn8xnp)


 出逢いは、突然だった。

 平成二十二年(二〇一〇年)九月、一人の男の子は自分の家の自分の部屋で一つのゲームを楽しんでいた。

 彼が世界で一番愛したゲーム、ポケットモンスター ブラックだ。

 真新しさがまだまだ残っている制服をハンガーに掛け、ベッドに寝転ぶとお馴染みの携帯ゲーム機を開く。下校途中に家電量販店に立ち寄り、世界の何処かに存在するトレーナーとポケモン交換をしてきたので、その確認のためだ。

 一つひとつの動作に興奮を覚える。
英字で埋まるポケモン図鑑、突然地図上に出現した「ユナイテッド・タワー」という施設。それは常に"新しいもの"だった。

「ブルンジって何処だろう……。そんな国あったんだな」

 大きな大陸の中の、ちっぽけな点。それを眺めながら彼は小さく呟く。

 ふと、彼は静かな部屋の中で自分以外の別のなにかの気配を感じた。視界の隅でもぞもぞと動く"なにか"がある。

 恐る恐るそちらへと意識を傾け、注視してゆく。

 突如として、絶叫が響いた。



 一人の青年は突如としてそのような過去を思い出してはくすりと笑った。
口から漏れ出たその声が聞こえたのか、近くに佇む仲間が振り向く。

「どうかしたんですか? リーダー」

「いや、何でもねえよ」

 リーダーと呼ばれたその青年は二人の仲間を従えて夜に紛れながらその時を待った。
今は任務中である。

「昔のことを、初めてポケモンに会った時のことを思い出したんだ」

「呑気ですねぇ。まぁリーダーにはその位の気楽さがあってこそですが」

「おいおい、リーダーだぞ? 深部ディープ集団サイド最強の我らがリーダーだぞ? 今更敵なんかいるかよ」

筋骨隆々の仲間の一人が、もう一人の背が低い方の仲間の頭を強めに叩く。本人的には加減したつもりなのだろうが、叩かれた本人の表情を読み取るにそんな事は一切ないかのようであった。

「最強……ねぇ」

 二人の仲間を従えた青年は下手な嘘に出くわしたときのような声を発する。自分自身がそのような立場にある自覚が、今ひとつ無かった。
深部ディープ集団サイドのジェノサイド。
その名を知らない者は"この世界"において存在しなかった。

 四年前にポケモンが姿を現して以来、世界の景色は一変してしまった。
時にそれは非力な人間に力を分け与え、日常世界に溶け込み、今となってはポケモンの存在無しに回らなくなってしまった。
工事現場では人間と共にかくとうタイプのポケモンがその力を発揮し、飲食店にはほのおタイプのポケモンが、空を見上げてみればひこうタイプのポケモンが人間を乗せつつ荷物を運んでいる。
災害が起きればみずタイプのポケモンが救助にあたり、テレビを付ければ手品師がエスパータイプのポケモンと共に手品を披露している。変電所にはでんきタイプのポケモンも居るという話も聞いたことがあった。
そうでなくとも、ポケモンは大事な友人、仲間として大切に育てている人も中にはいる。このように、現代を生きる人々にとっては無くてはならない存在となっていた。

 しかし、ポケモンが与えた力はそれに留まることは無かった。

 人間とは非力な生き物である。

 ポケモンの持つ能力を悪用して犯罪に走る者や、秩序を脅かす者で溢れるようになってしまったのだ。
前提として、生身の人間はポケモンには勝てない。それまで平和とされていたこの国の治安は大いに乱れてしまった。

 そんな人々を取り締まり、平和を取り戻さんとする動きが徐々に見られていくようになっていく。
ジェノサイドと呼ばれたその男はそんな取り締まる側の人間だった。

 この世界には闇に堕ち、無法を働く人々がいる。そんな者達を暗部ダークサイドと呼び、自らをそんな暗部の更なる深い深い闇に位置する、光の届かない闇に生き、しかしそんな光に奉仕する者であるとして深部ディープ集団サイドと呼んでは戦う日々を過ごしていた。
ジェノサイドは、そんな深部ディープ集団サイドが跋扈する裏の世界では最強と呼ばれ、正に頂点に位置する存在であったのだ。

「まぁいいだろ。今回の標的は他の組織でも無い、ただの一人の人間だ。改造ツールを使用してポケモンを作成し、ミラクル交換に流したり、独自のネットワークを築いてデータそのものを売買している疑いがある。改造データがこの世に顕現してしまうと、予想だにしない悪影響を与えかねない。それを防ぐための今回の任務だ。特に過酷でも何でもない。俺が直接出向いて対応すればいいだけだ」

 時刻は二十二時を過ぎようとしていた。
目当てらしい男が特に警戒もせずに歩いている。遠目からでしか確認出来ないが、その姿はリーダーのジェノサイドとは年齢が近そうであった。

「あの男でしょうか」

「あぁ、間違いない。情報の通りだ。駅のある方角からこちらに向かっているな。帰宅途中なんだろう」

 行ってくる、とだけ簡単に告げてジェノサイドはその身を翻しては瞬く間に標的に近付き、一言二言会話を交わすと何かの力を使っては地に叩き伏せた。

 終始涼しい顔をしながらジェノサイドは片手に標的の持ち物であるらしいゲーム機を持っては仲間の元へと戻って来る。

「さて、どうしようか? ゲーム内のポケモンをすべて逃がすか? それとも機械ごと破壊するか?」

「俺がこうしますよ!」

 筋骨隆々で長身の仲間、ケンゾウが叫ぶとその手から奪い取っては地面に叩き落とした。

「……まぁいいや」

 このような光景は今回が初めてではなかった。四年間常に見続けていた、彼の"日常"である。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.2 )
日時: 2023/09/13 18:15
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: tOQn8xnp)


 東京都八王子市。都内の北西部に位置し、開拓前は山々が残っていたことを思わせる自然が微かに残る街。その中のとある林の中に、深部ディープ集団サイドの組織「ジェノサイド」の基地がある。
天然の迷路の中にぽつんと立っている、既に使われなくなった廃工場がそれだ。傍から見れば、放置された文字通りの廃墟で人っ子一人見える気配が無い。
その実態は地下。建物の真下には、およそ百人近くの構成員と、二十人ほどの非戦闘員と、一人のリーダーが生活するに十分な空間が造られているのだ。

 リーダーのジェノサイドは揺れる椅子に座りながら、小さなテーブルに置かれていた紅茶を手に取ってゆっくりと飲む。その目線の先には火が点いていない暖炉があった。ボイラーだか何だかを改造して作ったらしいというほぼ忘れかけている記憶が頭の中を駆け巡るが、結局思い出すことは出来ない。

「あっ、リーダー。ここに居たんですね」

「ハヤテか……」

 ジェノサイドは部屋に入ってきた男を見た。先程共に行動していた、背が低い方の男だ。髪型は相変わらずボサボサで、そこは出会った頃と何ら変わりは無い。

「先程はお疲れ様でした」

「まぁ全然疲れてねぇけどな」

「部屋をノックしたのですが、反応が無かったのでこちらに来たのですが……結構の頻度で来ますよね、この部屋」

 ジェノサイドは返事をしなかった。それは肯定するほど正しい事でもなければ、否定するほど間違っている事でもないからだ。

「暖炉がお好き……とか? それなら今度ケンゾウと一緒にお部屋まで行って取り付けましょうか?」

「そこまですることじゃねぇよ。この部屋にあるからこそ特別なんじゃねぇのか。それに、この部屋だけ雰囲気が違う。それがまた良い」

 言われてハヤテは改めて今いる部屋を眺め回した。
 木目調の壁紙、異国風の絨毯、ほの暗い照明、自分の背よりも高い本棚、そして暖炉。
まるで、昔の時代を扱う洋画の一幕に出てきそうな雰囲気だ。ここだけレイアウトの本気度が明らかに違う。

「確かにお洒落ですよね。アンティークっぽいと言うかビンテージ的というか……リーダーの趣味ですか?」

「この部屋を作ったのは俺じゃないが、まぁ俺も気に入ってるってところかな」

 扉には談話室と札が掛けられている。要は、誰でも好きな時に利用していいフリーの空間だ。

「今後はどうしますか? しばらくは今日のように不正利用者を片っ端から取り締まります?」

「どうだろうな。最近は他の組織から名指しされて宣戦布告もされないし、かと言って一人のために時間を使って調査して待ち伏せして叩き潰すのも効率悪いしな。いいんじゃないか? 暫く休んでいても。それだけの蓄えは十分にある」

「宣戦布告……ですか」

 ハヤテはなかなか紅茶に手をつけないジェノサイドを眺めながら呟く。はじめに声を掛けた時、まるで熱すぎて引っ込めたような仕草をしていたので、恐らく少し冷めるのを待っているのだろう。

 四年前。ポケモンが世に出て世界が変わった時、同時に悪の心に染まる人間も増えていった。
ポケモンを使った不法行為が急増した結果、裏で国が動いたのだ。

 ポケモンを使う自警団のような存在を半ばに容認。その結果が。

深部ディープ集団サイド……ですね」

「そうだ。俺たちは暗部ダークサイドの連中を根絶やしにする為に生まれた。ポケモンを使って悪事を働く人間に対しては如何なる手を使っても良い存在としてな」

暗部ダークサイドは消滅したんですよね?」

「あぁ、一応その一年後にはな。今も居るっぽいが元々が個々の半グレ集団みたいな奴らだ。あの時と比べたら徹底されているから恐れるほどではない。問題はその後だ」

 深部ディープ集団サイドは自然発生的に生まれたものではない。一つの大きな組織の管理下に置かれた形で各々下部組織を名乗ってそれぞれ活動している。その下部組織の一つが彼ら「ジェノサイド」だ。

 結社。正式な名称を"携帯獣保護協会"。
政府に半分容認されている、得体の知れない巨大な組織。そこの完全なる管理下に置かれた、無数の深部ディープ集団サイドと呼ばれた人々、組織がある。

「結社に管理された俺らは当然ながら奴らの援助を受けて行動している。それも当然、暗部ダークサイドの殲滅のためだ。だが、それは予想以上に早く終わってしまった。ある意味当初の目論見が外れた訳だよな。だが、だからと言って簡単に深部ディープ集団サイドは消えない。ゆえに、結社は援助を勝手に打ち切ることは出来ない。そうしている内に、新たな問題が生まれた」

深部ディープ集団サイドの人間が、その力を振りかざすようになったんですよね?」

「その通り」

 ジェノサイドは紅茶に口をつける。望んだ通りの温かさになったようで、当初ティーカップに放っていた鋭い目つきは穏やかなものになってゆく。

「それを結社は見逃さなかった。暗部ダークサイドに取って変わってしまった一部の深部ディープ集団サイドを面白おかしく喧伝するようになって、奴らへの駆除を命じるようになった。それが悪い意味で発展して、深部ディープ集団サイド同士の抗争を奨励するようになったんだ」

 組織間抗争。ジェノサイド含め深部ディープ集団サイドの主な活動はそれに半分強制的に切り替えられた。それまで数多く存在していた組織は上の存在の勝手な都合によって大きく数を減らしていったのだ。

「このような抗争で失われた命も相当なものだろう。だが、結社は決して辞める事はしない。表向きには存在すらも認めていないが実際は半ば認めている国も決して動かない。何故だか分かるか?」

「お金……でしょうか」

「正解」

 ハヤテが遠慮気味に答えるとジェノサイドは感情の籠っていない返事と共に指を二本立てる。

「理由の一つは金だ。変な話、結社そのものの活動も、俺たち深部ディープ集団サイドの活動にも金がかかる。実際俺らはこの世界で金を得て生活している訳だしな。一つの深部ディープ集団サイドに掛かる金も中々なものだ。それが一つでも減ってしまえば結社としても良いもんだろう。組織間抗争の結果相手組織を滅ぼせば賞金が出るのもそのためだ。まぁその内の四割は結社に持ってかれるけどな。更に俺ら深部ディープ集団サイドは月に一度結社に金を払わなきゃいけない決まりになっている。それは組織の規模によって変わるのだが……極端な話、俺らの資金源は組織設立時に初めて貰える支援金と、組織間抗争によって手に出来る賞金のみって訳だ。だから抗争は無くならない」

「酷い世界ですね……。それで、もうひとつは?」

「もう一つの理由は単純に俺らが結社から生まれた存在って訳だ。抗争が酷いから、深部ディープ集団サイドも結社の存在もそのシステム自体全部無くしましょうってなった場合、どうなると思う? 組織が消えてもポケモンの力や脅威は消えない。そうする事で生まれる騒乱をそもそも生み出さないために、俺たちは管理下に置かれてしまっているんだ。結社は、俺たちを自縄自縛じじょうじばくさせる為にも、深部ディープ集団サイドは無くさない。だから、抗争も消えない。まぁ、奴らからすれば利権の塊であるこの世界このシステムをみすみす手放すとは考えられないがな」

「本当に……嫌な世界ですね……」

「そんな嫌な世界の頂点に立つのが俺らだって事を忘れんなよ」

 深部ディープ集団サイド世界最強の組織、ジェノサイド。
それは即ち、この世界に変貌した四年間もの間敗北を知らず、数える行為そのものが無意味だと思えてしまうほどの数の戦いを経て生き残った、正に猛者の集いなのである。



「なぁなぁ、"ジェノサイド"って知ってる?」

 眩しく見えるほどの青空の下で、他愛もない会話をしていたはずの友人が突然物騒な単語を放ってくる。
聞き間違いかもしれないので、もう一度尋ねた。

「だから、"ジェノサイド"って知ってるか? って」

「大量殺戮のことか? それとも別の意味?」

「別のほう!」

「あー……」

 気だるげに空を眺めた一人の大学生、なばり 洋平ようへいは悩んだ。

「日本にある、ポケモンを使ったテロ組織……だっけか?」

「そう! それそれ! 物騒だよなぁ。今の日本に昭和時代にありそうなテロ組織があるなんてな」

「昭和にポケモンはねぇけどな……」

 隠はその友人、樋端といばな かけると共に自分たちが在籍している大学の構内を歩いていた。
時刻を見ると今は十七時を過ぎていた。
二人にとって今は講義の空きコマである。こういう時二人は大学内の何処かで合流しては敷地内にあるコンビニでお菓子や軽食を買い、十八時から始まるサークル活動に赴く。今日は丁度そのサークル活動がある日である。これが無ければ樋端はさっさと帰っていたことだろう。彼はそういう性格なのだ。

「ポケモンを使って夜中に出没するらしいな」

「あぁ」

「俺もレンもポケモンやってるからその気になれば使う事も……出来るんだよなぁ? 実際たまに実体化させて遊んでるもんな俺たち」

「だからって一緒にして語るなよ?」

「しねぇよそんな事! それよりも、いつか狙われるんじゃねぇかって思うと少し不安でさ」

「何でだ? 狙われるようなことしなきゃいいんじゃないのか」

 二人は買い物を済ませると、目的の教室に向かう。
サークル活動はまだであるが、二人のように暇している他のサークルメンバーも他には居る。そのため、あらかじめ教室へ向かい、彼らと雑談したり好きな事をするのがいつものルーティンのようなものなのだ。

 隠は平気でスルーしたが、"レン"というのは彼のあだ名だった。名前とは一切の関係も捻りも無いのだが、一応理由が存在するのでそう呼ばれている。むしろ、本人がそのように呼べとまで言う程だ。

 案の定教室は開いていた。明かりも点いている。見ると、数名の先輩と同学年のメンバーが居る。

「おっ、レンと樋端じゃーん」

「よう、御巫かんなぎ

「こんちはっす先輩」

 御巫かんなぎ 美咲みさき。隠や樋端と同じ学年の女子生徒だ。彼女の反応をきっかけに、数名の先輩がそちらを見る。

「やぁ、こんにちは。二人とも」

 御巫に続いて声をかけたのは今年で大学四年生となる、このサークルで副会長を務めている佐野さの 宏太こうただ。人の顔を忘れやすい隠も、彼の愛想の良く優しい声色は記憶に強く印象付けられる。そのお陰か、先輩の中でまずはじめに覚えられたのは彼だった。また、よく見るとその傍らにはゲーム機がある。

「好きっすね先輩」

「うん? そりゃ楽しいからね」

 言いながら樋端は佐野の前の席に座る。席は決まったものでは無いので好きな所に座っていいことになっている。
そのやり取りを見ながら、隠は佐野の隣に座り、鞄から3DSを取り出した。

「おっ、今日も持ってきたねレン君」

「えぇ。今日もやりましょうよ。対戦!」

「ここ、ポケモンのサークルだったっけ?」

 ポケモンをしない人間の御巫は二人を見て苦笑いしながら若干呆れた。

「いつもの光景じゃん。まぁいいでしょ。俺らも旅行サークル名乗ってるけど実際旅行するのは夏休みか冬休みだけだし」

「それはそうだけど、土曜の日程決めどうするのよー……。下手したら決まらないよー?」

「そんなの皆が集まってからでいいだろ。俺らだけで決めてもしょうがないって」

 樋端と御巫は言いながら、誰かが用意したお菓子を食べる。

 これが、日常だった。

 時が経つにつれ、見知った顔がぽつぽつと現れるも、彼らは自由気ままに振る舞い、各々が好きな事をして好きなように時間を過ごす。
サークルと言えどあまりにも自由度が高すぎてまとまりが皆無だ。
だが、これが普段の光景、普段の姿なのだ。

 そんな彼らはポケモンサークルの集まりではない。
纏まった休みに合宿やお出かけを楽しむ旅行サークル「Traveling!!!!」の集まりである。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.3 )
日時: 2023/09/13 18:20
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: tOQn8xnp)


 サークル活動時間から二時間後。二十時。
時間になったのでこの日は解散となった。終始自由気ままに遊んでいた彼らではあったが、当初の予定であった週末の日程も無事に決められたことで御巫かんなぎは一安心している様子であった。彼女は来年からこのサークルの会長になる事が決まっているらしく、今の段階である程度の責任感を背負っているように見える。

 なばりは机に無造作に置かれたゲーム機やお菓子の袋、ファイルを纏めながら黒板に書かれた文字を目で追った。

「今週の土曜に調布ちょうふで飲み会かぁ……」

「どうかした? まさかレン、行けないとか?」

 隠は隣から飛んできた声を耳で捉え、それが誰のものなのかを判断した上でゴミを捨てつつ自分の荷物を鞄にしまい、最後にスマートフォンで乗換案内のアプリを立ち上げて画面をなぞってはすぐに閉じる。そして最後にその声の主に答えた。

「いや、家から少し遠いな……と思って。まだ大学の最寄り駅とかが目的地なら行きやすかったかなって」

「んー。それも話し始めの頃の案にはあったんだけどね。でも仕方ないよ。皆の集まりやすさを考慮したものだしさ。それに土曜だし」

 彼の名前は佐伯さえき 慎司しんじ
物静かで自分からはあまり提案も会話もしないタイプの性格だが、整った顔立ち、平均的な身長を持つ隠よりも高い身長を誇るという意味では外見的特徴が見られる、彼と同学年の男子生徒だ。
更にポケモンの腕も立つときている。今回の日程決めの最中も、隠と対戦しては軽くねじ伏せたばかりである。このサークルの中では一番の実力を持つ人間であるのは間違いないだろう。

 隠は二重の意味で悔しさを表すかのように、

「まぁ、それもそうだな」

と呟いて教室を出た。

「なぁなぁ、それよりもさ。お前らこの後飯食いに行くよな?」

 樋端といばなが隠と佐伯の二人に声を掛けた。サークルが終わった後は近くで外食を済ますのがいつもの流れである。

「こっちは行くよ」

「佐伯が行くなら俺も行くかな。バトルのリベンジしてぇし!」

「頼むから飯食うのかポケモンするのかどっちかにしてくれ……」

 隠の間抜けな言動に樋端は頭を抱えつつ笑う。佐伯はそんな二人を見て軽く微笑む。彼からは戦う意思は無かった。今日は既に満足だ、と言いたげに。

 これが彼らの日常であった。毎日とまでは行かないまでも、よく見る光景、いつもの景色。

 平和な日々が、確かにそこにあったのだ。



 翌朝。講義のために大学に来ていた隠は、構内にあるバスロータリーを歩いていたところを聞き覚えのある声に呼び止められた。

「おはようレン。相変わらず眠そうな顔してんな」

「生まれつきこんな顔なんだよ。別に眠かねぇ」

 一人だと思っていたら二人の男がこちらに走り寄ってくる。樋端と佐伯だ。
二人は途中の駅が一緒らしく、今日みたく時間が合った日はよく二人で来るそうだ。
大学に着くまで終始一人の隠からすると少し羨ましかった。

「レン、今日は講義のコマ幾つあるんだ?」

「俺か? 俺はー……。そうだなぁ……」

 樋端にそう聞かれた隠はスマホに入れてある時間割のアプリを立ち上げるとそれを眺める。昼前にひとつと、昼休み後にひとつ、そしてその次のコマにひとつの計三つの講義だ。彼らの大学の講義はひとつ一時間半なので今日は四時間半の一日だ。

「なんだ、レンお前今日二つじゃねぇのか。バイトまで少し時間あるから遊びたかったんだけどな」

「仕方ないんだ。お前と違って俺は去年遊び過ぎたせいで少しだけ単位足りないんだよ。ここで取れるものは取っておきたくてな」

「レン……。一年生の時が一番取りやすいはずなんだけどなぁ……。一体何をしていたの?」

「まぁ色々だ」

 彼らが所属しているのは"神東じんとう大学"という私立の大学である。
神奈川県と東京都の境に位置しているため、このような名前になってはいるのだが、実際の所在地は都内に収まっている。
もっとも、都内で括るには自然が多すぎる地域なため、地方からやって来る人はそのギャップに驚くというのが毎年恒例の光景である。

「今日はサークルも無いもんね」

「月曜と火曜と木曜だっけか。何で水曜の今日にねぇもんかなぁ?」

「あったとしてもお前バイトだから来れねぇだろ樋端」

「そしたら今日会えるとしたら昼休みだね」

「そうだな」

 佐伯の発言は言い換えると「昼ご飯一緒に食べない?」であった。
この大学に入学して二年。つまり彼らとの交流も二年ともなると、自然とどのような性格であるのかが分かってくるものである。

「じゃあレン。いつまでも眠そうにしてんじゃねーぞ。講義中寝るなよ?」

「寝ねーよ! いつまでそのネタ引っ張る気だ」

 そう言うと三人は別れた。
佐伯と樋端がとある校舎の棟に向かって行ったが、隠はそれらの反対方向にある九階建ての校舎棟へと足早に進んでいった。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.4 )
日時: 2023/09/13 18:25
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: tOQn8xnp)



 時間はそれより少し遡る。
朝七時。宮殿の中にでも居るかのように思わせるほどの広大な食堂の中、眩い明かりに時折目を細める"彼"がいた。

「地下にあるから陽の光を浴びられない。それは仕方ない。……が、その代わりか何かなのかもしれないが少し眩しすぎやしないか?」

 深部ディープ集団サイド最強と言われている組織にして、その名を自身に冠している男。即ちジェノサイド。
彼は、その名声に恥じぬ広々とした空間でゆっくりと朝食を食べていた。

「そう思うのならば……少し暗くしても良いが、単に寝起きでそう思うだけなのでは?」

「俺もそう思うよ。だからこのままでいい。……それで? 話って?」

この空間に居るのはジェノサイドだけでない。そこにはもう一人の、明らかに彼よりも年配の男が傍に立っていた。

「例の物品についてだ」

 バルバロッサ。
いかにも偽名のようにしか聞こえない名だが、"この世界"においては本名を名乗る方が珍しいくらいだ。初対面の時は戸惑いこそしたが、今となってはそんな感情はとうの昔に失せている。
だが、異質なのは名前だけでなかった。
白く長く蓄えた髭、遥か西方の地域の土着民族が着ていそうなイメージの、摩訶不思議な柄で彩られたガウン。明らかに日本人離れした顔立ち。
その全てが、現実離れしている、そんな男だ。

「何だっけかな。写し鏡……か?」

「そうだ」

 ジェノサイドはこの男と知り合ってもう四年になる。それだけでない。ジェノサイドという男がこの世界に踏み入ったきっかけそのものが、そこからあらゆる手引きを施しサポートしてくれたのも、今日までの間果てのない戦いを続け、常に勝ち続けてこれたのも、この男の存在あってだった。
まさに、右腕と評すべき人物だ。

「本来ゲーム内でしか存在し得なかった物品アイテムが、どういう訳かこの世界にも顕現しているようだ。その調査をした上で、可能であれば回収してもらいたい」

「意味が分からないな。ゲーム内のものと同じ道具? どうせどっかの物好きが時間をかけて作ったオモチャみたいなもんだろ。そんなの相手にするだけ意味無いって」

「見た目や名前が同じだけでない。性質も同一とされているのだよ」

 語尾に微かに気迫が残っている老人のその言葉に、ジェノサイドは一瞬だけ思考を固めた。意味をしっかりと理解するために。

「性質……だと? いや、」

 有り得ない。そう断言するしか無い。

「ゲームでの"うつしかがみ"の効果は伝説のポケモンのフォルムチェンジを可能とする道具。そうだよな?」

「そうだ。間違い無い。正確にはその伝説のポケモンとはトルネロス、ボルトロス、ランドロスの三体を指すのだが」

「だったら尚更有り得ねぇな。バルバロッサ、アンタなら俺の言いたい事が分かるよな?」

 バルバロッサは優しく目を閉じると軽く頷く。

 この世界には大きな制約がある。
ジェノサイドが今バルバロッサの隣でパンを齧り、コーヒーを飲んでいるこの間にも、世界のどこかではポケモンが人間と共に活動している。
だが、それは、持ち主となる人間のセーブデータがあってこそであり、現実に姿を見せるポケモンは持ち主が所持しているゲームのデータがそっくりそのまま反映されているのだ。
しかし、その中での制約。

「理由は分かってはいないが、この世に生きるすべての人間はどういう訳か"伝説のポケモンを呼び出す事が出来ない"でいる。どれだけゲーム内でそういう類のポケモンを集め、手持ちに含んでいたとしても、まるで大きな制限が掛かっているかのようにそのポケモン"だけ"操る事が出来ねぇんだ」

「そうだ。そのため、我々の世界はおろか、"表の世界"でも伝説のポケモンを拝む事は決してない」

「だからこそ、使える前提が必須なそんな道具がこの世にあること自体不可解だ」

「しかし、現にそういった報告がある」

 ジェノサイドは反応に困った。
ただでさえこの世にポケモンの姿が確認されているだけでもおかしいのに、更にその理由も原理も分かっていないときているのに、それ以上に理解が追い付けない事柄を提示されても、理由なく首を縦に振ることなど出来る訳がないのだ。

「ジェノサイド。少し考えてみるんだ」

「考えてるよ」

「この世界には理由が不明なものが沢山ある。未確認の生物や物体、現象、体験、歴史、起源……。挙げたらキリが無いだろう」

 ジェノサイドは内心、また始まったと心の中で舌打ちをした。彼も暇では無い。この後も用事が控えている。

「今はそれにポケモンが含まれてしまった。ただそれだけの事だ。しかしそのポケモンのみに焦点を当てるとまた更に違ったモノが見えてこないか?」

「すまん、バルバロッサ。俺あまり時間が無いんだ」

「まぁまぁ、最後まで聴いてくれ。ポケモンが現れた理由、その原理、それだけでない。何故我々は伝説のポケモンが使えないのか? 何故ゲーム上では存在するメガシンカが使えないのか?」

 最後の単語を聞いてジェノサイドは初めて意識を彼に傾けた。メガシンカというシステムはジェノサイドも気に入っているものという単純な理由からだ。

「当然答えは分からない。しかし、お前さんは今その分からない問いに対する手がかりを得られるかもしれないのだよ」

「その手がかりが写し鏡って訳かよ……」

「逆に考えてみるんだ。今我々は特別なポケモンを使うことは出来ないが、この道具が実在していると仮定して、仮にだ。仮に三体の伝説のポケモンをお前さんが使いこなせるようになるとすると……」

 今以上の最強を、より多くの、より強大な戦力を手にする事が出来る。
それは、常に最強という立場に置かれている彼からすると何よりも望んでいる存在だ。

「ったく……朝から憂鬱な気分になってくる」

「とにかくだ、その物体の詳細を調べてもらいたい。偽物なら偽物で良し、本物ならば持ち帰って良しだ」

「場所は? おおよその場所なんかは分かっているんだろうな?」

「勿論だとも。神東大学だ」

「なに?」

 ジェノサイドは耳を疑った。ほんの少しの間だけ夢と現実を混同したのかと錯覚したと思い、反射的に聞き返す。

「写し鏡は神東大学にあるようだ。正しくは、考古学の教授が発掘した物品らしい。私の手元にある資料にはそうある」

「何でよりにもよって"表の世界"の人間が……」

「我々が思っているよりも、二つの世界は混ざり合っているという事なのだろう。そういった物は案外"表"にあるものさ。ちなみにこの情報に偽りは無いと断言しよう。"こっち側"に近しい者……いや、親しい者と共有した資料に拠るものであるからな」

「お前にとって親しい人間? 誰だそいつは」

「お前さんには関係の無い話さ。若い頃の戯れが由来でな」

 白髭の老人は、かつての自分の記憶を洗ったのか優しく笑った。恥ずかしいエピソードでも思い出しているかのようだ。

「頼めるかな?」

「……仕方がねぇ」

 最後まで気が進む事は無かったが、当初自分が思っていた以上に厄介な問題らしいようだ。
所在地にも心当たりがあるし、何より"表の"人間が触れかねない。そうなった場合、どういった結末を迎えてしまうのか、過去に悲劇を経験したことのあるジェノサイドだからこそ、その想像は容易だった。

「やってやるよ。ハッキリとダミーだったと知らしめてやるためにな」

 一部のアンダーグラウンド的な都市伝説においては危険なテロリストだと噂されているジェノサイド。
だがその実態は、誰よりも平和を愛し、それに焦がれる一人の純粋な男でしかなかった。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.5 )
日時: 2023/09/13 18:31
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: tOQn8xnp)


 時間は進み、昼下がり。
夏はとうに過ぎた季節ではあるのに、油断をしていると汗をかきそうな陽射しであった。
今は午後一時から始まる三限目の時間帯だ。講義を受けていれば、今は中盤に差し掛かるところだろうか。

 そのせいもあり、今この大学の敷地内に人はほとんど居なかった。
数千人の学生を抱えた学び舎であったとしても、講義中の時間に敷地を歩き回る人はごく少数であろう。あるとすれば、講義に遅刻して来た者や、空き時間が余りにも暇なのでフラフラしている者、前のコマの講義が終わってから復習なり友人との会話なりに熱くなった者が今になって遂に帰らんと移動しているかのそのどれかだろう。

 ジェノサイドはそのどれにも含まれない。
裏の世界で通じる身分を隠し、服装も改め、いとも容易く潜入を果たすと行動を開始した。

「案外セキュリティは緩いのな、こうして見ると。部外者も簡単に入れるじゃん」

 正門であっても裏門であっても警備員は立っている。しかし、声をかけることはしない。明らかな不審者であったり、あからさまな交通ルールの違反をしない限り目に留まることは無いからだ。

 白のシンプルなシャツと青のデニムという格好のジェノサイドはふと過去の一片を振り返った。

 彼がまだ高校生であった頃。ジェノサイドが最強と言われる前の話。
彼は通っていた高校から家という名の基地に帰ろうとまさに校門を抜けた直後に、深部ディープ集団サイドの人間に絡まれた。
傍から見れば一般の男子高校生が見知らぬ男に学校前で声を掛けられた、そんな光景にしか見えなかったせいであろう。そのためか、周囲の注目も浴びたし、すぐさま教師が駆け寄って来る。

 記憶の中の景色は、そこで突然消える。ジェノサイドがそれから先を思い出す事を止めたからだ。
彼本人にとっても、それは良い記憶では無かった。それよりも、高校は大学と比べてセキュリティが厳しかったという一部分だけが今にとっては重要だったのだ。
とは言え、大学というのは開放されているのが当たり前であり、そこが強みである。なので、違っていて当然なのかもしれない。

 逆に。甘いからこそ。それ故にこの事態から引き下がることは出来ない。
ジェノサイドは、一歩一歩アスファルトの大地を強く踏み締める。

「ん? でも待てよ。此処にある事以外は何も知らないよな。考古学……の教授だっけか? 誰なんだそいつは。名前も聞いとけばよかったな」

 緊張感が全身から抜ける。
ジェノサイドは迷わず携帯を取り出しては頼りの老人へと連絡を繋げた。

『どうかしたか? それとも、もう手に入れたところかな?』

 バルバロッサは案外早くに電話に出てくれた。相手が組織の長だからだろうか、それとも目当ての宝が楽しみであるからだろうか。
ジェノサイドはそんな余計な考え事をしながら協力を求める。

「悪い、まだだ。って言うか誰が持ち主なのか聞きそびれていた。悪いが、持ち主の名前を教えてくれ」

『まだだったのか……。それにしては遅すぎるぞ。今まで何をやっていたんだ』

「いやぁ俺此処の大学の生徒だしなぁ……」

『いいか、これは重要な任務なんだ。下手をすればこの世界そのものが一変してしまう可能性さえも秘めているんだ。それを安全に保護、確保しようとしているものを……。それに、最近お前さんは気が抜け過ぎていないかな? 最強ランクの組織を束ねているとはいえ、お前さんが倒れた暁にはこの世から我々の組織が消えてしまうと言うのに……』

 説教が始まった。
あまりの白熱ぶりにバルバロッサは目的を、受け流すのに精一杯のジェノサイドは現況を忘れてしまうほどに、長い戦いが始まってしまった。

「悪かったって。軽く見ていたかもしれない」

『ならば早く向かうことだ。教授が居ないなんてことが無いようにな。もしもそうなれば任務は失敗……』

「分かったって分かったって。それで、名前は?」

『まったく……。まぁ良い。対象者の名はシメダ トシキだ。くれぐれも、間違いが無いようにな』

「なぁ、それともう一つ。そいつ本人を写し鏡諸共組織が保護するってのはどうかな? やっぱりいきなりアイテムだけ奪うってのは何だかなぁ……って感じがするんだが」

『そこは勝手にしてよろしい。お前さんのやり方に任せる。だがまぁ、それでも相手が写し鏡を寄越さなかった場合は……』

「その場合は?」

『力づくで奪い取れ』

 ジェノサイドはバルバロッサのその声、その指令を聴くことは出来なかった。
その直前にスマホはジェノサイドの手から滑り落ちてしまったからだ。
鈍い音と共にスマホが落ち、通話は途切れる。

 理由は明白だった。

「ポケモン……だと?」

 ジェノサイドの目の前に突然ポケモンが現れ、攻撃を発する。ジェノサイドはそれを避けた反動でスマホを落としてしまったに過ぎなかったからだ。

 ジェノサイドは落ちたスマホを拾い、まずは安堵する。画面は割れていなかった。
そして、ゆっくりと前を見つめた。

 今はとにかく、状況の整理が必要だった。
丸腰のジェノサイドに対し、前方には自身と同年代にしか見えない男と、その男が操っているであろうポケモン、コマタナ。
猛っているのか、その鋭い腕をぶんぶんと振り回している。

(知らない顔だ……。この学校の人間がどうか……も分からないよな)

 素性を探るのはすぐに止めた。無意味な結果に終わるだけなのに時間がひたすら過ぎそうな気がしたからだ。

 本当ならば相手は自分のことをどこまで知っているのか、それを知りたかったが下手に探ると墓穴を掘りそうにもなるのでそちらも諦めた。
今、ジェノサイドは"深部ディープ集団サイド最強のジェノサイド"としてではなく、"どこの大学の生徒かは分からないが、少なくともこの世のどこかの学校には在籍しているであろう一般の大学生"としてこの場に居るからだ。間違えてしまえば表の世界の自分の生活すらも壊れかねない。

(情報が無さすぎる……。コイツは無差別に人を襲う暗部ダークサイドの人間なのか、写し鏡を知っていて狙ってきた奴なのか……)

 そのようにして思案するジェノサイドと、様子を伺っている相手との間でしばらく見つめ合う無防備なさまを晒し続けてはいたものの、それは時間が許さない。

 ジェノサイドがまず求めたのは安全であった。
身を隠せる遮蔽物を求め、ジェノサイドはなんの前触れも無く突如として走り始めた。
それを見たコマタナのトレーナーも彼を追う。

 とにかく近くに立っている校舎棟を目指したジェノサイドは、まずは外周を沿うようにグルリと走り回る。
若干の距離が出てきただろうかと角を曲がったタイミングでチラリと首だけを動かして後方を確認した。

 案の定、トレーナーよりも先にコマタナが躍り出てきた。

 それを待っていたとばかりに、ジェノサイドは急ブレーキの如く足を止め、体を回転させるのと同時にひとつのモンスターボールを投げた。相手のトレーナーが角を曲がりきるまでに。

 シンプルなモンスターボールから出たのはリザードン。
そのポケモンは、今現在プレイしている『ポケットモンスターY』その作品内で登場するヒトカゲを起源とした、この現実世界でも使えるよう改めて育て直したヒトカゲを進化させた個体だ。
そのリザードンは、ゲーム対戦においては必ずメガシンカさせるポケモンであるのだが、どういう訳か現実においてはその現象そのものが発現出来ずにいる。即ち、本来の力を発揮できない個体ゆえに行使することを躊躇う存在なのだが、今はそんな不安などが生まれる余地すらない。

 コマタナ相手ならばこのままで十分すぎるからだ。

 遂にトレーナーは角から姿を現す。息が少し乱れているようにも見えた。
その瞬間。

「"だいもんじ"」

 ジェノサイドはリザードンに必殺技を命じる。
リザードンが吐いた炎の塊は小柄なコマタナを吹っ飛ばし、唐突な出来事に驚いているトレーナーをよそにとにかくジェノサイドはその場から離れた。

 主人についてくるように羽ばたいているリザードンをボールに戻したジェノサイドはふと、その異様な光景に違和感を感じ、一息ついて周囲を見る。

(やけに……人が多いな……。まるでこの後何かイベントが起きるかのような……)

 ほんの数分前までは自分以外の人間が居ないほどだった敷地内に、まるで文化祭の準備を彷彿とさせるほどの人だかりが、そこには出来ていた。

 囲まれている訳では無さそうだった。あくまでも、彼らは出歩いているだけだ。
ある種の気まずさを催しつつあるジェノサイドは、更なる安全を求めてラウンジへ、つまりひとつの建物を目指してそろそろと歩き始めた時。

 不覚にも、リュックを背負った一人の男と目が合ってしまった。
その人は、ひどくびっくりしているかのように目を丸くし、ひたすらにじっと見つめて来る。
ある種の気味悪さを感じたジェノサイドは無視せんと視線を外したその時。

 その男が、モンスターボールを投げた。
それだけでなかった。その場にいる、"すべての人間が"同じようにボールを空に向かって投げている。

 その数、軽く確認しただけでも二十数人。

(まさか……こいつら全員、深部ディープ集団サイドの人間なのか!?)

 ジェノサイドはその事実に驚愕した。
この大学内において、自分と同じ人間が"居すぎて"いることに。

 埒が明かないと踏んだジェノサイドは再びリザードンを呼んではそれに飛び乗り、とある地点まで指差すと上昇するよう命じる。

 対応が出来ずに呆気にとられている地上の人間たちを見下ろしながら、隣に立つ校舎棟と同じ高さに到達したジェノサイドは彼らを指しつつまたも命令した。

「あいつらに向かって"だいもんじ"だ」

 直後にして怪物の口から灼熱の炎が発せられると、地上にいる全てを包まんと拡散し、爆発。
それによって生じた煙に紛れてジェノサイドはやや離れた位置に作られた空中廊下を見出すとそこに着地し、場が大人しくなるまで身を屈める形で隠れつつ様子を見ることにした。ついでにリザードンをボールに戻して。

「うまく撒いた……かな? とりあえず、連絡しないと……」

 ジェノサイドが携帯を取り出しながら誰も聞いていないはずの一人言を発していると。

「あれあれ〜? 今あなたポケモン使ってたよねぇ?」

 聞き慣れた声が向こう側の校舎から聞こえてきた。
顔見知りに見つかってしまったか。その事実、その状況にジェノサイドは背筋を震わせた。


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