二次創作小説(紙ほか)

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Re:Re:ポケットモンスター REALIZE
日時: 2024/03/05 19:54
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: xPOeXMj5)

はじめまして。これまで二次創作板(総合)にて同名の作品を書いておりましたガオケレナです。
この度、より書きやすい場を求めて移設することとなりました。移設作業が終わり次第こちらで続きを書く予定です。宜しくお願いします。

現在のあらすじ
一番の仲間を失った深部ディープ集団サイド最強と言われている青年ジェノサイドであったが、世界を一変しかねない騒動を収めて以降平穏な日々を送っていた。
そんなある時、これまで確認されることの無かった"メガシンカ"が発現したという噂を聞き、調査へと乗り出す。
それと同時に、深部ディープ集団サイドの世界では奇妙な都市伝説が流布していた。結社の人間を名乗る男の手紙を受け取った組織は例外なく消滅してしまうという、悪戯にしては程度の低い噂。
メガシンカを追っていたジェノサイドの元に、正にその手紙"解散令状"を受け取ってしまった組織の人間が現れて……。
結社。それは、深部ディープ集団サイドそのものを含めた裏社会全般を作り上げた、大いなる存在。それが今、ジェノサイドと相見える。

第一部『深部ディープ世界ワールド

第一章『写し鏡争奪篇』
>>1-7

第二章『シン世界篇』
>>8-24
 >>8-10 堕天狗といかずちの包囲網
 >>11-13 包囲網第二幕・妖精の王
 >>14-16 激闘 ライブハウス
 >>17-19 暴かれた真実、膨らむ疑惑
 >>20-24 霊峰の戦い

第三章『深部消滅篇』
>>25-
 >>25-28 メガシンカ発現
 >>29-31 解散令状
 >>32-34 メガシンカの恐怖
 >>35-40 平穏なる港町、横濱よこはま
 >>41-43 夢の国での悲劇
 >>44-47 同士諸君よ、戦いの時だ
 >>48-   叛乱
 >>    後片付け

第四章『世界終末戦争アルマゲドン篇』
 >>    不協和音

第二部『世界プロジェクト真相リアライズ

第一章『真夏の祭典篇』
>>

第二章『真偽ボーダー境界ライン篇』
>>

第三章『偉大グレート旅路ジャーニー篇』
>>

第四章『タイトル未定』
>>

第五章『タイトル未定(最終章)』
>>

〜あらすじ〜

 平成二十二年(二〇一〇年)九月。ポケットモンスターブラック・ホワイトの発売を機に急速に普及したWiFiはゲームにおいてもグローバルな交流を果たす便利なツールと化していった。
 時を同じくして、ゲームにしか存在しないはずのポケットモンスター、縮めてポケモンが現世において出現する"実体化"の現象を確認。ヒトは突如としてポケモンという名の得体の知れない生物との共生を強いられることとなる。

 それから四年後の二〇一四年。一人の青年"ジェノサイド"は悲観を募らせていた。

 世界は四年の間に様変わりしてしまった。ポケモンが世界に与えた影響は利便性だけではなく、その力を悪用して犯罪や秩序を乱す者を生み出してしまっていた。
 世はそのような悪なる集団で溢れ、半ば無法な混乱状態が形成される。そんな環境に降り立った一人の戦士は数多の争いと陰謀に巻き込まれ、時には生み出してゆく。

 これは、ポケモンにより翻弄された世界と、平和を望んだ人々により紡がれた一つの物語である。



【追記】

※※感想、コメントはお控えください。どうしてもコメントや意見等が言いたい、という場合は誠に勝手ながら、雑談掲示板内にある私のスレか、もしくはこの板にて作成予定の解説・裏設定スレにて御願いいたします。※※

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.6 )
日時: 2023/09/13 18:39
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: tOQn8xnp)


 ジェノサイドは恐る恐る振り返った。
知り合いの声だと分かった以上、下手に追及されてしまうだろう。だからと言ってそのまま無視はしたくなかった。何も分からないままやり過ごすのは、あまり良い気分にはならない。

「先……生?」

 その顔を見てまず安堵した。知っている顔ではあったが、友人ではなかったからだ。

「ん? あなた……見たことあるわね。いつも私の講義を真ん前で受けている生徒だよね」

 堀田ほった 莉佳子りかこ。この大学の講師であった。

「今しがた……変な爆発音? 破裂音? がした気がしたのだけど……もしかして原因はあなた?」

「すいません先生。今ちょっと立て込んでて……」

「まさか先生相手に言い訳? それとも何か別の主張があるのかなぁ?」

 ジェノサイドは緊張していた。言葉には上手く表すことの出来ない変なやりづらさが心を満たしている。
相手が自分よりも大人であり、講師である事が一番の理由だったが、それだけではなかった。若かったからだ。

 神東大学という場は、比較的老年に達する教授や講師が多い。そんな中で、三十代前半の女性講師というのは学生からすると珍しい存在だった。
そして、見た目がかなり若い。最近二十代に突入したジェノサイドたちからすると、生徒と先生と言うよりは、先輩と後輩の間柄に見えるほど年齢も近く思えてしまい、可愛げというものを名残に見せているように若く見えるのだった。
要するに、大人の綺麗な女性相手に緊張しているだけであった。状況も状況なために。

「大学構内でポケモンの利用は規則で禁止しているはずよ? はじめの一回だったら厳重注意で済むけれど……その一回目でも悪質な場合は処罰の対象になっちゃうよ?」

「でも先生! 俺は何もしていなかったんだ! 急に向こうからやって来て、それで……」

「正当防衛の主張かな? でも流石に相手が悪いというか運が悪いというか……。あなたも知っているだろうけど、先生の分野は刑法なのですよー? その主張が認められるまではちゃーんと取り調べもしないとねぇ」

「先生! 今俺それどころじゃなくて……とにかく急いでいるんだ! 誰も死んでいないし、軽い怪我程度に手加減しているはずだから、今だけは見逃してほしいんです。罰ならまた別の機会に必ず受けるんで」

「なぁにそれ……」

 そそくさと早歩きで去ろうとするジェノサイドに、堀田は何かを思い出したかのように声を上げ、反射的に彼の足を止める。

「ねぇ待って。何か用事でもあるのかな? 講義中のこの時間に問題起こしつつ歩き回っているなんて怪しすぎるよ?」

「あー……それはー……」

 ジェノサイドは内心悩んだ。今ここで話せる範囲で目的を話すかどうかを。
と言うのも、ジェノサイドは目当ての場所をよく分からずにいた。まだ大学二年というのもあるのかもしれないが、彼は教授らとの交流が極端に薄い生徒なのである。

「あの、先生……。シメダ先生をご存知ですか?」

「ん? あの、考古学の先生のこと? 文学部考古学科の〆しめだ先生のことかな」

「考古学科なんてあるんだ……」

 任務がバルバロッサからの御遣いとはいえ、ジェノサイドは必要とするはずの情報を一切持ち合わせていなかった。きっと本来ならば、こうして行動する前に色々と下調べするはずなのだろう。もしもジェノサイドがジェノサイドでなければ、そうしたかもしれない。

「こんなんが、最強……か」

「今なにか言ったかな?」

 ジェノサイドはそこに表の世界の人間である堀田が居ることを忘れて、ついボソッと呟いてしまう。
だが、はっきりと聞かれなかったようで彼は慌てて取り消した。

「〆田先生に用があるんだね」

「えぇ、まぁ……」

「場所は分かるかしら?」

「いいえ、研究室もよく分からなくて……」

「案内してあげるよ。ついでに取り調べもしないとねぇ」

 年齢に見合わず堀田は悪戯っぽく笑う。ジェノサイドが心の底から嫌そうな顔をするので冗談だと笑い、しかし半ば強引に隣を歩きだした。

「毎回気になっていたんだけど、どうしてあなたは講堂の一番前の席に座って、私の講義を聴いているのかしら?」

「えっと、それは……」

 ジェノサイドは堀田の案内のもと、空中廊下に繋がる建物を抜けて外に出る。彼女は一際高い建物を指していた。

「俺が、と言うよりは俺の友達がきっかけなんですよ。ほら、隣にいつも同じ顔のヤツが居ると思うんですけど……」

「そういえば一緒に居るね」

 きっかけはその友人の提案だった。

『講義の時間って眠くならね? つい寝ちまうことあるよな? でも、先生の真正面で講義受けたらプレッシャーかかりまくりで寝ることも無くなるんじゃねぇのかな?』

 という、理論も体調の問題も一切考慮しない感情論のゴリ押しの結果、その友人と受ける講義は必ず一番前の席で、と決められたのだ。

「はい、ここよ。この建物の十階。」

 堀田が立ち止まった先には、敷地内でも特別目立つ建物があった。
二十階以上はあるであろう超高層ビルの隣に、六階建ての高層建築物が立っている。
それは、この大学のシンボルでもあった。迫力のあるそのビルは、数km離れた駅からでも確認出来るほどだ。

「十階ってことは……高い方ですね」

「隣の建物は教室しか無いわよ」

「十階まで行けば分かりますかね?」

 ジェノサイドは長い間見上げていることで首が痛くなりそうになるのを懸念しながら尋ねた。去年立てられた新築であるが故にほとんど来たことすら無かったためだ。

「分かると思うわよ? 入口に名前あるんだし。確かー……1010-D3だったはずよ」

「なんですかその呪文みたいな名前は」

 ジェノサイドは望んではいなかったとはいえ、ここまで案内してくれたことに対して感謝を伝えると、早足で歩いていった。



 目的地に着いてジェノサイドは納得した。

「なるほど、この建物が施設内にある十番目の建物で、その十階。Dがよく分からんけど三つめの部屋ってことね」

 目当ての扉を眺める。
そこには、"〆しめだ 俊樹としき"の表札代わりの刻印があった。

「こんな苗字あるのかよ……てかアレ漢字だったのかよ……」

 本当に此処に写し鏡があるのだろうか。
疑念を抱きながら、ジェノサイドは扉を三度ノックする。

 返事はすぐにやって来た。
そこに本人が居る。それを実感したジェノサイドは心の鼓動を少しだけ早めて、扉を開けた。

「失礼します」

「やぁ、君は……」

 〆田は反応に困っているようだった。数多くの学生を抱えている大学とはいえ、ある程度講義に参加するなりすれば、自然と顔は覚えられるものだ。だが、今自分の前に立っている、アポ無しでやって来た学生の顔は知らない人間のものだった。
あまりにも馴染みが無いので、他学部の学生かもしれないが、それすらもはっきりできない。

「突然すみません。本当だったら事前に連絡すべきだったのでしょうが、アポ無しに訪問してしまって……」

「いや、いいんだよ。まぁ、連絡あった方が嬉しかったんだけどね」

 小さい丸眼鏡をかけた白髪の男は、手元の資料を机に置き、手を組み直して真っ直ぐに彼を見つめる。

「それで、ご要件は?」

「えっと……それは……」

「ひとつ確認なんだけど、君は私の講義を受けたことがあるかな? どうも、見慣れないものでね」

「あ、えっとすいません。僕は先生の講義は受けた事はなかったんですけど、そもそも僕他学部の生徒でして……」

「ふむふむ。やっぱりね」

 声色は一定して明るい。
警戒とか注意とか、そう言った姿勢が一切見当たらなかった。あくまでも、〆田はジェノサイドをこの大学の一人の生徒であるとある種のフィルターを掛けていることでオープンに接しているのだろう。
そのように察したジェノサイドはまたしてもやりづらさを覚えた。
どのようにして写し鏡を聞き出し、手に入れるのかを。

「うん?」

 なかなか素性を表に出さないジェノサイドを少しばかり怪しんだのか、片方の眉が動く。ジェノサイドはそれを見逃さない。

 そこから少しの間、沈黙が流れる。

「あの、先生……」

「えーっとねぇ?」

 ふとしたタイミングで、二人の声が重なった。〆田は「どうぞ、君から」と手で合図をしたのでジェノサイドは遂に覚悟を決める。

「先生。写し鏡を……ご存知ですか?」

 〆田の顔が変わった。
それまでのにこやかな表情から一転、敵意さえ含んでいるような顔に。
それはまるで、深部ディープ集団サイドの人間が、同族を見る時のような目だ。

「見たところ……この部屋には無さそうですが……。先生が海外で発掘した代物だとお聞きしました。それは今、何処にありますか?」

「どうして君が、そんな事を知っているんだ」

 当然の反応だった。
見ず知らずの人間が、秘匿事項に触れれば人によってはそう言うだろう。そこは、ジェノサイドの想定通りだった。

「どうか、その詳細についてお話くださいますか? 僕はどうしてもそれについて知りたいのです」

「ダメだ。話せない」

「何故ですか?」

「そんな物、私は持っていないからだ」

 素人が見てもはっきりと分かるレベルの嘘だった。ジェノサイドはそれに気にする素振りを見せない。

「僕の知り合いが、教えてくれたんです。神東大学の〆田先生が、"うつしかがみ"を持っていると」

「だったら、そんな知り合いとは縁を切りなさい。根も葉もないデマで他人を振り回すもんじゃないよ……」

「先生……」

 内心穏やかでなさそうだ。
目線も逸らし気味になり、机の上で両手を組んでは解いてを繰り返している。

「それは、危険な代物なんでしょう?」

「……」

「今、この世界ではポケモンが実体化している……そんな現象が見られています。もう四年も前からの話ですが。そんなポケモンと関わりの深い道具だとか。先生がどこまでポケモンをご存知かは分かりかねますが、どうやら普通でないポケモンに関係しているもののようなんですよ」

「君は……どこまでその事を知っているのかね……?」

 流れが変わりつつあった。今この場で最も緊張しているのはジェノサイドよりも〆田のようである。
とはいえ、ジェノサイドも油断は出来ない。彼はその道具については何も知らないからだ。
バルバロッサから聞いた話を断片的に繋ぎ合わせ、その場しのぎをする。それを最後まで続けるのみだ。

「あれは……絶対に手放す事は出来ないんだ。危険な連中の手に渡るのを防ぐ為にも……」

「その危険な連中って、もしかして深部ディープ集団サイドのことですか?」

 その単語を口にした途端。
〆田は驚愕に満ちた顔をジェノサイドに向けた。
言ってはいけない名を聞いてしまったかの如く。

「なんで君はそんな事を……」

「先生、僕はある程度の内容ならばすべて知っています。だからこそ、尋ねているのです」

「君のその知り合いとは……何なんだい?」

「お察しの通りですよ、先生」

 〆田は深いため息をついた。顔を伏せ、何か考えているような仕草をすると椅子から立ち上がり、部屋にあるクローゼットへ向けて歩くと無言で開く。
そこには金庫があった。ジェノサイドがつま先立ちをし、首だけ伸ばしてそちらを見るものの、ダイヤルの番号までは見えない。

「私は少し信じられないよ……この大学内にそっちの世界へ進んでしまった学生が居るなんてね」

「先程構内で小さな爆発を起こしました。まぁ、ただのポケモンバトルです。ここに来るまでに多くの学生と衝突しました。まるで、彼らも写し鏡を狙っている風に。ですがご安心ください。皆小さな怪我で済んでます」

「事後報告されてもねぇ……」

 〆田のダイヤルを回す手が止まる。
そして、金属製の重い扉がゆっくりと開かれる。

 〆田は再び、大きくため息吐くと言った。

「見なさい。これが君の求めている"うつしかがみ"だよ」

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.7 )
日時: 2024/02/12 18:46
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: wUAwUAbM)


 〆田はそれを手に持ってジェノサイドの目の前に持ってくる。まるで見せびらかすように。

「君のお望みの品は……これで合っているかな?」

「本当に……。現存しているなんて……」

 ジェノサイドは顔に出ている以上の驚きをもってその鏡を出迎えた。
ゲーム内で見たドット絵と全く同じ姿かたちをしている。

「どうして……先生がそれを?」

「結論から言うと分からない。私の本来の目的とは大きく逸脱しているからねぇ」

「目的……ですか?」

 〆田は"うつしかがみ"を自身の机の上に寝かせた。台座が無いため立たせる事ができないためだ。

「君は、大山おおやまという地名をご存知かね?」

「いいえ」

「……まぁ、私の講義受けたことが無ければ当然だよね」

 〆田は机を中心にグルグルと歩き回り始めた。広い講堂でより多くの生徒に話を聞いてもらうための彼の一種の癖だ。

 ジェノサイドに対する、講義が始まった。

「大山とは、神奈川県は伊勢原いせはら市に存在する大きな山なんだ。その標高は一二五二メートル。冬には当然雪も降る」

「高尾山の倍なんですね」

「ま、まぁ重要なのはそこじゃないんだ。大山そのものにも、そこに立てられた神社も相当歴史が古い。大山おおやま阿夫利あふり神社の創建だけでも崇神すじん天皇の治世、大山への信仰はそれ以前とも言われている」

「は、はぁ……」

 ジェノサイドは〆田が何を言っているのかよく分からなかった。が、この教授の専門が考古学である事を思い出すとそれに類しているものと解して改めて聞きに徹する。

「私の研究テーマは『大山と古神道の関連性について』なんだ。その研究の過程で私はそこで発掘調査をしてきたんだ。勿論許可を得てね。元々大山からは縄文時代の遺物も出てきている。原始の神道に纏わる物が出てくるんじゃないかと踏んだんだがね。だが、出たのは……」

「その"うつしかがみ"だったと?」

 〆田は無言で頷いた。

「私はこの遺物の本質を理解した訳では無いが、以前から君たちの存在は把握していた。ある折に、君たちのような存在から狙われるタイプの物だと連絡が入ったものでね」

「その連絡は……どちらから? それと、何故先生は我々の存在を知っていたのですか?」

「その二つの質問には答えないでおくよ。どうしても私には言えないことのひとつやふたつがあるものなんだ。……分かるだろう? 人生長く生きると、嫌でも"そういうもの"に触れてしまうものさ」

「先生」

 ジェノサイドは一歩足を踏む。同時にポケットからポケモンの入ったボールであるダークボールをチラリと見せる。〆田に視せるためのわざとだ。

「先生は先程、絶対に手放す事は出来ないと言われました。ですが、僕からするとどうしても必要な道具なんです」

「……脅しのつもりかね?」

 〆田は一度だけ視線を落とす。その先にあるのはポケットから取り出しかけているダークボールだ。

「僕だって本当はこんな事したくはないんです」

「だとしても、駄目なものは駄目だ。実際に地中から出たという事実がまずい。ある種のオーパーツかもしれないし、或いは誰かの悪戯かもしれない。ハッキリさせるまでは手元に置いておかないとダメなんだよ。……安全面も考慮したうえでね」

「安全面……。本当に安全なのですか? 先生は戦えますか? 僕や、僕みたいにそれを狙う深部ディープ集団サイドから」

 〆田は険しい顔をしつつ一歩だけ後ずさりをした。ジェノサイドがその分近付いたからだ。

「……」

「先生、こういうのはどうでしょうか? 僕と、僕の組織が先生と"うつしかがみ"の安全を保障します。僕が先生を保護しますよ」

「生徒の身分で一体何を……」

 教授の言葉に内心ムッとする感情を心の奥底で抑えつつ、ジェノサイドはシャツの胸ポケットから新たに"なにかを"取り出しては掌に乗せ、彼に見せつけた。

「これは我々は"紋章"と呼んでいるものなのですが……軍隊で言うドッグタグみたいなものです。個人を識別するアイテムです。こちらの世界ではいつ誰が死んでもおかしくありませんからね」

「突然何を物騒なことを……。これは……?」

 〆田も気付いたようだった。金属に刻まれた刻印、その意味に。

「僕は、ジェノサイドです。深部ディープ集団サイドで最強と呼ばれ、実際にその地位に立っている組織の長……つまり、こちらの世界ではトップの人間であると」

「何が……言いたいんだい?」

「僕が深部ディープ集団サイドの頂点に立つ"Sランク"という括りを得てから二年……。これまでに最強の座を欲しがる敵対組織とは数え切れないほど戦ってきました。それ故に対策も十分に取られているんです」

「君と居ると常に戦いに巻き込まれそうなんだが……」

「逆です。安全なんですよ。"基地"は」

「なるほど……。狙われるのは君だけという事か」

 〆田はジェノサイドの提案の意味を理解し始めた。
最強であるがために戦い慣れたジェノサイドとその組織は、護りにも慣れている。

「私のような捕虜一人入れる分には何も問題はないということか……」

「捕虜なんてやめて下さい。保護です。馬鹿正直に深部ディープ集団サイド最強の基地を攻撃する物好きは滅多に存在しない、ということですね」

 〆田は考える素振りを見せ始める。時折口から唸り声を漏らしているのを見るに、ポーズでは無さそうであった。

「それならば……なぜ君はわざわざ危険を承知で出向いたんだい?」

「はい?」

「君たちの世界では、組織のトップは倒されてはいけないんでしょう?」

「あぁ……そこまでご存知であったか……」

「ある程度のことならば、ね」

「僕も説明しにくいのですが……と言うか自分でもよく分からないのですが、今回僕が直接来たのには幾つか理由があります。一つは仲間に頼まれたから。もう一つは僕が行けば確実であるから。最後に、余程の事が無い限り僕が死ぬ事は無いからです」

「自信満々だね」

 くくっと低く笑う声がする。〆田のその反応は、まるでくだらないお笑いのネタを見た時のようなものだ。

「僕のこれまでの深部ディープ集団サイドでの人生が、そうさせたのかもしれません」

「よし、分かった。僕も決めたよ」

 〆田は再び歩き出しては机の上に寝たままである"うつしかがみ"を手に取っては抱くと、ジェノサイドの前まで歩みを進める。

「これを君に託そう」

「いいんですか?」

「考古学的価値があるかどうか……分からないところだけど、これがある限り僕の安全が脅かされるのならば……こうするのが一番手っ取り早い気がしてね」

「と、言うことは我々の元には来ない……という事ですか?」

「当たり前だね」

 にやにやと笑いながら〆田は答える。自ら進んで深部ディープ集団サイドの世界に入る気は無いとキッパリと言い放った。

「その代わり、君にも頼みごとがある」

「なんでしょう?」

 ジェノサイドは〆田から"うつしかがみ"を受け取りつつ返事をする。ズシリとした重みが腕に、全身に伝わる。予想の三倍は重く感じたせいで前のめりになりかけた。

「君はそちらの世界で影響力があるんだよね? それだったら、君の言葉として発信してほしい。"うつしかがみ"は己の手の中にあると」

「なるほど。そうすれば貴方に忍び寄るはずだった魔の手の一切が消える、と」

「慣れているんだろう?」

「当然です」

 〆田は再びガラ空きになった机を見つめてはそこに備え付けてある椅子に座り直した。そして、のびのびとした調子で両手を組んでは解いてを繰り返す。

「それともうひとつ。君は仲間に頼まれて私の元まで来たんだよね?」

 用事は済んだ。
ジェノサイドは背を向いて片手で扉を開けようと意識をそちらに向けかけた時だった。
微笑みながら、振り返る。

「えぇ。もう何年も馴染みのある仲間ですからね。断れなくて」

「その仲間とは……君にとって大切な存在かい?」

 ジェノサイドはすぐには答えなかった。
バルバロッサの顔を思い浮かべては、同時にこれまでの経験、記憶、過去を思い出している。

 常に、彼が居た。

「はい。とても大切な友人であり、仲間であり、家族でもあり……そして、僕の命の恩人です」

「そうか、そうか……」

 〆田は満足そうに笑みを浮かべると右手で退出を促しつつ言った。

「大事にしてあげてね。大切な人というのは、かけがえのない存在だからね」

「失礼します」

 ジェノサイドは軽い笑みをその言葉の返事とし、一礼して研究室を出た。

「これで解決……かな。先生を保護する事は出来なかったけど、まぁ目当ての物は手に入ったしいいかな。先生がなんで深部ディープ集団サイドに詳しいのか理由聞けなかったのが残念だったけどな」

 研究室のある十階建ての建物から出て外の空気に触れる。
ひと仕事終えたせいか、普段よりも清々しい。
そこへ、ひとつの影が見えた。

「堀田……先生?」

「それは何かな? 〆田先生との用事は済んだみたいね」

 ここまでジェノサイドを導いた若き講師がまるで自分を待っているかのように佇んでいた。
だが、その表情はどこか暗い。

「ごめんね、先生全部聴いちゃった。耳をすませば中の会話聴けちゃうんだよね」

「後ろをついてたんですか……全然気が付かなかった」

「あなた、ジェノサイドなのね」

 名指しされても黙るしか無かった。
特に困るほどでも無いからだ。

「私からみて、あなたは私の講義を聴きに来る生徒の一人よ」

「俺も似た感じです。この大学に居る先生の一人。その中でも分かりやすい講義をしてくれる人だと」

「でも、私はもうそうには見えなくなったわ。あなたはジェノサイド。深部ディープ集団サイドで一番上の存在の人間なのね」

「ちょっと待ってくださいよ。〆田先生といい堀田先生といい、どうしてみんな深部ディープ集団サイドのことを知り得ているんですか!?」

「……これで終わらないことね」

「先生?」

 ジェノサイドは鏡を抱えながら身構えるフリをする。
空気に変化が生じたのを感じた。

「あなたが思っている以上に、"そちら"の世界を知る人は多いわ。あなたはこれまで、上手く誤魔化せてきたかもしれない。表向きは普通の生徒でありながら、裏でおぞましい戦いを繰り広げていた。でも、それでも問題は無かった。上手く立ち回れていた」

「先生、何を言っているのですか?」

「警告よ。もうここから先は、今までのようにはいけないわ。"こちら側"でいつまでも平穏でいられるとは思わないことね」

「先生、どうして深部ディープ集団サイドを知っているんですか?」

「ほら、もう行って。いつまでもそれを持って出歩いているのは危険なんでしょう?」

 ため息が意思に反して出た。
心の中で渦が巻いて仕方がない。モヤモヤがいつまでも付き纏って離れない。不必要なストレスを抱えて余計にストレスを感じているのに似ている感覚だった。

 捨て台詞を吐くようにジェノサイドは言う。

「俺は四年前からこの世界に居ました。とにかく苦難の連続でしたよ。命の危機を何度も覚えた。俺の代わりに死んだ仲間も居ました。そんな人間が、今更平穏を望んでその通りに生きられると思うのでしょうか? 僕はそうは思いませんね」

 ジェノサイドはひとつのボールを放り投げる。
規則で禁止されているはずのポケモンの行使を、講師の目の前で行っても彼は動じない。それは堀田も同様だった。

外に出されたリザードンは何度も翼を羽ばたかせて空中に留まる。
ジェノサイドはそれに乗った。

「俺は最初から覚悟のうえですよ。今更怖いものなどありません。さようなら、堀田先生」

 言い終えると同時に、主を乗せたリザードンは飛び立つ。
地上に残された堀田は、みるみるうちに小さくなっていく彼らを呆然と見つめることしか出来なかった。

 リザードンの背に乗って秋の風を浴びながら、ジェノサイドは手元を見つめる。そこには陽の光を反射して輝く"うつしかがみ"があった。

「はじめから覚悟のうえ……か。そんな覚悟、いつ抱いたっけか」

 ジェノサイドの脳裏にはほんの数分前に交わした堀田とのやり取りが、その光景がこびり付いている。
堀田が最後にジェノサイドに見せた、優しさを含んだ睨みが彼には強烈だった。

 彼女が何を伝えたかったのか、複雑に絡んでいるであろう本心を聞き出せなかった。

 目的は果たせたが失敗もした。
 相撲に勝って勝負に負ける。
そんな気分だった。

 手に持った"うつしかがみ"が余計に重く感じた。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.8 )
日時: 2023/09/13 18:56
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: tOQn8xnp)


「お疲れ様です、リーダー」

「ん。お疲れ。まぁ疲れるほどでもなかったけどな」

 基地に到着して早々かけられた言葉だった。
ジェノサイドは神東大学を抜けると真っ直ぐに自分の家でもあり、組織の基地である廃工場に帰った。"うつしかがみ"を依頼主であるバルバロッサの部屋に置きに行き、それから気分転換に地上にある工場の跡地を散歩しつつ眺める。その時に背後からかけられた言葉がそれだった。

「"うつしかがみ"。無事に取ってきたそうですね」

「まぁな。途中学生に扮した深部ディープ集団サイドの連中とやり合ったりもしたが……この通りってことはそういう事だ」

 ジェノサイドは話し相手の顔ではなく、頭上を見上げながら言う。
そこには、無数の管やパイプの類がびっしりと巡らされ、走っている。

 組織"ジェノサイド"の基地とは、寂れて捨てられた工場の跡地であった。
構成員たちからも「薄暗い」と評判のこの土地は、東京都八王子市北野町にある、周囲を林に囲まれた自然の砦。
彼らはそれを再利用し、潜伏している。

 何も知らない人間が外から見ても、そこに百人近くの人間が生活しているとは想像もしないだろう。
と言うのも、地上部分の工場跡はすべてダミーであり、本来の生活拠点は建物の地下にすっぽりと埋まる形で作られているのだ。それも当然、敵対組織からの襲撃の対策である。
地下にはそれぞれ、構成員全員分の部屋を振り分け、更には食事や休憩、そして会議を行うオープンな部屋も設ける。

 基地としては最高の仕上がりだとジェノサイドは常に思っていた。

「あの"うつしかがみ"どうするつもりなんでしょうねぇ?」

「リーダーが持ってなくていいんすか!?」

 ジェノサイドの話し相手は二人居た。
ひとりは小柄で見た目もどこか弱々しいようにも見えるハヤテと呼ばれる男と、彼とは正反対に筋骨隆々で身長もこの中では一番高く、わざわざ日焼けサロンで肌の色を変えているのかと思うほどの褐色肌のケンゾウ。
常に行動している彼等はこの時も一緒であった。

 ジェノサイドは二人の質問をひとつにして返す。

「正直俺もよく分からないからな、アレに関しては。とりあえず情報源であったバルバロッサに託して解析なり研究なりさせてハッキリさせるさ。だから今俺が持ってなくても平気」

「じゃあ全部アイツ任せなんすね!」

「まぁな、てかケンゾウ。お前バルバロッサをアイツ呼ばわりかよ……。お前も四年の付き合いになるんだからもう少し仲間意識を抱いててもいいと思うんだがなぁ」

「まぁまぁ。僕もケンゾウもバルバロッサさんとはあまり会話もしませんし縁もありませんからね。リーダーはそうでは無いんですよね?」

「あぁ。組織結成より少し前に……俺はバルバロッサに会った。と言うより助けられた……かな? とにかく、バルバロッサに会ったのがきっかけで俺は"この世界"に入ったってワケだ」

「それで僕達と会った……と」

「くぅーっ! 出来ることならリーダーが最初に会った人間は俺であってほしかったっすねぇ!」

 何度も思うことなのだが、ケンゾウの声はかなり大きい。呟くように喋るハヤテと対照的なのもあって耳へのダメージも大きかった。特に、今は静かな工場内を散策している。無駄に、余計に響く。
こんな状態だと三人で隠密な作戦は出来そうにも無いなと内心思ったジェノサイドであった。

「リーダー。ひとついいですか? "うつしかがみ"を持つことでリーダーや我々にメリットはあるのでしょうか?」

 ケンゾウが実力派ならハヤテは頭脳派である。組織の人間としては知り得る必要がある質問を、彼は投げかけた。

「難しいところだが……。一つは戦力の確保だな。現段階で俺らは準伝説のポケモンを扱う事は出来ないが、"うつしかがみ"が世に出た以上、それも可能である事を示す証左でもある。即ち、戦力の増強と他組織への牽制、抑止。使い道次第で工夫は広がるだろうな。あとは組織とは関係なく俺個人の問題だが……俺らが持つ事で元々の持ち主であった教授が脅威に晒されなくなる。本来であれば教授ごと此処に連れて来て安全を確保したかったんだがな……」

「元の持ち主の教授と言うのは、リーダーとも関わりのある人物なのですか?」

「いいや。名前も顔も知らなかった。だが、俺が普段過ごしている大学の先生だしなぁ。大学が組織間抗争の舞台になったら嫌だろ」

「優しいんですねぇ。リーダーは」

「そうっすよ! だから俺はリーダーが好きなんす!」

 二人の言葉、特にケンゾウの告白の意味を少し深く考えながらジェノサイドはある地点まで歩くと立ち止まり、床にこびりついている砂利を飛ばすために足をはらう。
少し綺麗になった床を手で持つと、簡単に剥がれた。すると、取っ手のような小さな金属の塊が出現する。
これが、基地への入口だった。

 ジェノサイドはそれを掴み、力を込めて思い切り引く。
中から通路が現れた。
工場内部よりも更に暗いこの通路をしばらく歩くと、鉄製の扉がまたひとつ現れる。

 その先には空間がある。
常に誰かがおり、そして誰もが集まる大広間。
扉の前でジェノサイドは振り向く。

「お前ら、腹減っただろ。これから忙しくなるし、ここいらでパーッとやろうぜ」



 翌日。
あれから結局夜中まで騒ぎ倒してしまったせいで朝が辛く、重い瞼を背負ったままジェノサイドは講義のために基地を離れた。その日は珍しくケンゾウが見送った。

 ジェノサイドはいつも通学にはポケモンを利用している。手持ちのひこうタイプのポケモンがリザードンかオンバーンなのでそのどちらかを使って空を飛ぶのだ。
しかし、この移動方法は深部ディープ集団サイドの中ではありふれた光景ではあるものの、本来は推奨されるものではなかった。
危険を伴うためであり、実際ジェノサイドの通う大学ではそれが理由で規則で禁止されているほどである。
そのせいか、通学でポケモンを使う生徒は自分を除いて見た事も聞いた事すらもなかった。
それでも彼は、移動が面倒という理由でこっそり使っている。

 見つかると面倒なことになる。
そのため、ジェノサイドは数十分の間空の旅を続けると適当な場所で降りてはそこから徒歩で移動する。移動とは言っても五分もすれば大学に到着する地点である。
それが、いつもの光景だった。
そしてそれは、大学構内に入っても同じだった。
普段の姿で、大学は彼を出迎える。

「"うつしかがみ"が深部ディープ集団サイドの手に渡ったという"こちら側"からしたら割とデカい出来事が起きたあとだって言うのに……まぁ、これが普通か」

 ジェノサイドはひとまず安堵した。
自分のせいで"表側の世界"に変化が生じていないことに。それは、彼が望む世界の在り方でもある。

 深部ディープ集団サイドの人間は、決して無関係であるはずの一般人とその世界には触れてならず、そして危害を加えてはならない。

 長い長い戦いの果てにそのような想いを抱くようになったジェノサイドだからこそ、絶対に許せない存在もあった。

 この世界に、"それ"を持ち込む"こちら側"の人間を。

 構内を少し歩くと、人だかりが出来ていることに気付く。彼らは決まって、一つの建物の屋根を指しては見つめているようだった。

「あれ何?」

「人が立ってんぞ!」

 それは、地上から数えて三階建ての建物の屋上と言うよりは平たい屋根の上。
そこに、一人の男が佇んではあたりを見回している。まるで、探し物をしているかのような仕草だった。
奇異に見えるのも仕方がなかった。その男の立つ場所は立ち入り禁止どころか、到達する方法が存在しない地点である。

 男は突然モンスターボールをひとつ取り出すと同時に突風が舞う。
自然の風では無かった。明らかに人為的に作り出された風である。
でなければ、その風に煽られて飛ばされたり、叫び声を上げる学生が現れるはずがないからだ。

 風の正体。
それは、男が放ったダーテングだった。
手に持つ団扇のようなものから風の塊が生み出され、男が指示する方向へと飛んでゆく。
その風は迷うことなく、地上の学生たちに振るわれた。

 ジェノサイドの目の前では何人かの学生が吹き飛ばされ、あるいは堅いアスファルトの上を転がされる。
まるで、暗部ダークサイドの人間が無関係の人々をいたぶる光景そのものだった。
だからこそ、ジェノサイドは許さない。

 ダーテングは再び風を集める。
それを地上の人間に放とうと投げ飛ばしたその直後。

 風の塊は切り裂かれた。
まるで、内部からズタズタに引き裂くかのように。

 ダーテングのトレーナーも直感で感じたものがあった。

 来た、と。

 その瞬間。
ダーテングとその男の直線上にはゾロアークを従えた、一人の男が立っていた。
それは目印であり、象徴でもあった。
己が深部ディープ集団サイド最強の人間であることを示す、即ちジェノサイドであることを。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.9 )
日時: 2023/09/13 19:03
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: tOQn8xnp)


 ジェノサイドは静かに男と対峙した。
伸びきった髪の毛の隙間から殺意を込めた眼差しを刺すように放つ。

 男の服装も特徴的なものだった。
駱駝の皮のような柔らかそうな素材の半袖シャツにフードを後から付けたようなシンプルだがよく分からない主張を発しているような格好をしている。そのために相手の顔は見えない。

「来たな? ジェノサイド……。お前が此処に居る"らしい"と言うのは聞いていたんだ。多少目立てば来るだろうと思ってたんだが本当に目の前に来るとはな。こりゃ美味しい獲物だぜ」

「本気でそう思ってるのか?」

 ジェノサイドはため息が出る思いだった。
またいつもの襲撃か、と。

 最強という名は名誉ある称号である一方、最も狙われやすい対象でもあった。
単純である。最強を倒した者が新たに最強の者になれるからだ。
理由はそれだけではなかった。

「なぁ、俺ぁずっと気になって気になってウズウズしてんだ。お前らジェノサイドは幾ら持ってんだ? 教えてくれよ」

 深部ディープ集団サイドの世界は戦いの世界である。戦いを制した者にはそれまで相手の組織が持っていた財を、時には莫大な利を得ることが出来る。
そして、ジェノサイドはこれまでに負けたことが無い。
それは、深部ディープ集団サイドの中で最も多くの財産を持つ者という意味合いも持つのだ。

「俺に勝てたら教えてやるよ」

 ジェノサイドが言い終えると同時に隣で構えていたゾロアークが走っては"かえんほうしゃ"を放つ。

「……なんだぁ?」

 男は不思議に思いながらも、己のポケモンに命令する。
ダーテングは風を操り、炎の軌道を逸らす。
大きく外れた炎は何も無い空間で散った。
男の次の命令でダーテングは、団扇を振るって風を直接ゾロアークにぶつけようとした。
しかし、放たれた風の塊をゾロアークはひとりでに躱す。

「そのゾロアーク、妙だな?」

 男はゾロアークの動きを見て疑念を強くする。

「おい襲撃者、答えろ」

 ジェノサイドの言葉に、離れかけていた意識が男に戻った。

「お前がこの自然の宝庫八王子に来たのは俺だけが目的か?」

「変なことを聞くもんだなぁ? 何か隠し事とか秘密にしたいことでもあるのかぁ?」

「どうだかな」

「それだったら答えてやるが世の情けってな。"うつしかがみ"があるらしいじゃねぇか此処には」

「ねぇよバカ」

 ジェノサイドは笑った。そして確信した。
大した相手ではないということを。

「なぁ、情弱……。俺の身にもなってみろよ。暇じゃねぇのに頭の弱い奴の相手しなきゃなんねぇ俺をよ。無い物は無い。さっさと帰れや」

「情弱じゃねぇ、俺にはハバリって名があるんだよ」

 ゾロアークは再び"かえんほうしゃ"を放ち、対してダーテングは"おいかぜ"ではらう。

「いちいち雑魚の名前なんて覚えてられるかっての……」

 ここで名を名乗るのには意味があった。
宣戦布告、即ち組織間での抗争を始める合図だ。

 襲撃。それは組織設立から常にあったものだ。今更恐れなど抱くわけがない。
ただ、売られたら買う。身の危険が及ぶのならば除くのみ。
その動作は、昔と何ら変わらない。

「……」

 ジェノサイドは目の前のポケモンを前に、悩んだ。
彼は完璧超人ではない。すべてのポケモンの特徴を一言一句狂いもなく述べることが出来なければ、最新の対戦環境の全てを理解していない節もある。
だが、それらは理解できないのではなく、理解"しない"のだ。自分にとって必要な情報でないから理解しないのである。

「どうしたジェノサイド。動かないのならこちらから行くぞ!」

 ハバリの言葉を合図にダーテングは走る。
反射的にゾロアークも動き、勝手に"かえんほうしゃ"を撃つが、ダーテングが放っている不自然な風のせいで全く関係のないところへ飛んでは消えていった。

「こうなると……特殊技は使えねぇな」

「なぁ、さっきから気になったんだが何なんだぁ? そのゾロアークは。お前の命令も無しに動いてんじゃねぇかよ」

 それとは対照的と言いたげに、ハバリの命令通りダーテングは"あくのはどう"を放つ。
ゾロアークに命中する至近距離。そこで"ナイトバースト"を突然放っては相殺させる。今度も命令は一切無い。

「さぁ。どうなんだろうな。俺でも分からん。このゾロアークは俺の命令なしに自然と動いてくれる。そしてその動きのほとんどは、俺にとっても最善なもの……言い換えてしまえば俺が思い描いていたものと一致している」

「意味わかんねぇな。ジムバッジ集めてろっての!」

 ダーテングの走る速度は速い。"おいかぜ"の影響下にあるためだ。すぐにゾロアークの懐へと潜り込む。

 ハバリは叫んだ。

「今だ! 奴のゾロアークに最大威力の"けたぐり"をお見舞いしてやれ!」

 ダーテングはすぐさま足を打った。ゾロアークが最も嫌う格闘技が炸裂した。
ゾロアークは苦しそうな表情をしたかと思うと、その場に倒れ込む。
それを見たハバリは高らかに笑う。

「ハハッ、おい見ろよこのザマを! この俺でもその気になれば見掛け倒しの強さしか持ってねぇジェノサイド倒せんじゃねぇかよ!」

 有頂天なハバリとは対照的に一切の表情を変えないジェノサイド。
まるで、ここまでの全てが想定内の範疇であるかのように。

「バーカ」

 その声はハバリに聞こえるか聞こえないかのギリギリを攻めているようだった。
その言葉が合図か否か、ゾロアークは立ち上がる。そして、拳を思い切り握り締めた。
その姿はまるで、これまでの攻撃に対する仕返しのようにも見えるようだ。

「"カウンター"!」

 受けた"物理技"を倍にして相手に返す技。
ジェノサイドは待っていたのだ。この時を。こうなることを。

 倍の威力を受けたダーテングはふわりと身体を浮かせ、吹き飛ばされてゆく。

「は?」

 突然のことに、ハバリは綺麗な弧を描くダーテングを見ることしか出来ない。
ここまでの流れを理解するのに、少し時間を要したためだ。

 ジェノサイドはここでは止まらない。今の一撃では物足りないと感じたのか、続けて命令する。ゲームと違ってターン制のバトルではない。動ける範囲であれば、続けざまの追撃をする事も可能だ。

「"かえんほうしゃ"」

 風はもう消えていた。今ならば控えていた特殊技も通る。
その通りで、真っ直ぐに伸びた炎の槍はダーテングを包む。
二重の攻撃を受けたそのポケモンは反撃する力は既に無く、二人が立つ平たい屋根を越え、地上へと真っ逆さまに落ちていった。

「クソッ!」

 ハバリは悔しさを噛み締め、ダーテングをボールへと戻す。それは敗北を認めた瞬間でもあった。

「はい終わり。命までは取らねぇからさっさと消えな」

「これで終わったと……思うなァ!」

 ハバリは優しさとも甘さとも取れるジェノサイドの言葉を無視して携帯端末を取り出すと操作を始めた。

 すると、無数のポケモンが現れた。

「はあっ!?」

「バトルには負けた……。だがなぁ、ジェノサイド。俺はテメェの命が取れればそれでいいんだよぉっ!」

 それは、二十体ほどのタネボーだった。
一斉に湧き出したそのポケモンたちは、一目散にジェノサイドへと襲いかかる。
屋根の上のため足場には限りがある。逃げ場が無いと見るやジェノサイドはリザードンをボールから出すとすぐに背に乗り、空に向かって避難するように逃げた。

 タネボーもそれを追う。とはいえ、タネボーに飛ぶ力は無い。一匹一匹がそれぞれ足場となり、自らを踏み台にすることで無理矢理列をなす。
だが、それに留まらない。

「なにをしようとしてんだあいつら……?」

 ある程度距離を取りつつ逃げるジェノサイドは怪訝な表情でそれを見つめた。

 互いに支え合うタネボーであったが、風には煽られ、重みに耐えきれないのもあってバランスが崩れようとしている。
その内の一匹が倒れようとしたその瞬間。

 "だいばくはつ"が起きた。

 一匹のタネボーだけでなく、二十体すべてが、である。

「嘘だろっ!?」

 爆発の連鎖は繋がってゆく。それはまるで、空に広がる大きな尾にも見えた。

 爆発の衝撃は徐々にジェノサイドに近付く。離したはずの距離が、爆発によって詰められる。

「クソッ!」

 リザードンに指示を出し、飛びながら大きく身を捻らせる。
振り回されるような感覚を覚えたジェノサイドだったが、彼は強くしがみつき、背に伏せることで辛くも最後の爆発から逃れる事が出来た。

 ジェノサイドはホッとしてハバリの居た屋根を見ると、彼は再び端末を操作して先程と同じ数ほどのタネボーを呼び出しているところだった。

「また来るのかよ!?」

 ポケモンの形をした爆弾が再び迫るのも時間の問題だった。
ジェノサイドはリザードンに更なる速度で飛ぶように言う。

 ハバリは空中で舞っているように飛んでいるジェノサイドに、フードの下から強い眼差しを向けると呟いた。

「逃がさねぇぞジェノサイド……。俺は初めからお前を殺すつもりだからな。……絶対に逃がさねぇ」

 巷で流行っているスマホアプリがある。
そんな事を話す構成員が居たことを、その会話を盗み聞きしていた自分がいたことを、ジェノサイドは強い風を顔に浴びながら朧気に思い出していた。

『ポケモンボックス』

 かつてゲームキューブ用の同名のゲームがあったが、それとは全く関係の無い非公式のアプリ。
その内容とは、WiFiを介することでゲーム本編を繋ぎ、つまり連動させる事でスマホからゲーム内のポケモンを呼び出すという非公式の割にはかなりハイクオリティな代物であった。
これにより、手持ち六体以上の数のポケモンを操る事が出来るようになる。ジェノサイドの目の前で、数十体のポケモンが居られるのもそのためだ。

 ジェノサイドはリザードンの背から覗くように、首だけ出してその状況を見つめた。

 位置に届かないタネボーが爆発し、数が減るとハバリが操作をし、その分の補填をする。

 終わりが見えなかった。

 そんな時だった。

 再び生み出されたタネボーの列が、リザードンの羽ばたきによって崩されたのをジェノサイドは偶然目にした。

 瞬時に一計を案じる。

「そこまでそこまで……。そう、ここで止まってくれ」

 リザードンに指示し、爆発の射程圏内にまで降りたのだ。

「なんだぁ? 何がしたいんだアイツ」

 だがそれは、ハバリにも好機に見えた。
五体のタネボーと一体のコノハナを放ち、再び静観する。

 コノハナは助走を付けて飛び掛った。
ジェノサイドはリザードンごと身を躱して避けると、次に迫るタネボーに意識を集中する。
自爆する直前の絶妙なタイミングを狙うべくギリギリまで距離が詰まるまでその場に静止し、その時を待つ。
五体目の、自身に一番近づいたタネボーが視界に映る。

「今だ、思い切り羽ばたけ」

 ジェノサイドは簡単に言い切ると、リザードンもその通りに動く。
邪魔するものは他に何も無い。爆発すること以外は何も考えていないで躍り出たタネボーは、突然の烈風を受けては綺麗な線を描いて吹き飛ばされた。

 自身のトレーナーの元へと。

「あっ、」

 爆発する直前のタイミング。
それは、ハバリの元に時限爆弾が瞬間に現れたようなものだ。
回避すらも許されない。
言葉を何か発しかけたハバリだったが、それすらも認めないかのように"だいばくはつ"が一歩遅れて炸裂した。

「俺に勝ちたきゃ周りを見ることだな。目先の利益だけしか見えないからそうなるんだよ」

 危機がひとつ去ったジェノサイドは、ハバリがそれまで立っていた場所を見つめながら勝ち誇るように呟いた。

 相手は死んだかもしれないし、助かっているかもしれない。"自らの力で"決して人を殺めないと己に強く課しているジェノサイドは、今回はそれには当てはまらないだろうと自分を納得させる。

「とはいえ、俺とのバトルがきっかけで死んじまったらそれはそれで嫌だなぁ……。まぁ大丈夫だと信じたいが」

 安心しきったジェノサイドは遂に地上に足を、つま先をつけることが出来た。
それと同時に、どこからか走った電撃が彼を襲う。
一体何が起きたのか、それすらも理解できるはずもなく。
ジェノサイドの軽い体は力なく倒れた。

Re: Re:Re:ポケットモンスター REALIZE(移設中) ( No.10 )
日時: 2023/12/03 11:47
名前: ガオケレナ ◆DsVre1ex/o (ID: LGQcbbGL)


 敵に放ったはずの言葉が、自分に返ってくる。これほど悔しい事はない。
きっと、彼ならばそう思っただろう。

 倒れた男の背に、黒い尻尾が無ければ。

 地に伏せる直前、それは正体を現す。ゾロア。変身能力のあるポケモンだ。
当の本人は建物を彩る緑色の茂みの中からひょっこりと出てくる。

「コイルか……。ハバリとかいう奴のポケモン? かどうかは別にして、俺を狙い撃つのなら"ロックオン"でも持ってくることだな。"イリュージョン"まで狙えるかどうかは知らんが」

 ジェノサイドは、自分を明らかに狙ってきただろうポケモンの正体を見て睨む。
自分に電撃を放ってきたコイルは自由気ままに空を漂っていた。

「コイツのトレーナーは何処だ……?」

 ジェノサイドは未だ野次馬で溢れている構内へ首を左右に振るもそれらしい人影は見当たらなかった。それも当然である。本来、深部ディープ集団サイドというものは紛れるのが非常に巧みな集まりである。
徒労に終わったかとため息でも吐こうとしたその時。

 建物の影から灰色の靄みたいなものがこちらへと近付いて来た。
よく見るとそれはポケモンだった。何匹かが集まって宙に浮いている。それだけでない。そのポケモンに乗る人の姿もあった。

 髪が異様に長く、目はおろか顔さえもまともに確認出来ない。見ているだけで不安になりそうな、とことんなまでに体の肉を削ぎ落としたような細い身体。外見だけではか弱い女性のようにも見えた。

「なぁんだ。失敗かぁ」

 それは、くぐもった低い声だった。

「テメェ、何処の組織の人間だ」

 ジェノサイドは会話を試みる。
とにかく今は情報が無さすぎる。今自分の周りで何が起きているのか、それが知りたかった。

「"エレクトロニクス"。Cランク」

「なんだとぉ?」

 ジェノサイドは驚きのあまり声が裏返った。
相手の組織の名前に対してのものではない。

 男の背後。
自身の乗るジバコイルの左右には元から二匹のレアコイルが飛んではいたが、男は名乗りながらスマホを操作し、更に多くのポケモンを呼び出した。

 百体以上のコイルを。

 ジェノサイドは悩まなかった。悩む暇すらもない。
即座にオンバーンを呼び出し、背に乗ると今自分が大学構内に居る事も忘れて無我夢中で飛び回った。
彼がリザードンではなく、オンバーンを選んだ理由はひとつ。
より速いのがこのポケモンだからだ。

 質の問題ならばジェノサイドにとっても怖くもなんともない。
だが、量が想定外である。
とにかく今は体勢を立て直さねばならない。
ジェノサイドは大学上空を飛びつつ、時には隠れつつ姿を晦ましながら、電話を一本入れることにした。相手は己の右腕的存在、バルバロッサである。

「もしもし、聞こえるか?」

『ジェノサイドか? 一体どうしたのだこんな時間に。お前さん今は大学の講義の時間じゃなかったか?』

 ジェノサイドはちらりと時計を見た。既に講義が始まって幾らか経っている。ギリギリ単位が貰える十五分もとっくに過ぎていた。

「ぐっ……単位が……。いや、そんな事はどうでもいい。今大変なことになっているんだ。なんでもいい。俺に関する情報を何かキャッチしていないか?」

『お前さんに関わる情報か……』

 バルバロッサは暫く無音を電話越しに発し続ける。考えている素振りなのか、画面の向こうで何かをしているのかもしれない。

『やはり"うつしかがみ"だな。既にお前さんが手にしたという噂がこちらの世界で共有されている』

「おいおい……まだ昨日の話だぞ? 周囲にもほとんど話してもいないのに、なんでこんなにも広まるんだ?」

『全国規模の深部ディープ集団サイドとはいえ、世間と比べれば狭い世界さ。そういうセンセーショナルな話題はすぐに広まるのだろう。だが問題はそこではない。どうやら今回の"うつしかがみ"含めお前さんについての情報が一部の組織の間で共有されているらしい。なにか組織的な……連合のような動きを見たりしていないか?』

「まさにそれだよ。さっきから立て続けに組織の人間と戦ってるよ。めでたい事に大学構内でな」

『ならば、今すぐ逃げることだ。仮に相手が格下であっても、今のお前さんは一人で行動しているに過ぎない。組織間抗争の体を成していないんだよ。とにかく危険だ。今すぐこちらに帰ってくるんだ。また別の情報によると、神東大学周辺においてお前さんを打倒せんと包囲網を敷いている動きもみられている。今すぐ帰るんだ』

「なんだと!? 包囲網だって!?」

 思わず声を荒らげてしまった事で一匹のコイルにその姿が見つかってしまった。体育館の裏に隠れていたが今となってはその壁も無意味なものとなる。

 反射的にジェノサイドはオンバーンに"かえんほうしゃ"と命令し、見事に撃ち落とす。

「バカな真似しやがるな」

『お前さんはそんな馬鹿な連中と鬼ごっこをしている訳だが……。どうするかな? 私としては我々の組織の長として生き残ってもらいたいのだが』

「決まってんだろ」

 ジェノサイドは隠れるのをやめた。その姿を白日の下に、無数のコイルの前へと晒す。

「まずこのエレクトロニクスとかいう奴は倒す。それで帰る。日を改めて包囲網を敷いた関係者全員纏めてブッ潰す。それでいいよな」

『まぁ……好きにしてくれ。これはお前さんの組織だ』

 そう言ってバルバロッサは電話を切った。
通話は終わった。これで携帯のせいで塞がっていた左手が自由になる。
ポケットから二つのボールを取り出す。
ひとつはモンスターボール。もう一つはダークボールだ。

「リザードン、"オーバーヒート"。ゾロアークは"かえんほうしゃ"。オンバーンも"かえんほうしゃ"だ! 目の前のポケモン全員堕としちまえ!」

 鍛えに鍛えた頼りの三匹のポケモンがそれぞれ炎を吐く。
散らばっていた無数のコイルは、標的を見つけると一斉に飛んでくる。まるで空を染める巨大な鳥の群れのようだった。
そんな大きな群れは、莫大な炎によって全てが墜落していく。

「コイルの特性は"がんじょう"じゃなかったのか!? もっと丈夫なポケモンを連れて来たらどうなんだ、あァ!?」

 降り注ぐコイルの雨の中から、例のジバコイルに乗った男の姿が見えた。
ゾロアークが有無を言わさず"かえんほうしゃ"を放つが、それに対してジバコイルが眩しい光線である"ラスターカノン"を打つ。

 互いの技がぶつかり合い、相殺され、打ち消される。
辺りに爆発音と黒煙が舞った。
双方の視界が遮られる。
視界が戻るまで決して動かないジェノサイドと、常に空を漂い距離を離すエレクトロニクスの男。

 そうしている内に煙が晴れる。
先に動いたのは男を乗せたままのジバコイルだった。男の命令通りジェノサイドの背後へと回る。しかし、彼のポケモンのゾロアークの姿が見当たらない。

「消えた……? まぁいい」

 後ろを振り向いても空を見上げてもゾロアークもオンバーンもリザードンもその姿が皆無であった。もしかしたら煙で包まれている間にボールに戻したかもしれない。
不安は残るがチャンスでもあった。

「"ラスターカノン"」

 無防備なジェノサイドの身体に、メカニカルな光線がぶち当てられる。

 エレクトロニクスの男ほどでは無いが細いその体はあらぬ方向へと飛んでいき、硬いタイルの上を数回バウンドしては動かなくなる。
こうも簡単に勝ててしまうのか。癖になりそうな優越感に浸りながら男はピタリと止まったジェノサイドの体を見つめる。

 その想いに答えるためなのだろうか、それとも理解不能な現象だろうか。突然としてジェノサイドの両腕が本来は曲がらない方向へと曲がりだした。
壊れたおもちゃを彷彿とさせるような、不気味な起き上がり方をしてその体が立った。

 それだけでなく、獣のような鋭い爪、長い手足、特徴的な尻尾までもが生えてくる。いや、現れると言った方が正しかった。

「"イリュージョン"か……」

 男は悔しそうに舌打ちした。
その間にゾロアークは走り始め、近くの建物の壁を使ってジャンプまでした。

 常に浮遊している、ジバコイルと男を直接狩るために。

「こいつ……!? 命令無しにここまで動けるのか!? だが……」

 ジバコイルは真横へと大きくスライドした。それによりゾロアークの爪は虚空を裂く。

「当たらなければ何の意味も無いよねぇ!」

 ゾロアークは足場を失った。あとは落ちるのみだ。追い討ちにと男はジバコイルに"でんじほう"と命令する。

 しかし。
 ゾロアークは落ちながら両手をこちらに向けようとしている。それは攻撃の合図だ。

「こいつ……何を!?」

 ジバコイルの次なる技よりも先に、ゾロアークの両手から赤と黒の光に包まれた禍々しい光線の塊が放たれた。

「何故だ!? 落ちるのが怖くないのか!? なぜ命令無しにそんなことまで……ッ!」

 ジバコイルが放とうとした電撃と合わさり、直撃と同時に規模の大きい爆発が生じた。

 男は朦朧とする意識の中、微かに見た。
ジェノサイドがやや離れた階段に座ってこちらを眺めていることを。落下したと思ったゾロアークはオニドリルへと突如として変身し、空を悠々と飛んでいるところを。

 そして悟った。無謀な戦いだったと。


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