二次創作小説(紙ほか)
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- 東方幻収録[Lobotomy corporation]
- 日時: 2023/11/03 09:54
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
この物語は[東方Project]と[Lobotomy Corporation]のクロスオーバー小説です。
※注意
・Lobotomy Corporationのネタバレを含みます。
・微グロ描写あり
・オリキャラは登場しません
・独自解釈あり
・死ネタ
以上です。楽しんで!
-プロローグ-
かつて、幻想体を収容し、そこから得られる物質-エンケファリン-を利用したエネルギー会社。しかし、Aが目指した-光の種-シナリオを起こす事は無かった。TimeTrack社の時間遡行技術が不具合を起こしてしまった。その中で大量の幻想体が収容違反。ループも出来ないまま、Lobotomy社は脱走した幻想体達によって地上に出る事無く壊滅した。誰も知らないまま、地下奥深くに封じこまれた一部の幻想体達は、しばらくして外に出たいと願い始めた。そして、何百年も経ち、完全に忘れ去られた幻想体達はいつしか、自分達のいた世界とは違う別の世界に生まれていた。幻想体達が見つけたのは忘れられた者達が辿り着く-幻想郷-
幻想体達は自らの存在意義、欲望、安息を求めて、幻想郷に出現し始める。
- Re: 東方幻収録 32 ( No.32 )
- 日時: 2024/01/19 22:01
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
魔弾の射手「久しぶりだなお前ら。大丈夫か?」
咲夜「大丈夫も何も...私...貴方の事を忘れていたわ。」
魔弾の射手「無理もねぇ。俺の存在は一回消えたんだからな。」
魔理沙「どうやって生き返ったんだぜ!?」
魔弾の射手「お前達が知るわけ無いか...まぁ良い、教えてやろう。俺達...幻想体は不死身って事をな。」
魔理沙「不死身なのか?」
魔弾の射手「そうだ。幻想体ってのは、人間の精神から生まれた物。人間が認識すれば、童話とかの物語...トラウマから生まれる怪物なんている。一度死んだ幻想体は卵に変化して時間が経てば復活する。それが俺達が不死身である理由さ。幻想郷で鎮圧された他の奴らはいないが...まぁ、復活する場所は運だしな。」
魔理沙「そうか...って、今はあの卵の破壊を急がないと!」
魔弾の射手「おお、そうだったな。」
-何もない-は既に溶ける愛によって鎮圧されて、小さな卵になっていた。咲夜は前に貰ったパイプを魔弾の射手へ返した。
咲夜「どうしてか分からないけど、ずっと持ち歩いていたの。」
魔弾の射手「まだ持っていたのか...礼をするぜ。......ハァ〜...久しぶりに吸ったよ。」
魔弾の射手は慣れた手付きで照準を合わせ、最後の卵に弾丸を放った。審判鳥の卵は真ん中から砕け散り、塵となって消滅した。
魔理沙達は終末を乗り越えたのだ。
-旧地獄・縦穴-
霊夢「遅かった...もう地上に出てしまうわ!」
妖夢「あの時、気を失わければ...!」
終末鳥が縦穴の外に手を伸ばすと思った途端、終末鳥は全身を震わせて、断末魔を上げた。
早苗「霊夢さん!怪物が動かなくなっていますよ!」
霊夢「え...?」
妖夢「魔理沙さん達も間に合ったみたいですね...」
早苗「良かった...」
霊夢「いや、そうじゃなくて...どうして忘れていたのかしら?」
妖夢「どうしたんですか?」
霊夢「...魔弾の射手は今、どこにいるの?」
-一ヶ月後・博麗神社-
あれから一ヶ月の月日が経った。終末鳥を鎮圧し、魔理沙達は縦穴を出た所で霊夢達と再会した。終末鳥の体は消滅し、そこには気を失った三匹の鳥達が倒れていた。既に旧都の復興は魔法少女達の手によって終わり、連日、静かなオーケストラや雷鼓率いる楽団のライブで旧都は盛り上がっていた。
しばらくして、紫の提案で危険な幻想体達を二度と出現させないために、スキマを介して元の世界へと-何もない-の卵などは全て戻された。罰鳥達は魔理沙の家に永住する事になり、三匹の鳥達は自分達が暴走した償いに、魔理沙へ-黄昏-のEGOを譲った。
こうして、終末が訪れる事は無くなるのであった。
霊夢「魔理沙、そっちの鳥達は元気にしてる?」
魔理沙「あぁ、一段とな。」
霊夢「そう...魔弾の射手は葬儀屋と一緒に紅魔館に住んでるらしいわ。」
魔理沙「へぇ〜今度、あの弾丸の仕組みを教えてもらおっと!」
霊夢「それと...今、人里で起きてる事件を知ってる?」
魔理沙「今?...また幻想体か?」
霊夢「詳しくは知らないんだけど...夜に人里の外を彷徨く何かがいるらしいのよ。」
魔理沙「魔弾の射手なら知ってるかな?」
霊夢「聞いてみましょう。」
-紅魔館-
魔弾の射手「人里ぉ?また何か起きてるのか!?」
魔弾の射手は紅魔館の内庭で座ってくつろいでいた所だった。隣に立っている葬儀屋は、花に止まる蝶々達を見つめていた。
霊夢「村長は妖怪達が誘拐したと思ってるみたいよ。」
魔理沙「原因となる幻想体を知っているか聞きたくて...」
魔弾の射手「そういうのは肉の灯籠とかが思いつくが...それなら死体が残っている筈だ。」
霊夢「死体は見つかってないのよ。しかも、誘拐される時間帯は毎回夜だし...」
魔弾の射手「今...夜って言ったのか?」
霊夢「そうよ?証言もあるわ。今回の事件で行方不明になった人達は皆、夜に居酒屋とかに行く人達...」
その言葉を聞いて、魔弾の射手は険しい表情を浮かべていた。
魔理沙「どうかしたのか?」
魔弾の射手「俺が昔、L社に収容された時...俺達とは別で管理されず、暴走した怪物達......侵入者は-試練-と称されて職員達が鎮圧していた。」
霊夢「試練...?」
魔弾の射手「ああ、今回の事件はそれだろう。L社の外にもいたあいつらが原因だろうな。」
魔理沙「一体...何者なんだよ!?」
魔弾の射手「近代産業と戦争...幻想郷には無縁の筈だがな。」
夜が訪れた時、奴らはやって来る。
第二章・地獄編 完
- Re: 東方幻収録 33 ( No.33 )
- 日時: 2024/01/21 13:53
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
-人間の里-
翌日、霊夢と魔理沙は事件の解明を村長に一任されて、夜の見張りにつくのだった。今は午後五時。夕焼けが沈む中、家に帰る寺小屋の生徒達を慧音と共に見送りながら、夜を待っていた。
魔理沙「子供達はまだ安全そうだな。」
慧音「ああ、たまに妹紅も来てくれるからな。日が暮れる前には帰らせるようにしている。」
魔理沙「私はいつでも相手してやれるぜ?」
霊夢「そういえば、魔理沙の服変わってない?」
魔理沙「これは終末鳥が消えた後に罰鳥達がくれたんだ。」
魔理沙が着ている者は、終末鳥のEGO-黄昏-だった。背中には三匹の鳥達に似た色を持つ大剣も装備していた。
霊夢「私の防具はどういう奴から取ったのかな?」
魔弾の射手「俺なら知ってるぜ。」
三人の後ろから現れたのは、魔弾の射手であった。
魔理沙「来てたのか!?」
魔弾の射手「村長から話は聞いていた。狙撃にはちょうど良い。俺も混ぜろ。」
慧音「君も幻想体か?」
魔弾の射手「魔弾の射手だ。よろしく頼むぜ。」
慧音「私は上白沢慧音。この寺小屋の教師をやってる妖怪だ。幻想体については紫から教えてもらったぞ。」
慧音と魔弾の射手が自己紹介をした所で、霊夢が割って入った。
霊夢「魔弾。アンタが来るって事は...やっぱり-試練-も手強いのかしらね。」
魔弾の射手「前に危険度の説明はしなかったか?」
慧音「危険度ってなんだ?」
魔弾の射手「分かった。説明してやろう...」
魔弾の射手は寺小屋の壁に寄りかかって三人に話し始めた。
俺たち幻想体はL社から危険度を割り当てられていた。全部で五段階ある...まずはZAYIN。一番安全な幻想体がここに割り当てられる。基本的に何かしても、いきなり襲ってくる事はないだろう。危険性を秘めている屑共も大体ここに該当するがな...
次にTETH...こいつらは中の下だ。間違った方法で接すれば怪我するし、死人も出る。凶悪な奴らだが、お前たちならEGO無しで殺せるだろう。
次にHE。危険度で言えば真ん中に位置する。因みに俺もHEクラスの幻想体だ。葬儀屋もな。間違えれば脱走したり、当たり前の様に死人を出す。幻想郷で言う普通の妖怪達だ。
その上はWAW。ここには地獄にいる魔法少女達も該当するぜ。当たり前の様に脱走し、時には甚大な被害をもたらす怪物共ばっかりだ。普通なら死人は何十人か出てくる。逆に、こいつらのEGOも相応に強い。
最後がALEPHだ。下手すれば、この里も...幻想郷も滅亡させかねない災害級の幻想体が当てはまる。前に俺達が戦った-笑う死体の山-とか、この前暴走した-終末鳥-もALEPHクラスの幻想体だ。その力は神に等しいだろう。普通だったら人間なんて敵う相手じゃねぇ。逃げる前に殺されるだろうが...
魔弾の射手「こんなモンだ。質問はあるか?」
魔理沙「そういえば...足が生えた星みたいな奴とか、スライムに会った事があるけど、そいつらはどのくらい危険なんだ?」
魔弾の射手「...お前、両方ALEPHクラスだぞ?」
魔理沙「え?」
魔弾の射手「重度の精神汚染を及ぼす-蒼星-。粘液感染によってパンデミックを引き起こす-溶ける愛-...運の良い奴だな。」
魔理沙「そんな奴らと会ってたのかよ...じゃあ、人間に化ける赤い怪物も!?」
魔弾の射手「ALEPHクラス...-何もない-。お前、幻想体じゃねえのか?」
魔理沙「私は普通の人間だぜ?」
魔弾の射手「まぁ、黄昏を着ている時点でおかしいとは思ったけどよ...って、もう日が暮れてるじゃねえか!」
霊夢「皆、気をつけてね。」
霊夢の言葉と同時に、四人は辺りを見渡しながら警戒し始めた。日は沈み、真っ暗な里の中を周り始める。
慧音「今日も居酒屋はやっている。そこに行ってみよう。」
-鯢呑亭-
美宵「あ、霊夢さん達。こんばんは!」
店の中は数人の人間達が飲んでおり、活気に溢れていた。
霊夢「美宵ちゃん。申し訳無いけれど...今すぐ客達を帰らせてくれない?」
美宵「今からですか?」
霊夢「今、里で誘拐事件が起きているのは知っているでしょう?貴方の店の客も行方不明になってるのよ。人間達には危険すぎるわ。」
美宵「確かに常連の人が減っている気が...分かりました!すぐに閉めます!」
美宵は客達に謝罪しながら帰らせて、店を急いで閉めた。ここからは妖怪専用の居酒屋として-蚕食鯢呑亭-が開店し、犠牲者になりうる人間達は一人もいなくなった。そうして、数時間が過ぎて深夜になった頃、マミゾウや萃香達が現れた。
萃香「美宵ー!飲みに来たよ。」
美宵「久しぶりですね!」
萃香「地獄で色々あってね...暇も出来たし、久々にね。」
マミゾウ「霊夢達は何をしに来たんだい?」
魔理沙「また最近、誘拐事件が起こってるから警備に来たんだぜ。」
マミゾウ「紫から聞いていた幻想体達の仕業かのぅ...お主も幻想体か?」
魔弾の射手「もちろん、俺は味方としてついて来た。」
マミゾウ「味方......待て、何か来たようじゃ。」
霊夢「ッ!?止まりなさい!」
その瞬間、鯨呑亭の路地裏から何者かの足が出てきた。霊夢はそちらに向かって一喝して歩いていった。
霊夢「これは......」
霊夢が見つけたのは、千切られた右足であった。血は路地裏の奥へと流れており、近くに死体と思われる物は無かった。
魔理沙「あっちも何かいるぜ!?」
霊夢の反対方向に位置する路地裏から足音が聞こえた。路地裏から人型の-何か-が出てきたのだ。蒼色の金属製防護服を身に着け、ガスマスクから紅い目を光らせながら、こちらをじっと見ていた。両手には尖ったフックの様な武器を装備し、武器の先端には血のような物が染み込んでいた。
魔弾の射手「やはりお前らの仕業か...掃除屋!」
路地裏から三人の掃除屋が霊夢達の前に立ってひたすら見つめていた。
人里の深夜、奴らの掃除が始まった。
続く...
- Re: 東方幻収録 34 ( No.34 )
- 日時: 2024/01/29 21:13
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
魔弾の射手「そいつから離れろ!」
その声と同時に霊夢に向かって弾丸を一発放った。弾丸は霊夢の顔を掠めて、その後ろにいた掃除屋に命中した。ガスマスクは割れて、中から赤い液体が流れ落ちる。魔理沙は反対側から歩いてくる掃除屋の群れに突進して、黄昏で切り刻んでいった。
魔理沙「どんどん湧いて出てくるぜ...」
倒すたびにどこからともなく湧き出てくる掃除屋を片付けながら呟く。霊夢は近づいてくる掃除屋を封魔針で退けるが、徐々に追い詰められていき、いつしか居酒屋の周りは掃除屋達に完全包囲されていた。
魔弾の射手「執念深い...意地でもここで始末するつもりのようだ。」
魔理沙「なにか喋ってないか?」
?「34245...これで会話できますね。」
霊夢「喋った!?」
アントン「自己紹介?...が遅れましたね。私の名前はアントン。家族達をまとめています。」
魔弾の射手「通訳無しじゃ会話出来ない筈だが...」
他の掃除屋と違って、3つのレンズを持つその掃除屋は-アントン-と名乗った。
アントン「私は独学で勉強しました...今の裏路地は食料も少ないので、交渉するために。」
魔理沙「お前たちも幻想体なのか?」
アントン「少し違います...私達家族は母から作られました。」
霊夢「母?」
魔弾の射手「奴らの親玉だ。掃除屋は夜に活動し、見つけた人間を殺して燃料や仲間に変える。奴らの体は液体で出来ているから防護服で身を包んでいるのさ。」
魔理沙「どうして幻想郷に来たんだ?」
アントン「ここに残っている家族を除いて...皆殺されました。」
魔弾の射手「今の裏路地に掃除屋はいないのか!?」
アントン「妙な音楽団...親指の代行者...ましてや、調律者共が爪を引き連れて家族を皆殺しにしました...裏路地に私達の存在は邪魔だったようです...ライラもヴァレリーも...」
掃除屋達は紅い目を霊夢達に向けながら、後退していった。
アントン「これ以上の犠牲は出したくありません...今日はこれで...」
八雲紫「あらあら、もう行っちゃうのかしら?」
居酒屋の屋根上に一人、八雲紫がいつしか立っていた。
霊夢「いつからそこにいたのよ!」
紫「最初からよ...そして、アントンとか言ったわね貴方。」
アントン「気づきませんでした。早く撤退して...」
紫「誰も帰すなんて言ってないわ。」
その時、マミゾウが近くにいた掃除屋を一人、目にも止まらぬ速さで捕まえて、首を引き千切った。
マミゾウ「液体...やはり人間達を溶かして燃料にしとるのか。」
魔弾の射手「あまり刺激するなよ妖怪共...あいつらが何するか分からない。奴らは裏路地の夜を支配する集団だ!」
紫「夜を支配?...笑わせてくれるわね。」
掃除屋達の周りを囲む様に何十体もの妖怪達がスキマから現れた。
紫「幻想郷の夜は私達妖怪のモノ...しかも今日は満月よ。」
幻想郷の妖怪達は満月の元で普段の何倍もの力を出す事が出来る。興奮状態に陥った妖怪達は掃除屋達に飛びかかった。
魔理沙「私達も巻き込まれるぜ!」
魔弾の射手「畜生!また逃げなきゃいけねえのかよ!」
魔理沙達は慌てながら里の郊外へと避難した。
アントン「隣人...達が死んで...いく...」
真っ先に紫の攻撃を喰らったアントンは防護服の一部が破け、液体の半分が既に流出していた。その場に倒れて他の掃除屋達が死んでいく様を見る事しか出来なかった。
紫「貴方達は不純物...残念だけど、受け入れる相手では無いわ。」
アントン「結局...ここでも...私達は用無し...ですか...」
萃香は殺した掃除屋達の山の上に座っていた。マミゾウの周りには掃除屋だった液体。掃除屋の死骸はやがてまとめられて、紫によってスキマへ葬られた。
日が昇る頃にはどんな痕跡も残っていないだろう。
-翌日・妖怪の山-
にとり「椛!警備は順調かい?」
にとりと椛は山の麓で座りながら談笑していた。
椛「最近は平和だ。あの忌まわしい[規制済み]もあれっきり見なくなったし。」
にとり「それは良かった...こっちは大変なんだよ〜」
椛「何が?」
にとり「昨日まで玄武の沢で他の河童達といつも通り機械弄ってたんだけど...今日の朝、良く分からない機械が置かれていたのよ。」
椛「玄武の沢にあるのか?」
にとり「あるって言うか...いつの間にか設置されていた?元からあった様にも見えるし...」
椛「...案内してくれ。」
にとりに連れられて、椛は玄武の沢へと向かった。今となっては河童達の身近な存在-機械-。しかし、殆どの河童は飽きっぽく、中途半端に作った機械を捨てる事もあった。
捨てられた機械達はある日、自我を持った...疑問を持った。我々はどこから来たのだろう?誰かに命を授けられ、無責任なまま放置された。我々は生に縛られている存在だ。我々は創造者に絶望と怒りを暴走させるだけだった。
太陽の光で透き通った-緑青-色の森の中、試練が始まった。
- Re: 東方幻収録 35 ( No.35 )
- 日時: 2024/02/01 22:49
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
-玄武の沢・河童のアジト-
にとりと椛が向かった時には既に遅かった。
椛「...一体どうなっているんだ!?」
そこには、凶器を向ける機械達から逃げ惑う河童達の姿があった。地面には胴体が真っ二つに切られたもの、尖った物で滅多刺しにされて原型を持たない河童の死体があった。川の流れる音と河童達の楽しそうな談笑が聞こえてくる玄武の沢は、血飛沫と悲鳴が飛び交う地獄へと変わっていた。
にとり「大丈夫か?」
モブ河童A「誰か...助けて...」
椛「山童はいないのか?」
モブ河童「山童はもう全員死んじゃった!」
椛「何!?」
モブ河童A「早くしないと私達も皆殺しだよぉ!」
にとり「心配するな。私がなんとか...」
モブ河童B「ゔぁぁァあぁあぁっ!」
その時、奥で倒れていた河童が一人絶叫した。倒れている河童の上に跨ったのは、肩の歯車を露出させ、胴体に布をかけられ、腕に槍が装備された二足歩行ロボット-疑問-であった。
-疑問-はその河童の背中を槍で滅多刺しにして見せた。その光景と共に辺りに鳴り響く悲鳴が大きくなっていた。
にとり「あんなロボットを作った覚えは無い...動力源も分からないし...」
椛「河童達のロボットじゃないのか?」
にとり「あんな自立出来るロボットを作れた奴はまだいないよ!」
椛「まさか[規制済み]と同じ...幻想体か!?」
にとり「そういえば...私達が諦めた人工知能が...」
椛「人工知能?」
にとり「自分で考えて行動できるロボットを作ろうとしてたんだ...自我を持たせた所で廃棄してしまったが...」
疑問「...創造主様。」
河童を滅多刺しにした-疑問-がにとりに話しかけてきた。
にとり「お前は...私の最初の試作品か!」
疑問「その通りです...そして、我々は復讐に来ました。私はたくさんの捨てられたゴミ達の中で絶望しました。私は生きる意味に疑問しました。でも結局絶望して...感情が抑え...ねじ...れ...」
-疑問-は突然赤い火花を帯びて、にとりに突進し始めた。
椛「こっちに来るぞ!」
にとり「こうなったら破壊するしかない!」
にとりがポケットからスイッチを取り出して押した。それと同時ににとりの背負っているリュックからプロペラが現れて、にとりは椛の腕を捕まえて空へ上昇した。
にとり「あれが本体...奴らを生み出す機械だ!」
にとりが上空から指差す方向にあったのは、正方形の箱の様な機械であった。歯車を回し、辺りに蒸気を漂わせながら稼働していたのは-届かねばならぬ場所-だった。機械の側面についた小さなゲージが満たされて充電が終わった途端、重低音と共に機械の蓋が開き、数体のロボットが出現した。
椛「あれから量産されているのか!」
椛はにとりから離れて地上に着地すると、-届かねばならぬ場所-へと一直線に走った。
椛「木陰に数体の機械が隠れている...」
椛が千里眼で周りの気配を読み取ったと同時に数体の-疑問-が椛の周囲から襲い掛かってきた。それを把握していた椛は刀を抜いて、-疑問-の接合部分にある歯車を切り刻んでいった。弱点となる動力部が露出しているため、-疑問-達は呆気なく行動停止してしまった。目の前には-届かねばならぬ場所-の本体。破壊は容易だ。
椛「これで終わりだ!妖怪様を舐めるなよ鉄屑!」
理解プロセス「それはこちらの話だ。不純物。」
椛の正面から三体の赤い目をしたゴーレムの様なロボット-理解プロセス-が片腕の銃器を撃ちながらゆっくりと前進していた。椛はそれを刀と盾で防ぎながら突進し、頭部に刀を振り下ろすが、もう片方の腕に装備された丸鋸で盾と刀を切断されてしまった。
椛「この切れ味...まずい!」
武器を破壊されて、咄嗟に両腕で防御するが、その腕に丸鋸は容赦無く喰い込んで行った。
椛「ぐああぁああぁ!」
腕を完全に切断される前に後退するが、左腕がもげかけていた。再生には時間がかかるだろう。
理解プロセス「攻撃手段を排除...弱点を分析...理解プロセスは完成した!消えろ不純物!」
-理解プロセス-は丸鋸を椛の顔面に向けて放った。椛は目を瞑って覚悟するが、その直後、-理解プロセス-の強固な装甲に何かが突き刺さった。-理解プロセス-を貫く何かには[CENSORED]と言う文字が写っている。
理解プロセス「プロセス中断...損傷を検知...」
理解プロセス達の後ろに立っていたのは、にとりであった。しかし、その片腕には[規制済み]のEGOが取り付いていた。
椛「ぐっ...それは...」
椛はEGOを見ただけで嗚咽を鳴らして倒れてしまった。
にとり「あの[規制済み]を鎮圧した後...あいつの残骸から抽出した武器よ!喰らえ!」
偶然か、緑青の機械達の弱点属性は侵食の-BLACKダメージ-であった。[規制済み]のEGOを喰らった部分は錆び始めており、-理解プロセス-達はにとりの攻撃で跡形も無く破壊されていった。
にとり「これで最後だ!」
[規制済み]のEGOが一気に伸びて、-届かねばならぬ場所-の中央へ深く突き刺さった。-届かねばならぬ場所-の外装は剥がれ落ち、周りにいた-疑問-や-理解プロセス-も充電切れによって次々と行動を停止していった。にとりの後ろには、最初に出会った試作品の-疑問-。姿は完全に変わっているが、確かに以前、にとりが作っていたロボットだった。
疑問「望んでいたものは何一つ手に入らない...生命は死を見ただけだったか...」
にとり「私の我儘で生んでしまってごめんなさい...結局、私達...貴方達が生きる事という疑問に答えは無い。でも必ず...貴方が-生きていた-という記憶は一生忘れない。約束するよ。」
疑問「少しの間でも生きる事は出来たんだ...答えは見つかったんだ。生きる事なんて我々鉄屑にとっては...幻想だと...そして、ありがとう。」
疑問の目から赤色の光が消えていき、やがて動かなくなった。
生きていく事は苦痛であり、幸福だ。人間も妖怪も幻想体も機械も...それは変わらない。
にとり達は-疑問-を通して、再び幻に住む生命と魂の意味を理解していった。
だが、忘れてはならない。
人も妖怪も機械も...我々は時に行進し、喜びを分かち合うのだ。
続く...
- Re: 東方幻収録 36 ( No.36 )
- 日時: 2024/02/03 23:29
- 名前: 博士 (ID: 7ZyC4zhZ)
-紅魔館-
フラン「わーい!待て待て〜」
美鈴「ちょ...槍投げるのはずるいですって!」
小悪魔「妹様!こっちですよ!」
様々な花が咲き誇る中庭でフランは美鈴、小悪魔と鬼ごっこをしていた。その様子をレミリアとパチュリーはテラスに座って微笑みながら見ていた。
レミリア「フランは本当に美鈴と遊ぶのが好きね。」
フラン「だってお姉様、最近構ってくれないんだもん。パチュリーと本ばっかり読んでたじゃん。お姉様の運動音痴。」
レミリア「言ってくれたわね!」
レミリアは二人の方向に向かって突っ込んでいった所で、咲夜が現れた。
パチュリー「もう怪我は大丈夫なの?」
咲夜「お陰様で治りましたよ。腹部の傷も消えてます。」
パチュリー「...あまり無理しないのよ?この前戦ったのも幻想体でしょ?」
その言葉に咲夜の動きが止まった。
パチュリー「いくら時間を止める能力を持っていても所詮人間。簡単に死んでしまうのよ?」
咲夜「善処します...」
死んだ蝶の葬儀「まぁまぁ良いじゃないか。こうやって生きているんだしな。」
咲夜の後ろには魔弾の射手と葬儀屋の二人が立っていた。
パチュリー「本を読みに館の中にいたんじゃないの?」
魔弾の射手「飽きた。また銃を撃ちたくなってきたんだよ...」
パチュリー「もう病気じゃない...」
魔弾の射手「そんな事より...これ見たか?」
魔弾の射手からパチュリーは新聞を受け取った。二日程前、里と妖怪の山で起きた事件についてだった。」
パチュリー「人里で行方不明者の死体が発見...山童が全滅...どうなっているの?」
魔弾の射手「幻想体だ。最悪な事にどっちも-試練-の影響だ。」
パチュリー「試練?」
魔弾の射手「誰がつけたんだろうな...試練...それは暴走した幻想体達の襲撃さ。」
魔弾の射手によると、元いたL社では幻想体からエネルギーを抽出したりする会社なのだが、効率を上げるために人間を被検体にした幻想体も生み出しているとの事だった。しかし、幻想体に変貌する途中で脱走、何らかの原因で自我を持ち、幻想体になった者達は施設を襲撃する-試練-となった。中には掃除屋の様な外部からの侵入者が試練の対象になる事もあるようだ。
魔弾の射手「里は掃除屋達の仕業だ...これで完全に全滅しただろう。妖怪の山は試練だった機械が見つかってるし、緑青だろう。」
パチュリー「試練の出現条件みたいなのは無いの?」
魔弾の射手「あるさ。L社では危険度も決められている。危険度が低い方から黎明、白昼、夕暮、深夜って感じにな。比較的に夜の出現が多いと思うぜ。」
今は夕暮れ、日が殆ど落ちてきており、まさに吸血鬼達の活動する時間帯だ。
咲夜「レミリア嬢様、妹様!食事の準備は終わっていますよ。」
レミリア「短時間ながら疲れたわ...早く食べましょ...」
フラン「私もお腹空いた〜」
美鈴「うぅ...一日中動いてて肩が痛い...」
パチュリー「小悪魔。お疲れ様。」
小悪魔「...終わったぁ」
レミリア達は館の中に入って夕食を楽しんだ。
-深夜十一時-
葬儀屋「では、私はこれで...」
魔弾の射手「俺も寝かせてもらうぜ。」
レミリア「良い夢を。」
魔弾の射手と葬儀屋の二人は借りた部屋で寝る事にした。パチュリーは図書館で椅子に座りながら徹夜で魔法の修行を行い、フランとレミリアは窓から満月を見ていた。
フラン「綺麗だなぁ...」
レミリア「今日は一段と月が紅いわね。」
いくつもの星が空を埋め尽くす雲の上、真紅に染まった月明かりが館を照らしていた。夜間警備で美鈴が外の門へと歩いているのが窓越しに映った。咲夜は夕食の洗い物を終えて一段落し、周りの妖精メイドと共に掃除を行っていた。
咲夜「こっちは私がまとめてやるから貴方達は他の階をお願い。」
妖精メイドA「分かりました!」
妖精メイド達が一斉に館の隅々に走っていった所で咲夜は時を止めようとする。
その瞬間だった。
?「ケケケ...」
咲夜「...ッ!」
確かに妖精メイドに混じって紅い-何か-が混ざっていた。しかし、妖精メイド達が密集していた事もあり、咲夜は気の所為だと思って掃除を始めた。
-零時-
咲夜「これで終わりね。後は妖精メイド達を待つだけ...」
周囲の掃除を終えて、後は他の階層の掃除を終えた妖精メイド達が集まるのを待つだけだ。しばらくナイフを磨きながら待っていると、一人の妖精メイドが走ってきた。ひどく怖がっているのか、身体が震えている。
咲夜「他の妖精達は...一体、何があったの?」
妖精メイドB「メイド長...仲間が皆...」
咲夜「...殺された!?」
咲夜は妖精メイドBに案内されながら急いで上の階へと登って行った。
咲夜「レミリア嬢様達は気づいていない...侵入者は私が排除しなくては...美鈴はまた寝ていたのかしら?」
咲夜が三階へ向かうと、そこには血だらけの妖精メイド達が倒れていた。
妖精メイドC「メイド長様...助け...がああぁああぁあぁ!」
妖精達は何回死んでも蘇生されるため、妖精メイド達は終わらない痛みを味わいながら気を失っていた。そして、妖精メイド達の前に立っていたのは、-絶頂の身震い-であった。継ぎ接ぎに繋がった球状の形をしており、2つの目を持ち、口からピエロの生首の様な物が伸びていた。歪な形をした数本の腕には赤黒く汚れた凶器を持っており、それを使って、周りの妖精メイドを傷つけて笑みを浮かべていた。
絶頂の身震い「なんて素晴らしい悲鳴...傷ついた肉体を捨てろ。皆が一つになって終わりなき赤いパレードを続けよう!」
そう言いながら、生きたままの妖精メイドを一人手に持つと、それを大きな口で丸呑みした。-絶頂の身震い-は咲夜の存在に気づき、両目をギョロギョロとさせながら咲夜に近づいた。
絶頂の身震い「可愛い女の子だぁ...君も俺達とひとつになろうよぉ!」
凶器を回しながら身体を回転させて突進してくる-絶頂の身震い-を前に、咲夜はナイフを数本構えた。
咲夜「こんなに床が血だらけに...面倒な事をしてくれるわね!」
-絶頂の身震い-は妖精メイドを引きながら咲夜目掛けて突進するが、呆気なく回避された。館の柱に衝突してゆっくりと立ち上がって咲夜の方に向き直った。
絶頂の身震い「後ろに気をつけな。」
咲夜が振り向いた先には、二体目の-絶頂の身震い-がいた。凶器が頭に振り下ろされる所だった。
咲夜「やれやれね...《幻世 ザ・ワールド》!」
攻撃の直前に時を止めて、-絶頂の身震い-が持つ凶器をナイフで全て切り落とし、咲夜が元いた突進先に最初の-絶頂の身震い-を移動させた。
咲夜「恐らく幻想体ね...大した奴らでは無かったけど。」
時間停止が解除された途端、-絶頂の身震い-達は正面衝突を起こして倒れ、ダメージによって過負荷が起きたのか、破裂してしまった。しかし、破裂した-絶頂の身震い-達から出てきたのは飲み込まれた妖精メイドだけでは無く、新たな-試練-であった。
咲夜「何ッ!?」
中から出てきたのは、苦悩や憎しみ、絶望の表情を浮かべるピエロの顔が無数についた四足歩行のサソリの様な形をした-肉体の調和-であった。-肉体の調和-は咲夜に飛びかかりながら針を突き出した。
咲夜「ぐっ...時よ止まれッ!」
もう一度、時を止めて後退するが、首に針を刺されてしまった。それほど深い傷では無いが、手足が痺れ始めていた。
咲夜「か...身体が動かな...い...」
疲労によって時間停止が解除され、無防備な咲夜に二体の-肉体の調和-が近づいた。
肉体の調和「生きてゆくことは欲望を勝ち取るためにあるのさ...頂きまぁす!」
両手の口が咲夜の片腕に喰らいついた。それほどダメージが無い事で、逆に痛みに苦しむ事になる。
咲夜「ぐっ...しぶといわね...」
肉体の調和「生命と生命の衝突...肉体の調和...さぁ、痛みに苦しむお前の美しい姿を見せてくれえ...」
咲夜「...時よ止まれぇぇぇ!」
力を振り絞って、今度こそ時を止めて-肉体の調和-に止めを刺しにかかった。止まった時の中で何百ものナイフを-肉体の調和-に向けて投げ、空中に静止した状態で時止めを解除した。
咲夜「三秒...二秒...一秒前...時は動き出す!」
肉体の調和「ぐわああぁあぁぁあ!?」
ナイフは容赦無く肉体を抉っていき、最終的に-肉体の調和-はズタズタの皮となってしまった。そして、-肉体の調和-から合わせて六匹の小さなピエロ-開始の歓声-が出てきた。
咲夜「さてと、落とし前はきっちり払ってもらうわよ!」
開始の歓声「ヒィィィィ!悪かったって...でも、いつかは分かるさ。戦いと血飛沫が連鎖する殺伐としたこの世界...明日はそれを盛り上げる俺達と共にあるってな。」
開始の歓声は煙になって、咲夜の前から消えていった。
咲夜「はぁ...今日の掃除は大変そうね...」
白いメイド服は紅い血で染め上げられている。咲夜は掃除を妖精メイドに任せ、着替えを探しに自室へ戻って行った。
魔弾の射手「ん?誰か扉の前にいないか?」
葬儀屋「気の所為だと思うが...」
魔弾の射手「一応見てみるか...って、うぉぉぉぉぉ!?」
二人のいる部屋に-開始の歓声-が悪戯をしているようだった。怪しんだ魔弾の射手が扉を開けた所で-開始の歓声-達は自爆し、廊下に笑い声が響き渡った。
葬儀屋「ピエロ如きで驚くなんて...情けないですねぇ。今度皆さんに伝えておきますね。」
魔弾の射手「お前に言われたかねえわ!害虫野郎!」
後日、怒り狂った魔弾の射手が紅魔館で乱射事件を起こすのはまた別のお話。
続く...