社会問題小説・評論板
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- 嘘吐き造花が枯れるとき。
- 日時: 2015/07/08 20:38
- 名前: 桜 ◆7gBpJ8SNck (ID: tL2iei10)
初めまして、もしくはお久しぶりです。
未熟ですが、よろしくお願いします。
私の体験も若干入っていたりしますが、多くはフィクションです。
前回に引き続き、御注意を。
・私の文章はまだまだ未熟です。
・誤字脱字があるかもしれません。(指摘して頂けると助かります)
・更新は不定期です。
・社会派小説から外れてしまうかもしれません。
・自己満足の小説で私の偏見で書いている所もあります。
そんな小説でも大丈夫でしたら、そのまま下へお願いします。
無理でしたら、小説一覧へお戻り下さい。
荒らし等はお止め下さい。アドバイスは大歓迎です。
コメントを頂けると嬉しいです。
それでは、始めます。
——————これが、私にとっての幸せなのでしょうか。
- Re: 嘘吐き造花が枯れるとき。 ( No.31 )
- 日時: 2015/08/27 19:01
- 名前: 桜 ◆k7.5lqH5Sc (ID: tL2iei10)
本日も晴天なり。照りつける太陽が私の腕を容赦なく焼き付ける。日焼け止めをもっとしっかり塗ればよかったと少しの後悔。長袖を着れば解決だねと少し皮肉ってみる。
貴方の腕に無数に走る痛々しい傷跡。決して消えない傷跡。心が傷つく度に増えていく。
リストカットなんて言葉を知ったのはいつだったか。その行為は漫画の中だけ、ドラマの中だけ、ニュースの中だけ。そんな風に考えていたあの頃を思い出す。あの頃は本当に楽しかった……。
……なんて、過去を美化しても意味はない。私にとって、リストカットという行為は身近な物だった。何故その様な行為をするのかも知っていた。その考えに共感さえもした。それでも、私は弱かったから。あの傷を、あの顔を思い出すと、カッターを持つ腕が震えてしまった。切ることも出来ず、只自分の身体を抱えて震えていた。
私は本当に臆病だ。何も出来ないガラクタだ。
静かに耐えることも出来ず、声を張り上げることも出来ない。静かに耐えていた貴方を巻き込み、勝手に傷ついた。声を張り上げていた貴方を見て見ぬ振りをし、勝手に離れていった。本心から向き合うことに恐怖していた。貴方は本心からの言葉を紡いでいたのに。例えその言葉が私を傷つけるとしても。
全て自業自得だ。
どうしようもないくらいに我が儘だった。自分の傷しか見えていなかった。
貴方は今も傷ついているというのに。今も傷つけているというのに。
『おはよう、笑美』
貴方は今日も笑顔でいる。緋色も姉も、傷を隠して笑っている。その傷は蓄積し、何処かで放出しなければならない。また自分を傷付け、安心する。そう繰り返して、傷は増えていく。
誰にも悟られないように、自分は普通なのだと思い込み、笑顔を振りまく。普通でありたいという想いに押し潰される。ずっと、ずっと。
流れる血の色は皆同じだけれど、流す意味は同じなのかな。
『おはよう、……』
私はスカートのポケットに入っているカッターを握り締めた。心地良い冷たさが指に伝わった。
- Re: 嘘吐き造花が枯れるとき。 ( No.32 )
- 日時: 2015/08/24 22:27
- 名前: 桜 ◆k7.5lqH5Sc (ID: tL2iei10)
今日も会えなかった。クラスはたった二つしか離れていないのに、会いにいく勇気はなかった。
あの場所は私達二人しかいなかったから、周りの目を気にする必要はなかった。緋色が苛められていても、あの場所では関係なかった。でも、学校では、この閉じられた世界では、私達は異なる立場にいる。
私は今もグラグラと揺れている不安定な場所に立ち、いつ落ちていくか分からない。いつ誰に足を掴まれ、入れ替わるか分からない。周りの人に親切にし、または利用され、この立場を保ち、あの子を笑っている。例えば、もう一度あの頃に戻るか、もっと人を傷つけていくかと問われたら、私は笑顔でこう答えるだろう。
もう、あんな暗い暗い場所には落ちたくない。
私は笑顔を歪めて他人も自分自身も傷つけていくだろう。汚れた涙を流して、偽善の心を抱え、それを自分を正当化する理由にして、傷つけ続けるだろう。
誰かが落ちなければならない。皆の友情の為に……?
私のクラスの苛められてるあの子は、欠席だった。風邪を拗らせてしまったそうだ。皆は最初は話のネタにしていたが、すぐに忘れられた。そんな儚い存在だった。ある意味、あの子も私も救われたと思う。
『ずる休みでしょ』
『やっと来なくなったねー』
『居ないと詰まらないなぁ』
そんな言葉を幾度となく聞いてきた。存在しても嘲笑い、存在しなくても嘲笑う。学校に来て欲しくなかったのではないのか、何故そんなにも人を傷つけることに安心感を覚えるのか。何が正解なのだろうか。
そんなこと、もう理解しているのに。
- Re: 嘘吐き造花が枯れるとき。 ( No.33 )
- 日時: 2015/08/27 19:04
- 名前: 桜 ◆k7.5lqH5Sc (ID: tL2iei10)
今日は久しぶりに部活動に顔を出そうと思う。特に熱心に活動している部活動ではないので、幽霊部員は私を含めて結構いる。部活動と言っても絵を描きながら話に花を咲かせるだけ。それは今人気の俳優についてだったり、友人の惚気話だったり。あるいは噂話だったり。
良い噂はあまり広がらないけれど、悪い噂はすぐに広がる。広がる事に少しずつ誇張されて、最終的にはありもしない噂になったり。そして、友達が少しずつ居なくなっていったり。
でも、そんな噂話されるほど信頼されてなかったんでしょう?噂程度で友達がいなくなるほど脆い友情だったんでしょう?
……そんな、自分を正当化する言葉を繰り返し頭の中で呟く。やはり私は弱いのだと実感する瞬間。自分の心を守る盾を私は手放せない。
今日の部活動もお喋りで終わり、あまり絵は進んでいない。帰宅の準備をし、友人と他愛のない話をしながら昇降口まで降りた。外からは運動部の掛け声や笛の音が聞こえてくる。
部活動に学生生活を捧げる人は何故あんなにも綺麗に笑うのかな。私は所詮、部活動なのにと思ってしまうから、綺麗に笑えないのかな。
何かに全力でぶつかっている人は笑顔が輝いている気がする。逃げずに立ち向かい、手に入れる喜び。味わったことのない喜び。
相手に合わせて、相手を笑わせられる言葉を探して、相手が笑ったら自分も笑って。笑顔の本質が違うのだと気づいた。
私は何をするのにも恐怖し、一歩踏み出すのを躊躇してしまう。この先にはどんなことがあるのか、私はそれに耐えられるのか。そんなことを考え、誰かが成功したらやっと安心して踏み出せる。その頃には私の周りは誰も居なくなっていた。
友人と途中で別れ、ゆっくりと自宅に向かって歩みを進める。夕方は日差しが少し弱くなっているが、まだまだ蒸し暑い。ハンカチで流れてくる汗を拭い、鞄から水筒を出して喉を潤す。早く涼しい自宅に帰りたいような、蒸し暑いけれど安心する外に居たいような、矛盾した気持ちを抱え、日陰を出来るだけ通る。
もう少しで自宅に着きそうで、足を止めたその時。
「如月さん?」
見知らぬ女の人から声を掛けられた。服装は何処かの高校の制服。
……姉と同じ制服だ。
姉の知り合いが私に何の用なのか。何故姉ではなく私に声を掛けたのか。もし家に用があるのなら、家に直接電話でもすればいいのにと思ったが、少し頭を働かせ、すぐに思い当たった。多分、あの事だろう。私にとって、良い話か悪い話か。認めたくはないけれど、今の私には良い話かもしれない。
私は貼り付けた笑顔を姉の知り合いに向けた。
「はい、そうですが、姉の知り合いですか……?」
もう答えは知っているけれど、他人からそれを聞くとどのような感情になるのかな。
話の予想が付いている自分が嫌だった。私は依存しているのだと気づかされてしまうから。そんなこと信じたくなかった。それでも、何処か喜びを感じていた。どす黒い喜びを感じていた。
私は、普通の感情を持っていた。
- Re: 嘘吐き造花が枯れるとき。 ( No.34 )
- 日時: 2015/12/10 19:16
- 名前: 桜 ◆k7.5lqH5Sc (ID: tL2iei10)
他人の日記を読むのはいけないことだと知っている。それでも私は姉の日記を読むのを止められなかった。姉の心内を知りたくて仕方がなかった。いつか姉を救えると信じているから。
「……ごめんね、妹さんにこんなこと話して。でも、耐えられなかったの」
偽善者が言葉を紡いでいく。自分を守る為の言葉を紡いでいく。
「……いえ、ありがとうございます」
哀しげな表情を笑顔に少しだけ足して、沈んだ声で呟いた。
話が済むと、姉の知り合いはそそくさと逃げる様に帰って行った。私は不思議な感情を抱えながら、その人が見えなくなるまで立っていた。
家に入ると、姉の部屋から微かに音楽が流れている音がした。今流行りの軽快な音楽を流して、何をしているのかな。また、偽りの友人とメールでもしているのかな。偽りの友人と遊ぶ計画でも立てているのかな。家族を欺く為に、自分を欺く為に、傷を増やしているのかな。
笑っちゃうね。
……如月さんはずっと独りぼっちで、クラスの皆からは陰口を叩かれているし、如月さんもそれに何も言い返さない。面倒事を押し付けられても笑っている。これって苛めじゃないのかなって。
中学校から知り合いだから、如月さんの事が〝友達〟として心配だったの。
〝学級委員〟としてクラスの面倒事は放って置けなかったの、とは言わず、友達として心配だったから。
もし苛めていた事を責められたら、私は如月さんを助けようとした、と胸を張って言えるね。それが本心でしょう?
……今日は、もし妹さんに会えたら話したいと思って、学校帰りに寄ってみたの。会えなかったら、そのまま帰るつもりだったんだ。あ、なんで妹さんなのかと言うと、私は如月さんの家庭事情も知ってるし、うん、なんか、如月さんの親には話せなくて。
そういえば、貴方と姉は中学生の時、仲良しだったね。姉はこんな事も話していたんだね。貴方を信じて助けを求めていたんだね。私のことも知っているみたいだし、本当に何でも話していたんだね。
……あ、あと、私が来た事は如月さんには言わないで欲しいな。
ああ、やっぱり、偽善者だね。
歪な笑顔を残して帰って行った姉の友達。姉と貴方は今、どういう関係なんだろうね。中学生の時は仲良しでよく遊びに行っていたらしいね。姉は独りで居るって言っていたから、貴方は姉とはもう一緒に居ないんだね。
これが夢だったら、幸せだったよ。
覚めない夢はなくて、いつかは光に包まれる時が来るから。
けれど、このことに喜びを感じてしまう私が居る。私を傷付ける姉が傷付けられていることに笑顔を浮かべてしまう私が居る。
これは夢。そう思いたかった。
- Re: 嘘吐き造花が枯れるとき。 ( No.35 )
- 日時: 2015/12/25 15:13
- 名前: 桜 ◆k7.5lqH5Sc (ID: tL2iei10)
軽く姉の部屋のドアをノックする。音楽をかけているからか、なかなか返事がない。少し強くして何回か続けると、中から不機嫌そうな姉の声が聞こえてきた。音楽の音量が少し小さくなった。
ドアがゆっくり開き、左手に携帯を握った姉が現れた。
「なんか用? 今、友達の相談乗ってるんだけど。忙しいから早くして」
そんなことしていないくせにね。自分には友達がいるってことを私に信じさせる無駄な芝居。私より優位に立っていたいだけだよね。
「そうなんだ、特に大切な用事じゃないよ」
“いじめられてるんだってね”
「…………」
私は言葉を飲み込んだ。これは言っても意味がない。姉に今言っても傷つけるだけ。この言葉を発してしまったら、私達の関係は粉々に壊れてしまう。この溝がもう埋められないくらいに深くなり、私が貴方に近寄ろうとしたら、足を滑らしてその溝に落ちてしまう。そんな気がして、恐怖で何も言えなくなってしまった。
「何なの?用が無いなら出てってよ。目障りなの」
入口で棒立ちになっている私に向かって姉が不快感を丸出しにして鋭い言葉を放った。
「……私、桜ヶ丘高校を受験しようと思うの」
何を言っているのか。
姉に何かを言わなければいけないと焦り、意味不明なことを言ってしまった。こんなこと、姉に言っても何の意味もなさないのに。私がただ傷つくだけなのに。
それでも、姉の言葉が聞けるなら。
「へえ、それは良かった。私とは違う高校に行ってくれるんだね。あんたが私と同じ高校に行きたいって言ったときは吐き気がしたよ。良い報告をありがとね」
姉が皮肉混じりの言葉を醜い笑顔で私にぶつけた。
私、その笑顔は嫌いだな。
「で、用はそれだけ?なら早く出てって」
姉は手を前後に振り、私に出ていくように促した。
そうだ。最後にこれを言わなければいけない。例えどんな答えでも何かが変わる気がする。きっと。そうなればいいなと思うだけ。
「……ねえ、学校楽しい?」
姉は何て返すのかな。本心から話してくれるのかな。……そんなわけないよね。
「……そんなの、楽しいに決まってるでしょ」
姉のその哀しみで歪んだ作り笑顔は、どこか見覚えがあるような気がした。私、その笑顔は嫌いじゃないよ。
「それなら良かった。用はそれだけだから」
私は手を軽く振り、ドアを静かに閉めた。音楽の音量が少し上がった。
少しずつ変わっていると信じている。良い方向へ転がっていると信じている。いつか笑顔になれると信じている。
変えるには行動をしなければ始まらないことは知っていた。それでも何も出来なかった。ただ信じて信じて欺いて、自己満足に浸っていたかった。