BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

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GL・百合『落としたら壊れちゃうんだよ』(完結)
日時: 2014/03/29 16:32
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
プロフ: http://www.kakiko.cc/novel/novel5/index.cgi?mode=view&no=14241

参照、ありがとうございます。あるまです。
百合小説が好きで書いてます。

この小説は少しシリアス寄りの話です。
よく分からないタイトルですが、作者は勝手に「落壊(らっかい)」と略してます。

13年9月、無事に完結できました。
読んでくれたみなさま、本当にありがとうございました!
二ヶ月半ほどの短い間でしたが、私もすごく楽しかったです!

感想等ありましたらいつでもコメントください!!

ちなみに作者は今、『二次創作短編集』というのを書いております。(BLではなくてGLですごめんなさい)
上にURLを載せておきますので、興味があればどんな感じか見てみてください。



___あらすじ___
高校一年生の長南縁(おさなみ えにし)は自分の居場所を探していた。
中学の時から仲のよかった友達と、最近は気が合わなくなってきたのだ。
試みに入った部活を三日で辞め、ひとり海辺を歩いていた長南は、同じクラスの梧メグミ(あおぎり めぐみ)に出会う。
あおぎりは特定の友達を持たず、常にクールで孤独を貫いていた。
友達の居る長南と、友達を持たないあおぎり。
憂鬱を抱える長南は、自然と彼女に惹かれていく。


___人物プロフィール___
>>13

___1話〜15話までの目次と「オサライ」___
>>23

___16話〜28話の目次と「オサライ」___
>>34


___プロローグ___
「もう、海にばかり行く必要ないと思うんだ。海は長南と出会えた場所で、とても大事なんだけど」
わたしはあおぎりと二人、街の交差点で立ち止まった。
やがて信号が青に変わった。車が停止線の前でアイドリングしている。
「行こっか」
わたしが言うと、あおぎりも「そだね」とだけ言った。
二人は人ごみに混じって歩き出した。

Re: GL・百合オリジナル 『落としたら壊れちゃうんだよ』 ( No.3 )
日時: 2013/07/21 17:22
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   三

「待って」

あおぎりさんも立っていた。わたしより背が高い。170くらいありそう。

今日までまともに見たことのなかった彼女の顔は、澄ましているといかにも頭が良さそうで、心の内側に何か深いものを隠しているようだった。

そのあおぎりさんの口元がニコッと微笑んだ。

「ラーメンライス、好きなの?」

どうでもいいような話だった。
わたしとしては、さっき海に向かって叫んでいたのをたまたま聞かれて、それを思い出すと恥ずかしい。

「わたしも、チューシュー麺の大盛とか、頼んでみたい」

そう言うとあおぎりさんは海の方を向く。カモメが綺麗に列を成して飛んでいた。

「チューシュー麺大盛とライスに餃子ーーーーーー!」

海に向かって叫ぶ女子高生。絵的には青春っぽくていいけれど。
ってか、大食いだ。

「なんなら今度二人で行く? ラーメン屋」

「え? あ、うん……行く。行きたい」

突然の問いに、つい答えてしまう。
言った後で、あおぎりさんと約束をしてしまった自分に気づく。

「好きだーーーーーー!」

次に叫んだのは、ちょっとそれらしかった。不自然じゃない。でも。

「え? ラーメンが?」

わたしは聞いてみる。何を好きなのか、主語が抜けていたから。

「違うよ。今の『好き』はね、告白。どうせわたしなんかには縁のない言葉で、本気で言うこともないだろうから。叫んでみた」

「縁がないって、そんなこと……」

「好きだー!」

「わっ」

あおぎりさんがいきなりわたしに向かって叫んできた。でもなんで「好きだ」なんだ。

「長南さんは、好きな男子は居る?」

「居ないよ、そんなの」

わたしは即答していた。
べつに、面食いだとか、理想が高過ぎるってわけじゃないと思うけど、なんだかんだで、わたしはそういうのに興味がない。

「今までに彼氏は?」

「できたことない」

「なぜ?」

「なぜって言われても……」

なんとなく、そんな気になれなかったとしか言えない。

「じゃあ、わたしが告白していい?」

「なぜ」

本気の「なぜ」だ。女が女に告白って、意味が分からない。

「長南……」

あおぎりさんが詰め寄ってくる。「さん」が抜けていた。わたしも呼び捨てでいいだろうか。「あおぎり」って。

「あおぎり……」

思った時には口に出していた。
それは友達を呼び捨てにする時と違う、不思議な感じ。

あおぎりがわたしの髪を触っている。
鎖骨のあたりまで伸びたわたしの髪を指ですくって、すりすり、感触を味わうようによじる。

「こんなストレートのサラサラで、羨ましい……」

わたしの髪が、あおぎりの鼻に押しつけられる。やだ。匂いかがれると恥ずかしい。

それなのにわたしは抵抗するどころか、むしろ肩の力が抜けていく感じで、膝がガクガク震えそうになる。

今のわたし、どんな顔してるんだろう。

何度もわたしの髪を撫でていたあおぎりの手が、すっと近くに伸びてきて、わたしのアゴに触れた。

二人の目と目が、ぴったり重なる。

「ん……」

わたしは急に怖くなって目をつぶった。
胸もとに両手で二つグーを作り、今まで髪を撫でられてリラックスしていた身体に、緊張が走る。


「長南」

呼びかけるような声に、現実に帰る。

見ると、面白そうに笑っているあおぎりが居た。

「なに本気になってんの。するわけないじゃん。女どうしで」

「ご、ごめんなさい……わたし」

顔が熱くなっていた。どうしよう、冗談に決まってるのに。恥ずかしい。

「わたし、帰るよ!」

カバンを肩にかけ、わたしは走った。

潮風で錆びついた手すりにつかまり、堤防をのぼる。


さっき初めてあおぎりと会話したばかりなのに、もう何度目か分からない、恥ずかしいって気持ち。

あいつの前でわたしは恥をかいてばかりだ。

   ***

Re: GL・百合『落としたら壊れちゃうんだよ』 ( No.4 )
日時: 2013/07/24 16:27
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   四

朝が来てしまった。

部活を辞めたわたしは、今日からまた居場所のない自分に逆戻りだ。

昨日の朝は昨日の朝で、自分に合わないと分かった部活を続けるべきなのか悩んでいたと思う。

辞めたら辞めたで、居場所のない自分に悩む。振り出しに戻っただけだ。


「おはよー、長南!」

コナカとセブンイレブンが見える十字路の交差点に、友達の沢(ザワ)が立っていた。

この子はほんとは石沢だけど、ザワと呼んでいる。
中学校の入学式で会話したのがきっかけで、その後も三年間ずっと仲が良かった。

色々あってわたしは高校に上がったら新しい友達を作るつもりでいた。
でもうまくいかず、今もこうして同中の友達と付き合っている。

「部活の調子はどうよ」

「うん。まあまあかな」

わたしは嘘をつく。この話題はそれで終わった。

「昨日の夜もずっとミキからメール来ててさー。例の、バイト先の先輩の話だよ」

沢がそう切り出すと、わたしは「また始まったか、その話」と心で溜息をつく。

ミキというのは、わたしたちのもう一人の友達だ。
わたしと沢とミキ。この三人は中学校の時いつも一緒だった。周りにも三人でワンセットみたいに思われていた。

今から思えば狭い交友関係だった。その代わり、固い絆はあったと思う。

高校生になってバイトを始めたミキだが、バイト先の先輩を気に入ったようで、わたしや沢にその話ばかりする。
沢はそれを「ウザい」と感じ始めていた。

「その先輩がさ、他の子より自分に話しかけてくることが多いとか、倉庫の仕事を手伝ってくれるっていうのよ。何それ、相手も仕事でやってるだけじゃないの。自意識過剰だっつーの。ミキがそんなにモテるわけないじゃん。あいつぜってー誇張してるよ」

最近の沢はミキの悪口も平気で言う。

ただそれは悪口でありながら事実でもあった。

付き合いが長過ぎて気にもならないけれど、ミキの容姿は客観的評価によると「上・中・下」の「下」にあたるらしい。

また、ミキは誇張癖というか虚言癖というか、嘘か本当か分からない自慢話をよくする。

「わたしがバイトも部活もやらないで暇だからって、ミキから自慢話ばかり聞かされてウザいんだけど。長南、代わってくんない?」

「あはは。ミキも沢が相手の方が話し易いんじゃないの。わたしのとこには普段からメールなんか送ってこないし」

わたしは軽く笑っておく。
でもミキだって、やっぱり沢が人のよさそうな雰囲気を持っているから話し易いんだと思う。
ミキはわたしより沢の方により親しみを持っている。それはそれで少し寂しいけど。

「こっちだって適当に合わせるの大変なんだよ? 本当かどうかも分からない話ばかり聞かされてさ。もう告白しちまえばいいじゃん。言ってることが嘘じゃないならさ」

沢は「ほんとめんどくさい」と嫌そうな顔をした。中学時代には見せなかった顔だ。

昔なら友達の欠点もからかい半分に笑いのネタにできたけれど、今はこういう会話が怖いって思う。


わたしが話を広げようとせず黙り込むと、沢は「話に乗ってこいよ」とばかりに非難めいた視線を向けてきた。

『落としたら壊れちゃうんだよ』0726UP ( No.5 )
日時: 2013/07/26 16:45
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   五

教室に着くとミキはまだ来ていなかった。
沢はわたしの後ろの席だ。二人、縦に並んで席に着く。

「二人ともおはよう」

声をかけてきたのは五十嵐さんだ。
席も離れているし、ちょうど今は彼氏と話していたと思うのに、わざわざ窓際まで話しかけに来る。


五十嵐さんとは高校に入ってから知り合った。

長い髪を後ろで束ねただけで、顔もノーメイクでオシャレな感じなんか全然ない。
それなのに、素材がいいから目立っている。

同い年とは思えない大人びた雰囲気を持っていて、何よりも彼氏が居るっていうのがわたしたちより抜きん出ている。

おまけに成績優秀とくるから、わたしはどうしてもこのひとに一目置いてしまう。

出会った当初は、こんなひとがわたしたちの友達になるなんて思いもしなかった。

まあ、おそらく五十嵐さんの目当ては沢にあったと思うけど。


「昨日、ミキがさー」

「うんうん。どうしたの」

早速、沢がさっきわたしにした話を五十嵐さんに繰り返す。
テンションはさっきよりずっと高めだ。

五十嵐さんと話す時の沢は、一生懸命というか、サービス精神みたいなものが感じられる。

五十嵐さんに話しかけられて嬉しいのか、それとも話を聞いてもらって嬉しいのか。

「ふふ。その先輩も大変だろうね。ミスされると困るから、ミキから目が離せないんだよ」

わたしの真後ろで、五十嵐さんが笑っている。
どういうわけか、同じ十五歳なのに、五十嵐さんが言うとバイト経験者みたいに聞こえる。
大人っぽい五十嵐さんからすれば、欠点だらけのミキなんて、よっぽど幼稚に見えるのだろうか。

沢も相手が面白がってくれた方が話していて楽しいに決まっている。わたしの真後ろで、二人はミキの話で盛り上がっていた。

ミキ、遅いな。早く来た方がいいよ。

「長南さんも中学時代ずっと一緒で、大変だったでしょ」

五十嵐さんに声をかけられ、わたしは慌てて振り向いた。

「う、うん。まあ、ミキはなんていうか、言ってもなかなか分かってくれなくて……」

ミキとのこれまでを思い出すと、さすがに「そんなことないよ」とは言えなかった。

それよりも、五十嵐さんと目が合い、「やっぱ綺麗なひとだ」と思ってしまう。
そう思うと、結局ミキをかばってやれなくなる。

「あ、ミキ来た」

わたしが言った。
さっきから教室のドアにちらちら目をやっていたから、わたしがいちばん先に気づく。

「おはよー」

沢と五十嵐さんが、明るくあいさつをする。

「おはよ」

遠くの席に腰かけて、ミキは笑った。

少し息を切らせて、顔が赤くなっている。ちょっと太っているだけに、汗臭い印象だ。同じ制服を着ていても、五十嵐さんやあおぎりみたいに決まってない。


なんて、今はこんなことまで思うようになってしまった。

中学の頃は、ミキの見た目がどうかなんて気にならなかったのに。
最近はわたしまで、ミキを低く見ている気がする。


五十嵐さんは話題を変え、ツイートや面白い動画の話なんかを少しして、チャイムが鳴ると自分の席に戻った。

『落としたら壊れちゃうんだよ』0727UP ( No.6 )
日時: 2013/07/27 18:30
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   六

ミキの性格に問題があることはわたしも中学の頃から薄々と感じていた。

沢も同じだったと思う。わたしがミキについて思うところを話したら、きっと「そうそう。わたしも思ってた!」と言ってくれるだろう。

でも中学生のわたしたちには、「本人の居ないところでそういう話をするのは良くない」という道徳感のようなものがあった。

自分が我慢すればいいことだ。
友達の欠点ぐらい、許してやりたい。
そう思っていた。


しかし中三の終わりになって初めて沢はわたしに不満をぶつけてきた。

原因はミキが同じ塾に通う男の子を好きになったことだ。

勉強を教え合っているとか、いつも一緒に帰るとか、そういう話をミキは自慢げにするのだった。

やっぱりその話にもおかしな点はあった。

ミキが言うには、彼はとてもカッコよくて、頭もよく、県内でも有数の進学校を受験するらしい。
ミキは彼と勉強を教え合っていると言ったが、学校でのミキの成績を考えれば、彼と釣り合っているとは思えなかった。


ある日、ミキが彼とキスしたという話を沢にした。
日曜日に彼の家へ遊びに行き、勉強したりゲームをしたりした後で、キスをしたという。

沢は真顔でミキに問い詰めた。

「それ、日曜の何時頃なの」

ミキは浮かれた顔をしたまま「二時頃」と答えた。

「うちのお母さん、ちょうどその時間に、駅前のパルコでミキを見たって言ってるんだけど。ミキのお母さんも一緒だったって」

そう言われてミキは黙り込んだ。
沢は険悪な顔つきで、さらに問い詰める。

「チューまでする仲だったらさあ、彼の写真とか持ってないの? 今、携帯に入ってない? それか、今度その彼をわたしにも紹介して?」

わたしは背中に汗をかきながら、二人のやり取りを見ていた。


ミキはわたしたちとは違う高校を受験する予定だったから、沢にとっては、中学卒業と同時に離れ離れになってしまうミキの欠点を、最後に直してあげようと、厳しくしたのだろうか。

あるいは、ただ単に、ミキに彼氏ができそうなのが悔しかったのか。妬みの気持ちだったのか。
二人とも恋愛に興味がありながら中学三年間、男子に縁のないひとたちだった。わたしもだけど。


結局、ミキは曖昧な返事をするだけで、答えを聞くことはできなかった。

しかし、そのあとすぐにメールで、わたしにだけ聞かせてくれた。

「彼のことはわたしから振った。やっぱり男はめんどくさい。だから振った」

ミキに男の子を振れるほど器量があるとは思えなかった。

これは「彼とは関係を絶ったから、証拠を見せろとか言われてももう無理」という意味なんじゃないか。
わたしはそうも思ったが、やんわりと返信するしかできなかった。


ミキはどうして、自分の信用をなくすような嘘ばかりつくの。
そんなことして何になるの。

わたしは自分が嘘をつかれる不快感より、ミキのそういう性格が悲しかった。


ところがミキは自分が友達に言った言葉もすぐに忘れてしまう性格なのか、一ヶ月後にはこうも言った。

「高校に入ったら彼氏できるかなあ。わたし、早くキスとか経験してみたいよ」

矛盾だらけで、意味が分からなかった。
わたしはミキのことで悩んでいたのだ。
沢がミキと喧嘩するのを見て心を痛めてもいた。
それなのにミキは自分が言ったことなどすぐ忘れている。


二月になり、ミキは志望校をドタキャンしまくって、わたしや沢と同じ高校を受験した。そして同じクラスになってしまった。


四月が来て、今度は沢の醜い姿を見せつけられる番だった。

『落としたら壊れちゃうんだよ』0730UP ( No.7 )
日時: 2013/07/30 18:20
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   七

入学して間もない頃、五十嵐さんがわたしたちに声をかけてきた。

「わたしも長南さんたちと一緒に帰っていいかな?」

「はあ……。いいですけど」

思わず丁寧語で返していた。

わたしは五十嵐さんのことを、初めて見た瞬間から「綺麗なひとだ」と思っていた。そんなひとに声をかけられるなんて思っていなかった。

五十嵐さんはミキと席が近く、既に何度か喋っていた。だからミキの友達であるわたしや沢にも声をかけてきたのだった。


「ねえねえ、今井君と五十嵐さんって、付き合ってるんだよね」

帰り道をだいぶ歩いたところで、沢が言った。

「まあ、そうだけど」

「いつぐらいから?」

「小六から」

サラッと答える五十嵐さんに、沢は「すげー」と驚嘆する。
五十嵐さんは何の自慢にも思っていないみたいで、嫌味でない笑いを浮かべて謙遜していた。

尊敬の眼差しを惜しまない沢と、不機嫌そうに黙っているミキの顔を覚えている。

彼氏が居るのにイチャイチャしないで、普段もこうして女子と行動している。
五十嵐さんは大人なんだ。その態度だけでなく、実際に大人がするようなことも既に経験済みに違いなかった。

沢に中学時代のことを聞かれた五十嵐さんは、彼氏との話を避けるように、その当時のクラスメイトの話を始めた。

「中学の時、こんな変な友達が居てさ」

五十嵐さんは話すのも上手で、その美貌と頭の良さに加え、ひとを楽しませる能力をも備えていた。
本当はもっと良くできる子と一緒なのが自然だろうに、わたしたちみたいなバカにも馴染んでいた。
高尚から低俗まで、範囲の広いひとなんだろうと思った。


「ダッハハハハ。そのひと、ほんとに面白いね」

五十嵐さんの元友達の失敗談に、沢は腹を抱える。わたしとミキも笑ってしまった。
そのひとも五十嵐さんのおかげで今ここでわたしたちに笑われているなんて夢にも思わないだろう。

「違う高校に進んじゃって、今は会ってないけど。小学校一年からずっと一緒で、わたしも退屈しなかったよ」

沢がまだくすくす笑っているうちに、五十嵐さんが「あいつの代わりが欲しいなぁ」とささやくのが聞こえた。

「あ、信号が点滅してる。ギリギリだよ」

少し前を歩いていたミキが、前方を指でしめす。横断歩道の青信号が点滅していた。

ミキが走り出す。
わたしは、急いでいるわけでもないし、次で渡ればいいと思って走らなかった。
五十嵐さんと沢もミキの走る姿を見送るだけだった。

「危ない!」

一台の軽自動車がスピードも落とさないまま左折してくるのが見え、わたしは叫んでいた。

急ブレーキで車は止まった。
運転席のおばさんが窓を閉めたまま怒りの形相でミキに怒号を浴びせていた。

横断歩道の向こうまで渡ったミキが、はるか後ろに居るわたしたちに気づく。
自分ひとりだけ慌てて信号を渡ってしまい、恥ずかしそうに苦笑いしていた。声は届かない。

わたしは安心して溜息を吐く。心臓が高鳴っていた。

「ミキってさ、ドジだよね」

五十嵐さんが鼻で笑った。一瞬、場の空気が凍りついた気がした。

「そう……だね。ちょっとそういうところあるかも」

沢が遠慮がちに言う。信号はくっきり赤を照らしていた。会話がそこでまた、途切れそうになる。

「脚も細くないのにスカート短くしてさ、見苦しいよ。わたし、スカートこのくらい長いのが自然だよねって隣の子と話してたんだよ。そうしたらミキ、次の日から長くしてきたよ。聞こえてたんだね」

「あー、言われてみれば、ミキ最初はスカートすっごく短くしてた!」

沢が思い出したように同意する。わたしも思い出した。高校デビューにありがちな失敗ってやつだろうか。

「ミキは高校に入ったら彼氏作るって、張り切っててさー」

「やっぱそうなんだ? はっきり言って、男子と話してる時のあの子、傍から見てて『痛い』んだけど」

「あいつ自意識過剰なんだよね。女子高生になったからって誰でも彼氏できるわけじゃないっての」

話しが弾んでくると、わたしの頭は重くなり、鉛を飲まされたように胸のあたりが苦しくなった。


横断歩道の向こうではミキがひとり立ちつくしている。
「みんな、何を話してるんだろう?」というように首をかしげて。

わたしは先行きに対する嫌な予感を抱えつつ、赤信号をじっと見つめていた。


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