複雑・ファジー小説

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*鏡花水月に蝶は舞う* 新章スタート!
日時: 2011/09/04 11:46
名前: 琴月 (ID: 6ux8t0L6)

皆さん初めまして!
琴月と申します。ファジーで書くのは初めてなので頑張っていきたいと思います。

・マイペースで更新
・駄文
・ちょこちょこ修正

よろしくお願いします♪


+・。+・。+・。+・。+・。+・。


ときの頃は泰平の世、江戸時代。
その時代に暁天の兆しがさし始めた頃……

出逢い、別れ、そしてまた出逢う。
儚い幻であっても、きっと叶う願いだから。

ただ、信じてる…………


鏡花水月……鏡に映る可憐な花。水面に揺れる美しい月。それらはどんなに手を伸ばしても捉えることは決してできない。

それは、まるで……——————


+・。+・。+・。+・。+・。+・。

【 暁 編 】  〜儚き幻夢〜

メインテーマ曲 歌詞 >>49

プロローグ      >>1
第一話 千載一隅   >>2 >>3
第二話 天理人道   >>4 >>12 
第三話 聡明剛毅   >>15 >>21 >>22
第四話 直往邁進   >>23 >>24
第五話 鮮美透涼   >>27 >>30
第六話 青天白日   >>31 >>34
第七話 明鏡止水   >>35 >>36 
第八話 真剣勝負   >>39 >>40 
第九話 晴雲秋月   >>41 >>42
エピローグ      >>43

暁&志岐       >>50

【新章】  〜彩る楓花〜

プロローグ      >>47
第一話 胡蝶之夢   >>48 >>51
第二話 雲心月性   >>52 >>53



+・。+・。+・。+・。+・。+・。

☆お客様☆

コーダ様
風(元:秋空様
ふーまさん様
ミロカロス13様
Aerith 様
王翔様
勾菜様

+・。+・。+・。+・。+・。+・。

☆お知らせ☆

・参照が100突破いたしました!ありがとうございます。

・参照が200突破いたしました!これからも更新がんばります。

・無謀ながら、小説大会に参加させていただきました!まだ途中ではありますが、お気に召された方はぜひ、よろしくお願いいたします。

・暁編、完結いたしました!!ありがとうございました!

・夕詠さまに、暁と志岐を描いていただきました!

・返信数50突破!よろしくおねがいします。

Re: *鏡花水月に蝶は舞う* ( No.39 )
日時: 2011/08/07 14:11
名前: 琴月 ◆DUxnh/hEOw (ID: 6ux8t0L6)

第八話 真剣勝負

屋敷の外へ出た志岐と楢葉は、間合いを取って対峙していた。


「————最後の挨拶は済んだか?」
「ああ。楢葉、貴様は俺とあの娘の仇だ」


スッと腰に差した刀を抜く。
これが、自分にできる最後の償いだ。
あのとき守れなかったことの償い。


絶対に、負けない。


志岐は楢葉へ刀を突き出した。



* * *


うっすらと目をあけた暁は、真っ暗な闇の中にいた。

深い、暗い闇。
怖い。鼓動が高鳴って、ひどく寒い。

「っ!!」

はっと後ろを振り返ると、見知った顔の青年が立っていた。

「志岐……?」

名を呼ぶと、志岐は悲しい笑みを浮かべて暁に背を向けて歩きだした。
慌てて追いかけようと足を踏み出す。

志岐、と何度も叫ぶ。
なのに。
彼は振り返ることなく先に進んでいく。

少しずつ小さくなっていく背中。

やがて、志岐の姿は見えなくなっていた————

「どうして……?」

何故、離れていってしまうのだ。
そばにいたいと言っていたではないか。
それとも、その言葉は偽りだったのだろうか。


「————暁」
「志岐っ!?」


背後から自分の名を呼ぶ声がした。
この名を呼ぶのは彼だけだ。

しかし、振り返ってそこにいたのは。

「あ…………」

今まで、誰よりも会いたかった人達。

絶対に会えなくて。
でも会いたくて。
諦められなかった。

その人達はゆっくりと暁へ近づき、抱きしめた。

「会いたかった、暁」
「こんなに大きくなって」

会いたかった。
会いたかったとも。

ずっと願ってここまで来たのだ。




「父様……母様……」



* * *


そんなはずはないと思った。
だって、もう会えないから。

だからひどく動揺して。

言いたいことはたくさんあった。
でも、言葉にできない。
涙と嗚咽しか出てこなくて。


「暁、お前は志岐が大切か?」


肩を父に掴まれて、真剣な表情で問われる。
志岐は、ずっと自分のために傷付いてきて。



「あの子のことを忘れられたら、あなたはきっと今までのことを振り返らず、楽になれる————でも」


母の優しい、暖かな手が頬に添えられる。
なんとなく、志岐の手に似ているなと思った。


「志岐を、あの子を本当の意味で救えるのは暁、あなただけ」
「暁、その名をお前に授けたのは志岐だ。お前はどうしたい?彼を忘れて、一からやり直すか。それとも……」


自分には何ができる。
彼のために、守ってくれた志岐のために。


ああ、そうだ。
まだ、伝えていない。
伝えなければならない言葉があった。


「私は」


彼を忘れる?

それで楽になれるのだろうか。

そうだとしても、私は。


「まだ、終われない」


凛とした声で答える。
すると、二人は満足そうに微笑んでもう一度暁を抱きしめた。


「暁。私達はね、あなたのことをずっと見守っている。どうか忘れないで」
「待っているよ、暁。お前が生きて、俺たちに再び会えるのを」


涙が零れた。

この選択は間違っているのかも知れない。

でも。

どうしても嫌だった。

忘れたくなくて。まだ、そばにいたくて。


「父様!母様!」


すぅっと陽炎のように消えていく。

大丈夫だよ、大丈夫。

闇なんて、もう怖くないから。


行かなくちゃ。
きっと、私のために傷ついてる。
伝えなきゃ。
きっと、待ってるだろうから。


Re: *鏡花水月に蝶は舞う* ( No.40 )
日時: 2011/08/07 15:04
名前: 琴月 ◆DUxnh/hEOw (ID: 6ux8t0L6)

「ぐっ……げほっ……」


志岐の体は限界だった。

少しずつ目の前が霞んで見えなくなってくる。
何度も血を吐いて、ずたずたになって。それでも彼は立ち続けた。
ただ一つの目的のために。

一方楢葉も、少々息が上がっているようだった。
手に握られた数珠も、ひびが入っている。
しかし、先程負った体の痛みもあるせいか、圧倒的に楢葉のほうが勝(まさ)っていた。


「もう終いか?随分辛そうだが」
「黙れ…………!」


必死に刀を振るう。
しかし、楢葉はそれを余裕の表情で簡単に交わしていた。

志岐は血で染められ、真っ赤になっていながらも、引き続き気力で体を支える。
長い時間血を流したせいか、攻撃しながらもふらつき、集中できない。
そして隙ができた所を楢葉は次々と狙ってくる。

それの繰り返しだった。

その気になれば、一発で殺せた所もあったのだ。
しかし彼はそれをしないで、わざと見過ごす。

じっくりと、痛めつけてとどめを刺すつもりなのだろう。



「何故貴様は、あんな娘(むすめ)のためにそこまでする?」


ふと、構えていた刀を下ろして楢葉が尋ねる。
何故そこまであの女の娘が大切なのか、自分には一つも解せなかった。
すると、志岐は当たり前だと言うようにふっと笑みをこぼす。


「誓ったんだ。絶対に幸せにするって。だから、こんな所で死ねないんだよっ!!」


もう、二度とあんなつらい思いはさせないと。
ずっと怖がっていたはずだった。
それに気づかないふりをしながら、彼女は生きてきたのだ。
人の優しさなんて知らずに。
だから。

渾身の力を込めて楢葉に一太刀浴びせる。
手ごたえがあった。
苦痛の声が楢葉から漏れて、後ずさる。
彼の表情がじわじわと怒りのそれに変わり、見れば楢葉の左腕から血が滴っていた。


「小僧ごときが、戯けたことを……!!」


思わず目を瞠(みは)る。
彼から殺気が先程と比べ物にならないほど発せられた。

手にぐっと力を込めて、構え直す。
冷や汗が伝った。

刹那————



「志岐!!」



絶対に、もう聞くことの無いと思っていた声が、名を呼んだ。


「暁!?…………っ!」


嘘だ。
あのとき自分は確かに術を掛けた。
あれは、己の意思では解けないものだったのに。

まさか、それを自力で解いてくるなんて。

驚愕して意識を暁に向けた矢先、楢葉からの攻撃が飛んでくる。

交わしきれずに、その刃は肩を掠めた。


「これで終わりだ」


はっと息をのんだときはもう遅かった。

楢葉の刀が志岐の胸を貫く————


「ぁ……がはっ」


肉を絶った音が鮮明に聞こえて残る。
次の瞬間、強烈な痛みが全身を駆け抜けた。

暁の瞳が凍りつく。

どさりと崩れ落ちた志岐は、刀を持ったままの手を放り出されて、瞼も力なく閉じられていた。


「志岐!?」


暁は、もつれる足で志岐のもとまで走った。
触れると、手はすっかり冷たくなっている。
顔色もまるで死人のようだった。

まだ息はあるものの、このまま逝ってしまうのは時間の問題だ。
信じられない、という表情で志岐の手をとる。


「親方……、なんで!?」


ばっと楢葉を見上げると、彼はニヤリと嗤った。


「さあなぁ。わしには、こ奴の考えることが理解できぬ」


暁の顔が、次第に険を帯びる。
殺気が芽生えて、彼女の鋭い眼光が増した。

————人殺しなんてしてほしくない。

志岐の声が、頭の中で木霊する。
怒りが止められない。

すばやく懐刀を取り出すと、楢葉めがけて横薙ぎに払う。
しかし彼は、それをいとも簡単に受け止めると、刀を暁の手から弾いてしまった。


「っ!」
「お前も、小僧のもとに送ってやる」


楢葉の刀が暁めがけて振り下ろされた————



* * *


「!?」

グサッと耳ざわりな音が響く。

暁は目をこれ以上ないほど大きく開き、震わせた。


「ぐ……!?」


楢葉の刀が、手から滑り落ちる。

そして。

彼の左胸に深く刺さる、一振りの刀。
何が起こったのか分からないまま、楢葉は己の胸元を見た。


「志……岐……」


暁の無意識に呟いた声が、金色の風にかき消される。

楢葉が、前のめりに倒れた。



暁を守るようにして立つ青年は、彼女を闇から救ってくれた人。


「大、丈夫か、暁……」


金色の風を纏った、志岐。

致命傷を負って、立つくとさえできないはずだ。

なのに彼は。

いつもの微笑みを返して、暁の胸に倒れこんだ。





Re: *鏡花水月に蝶は舞う* ( No.41 )
日時: 2011/08/09 15:29
名前: 琴月 ◆DUxnh/hEOw (ID: 6ux8t0L6)

第九話 晴雲秋月


「暁……」
「うん」


ぽたぽた、と赤い雫が腹部を押さえた手の間から滴る。

楢葉との勝負で、志岐は致命傷を負いながらも志を貫き通し、結果楢葉は命を落とした。

終わったのだ。

これで。


念のため、此処から離れよう。
顔色を蒼白にしながら、志岐は言った。

立ち上がることさえ困難な彼は、暁の肩を借りながら、雑木林へと入った。ここなら、追っ手が来ても見つからない。

空を仰げば、満月が辺りを照らし、ゆっくりと雲が流れていった。


志岐は暁の肩から離れ、草の上に横たわった。


「大丈夫……?」
「へい、き」


気遣う暁に、痛みをこらえながら微笑んでみせる。

大丈夫だというように。


————嘘つき


こんな怪我を負って、大丈夫なはずない。

心の中で、そっと呟く。


「ねえ、志岐……?」
「ん?」
「父様と母様に会ったよ」
「っ!」


優しく、抱きしめてくれた。
そっと背中を押してくれた。

驚愕して暁を見つめる志岐は、そっかと目を閉じた。

なんだか、眠いなぁ。

ふいにそんなことを考える。


「志岐……!?」


目を瞑る志岐に、慌てて声を掛ける。

そして、悟った。


————ああ、時間がない


時が。

また自分は失ってしまうのだろうか。

大切な人を。また。


「暁……、あのな」
「っ……」


涙が溢れてくる。

こうして話ができるのも、最後だ。

返事をしたいのに。

答えたいのに。

出てくるのは涙ばかり。



「俺、は……お前に会えてよかった、よ」


こくこく、と頷く暁。
手で顔を覆って、必死に嗚咽を我慢している。

志岐は、そっと手をのばしてその手に重ねた。

暖かい。

初めて会ったとき、あんなに冷たかったのに。


「ごめんな」
「志岐……し、き……!」


まだこうして触れていたい。
そばにいてほしい。


「やだ、やだよ……ねえ、ここにいて。離れたくないよ。お願いだから逝かないで!」


まだ、もう少し。

けれど

少しずつ、確実に志岐の手は冷たくなっていく。


「泣く、な。頼むから……」


どうか。

泣くと、どうしたらいいか分からない。

頼むから。


「お前は、幸せに……きっと……俺の、ぶんまで」


—————生きろ


ここで、自らの命を絶てば、あの世で志岐に会えるかもしれない。
父や母に会えるかもしれない。
怖いことも、傷つくことも、ない。

その願いは、あまりにも辛くて。
あまりにも残酷で。



伝えないと。

彼が眠ってしまう前に。


「志岐……」
「うん?」


今まで、守ってくれて。そばにいてくれて。





「ありがとう」





そっと微笑む。

彼がいつもそうしてくれたように。

志岐は目を見開いた。


ああ、初めて。

この娘は初めて笑ってくれた。

その笑顔はまるで、天女のように穏やかで、美しくて。


辺りが暗い。音も耳に入ってこない。

なのに。


この声だけはしっかりと聞こえた。


「あか、つき……」


それならば、自分も。

最後に、伝えなければ。



————俺は志岐だ。お前、名前は?

————……無い



あんなに暗かった瞳が、今は。

暁、という名がもたらしてくれた奇跡。




「          」





Re: *鏡花水月に蝶は舞う* ( No.42 )
日時: 2011/08/09 16:45
名前: 琴月 ◆DUxnh/hEOw (ID: 6ux8t0L6)

ぱたり、と志岐の手が落ちる。

ハッと大きく目を見開く。

彼は笑っていた。

幸せそうに微笑んで。


「志岐……!?いやっ!目を開けて……や、やだ、志岐!!」


何度呼びかけても、返事は返らない。

ただ、すやすやと眠るように。


どうして。


私を置いて逝ってしまうのだ。



————ちりん……



志岐の懐から、小さな鈴が転げ落ちた。

持っていてくれたのか。



ぎゅっと彼の手を握る。

あんなに暖かかった手が。


「なん、で……志岐……志岐……!!」


—————どうした?


あの優しかった声は。

もう、聞けない。

あの優しい手には。

もう、届かない。



「っ—————!!!」



泣いた。

声にならないこえで。

呼んだ。

彼の名前を。



さようならを、言えずに。


お願いだから。
あと一度でいい。




私の名を———————




















* * *


「……ちゃん……お姉ちゃん!」
「っ!!……どうしたの?」


まだ幼い女の子が私のところに寄ってくる。


「ねえねえ!遊んで!」


きゃっきゃとはしゃぐ子供達は、皆輝くような笑みであちこち走り回っている。
いつもなら、いいよと共に遊んであげるのだが、今日はできない。

行かなければならない場所があるから。


「ごめんね。お姉ちゃん、これから用事があるの」
「え——!!」
「どこいくの?」
「連れてって!」


思わず苦笑してしまう。
まったく。
子供はいつも無邪気で、こちらの苦労も知ってほしい。


「う〜ん……ごめんね、それはできないわ。また、今度遊んであげる」
「もう……じゃ、また今度ね!」
「約束だよ!」
「はいはい、またね」


ひらひらと手を振って子供達とお別れする。

さて、と。



あの人は、今どうしているのだろう。

私のことを、彼は忘れないでいてくれているだろうか。



半刻ほど、歩き続ける。
途中で、ちいさい花をいくつか手折って。
たくさんの桜が咲き誇って、甘い香りに包まれる。


「ただいま……」


目の前にある土饅頭にそっと花を手向ける。

ここに眠る、愛しい人。


「父様、母様、————志岐」


帰ってきた。彼のもとへ。

志岐のもとへ。

目を閉じて、手を合わせる。


あれから、三年がたった春。
すっかり桜も咲き誇って、軽やかな風が吹きぬける。



私は、幸せだよ。
あなたに出会って。

ちゃんと笑えているでしょう?

あなたのように。

やっぱり、あなたが隣にいないと寂しいです。

でも、私は生きています。あなたの分も。

だからもう少し待っていて。

そうしたら必ずあなたのそばにいさせてくださいね。


はらり、と桜の花びらと共に涙が頬を伝う。
もう泣かないって決めたのに。
どうしても、こうやって彼のことを思い出すと、止められないのだ。

もう、この涙をぬぐってくれる人はいないのだと。



—————暁……


ふいに、彼の声が風に乗って響いた。
驚いて振り返ると、そこにいたのは。


「志岐……!!」


誰よりも、愛おしい人。

彼はゆっくりと、暁に踏みよった。



「会いたかった……!」
「うん。俺も————」



二人は、深く抱き合う。

その影は、桜吹雪の中で幸せそうに手と手を合わせた—————




Re: *鏡花水月に蝶は舞う* ( No.43 )
日時: 2011/08/09 16:22
名前: 琴月 ◆DUxnh/hEOw (ID: 6ux8t0L6)

エピローグ


桜の花びらが舞い上がる。


もういない彼に出会うことができたのは。


どうしてだかは分からない。


けれど。



「暁……」


その名を呼ぶあなたの声が愛おしくて。


ずっと願っていたことがある。


でも、それが叶うことは無いのだろうと。


それを、あなたは。




あなたが最後に言った言葉。


私も、同じ気持ちだよ。




私も————

俺も————




「  あいしてる  」



                                【完】


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