複雑・ファジー小説
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- 倉田兄妹
- 日時: 2011/09/20 20:27
- 名前: 中野 (ID: YcGoCaZX)
初めて小説を投稿します、中野という者です。
未熟な文章の表現力、初めてのミステリー小説ですが、
温かく目を通して頂けると嬉しいです。
この作品には過激ではないですが、グロ表現(死体、血など)があり、
そのような表現が苦手な方には読まれることを、お勧めできません。
尚、この作品に出てくる住所、人物等はフィクションです。
以上をご理解頂いた上で、よろしくお願いします。
:あらすじ
ローテンションな双子の高校生、妹のハズサと兄のアズサ。
2人は、登校中に死体を発見し、第一目撃者となる。
事件の捜査は困難する中、双子は言い出す。
「「犯人が分かりました」」
果たして、2人は事件を解決できるのか?
——無気力な双子が繰り広げる、ミステリー小説。
- 倉田兄妹 ( No.30 )
- 日時: 2011/11/12 13:38
- 名前: 中野 (ID: aza868x/)
28:再び戻る
及川は上司から言い渡された言葉を、頭の中で延々と繰り返していた。
ヤニ臭い上司は顔色も悪いが、愛想も悪い。
素っ気ない声で「瀬羽川の事件の犯人はこいつだ、さっさと事情聴取してこい」と言った。
俺は深くため息をついた。
事情聴取をした奴が、あまりにも都合がいい犯人像だからだ。
まず事件前日は仕事先の同僚と酒を飲んでいたらしい。
これは店からの確認で証言される。だが、問題はそこからだ。
相良和成は早朝近くに帰る時に、江原啓介と揉め事を起こした。
しかも瀬羽川付近の橋にて、だ。
その現場を目撃したのは通行人で、「目つきの悪い人が、相手の胸ぐらを掴んでいた」と
証言している。目つきの悪いのは江原だ。
しかし、当の本人の相良は酔っており、その事を覚えていない。
相良は目が覚めたら、自身が住むアパートの前にいたと言っている。
大家さんが見つけたら嘘ではない。
だが、実はそのアパートは何と江原も住んでいたアパートだった。
しかも江原の部屋から二つ隣りの部屋に相良は住んでいる。
疑われてもしょうがない、最悪なオチである。
「記憶が飛ぶくらい飲むとか、何年前だろうなあ」
及川の呟きに、前の机越しから橘が声をかける。
「及川さんも、酔いつぶれたりしたんですか?」
「青二才の野郎ならしたくなる事だ」
「へえ、僕は無理ですけどねえ」
「酒が飲めないのか?」
「ビール缶一つで酔います」
「下戸そうだしなあ、お前。酒とか煙草と無縁そうだ」
橘は少し照れくさいような、困った表情を浮かべる。
穏やかな雰囲気に、よく似合う顔だ。
保育士とかの方が似合うのに、何でこいつは刑事をやっているんだろう。
人の事情はそれぞれだから、聞くまでもないか。
「僕も酔いつぶれてみたいですね、一度くらいは」
「やめとけ、記憶が飛んでる間に何かやらかしたりするから」
「及川さんに付き添ってもらいます」
「むさ苦しいだけだ、橘」
まあ、でもいつかはな。と答えた。
- Re: 倉田兄妹 ( No.31 )
- 日時: 2011/11/12 14:45
- 名前: 消防隊員になりたかった (ID: blFCHlg4)
更新されていて興奮!面白く読ませてもらいました。満足!
小さな会話のあたりですけど、テンポを良くさせるために台詞と台詞の間をときには縮めてみるのも効果的です。
ここから→
「及川さんも、酔いつぶれたりしたんですか?」
「青二才の野郎ならしたくなる事だ」
「へえ、僕は無理ですけどねえ」
「酒が飲めないのか?」
「ビール缶一つで酔います」
「下戸そうだしなあ、お前。酒とか煙草と無縁そうだ」
←ここまで
あるいは、地の文(左手としましょうか)と会話文(右手としましょう)をなるべく融和させるかんじ(左手と右手の指を交差させる)にするのも効果的です。
ここから→
「酒が飲めないのか?」「ビール缶一つで酔います」
橘は少し照れくさいような、困った表情を浮かべる。
穏やかな雰囲気に、よく似合う顔だ。
「下戸そうだしなあ、お前。酒だけじゃなく煙草も無縁そうだ」
彼の仕草を見ているといちいち優しい保育士が似合いそうだと思ってしまう。何でこいつは好きこのんで刑事をやっているんだろう——まあ人の事情はそれぞれだから、聞くまでもないが。
←ここまで
例えばの話です。例えばの話なので、主様の面白さをもっとひきたたせるせるには——というところから、僕が勝手に思った書かせてもらっただけなので、鵜呑みにはしないで主様らしさを大切に。
- 倉田兄妹 ( No.32 )
- 日時: 2011/11/16 20:42
- 名前: 中野 (ID: aza868x/)
消防隊員になりたかった様>
なるほど、テンポというのも大事なのですね!
話の流れや、読みやすさばかり重視していました…(苦笑)
今まで意識してなかったので、アドバイスを参考にさせてもらいます^^
分かりやすい、丁寧なアドバイスをありがとうございました。
- 倉田兄妹 ( No.33 )
- 日時: 2011/11/16 21:36
- 名前: 中野 (ID: aza868x/)
29:狭い
「あ、」
「あ?」
及川と橘が部屋を出ると、ドアの外にいた三人の高校生と居合わせた。
反射的に「どうも」と頭を下げる橘を尻目に、及川は引きつった笑みを浮かべる。
「どうして倉田さん達がここに居るんだ」
「及川さん、橘さんお久しぶりですねえー」とアズサが愛想の良い笑みを浮かべた。何ともわざとらしい表情である。
「少し痩せたんじゃないですかー?」
ハズサの言葉に、及川はまあねえ、と相変わらずの頼りない顔をした。
目の下の隈が情けなさを余計に引き立てていた。
「会話が噛み合ってないぞ、おい」
及川はため息をつく。
及川の目の下にも、濃い熊が染み込んだように存在している。
「いいじゃないですかあ、世間らしい挨拶ぐらい」
「・・・お前らに世間を語られるとは思ってもみなかった」
「俺たち、相良和成さんを助けたいんです」
唐突なアズサの発言に、及川と橘は一瞬たじろいだ。
そして、先ほどから無言の男子学生を見る。時折こちらを見てくるが、気まずそうに目をあわせようとしない。
容疑者と疑われている相良和成の弟だ。そういや、倉田兄妹と同い年だったか。
相良和成の実家にも念のために、と事情聴取をしに訪ねた。
事の成り行きを話すと「兄貴がそんなことするわけない、おかしいだろ、なあ!」と荒げた声を張り上げたのを覚えている。
だが経験を積んできた及川は動揺を見せずに、口を開いた。「何で助けたいんだ?」
ハズサ達には、「お前らに助けれるのか?」と言っているようにも聞こえた。
「和成さんは私たちの大切な人です」
「殺人者じゃないって信じてるから、だから」
アズサが相良の背中をとん、と軽く叩く。相良は顔を上げてアズサを見た。
「俺たちで」
「私たちで」
ハズサとアズサも考え、答えが決まったのは同じタイミングだった。
そして導きだした答えも、同じだ。
「この事件の犯人を見つけ出します」二人の声が綺麗に調和する。
呆気に取られる及川と橘の背後に存在する、相良和成の部屋の開きっぱなしのドアが風で閉まった。
ばたん。それは倉田兄妹の事件解決へのピースが1つ集まった合図かもしれない。
- 倉田兄妹 ( No.34 )
- 日時: 2011/11/20 21:15
- 名前: 中野 (ID: aza868x/)
30:お腹
コンビニで買ったパンを片手に仕事をする。
それが斉藤のいつもの昼食の仕方だった。左手でパソコンのキーを打ちながら、右手でパンを口元に持っていく。のどが渇いたら紙パックの野菜ジュースに持ち替える。
「見つからないなあ」思わず口から呟きがこぼれた。前の机に座る上司がちらりとこちらを見てきたが、何も言ってこない。
この職場では、独り言や話し声が多く、わざわざ呟きに反応しないのは当然だ。
他人が気にしないなら自分も気にしない。
だから斉藤は、調べものを続ける。
江原啓介の、腹部からの出血の謎についてだ。
警察が司法解剖を行った結果、小さな注射の痕が腹部に残っていたらしい。
他に腹部に怪我がないことから、注射針で腹部出血したことになる。
何でわざわざ面倒な殺し方をしたんだろうな、犯人は。よく分からん。
まあ、だからこそ僕らの仕事のやりがいがあるんだけどさ。
パンを机に置き、一息つく。
「斉藤ーこの間の件のことだけどよー、良いネタ入ったぞー」
やたらと語尾を伸ばす喋り方の先輩は、顔が二枚目な三十路男だ。
その容貌を活用し、女性議員や重役の女性に情報を引き出すのが上手い。たまにバイやホモからも聞き出すから幅広い情報通だ。
「毒薬と注射器セットを買った購入者のリストを手に入れてさあ、
こいつって被害者じゃなかったっけー」先輩が示した指先を見る。意外な名前があった。
「・・江原啓介だ」フリガナ表記で、エハラケイスケとご丁寧に表記してある。
「被害者が毒薬買うとか面白い話だよなー」先輩は口元に笑みを浮かべる。女性が見たらうっとりしていることだろう。あるいは堕ちているかも。
見た目が良いのは得するよなあ、本当に。
「もしかして、その毒薬を使われて殺されたとか?」
「警察は毒薬と注射器を見つけてないらしいよー、捜査は困難してるってさー」
間延びした喋り方は緊張感が全くない。
職場が男臭いので、毛嫌いする同僚や上司も多い。先ほどから前の机から視線が険しい。
男のひがみ程、醜いものはないよなあ。
「斉藤、昼飯行かないかー」
「今食ってた所なんですけれど。パンと野菜ジュースで」
「知り合いから割引もらったんだよーラーメン」どう?と聞いてくる先輩。
パンはまだ三分の一ぐらいしか食べてない。残して夕飯にまわすのもアリだ。
それに、割引されたパンよりラーメンの方がよっぽど美味しそうだ。
「行きますよ、喜んで。
今度はラーメン屋の店長とでも知り合ったんですか?」冗談で言ってみる。
先輩は余裕のある笑みを見せると「まあねー」と答えた。
冗談が、冗談にならない男である。
江原啓介の毒薬と注射器購入の情報を、ハズサちゃんに送っておかないとなあ。
”ハズサちゃん メール”とメモ書きしておく。先輩がそれを見て目を細める。
「斉藤ーついに彼女かあ?」
「違いますよ」と即座に答える。相手が女子高生とか犯罪になるじゃないか。