複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 倉田兄妹
- 日時: 2011/09/20 20:27
- 名前: 中野 (ID: YcGoCaZX)
初めて小説を投稿します、中野という者です。
未熟な文章の表現力、初めてのミステリー小説ですが、
温かく目を通して頂けると嬉しいです。
この作品には過激ではないですが、グロ表現(死体、血など)があり、
そのような表現が苦手な方には読まれることを、お勧めできません。
尚、この作品に出てくる住所、人物等はフィクションです。
以上をご理解頂いた上で、よろしくお願いします。
:あらすじ
ローテンションな双子の高校生、妹のハズサと兄のアズサ。
2人は、登校中に死体を発見し、第一目撃者となる。
事件の捜査は困難する中、双子は言い出す。
「「犯人が分かりました」」
果たして、2人は事件を解決できるのか?
——無気力な双子が繰り広げる、ミステリー小説。
- 倉田兄妹 ( No.25 )
- 日時: 2011/10/14 21:06
- 名前: 中野 (ID: VqN13fLi)
23:探し物
「後は倉田さん達で、自由に探してくれ。
家具を触ったりしてもいいけど、動かしたら元の場所に戻しておいてちょうだいね」
鍵を手渡されたアズサは頷く。
「はい、分かりました」
「調べ終わったら鍵をかけて返しておくれ、私は掃除をしているから」
「部屋を見せて頂き、ありがとうございます」
「お礼はいいよ」
大家さんは、にっこりと微笑むと背を向ける。
元来た道を歩いていく姿を眺めて、アズサとハズサは部屋に向き直る。
足を踏み入れると、ミシ、と床が軋む音を立てた。
奥へと入っていくと、畳の匂いが鼻に立ちこめる。
「タンスに、テーブル、クッション、冷蔵庫、工具箱、作業着。
布団は押し入れの中か」
ハズサが台所の下の収納入れを覗くと、小さなフライパンと鍋、おたまや菜箸しかない。
一人暮らしの男は、調理器具を必要としないのかな。
屈んでいた腰を上げ、シンクを見る。
汚れは目立たなく、さほど使われていなかったようだ。
「引き出しの中は、一段目に筆記用具と、判子、通帳。封筒・・・現金か。
二段目は常備薬、うわ期限切れてるよ頭痛薬。
三段目に衣類と下着か」
アズサがタンスの引き出しを開けて確認していく。
その声を聞きながら、ハズサは冷蔵庫を開けた。
ペットボトルの水2本と缶ビール3つ、冷凍やレトルト食品ばかりだ。
「わりとズボラな人だね、江原さん」
「確かに大雑把だな、部屋にある家具も最低限って感じ」
「仕事から帰ってきて、寝るだけだったのかもね」
ハズサは台所と隣接するリビングスペースに踏み入る。
だが、何かが足の指先に引っかかり、くんっと身体が前へ傾く。
「わ、足が」
ぽすっ、とアズサがハズサを受け止める。
ハズサの足が、クッションを踏んだから転ぶ衝撃は和らいだ。
どうやら、配線コードにひっかかったらしい。
「大丈夫?ハズサ」
「ありがと、アズサ。
・・・何か足の裏がぐにぐにして変」
「変?」
足をどかし、クッションを持ち上げる。
違和感のあった所を触ると、何か固い感触があった。
二人は同時に顔を見合わせ、首を傾げる。
無言でハズサはクッションカバーのファスナーを下げる。
そして、手をカバーの下に潜らせると何かにあたった。
ビニール袋のような、かさこそとした音が鳴る。
「袋に入ってる、小さい瓶?何だろ」
ハズサがそれを取り出すと、二人の目に露になった。
透明な小さなビニール袋の中に、不思議な色合いの液体が詰まった瓶が入っている。
「・・・へそくりって液体になる?」
「無理だね」
- 倉田兄妹 ( No.26 )
- 日時: 2011/10/15 15:18
- 名前: 中野 (ID: VqN13fLi)
24:液体
「部屋を見せて頂き、ありがとうございました」
「おや、もういいのかね」
鍵を返しにくると、大家さんは箒を掃く手を止めた。
足元には集められた落ち葉が小さく山になっている。
秋になったのか、と実感させられた。
「ええ、協力してもらい助かりました」
「人助けになる程でもないだろう」
「俺らは助かりました」
「倉田さん達に犯人が見つかるよう、祈ってるよ」
「ありがとうございます」
からかうような笑みを浮かべる大家さんの言葉は、冗談とも本気とも取れた。
二人は微笑を返し、老人に鍵を手渡す。
アパートを後にして、二人は自宅へと帰り道を歩く。
瀬羽川沿いの道は、相変わらずひっそりと誰かが隠れている様な雰囲気がある。
途中、スポーツウェアに身を包んだ40代くらいの男性とすれ違った。
だが、それっきり誰ともすれ違わなかった。
「もう、前と同じようになっているね」
「確かに白いテープとかもなくなってる」
死体のあった現場は、もう前と同じで、まるで何事もなかったかのようだ。
殺人事件のことさえなかったみたいだな。
「この液体、何だろう。薬品っぽい匂いするけど・・消毒液みたいな」
「でも匂いきついよ、サインペンの匂いに似て気持ち悪くなるっていうか」
ハズサは鼻と口を手で覆い、顔をしかめる。
つん、とした匂いがハズサは苦手だ。
特に、サインペン独特の匂いが嫌いで、サインペンを使う時は少し顔を離す。
「でも、消毒液ってこんな色してる?」
「してないねえ。もしかしたら」
そこでハズサは言葉を区切り、無言になった。
足を止め、立ち止まる。
アズサが不思議そうにハズサを見つめ、声をかける。
「もしかしたら?」
「毒、だったりして」
「え」
ハズサの顔は真剣で、冗談を言ってるつもりはないようだ。
それに、アズサも同じことを考えていたから否定はしなかった。
「江原さんが毒を持っていたとして、何をするつもりだったんだろ」
「・・・さあな」
アズサは自分が持っている瓶を見る。ハズサも同じように見る。
瓶に半分くらいまでの液体が入っている。
果たして、この液体は江原さんにどう繋がるのだろうか。
二人に、妙な沈黙が流れた。
- 倉田兄妹 ( No.27 )
- 日時: 2011/10/16 21:19
- 名前: 中野 (ID: AWGr/BY9)
25:電話越し
謎の液体を持ち帰った翌日の昼休み。
いつものように、ハズサと相良で昼飯を食べていた時だった。
ふいに、携帯が鳴りだした。
「電話だ、誰からだろ」
着信音からして電話だと気づく。
ポケットから取り出していると、ハズサがパンをかじりながら目を瞬かせた。
誰から?と聞いているみたいだ。
「あ、斉藤さんからだ」
「斉藤さんって誰?」
「女じゃないから安心しろ、相良」
つまんね、と呟く相良を無視して通話ボタンを押す。
携帯を耳にあてると、口を開く。
「はい、倉田です」
「今、昼休みだから話しても大丈夫だよね?」
「・・・何で斉藤さんが、俺の学校の昼休みを知っているんですか」
「僕が情報通だからかな」
あはは、と楽しそうな笑い声が電話越しに聞こえる。
他にも、電話や誰かの話し声、キーボードを打つ音も聞こえた。
斉藤さんの職場だろうか。
「納得して何も言えません。
ところで、何のご用件で電話を?」
「警察は、ある男を犯人だと疑っているみたいだよ」
「犯人?」
その単語に、思わず声に力が入った。
相良に斉藤さんについて、質問攻めされていたハズサがこっちを見た。
じっと見つめてくる表情は、ハズサが興味を持った証拠だ。
俺は手で後で説明するから、と手をひらひらと振る。
「そ、江原啓介を殺した犯人」
「っ、分かったんですか?」
「警察は、その人を犯人だと確定しているだろうね。
江原啓介を憎んでいた理由もあったから、殺す動機にあてはまる。
しかも、事件前日の深夜まで飲んでいたらしく、
翌日、えーと事件当日の朝の事を覚えていないという条件揃いだ」
「犯人じゃない気がしますね、その人」
「僕もそう見込んでいるから、まだネタの保留中なんだ」
電話の向こうから、斉藤ーと呼ばれる声が聞こえた。
野太い年配の声は、上司だろうか。
斉藤は電話を少し離し、すみません、少し待ってくださいと答える。
再び、電話を耳に近づけた。
「ちなみにその人の情報って」
「ハズサちゃんのパソコンにメールしといたから、ご安心を」
「相変わらず早いですね仕事が」
「じゃ、僕はそろそろ別の取材があるから失礼するよ」
「情報ありがとうございました、斉藤さん」
電話を切り、携帯を制服のポケットに入れる。
顔を上げるとハズサと相良が興味新々でこちらを見ていた。
- 倉田兄妹 ( No.28 )
- 日時: 2011/10/21 21:41
- 名前: 中野 (ID: FTllNaqS)
26:衝撃
「相良はだめ、ハズサはいいけど」
「けーち、いいじゃん別に。減るもんでもないだろ?」
相良は口をとがらせ、ふて腐れた表情を顔に浮かべた。
うわ何だか腹の立つ顔だと思ったが、殴るのはぐっと堪える。
代わりに呆れたような声を出す。
「相良に話したら減るんだよ」
「俺だけとか、おかしいだろ」
「それより斉藤さん何て?」
さすが俺の片割れである。
相良を「それより」でさっくりと片付け、素知らぬ顔をしている。
上手い具合の切り返しに、相良も何も言えない様だ。
「事件についての新しい情報についてメール送っといたってさ。
相変わらず仕事が早いよな」
「さすが斉藤さん」
「なに?斉藤さんってマスコミ関係?」
「あ、及川さんと橘さんは今頃どうしてるんだろ」
「さあな。橘さんは吐いているんじゃないかな」
「お前ら、俺の事邪魔だと思ってるだろ、ぜってー」
紙パックのジュースのストローをかじる相良は、見る人に犬を想像させる。
飼い主に構ってもらえなくて、リードの縄をかじっている犬みたいだ。
ハズサは、わざときょとんとした顔をする。
数回瞬きをした後に、不思議そうに首を傾げた。
もちろん演技だ。
「え、今更気づいた?」
「泣くぞ、つか今更ってなんだよ今更って!」
ストローから口を離し、吠えるように叫ぶ相良。
周りのクラスメイト達がその声に反応するが、
こちらを見て「あぁまたか」と納得した表情を浮かべる。
相良が、からかわれるのはクラスの定番になっているからだ。
「やだー相良泣かないで」
「男なら泣くなよー」
「棒読みで言われるのが一番傷つくって知ってるか?」
「ははっ」
「ははっ」
抑揚のない笑い声に、相良はうなだれるしかなかった。
自宅に戻ると、さっそくハズサの部屋に向かう。
パソコンのメールボックスを見ると、受信ボックスに一件メールが届いていた。
アドレスも、斉藤さんからのもので間違いない。
メールを開く際、カチカチッと無機質な音が響く。
その音は合図だったかもしれない。
何処にあてはまるか分からない、新たなパズルのピースが出てきた合図。
「えーと、警察はこの男を疑っているみたい。・・・う、そ」
斉藤さんのメールを読み上げるハズサの声が徐々に消え入り、言葉が止まった。
俺も目で文字を読んでいくが、ハズサと同じ所で止まる。
そこに並べられた文字に愕然とした。
相良和成、24歳、職業は飲食関係。
「・・・相良和成って、相良の兄貴だ」
中学からの付き合いの相良だが、よく家に遊びに行っていた。
当時三人とも対戦ゲームが好きで、学校帰りに相良家でゲームをするのが日課だった。
家にゲーム機がない倉田家はよく相良家に入り浸ることに。
まあ、相良が負けず嫌いだった理由もあるが。
そこに、帰りの早いときだけ和成さんも加わり、対戦をしてもらっていたのだ。
和成さんは爽やかな雰囲気と裏腹に、とんでもない策士だったな。
ハズサには「女の子だから」と優しかったが、男には容赦なかった。
懐かしい思い出の人物と、目の前の情報の人物が一致しない。
いや、一致したくない。
「あの、和成さんがどうして?」
ハズサが画面をじっと見ながら呟く。
俺に聞いているというよりは、和成さんに聞いているようだった。
聞けるなら、聞きたいよ俺も。
相良より大人びた顔立ちで、短髪が似合っている和成さんの姿が思い浮かぶ。
なぜ、疑われる必要があるのかも見当さえつかなかった。
- 倉田兄妹 ( No.29 )
- 日時: 2011/11/11 17:44
- 名前: 中野 (ID: fZsaSKPw)
27:困惑
「相良は、和成さんが疑われていること知っているのかな」
パソコン画面の前で、ハズサが不安そうに呟く。
じっとメールの文章を見ながら「どうだろう」とアズサが返事をする。
「そういえば和成さんは一人暮らしだって、相良が言ってた」
「へえ一人暮らししていたんだ」
「でも、和成さんの家だけじゃなくて、やっぱり実家の方にも行くと思うよ。
相良の家族も警察から事情聴取されたんじゃない?」
「・・家族が容疑者として疑われてるなんて、嫌だな」
「俺も嫌だよ」
二人の間に重い沈黙が流れた。どうして和成さんが疑われているのだろう。
職場も違うし、年齢も違う。同じ学校の出身なんだろうか、それは違うようだ。
斉藤さんの情報には、丁寧に出身校まで調べ上げていた。
「和成さんは、人を殺さない」
「私も、そう思う。・・ううん」
ハズサはそっと目を伏せがちにして、画面から目を逸らす。
目を伏せるのは、真剣に考えている時のハズサの癖だ。
顔を上げ、「殺さない人だって信じてる」とアズサに確かめるように言った。
「和成さんに対する俺らの先入観、ってのもある。
だけど、俺もハズサと同じだ。和成さんは人を殺すような人じゃないって信じてる。」
「だったら、でも・・・どうすれば」
「そんなの簡単だろ」
座っていた椅子から立ち上がり、ハズサの頭をぽんぽんと軽く撫でる。
俺たちが泣いている時、寂しい時、不安な時。昔、母さんが俺たちにやってくれた、おまじないだ。
「和成さんが犯人じゃない事実を見つければいい」