複雑・ファジー小説

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倉田兄妹
日時: 2011/09/20 20:27
名前: 中野 (ID: YcGoCaZX)

初めて小説を投稿します、中野という者です。

未熟な文章の表現力、初めてのミステリー小説ですが、
温かく目を通して頂けると嬉しいです。

この作品には過激ではないですが、グロ表現(死体、血など)があり、
そのような表現が苦手な方には読まれることを、お勧めできません。

尚、この作品に出てくる住所、人物等はフィクションです。


以上をご理解頂いた上で、よろしくお願いします。


:あらすじ

ローテンションな双子の高校生、妹のハズサと兄のアズサ。
2人は、登校中に死体を発見し、第一目撃者となる。
事件の捜査は困難する中、双子は言い出す。

「「犯人が分かりました」」

果たして、2人は事件を解決できるのか?
——無気力な双子が繰り広げる、ミステリー小説。



倉田兄妹 ( No.10 )
日時: 2011/09/24 22:09
名前: 中野 (ID: xhJ6l4BS)


10:意外だな


倉田家のリビングに通されると、少女はソファを促した。

「どうぞ、おかけになって下さい。
 お茶を入れてきますので」

「わざわざすまない、聞くだけなのに」

「構いませんよ、私たち事件って大好きなんです」

きらり、と少女の目が煌めく。

「はあ、」

及川の口から、思わず間抜けな声がこぼれた。
ハズサは台所に立つと、お茶を用意し始める。

とたとた、と階段を降りる足音が聞こえてきた。
降りてきた人物が、リビングのドアを開けた。

「・・あれ、及川さんだーこんにちは」

ハズサの兄、アズサがリビングにやってきた。

「お邪魔してるよ、倉田さん」

「アズサでいいですよ、ややこしいですし」

「じゃあ、アズサくんか」

「及川刑事が言うと、違和感がありますね・・」

「喧嘩売ってんのか、アズサくん」

「いえ、とんでもない」

アズサが向かい側のソファに座る頃には、ハズサは3人分のお茶を運んできた。
お盆からコップをおろすと、各自の手前にコップを置く。

「じゃあ私はハズサちゃんになるんですか」

ハズサはアズサの隣に座ると、口を開いた。

「ちゃん付け・・」

「ねぇ」

「なぁ」

2人は見合わせて頷く。

「及川刑事には呼び捨てが似合いますよ」

「似合うか似合わないかの問題じゃない。
 呼称をつけるのが、礼儀ってもんだろうが」

「へぇー」

「へぇー」

「というか、親御さんは事件について何か言ってこないのか?
 ハズサちゃんとアズサくんが殺人事件に巻き込まれたことだし」

ここは、両親が居合わせるべき話だ。
及川はそう思って、口に出したことだったが思わぬ展開が待っていた。


「私たち、」

ハズサはちらり、と伺うようにアズサを見る。
その視線を受け止め、言葉の続きをアズサが付け足した。

「中学生の時に両親を事故で亡くしました」

「え、」

「だから、今は祖父母と暮らしているんです。
 今は二人とも散歩に出かけています、元気ですよね」

「・・すまない、意図はなかったんだ」

「分かってますから、大丈夫です」


及川には、「大丈夫です」の意味が分からなかった。
中学生の頃ということは、そんなに経っていないはずで。

突然突きつけられた、彼らの過去。


「意外だな」

「意外っておかしくないですか?
 俺らみたいな家庭は他にもあります」

「そりゃそうだが」

「私たち、自分たちが可哀想とか思っていませんよ。
 自分たちで何かを受け止める量が増えた気はしますけどね」


ハズサが、そっと笑う。

その微笑を見て及川は何とも言えない気分になった。




倉田兄妹 ( No.11 )
日時: 2011/09/25 15:29
名前: 中野 (ID: xhJ6l4BS)


11:最初が肝心


「お話した通り、私たちはいつもあの道を通るんです」

「そのまま真っすぐ行けば、高校なので」

「確かにな。だが、他の生徒があまり使わないのが謎だ」

「気味悪がられてるんですよ、あの道」

「気味悪い?」

及川はアズサの言葉を聞き返す。
アズサは、座り直すと口を開いた。

「妙な噂があるんです。
 あの道を1人で通ると、襲われるって」

「まあ、確かにそんな雰囲気はあるが」

「他にも自殺スポットとして有名だとか。
 所詮、噂です」

「人って噂を信じやすいじゃないですか、だから皆あの道を通らない」

「はあ、見えないものに怯えてるのか」

「そうみたいです」

及川はくだらないと思った。
そういう雰囲気はあるものの、不審人物が常にうろついているわけではない。
情報に流されやすい人達は、噂を鵜呑みにする。

「死体は、どうしてあそこに置いてあったんだろう」

ハズサの言葉は、及川も思っていたことだ。
わざわざ、目立つ場所に置く必要があったのか?

「普通は、隠しますよ。
 俺だったら川に沈めるか、山に埋めます」

「そうだよねー私も見つからないように隠すよ」

「物騒なことを刑事の前で言うな、二人とも」

「及川刑事も、そう思いますよね?」

「・・まあな。
 わざと見つけてもらうために、死体を置いたようなもんだ」

「見つけてもらうため、ですか」

「事件の謎が深まったね、アズサ」

「楽しそうにするな、お前ら」

倉田兄妹 ( No.12 )
日時: 2011/09/27 21:28
名前: 中野 (ID: xhJ6l4BS)


12:仮定、想定

「犯人像について俺たち考えたんです。
 聞く耳はありますよね」

「・・あぁ」

ずいぶんと上目線だな、と及川は思ったが黙っておいた。
口出しをして面倒になりそうだからだ。

「まず、死体さんの傷跡からして恨みがあった人だと特定できます」

アズサがどこからか紙とボールペンをもってきて、テーブルの上に置く。
そしてハズサがその紙に、ボールペンで犯人、死体と文字を書いた。

犯人、死体の文字を丸で囲むと、ぴっと線を引く。

矢印の下に「恨み有り」と書かれた。

「男の人の力でないと、あの損傷は難しいです。
 例え女の人が主犯でも男の人の共犯は有り得るでしょうね」

「そして、なぜあの道に被害者を置いたのか」

「警察に対する挑発じゃないのか?”俺を見つけてみろ”みたいな」

「及川刑事もそう思います?私もその説を推しているんですけど・・」

「俺は違う説かと」

「例えば?」

及川の目線を受け止め、アズサが口を開いた。

「そういう自己主張が激しい奴は、死体現場に謎のメッセージとか
 やたらと凝ったものを残しておくもんじゃないですか。

 脅迫状とか、わざと殺人に使った凶器を置いて気を引かせたがる。」

「なるほどー確かに、私たちが見たとき何もなかったもんね」

「その説も有り得るな。だが、確定はできんな」

「まあ、最後まで聞いてくださいよ。
 犯人はあの道で殺し、放置する。良い根性をしているか、臆病かのどちらかですかね。」

ハズサは人差し指で、トントンと音を立てて犯人の名前を叩く。
その目は妙に静かで、凪いでいる。

「死体を見られても犯人だとばれない自信があったか、単に怖くなって逃げ出したか」

「・・そんなことまで考えてたのか、アズサくん」

「だからアズサくんって言い方似合いませんって」

倉田兄妹 ( No.13 )
日時: 2011/09/30 21:25
名前: 中野 (ID: pGaqjlta)


13:犯人像

お茶を飲みながら、倉田兄妹が書いた図を眺めた。
ばらばらと書かれたメモは、まとまりがないが内容は分かりやすい。

「あと、この市に住んでいる可能性が高いんじゃないかと」

「それは分からんぞ、車で逃走することもできるからな」

「そこなんですよね。
 犯人について情報がなさすぎるんです」

「一般人にべらべらと喋れない義務でな、刑事は」

「・・・及川刑事ー」

「及川さーん」

「そんな目で見ても話さん」

じとっとした目で見つめてくるハズサ。
そして同じく、じとっとした目で見つめてくるアズサ。

及川はため息をつく。

「あの時も言ったが、本当に怪しい奴らを見なかったか?」

あの時、とは死体を目撃した時のことだ。
質問の意図が分かっている二人は、こくりと頷いた。

「はい、見なかったです」

「俺らが道を歩いている時、人影が全くありませんでした」

「そうか・・」

「捜査の方が行きずまっているんですね」

「詳しくは言えないが、その通りだ」

「手がかりが見つかるといいですね、証拠品とか」

「そう願ってるよ」


ふと、ちらりと思った。
この兄妹も十分に怪しいのではないか。

もしかしたらの可能性に、及川の目に剣呑な光が宿る。

倉田兄妹 ( No.14 )
日時: 2011/10/01 21:08
名前: 中野 (ID: 5kOzRZ6l)


14:再び戻る


「どうでした?アズサくんとハズサちゃん達の話は」

「変化はないな。手がかりはつかめん」

「そうですか・・」

がっくりとうなだれる橘。
その姿を見て、及川はため息をつく。

「おいおい、今落ち込んだらこの先もたねえよ」

「ですが及川さん、もう一週間ですよ。一週間」

「繰り返さなくていい、嫌という程自覚してる」

そう、殺人事件発生からもう一週間だ。
だが犯人の手がかりは一切、掴めていないのだ。
堂々と死体を置いたことから、大胆な行動をした犯人だ。
だが、その大胆さの割には、髪の毛や指紋すら残していない。
しかも鑑識曰く、死後硬直の時間を考えると30分程前に殺されたそうだ。

「周辺の聞き込みをしても、同じような手応えなんですよ。
 よく知らないとか見た目が怖いから話しかけずらかったとか」

「確かに、失礼だが人相は悪い」

ちら、と被害者の免許証の写真を見る。
お世辞にも愛想が良いとはいえない顔つきだ。
一重だからか、ぎろりとこちらを睨んでいるように見える。

「お前が苦手そうなタイプだ」

「ぼ、僕だって刑事なんですから」

「刑事だから?」

「どんな人でも話できます」

「それはガキのできることだ。
 俺たちはな、悪いことをした奴らを取り押さえて捕まえないと意味がない」

橘の表情が少し強張った。
苦い経験も、良い経験もある及川の言葉には、重みがある。
被害者の書類を机のすみに置くと、一枚の紙を真ん中に置いた。

「及川刑事、その二人は」

「可能性はあるってことだ」


その紙には無表情で写る、顔がそっくりな双子の写真が載っていた。


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