複雑・ファジー小説
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- 倉田兄妹
- 日時: 2011/09/20 20:27
- 名前: 中野 (ID: YcGoCaZX)
初めて小説を投稿します、中野という者です。
未熟な文章の表現力、初めてのミステリー小説ですが、
温かく目を通して頂けると嬉しいです。
この作品には過激ではないですが、グロ表現(死体、血など)があり、
そのような表現が苦手な方には読まれることを、お勧めできません。
尚、この作品に出てくる住所、人物等はフィクションです。
以上をご理解頂いた上で、よろしくお願いします。
:あらすじ
ローテンションな双子の高校生、妹のハズサと兄のアズサ。
2人は、登校中に死体を発見し、第一目撃者となる。
事件の捜査は困難する中、双子は言い出す。
「「犯人が分かりました」」
果たして、2人は事件を解決できるのか?
——無気力な双子が繰り広げる、ミステリー小説。
- 倉田兄妹 ( No.5 )
- 日時: 2011/09/21 10:06
- 名前: 中野 (ID: YcGoCaZX)
5:倉田兄妹とは
昼休み、机を寄せ合ったり、友達同士で集まったりする。
ハズサとアズサは偶然にも、前後の席だった。
だから、移動することもなく、そのままの状態で昼ご飯を食べていた。
「橘さん、大丈夫かなー。吐いてたみたいだし」
「及川さんがいるから、大丈夫でしょ。
そういえば、及川さんが『お前達の方が刑事に向いてる』って言ってたね」
「いーや、お前らは刑事に向いてないっしょ」
購買から帰ってきた、クラスメイトの相良が話に割り込む。
この流れは、いつものことである。
「そう言う相良も向いてないよー」
「そうだ、そうだー」
「うるせっ、ところで刑事って、殺人事件の?」
「噂が広まるの早いな」
「お前らが、第一目撃者ってことも広まってるぞ」
昼休みになっても、他クラスから、数人がこちらを見てくる。
クラスメイトも、ちらほらとだが、こちらに注目していた。
「死体を見ただけなのに」
「変なのー」
ハズサとアズサは同時に、おかずを摘んだ橋を口に運ぶ。
相良には、もう見慣れた光景だ。
倉田達とは中学からの付き合いで、その頃からつるんでいた。
常にローテンションで感情が分かりにくいが、悪い奴らではない。
「うげ、死体なんか見たら、いつも通りにしてらんねー」
「そう?」
「・・倉田達は、いつも通りすぎて怖い」
「いやー、あまりにもナチュラルに死体があったからさ」
「あのな、死体がある時点でナチュラルじゃないから」
「体験してみれば分かるよ」
「体験したくもねぇよ!」
「相良の怖がりー」
「意気地なしー」
「お前らの感覚がおかしいんだよ、俺の反応は正しい」
相良にとって、倉田兄妹は手のかかる弟と妹みたいなものだった。
- 倉田兄妹 ( No.6 )
- 日時: 2011/09/22 21:46
- 名前: 中野 (ID: bdGTRweV)
6:そういえば
「倉田達ー、帰りにどっか寄らない?」
終礼後、ハズサとアズサは鞄に筆記用具等を入れていた。
そこに現れたのが既に支度を終え、鞄をリュックのように背負った相良だった。
「いいよー」
「俺、コーヒー飲みたい」
「じゃあ、新しくできた店に行こーぜ。割引券もらったんだ」
「抜かりないな、お前は」
「へへっ」
相良は得意げに笑っているつもりだが、倉田兄妹からすると少し気持ち悪い笑みだ。
本人に言うと傷つくので黙っておく。
「相良って何でも、もらってくれそうな顔だよね」
「あー分かるわ」
「もらってくれそうな顔って何だよ、おい」
「お願いしまーす」
ハズサは、いつもよりも媚びた甘ったるい声音で、ティッシュ配りのジェスチャーをした。
ぽかんと間抜けな顔をする相良。
そして、はっとすると顔を赤らめた。
「って、可愛く言われたら断れないでしょ。相良だから」
「”相良だから”って理由おかしいからっ、全国の相良さんに失礼だ!」
「早く行こー。可哀想な相良とハズサ」
「可哀想つけるな、この野郎」
「じゃあ、顔が安い相良?」
あどけなく首を傾げるハズサが憎い。
女子って、男子より遥かに有利だと思う。
「顔が良いお前らには分からんだろうね!どうせ俺は安い顔だ・・・」
「あ、相良が落ち込んだー」
「めずらしー」
「今日は雪でも降るかな」
「雨は降りそうだけどな。俺の目から」
「冗談だよ、相良大好きー」
「好きー」
「・・思いっきり棒読みだぞ、お前ら」
左右を双子に挟まれた相良は、がっくりと肩を落とす。
心なしか、財布とペンケース、アイポッドしか入ってない鞄が重かった。
- 倉田兄妹 ( No.7 )
- 日時: 2011/09/23 17:04
- 名前: 中野 (ID: xhJ6l4BS)
7:コーヒーと高校生
チェーン店のコーヒーショップは、学生や会社員で賑わっていた。
街で配られていた割引チケット付きのチラシも効果あるのだろう。
「また少し行列ができてるね」
「俺らが来た時は、行列が少なくてよかったな」
「あ、あの子可愛い」
「相良、ここはコーヒーを楽しむ場だよ」
「出会い系の店じゃないからね」
「何だよ、つれないなーアズサだって男だろ?」
「がっつく程、興味はない」
アズサは目を少し伏せ、呆れた顔をする。
そしてコーヒーを一口飲んだ。
何つーか、顔とか、長い手足がモデルみたいで、様になる。
その姿に、周りの女子学生や女の人がどれだけ惹かれていることか。
だが、本人には自覚はなく、愛想もない。
「ハズサも、彼氏欲しいとかあるだろ?」
「アズサと同じく、興味ないんだよねー」
「お前ら・・・」
カフェラテを、ストローでくるくるとかき混ぜるハズサ。
ハズサだって顔は美人だから、愛想が良ければモテるのだが。
これほどまでに、原料がいいのに勿体ない。
「いくら豆がよくても、挽き方が良くないと美味いコーヒーにならないよな」
「急に語りだしてどうしたの、相良」
「例えだよ、たーとーえ」
お前らのな、とは言わなかった。
首を傾げる双子を無視してコーヒーを飲んだ。
美味いな、ここのコーヒー。
- 倉田兄妹 ( No.8 )
- 日時: 2011/09/23 18:30
- 名前: 中野 (ID: xhJ6l4BS)
8:手がかり
「あーくっそ、全然手がかりがないじゃねえか・・」
がしがし、と頭を掻く及川は苛立っていた。
捜査をしているが、一向に手がかりがないのだ。
どかっ、と椅子に座ると書類に目を通す。
それは鑑識が、司法解剖して分かった、男の個人情報だった。
「フリーター、工業関係の仕事か」
男は生前、中小企業の工場で働いていたようだ。
殺される数日前から仕事に来なくなり、連絡が取れなくなった。
聞き込みをした工場の上司は、ため息をついた。
「ウチの会社は、恨まれるようなことはやってないんですけどね。
殺人事件が起こったら気味が悪いですよ、全く・・・」
ため息をつきたいのはこっちだ、と言いたい。
がちゃっとドアが開く音がした。
中に入ってきたのは、素直そうな青年だった。
「お疲れさまです及川刑事。これ、どうぞ」
「・・おう、ありがとな」
橘が、及川に缶コーヒーを手渡す。
缶コーヒーを受け取ると、及川は橘を見上げた。
「どうだった、周辺の聞き込みは」
「近所の人に聞いてみたんですが、詳しい情報が出ませんね。
被害者とは挨拶のみで話したことがない人が多いようで・・・」
「人並み程度の近所付き合いってとこか」
「はい。及川刑事の方は?」
「俺も同じ様なもんだ」
「困りましたね・・あ、それって」
はた、と橘の目に被害者の資料が映る。
及川は「ああ、これか」と橘に資料を手渡した。
「被害者の鑑識結果が出たんだ。
ひどい殺し方だよな、上半身に骨折と打撲、内出血が大量だ」
「・・・」
「橘?」
「・・すみません、吐き、気が」
「さっさとトイレ行ってこい!」
「う”っ」
口を抑えて部屋を飛び出すように出て行く男。
本当に、あいつは刑事として生きていけるのか、と不安になる。
「もう一度、最初からやり直すか・・」
缶コーヒーをぐいっと飲む。
香りを重視した缶コーヒーが、やたらと美味く感じた。
- 倉田兄妹 ( No.9 )
- 日時: 2011/09/24 21:27
- 名前: 中野 (ID: xhJ6l4BS)
9:第一目撃者
ある目的のために、住宅街を歩いていると背後から声をかけられた。
「あ、及川さん」
振り返ると、制服姿の倉田ハズサが立っていた。
手には大きめのトートバッグを持っている。
その中には食料品が入っていた。
「買い物帰りか?」
何だか制服姿に主婦的な持ち物が、ちぐはぐで似合っていない。
及川はそんなことを思いながら、尋ねた。
「はい、夕飯の材料を買いに」
「偉いな、俺の娘に見習わせたいよ」
「及川さんって、娘さんがいるんですか」
ハズサは、目を見開いて驚いた表情を浮かべる。
珍しく表情を崩した。
及川にとっては、初めて無表情以外に見る表情だ。
しかし少女の発言に、表情の変化に驚けなかった。
及川は、眉間に皺を寄せる。
「意外って言ったら怒るぞ」
「子供がいる人には見えないですね」
「似た様なこと言ってんじゃねぇか、倉田さん」
ハズサはちら、と思った。
及川さんには敬語が似合わない、と。
それを言うと、さすがに失礼な気がするから違うことを口にした。
「ところで及川さんは、お仕事ですか?」
倉田家を訪れるのが及川の、本来の目的だった。
心の奥を見透かされた気がして、及川は一瞬たじろぐ。
「まあ、そうだ。もう一度倉田さん達に聞きたいんだ」
長年刑事をしている及川の態度は乱れなかった。
だが、内心で苦笑を浮かべる。
子供の勘って、意外と鋭い。
「死体についてですか」
あまりにも、あっさりとした言い方だ。
まるで、「あなたは倉田さんですか?」と聞かれ「はい、そうです」と答えるような流れだった。
最近の子供は冷めているというか、落ち着いている性分なのか?
「私の家でお話しますよ。アズサもいますし」
「それなら、お邪魔させて頂く」
そうですか、と頷く少女は買い物袋を持ち直す。
細い身体でよく持てるな、と思った。