複雑・ファジー小説
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- 倉田兄妹
- 日時: 2011/09/20 20:27
- 名前: 中野 (ID: YcGoCaZX)
初めて小説を投稿します、中野という者です。
未熟な文章の表現力、初めてのミステリー小説ですが、
温かく目を通して頂けると嬉しいです。
この作品には過激ではないですが、グロ表現(死体、血など)があり、
そのような表現が苦手な方には読まれることを、お勧めできません。
尚、この作品に出てくる住所、人物等はフィクションです。
以上をご理解頂いた上で、よろしくお願いします。
:あらすじ
ローテンションな双子の高校生、妹のハズサと兄のアズサ。
2人は、登校中に死体を発見し、第一目撃者となる。
事件の捜査は困難する中、双子は言い出す。
「「犯人が分かりました」」
果たして、2人は事件を解決できるのか?
——無気力な双子が繰り広げる、ミステリー小説。
- 倉田兄妹 ( No.15 )
- 日時: 2011/10/04 17:44
- 名前: 中野 (ID: 5kOzRZ6l)
15:噂をすれば
「そういえばさ、事件についてマスコミとか来ないのか?」
「何を言い出すかと思えば、そんなことか」
「そんなことでもないだろ」
「食べている時は喋らないでね、相良」
じとっとした目で相良を見るハズサ。
食べている時にしゃべると、食べ物がこぼれやすい。
ハズサはそのことを嫌がっている。
注意された相良は返事をしつつ、飲み込む。
「ドラマとかでよくあるじゃん。
週刊雑誌に載せるネタに、目撃者を尋ねるシーン」
「ドラマはドラマだよ。
現実は、そんな人現れない」
「でも私は現れて欲しいな。
目撃者、刑事、マスコミ・・・良い響き」
「非現実な響きだよ、ハズサ」
アズサは少し呆れた顔をする。
うきうきとしているハズサは、アズサのあきれ顔を気にも留めなかった。
そんな妹と長年付き添ってきた兄は、対処に慣れている。
放っておく。それが一番だ。
「非現実だけど、実際にマスコミも揃ったら面白いのに」
「相良は他人だからそういうことが言えるんだ」
「他人じゃなくて友達だろ」
「あ、ハズサ、口の横に何かついてる」
「ん?」
「無視すんな!」
その数時間後、家の前で俺らの前に現れた。
「こんにちは、週刊現実の記者をやっている斉藤と申します」
- 倉田兄妹 ( No.16 )
- 日時: 2011/10/06 17:37
- 名前: 中野 (ID: 5kOzRZ6l)
16:情報
家の近くの喫茶店に連れられ、家の前で自分たちを待っていた、と斉藤さんは説明した。
待っていた、というよりは待ち伏せのほうが正しい気がするのだが。
ハズサとアズサは斉藤から渡された名刺を見ながら、そう思った。
「”週刊現実”ですか」
「知っているかな、よく駅とかの売店に置かせてもらっているんだけど」
にこ、と笑う斉藤。黒縁眼鏡が知的な雰囲気を出している。
スーツを着れば、一流企業の会社員に見えなくもない。
ハズサとアズサは曖昧な答えを返す。
「はあ、多分」
「見かけたような気がしますね」
「まあ、君たちみたいな若い子が読む雑誌じゃないしね。うん。
ところで例の事件についてなんだけれど」
「何でしょうか」
「テレビでは大掛かりに放送されなかったよね。
瀬羽市の、川沿いの道で死体発見、殺人事件として捜査中。
僕からすれば、どこにでもありそうな内容だ。」
斉藤は、不満そうにカチカチッとボールペンの先を出したりする。
まるで授業中に注意され、ふて腐れた生徒のようだ。
「第一目撃者の君たちのことは報道されなかったしね。
未成年だから控えたんだろうね、警察署も。
それで、僕が聞きたいのはその時の様子だ」
「様子?」
「周りに怪しいものは落ちていなかったか、または人がいなかったか。
些細なことでいい、何かなかったかい?」
「いえ、何もありませんでした。
私たちは道に置かれた死体しか見ていないです」
「本当に?」
「嘘を言っても俺らに得があるんですか」
「君たちが犯人だとしたら」
「は?」
「は?」
二人は同時に首を傾げた。斉藤は可笑しそうに表情を緩める。
「冗談だよ。君たちが犯人だったら、面白いのになあって思ったんだ」
「面白くない冗談です」
「そういう斉藤さんが犯人だったりして」
斉藤はにこり、と笑う。
何かを企むような、相手を挑発しているようにも見えた。
「さあどうだろう、大人は嘘が得意だからね」
「斉藤さん、真実を伝える記者なんてよくやっていますね」
「同僚からよく言われるよ」
斉藤は肩をすくめ、少し得意げな表情を浮かべた。
- 倉田兄妹 ( No.17 )
- 日時: 2011/10/07 17:46
- 名前: 中野 (ID: 5kOzRZ6l)
17:斉藤
そこそこな大学を卒業後、斉藤は仕事に困った。
周りの友人や先輩は中小企業に就職している。
はたして、自分も同じ道を歩めるのか、と。
斉藤は普通からはずれないように生きてきたが、普通が嫌でもあった。
だから幼い頃人と同じものを持つのが嫌で、同じものを持っている人を見かけると、
次の日からそれを持たなくなった。しばらくすると捨てた。
そんな斉藤にとって、就職とは難題であった。
周りと同じ様に働けば、彼らと同じような人生になる気がした。
だからこそ、斉藤は記者としての道を選んだのだ。
仕事は最初は大変で、順序も分からない。
取材交渉を受け付けてくれない人もいて苦労するが、取材の内容を編集する技術も難しい。
そしてやっと自分の担当のコーナーをもらえた。
自分の担当は、編集長からそこそこに気に入られている。
「斉藤、今回はこれだ」
「瀬羽市の殺人事件ですか、ありきたりですね」
「お前の口癖はすぐそれだな、ありきたりっていつも言う」
「普通は苦手なんです。
じゃ、まずは目撃者に取材してきますよ」
斉藤はカメラとメモとペンなど、必要なものを鞄に詰め込むと会社を出た。
- 倉田兄妹 ( No.18 )
- 日時: 2011/10/08 08:03
- 名前: 中野 (ID: VqN13fLi)
18:予感
情報網のつてを使い、目撃者の情報を手に入れた。
目撃者の名前は倉田ハズサと倉田アズサ。
双子の男女は珍しいな、と思った。
どうやら彼らは登校中に死体を発見したらしく、通報したようだ。
瀬羽川に沿うように作られた道で起こった事件だ。
心霊スポットとしても噂されているので、斉藤も場所は知っていた。
いつかネタがきれた時にでも使おうと思っていたからだ。
「・・瀬高って頭良いな、この子達」
この辺では有名な進学校じゃないか。
手に入れた情報のメモを読みながら、斉藤は電車に揺られていた。
がたん、ごとんと緩やかに揺れる車内は乗客が少ない。
おかげで席にゆったりと座れている。
彼らは事情聴取の後、普通に学校に行ったらしい。
死体を見たのに、肝が据わった子供だなあ。
ノートパソコンを開くと、メールが届いていた。
メールを開くと、画像のみが添えつけのメールだった。
画像を開くと、2人の男女の写真だった。
上手い具合に撮られていて、顔がよく分かる。
モデルか、と思うほどの整った顔立ちをした男女だ。
だが、顔立ちはよく似ていて、血縁があるのが人目で分かる。
「この子達が倉田さんか」
ずいぶんと綺麗な兄妹だ。
無表情なのが惜しいが、それでも整った顔が際立っている。
この子達が犯人だったら面白いのに、と斉藤は思った。
- 倉田兄妹 ( No.19 )
- 日時: 2011/10/10 12:29
- 名前: 中野 (ID: Y2qMR8Q5)
19:好感
斉藤さんから、何故か気に入られた私たちは、情報をくれるようになった。
報酬無しでいいのか、と聞いたら斉藤さんは笑った。
「高校生から金をもらう程、生活に困ってないからね。
それに、決定的な情報じゃないから」
まあ、お金を払わなければいけないとなったら困るので助かったが。
黒縁眼鏡の奥の目が楽しそうに細まった。
「あと、君たちは僕と同じ匂いがするからかな」
「匂い、ですか」
「そう匂いだ」
斉藤さんは、よく分からない大人だ。
だけど、嫌いな大人ではなかった。大学生のような雰囲気があるからだろうか。
橘刑事のように人当たりの良い顔だからかもしれない。
パソコンのメールボックスを開くと、斉藤さんからのメールが表示される。
受信ボックスをクリックする。
カチカチッと無機質な音が自室に響いた。
メールを開くと、新たに入手した情報と画像がまとまった内容だった。
被害者の名前は江原啓介。
生前は、工場で働いていたらしい。会社名が、瀬羽川のわりと近くにある。
高校を卒業後フリーターとして働くが、いくつか職場を転々としていた。
飲食関係や、サービス業など様々だ。
人間関係は希薄で、親戚は縁が遠かったようだ。
「父親を早くに亡くし、母親から虐待・・。
高校卒業後は母親と別居し、連絡を途絶えさせた、か」
文章を読みながら、カーソルを下げていく。
家庭環境は悪く、学校でも態度が良くなかった。
友人関係も荒れ、学校側も対応に困っていたようだ。
江原さんの免許証らしき写真の画像を見てみる。
あの時では顔が腫れ上がって分からなかったが、人相は悪い。
一重だからか、目つきが睨んでいるように見える。
気の弱そうな人が苦手なタイプだろうな、橘刑事とか苦手そうだ。
だが、それが江原が被害者になった理由にはならない。
・・・むしろ、容疑者の方があてはまるような。
画面を見ながら頭の中で情報を整理していく。
人間関係が希薄、転々とした職場、腫れ上がった傷、腹部からの出血。
つながらない単語は、バラバラのパズルのピースみたいだ。
そういえば、小さい頃はよくアズサとジクソーパズルにはまっていた。
よく覚えているのは完成すると綺麗な星空の絵になるジクソーパズルだ。
それはとても難しくて、ピースの数も多かったから大変だった。
学校から帰ると、すぐに私とアズサはパズルに取り組んでいた。
角のピースと中心のものを分けて、ボードの上に敷き詰めていく。
わりと順調に埋めていくが、あてはまらないピースはいつもアズサが見つけてくれた。
きっと、アズサがいなければ完成しなかっただろう。
「ハズサ、お風呂ー」
ドアの向こうからアズサの声が聞こえた。