複雑・ファジー小説
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- 【祝】Re Becca【一周年】
- 日時: 2014/05/23 13:02
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: Ii00GWKD)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=608
申し訳ないのですが現在掛け持っている小説につきましてはお休みさせていただきます。根暗な性格なのでどうもほのぼのとしたお話が書けないんです。。
今回のお話は殺し屋の女の子のお話です。香ばしい設定ですね(
グロと少々のエロ(暗に思わせる程度)が大丈夫な方はどうぞお読みくださいまし。
主要人物
レベッカ・L(ローラ)・シャンクリー Rebecca Laura Shankly 女 16歳くらい
フリーの殺し屋。根暗、陰気、毒舌、金の亡者、人間不信と人格的に大いに問題あり。幼少期に両親に喉を潰された為、人工発声器なしには声を出すことが出来ない。
表向きは両親が遺した遺産と家でひっそり暮らしていることになっている。典型的な中上流階級のアクセントや家の規模からして、現在の職業の割にはそこそこ金持ちの生まれだったことが伺える。
パンクロックやメタルが好みで、ファッションにも現れている。
フレデリカ(デリィ)・ジョイナー Frederika Joyner 女 14歳くらい
レベッカの同居人。明るく生活力の無いレベッカの身の回りの世話をしているものの陰気で自己中な彼女に振り回されている。
レベッカの職業を知っているが、拾われた恩義と良心の板ばさみにあって悶々としている。
家事の中では料理が一番得意。
依頼人がネタ切れ仕掛けなので何人か募集しようかと主思います。なお登場はかなりあとになる予定ですが、それでも良いという人はどうぞ。
名前:
綴り:
年齢:
性別:
容姿:
性格:
職業:
武器:出る可能性ほとんどなし
依頼内容:。
備考:
サンボイ
レベッカの暗殺ルールみたいなもの
・依頼人と標的の思想信条を問わない
・依頼金は原則前払い。1人につき500~1000万フリントが相場
・連絡法は依頼人が一般紙に広告を出してコンタクトを試みる。
・依頼内容に偽りや裏切りが発覚した場合依頼を中止して報復を行う
・単独犯。同業者と組むことは無い
・依頼人になる資格が無い上侮辱をした場合殺害する
・依頼遂行後のいかなる結果に対して責任を負わない
※レベッカのイメージをあげました。
>>67
強さ度みたいな
>>77
身長、体重、カップ
>>130~142
頂いたイラスト
- Re: 【祝】Re Becca【一周年】 ( No.188 )
- 日時: 2014/09/04 23:54
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: rt1KxafK)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
元麻薬の売人ジョージは赤毛の女性に手渡された写真を見て懐かしそうな顔をして見せた。その写真には浅黒い肌と、太い眉を持つ無精髭の男が笑みをたたえている。
「ああ、ユミトか。懐かしいな」
彼の笑顔を見て赤毛の女性、アギトの口の端が吊り上った。ユミト・オクヤルは彼女の町で麻薬売買をしていた男であり、目の前にいるジョージ・コールは民族こそ違えど付き合いが長く、同じ組織に属して麻薬売買を共に行っていたのだ。ジョージは2年前売春斡旋容疑で逮捕(この国では個人売春は合法だが、管理売春は厳しく罰せられている)され、出所して麻薬売買からは手を引いた今は名を変えてバーの従業員として暮らしている。
そしてユミトは、ライトが射殺されていた現場で同じく刺殺されていた例の売人だ。
「で、こいつってどんな奴だった?」
「正直言ってあまり好きじゃあなかったよ。金に汚いし、ガキにだって平気で麻薬を売ってたしな。ウチの所はガキには売らないって決めてたんだがあいつはお構いなしだった」
確かに、アギトはユミトが死んで以降子供が麻薬に手を出したという話はぱたりと聞かなくなった。彼らの組織はそれだけ統制がとれ、反逆者に対する制裁をしっかり行っているということだろうか。
「ということは組織の人間がユミトの掃除をしたってことかな?」
ジョージが煙草に火をつける。
「ウチのとこは変わっていて、裏切り者の制裁は絶対にしくじらないようもっぱらプロに委託してたんだよ。ユミトの場合は特に深刻な裏切り行為だったからな」
つまり、この男の論理に従えば殺し屋がユミトの制裁を代行したことになる。自分の推測が真実に近づきつつあると確信するアギトの目が細まる。しかし嘘を言っているかもしれない。ためしに、ひっかけた質問をしてみる。
「…ユミトは、銃は使えた?」
ジョージのかぼちゃの幽霊のように大きな口が開き、嗤った。そのようなことはもう何百回もしゃべったよ、と言わんばかりに。
「はっは…! あいつには無理だよ! 確かに鍛えちゃいたけどそれはステロイドで作ったデカい筋肉で脅すってのが目的のヘタレだったしな。殺しに関しては“童貞”だったよ」
ステロイドは通常で得られる鍛錬の何倍もの効果を得、体力の回復も早くなることからいまだに一流アスリートの中には隠れて使用しているとされる人間がいる。
「それに硝煙反応が無かったんだろう?」
「まあね」
ほぼ予想通りの答えだ。それにユミトのステロイド使用歴も知っているということは、この男はユミトに間違いなく近く、正直に話してくれている。ここまで足を運んだ甲斐があったのだ、とアギトは満足した。
「最後の質問だけれど、雇った殺し屋について何か知っていることはない?」
ジョージの顔が薄汚い天井を向く。くわえていた煙草が黙々と煙突のように煙を吐き出していた。
「……いや、俺は下っ端だったから詳しいことはわからねぇや。ただあいつが死ぬ2日前に会ったんだが、『ムスタファの野郎が気にいらねぇ』『あいつは俺を消したがっている』って言ってたな」
アギトの灰色の瞳に力が篭り、男の黒い瞳をじろりと睨んだ。ムスタファという名前を、アギトは知っている。
「ムスタファって、あんた達の組織の幹部、ムスタファ・シャーヒン?」
ニカッ、と音が出そうな笑みをジョージは作って見せた。よく出来ました、ご名答といわんばかりの。
「そうさ! あいつとユミトは上司と部下の関係だったけど仲が悪かったからな。ガキにまで麻薬を売って儲けるユミトの事を良く思ってなかったのさ、ムスタファは」
つまりムスタファが殺しを頼んだということではないか。何故警察は今までこの答えにたどり着かなかったのだろうか。アギトの唇がぎゅっとかみ締められる。
「アイツが今まで一度も逮捕されないのはひとえに地元警察への心配りを忘れないからさ。金の面倒やチンピラやよそのマフィアの流入は無償で防いでやるが、ウチのことには手を出すな、ってね」
兄、ウィルの捜査が強引に打ち切られたのも納得がいく。そして彼はそんな警察の体質に失望して辞職し、私立探偵事務所を開いて一人暮らしをしている。弟の事件から距離を置いているかのように……。
「ムスタファに会えば誰が殺したかわかるってこと?」
「多分な。ただもう俺は抜けた身だ。今アイツがドコで何をしているかわからないけどな」
それで充分だ。それだけの情報があればムスタファくらい自分で探せる。ゴールは近い。「ありがと」とジョージに笑顔で挨拶し、アギトは無家賃の公営住宅の部屋を後にした。
- Re: 【祝】Re Becca【一周年】 ( No.189 )
- 日時: 2014/09/28 22:59
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: NQa2PI2Y)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
「ああ、そうですねえ」
確かに綺麗な女性であることは間違いない。卵形の小さな顔と烏のように黒い後ろ髪を品よく団子にした髪型は実に似合っている。鮮やかな翡翠の瞳は見ているだけで平常心を失わせてしまい、余裕たっぷりの笑みをたたえる口から発せられる声色は人間を酔わせ、同性であろうとその気にさせてしまうだろう。そしてあの非人間的なまでに均整が取れた体……。
(でもちょっとおっかないんだよね)
美人で品がよく金払いがいい、言うことなしだ。しかし、正直言って恐ろしかった。あの貴人はサイコパスだ。その上、人間離れしている。人間を何のためらいもなく平気で殺し、しかもその力は人体を紙切れのように破壊するほど途方もない。以前科学番組で言及されていた、アドレナリンを自在に操るだとか、脳のリミッターを外してしまう人間の範疇ではない。
そして、夜にぼうっと浮かぶ笑みを浮かべた顔は妖艶で、同時にわずかながら根源的な恐怖を近衛に与えていた。特に彼女が暴力的な情報に触れるときなどは、その殺気というべきか、狂気が彼女の全身の毛穴から匂い経つようだった。
「不思議ですよねぇ、あんなに綺麗な方なんですけど夜しか外に出ようとしないんですよ」
美貌を誇っているくせに、と言おうとしたがやめた。余計すぎる。それにこの老婆はあの貴人を好いているのだ。東洋人の向かいに立つしわだらけの顔が、渋い顔を作った。
「可哀想にねぇ。聞くところによると紫外線に弱くて、外に出ると直ぐに焼けちゃうらしいじゃないの。あんなに綺麗なのに」
規則正しい生活を自称一世紀以上続けている老婆は夜にしか外に出ない貴人エリスを見たことなどないはずなのだが。(後で聞いてみよう)
「そういえば、奥さんは生まれてからずっといるんですよね?」
「ええそうよ。私は先の女王陛下の代にこの家で生まれてそうねえあれはたしか私のひいおばあさんから聞いたのだけれど分厚い雲に覆われた曇りの日だったみたいよそれはもうそうそうそのときはちょうど戦争の時期でもあってね私ったら物資不足でちゃんと育つかどうかわからなかったから出生届を見送られちゃったんですってでも杞憂だったのよね私の偏食を馬鹿にしてたベジタリアンの同世代の人たちもみーんな死んでしまったしねほんと」
質問をした近衛は失敗したな、と感じた。本来なら「あの貴人の家族」について聞こうと思ったのだが老人と言う生物を甘く見ていた。彼らはどういうわけか話したがりで、言いたいことをべらべらべらべらと話すのだ。気が済むまで、話をそらそうとしてもお構いナシに。
※※
午後3時、レベッカの町のガスと電気は止まった。記録的な豪雨のせいだった。家にはレベッカだけが取り残され、買い物に出かけていたフレデリカは、おそらく外を激しく吹き付ける風雨にさらされているだろう。彼女は傘を持っていない。ギターを弾き終えたレベッカはリビングのソファーに座って寝転がっている。普段大部分が噛みに隠れている額が、髪が後ろに流れたために顕わになっている。
秋も終わりかけ、冬になろうとする中でガスと電気が止まったのは痛い。面倒くさがったレベッカはそのまま外出用の厚手のコートを羽織って体を温めていた。足にもしっかりと毛糸の靴下を履いている。
(仕事をしてればこんなものいらないのだけれど)
と思ったが、どうすることも出来ない。女医から仕事を止められている以上従って、癒えるまで大人しくしていることだ。普段他人の意見に耳を貸さないレベッカだが、ヘルガの診断とそれに対する処方には忠実だった。それを見て、デリィはいつも一種のジェラシーを覚えていた。
ドンドン ドンドン
家の外からドアを叩く音がした。さしずめあの娘が両手いっぱいに買い物を持って帰ってきたのだろう。ソファーからレベッカが身を起こし、玄関へと向かった。
カチャ
「ひゃーっ! ちべたい!」
ドアを開けると勢いよく少女が玄関へ入ってきた。その髪と体はぐっしょりと濡れ、服は雨水を吸って体にぴったりと付いている。外から雨風が吹き付けてきたので、レベッカはドアを素早く閉めた。
「レベッカ、なんで電気消してるの? 真っ暗じゃん」
「停電ヨ。ガスも組合のストデ止まッテる」
「うそ?!」
最悪の状況に驚くデリィだったが、「とにかくタオル持ってきて」とレベッカに頼み、自分は濡れそぼった服を玄関で脱ぎ始めた。
冬になりかけの暖房を使えない部屋は寒かった。湯も沸かせないため体を内からも温められず、着替えたフレデリカはタオルを体に巻き、身を畳んでソファーで歯を鳴らす。
(そういえばあの時は、レベッカに拾われたときはもっと寒かったかな、息もできないくらい寒くて、動けなかったっけ)
どういうわけか、デリィは2年前のあの日を思い出した。寒さ故か、それとも時期が同じであったためか……。
「ひゃうっ?!」
突如後ろからの触覚にデリィの全身が固まり、声が裏返り小刻みに震えていた体がさらにこわばった。背中が熱い、自分の胸元に視線を落としてみると、そこには自分のものではない手が組まれていた。
「……レベッカ?」
それはレベッカの手だった。デリィの胴をぐるりと覆うようにして手を組み、胸を背中に当てている。レベッカの体は、熱かった。いきなりの予想外な展開にでりぃの小さな頭に詰まった思考回路がショートする。
「どどどどどーしたのレベッカ????」
「……たイ?」
「へ?」
「……冷たイ?」
レベッカの組まれた手が、少々固く握り締められた気がした。さっきまで歯を鳴らし、寒がっていたフレデリカの体の震えは止まり、いつのまにか顔も赤く……
「ううん、……あったかいよ」
背中に触れたレベッカの体は硬かったが、そっと握った手は柔らかかった。
- Re: 【祝】Re Becca【一周年】 ( No.190 )
- 日時: 2014/10/21 22:28
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: NQa2PI2Y)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
「……じゃ、4日後来てちょうだい。明日レベッカにも話を通しておくから」
『ええ、お願いします』
受話器を置いた女医の顔は曇り、天井に向かってため息をついてみせた。
(厄介ね)
ヘルガは脳機能の専門医ではない。耳鼻咽喉を表の仕事、外科を裏の仕事としているが、脳外科についてはヤクザ者の頭に打ち込まれた銃弾を摘出した時以外脳をいじくったことなどないのだ。それも多重人格障害など最新の研究でもまだ解明されぬことが多く、門外漢の彼女がそうそう扱えるものではない。
しかし、彼が自分を頼りとし、自分もまた裏の社会で脳機能障害の専門医を聞いたことがない(銃弾を取り除くプロは腐るほどいるが)。できることは専門医の元を訪れて話を聞き、脳に関する本を読み漁り、それを元に治療してゆくしかない。今診療室にある机は、脳に関する書籍であふれかえっている。
「問題はあの娘か……」
「娘って?」
突如頭上から野太い声が降ってきた。見上げると壁のように巨大な男が影を作って覗き込むようにヘルガを見下ろしている。ハロルドだ。
「うわっ!」
「娘って誰だ? 先生。先生に子供っていたか?」
「いるわけないでしょっ! あの性悪娘のレベッカのことよ! あんたも会ったことあるでしょ?!」
大男は名前を呼ばれた少女を思い出したようで、「ああ」と間の抜けた声で答えた。ハロルドとあの娘は2回ほど会ったことがある。レベッカが撃たれて重傷を負い、ヘルガの入院の薦めを硬く拒んで自宅で治療せざるを経ない時に車で運び出せない大型の医療器具を5km離れたレベッカの家まで走って運んでいった時、そしてそれを持ち帰る時だ。
2人がまともに話したことはないが、当時13歳のレベッカはハロルドの背丈に興味を抱いていたようで立って歩くリハビリを始めた際に彼の足を小突いていたりした。
「難しい患者だってことわかるでしょ?」
「まあ」
本当に難しい患者だ。体は痛めつけるわ、性格に問題があるわ……頻繁な付き合いを始めておそらく寿命が3年は縮んでいるのではないだろうか。
※※
「とゆーわけで、ウチにリヒトが治療を受けに来るからね」
その知らせを聞いたレベッカは明らかに不満げだった。眉を眉間によらせ、心なしか頬も少々膨らませている。女医にしてみれば思ったとおりの反応で、大して驚くべきことでもないのだが。
「……何時マデ?」
「大体一週間かしら。何せ面倒な症状だから具体的に何時までとは言えない」
レベッカに中途半端な嘘は禁物だ。何しろ恐ろしく被害妄想が強く、執念深い。だから悪いニュースでも正直に伝えたほうが良い。そしてしっかりと大丈夫であると説明し納得すれば後腐れなく、というわけにはいかないが軽快しつつも了承してくれる。
「治療の間はずっと入院させる。ここからうちに送った時も目隠しをしてわざと回り道を使って来たからこの家がどこにあるのかも知らないし」
「…………」
「……問題ないでしょ?」
視線を自分の膝に落とした患者の首が、少し縦に動いた。それを見てヘルガは安堵と呆れの混じったため息を華でつく。患者1人に何故ここまで労力を使わねばならぬのだろうという呆れと、頑固なこの娘が一歩弾いてくれたことに対する安堵が。
「そうそう、もう肺の調子は良さそうね。明日にでも仕事を始めていいわよ」
「そウ」
一瞬だけ、レベッカの瞳が輝きを持ったような気がした。それに気付き、ヘルガはレベッカの前に人差し指を立ててみせる。
「ただし、体をやたらめったら傷つけないように」
レベッカが眉を吊り上げ。口をへの字に曲げた。なんだ、いきなり何度も言っていることを、とでも言いたげに。
「私から言わせればあんたも普通の人間の体と変わらない、血が大量に出れば死ぬし、列車に撥ねられれば簡単に死ぬ体を持ってる。所詮人体は消耗品だから大切に使うことね」
レベッカが体に気を遣うことはわかっているし、何度も行っている事だ。しかし、この若さでこの道を選んだ彼女が同時に心配でならなかった。それに、とヘルガは続ける。
「私はアンタが無駄死にするなんて真っ平だからね」
- Re: 【祝】Re Becca【一周年】 ( No.191 )
- 日時: 2014/12/18 23:56
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: LwiUuNul)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
「……本当?」
「本当だ! あんな不気味な奴を忘れることなんてできねぇ!」
だが仕事ぶりは完璧だった。物的証拠を残さず、ユミトを殺したという目撃者も残さなかった。唯一のミスはこの得体の知れない赤毛の女の存在を知らなかったこと……。
「そいつは今どこにいるの? どうやってコンタクトを取った!?」
「し、新聞広告だ! 一般紙の夕刊にそれらしい広告を載せて連絡を待つんだよ! その後会見場所を設定して……」
目前の生命の危機を感じた人間は、子孫を残すべくいかな不条理にも質問に対しても協力的になり、聞いてもいないこともしゃべってしまう。ムスタファがその典型だった。
「……いくらで頼んだの?」
「確か500万だ。アイツは大体その範囲で殺るらしい」
自身の生涯の目的を達成するための充分な情報は得た。アギトの口の端が満足げに吊りあがる。
「ありがとう。もういいわ」
「じゃ、じゃあ助け……」
スプ……
「ええ、助けてあげる。この世の苦痛から」
安堵の笑みを浮かべながら男の顔が、血の海に沈んだ。深々とナイフを突き立てられた首からは赤黒い血が滾滾と流れ出、白い床を赤く染め上げてゆく。上に乗っていた女性の白い肌に、紅の化粧が指された。
「もうすぐだからね、ライト。もうすぐ……」
明るい天井を見つめる灰色の瞳からは、一筋の涙が流れていた。彼女のゴールは近い。そのために自分の心と身を削り汚すようなこの道に墜ちてきたのだから……。
※※
——Dr. Vermillion’s office
今日木曜日はヘルガが運営する耳鼻咽喉科は休診日。そして裏の病院は不定期営業中である。今日は例の面倒な患者が来るということをアデーレは知った。小さく幼い顔は膨れている。ウスノロと性悪眼鏡が遠出するおかげで憧れの先生といちゃいちゃ(というより一方的に甘える)出来ると思ったのに患者、よりによってあの二重人格者……。
「今日来る患者に外傷はないから、特に手伝ってもらうことはないわ」
「はーい……」
ヘルガに対する返事もトーンが低く、露骨に不満がもれていた。17歳、師匠の患者や同居人よりも年長で、命を救う仕事だというのに精神的にはまるで子供だった。精神だけではない。肉体もそうだ。
彼女の体は同年代の少女と比べてあまりに発育が未熟だった。括れのない胴、膨らみのない乳房、身長に比して少々大きめの頭部、そして147cmほどの小さな骨格がそれを示している。
彼女もヘルガも、それは先天的なものではなくアデーレが幼い頃に受けたある「仕打ち」であると認識している。それによって体のホルモンバランスが崩れ、アデーレの肉体、精神に影響を与えていると。現在も彼女はホルモン投与などで発育を試みているが、思ったような成果は得られていない。
「とゆーことだから、今日は遊んでよし!」
「…………」
「返事は?」
「はーい……」
女医は彼女が自分に寄せている好意がどういうものか理解している。師弟関係というよりは歳の離れた姉と妹、あるいは恋慕に近いそれ……誓ってヘルガにそのような気はないのだが。しかし常にべったりされるのは情緒不安定な彼女の精神教育上よろしくないし、ヘルガも自由な時間が欲しいから時折こうして突き放すような態度を取った。
「まるでお母さんね……」
トボトボ部屋から出てゆくアデーレを見て、つくづくそう思った。自分は今28。確かに子供を持ってもおかしくはないが……。
- Re: 【祝】Re Becca【一周年】 ( No.192 )
- 日時: 2015/04/19 21:38
- 名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: LwiUuNul)
「ホラ、コイツだ」
「アリがとウ」
約2日ぶりに外国へ訪れたレベッカは自分の国の言葉を話した。よく換気された地下室で出会った相手は武器商人、ヴィルモッツ。手渡された拳銃は、いつも愛用している銃と同型のもの。
国際線のセキュリティは厳しい。しかもこの国はレベッカの母国よりさらに銃規制が厳しいどころか両国間のラインを使った凶器取り締まり強化を行っているため、正規ルートでの入手は困難を極める。レベッカはその道のプロではないため、こうして武器を輸入していた。
さっそくレベッカは銃を手に取り感触を確かめる。この国にいる間世話になる相棒だ、入念にチェックしなくてはならない。苦労して違法ルートで輸入した商品を目の前で舐めまわすように点検されて、流石にヴィルモッツは顔をしかめた。しかしこんな20代にもならない、女性としての肉体の成長が未だ終わっていない少女は、この国の裏社会でもよく知られている『霧』であることを考えれば、不思議ではないと納得することにした。
『霧』がどういう殺し屋であるは、ヴィルモッツは聞き知っている。いかに高名な武器職人だろうと、信頼に足る情報屋だろうと簡単には信用せず、徹底した確認を行って信頼に足るかどうか判断する。その後も盲目的に信じることはなく、本当に自分にとって安全か、信頼できるかの確認をしつこく行う殺し屋であると。
「……特に問題ナサそウね」
「そりゃあそうだろ、あんた直々の指名でミアンセって女からわざわざ仕入れたんだ。それで信頼に足るクオリティじゃなかったらどうするんだ?」
「『人を信じる事は良いことだが、信じないのはもっと良いこと』。有名な政治家ノ言葉よ」
その政治家は既に死んでいる。自分を信じなくなった民衆の反乱を許し、妻ともども処刑されたのだ。
「じゃ、金を貰おうか。150万オイロだ」
一般的な販売店で買う相場の30倍以上。しかしレベッカは特に問題にしていないようで、ためらいもなくその場でポンッと札束二つを机に置いた。それを手早く武器商人は懐にしまいこんだ。
「いい心がケね」
「金は力さ。それを持たない者を弱くしちまうものだ」
レベッカは全面的にそれを支持する。
※※
ヘルガは苦慮していた。専門外とは言え、患者の経過が思わしくないのは本当に歯がゆい。頭痛薬は効かず、患者は激痛に悶えながら身を拘束されている。彼の傍らには、もしもの時のためにハロルドが座っている。その拳には鉄製のメリケンサックがはめられていた。
「せんせい、モルヒネを使ってあげようよ! 見てられないって!」
助手、アデーレが涙を貯めた目で頭を抱える師匠に懇願する。手は彼女の白衣を強く握り締めていた。
「無駄よ」
ヘルガが首を横に振った。
「え?」
「モルヒネを射ったところで根本的な解決にはならないわ。あの様子じゃすぐにモルヒネを要求して、それに応えて射ち続けて、間違いなく中毒になる」
「…………」
「それよりもあの痛みの原因について理解しなきゃダメ。実験動物みたいで酷だけど」
『実験動物』という言葉に反応した小さな助手の頭が俯いた。体は震えている。昔を思い出しているのだ。人間扱いされず、文字通り実験動物扱いされていた日々を。アデーレの幼い思考は、リヒトと自分を重ねていた。
(と言ってもどうしよう……)
苦慮するヘルガにはもう答えはわかっていた。あの人格が内で暴れているのだ、おそらくあの少女を救おうと。そして彼を頭痛から救うにはその人格を呼び起こすか、人格を心療によって統合すること。
前者も危険だ。しかし後者はもっと危険だ。人格を統合することによって錯乱し、危険な状態に持ってゆく可能性が非常に高い。もしかしたらその状態であの人格が主導権を握り、レベッカを殺しに行くかもしれない。
リヒトの頭痛がおさまりしばらくして、ポケットにしまっておいた携帯電話を取り出した。
生存報告もかねて
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